たまにシリアスタグを追加しました。
あまりに遅すぎる…。
でも、これで心置きなくシリアスが出来る。
今回文字数多めです。
83話です。さあ、いってみよう。
「現代魔王の名はゆんゆん。貴方がよく知るゆんゆんさんです」
「………は?」
「ゆんゆんさんが魔王の娘の協力者です」
「い、いやいやいやいや、待て待て。それは」
「おかしいですか?」
「どう考えてもおかしいだろうが!何でゆんゆんが!」
はあ、とため息をつくエリス様。
まるで俺がしょうもないことを言ったみたいなリアクションだ。
「貴方が死んだからですよ」
「っ、それで気でも触れたってことか?」
「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません」
「な、なんだよそれ!」
「まだわかりませんか?」
呆れた顔で聞いてくる。
一体何が。
「協力者には目的があります。それは話しましたね?」
「勿体ぶってねえで教えてくれよ!」
何でゆんゆんが、ヤバイ儀式に手を貸してるんだ。
あり得ないだろ、ゆんゆんだぞ。
あのゆんゆんが何故。
「……ゆんゆんさんの目的は『白銀光の蘇生』です」
「っ!?」
おれか。
俺のために…。
「彼女は貴方に会いたくて、魔王の娘に協力しているんです」
「……ふざけんなよ…なんでそんな…」
頭を抱えた。
なんで俺なんかが死んだだけでこんなことになるんだ、おかしいだろ。
俺はそんなに悪いことをしたってのか?
俺はただ仲間に生きていて欲しかっただけなのに、なんでこんな…。
「彼女を止めてください。儀式を完成させたら彼女は永遠に罰を受けることになります。彼女がどれだけ儀式に救いを求めても、意味は無いのです。もうこの世界の貴方の魂は、日本に転生してしまっていて存在しないのですから」
「じゃ、じゃあ…」
「はい。儀式が完成しても、ゆんゆんさんの願いは叶いません。ただ犠牲を無駄にして、永遠の罪を背負うだけです。儀式を止めることでどれだけ苦しむことになろうとも儀式だけは止めなければならないのです」
「ふ、ふん。誰ですか?バニルさんに協力でもしてもらったんですか?」
ゆんゆんはすぐに冷静さを取り戻したように喋り返してくるが、目は何度も俺を見たり、見なくなったり、表情も引きつっていたりとどう考えても動揺していた。
「俺のことがわからないのか?」
ダクネスやミツルギが左右のモンスターが来てもいいように構え始める。
「貴方はヒカルのことをよく知らないみたいですから、教えてあげます。ヒカルはそんな良い装備を持っていませんし、こんな場所で一番前に出て来れるほどのステータスはありません。その姿をするならもう少し勉強したら、どうですか?」
なんかドヤ顔なんだけど。
確かにあの頃は弱かったけどさ…。
ゆんゆんのドヤ顔とヒカルのこと知ってる自慢みたいなものを聞かされて反応に困っていると、完全論破したとでも思ったのか、俺から視線を外し後ろのヒナへと目を向けた。
「ヒナちゃん」
「っ」
ヒナが怯えるような声にならないような悲鳴のような声を出す。
「ヒナちゃんまで、私にこんな姿を見せるようなことに協力するなんて思わなかったわ。私のこと嫌いだったの?」
「ち、違うよ!このヒカルは…」
「まさかヒナちゃんまで騙されてるの?こんな偽物とヒカルのことが見分けがつかないぐらい忘れちゃったの?」
まるで失望したような目でヒナを見る。
「おい、この野郎。本当に俺のことがわからないのか?」
「……貴方のことなんか知りません。いい加減本当の姿を見せて、名乗ったらどうですか?」
ヒナにこれ以上変なことを言う前に、もう一度問いかけたが、ゆんゆんは偽物なんてうんざり、みたいな顔で吐き捨てるようにそう言った。
名乗れ、そう言ったか。
よし、さっきやったばかりだが、やってやろうじゃねえか。
右半身を前に出し、中腰姿勢。
左手は腰の後ろに回し、右掌を下から相手に見せるようにして構える。
「お控えなすって!」
「っ!」
ゆんゆんの表情が歪んだが、構わず続けた。
「手前、生国と発しまするは日本の生まれ。姓はシロガネ、名はヒカリ」
「……やめて」
「人呼んでヒカルと発する冒険者でございます。
以後、面対お見知りおきの上、」
「やめてって言ってるでしょう!!?」
俺に杖を向けて、玉座から立ち上がる。
我慢ならないとばかりに杖を握る手に力が入り、杖は震えていた。
「お前が名乗れって言ったんだろうが、邪魔するんじゃねえよこの野郎」
そう言うと、ゆんゆんの表情はより一層歪んだ。
心底癇に触る、そんな表情だ。
「その声で、そのセリフを吐かないで!その顔で、その名乗りをしないで!!私の友達を穢すことは絶対に許さない!!」
ゆんゆんの目は眩しいほど紅く光り輝いていた。
そしてゆんゆんは杖を振りかぶり、
「『ファイアー」
こちらへと向けて、呪文を詠唱した時、ヒナが俺の前に躍り出た。
「やめて!!ヒカルは本物なんだよ!」
「ボール』ッ!ッ!!?」
突然のことで呪文をキャンセルできず、咄嗟に狙いを変えたのか、火炎の弾はヒナの数メートル前に着弾し、爆発を引き起こした。
「ヒナッ!!」
ヒナをなんとか庇おうとしたが、間に合わず、ヒナが爆風で飛ばされるのを受け止めてやることしか出来なかった。
あまりの爆風の勢いにヒナの体を受け止めた俺まで吹き飛ぶ羽目になった。
当たったら確実に死んでいた。
それほどの威力。
「うそ……これ、まさか…」
ゆんゆんが信じられない顔で自分の杖や俺を見ていた。
手加減をミスったようなそんな風に見えた。
ゆんゆんは絶対に手加減をして魔法を撃ったつもりなんだろうが、俺がいるせいで加減を間違えたのだ。
「ヒナ、大丈夫かおい!?」
「ぅ、うん…」
後ろの後衛組も駆けつけてくれる。
見る限り、火傷ぐらいしかしていなそうだ。
「アクア、回復魔法だ!」
「ええ!」
カズマが素早く指示を飛ばし、ヒナの体が綺麗に治った。
ヒナをアクア達に任せて、前に出る。
ゆんゆんは俺に釘付けになったように俺だけを見ていた。
先程の『ファイアーボール』で俺が本物だと確信したらしい。
『ファイアーボール』の加減を間違えるなんて懐かしい。
俺に会ったばかりの頃、俺の能力『ムードメーカー』の影響を受けて、何度も魔法の威力の加減をミスり、俺を吹き飛ばしたり、吹き飛ばしかけたりしていた。
それが、また起こった。
久しぶりに俺に会ったからだ。
久しぶりに『ムードメーカー』の影響を受けたからだ。
「そんな、なんで…生きていたの…?」
ゆんゆんは泣きそうになりながら、ゆっくりと俺に歩いて来た。
「……違う。俺はあの時死んだんだ」
ゆんゆんの歩みが止まり、俺を不安げに見つめて来た。
「俺がこれから言うことは信じられないかもしれない。だけど、本当なんだ。それは後ろのみんなやヒナが協力してくれることから分かってほしいし、信じてほしい。聞いてくれるか?」
ゆんゆんは答えてくれなかったが、沈黙を肯定と勝手に受け取って話を進めた。
「俺は、別の世界の別の時間から来た。何言ってるか、マジでわからないと思うけど本当なんだよ」
後ろから服を引っ張る感覚がして振り返るとヒナが不安そうにこちらを見ていた。
頭を撫でてやって、話を続けた。
「この世界のゆんゆんがヤバい儀式をするって聞いて止めに来たんだ。その儀式は本当にヤバいっていうか、」
「……知ってるわ。でも、どうしてもヒカルに会いたくて…」
「ああ、その、悪い。そうだよな、寂しい思いをさせた。でもな、その儀式で俺は蘇らない」
ゆんゆんの目が見開き、手から杖が滑り落ちた。
乾いた音がフロア内に響き渡る。
「エリス様が言ってたんだ。もうこの世界の俺の魂は存在しないから儀式を成功させたとしても蘇らないって。だから、」
「……うそよ、そんなの」
いやいやと顔を横に振って、信じたくないと絶望したような顔で俺を見ていた。
「儀式は無駄に終わる。成功させてしまったら永遠の罰を受ける。こんなことはやめよう。ゆんゆん頼む、みんなで里に帰ろう」
俺の説得にゆんゆんは少し俯いた後、不安そうな顔で俺をまた見てきた。
「……別世界?のヒカルは、どうなるの?私と、一緒にいてくれる?」
胸を抉られるような気分とはこのことか。
最悪の気分だが、言うしかなかった。
この時の俺は嘘をつこうなんて思えなかった。
「……ぉ、俺は一緒にいられない。儀式を止めたら、元の世界に帰らなきゃいけないんだ」
「っ」
後ろから息を呑むような呼吸音が聞こえて、服を引っ張るのが強くなった。
「………」
ゆんゆんの表情が分からなくなった。
目を見開き、表情が消えた。
その後、俯いたかと思えば、ゆっくりとしゃがみ、杖を手に取った。
「……ゆんゆん、頼む。帰ろう」
「………」
ゆんゆんはゆっくりと立ち上がる。
顔は俯いたままで見えない。
「……エリス様に無理言って、しばらくはこの世界にいるから。だから」
「……また一人にするの…?」
ゆんゆんは泣いていた。
絶望しきった顔で、俺を睨みつけながら。
「……ゆんゆんは一人じゃないだろ。後ろのみんなはゆんゆんが心配で来たんだ。儀式なんて二の次だ。ヒナだって戦う力も無いのにここまで来たんだ、ゆんゆんの為に。めぐみんだって何度も説得に来たんだろう?ゆんゆんは、一人なんかじゃない」
ゆんゆんは何度も首を横に振る。
俺の言葉を否定するように。
「……私は一人よ。ひとりぼっち。今更…そんな言葉で、私の苦しみを否定しないで」
敵意。
ゆんゆんの目にははっきりと敵意がこもっていた。
杖を構えて、俺を睨んでいたかと思えば、何かを思い付いたように、ニヤリと笑った。
「ねえ、別世界のヒカル?もし、儀式を止められなかったら、ヒカルはどうなるの?」
「っ!」
「っ」
強烈な悪寒を感じて、思わず半歩引いた。
ヒナに足がぶつかったが、気にしてはいられなかった。
まずい、まさかとは思うが。
「そうなんだ。ふふふ、その反応は、そうなんだ。あははは」
俺を、帰さないつもりだ。
邪悪な笑みがそう物語っていた。
後ろ手でヒナの手を服から外し、踏み込んでゆんゆんへと向かっていく。
もう無理矢理連れて行くしかない。
魔王城から離れさせて、魔王城は爆裂魔法か何かで吹き飛ばして儀式を完全に出来なくさせよう。
「その人達を排除しなさい!!」
ゆんゆんの怒声が響き渡り、モンスターが一瞬にしてカズマ達を襲い始めた。
刀の鯉口を切る。
杖を斬り捨て、峰打ちでゆんゆんを気絶させた後すぐにみんなでここを出よう。
後から納得してもらうしかない。
きっと苦労するが、そんなことはどうでもいい。
「『ファイアーボール』ッ!」
先程より手加減されていて、避けるのは容易だった。
後ろに着弾し、俺が吹き飛ばされたように見えるが、そうではなく、その爆風を利用して更にゆんゆんとの間合いを詰める。
きっとゆんゆんは俺のことは弱いと思い込んでいるはず、だから手加減した。
それを逆手に取る。
俺は爆風で浮かび上がった体の姿勢を制御して、着地に備えた。
ゆんゆんは俺を見て、表情は驚愕に染まる、なんてことはなく、俺を冷たい目で冷静に見ていた。
ゆんゆんは少し後ろに下がり、俺が着地する場所に杖を向ける。
「『ボトムレス・スワンプ』」
泥沼魔法!?
なんて手を思い付くんだ!?
俺が着地する場所の周り数メートルが泥沼に変化した。
俺は泥沼に飛び込み、姿勢を制御しようとして、逆に体勢を崩した。
やばい、マジでやばい!
こんな手も足も出ないのか!?
一瞬にして俺の体は腰までつかったかと思えば、体勢を崩し背中から倒れた。
「ヒカル!手を!!」
声が聞こえて、首を動かすとヒナがモンスターの大群を抜けて、泥沼に変化していないところから俺に手を伸ばしていた。
「おい!?危ねえだろうが馬鹿野郎!!」
「ヒカルの方が危ないでしょ!?早く!」
くそ、マジでその通りだ。
俺は必死に手を
「ヒナちゃん、ヒカルと一緒にいたくないの?」
ゆんゆんがヒナとは泥沼化した対岸の方から話しかける。
「……ぇ、」
ヒナが伸ばす手を止めて、ゆんゆんを見る。
ゆんゆんは続けてヒナに話しかけた。
「儀式を止めたらヒカルは帰っちゃうんだよ?元の世界に」
「っ!」
「ちょ、待てよ!その、それは…!」
ヒナが何度か俺とゆんゆんを交互に見ていた。
そして、すぐにまた手を伸ばして
「ヒカルに帰ってほしいなら、ヒカルを引っ張り上げてあげなよ。ヒカルに帰ってほしくないなら、何もしないで私に協力して」
「ぁ…」
ヒナの伸ばす手がまた止まった。
「ヒナ!頼む!」
俺も体を動かしながらまた手を伸ばす。
もう少しでヒナの手に触れられるぐらい近付ける。
「ヒナちゃん」
「ぁ…、ぼ、僕は…」
「ヒナちゃん、素直になりなよ。これからずっと一緒にいられるよ」
「!!」
ヒナの手がゆっくりと遠ざかっていった。
うそだろ、おい。
「ヒナ?なあ、お」
泥沼が既に口元まで来ていて、喋ることもできなくなった。
「ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさい」
ヒナが祈るように手を組み、泣きながら俺に謝り始めた。
手を伸ばしても、泥沼の感触しかない。
「そうだよね。ヒナちゃんも私と同じ気持ちだよね。これからまた一緒に暮らせるように二人で協力しようよ」
まずい、溺れる。
もうゆんゆんとヒナのことしか確認出来ない。
そもそもそれどころじゃない。
息が、続かな、い。
「僕……ごめんなさい…」
ヒナの辛そうな謝る声を最後に聞いて、俺の意識は暗転した。
目を覚ますと、知らない天井だった。
これも何度目だ。
妙にぼんやりする頭でそんなことを考える。
というかマジでここはどこだ。
薄暗い部屋のベッドに俺は寝ている。
起きて、周りを確認すると、鉄格子の窓に、トイレとシャワーが付いてるワンルーム。
うわあ、こんなとこで暮らしたくないなぁ。
そんなことを思いながら、更に横を見ると、壁一面が鉄格子になっている。
「おいおい、こんな開放的な空間だと覗き放題じゃねえかこの野郎」
そんな独り言を言って、やっと冷静になってきた。
「って牢屋じゃねえか!?なんだこれ!?おいいいい!?誰かいねえのか!?」
鉄格子をガシャンガシャン揺らしながら、外を見る。
すると
「あまり騒がないで。響くし、うるさいから」
「……」
ゆんゆんとヒナが通路から出て来て、鉄格子の外から話しかけて来た。
「おいこれ、どうなってんだ!?」
「どうなってるって、そんなの侵入者を捕らえて…」
ゆんゆんが答えてくるが、とにかくそんなことはどうでもいい。
「トイレとシャワーは別にしてくれよ!」
「いや、そこなの!?む、無理よ、今更そんなの変えられないし、悪いけど少し我慢して」
「じゃあ何か!?お前らに見られながらトイレもシャワーしなきゃいけないのか!?どういうプレイだこの野郎!!」
「違うに決まってるでしょ!?み、見るわけないし、プププ、プレイとかへ、変なこと言わないでよ!」
ゆんゆんが顔を赤くしながら言い返してくる。
ヒナの顔もなんだか赤くなってる。
「というか、これマジでなに?俺なんかした?」
「……はあ、なに言ってるの?変なことばっかり言ってるし、寝ぼけてるの?」
呆れたようにゆんゆんがジト目で俺を見てくる。
いや、普通に牢屋に入れられて、変なこと言わないやつがいるのか?
というか
「おい、ヒナ。それ俺の脇差だろ。返せ」
ヒナが腰にさしてるのは、俺の脇差だ。
「え、や、やだよ。ヒカルは二本も持ってるんだし、これはなんだかサイズが小さいんだし、僕にちょうだい!」
「なんでだよ!お前は自分の持ってるだろうが!」
「えっ、も、持ってないよ?なに言ってるの?」
「あぁ?お前こそなに言って…」
喋ってる内に意識がはっきりして来た。
そうだ、ここは平行世界で、俺は魔王城に儀式を止めに来ていて、って!?
「おいこら、出せこの野郎!!」
「ええっ、今更そのリアクションなの?」
「とりあえずこれは僕が貰うからね」
ゆんゆんが呆れたように言われて、ヒナに脇差をパクられた。
「わ、わかった!それやるから出してくれ」
「ダメに決まってるでしょ。とにかく一番良い牢屋でベッドも綺麗なものを持ってきてあげたんだから、しばらくはここで大人しくしてて」
「そんなわけにいくか!ゆんゆん、儀式はやめろ!蘇生は出来ないんだ!」
「……いやよ。やって確かめるまで、諦めない」
「ふざけんな!無理だって言ってんだろうが!」
「ふざけてない!私は本気よ!!ヒカルを蘇生させてみせる!」
鉄格子越しにゆんゆんと睨み合う。
だが、こんなことに意味があるわけもなく、ゆんゆんは背を向けて去ろうとしてくる。
「お、おい!お願いだから、儀式だけはやめてくれ!永遠に苦しむことになるんだぞ!?」
「じゃあ、そばにいてよ」
背中越しにそんな寂しげな声が聞こえた。
「ゆんゆん…俺は」
「いてくれないなら、黙ってて」
そう言って、今度こそ何処かへ行ってしまった。
「……」
ヒナはゆんゆんには付いて行かないで、ここに残るみたいだ。
「ヒナ、頼む。その脇差あげるから出してくれ」
「……」
返事も無く、目を逸らされた。
くそ、どうすればいいんだ。
一瞬で詰んだぞ。
カズマ達が助けてくれるのを待つしかないのか。
いや、ヒナがここに残るならヒナに協力してもらえるように粘ってみるしかない。
「何か欲しいものあるか?出来ればあの刀以外で頼む」
「他には無いかな」
元々物欲が無いからな、こいつ。
他に何かないか。
交渉出来るような何かが。
「あのね」
と思ったらヒナから話しかけて来た。
「僕はここの鍵を持ってないし、鍵の場所とか知らないからヒカルを出してあげたりは出来ないよ?」
「……」
「……」
「てめえこの野郎!脇差返せ!」
「い、いやだよ!絶対やだ!もう僕のだもん!」
ヒナに向かって手を伸ばすが、距離をすぐに離されて全く届かない。
こいつ!俺の気持ちを弄びやがって!
じゃあ出る手段が無えじゃねえか!
「はあ……」
「……」
思わずため息をつくが、状況が悪い。
どうしたものか…。
「なあ、喉渇いたんだけど」
「?それなら、ほら、そのベッドは魔道冷蔵庫とセットになってるものだから、ベッドの下の取手を引っ張れば出てくるよ」
言われた通り、ベッドの下の取手を引っ張ると水やお茶、それに数種類のジュースが入っていた。
何だこのすげえベッド。
「あ、足元の方の取手にある冷凍庫のところは使わないだろうし、そこに着替えとか入れといたから、それ使って」
また言われた通り、足元側のベッドの下の取っ手を引っ張ると、服や下着にタオルが揃っていた。
何だこのすげえベッド。
「……飯は?」
「僕達が用意するよ。三食しっかりね」
監禁された時を思い出す。
いや、今の状況もそうなんだけど、というか今の状況の方が正に監禁だ。
あの時も飯を持ってきてくれたな。
それに本もあった。
あの時間があったから俺は少しこの世界についての勉強が進んだ、と思う。
「洗濯物は鉄格子の僕達が取れるところに置いておいてね。出来れば綺麗に畳んでおいてくれると、汚れないで済むかも」
誰か助けてくれ。飼い殺しにされる。
というか、色々助かるけど、ここにいることが前提だ。
俺はここにいるわけにはいかないんだ。
「ヒナ、儀式のことは聞いてるよな?」
「……うん」
小さな返事。
今の状況に自信がないからだ。
「ゆんゆんが永遠に苦しむことになる。協力してくれ。ここから出る方法を聞き出して欲しい」
「……」
「ヒナ。お前しかいない。今はお前しかこの状況を…」
「僕ね」
俺の言葉を遮って、俺を真っ直ぐ見ながら口を開いた。
不安そうな表情だが、目は力強いものを感じた。
「僕が悪いことをしちゃったのはよくわかってる。それでもね、僕はヒカルに会えたのが嬉しいんだ」
少し泣きそうではあったけど、この世界のヒナの笑顔を初めて見た。
そうだ、ずっと暗い顔をしてた。
そんなことにも気付いてやれなかった。
「ヒカルに会ってから、魔王城に入って、登って、ゆんゆんに会っても…ずっとヒカルのこと考えてた。何を話そうかなって」
「……そうだな。悪かった。ここでゆっくり話そう。何から話したい?」
この世界のヒナのことはちゃんと聞いていたのに、儀式のヤバさばかり考えてた。
俺のせいでショックを受けたんだ。
話して心の整理をさせてやらないといけないのに、何やってんだ俺は。
「ヒカルは、帰っちゃうの…?」
泣き出しそうな顔で一番したくない話題を出してきた。
「……ヒナ。俺は…元の世界のお前らのことを置いていけないし、悲しませたくない」
「僕達のことはどうでもいいの?」
「そんなわけないだろ。そんなどうでもよかったら説得なんかしないで、力尽くで儀式なんか止めてさっさと帰ってるよ」
「……この世界にいてよ」
「ヒナ、まだ気持ちの整理がつかないのかもしれないが、わかって欲しい。一度落ち着こう」
「……」
ヒナは俯いてしまった。
こいつらを悲しませたくないのは本当だ。
でも、帰るのを諦めるわけにはいかない。
なんとか気持ちの整理がつくようにしばらくは俺が話して
「……僕とヒノヤマで暮らそう!」
「……ヒナ?」
「お父さんとお母さんは僕が説得する!きっと大変だろうけど、絶対わかってくれるよ!部屋もまだいっぱいあるし、ぼ、僕と一緒の部屋でもいいし!」
そんなはずない。
そう思っているはずなのに、なんとなくわかってしまった。
ヒナの気持ちが。
「僕は、あまり成長してないけど、頑張るから!ヒカルの為に頑張るから!だ、だから僕と、一緒に、ヒノヤマで暮らそう!」
言葉が出てこない。
何を言えばいいか、わからない。
「僕は!ぼ、僕は!シロガネヒカルが、大好きです!」
ヒナの体が震えて、泣きそうなぐらい瞳が揺れているのに、何も返事をしてやれない。
どうしていいか、わからない。
何が正解か、わからない。
「だ、だから、僕は…ヒカルをここから出すことにも、儀式を止めることにも協力出来ない。一緒に、ずっとヒカルと一緒にいたいから」
名を呼ぶことすら、俺には出来なかった。
「ごめんなさい。でも、僕はもう、こうするって決めたから」
俺に背中を見せて、ゆっくりと歩いて去っていった。
俺はその背中を見ることしか出来なかった。
ヒナの背中が見えなくなっても、俺は少しの間動くことが出来なかったが、やっと動けるようになって、俺はベッドの下の魔道冷蔵庫の取っ手を引っ張り、中を確かめる。
「……くそ、何で酒が入ってないんだよ」
魔王になったのがヒナギクだと思った方が多いみたいですね。
ヒナギクは元々戦闘力が足らないのと、アークプリーストの力を失っているので、なるのは難しいと思っていました。
一応伏線としては31話の天才少年がソロで魔王を倒しに行って結局自分が魔王になってしまう、という内容の絵本の話の時に「ぼっちだと魔王の適性がある」みたいな話をしたこと。
80話でエリスはゆんゆんだけは多くを語らなかったこと、そしてもう友達を作ろうとしなかったと言っている。つまりはぼっちだったということです。
あともしかしたら魔王を倒し終わったカズマが魔王城にまた行くことに違和感があるかもしれませんが、めぐみんやゆんゆんの為です。
めぐみんも何度かゆんゆんを説得していますが、失敗していて、カズマの狡い手もゆんゆんは何度か見ていて対策をしたり、不審な動きをしたら魔法で撃退しているせいで何度も失敗することになりました。
前回の後書きで、
六章が終わるまで多分、あと三話か四話か、それぐらいになると思います。
みたいな書きましたが、そもそも帰ってきてから円卓の騎士と戦わなきゃいけないし、別視点も書かなきゃいけないし、どう考えても無理ですね。ここら辺の話が頭から抜け落てました。