このオリジナル設定は、自分にとって本当に大事なものです。
地上に戻ってきたフィリスは、夜が明けないうちに急いで宿屋へ帰ろうとしていた。 彼らが泊まっている、セントシュタインの宿屋に。
「あっ……!」
「…………」
だが、その町の入り口で、フィリスはある人物に遭遇して立ち止まってしまう。 そこにいたのは、イアンだったのだ。 しかもそのイアンの眉が少しつり上がっているので、怒っているのがわかる。 そんなイアンに対しフィリスはぎこちなく笑いながらも問いかける。
「い……イアン……どうしたの?」
「それはこっちの台詞だぜ、フィリス。 こんな時間まで一人でなにやってたんだ?」
「………まさか、一晩あたしを探していたとか?」
「あったりめーだ、バカ。 夜にクルーヤが、お前が寝室にいないって言って慌てだして、オレ達の部屋まで押し掛けてきたんだぞ。 その上お前を捜すハメになって……おかげでオレは寝不足だ」
「………」
自分がいないわずかな時間の間に、そんなことがあっただなんて思わなかったフィリスは、イアンの話を聞いて苦笑する。 とりあえずイアンはフィリスに宿に戻るよう告げると、フィリスはそれにおとなしく従い、仲間の待つ宿屋へ戻ってきた。
「フィリスさん、見つけた!」
「わぁん、フィリス! どこいってたの、心配したんだよ!」
「あ、ああ…わりぃ」
セルフィスとクルーヤはフィリスのことを心配し、イアンと同じように彼女を捜していたそうだ。 そんな二人に対しフィリスは謝罪しているが、その後ろでイアンがフィリスを睨んでいた。 その視線には、フィリスは気付いている。
「えと…」
「さて、お前の正体をはなしてもらおうか?」
「………」
「いつまでも、言い逃れできるとは思うんじゃねーぞ…今度こそ、お前の話を聞くぜ」
イアンは頑なにとして動く気はないようだ。 このままイアンをどう誤魔化すべきか、この場から逃げ出せるかをフィリスは必死に考えるが、彼の性格や実力を既に知ってしまっているフィリスは、どれも通じないだろうという、あきらめのような感情を抱いた。
「そうだ」
どうしようか、とフィリスは考えていたが、やがて仲間に与えようとしていたあるものを思い出して、それを取り出す。 それは、世界樹の朝露だった。
「なんですかこれ?」
「せいすい……じゃねぇか。 ただのせいすいなら、ここで出すわけがねぇしな」
その瓶に入っている液体に興味を示している様子の3人に対し、フィリスは問いかける。
「それ飲んだらすべてがわかる、て言ったらどうする?」
「「「………………」」」
そのフィリスの言葉を聞いたイアン、セルフィス、クルーヤは、もう一度その瓶をみる。 すると、どこからともなくコップを取り出し、そこに瓶の中に入っていた世界樹の朝露を数滴ずつ入れる。
「え」
「「「せーのっ!!」」」
「ホントにのむんかい!!」
フィリスがつっこんだところで、その朝露を飲んだイアンがフィリスに真剣な顔で問いかける。
「じゃあ飲んだところで最初の質問、お前はどこにいってた?」
「………峠の道、だよ」
こんなことでいいのか、とフィリスはがっくりとうなだれるが、事情を説明しなければと言う謎の使命感におそわれたため、彼らを峠の道まで連れて行く。
「この金ぴかなもの、見える?」
「金ぴか?」
そう言われて、3人はフィリスの指先をみる。 その次の瞬間に3人は驚きの声をあげた。
「うぉぉ!?」
「きゃあ!?」
「おわぁ!?」
彼らの視線の先にあるのは、確かに金ぴかのものが置かれていたのだ。 それは天の箱船であり、それを初めて見た彼らはとにかく言葉を失っていた。
「なんだ、これ」
「天の箱船。 空を飛ぶ金色の乗り物だよ壊れてこの一部しか見つかってないんだけど………」
「え?」
「今みんながこれを見られるのは、さっきみんなが飲んだあの液体。 世界樹の朝露の力のおかげ。 それであんた達は、人には見えないものが見えるようになったんだ……」
「飲めばすべてわかるって、このことだったのか…」
フィリスは頷くと、さらに言葉を続ける。
「それから、あたしの正体なんだけど………。 驚かないで聞いてくれよ」
「正体?」
「……あたしは、人間じゃない」
フィリスは、イアンとセルフィスとクルーヤに、強くそう告げた。
「人間、じゃない?」
「ああ……これでも一応、あたしは天使として生まれて、天使として生きてきたんだ」
「天使って、まさか各地にいるという、守護天使のことなのか?」
「うん、そういうものだ」
守護天使のことを知らぬ人間など、この世界にはいない。 彼らもまた、その存在を知っている。
「守護天使様は、実在したのですね」
それを聞いたセルフィスは祈りの構えをとってから頭を下げた。 そんなセルフィスにたいしフィリスは苦笑しつつ、何故自分は天使でありながら人の姿になってしまっているのかを説明する。
「あの大地震、そして邪悪な光によって……あたし達のすんでいた天使界はおそわれて、その影響であたしは天使界から落とされて……そのせいであたしは、翼と光輪を失っちゃったんだ………」
あの時のことを思い出しているらしい、フィリスの顔には陰がさしていた。 いつも明るい顔しか見ていなかったイアン達は、そのフィリスの変化に気付くと同時に、彼女が体感したのが本人にとってどれほど不安なものだったかを知る。
「その後は、リッカに助けられて……重傷の状態からなんとか立ち上がったんだよ」
「ああ、だからお前はウォルロ村にいたんだな」
「あとはまぁ、リッカがセントシュタインに旅立つことになって……あたしもふるさとに……天使界に戻る手段を探すために、旅だったというわけ。 あとはイアンに出会って、そこからさらにセルフィス、クルーヤに出会った」
「…………」
「さ、あたしは全てを話したぜ」
全部正直に話せと言われたので、フィリスは自分のことを正直に話した。 例えこれで仲間にどのように思われても、事実なのだから仕方ない。 フィリスの正体を知ったイアン達は、ただ呆然としている。
「それでね、あたしはこれからまた、目的を見つて、これからも旅を続けることになったんだ…」
「目的?」
「ああ」
そして、続けてフィリスはこれから旅を続けるに当たって、その目的を彼らに告げた。
「女神の果実を探すために世界中を走る」
「女神の果実?」
「うん、女神の果実はあの事故でバラバラになってしまって……今この世界に…7個に散らばっちゃったみたいなんだ。 それを集めるのがあたしが天から受けた使命っていうのかな」
「そうなのですか……それはきっと、神託なのでしょう……」
セルフィスの言葉に対し、信仰心が強いんだなとフィリスはつぶやきつつも、イアン達に告げた。
「みんなが信じるも信じないも、みんなの好きにすればいいさ。 ただ、あたしはうそを言った気なんてない」
「それで、どうするつもりだ?」
「みんながあたしを可笑しいと、信じられないのならあたしを疎外したってかまわないよ。 パーティー解散したっていい」
「なっ…!?」
「あたしは…あんた達まで道ずれにする気はないよ」
それだけを言うと、フィリスはとりあえず一度宿屋に戻ろうかと皆に告げて、最初に歩き出す。
「あの、あなたは!」
「?」
「もし私達が、あなたとの旅をやめても……あなたは一人で旅を続けるの……?」
クルーヤの問いに対し、フィリスは迷いなく頷いた。
「あたしは、旅を続けるよ。 使命を果たしたいからな」
「………………」
「さ、もどろ」
そう仲間達に向かって、フィリスは笑いかけた。
セントシュタインの宿屋に戻った後、フィリスは一人でセントシュタインの町で次の旅に備えて準備したり、情報収集を行っていた。 その頃、イアンとセルフィスとクルーヤの3人は、自分たちが寝泊まりしていた部屋で、フィリスの話を思い出していた。
「はぁ、自分から聞き出しておいてなんだけど……なんつー話を聞いちまったんだか」
「まさか、思わなかったわ………フィリスが各地に伝わっている、あの守護天使そのものだったなんて…………」
「信仰の対象としていた存在が、そんな近くにいたことも………よもや、実在しているなど、想像もしていませんでしたね………」
この世界で守護天使にまつわる話もその存在も、知らないものはいない。 特にセルフィスは僧侶として神に仕える身であるため、まさかその存在が自分の間近にいて、自分達を直接助けてくれていたなど知らなかったのだ。 彼女には常に敬語で話し礼儀正しく接していたものの、それはあくまで彼の本来の性格だ。 自分はどこかで無礼を働いていないかと、セルフィスは不安を覚えていたが、大丈夫だというイアンの励ましを受けて前向きになる。
「フィリス……自分一人になっても、これからも旅は続けると言っていたわよね………」
「クルーヤさん?」
「これって、私達が一緒にいった方が…フィリスの助けになるんじゃ……」
「それはねぇだろうぜ」
クルーヤの言葉に対し、イアンはそう否定した。 え、とつぶやいて戸惑っていると、イアンは言葉を続ける。
「あいつは同情で同行することに、納得なんかしねぇだろ」
「…………」
「まぁ正直、俺はあいつが本物の守護天使だといわれても、すぐには信じられなかったけどな。 主に普段の立ち振る舞いが、そういう神聖さとかけ離れてるから」
「イアン」
ハッキリとそう言い切るイアンにたいし、クルーヤもセルフィスも苦い顔をする。 そんな二人のことなど気にもとめず、イアンは言葉を続ける。
「けど、あいつの戦いのセンスや、人助けをしたいという気持ち強い正義感は…絶対にウソなんかじゃねぇと思うぜ」
「えっ」
「あれはきっと、守護天使の使命とか運命というよりも…ずっと強いあいつの生来の性格だろうな。 そして、俺達も、これまでに出会った人達も、みんなフィリスに助けられている…」
そう言いながら、イアンは腕につけていたリストバンドをなおして、彼らに笑いかけながら言う。
「これまでのあいつの行動は、なにひとつ間違ってない。 だから、そこは信じても、問題はない……そうは思わないか?」
イアン達がそう話をしていたとき、フィリスは武器や防具、道具を一通り購入して準備を整えていた。 そのとき、サンディが彼女に話しかけてきた。
「仲間のコト、いいの?」
「なにが?」
「なにがって、決まってるじゃない。 今後の旅、ぶっちゃけな話…アンタ独りでなんとかできる問題じゃない気がするんですケド。 ここはせっかくパーティー組んだ仲だし、連れて行くのが賢明ってヤツなんじゃない?」
「…………」
サンディの言っていることは、ごもっともだ。 女神の果実探しの旅は、決して一筋縄ではいかないだろう。 仲間が多い方が頼もしいのは、フィリスにもわかってるのだが、それに他人を簡単に巻き込めないのも同時に理解してしまっている。
「でも強引に人を使うのも、あたしの筋にあわないっていうか…危険だから巻き込めないというか。 中々誘いにくいんだよね…」
「珍しく弱気じゃん? フィリスのキャラにあわなすぎってカンジ!」
「悪かったな。 第一まず、彼らはあたしの話なんて信じてないと思うんだよなー…」
フィリスがそう言った瞬間。
「アホ」
「あいた」
こつん、と頭になにかがあたった。 振り返るとそこには、イアンとセルフィスとクルーヤの姿があった。 ここに彼らの姿があったことにたいし、フィリスは驚いている。
「イアン……セルフィス……クルーヤ……」
「探したぜ、もう旅だったんじゃねーかと焦ったぞ」
「ホントよ」
「そうですよ」
「えっ?」
3人の言葉に対し、フィリスはきょとんとした。 そんなフィリスのリアクションをみて、3人は笑う。
「お前の正体はどんなものであっても、お前がやっていたことは…なんも間違いはないし…どうせ乗りかかった船だ。 こうなりゃ、徹底的につきあわなきゃ、絶対後悔するだろうと俺は思ったぜ」
「私も、あなたのことはやっぱり心配よ……ただの同情と思われても仕方ないかもしれない…。 でも、私があなたを放っておけないのは本当だから……力になりたいと思ったから……なんと言われようとも、その気持ちのままに、あなたを助けるわ」
「僕もベクセリアの一件をとおして決めたこと……各地で苦しんでいる人達の助けになりたいということを…思い出したのです。 僕の願いを聞いて……あなたは迷わず手を伸ばしてくれた。 だから、僕はあなたについていきたいのです」
3人はそれぞれの思いを伝え、そして代表してイアンが前にでてフィリスに告げる。
「だから、俺達はこのままお前について行くぜ。 お前のこれからの旅についていって、使命とやらを果たそうじゃねぇか」
「………」
まさか、それぞれが自分の意志で旅についてきてくれるなんて思っていなかったフィリスは目を丸くした。 そして、少しだけ目を潤ませながら笑う。
「あっはは……あんたら、かなりのお人好しだ」
「そうじゃなきゃ、それ以上のお人好しになんか、ついていけねぇだろ?」
「確かにな」
「ついに、形になろうとしているのね…わたし達のパーティーが!」
「ふふっ」
そう、4人が盛り上がっていたときだった。
「アタシを忘れちゃダメなんですけどー!」
「きゃ!?」
「あっ」
そこでサンディが飛び出してきて、フィリスはサンディの存在を思い出す。 そのサンディに対し3人が驚いたとき、フィリスはあることに気付く。
「え、誰…これ…?」
「って、みんな、サンディが見えるの?」
「……ああ……」
「これも、あの世界樹の朝露の力なんだな…」
朝露の力おそるべし、とフィリスは思い、苦笑しながらもサンディを彼らに紹介する。 その際サンディはフィリスと初めて会ったときのように自らを天の箱船の運転手である、謎の乙女と紹介したのだが、それにたいしてイアン達はポカンとした。 とりあえずそれぞれで自己紹介も済み、改めて旅立ちの決意を固める。
「じゃあ、レッツゴー!」
「おーっ!」
そうして彼らは真の意味で、一つのパーティーとなったのであった。
次回は、ダーマ神殿編をお届けします。
編、といっても一話で終わりますが(笑)