まずは主人公フィリスの天使時代を、おとどけします。
空と海と大地、そして様々な生物が住まう世界。
遙か昔この世界は神によって作られた。
神の名前は天空王グランゼニス。
ある時神は、地上に住まう人間たちにたいし絶望を覚え、彼らを不良品と呼びつけて、抹消しようとしていた。
そのため、グランゼニスは自分が作った世界へ向けて、力を放った。
しかし、一条の光が飛び込んできて、それを阻止した。
その阻止した存在というのは、グランゼニスの娘である、女神セレシア。
人間を愛する彼女は、その身を挺して人間達を守ろうとした。
しかし、娘の言葉を持ってしてもグランゼニスは人を快く思っていなかった。
長きにわたる口論の末、セレシアは己の身を巨大な樹木へと変えていく。
それは、自分自身に対する封印。
「人々の清き心が、私を樹木の封印から解き放ち、目を覚ませる」
彼女は自分が復活する方法を人々にゆだねることで、守ろうとしていた。
それをしったグランゼニスは、とうてい不可能と思いながらも、彼女を目覚めさせる方法である、清い心を集める役目を担う存在を、新たに作り出した。
「天使」
を。
その出来事から、もう何百……何千という年が経過した。
この世界には人もおり、魔物もあり、また天使も存在する世界になっていた。
この世界でもひときわ目立って平和な場所である、ウォルロ村を見守る、翼を持つ二人組も、その天使なのである。
「今日もウォルロ村は平和そのものなのですね……師匠」
「ああ、このままそうあるべきだ。 そして、この村の平和を守り人々の幸せのために働くのが、我々、天使の使命でもある……」
男性の言葉にたいし水色の髪の少女ははい、と力強くうなずいた。
「……あたし、じゃなくてっ! 私もこの村の平和を守るつとめを引き継げるように頑張ります!」
「随分、言葉に気を使おうと意識するようになっているな……フィリスよ」
この水色の髪の少女は、天使フィリス。 この上級天使イザヤールの弟子として修行を積んだ、天使の一人。 性別は女性ではあるものの、言動はどこか男の子っぽさがあり、少々強気で荒っぽい性格をしている。 しかし戦いの素質は高く、また人の役に立ちたいと願い、困っている人を放っておくことができないという優しい心の持ち主だ。
「先程も村に来ようとしていた村人を、魔物の手から守ったことだし……お前も随分と強くなった。 その証として、人間の感謝の心が宿っている星のオーラがこうして、我々の手の中にある」
そう言ってイザヤールは、手の中で輝いている星のオーラをフィリスに見せる。 先程別の場所からこの村に帰ってきた、老人と少女を魔物から守り抜いたことで、無事に帰れた少女からもらった感謝の証だ。 それをみて、フィリスも誇らしげに笑う。
「そうですね、私も魔物との戦いは得意分野ですから!」
「そうだな、お前は天界でも大人を打ち負かすほどの戦士だ。 それはほめたたえるべきだろう」
「ふふっ」
「では、帰るとしよう」
「はい!」
そう言葉を交わして、イザヤールとフィリスは真上をまっすぐ見つめながら翼を大きくはためかせ、高く飛び上がっていった。
彼らがたどり着いたのは遙か高い空、雲の上にあるのは巨大な城のような浮き島のようなもの。
それこそが天使たちの住まう世界、天使界だ。
その証拠に、そこには背には白い翼、頭の上には光輪を持つ天使が多くいた。
「よし、とーっちゃく!」
その天使界にたったいま、フィリスとイザヤールは帰還した。
「さて、フィリス……戻ってきたらまずはどこへいくのかを、忘れてはいないな」
「えーと……星のオーラを捧げにいくんですよね! いってきまーす!」
そう言って星のオーラを片手に走り出そうとしたフィリスだったが、イザヤールはすぐに彼女の腕をつかんで阻止する。
「待て」
「あれ、違いました?」
突然腕を捕まれて制止されたので、自分がしようとしていたのは間違っていたのかと首を傾げる。
「間違ってはいないが……その前にやることがあっただろう。
我らが長老であるオムイ様に、報告をするのがならわしだと……教えたはずだが?」
「……あ、そ、そうだった!」
これは命令違反ではなく、単に彼女のそそっかしさやうっかりがでただけだ。 自分は教えたつもりなのだがな、とイザヤールは呆れてため息をつく。 彼が寛容なのは、彼女がこういう性格だというのをわかっていたからだ。
「まったく、そそっかしいな……」
「あはは……すいません」
「思い出したのであれば、それでよい……行くぞ」
「はいっ!」
それに、改めて教えれば彼女は素直にいうことを聞くし、ちゃんと覚えてくれる。 だからイザヤールは呆れはするものの、彼女に根気よく指導を行っている。 今も修正されたことをキッチリと受け止めてならわしに従おうとするフィリスとともに、オムイの元へゆくのだ。
「オムイ様、このイザヤールとフィリス、ただいま戻りました」
そうして、天使界にある大きな広間にたどり着き、目の前にいる天使の老人の前で、イザヤールとフィリスはひざを突いて頭をさげる。
「おお、待っておったぞ。 イザヤールにフィリスよ」
「はっ………本日はフィリスに、私がかつて守護していた村の後任を任せるために、守護天使の役目の最終確認を行っていました。
今後は、貴方もおっしゃっていたように…ウォルロ村の守護天使はフィリスに任せるとよいでしょう」
「うむ、そうじゃな………フィリスは天性の素質があるとまことしやかにいわれておった。
今後が期待されるゆえ、正しい判断といえるじゃろう。
して、フィリスよ」
「はい」
オムイはフィリスに顔を向けると、彼女にこれからのことを告げる。
「早速、今日手にした星のオーラを、世界樹に捧げにいくとしようぞ」
「はい!」
そう言葉を交わし、オムイとイザヤールとフィリスは、この天使界でもっとも高いところにある世界樹の元へ向かうのだった。
「ふぅー、つっかれたぁ!」
ぼふん、と言う音を立てながらフィリスは、自分のベッドに思い切り体重をかけて寝ころぶ。
さっきまでフィリスは、世界樹へ向かい星のオーラを世界樹に捧げていたところだったのだ。 その星のオーラが宿り、世界樹はほのかに光っていた。
これで役目も終わり、イザヤールは明日にまた使命を果たすためにもこの後はゆっくり休めと言われたので、フィリスはその言葉に甘えて今、自分の部屋に戻り休息をとっていたのだ。
「にしても、あたしが初めて見たときより、世界樹は光っていたなぁ。 あれって、かなり星のオーラが集まってきたって言う…証拠だったりしてな……」
人々の感謝の心が形となったものである星のオーラを集めるために、天使たちは人々を助けている。
そして、その星のオーラを世界樹に捧げることで世界樹は力を取り戻していき、そこに女神の果実が実ったとき、天使たちは神の元へ向かうことができる。 その時に天使は、永遠の救いを得るのだという。
これが、フィリスが幼い頃から教えられていた、天使達の役目であり、伝承であるのだ。
「永遠の救い、かぁ……。 それっていったい、どんなものなんだ……?」
そこがフィリスには、自然と引っかかっているのだ。 おそらく天界の誰も知らないことだろう。 もしかしたら使命を果たしたときに、全部わかるのではないだろうか。
「フィリス、いる?」
「はーい」
そんな物思いに耽っていると、扉をノックする音が聞こえてきたので、フィリスは扉を開ける。 そこには一人の天使の女性がたっており、彼女を知っているフィリスは笑顔になる。
「あ、ラフェットさん! どーしたんですか?」
「ちょうどあなたが戻ってくるんじゃないかと思って…はいこれ。
あなたの大好きな、ホットココアよ」
「わぁ、ありがとうございますっ」
この天使の女性の名前はラフェット。 天使界での記録を整理し管理を行っている、司書の役割を持っている女性だ。 実はイザヤールとは旧知の仲であり、それ故にフィリスとの交流も深い。 フィリスにとっては姉のようなものであり、もう一人の師匠のようなものだ。
「活躍は聞いたわよ。 流石は、あのイザヤールが弟子にしたいと言って、面倒をみるようになっただけのことはあるわね」
「えっへへ」
彼女の師をつとめているイザヤールは、天界でも屈指の実力者であり、厳格な性格で知られている。 フィリスは詳しくは知らないものの、どうやら過去に何かがあったらしく、長いこと弟子をとろうとしなかったようだったらしい。 その中でイザヤールはフィリスの素質に心を動かされたことから、フィリスはすごい天使になるのだろうと周囲は期待している。
「にしても」
「えっ?」
「いくら天使……そして戦士としての素質が高くても……フィリスはもう年頃の女の子よね。 そろそろ、恋とかおしゃれとかの女の子の話題も楽しんでいいんじゃないかしら?」
「んがっ!」
ラフェットの言葉にたいし、フィリスは盛大にずっこけ、あわてて顔を上げて、赤面しながら否定する。
「そ、それは…あたしにはまだ早いし、縁もない話ですから、今はいいんですっ!」
「あら、そうなのかしら?」
「そうなのです! 今は、修行を続けるのみですから! さ、さて元気も戻ったし、ちょっとだけ剣の修行にいっくぞーっと!」
そう言ってフィリスは銅の剣を手にすると、その部屋を飛び出そうとしていた。 そのとき、丁度イザヤールが近くを通りがかっていた。 突然出てきた弟子に対し驚いている師匠にたいし、フィリスは口早に告げる。
「あ、すみません師匠!
私、自分で剣を鍛えたいので失礼しまーす!」
「あ、ああ……そうか」
「では!」
それだけを告げると、天使の鍛錬場に向かっていくフィリス。 なにがあったんだ、とイザヤールが首を傾げていると、クスクスと笑いながらラフェットが姿を現した。
「お前の仕業か……ラフェット。 フィリスになにをしたんだ?」
「ちょっとお話をしていただけよ」
そう笑いながら言うと、ラフェットはフィリスの姿を思い出しつつ彼女の話をする。
「ホントに、元気いっぱいな子だわ。 男の子みたいで、女の子っぽいところは、まるでなさそうだって思うくらいに」
「どうも、彼女自身がその方に興味は薄かったようだ。 だから私も、フィリスにあわせている」
「そういうことだったの」
ラフェットは内心、フィリスが今一つ女の子としての自覚に欠けているのはイザヤールに一因あるからではないのかと疑っていた。 だがその原因はイザヤールではなくフィリス自身の、生来の性格にあるようだ。
「にしても、貴方があの子の独り立ちをもう許すなんてね……」
「私は反対したんだ、だがオムイ様がフィリスはもう一人前だと言って……それでやむを得ず」
「もう、本当のことでしょう? 貴方は過保護がすぎるのよ」
「そういう問題ではない! 師として、弟子をじっくり育成し……見守るのは当然のことだ! お前も忘れたわけではないだろう……エルギオスの悲劇を!」
「イザヤール」
その名前を口に出したとたん、ラフェットは彼を咎めるようにして彼の名前を鋭く呼ぶ。 それによりイザヤールは我に返る。
「その名前は天界のタブーにしようって話、忘れた訳じゃないでしょう?」
「…………」
「まぁ、貴方が気にするのも無理はないことかもしれないけど……フィリスに気付かれないようにしなくてはダメよ」
「ああ……そうだな……」
そして、翌日。
この日フィリスは初めて、師匠であるイザヤールの元を離れて、一人でウォルロ村の守護天使としての努めを果たしていたのだ。
「よし、今日も頑張ったぞー!」
そう言いながら天使界に戻ってきたフィリスはんーっと、達成感に満ちたのびをする。
「ちょっと途中でむかつくヤツはいたけど……手を出すのはタブーだから我慢してやったんだぞ、感謝しろよなーあの信仰心ゼロのニートくせぇ野郎」
そう呟きつつ、フィリスは天使界を歩いていく。 その手に星のオーラをいっぱいに溜めながら。 これをみたらみんなはどんな顔をするのかなと少し胸を弾ませつつ、長老の間に足を踏み入れる。
「では、我々もそちらへ足を運んでみることにしようぞ」
「ハッ」
「あれ?」
だがそこには、先客としてイザヤールの姿があった。 なにやら真剣な話をしているのはわかっていたものの、フィリスは声をかける。
「オムイ様、イザヤール様!」
「ん? おお、フィリスではないか」
「たった今、戻ったところか?」
「はい、今まで守護天使の仕事をしていたところです! それで星のオーラをもらってきました!」
そう言ってフィリスは星のオーラを二人に見せる。 それを見たイザヤールは、自分の心配は杞憂だったと知ったらしい、フィリスによくやったなと声をかける。 オムイも、彼女の成果を見て笑顔を浮かべる。
「よくがんばったのう!」
「今すぐにそれを持って、我々とともに、世界樹へくるとよい!」
「は、はい!」
なにか急いでいる様子の二人に、若干の戸惑いを覚えながらもフィリスは言われたとおりに彼らについて行き、天使界のもっとも高いところに生えている巨大な樹木の元へ向かう。 その樹木は、光り輝いていた。
「みよ、ウォルロ村の守護天使フィリスよ……この輝く世界樹を……」
「おぉ……なんだか昨日までとは違いますね。 これはひょっとして……?」
「勘がいいのう。 そう、後少しでこの世界樹は星のオーラの恵みに満ち、女神の果実が実るだろうぞ」
オムイは、自分達天使の中で伝えられている、あの伝承を語り出す。
「……女神の果実が実るとき、神の国への道は開かれ、われら天使は永遠の救いを得る……」
「そしてその道を開き、われらをいざなうは天の箱船……」
それにイザヤールが続き、それがもうすぐだと言うのを知らせる。
「フィリス、今日そなたが集めた星のオーラを、今すぐに捧げにいくとよいだろう! 儂らの予測が正しければ、いよいよ世界樹が実を結ぶじゃろう!」
「えぇっ!? なんてナイス・タイミングなことに!?
そんでその大役をあたしがっ!?」
その大役を任されたことに対しフィリスは仰天し、ちらりと側で見守っているイザヤールの方を向く。 この大役を自分が引き受けていいのか、と。 戸惑うフィリスに対しイザヤールは口元に笑みを浮かべながら頷き、それをみたフィリスは顔をぱっと明るくさせ、世界樹の前にたつと星のオーラを高く掲げた。
「よし……じゃあ……。
………人々の感謝を形となした星のオーラよ! 今こそ世界樹に宿りて……女神の果実を実らせたまえ!」
「どこで覚えたその言葉」
イザヤールのつっこみを背後から聞きつつ、フィリスは星のオーラを捧げる。 すると星のオーラは世界樹の方へ向かい、宿り、世界樹はよりいっそう強い輝きを放つ。 そして樹にはやがて、7つの輝きを宿した。
「もしかして、これが?」
「ああ……間違いない。 今ここに宿ったのが女神の果実……そして今こちらに向かっているのが……天の箱船だ」
そう言ってこちらに向かって、金色の光を放つ乗り物がやってきた。
「わぁ……」
ついにこのときがきたんだ、と誰もが思ったそのときだった。
突如、真下から紫電の柱が出現し、それが天の箱船を貫き車両をバラバラにしてしまった。
「なに!?」
「いったいこれって……ひゃあ!?」
「フィリス……うわぁ!」
再び、紫電の柱が地上から生えてきて、それが天使界を大きく揺るがし、紫電がその地を遅う。
「え、えぇ!?」
嵐のように風は吹き、冷たい空気が頬をかすめる。
世界樹も大きく揺れて、木の葉と実ったばかりの黄金の果実が音を立てて激しく揺らぐ。
「うわぁぁぁっ!」
「きゃぁぁぁっ!」
天使達がパニックを起こしているのが、叫び声から伝わってくる。
オムイもイザヤールも、この衝撃に耐えるのが精一杯のようであり、その顔には困惑の色を浮かべている。
「な、なにが……起きているんじゃ!? 儂らは……騙されておったのか……!?」
「……くっ……! ……!!」
そこでイザヤールは、必死になって崖にしがみつき、落ちないように吹っ飛ばされないように耐えているフィリスに気付く。 あのままでは彼女の身が危ないと気付いたイザヤールは彼女の名を呼び手を伸ばす。
「フィリス!」
「師匠……!」
それに応えようとして、フィリスの方もイザヤールの方に手を伸ばす。 だがそのとき、天使界が再び大きく揺れ、その衝撃によりフィリスは手が離れてしまった。 爆風と閃光がその場に起こり、それによりフィリスは吹っ飛ばされ、宙にその身をなげうつことになってしまう。
「フィリスーーーーッ!!」
イザヤールの自分の名前を呼ぶ声にたいして、フィリスはなにも答えることができなくなっていった。
彼女の視界に最後にうつったものは、天から落ちていく7つの光と、自分の名を叫ぶ師匠の、必死な顔だった。
まずは序章をおとどけしましたが、いかがでしたでしょうか?
これからも少しずつのんびりと更新していきたいので、どうぞよろしくおねがいします。