9話です。さあ、いってみよう。
さっきからずっと質問攻めにされてる。
こいつは相当な日本オタクらしい。
「ほ、本当ですか!?魔法を使わないで空を飛べるなんて!!嘘じゃないんですね!?」
「嘘じゃねーよ」
この数時間にこの言葉を何回言ったかわからない。俺はこいつに会ってから数時間ずっと質問されていた。
「父さんが言ってたことは本当だったんですね!!ああ、すごいすごい!僕、絶対にニホンに行きたいです!」
そうかい。是非俺も連れて行って欲しいね。
ちなみにずっと同席しているゆんゆんはこの数時間一言も喋っていない。俺らの会話を聞いているがリアクションのみだ。
「あ、ごめんなさい!僕はそろそろ失礼しますね!」
いきなりやってきて、いきなり去って行った。
「あの子……」
「一回も名乗らなかったな」
あいつと数時間いたが、あいつが日本オタクということしか分かってない。別に構わないが。
まあ、これでなんかあった時用に仲良くなる事は達成出来たから良し。
宿に戻るときに、少ししたら部屋に行ってもいいですか?なんてモジモジしながら言い出すゆんゆん。
……まあ、変な意味でも無いし、そういうつもりは皆無だって事もわかってるんだけど、男的に勘違いしそうになるから本当にやめてほしい。誰かにこの状況を見られたりすれば誤解されかねないぞ、これ。
「一応俺は男なんだけどそっちこそ大丈夫なのか?」
「はい、シロガネさんのこと信用してますから」
この娘の将来がとても心配になってきましたよ。ゆんゆんのお父さんは苦労してそうだ。胃とか毛根に深刻なダメージを負っているに違いない。
了承して一旦別れる。
少ししたらって言われたけど、どれくらいだろう。日本にいた時はこういう時スマホがあれば暇つぶし出来るんだけどな。
というかゆんゆんの将来とかが心配になって聞きそびれたけど、俺の部屋に来て何かあるのか?ナニが起こるとは思えないけど、ナニが起こらないとも限らない。とはいえ流石に年下相手に手を出すなんてことは出来ないが求められたら断り切れる自信がないわけでそういえばナニが起こるにしてもナニするためのアレがないわけでそれはお互いに危険というか
コンコン、と控えめなノックが聞こえて正気に戻る。
し、しまった。思考が暴走してた。欲求不満か!?
開いてるのでどうぞー、と答えるが入ってくる気配がない。疑問に思って開けると両手いっぱいにナニを
じゃない、何かを抱えたゆんゆんの姿が。
「ご、ごめんなさい、両手が塞がってて。頑張って開けようとしたんですけど…」
「随分といっぱい持ってるけど、なんだそれ?」
「ボードゲームです。これで遊んでみませんか?」
この世界にもそういうものがあるんだな。てか、これがやりたくてわざわざ俺をこの宿に呼び止めたのか。余程相手になって欲しいらしい。
しょうがない、満足するまで相手をしてあげよう。だが年下相手でも手加減はしないぞ俺は。
「エクスプロージョーーーーン!!!!」
「ああああああああっ!!」
俺はボードゲームの盤をひっくり返していた。
ナニして、じゃない。何してんだって?
チェスみたいボードゲームを俺たちは遊んでいる。
何故盤をひっくり返したかと言うと、一日に一度『アークウィザード』の駒が自陣にいる場合に発動出来る『エクスプロージョン』を使った。これは盤面を物理的にひっくり返して、ゲームを無かったことにする最低最悪の公式ルールだ。このチェス擬きにはこれ以外にもいろいろツッコミ所満載のルールがあるのだが、今はそれどころではない。
「さっき『エクスプロージョン』は一日に一回だけって言ったじゃないですか!」
「あれー?そうなのー?まだ始めたばかりだから聞き漏らしちゃったかなー?」
「絶対嘘です!というかなんですか、その喋り方!!さっき『エクスプロージョン』してた時に私が一日に一回って言った時に、ちゃんとわかったってシロガネさん言ってましたもん!」
俺は既に三回連続で負けていた。『エクスプロージョン』抜きで。というか勝てるビジョンが思い浮かばない。『エクスプロージョン』とかいう間抜けなルールもそうだが『テレポート』とかいうアホチートなルールまであるせいで、盤面もなかなか進まない上に勝つのも難しくなっている。
俺は勝てない腹いせ、ではなくゆんゆんのドヤ顔にムカついたわけとかでも決してない。
そう間違えてしまったんだ。はじめたばかりのゲームだ、おかしくないだろう。
「わかったわかった。じゃあもう一回やろう」
「もう一度確認しますけど、一日一回ですからね。もう二度使ってますけど、もうダメですからね!」
わかったよ、もう。そんな何度も何度も確認しなくても。流石に俺もルールを覚えてきたし、ゆんゆんの攻め方もわかってきた。そろそろ俺が勝つだろう。最初に三回負けてあげたのだ。せいぜい敗北の味を楽しむといい。
「エクスプロージョーーーーーン!!!!!」
「ああああああああああああっっっっ!!!!!!」
このボードゲームはたのしいな。ひっくりかえすのがとてもたのしい。
「今度こそっっ!!今度こそっ!!!三回目ですよ!!始める前に確認したのにっ!!」
「……あれ?『テレポート』が一日二回までじゃなかったっけ?」
「違いますよっ!『エクスプロージョン』です!というかさりげなく一回増やさないでください!」
涙目になっちゃって。
「そんなに必死になることないじゃないか。初心者なんだから『エクスプロージョン』の一度や二度や三度や四度ぐらい許してほしい」
「いや、増やしすぎですよ!!四度って言いました!?次は絶対にダメですからね!」
この娘もこの娘でわざと前フリしてるんじゃないかと思えてくる。
だが俺もだいぶコツを掴んできた。どれぐらいの加減で盤面をひっくり返せば、飛んだ駒がおっぱいに当たるのかを計算して出来る様になってきたりとかそんなことは決してあるわけがない。
「よし、そろそろ本番でやろう」
「本番!?え、今まで練習だったんですか!?」
「当たり前だろう。練習しないで本番だなんて、なんて危ないことを言うんだ、ゆんゆんは!!」
「ええっ!?」
リアクションがいちいち面白くて、俺もついついからかってしまう。こんな娘に友達がいないなんて本当おかしな世界だ。
ゆんゆんとはだいぶ打ち解けてきたように感じる。こんな風に怒ってくることなんてなかったし。多分育ちが良いからなかなか優等生な感じが抜けないせいで楽しみきれないことも多いのだろう。ゆんゆんの友達になれるのは、ゆんゆんのことを好き勝手に振り回せるような性格じゃないと難しいのかもしれない。
「さ、早く駒を並べよう」
「次は本番ですね?ちゃんと正々堂々勝負してくださいよ?」
まるで俺が卑怯者みたいな言い方をするゆんゆん。人聞きの悪い子だ。
まあ、そろそろ本気を出してあげるとしよう。初心者に負けるのがどんな気持ちか、教えてもらうとしようじゃないか。
「『エクスプロージョン』はダメですからね?」
「…………何を言ってるんだね?」
「今、手が盤面の下に行ってるの見てましたからね。ダメです、手は盤面から上に置いてください」
注文が多いなぁ。
「手は盤面の上じゃなきゃいけないルールがあるのかな?ルールブックの何ページ?何行目?」
「ル、ルールブックには載ってないですけど、もう何度も『エクスプロージョン』を使ってるんですから特別ルールです。シロガネさんはちゃんと盤面の上で手を動かしてください」
「そんなこと言って俺の手の動きとか見て、俺との心理戦を有利に進めようとか考えてるんじゃないの?」
「じゃ、じゃあ私も盤面の上で手を動かします。これで対等ですね。特別ルール決定です」
…………。
「さあ、シロガネさんのターンですよ。今回はちゃんと本番ですからね?わかってますね?」
何度も何度も確認して、心配性だなぁゆんゆんは。
「ゆんゆん、髪に何か付いてるよ?」
「え、どこですか?」
油断した君が悪いのだ、もらった!!!
手を盤面の上に置いているが、即座に手首のみをコンパクトに動かし、手のひらを返す。そして
『エクスーーー
ガシィッ!!!
阻まれる!確実に必殺の間合いだったが、まさか
「大丈夫みたいですね。再開しましょう。さあ手を盤面の上に置いてください?」
ゆんゆんが盤面の両サイドをガッシリと掴んで体重をかけていた。
な、なにいいいいいっ!?
エ、エクスプロージョン封じだとおおおおお!?!?
読まれていたというのか、この完璧な作戦が!!
くっ、これだとひっくり返せない。しかもゆんゆんの凶悪なアレを強調して俺を前屈みにさせるなんて、どこまでも卑怯な!ありがとうございます!
あまり禁じ手は使いたくなかったが、致し方あるまい。
「ゆんゆん、その……」
「なんですか?そろそろ盤面の上に手を置いてください、そしてターンを進め」
「む、胸がですね…」
「……え?あっ!」
押さえる為に前傾姿勢になり強調するようなポーズに気付いたゆんゆんは赤面し、咄嗟に腕で庇うようにして体勢が後ろへ下がる。
愛い奴め。
男を侮ったうぬが不覚よ。
「エクスプロージョーーーーーーン!!!!!!!!!!」
「な、何してるんですかあああああああああ!!!!!!!!」
残念だったな。俺は童貞じゃない。
谷間を強調されたぐらいで多少前屈みになるだけよ。
だが、
結構なお手前で。
次回はちゃんと冒険者します。
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頑張って続き書きますので、これからもよろしくお願いします。