少し文字数多め。
89話です。さあ、いってみよう。
「ねえ、起きて!しっかりしてよ!もう回復したよ!?」
「んだよこの野郎!お前らがやったんだろうが!」
肩を掴んでガクガクと揺らされて、目を覚ますとヒナがいた。
「えっ!?ぼ、僕じゃなくて、向こうの僕でしょ!?」
「あ?お前何言ってんだこの野郎」
目の前のヒナが指を指す方には確かにヒナがゆんゆんと一緒に驚いた顔でこちらを見ていた。
俺が気を失ってる間に色々あったみたいで、フロア内にいたモンスター達は全て処理されていた。
というかヒナが二人……?
なんか目の前のヒナはちょっと発光してるし、すごい綺麗な純白の翼が生えていた。
「……悪い。頭をやられたみたいだ。回復魔法を頼む」
「違うってば!僕だよ!ヒカルがいた世界の僕だよ!」
「……はあ?」
「何言ってんの?みたいな顔しないでよ!僕が二人いる説明がつくでしょ!?迎えに来たの。とにかく早く帰ろう、みんな待ってるから」
そう言って手を取り俺を立ち上がるのを手伝ってくれた。
「確かに俺がいた世界のヒナが世界を渡ってきたのならヒナが二人いる理由はわかる。でもお前のその格好はなんだ?」
ヒナが迎えに来てくれた、のはわかる。
ぶっちゃけわけわからんが。
どうやって来たとかはともかく置いておいて。
その姿はどう考えても
「僕はヒカルをどうにか生き返らせたくて……頑張ったら天使になってた、って言ったら信じてくれる…?」
「バカにしてんのか」
「違うよ!説明が面倒なんだってば!早く帰りたいし、みんなと合流してから話そうよ」
「よくわかってない状態で帰れるかよ。それにまだ終わってないんだ」
「え?ゆんゆん達を止めたんじゃないの?」
ヒナが振り返って、この世界のゆんゆんやヒナを見てそう言った。
「まだ止めただけだ。ちゃんと話し合ってないんだ」
「……あのね、ヒカル。この世界のヒカルは死んでしまって僕達の世界とは違う時間の進み方をした。とても不幸なことだと思う。それでもね、ヒカルは長居するべきではないんだよ。死んでしまった人と再会するなんて、とんでもない奇跡なんだ。その奇跡がいつまでも続くなんて世界のルールに反するし、いつまでも続くなんて思って欲しくない。残酷なことだと思うけど…」
まるで神様のような意見だ。
なんとなく気に入らない。
「お前の言いたいことは何となくわかった。だけど、あえてこう言うよ。知らん」
「はあ!?何言ってんの!?」
俺はこの世界のゆんゆんとヒナに向かって歩こうとすると、すぐに天使の方のヒナが俺の前に出て通せんぼしてきた。
「これ以上の奇跡は許されないよ!この世界の人達の為にも、もう帰るべきだ!」
「俺は……まあ自分の為ではあるんだけど、やっぱりお前達に会いたいから、わざわざこうやってこの世界に来たんだよ」
「じゃあ、尚更…!」
「そう、お前達『仲間』の為にここまで来たんだ。救ってはいおしまい、で帰れねえよ」
「……あの二人は別世界の人なんだよ、別の人だ。仲間じゃない」
「いいや、違うね。仲間だ。喧嘩してよくわかった。あいつらも俺の仲間だ」
「元いた世界の僕達のことは?早く帰りたくないの?」
「そんなわけねえだろ。ほんの少しだけ時間くれ。挨拶ぐらいさせてくれよ」
「……もう知らない。好きにすれば?」
そっぽを向いて吐き捨てるように言ったヒナの頭を撫でながら、俺はヒナを通り過ぎて、二人の元へ向かった。
「ごめん、そろそろ帰らないといけないみたいだ」
困惑しきった二人の表情に更に悲しさが追加された。
「もう帰っちゃうの?あと少し…今日ぐらいは一緒に」
「駄目だよ」
俺が答えようとするより先に、俺の後ろから返事が聞こえた。
天使の方のヒナ……面倒だ。
これからは雛と言うことにしよう。
雛も俺について来ていたらしく、雛がそう答えた。
「何でお前も来てんだよ」
「ヒカルが情に流されたりしないようにだよ。ここにいるヒカルは
「「……」」
こちらの世界のヒナとゆんゆんがムッとした顔になって、雛を睨むが本人はどこ吹く風だ。
なに言われても先程の喧嘩で勝った以上残る気なんか無いってのに。
ちゃんと別れを言う。
でも、それ以上に言わなきゃいけないことがあるから、この挨拶する時間だけは欲しかった。
「ヒナ、ゆんゆん」
「え」
「な」
「なっ!?」
二人を抱き寄せると、周りの三人がそれぞれに驚いて
「何っ!?また叩かれたいの!?」
「もう一回喧嘩!?いいよ、やろうか!」
「何でこんな時にセクハラしてんの!?バカなの!?」
「何でお前等、そんなマイナスな考え方しか出来ねえんだよ!最後の挨拶なんだからこれぐらいいいだろ!」
そう言うと二人は大人しくなったが、雛は何故か俺の背中をずっと抓っていた。
何でだよ、やましい気持ちは一切無いぞ。
「この世界に来て、この世界のエリス様に俺が死んでからお前達がどうなったかを少しだけ教えてもらった」
二人は無言だが、ヒナとゆんゆんは少しだけ抱き付くように俺の腰に手を回してきた。
「辛い思いをさせた。こんな事しか言えないけど、知ってるような口もあまり利きたくないからな。そこら辺は許してくれ」
「「……」」
「俺にはあのやり方しか思い付かなかったんだ。時間稼ぎしてお前等を逃すぐらいしか出来なかった。お前等が大事だったんだよ。何よりも。俺には家族とかもういなかったからさ」
俺の腰に回した二人の手の力が強くなった。
二人の肩が震えてるのを感じつつも俺は続けた。
「お前等は家族もいるし、才能もあるしさ。二人なんか将来有望だろ?ヒナなんかこれから成長して大人になっていでででで!悪かった悪かった!」
二人のヒナに抓られる。
こいつ等と喧嘩するのはいいが、泣かれるのは苦手で変なことを言ってしまった。
「どうしても生きてて欲しかったんだよ。だから俺が残ったんだ。それでいいと思った。でもエリス様から俺が死んだ後のお前等のことを聞いて自分の事しか考えてなかったことに気付いたよ」
二人が痛いぐらいに抱き付いてくるのを俺は優しく抱き返す。
「ごめん。お前等の気持ちも考えないで、お前等のこと残していってごめん」
二人が嗚咽を漏らして泣いているのを俺はただ抱き返してやることしか出来ない。
これ以上は何も出来ない。
するべきではない。
これからまた別れを突き付けるのだから。
「俺は、また元の世界に戻るよ」
そう言うと、二人が怯えるようにビクリと震えた。
「元いた世界のお前等を悲しませたくない。この世界の二人ならわかってくれるって俺は思ってる」
俺が死んで悲しんでくれた二人ならきっとわかってくれる、そう勝手に信じた。
話せずにいる二人に俺はそのまま続けようと口を開いた時、
「魔王の娘が戻って来やがった!!」
突然のカズマの辺りに響くほどの大声で思わず振り返った。
ゆんゆんとヒナがゴソゴソやってるのを感じて正面に向き直ると涙を拭いていた。
そんな二人を見ないようにカズマ達がこのフロアのテラスから出て外を見ているところへと向かう。
城下には数百は下らない魔物の軍勢が溢れていた。
その先頭には魔王の娘らしき人物もいる。
帰ってきたということは儀式の準備が終わったということだ。
「マジかよ」
思わず呟くと、誰かが俺の肩を叩いてきたので振り返る。
「ヒカル、帰るよ」
雛だった。
雛の言葉に俺どころか他の全員も驚く。
「この状況で何言ってんだよお前は」
「ヒカルこそ何言ってるの?ヒカルはこの世界の人間じゃないし、この世界の危機はこの世界の人間がどうにかするべき問題だよ。それにヒカルじゃ魔王の娘相手に戦えるわけないじゃん」
「それは、そうかもしれないけど」
「それに僕は連れ戻しに来たんだ。僕が連れ戻せば蘇生魔法とか特典とか関係無くヒカルのことを蘇らせることが出来る。もう救うとかは考えなくていいんだよ」
「いや、ちょっと待ってくれよ!今は」
「待たないよ!また僕にヒカルが死ぬところを見ろって言うの!?」
「……それは」
「僕は目の前でヒカルが殺されて、気が狂いそうだったよ!それをまた僕に味わえって言うの!?ゆんゆんだって、トリタンだってどれだけショックを受けたか、わからないの!?僕のことを悪く思いたいなら思えばいいよ!僕は無理矢理にでもヒカルを連れて帰る!僕の為にも、二人の為にも!」
「……」
俺の胸を叩いて涙ながらにそう言った雛に、何も言えずに立ち尽くした。
「帰ろう、みんな待ってるよ」
手を差し伸べて、泣きながら微笑む雛。
ああ、何でこんな
「行っちゃえ馬鹿野郎」
声がした方向を見ると、涙でぐしゃぐしゃになった顔のヒナがいた。
そんなヒナの手を握って、同じく涙を流したゆんゆんが続けて口を開いた。
「ヒカル、来てくれて本当にありがとう。私達なら大丈夫だから。……だから、だから、戻って、大丈夫よ」
歯を食いしばるように何度も無理をして口にした言葉だというのがすぐにわかった。
「あー、その、俺はヒカルの状況とかが全くわからないんだけどさ」
カズマが後ろから声をかけてくるのに振り返る。
「魔王を倒したカズマさんがここにいるだろ。もう一度ぐらい世界を救うぐらいやってやるさ。それに前回魔王を倒した時より心強い仲間が多いしな」
「カズマ…」
「キミがやるべきことはやった、ボクはそう思うよ。誰にもやれないことを、キミにしか出来ないことをキミはやり遂げた。だから今度はボク達の番だ。まさかボク達の活躍まで奪う気かい?」
「同胞に魔法を撃つことは出来ないが、魔物相手ならこの力を存分に解放する時だ。世界を渡りし者よ、己が宿命を全うするがいい」
「やっとクルセイダーの出番が来たというわけだ。ヒカルに武器として扱われないのは残念だが、皆の盾として全力を尽くそう」
「色々言いたいことはあるけれど、その子が天使として言ってることは正しいわ。確かにあんたの存在はその子達にとって救いになるかもしれないけれど、それは一時の誤魔化しにすぎないわ。覚悟を決めて帰るべき場所に帰りなさい」
「お前等…でも」
「いいから行」
「『エクスプロージョン』ッッッ!!!」
盛大な爆発音が聴覚を支配した。
テラスから見える景色は爆焔で塗り潰されて、何も見えなくなった。
遅れてくる爆風でみんなが防御態勢を取っている内、爆風が収まり、その後爆裂狂が倒れた。
『…………』
「ふはーっはっはっはっはっは!!ずっとずっとずっとずっっっっっと我慢に我慢を重ねた爆裂魔法がここまで気持ちいいとは!!何が世界でトップクラスのアークウィザードですか!その程度で勝てたと思わないことですね、ゆんゆん!この我こそは世界で最強の魔法使い、めぐみん!!ゆんゆんが魔王を名乗るのはここまでです!何故ならば、今から私が魔王になるからです!!!」
「このバカ、空気読めええええええ!!!!」
呆然とした俺達の中、爆裂狂が高らかに魔王を宣言するのに唯一ツッコミを入れられたのはその伴侶ただ一人だった。
「あー…えっと、仕切り直し、って言うか」
「う、うん…」
「そ、そうだね…」
めぐみんの爆裂魔法で魔王の娘は跡形もなくなり、魔物の軍勢も半分以上が消し飛んだ。
残った半数の魔物も統率を失い、爆裂魔法の威力に恐れて、蜘蛛の子を散らしたように逃げて行った。
そしてまた二人に最後のお別れの挨拶を再開しているのだが、アホな急展開のせいで先程までとは雰囲気が違っていた。
なんとなく二人とも明るいように感じた。
めぐみんの爆裂魔法は二人の悲しみすらも吹き飛ばしたのかもしれない。
「俺がいなくても、もう大丈夫そうだな」
「「……」」
二人は何も返事をしなかったが、悲しい表情というよりは困ったように微笑んできた。
口にしたくは無いけど、大丈夫。
そんな感じだろうか。
「やっぱりお前等は悲しんでる顔より笑ってる顔の方がいいな。それにさっきの喧嘩でよく分かったよ、お前等がめっちゃ強いってことがな。それだけ強ければ俺は安心して戻れるよ」
「僕は逆に心配だよ、また死んじゃうんじゃないかって」
「そうね、ヒカルが誰かにセクハラして怒って攻撃された時にうっかり死んじゃったりするかもしれないわ」
「やかましいんだよ、この野郎。そんな間抜けな死に方するか」
二人がクスクスと笑い始めるのを見て、俺は心の底から安堵した。
これなら本当に大丈夫そうだ。
「僕ね」
「?」
「僕これからまた頑張るよ。そこの僕に負けないぐらい頑張る。だから僕のこと、僕の気持ち、出来るだけ忘れないで欲しいな」
「……ああ、わかった。ずっと忘れないよ」
「うん、ありがとう!」
ヒナはにっこりと笑う。
思わず俺も笑い返してしまうような、そんな魅力があった。
「私もこれから頑張るわ」
「あの、ゆんゆんが頑張るのはいいんだけど何を目指してるんだ?」
正直ゆんゆんはもう落ち着いた生活をした方がいいんじゃないか。
「何って、めぐみんに魔王を取られちゃったから、ライバルとしてまた取り返さないと」
「おいこら」
「ふふふ、冗談よ。でもまた魔王になったら来てくれる?」
「……お前な」
少し成長したゆんゆんの悪戯な笑顔と上目遣いに少しだけドキリとしながらも呆れて返事をする。
目がちょっと光っててマジだった気がするのは気のせいだと思いたい。
「これは半分冗談よ。でも一応最終手段に取っておくわ」
「マジでやめろよ」
「今はヒナちゃんもいるし、大丈夫よ。でも、また一人になった時は、私を止めに来てね?」
ゆんゆんがにっこりと笑うのに対し、俺は引き攣った笑いしか返せなかった。
「ヒナ、ゆんゆんのこと頼んだぞマジで」
「はいはい。ヒカルは自分のことを考えなさい」
三人で笑い合う。
よかった、別れが悲しいだけのものじゃなくて。
「もういいよね?」
雛が聞いてくる。
結局なんだかんだで待っていてくれた。
「悪いな、待たせて」
「もういいよ、それに僕も少し思うところがあったしね。そこで一つ確認したいんだけど」
雛はヒナの方を見る。
ヒナはまるで気に入らないように雛を睨むように見つめ返した。
「なに?」
「この僕に負けないぐらい頑張るって言ったよね?本気?」
「……なに?気に入らなかった?」
「本気かどうか答えて」
雛が有無を言わせぬ迫力でヒナへと問い詰める。
それに少し押され気味のヒナだったが、しっかりと答えた。
「本気だよ」
「……そっか」
小さな声で呟いた雛は自分の指から指輪を外して、ヒナの胸に拳で押し付けるようにして渡した。
「え、なにこれ」
「あげる。もう僕にはいらない物だから」
いや、いらない物ってお前それ。
「お前、それエリス様に」
「いいの」
雛はいいかもしれないが、エリス様は多分泣くぞ。
別にいいけど。
「えっ、ちょ、ちょっと待って!これエリス様からの貰い物!?受け取れないよ!」
貰い物でもないんだがな。
エリス様の名前が聞こえたヒナは慌てて返そうとしてくるが、雛は見向きもしない。
「それを持ってれば僕に勝てるかもよ」
雛の一言でヒナの表情は変わり、返そうとはしなくなった。
「じゃあ今度こそ帰るよ」
「おう。みんなもありがとうな」
みんなを見回してそう言うと
「お、そのまま行っちまうのかと思ってたよ。まあ、元気でな」
「また会えてよかった。向こうの世界?のボクとも仲良くしてくれると嬉しいよ」
「この邂逅は世界が選択せし
「短い時間だったが、悪くなかった。二人のことは私も見ておくから安心してくれ」
「エリスには私から報告しとくわ。水の女神である私も見守ってあげるから安心なさい」
「……向こうのゆんゆんも泣かせたら、次こそは爆裂魔法をぶちかましてあげます」
みんなからの声をもらいながら返事をしているとバサリと羽ばたく音がして、振り返るとヒナが宙に浮かんでいた。
ヒナが俺の脇の下から腕を通し、羽交い締めみたいな感じで持ち上げた。
「な、なあ、これ大丈夫か?」
「……大丈夫だよ。一応ヒカルも離さないでね」
「おい、今の間はなんだこの野郎」
「だ、大丈夫だよ!来る時は何度も失敗しちゃったけど、コツは掴んだから!」
「おい待て!嫌な予感しかしねえよ!離してくれ!エリス様に安全に送り届けて貰いたいんだけど!」
「大丈夫!慣れてなくて時間と空間と世界を超える為にすごいスピードで飛ぶけど、僕がちゃんと掴んでるから!」
「おいいいいいいい!!こんな不安なテイクオフあるか!?今からでも遅くねえよ!エリス様に」
「行くよ!」
「勝手に行くなああああああああああああああああああああああああ!!!!」
みんなが見守る中、俺達はテラスから外に飛び出て、超スピードで空へと飛んでいき、そのあまりのスピードに途中で俺の意識も飛んでいった。
とある世界のその後。
世界は平穏を取り戻した。
何事も無かったように日常が流れ始める。
二人のひとりぼっちが残った。
彼は元の世界に戻ってしまったが、不思議と彼女らに喪失感は無かった。
今でも、彼が居てくれているようなそんな不思議としか言えない感覚。
残った二人は手を取り合い、元の関係へと戻っていった。
そして二人は何を話すまでもなく、こうするべきだとお互いに考え、二人で旅に出た。
止まってしまった時間が動き出すように。
失くした時間を取り戻すように。
あの悲しみから踏み出すように。
まずはアクセルに戻って、それから多くの街を巡り、数多の冒険をした。
二人で苦難を分かち合った。
二人で楽しい時間を過ごした。
どうしてこの冒険に彼らがいないのだろうと悲しみに暮れることが何度もあった。
立ち止まりそうになることもあった。
振り返ってばかりだったが、しっかり前を向いて歩き続けた。
何故なら二人は下を向くことと立ち止まるのをやめるために冒険に出たのだから。
冒険をしていく中で、何度も強敵と対峙した。
精神に干渉し、悪夢へと引き摺り込んでくる邪神。
かのデストロイヤーに匹敵するほどの超古代兵器。
かつて魔王軍幹部シルビアが指揮していた強化モンスター開発局残党の陰謀の阻止。
戦場において無敗を誇る騎士王。
多くの強敵を討ち倒し、そして二人は頂へと登り詰めた。
歴史の中でも最強と呼ばれるほどの魔法使いと呼ばれるほどの力をつけた。
彼女は紅魔の里に戻り、そのまま族長を務め、里や世の平穏を守った。
エリス教の最強のアークプリーストとして多くの人を導く聖女となり、死ぬことなく女神エリスの元へと辿り着いた。
激動の冒険を終えた後、穏やかな日々を過ごした魔法使い。
里で静かに暮らしていると、何故だか魔王を倒したパーティー御一行のドタバタに巻き込まれる。
魔王を倒した青年のセクハラ騒動、友人の爆裂騒動、物が忽然と消える事件に、里近くにモンスターの飼育を無断で行ったことによる事件など様々だった。
今更友達を増やそうとかは思っていないし、出来れば静かに暮らしたい。
彼らのパーティーの人達のことを友達だなんてことは恐れ多くて思っていないのだが、彼らが「友達であるゆんゆんの力が必要だ」と言ってくるので仕方ない。
そう思い、ニマニマしつつ彼らの元へと向かっていくのだった。
彼女は老いてなお亡き友のことを想った。
もしも許されるのであれば、次の生もかつての仲間のような友人に囲まれた人生でありたい。
そう願い、彼女は静かに息を引き取った。
彼女の人生が素晴らしいものであったかは彼女自身も他の誰かも、神ですらわからない。
だが彼女の人生は彼女の友人によって本となって世界へ知れ渡った。
色々脚色されてはいるが、だいたい合ってる、が真に彼女を知る者の感想だ。
最強の魔法使いもただの人間、そう呼ばれるほどの苦難。
それでも彼女は立ち直り、突き進んだ。
そんな歴史の中でも最強と呼ばれた魔法使いに倣い、世の魔法使いは名乗る前にこう言うのだ。
お控えなすって、と。
聖女としての自覚は無いが、多くの人を導いたアークプリースト。
困った時はだいたい拳が解決してくれる。
それが彼女の持論だった。
迷える人達にボクシングを教え、子供達にボクシングを教え、病気に苦しむ人にもボクシングを教え、暇している老人にもボクシングを教えた。
頑張ればなんとかなる。
時に厳しく、ある時も厳しく。
周りからはスパルタ聖女と呼ばれたが、なんのその。
彼女の明るい性格と人を決して見捨てず、諦めない姿勢に周りの人達は
エリス教会はボクシングジム。
そう呼ばれたとかいないとか。
ただエリス教に入る人間はみな健康的で引き締まった体をしていることが有名になり、世の女性がエリス教会に殺到したらしい。
女神エリスは集まる信仰が急激に高まり、神として力を上げていく一方でこう思った。
どうしてこうなった。
エリス教会がボクシングジムと呼ばれて数年が経った頃。
一年に一度開かれる祭典、女神エリス感謝祭にてボクシング大会が開かれるようになる。
その健闘や勝利を女神エリスに捧げるものなのだ。
その大会にヒナギクが飛び入り参加して優勝を掻っ攫っていくのを見ながら女神エリスはこう思った。
マジでやめてほしい。
聖女としてボクシングを教える日々を過ごしていた彼女はある時ふと気付いた。
自分の中には不思議な力があることを。
ポケットの中の硬貨でも取る感覚でそれに手を伸ばすと、彼女は人間をやめて天使になっていた。
まるで別世界からきた自分のように羽を生やした姿になっていた。
その時突然女神エリスが現れ、天界に来るように誘われる。
すでにこの世界での役目は終わっていると感じ始めていた彼女は即答で付いていくと答え、天界へと至った。
彼女は天界での修行と仕事をする中で自身の世界で関わった人達の死を見届け、魂を見送った。
女神エリスのボディタッチがやたら多いことを少し気にしつつも、仕事の休憩で楽しみにしているとある世界の日常を眺める。
自分達の過ちを止めに来てくれた彼。
彼が過ごす日常を見るのが好きな彼女はいつの間にかそれが習慣になっていた。
私だけがこんなのズルイかな、なんて思いつつもやめられず、彼の姿を眺める。
今日も彼は楽しそうだ。
自然と彼女も笑顔になる。
今日も今日とて彼女は女神エリスにお尻を触られながら天界の仕事とボクシングを頑張るのであった。
平行世界のお話は終わり。
出来るだけハッピーで二人らしい終わり方にしてみました。
シリアス続きでしたが、どうだったでしょうか。
でも、まだ六章は続くんじゃ…。
みんな忘れてるかもしれないけど、まさよし君一人で円卓の騎士と戦ってるしね。
この連休の土日にデイリーランキングに入ることが出来ました。
高評価を入れてくださった方のおかげです、ありがとうございます。
読んでくださる人が増えて大変嬉しく思います。
またランキングに入れるように頑張りたいと思います。