このすば ハード?モード   作:ひなたさん

92 / 166
本文も後書きも長め。

85話です。さあ、いってみよう。



85話

「ヒカルーーーーーーーーッッ!!!!!!」

 

 ヒナさんの絶叫が辺りへ響き渡る。

 私やゆんゆんさんの体を押しのけて、ヒナさんがリーダーの元へと堪らず走り出す。

 止めようとしたが、ヒナさんの体を掴むことは出来なかった。

 槍を引き抜かれてリーダーの体が倒れる。

 リーダーが倒れた場所には夥しい程の血が出ていた。

 

 リーダーが殺された。

 

 その事実にヒナさんと同じように叫び出したくなったが、なんとか耐えた。

 ヒナさんには蘇生魔法がある。

 大丈夫だ。なんとかなる。

 そう自分に言い聞かせる。

 

「ヒカル!!ヒカル死なないで!」

 

 ヒナさんはパラメデスなど見えていないかのように、リーダーの体へと近寄り、体を抱き起こして、胸の傷に回復魔法をかけはじめる。

 

「おい、ガキとはいえ目の前で回復魔法なんかされると黙って見てるわけにもいかないぞ。それに回復魔法は無駄だぜ。俺の槍はちょっとした呪いがかけられていてね。傷の治りが遅くなるのさ。まあ、凄腕のアークプリーストってんなら話は別だがな。って、おい聞いてんのか?」

 

 パラメデスがヒナさんを槍で小突こうとした瞬間

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッッ!!」

 

「うおっと!」

 

 光の刃が振られて、パラメデスは難なく回避をするが、リーダーやヒナさんから距離を取らせることに成功した。

 もっともゆんゆんさんは距離を取らせる為ではなく殺す気で振ったのだろう。

 先程までパラメデスがいた地面がぽっかり空いている。

 あんなのが直撃していたら流石のパラメデスも真っ二つだったはずだ。

 

「流石紅魔族。ベルゼルグのやべえ種族筆頭は恐ろしいねえ」

 

「……」

 

 ゆんゆんさんは涙を流しながら紅い瞳を光らせて、歯を食いしばりパラメデスを睨んでいた。

 怒り心頭ではあるもののヒナさんよりは冷静

 

「トリタンさん!私が前衛に出て戦うわ!トリタンさんは援護して!」

 

 ではなかった。

 すぐにでも飛び出して行きそうなゆんゆんさんの肩を掴んで止める。

 

「待ってください!落ち着いてください!」

 

「落ち着く!?これがどう落ち着いてられるというの!?」

 

 肩に置かれた手を振り解き、怒りの表情で私を見てくる。

 

「リーダーの為に落ち着いてください!!」

 

「っ!」

 

 叫び返すようにリーダーの名を出すと、ゆんゆんさんはすぐに反応を示した。

 ヒナさんは今も泣き叫びながら、リーダーに回復魔法を一心不乱にかけている。

 ゆんゆんさんまで我を失ってしまったら、リーダーが手遅れになるどころか、ヒナさんまで危険に晒しかねない。

 

「ゆんゆんさん、いいですか?貴女はリーダーとヒナさんを連れて、此処を離れてください」

 

「っ!?な、何を言ってるの、トリタンさん!?」

 

 お前こそ落ち着け、そう言いたげな目だ。

 私は落ち着いている。

 ……いや、正直私も頭に血が上っているのかもしれない。

 だが、これが正解だと私は確信している。

 逃げていたことから、立ち向かえ。

 そう言われているような、そんな感覚さえした。

 

「ゆんゆんさん。私はトリスターノです。トリタンでもありますが」

 

「え、な、なにを」

 

「ですが、円卓の騎士のトリスタンでもあります。今日は、それを証明します」

 

「トリスターノさ…」

 

「はっ!?お前が!?円卓の騎士!?お前はそれに相応しくねえから逃げたんだろうが!今更円卓の騎士を名乗るとは随分と顔の面が厚いんだなあ、てめえはよお!!」

 

 ……やっぱり反応してきたか。

 円卓会議の私の一つ一つの発言にすら噛み付いてくる彼らしい。

 だが、それを待っていた。

 まんまと私の発言に釣られてくれた。

 

「ええ、私はトリスタン。円卓の騎士のトリスタンですよ。それとも、私の後継は見つかったのですか?」

 

「てめえ調子乗るなよ、このカスが!」

 

「調子になんて乗ってませんよ。正論です。ゆんゆんさん、リーダーとヒナさんを連れて離れてください」

 

「で、でも…」

 

「手遅れになる前に、早く」

 

 強い口調で言うと、やっとゆんゆんさんはリーダーの元へと走り出した。

 

「おいこら、紅魔族。止まれ、死にてえか」

 

「行ってください。私が手出しをさせません」

 

 ゆんゆんさんは少し立ち止まり、迷った様子を見せたが、すぐにまたリーダーの元へと走り始めた。

 それを見て、更に頭に血が上ったのか、ゆんゆんさんに向けて槍を構え始めるのに合わせ矢を放った。

 パラメデスは瞬時に私の矢に反応して、矢を弾きまた私に睨んでくる。

 

「おや、どうされたのですか?円卓の騎士同士の一騎討ちに邪魔が入るといけないと思ったのですが」

 

「……てめえが円卓の騎士を名乗るな。そんな軽いもんじゃねえぞ」

 

「私は大真面目ですよ。それとも私との一騎討ちが怖いんですか?」

 

「あぁ?逃げたカスが何言ってんだ。この女共を逃すと思ってんのか?」

 

「そういえば、貴方が私を殺しに来た時はいつも不意打ちでしたね」

 

「……」

 

 ゆんゆんさんがパラメデスを警戒しながらヒナさんとリーダーを連れて、やっとパラメデスの間合いから逃げられた、ように見える。

 流石にパラメデスの間合いを完全に把握していないが、恐らく一瞬で攻撃出来る間合いではない。

 

「その挑発にあえて乗ってやるよ。てめえを真正面からぶち殺してやる。ただし簡単に死ねると思うなよ。生きてきたことを後悔するほどの苦しみを味わって、てめえは死ぬんだ」

 

 彼は外れたこともするが、円卓の騎士。

 騎士としての勝負は絶対に逃げないだろう。

 私相手なら確実に。

 そう思っての言動だったが、ちゃんと思った通りに行動してくれた。

 パラメデスはゆんゆんさん達から私の方へと槍を構え始める。

 すでに私は臨戦態勢だ。

 もう覚悟は出来ている。

 

 私はこれからパラメデスを殺す。

 

 その役をリーダーに任せようとしたバチが当たったのだ。

 もう逃げない。

 『トリスターノ』として。

 『円卓の騎士(トリスタン)』として。

 私は戦う。

 

「トリスタン。てめえが円卓の騎士だって言うならよぉ」

 

「?」

 

「『ラウンズスキル』を使えよ。てめえの()()()()()()()()()()()()を使え。俺はそれを真正面からぶち破って、てめえを殺す」

 

「……」

 

 『ラウンズスキル』はかなり強力なものや初見では見抜けないような反則級なスキルもあると言うのに、それをわざわざ使え、と。

 本当に正々堂々と私に勝つ気だ。

 

「使えよ、()()()()()()()()()()()()お前の『ラウンズスキル』を。まさかここまで来て、実は使えないなんて言わねえよな?」

 

 使えないなんて、まさか。

 使う機会がなかっただけだ。

 自分の弓のポリシーに反するから極力使いたくなかった、というのもそうだが。

 

「いいえ、パラメデス。実は私も使う気でした。『ラウンズスキル』を」

 

「へぇ…。てめえの首と良い土産話にしてえからよお、くそショボいオチとかやめてくれよ?」

 

 ニヤリと獲物を前にした獣のような笑み。

 腰を落とし、すぐにでも飛び掛かれるような構えをしてくる中、私は弓に番えた矢を矢筒に戻す。

 パラメデスが怪訝な顔をしてくるが、気にせず魔力を込める。

 

「っ!」

 

 パラメデスの表情が真剣なものに変わる。

 まだだ、まだ魔力を込める。

 この『ラウンズスキル』は魔力を込めれば込めるほど強力になる。

 このスキルの限界まで。

 自身の七割か八割の魔力を込める。

 そして

 

「光の矢?」

 

 パラメデスが口にしたように私の大量の魔力が込められた淡く光る矢が出来上がる。

 その光の矢をゆっくりと弓に番えて、パラメデスに構える。

 

「来い、トリスタン!!円卓の騎士パラメデスが貴様との一騎討ち、受けて立つ!」

 

「円卓の騎士トリスタン。期待に添えるほどの、私に似合わないド派手な技、受けるがいい!」

 

 パラメデスを狙った弓を上へと上げて天空に構えて、矢を放つ。

 空気を鋭く切るような音と共に矢は光の線を描いて大空へ昇っていく。

 数秒の沈黙が流れ、

 

「……てめえ、舐めてんのか」

 

「……何がです?」

 

「何がじゃねえ!てめえ、ヤケ起こしたんじゃっ!?」

 

 空を覆うほどの魔法陣が天空に描かれる。

 その魔法陣が光り輝いた瞬間。

 

「っ!?」

 

 その魔法陣から雨のように光の矢が降り注ぐ。

 ここら辺一帯を土砂降りのような勢いで何百、何千の光の雨は降り、一本一本が地面を抉る。

 これが私の『ラウンズスキル』。

 私以外には無差別の範囲攻撃。

 こんな技使う機会も無ければ、魔力を使いすぎて使う気にもならない。

 何より数打ちゃ当たる、というのが私に絶望的に合わない。

 正確無比の一撃こそが私の弓。

 ほら、私には全く合わないスキルだ。

 名前も付ける気にもならなかったが良い機会だし、彼の名前を借りて『光の雨(レイン・オブ・ライト)』とでも名付けよう。

 

「くそがああああああああ!!!」

 

 パラメデスは魔力を込めると魔法の盾を出せるマジックアイテムを使い、傘のように降り注ぐ光の矢を防いでいるが、光の矢の一つ一つの威力が強く、すぐに押され始める。

 私は弓に矢を番えて、パラメデスに構える。

 

「私に『ラウンズスキル』を使わせなければ、まだ勝負はわからなかった。パラメデス、貴方の負けです」

 

「黙れ!!俺もただではすまないだろうが、このスキルの弱点がわかったぞ!」

 

 そう叫んだパラメデスは私へと向かい、猛然と駆けてくる。

 そうだろう、そう来ると思っていた。

 

 私の『ラウンズスキル』は使いたくない理由に加えて、欠点も弱点も多く存在する。

 まず一番使いたくない理由は弓のポリシーに反すること。

 もう一つの理由はグレテンから逃げた自分に『ラウンズスキル』を使う資格が無いと考えていたから使いたくなかったこと。

 そして弱点は、一応私の『ラウンズスキル』は範囲内に自身がいても矢は降ってこないのだが、今のパラメデスのように近付いてきた場合は別で、私にも矢は当たるだろう。

 それと私の練習不足のせいで範囲を設定するのが難しい。

 今回も範囲を広く設定しすぎてしまったせいで、私の魔力のほとんどを使ったのに、この光の矢が降り注ぐのは二分どころか一分保つかわからない。

 

 迫り来るパラメデスに私は矢を放つが、槍で叩き落とされる。

 私は下がらないで、そのまま続けて矢を放つが、結果は変わらない。

 

「てめえが円卓の騎士になったのも、逃げて延命したのも何もかもが無駄だった!!俺の勝ちだ、トリスタン!!」

 

 私が逃げられないとでも思ったのか、勝利の雄叫びを上げてパラメデスは空いている片手で槍を構える。

 

「いいえ、これまでの私の全てに無駄はありません!これがその答えです!『ラウンズスキル』ッ!!」

 

 弓の形が変化する。

 質量を無視して形を変えて、手のひらサイズの黒光りする鉄の武器になった。

 拳銃と呼ばれる武器。

 シロガネヒカルと出会い、弓を拳銃という武器に変える『ラウンズスキル』が使えるようになった。

 

「もう一つの『ラウンズスキル』だとっ!?ふざけんな!騎士王でもねえお前が!」

 

 拳銃を両手で構え、パラメデスへと狙いを定める。

 このスキルを使えるようになってから、自然とこの武器の使い方を理解していた。

 パラメデスの槍の間合いに入る瞬間、拳銃の引き金を二度引き、二回破裂音が響いた。

 

「ぐっ!?」

 

 パラメデスの眉間と喉に穴が二つ空き、糸が切れたように体の力が無くなり、スライディングでもしてくるかのようにパラメデスは倒れた。

 

「私の勝ちです、パラメデス。卑怯とは言わないですよね?貴方が使えと言ったのですから」

 

 もう聞こえることは無いが、パラメデスへと語りかけた。

 それに無駄と言われたのは我慢が出来なかった。

 これまでの彼等との時間は何よりも大事なものだから。

 

 リーダーと出会ったことで生まれたこの『ラウンズスキル』はリーダーの故郷であるニホンに纏わる武器だと推測するが、こうもあっさり人の命を奪う凶悪さを改めて見ると、この『ラウンズスキル』もあまり好きになれそうにない。

 何はともあれリーダーが心配だ、無事蘇生は出来ただろうか。

 そう思い、ゆんゆんさんの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナちゃん!落ち着いて!ヒカルを連れて離れるよ!」

 

 ヒカルの傷の治りが遅い。

 血が止まらない。

 大量の血のせいでヒカルの匂いがしない。

 ヒカルの鼓動を感じない。

 どうしよう。

 どうしようどうしようどうしよう。

 

「ヒナちゃん!!」

 

「いたっ……な、何するのさ!?」

 

 突然ゆんゆんに頬を叩かれる。

 こんな時に一体何を…。

 

「ヒカルを連れて、離れるの!!」

 

「は、はい!」

 

 ゆんゆんの鬼気迫る表情と声に思わず敬語で返事をしてしまった。

 

「ヒナちゃんはヒカルを運んで。私が殿を務めるわ」

 

「え…ト、トリタンは…?」

 

「今は離れることだけを考えて。早くヒカルを運んで」

 

「う、うん」

 

 

 

 

「ヒナちゃんはヒカルを治すのと蘇生に専念して。あの騎士は槍に呪いがかけられてるって言ってたから、まずは解呪をしてからね」

 

 そうか、呪いか。

 なんでそんなことにも気が付かなかったんだろう。

 悔しさに歯を食いしばりながら、解呪の魔法をかけてから回復魔法をかける。

 ヒカルの傷はすぐに治すことが出来た。

 その後すぐに

 

「『リザレクション』!」

 

 ヒカルに蘇生魔法をかけた、はずだ。

 特に何も変化はない。

 初めて蘇生魔法を使ったが、ここまで変化はないのだろうか。

 

「ヒカル…?」

 

 僕はヒカルの胸に耳を当てて、耳を澄ました。

 何も聞こえない。

 呼吸も無い。

 そんなわけがない。

 そんなわけがないのに、何も起こらない。

 

「ヒナちゃん、どうしたの?」

 

「蘇生魔法を、か、かけたんだよ…」

 

「え、うん」

 

「な、なのにヒカルが、蘇生出来ないんだ…」

 

「ヒナちゃん、もう一度落ち着いて蘇生魔法をかけよう」

 

「う、うん。り、『リザレクション』!」

 

 ヒカルに変化はない。

 

「『リザレクション』!」

 

 ヒカルに変化はない。

 ゆんゆんが何かを呟いたが、僕には聞こえなかった。

 

「『リザレクション』!!うそ、なんで!?『リザレクション』!『リザレクション』!『リザレクション』!なんでなんでなんでなんで!?なんで発動しないの!?なんで!?」

 

 少し遠くで連続した爆発音のようなものが聞こえたが、まるで気にならなかった。

 ヒカルの肩を掴んで、振り起こすようにしてもヒカルはただされるがまま。

 うそだ、うそだうそだうそだ。

 こんなのうそだ。

 

「戻ってきて!!戻ってきてよぅ!!嫌だ!お願い!ヒカル帰ってきて!!嫌だ嫌だ嫌だ!お願いします!エリス様!!」

 

 何がどうして、蘇生魔法が発動しないのかわからない。

 魔力はまだある。

 それなのに、どうして。

 

「あ、あああ…そうだ、ヒカルは」

 

 ゆんゆんがうわ言のように呟きながら膝から崩れ落ちた。

 

「ゆ、ゆんゆん…?」

 

「ああ、あぁ…ヒナちゃん、ごめん…。ごめんなさい…」

 

 顔を覆い、涙を流すゆんゆん。

 意味がわからない。

 どうしてゆんゆんが謝るのか。

 

「ごめんなさい、ヒナちゃん。っ…落ち着いて、聞いて欲しいの」

 

 ゆんゆんが嗚咽を漏らしながら、話しかけてくる。

 

「な、なに…?」

 

 嫌な予感がした。

 予感の通り耳を塞ぎたくなったが、状況が状況だけにそれは理性が許さなかった。

 

「ヒカルは、ヒカルは、ア、アクセルに来る前に、一度死んでるの」

 

 …………………。

 

「この事を知ってるのは、私だけなのに…。ちゃんとヒカルを止めてれば、私が…。ごめんなさい、私が悪いの」

 

 りかいすることをあたまがこばんだ。

 

「な、なにをいって」

 

 ぼくができたのは、ききかえすことだけ。

 

「ヒカルの蘇生は」

 

 ききかえさなきゃよかった。

 そのさきは、ききたくない。

 

「もう、出来ないの!」

 

 ゆんゆんは言い終わると、力尽きたように地面に突っ伏し泣き始めた。

 

「うそだ」

 

 ゆんゆんがいったことをりかいしはじめていた。

 でも、みとめたくなかった。

 

「うそだ、うそだうそだうそだ!!」

 

「嘘じゃない!嘘じゃないの!」

 

 ゆんゆんが泣きながら言い返してくる。

 そんなの、そんなのみとめない。

 みとめてたまるものか。

 

「『リザレクション』!ヒカル、起きて!」

 

「ヒナちゃん…もう…」

 

 みとめない。

 あきらめない。

 ぼくは絶対に諦めない。

 

「『リザレクション』!」

 

「ヒナちゃん…もう、やめて…」

 

 ゆんゆんが僕をヒカルから引き離そうとするが、絶対に退かない。

 エリス様、お願いします。

 僕のことはどうなってもいいから、どうか。

 どうか、ヒカルの蘇生だけはさせてください。

 

「『リザレクション』!」

 

 なんだか胸が熱い。

 こんな時に、何だというのだ。

 蘇生魔法の邪魔だ。

 そう思い、胸元を見ると微かに光っていた。

 不思議に思って、光っている部分に手を触れると、それがなんだかわかった。

 いつもネックレスとして首に下げている、エリス様から預かった指輪。

 指輪が微かに光り、熱くなっていた。

 

「ゆんゆん、ごめん、退いて!」

 

 未だに止めてくるゆんゆんを振り払って、指輪のチェーンを引き千切り、左手の人差し指に通した。

 アクアさんが言ってることがどこまで真実か、それはわからないがアクアさんは以前『この指輪の力は神の力そのもの』と言っていた。

 この指輪を上手く使えれば、もしかしたらヒカルの蘇生が出来るかもしれない。

 普通の蘇生魔法は効果を発揮しない。

 ならば神様の力を使えるこの指輪の力を使って蘇生魔法をかければ可能性はあるかもしれない。

 神様の力だ。

 出来ない方が、おかしいはずだ。

 

「お願いっ、お願いしますエリス様!お願い『聖女の指輪』!」

 

 手を組み、祈りを込めるように僕が指輪に力を込めると、指輪は光り輝き、持つのが嫌になるほど熱くなる。

 この力なら、きっとなんとかしてくれる。

 確証なんて無い、でもそう思った。

 いや、そう思うしかなかった。

 僕は渾身の力を込めて

 

「『リザレクション』っ!!」

 

 ヒカルに蘇生魔法をかけた。

 唱え終わると指輪は段々と光がおさまっていく。

 そして、

 

 ヒカルに変化はない。

 

 あぁ…違う。違う、きっと違う。

 僕の祈りが足らなかった。

 そのせいだ。僕のせいだ。

 もう一度だ、もう一度。

 そう思って、指輪に力を込め始めた時、ふと気付いた。

 この指輪の力が、もっと近くにあるように感じた。

 いや、近くなんてものではない。

 

 自分自身の中に指輪と同様の力がある。

 

 そう感じた。

 混乱して頭がおかしくなったのかと思う一方、これはチャンスだと思う自分もいた。

 手を組み、祈りを捧げる。

 目を固く瞑り、指輪に力を込めた。

 指輪の力を感じながら、自分自身の中のどこに指輪と同様の力があるかを手当たり次第に探した。

 ゆんゆんが何度も話しかけて来ていたが、自分でも驚くほど冷静に自身の中の力を探し続けていた。

 例えるなら暗闇に手を突っ込んで、物を探してるような感覚だが、何故か僕はあともう少しで手が届くと感じていた。

 手を伸ばせ、もうすぐだ。

 額に汗が浮かび、集中力が限界に迫ったその時、僕は『届いた』と感じた。

 

 その力に触れた瞬間に全てを理解した。

 ヒカルは一度死んでしまっているので蘇生魔法は使えないこと。

 エリス様の元に魂が逝ってしまっていること。 

 天界の決まりにより、ヒカルの蘇生は出来ないこと。

 その他にも多くの情報が頭の中に殺到した。

 情報量の多さに吐き気がしたが、それをぐっと堪えた。

 吐いている場合ではない。

 

「ヒ、ヒナちゃん、な、なにそれ…」

 

 情報量は多いが、自分のやるべきことはわかった。

 蘇生魔法は使えず、天界の決まりにより、ヒカルの蘇生も認められない。

 それなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ヒカルの体は完璧に治っているから魂を連れてくれば戻れるだろうし、蘇生魔法も使っていないし、この方法なら天界の決まり自体は破ってないはずだ。

 

 僕なら出来る。

 人間をやめて、『天使』になった僕なら。

 天界に存在する神々の使い、天使。

 僕はそんな存在になってしまった。

 でも今の僕は天界の天使ではないから、決まりなんて知らない。

 

「ゆんゆん、僕ちょっとヒカルを連れてくるからヒカルの体を見ててね」

 

「えっ!?ヒ、ヒナちゃん何言ってるの!?それにその背中のそれは!?」

 

「とにかく早く行かなきゃ!後で説明するからヒカルの体は任せたよ!」

 

 僕は()()()()()()()()()()()()()()

 バサリと音がして、僕の足は地面を離れた。

 飛び方も理解できた。

 空間の飛び方も理解した。

 あとはエリス様の元に行くだけだ。

 

「ヒナちゃん!」

 

「行ってきます!」

 

 間に合え。

 ヒカルの魂が何処かへ行ってしまう前に。

 僕は天高く飛ぶと、空間を飛んだ。

 




説明とかのせいで後書き長め


トリスターノ
逃げた自分が円卓の騎士のスキルを使うのはおかしいと考えていて、ずっと封印してきた。
ヒカルの死をきっかけに、真に円卓の騎士と立ち向かうことを決意し、『ラウンズスキル』を使った。
一つ目の『ラウンズスキル』は明らかに自分に合わないもので、あまり気に入っていない。
自分だけに矢が降ってこないが、敵が近いと敵に降ってきた矢も普通に当たる。
範囲攻撃の敵味方の識別は無い。
範囲設定も難しく、魔力もめちゃくちゃ使う。
二つ目の『ラウンズスキル』はシロガネヒカルと出会い、目覚めたスキル。
一日に一度しか使えない弓が拳銃になるスキル。
トリスターノはわかってないが、M1911という銃。
日本、というよりヒカルの世界の武器。
トリスターノの手から離れると弓に戻る。
分解して構造を知ろうとしても、部品一つ外すとスキルが解けるので量産は出来ない。
弾は魔力で生成されるが、拳銃になった時に七発弾が入ってるが、リロードの概念は無く、撃ち終わったら銃として役に立たなくなる。

 


ヒナギク
指輪を通して自分の中の『神聖』の存在を自覚し、天界の存在である天使になった。
女神エリスの思惑通り…というわけでもなく、予期せぬ覚醒だった。
天使にはなったが、天界に属してはないので決まりとか規定は知りませんというスタンスで、天界の決まりのせいで蘇生が許されないので、天界からヒカルの魂を連れてきて体にぶち込み無理矢理生き返らせようとしている脳筋天使。
人としても才能に溢れていたが、天使になっても才能に恵まれていた。全知の才能を持っており、一瞬で何もかもを理解した。
ちなみに全知は神の中でも数名しか持っていない才能。
天使になって全知の才能に目覚めた時、日本が異世界であることも知ってしまっている。

飛び立った後、空間を移動して女神エリスの元に辿り着き、困惑しているエリスから事情を聞き出し、自身の力でヒカルがいる世界に向かう。



papurika193様から支援絵をいただきました。

【挿絵表示】

うーん、謎時空。
みんな可愛くて素敵な絵なのですが、謎が多くてツッコミを入れたくてしょうがなかった。
後書きとかにも書いたことがありませんでしたが、三章のデモゴーゴンに堕とされる夢の初期構想がこんな感じでした。
デモゴーゴンが見せる夢の中でゆんゆん達と学校生活をするヒカル。
元々社会人で、ゆんゆん達がいることにも強烈な違和感を感じ、家に帰って家族に会うと懐かしい気持ちになる。
そんな違和感や懐かしさで今見てる現実がおかしいことに気付いていき、なんとか夢から抜け出そうとする。
というのが三章の夢の初期構想。
ヒカルが学生をやってるのもどう説明しようかと悩んだり、三章書いてる時のモチベがそんなに高くなかったりで、結局は家族のみの夢になりました。
朝、ゆんゆんに起こしてもらって登校したりお昼に弁当もらったり下校したりする一番好感度高い系幼馴染に、生徒会役員であり同じ部活の生意気系ヒナギク後輩に、日々の馬鹿話や遊びとかいつも一緒の同級生トリスターノとか、どんなギャルゲー?どんな青春?
更に妄想を広げるなら生徒会長のアクアに副生会長のエリス様に剣道部主将のミツルギに悪友グループのカズマダストキース……。

多分この絵が送られてきたのは、この絵のような短編か番外編が読みたい、という意味だと思いますのでいつか書く、かも?多分。



次の視点はヒカルに戻ります。
久しぶりの解説後書きでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。