そして、ちょっと今後の話の流れをよくするため、オリジナルな要素を入れさせていただきました。
いくら主人公とはいえ、フィリスのワンマンショーはよくないのでね。
ベクセリアの町を最終的に救い、星のオーラに町は満ちたらしい。 途中で悲しいことはあったものの、あの明るい町が戻ってきたので結果オーライということにする。
「天の箱船、今度こそ動くかねぇ?」
前回は自分が乗っても、ただ揺れるだけで終わった箱船のことを考えながら、その箱船のある峠の道へと向かうフィリス。 時刻は夜遅く、仲間たちは宿屋でまだ眠っている。 そのスキに抜け出して、彼女はサンディとともに天の箱船の様子を見に行ったのである。
「あれ?」
「あれって、幽霊じゃね?」
その峠の道で、フィリスはあるものを目撃した。 フード付きのマントをはおい、そのフードで顔の半分を隠した、幽霊の少女だった。 彼女のことが気になったフィリスは、その幽霊の少女に声をかける。
「あの…?」
「いない……あの人は、ここにもいない………」
「あっ………」
その少女は、すぅっと姿を消してしまった。 なにか呟いていた気がするものの、その真意を確かめることすらできなくなってしまった。
「消えちゃった………」
「ちょっと、なにあれー!? シカトしてくれちゃってむっかつくー! まぁいいや、今はそんなことよりも、天の箱船だしっ!」
「あ、うん」
あの少女のことが気にはなったが、少女のことに腹をたてたサンディに連れられて、フィリスは天の箱船に乗る。 するとその車体は大きく揺れた。
「おおっ、この箱船ちゃんの反応は…フィリスが天使だってよーやく認めたってカンジ?」
「ホントか!?」
「……いける、今度こそいけるわ! あとは起動スイッチおして操作パネルをチョイチョイといじれば、天の箱船は飛び上がるハズだヨッ! というわけで、出発しんこーうっ!」
「おーっ!」
若干適当な気はするものの、この天の箱船が動いて天使界へ行けるというのなら、これを利用しない手はない。 だからフィリスはサンディのテンションと勢いに乗る。
「じゃ、いっくよぉぉーー! ス・ス・ス! スウィッチ・オンヌ!!」
奇妙なかけ声とともにサンディはそのスイッチを強くおす。 すると天の箱船は大きな汽笛を鳴らして浮上し、天に向かって走り出した。 動いた、と感動するフィリスの横でサンディは、ガッツポーズを決める。
「おお、やるじゃんアタシ!」
「え?」
「いや、なんでもない! これくらいのこと、運転手なんだから当たり前だっつーの!」
「…」
サンディの一人漫才に対し、フィリスは黙ってしまう。
そうしてフィリスを乗せた天の箱船が天に昇っていく一方そのころ、天使界では。
「神よ………どうか………我々に救いの手を………」
天使界はあの衝撃によりところどころが傷つき、その世界にいる天使達も不安の色を露わにしていた。 その中でさらなる高い天へ向かって祈りを捧げているのが、天使達の長であるオムイだった。
「あれは………!?」
そんなとき、金色に輝く天の箱船が天使界に到着しようとしていた。 天の箱船が近づいてきたことに対し、天使達の顔に光が戻った。
「神が……我々の祈りを聞いてくだったのですか!?」
「天の箱船が、我々を救いにきてくださったのだ!」
その天の箱船は天使界に停まると、扉が開く。 その奥に人影が見えたことに気付いたオムイは、その人物に声をかける。
「む……誰かおるのか……?」
その声に答えるようにして、その人物は彼らの前に現れた。 まとめられた水色の髪に、赤い瞳の少女…フィリスだった。 その少女の顔を見たオムイは、戸惑いながら、少女のことを確認するように問いかける。
「な、なんと………お前は…まさか、フィリス………フィリスなのか………?」
「長老様……」
「本当にフィリス、なのじゃな?」
「はい」
オムイの言葉に対しフィリスは確かに頷いた。 声も顔も、その瞳に宿る光も、自分のよく知る天使だと知ったオムイは、戸惑いの色をその顔に宿したまま、彼女に近付く。
「どうして…天の箱船から……それにその姿は……!? 光輪も天使の翼もなくなっておるぞ!?」
やっぱりそこを驚かれてしまうのか、とフィリスは思わず苦笑する。
「あー……えっと、話は長くなるんですが………」
フィリスはあの事件が起きたときから今に至るまでの経緯をオムイに話した。 自分は落下のショックで翼も光輪も失い、それにより天使の力も失ったので普通の人のようになってしまったこと。 自分は人間の手により助けられ、傷をいやしていたこと。 手がかりを探してしばらく人間界を旅していたこと。 そして……あの邪悪な光は地上では大地震と呼ばれており、各地に異変をもたらしていたということ。
「そうか…あの時の邪悪な光は、天使界ばかりでなく…人間界までもをおそっていたのか」
「そのようです」
すべてを説明したあとで、フィリスは天使界の今の姿について逆にオムイに問いかけた。 オムイもまた、あれからなにがあったのかをフィリスに説明する。
「フィリスも覚えておるだろう……女神の果実が実ったあの日のことを…。 地上より放たれた、紫電をまといし邪悪な光が天使界を貫き、そして天の箱船もバラバラに散った。 それだけでなく、天使界もほとんどが崩壊し……この樹に宿っていた女神の果実すべてが、人間界へ落ちていってしまったようなのじゃ」
「あたしだけでなく、果実までもが………」
「………あのあと、地上に落ちてしまった天使や…邪悪な光の原因、そして果実や箱船を探しに……何人もの天使が地上に降りたのじゃが……」
「まさか、誰も戻っていないなんてことは………」
「残念じゃが、そのまさかなのじゃ………」
天使が数名、行方不明のままなのだと知ったフィリスは、呆然とした。 被害にあったのは自分だけじゃないんだと知ったからだ。 そんなフィリスに対しオムイは彼女の肩に手をおいて、暖かく笑う。
「皆のことは心配じゃが……なにはともあれ、お前だけでも無事に戻ってきてくれてよかった………。 生きていてくれるだけで、わしは嬉しいぞ」
「オムイ様……」
「よく帰ってきてくれたのぅ……フィリス……」
そう言って、自分の帰還を喜んでくれる存在がここにあるのだと、オムイの言葉を聞いて実感したフィリスは、泣きそうな顔になりながらも笑って頷いたのであった。
少し天使界を歩いてみるといい、というオムイの勧めにしたがい、フィリスはまず自分の部屋に向かった。
「懐かしいな、ここも」
「うわ、かなーり質素というか……地味なんですけど」
「シンプルって言え」
サンディの言葉に対しフィリスはむすっとしながら反論する。 彼女の部屋がシンプルなのは、当時の彼女はあまり装飾とかに興味がなかったためだ。 自分でも自覚はしていたものの、いざ指摘されると少しだけハラが立つ。
「さて、アンタは無事に帰れたわけだし。 じゃあアタシは野暮用があるんで、ちょっと失礼するわ! バーイ!」
「あ、サンディ……」
サンディはそれだけを言い残して、どこかへ行ってしまった。 本当に自己中だな、とフィリスが呆れていると、その部屋に一人の女性がはいってきた。
「フィリス!」
「ラフェットさん!」
それは、フィリスにとっては姉のような存在である、書記の天使ラフェットだった。 彼女はフィリスの顔を見ると、安堵の笑みを浮かべる。
「よかった…オムイ様からあなたの話を聞いて安心して、会いに来たのよ」
「はい、あたしは無事です!」
「ふふ、相変わらず元気がいいのね……」
本心からフィリスの無事を喜んでいるらしい、ラフェットはフィリスの返事を聞いて笑顔になる。 だがすぐに何かを思い出したように口を開いた。 ある人物のことを聞くために。
「ねぇ、イザヤールとは会わなかったの?」
「師匠…?」
その名前を聞いたフィリスは一瞬だけ無表情になり、すぐに我に返るとラフェットに問いかける。 そういえば、天使が何名か地上に降りたまま行方しれずになっているという話を聞いたのを、思い出したのだ。
「もしや…今、師匠はここにはいないのですか!?」
「ええ…実はイザヤールはあなたを探しに人間界に降りてから、ずっと帰ってないんだ……」
「!!」
師であるイザヤールが、自分のことを捜しているのだと知ったフィリスは、戸惑う。
「今も、師匠は……あたしを探している……?」
「…………」
イザヤールのことを考えてフィリスは不安の色を露わにした。 自分はここにいるのに、まだ地上に彼がいると知って落ち着けないのだろう。 その横でラフェットはなにかを思い詰めているような顔をしており、やがて意を決したように顔を上げてフィリスの名を呼ぶ。
「フィリス」
「はい?」
「実は、天使界ではタブーとされていることがあるのだけど……今、あなたには知っておいてほしいことがあるの。 イザヤールにも深い関係があるものだから………」
「?」
「私についてきて」
なんだろう、と思いながらもフィリス自身も気になることなのでラフェットについていく。 彼女についていったその先にあったのは、なにかの文章が刻まれている、一個の石碑だった。
「これは……」
「偉大なる天使、エルギオス。 その気高き魂と人間を愛する美しい心、我ら忘るることなし。 そして誓おう、神の国に帰れるそのときまでこの世界を見守っていくことを」
「エルギオス?」
石碑の文章をラフェットは読み上げ、そのまま石碑に刻まれた、エルギオスという名前についての説明をする。
「エルギオスっていうのは……かつて、そう、何百年も前にイザヤールの師匠だった天使……」
「師匠の、師匠!?」
「ある村の守護天使だったエルギオスは…人間達を守るために地上へ降り……そして、あるとき消息不明になった」
「………なにがあったんですか?」
「それは未だにわからない……。 知る術もないだから、私達はこうして祈るしかないの………」
そう、エルギオスについての話を終えたラフェットは、フィリスに引き続きイザヤールのことをはなす。
「イザヤールは、心配だったのよ。 フィリスまでエルギオスみたいに帰らないんじゃないか……って……。 たぶん今も、人間界のどこかであなたを探していると思うわ………」
「ラフェットさん………」
そんなイザヤールを、ラフェットは心配しているのだろう。 そんなことをフィリスが思っていると、ラフェットはそっとフィリスを抱きしめる。
「………そのあなたが戻ってきたこと……私は今…とっても嬉しいわ」
「………ありがとうございます」
それは自分の気持ちと言葉に嘘はないという、彼女なりの証明だ。 フィリスはそれを理解しており、受け止める。
#
ラフェットとも再会を果たし、ほかの天使達と会話をしながら、フィリスはあのときのことを振り返ろうと、ある場所へと向かった。 脳裏に、ある人物のことを思い浮かべながら。
「イザヤール師匠……会いたいな………」
時に厳しく、時に優しく、自分を導いてくれた師。 それはフィリスが今もなお尊敬する存在だった。 その大きな存在が、どこにもいないのは、やはり不安をあおることでしかない。
「世界樹………」
そうしてたどり着いたのは、かつて女神の果実が実っていたあの大樹だった。 あのとき自分が持ってきた星のオーラを受けて、世界樹は光に包まれ、それで女神の果実が実ったのだ。 そんな神秘の力を宿した世界樹を見上げて、フィリスは自分が天使に戻れないか、頼み込んでみようかと思ったのだ。
「もしかしたら、世界樹が助けてくれないかなー…なんて……」
さすがにそれはないか、とフィリスが苦笑したそのときだった。
「うっ……!」
フィリスを、強烈な頭痛がおそったのだ。 突如としておそった頭痛にたいし、フィリスはあらがう術もなかったようだ、そのまま意識を失い眠ってしまった。
「なん、だ………」
眠りに落ちた後、フィリスの意識は白い空間に落とされた。 自分の身になにが起きているのか、と考えていると、自分の中に声が響いてきた。
「よくぞ戻ってきました………守護天使、フィリスよ………」
穏やかな女性の声だった。 フィリスはなんとかしてその声の正体を確かめようとして、問いかける。
「だ、れ?」
「私はこの世界樹………」
「世界樹…?」
自らを世界樹だと名乗るその声は、話を続ける。
「翼と光輪をなくしてもなお…ここに戻ってこられるとは、これもまた運命なのかもしれません。 ……あなたにある運命に、私は願いを託したいと思います……」
「願い?」
「………再び地上へ戻るのです……。 ……天の箱船で人間界に向かい、散らばった女神の果実を集めるのです………。 ……そのための道しるべを作り、行く道を示しましょう………」
それと、と世界樹の声はフィリスにあるものについての話をする。
「目を覚ましたら、この世界樹から落ちる朝露を地上に持ち帰りください」
「朝露……それに、なにが?」
「私達にしかみえない天使や霊が、人にも見えるようになる、世界樹の朝露です。 あなたが信用している人間にそれを与えてください」
「信用している………人間………」
今フィリスの脳裏に現れているのは、仲間になった3人の人間の顔だった。 パーティーを結成してから、まだ短い時間しか経過していないが、それでも信じられる仲間たちの顔。
「………世界にちりし、7つの女神の果実を集めそして、人間達を世界を、救ってください………」
「あっ………」
世界樹のその言葉をフィリスが聞いた後でまた意識は遠くなっていき、フィリスが目を覚ますと、目の前にはあの世界樹がそびえ立っていた。 先ほどのが夢だとは思うが、ここで眠ってしまったことで見た夢であるのは、偶然ではなかったのだと悟る。
「………この世界樹が、呼びかけてくれたんだね………」
そう呟くと、世界樹からポタリと水が垂れ、フィリスの顔に当たる。 その水でフィリスは夢の中で聞いたことを思い出す。 この朝露を自分の信頼するものに与えろと言う言葉を。
「あ、わわわっ」
再び朝露が落ちてきたとき、フィリスは咄嗟に、かつてせいすいを入れていた瓶にその朝露を入れた。 そうしてポタポタと降ってくる朝露を必死に受け止めて瓶にそれなりの量を入れる。
「………そうだな、隠したままは、ダメだよな……」
仲間たちに自分のことを秘密にしておくままにしておくわけには行かないと、改めて感じたのであった。
「おお、フィリス!」
「オムイ様」
なんとか朝露を集め終えたあと、オムイの元にフィリスは向かった。
「……光輪も翼も戻る方法は、わしにもわからなかった……どうしたものじゃ……このままでは……」
「あの、オムイ様、実は……」
「うむ?」
フィリスは世界樹の元で見た夢のことを、彼にすべて話した。
「なるほどのう。 その預言の意味を込めた夢をみたら…もしかしたら、光輪も翼もないのは、悲劇ではなく特別な意味のあるものではないかと……フィリスは自分で思うのじゃな?」
「はい」
「フィリスが見た夢と、聞こえた言葉。 それはきっと神のお告げに違いなかろう…」
フィリスの話を聞いたオムイはうむ、と強く頷く。
「その聖なる声がお前に女神の果実を集めよ、というならば…わしはそれを信じよう! おまえがその姿になったことにも意味があると信じるなら、それも受け入れよう!」
「オムイ様」
「女神の果実には、世界樹の力が宿っておる。 女神の果実を集めれば、天使界も人間界も…救われるかもしれない……」
オムイは、フィリスがなにをしようとしているのかを、すべて受け入れた上で、改めて彼女に告げる。
「預言にしたがい行きなさい、フィリスよ。 人間界に落ちた女神の果実を集め、無事に天使界へ持ち帰るのだ! 頼んだぞ、守護天使フィリスよ!」
「はい!」
そのオムイの言葉に対しフィリスは力強くうなずき、地上に戻るために歩き出した。 その道中でフィリスは、ラフェットにも会う。
「いくのね、フィリス」
「ラフェットさん……」
フィリスは、ラフェットと正面で向かい合い、彼女にあることを頼む。
「もし師匠が戻ってきたら、あたしは大丈夫だと…使命を果たすために人と共に戦っているのだと…伝えてください!」
「ええ、約束するわ…いってらっしゃい!」
「いって参ります!」
そうラフェットにも笑顔で送り出されて、フィリスは天の箱船へと向かう。 その箱船に近付いたとき、フィリスはきょとんとして立ち止まる。
「あっ」
そこには、サンディの姿があったのだ。
「なーんであのオヤジいないかなぁ…。 ここまできたらフツー顔ぐらいみせるでしょ? もしかして箱船が落ちたときに人間界のどこかに落ちちゃったとか? ……もしそーなら、探すのチョーダルイんですけどー……あーでもテンチョーいないとバイト代もらえないしー」
「サンディ?」
「ぎゃっ!!」
なにかをボヤいている様子のサンディに、フィリスは声をかける。 そんなフィリスの行動に対しサンディは驚く。
「フィリス! いつの間に!」
「さっきからいるんだけど………」
「っていまはそんなのどーでもいっか、ちょっちワケあって人間界戻らなきゃならなかったしね」
「マジか、サンディも同じか」
「も、?」
サンディはフィリスの言ったことにたいし首を傾げると、フィリスは今後の目的について話した。
「……ふーん、つまりアンタは女神の果実さがし、アタシは人探しのために人間界を旅するわけね!」
「そういうこと!」
フィリスの今後の予定に対し納得したようであり、サンディは明るく笑い、元気に号令をかける。
「いいんじゃない、いいんじゃない! それじゃあ人間界へ行ってみよー!」
「おーっ!」
そう声を掛け合って、二人は天の箱船に乗り、地上へ戻った。 戻り先については、フィリスがある場所に降りてほしいとサンディに頼む。
「じゃあまずは、仲間のところへ戻らなきゃ」
「あーはいはい………でも、その旅の内容、説明できるの?」
「やってみるさ」
次回は、フィリスとその仲間達の話をお届けします。
今後も、仲間に焦点を当てる話を予定しています。