彼らの旅がここから本格的なものになります。
自分の正体、今の異変、そしてこれからの旅の目的。 フィリスはそれらをすべて、イアンとセルフィスとクルーヤに話した。 世界樹の朝露のおかげで彼らは天使や幽霊、そして天の箱船を見ることができるようになり、それに大きく関われるようになった。 そして、彼らはフィリスの言葉を信じて、ともに進むことを決めてくれた。 フィリスもまた、そんな彼らの気持ちを信じて、彼らとともに旅をすることを決めた。
「そんで、この天の箱船に乗って次の目的地に向かうのはいいけどよ。 これでどこまで行くんだ…?」
「んー、あ、あの青い木になんか止まれるっぽい?」
「青い木?」
操作しながらサンディは、ある方を指さす。 サンディの指さした方向にあったのは、確かにほのかに青い光を放つ大きな木があった。
「あ、あれってダーマ神殿ってやつじゃないの?」
「ダーマ神殿?」
「ダーマ神殿…聞いたことがあります…」
初めて聞く地名にたいしフィリスは首を傾げるが、セルフィスは反応し、彼女がその場所のことを知らないと悟ったのか、説明をはじめた。
「そのダーマ神殿では、転職を行えるのです」
「転職?」
「はい、人々には生来の素質があり、その素質を生かした職で生きたり、魔物と戦ったりするのですが…このダーマ神殿で転職を行うことによって、また別の素質を開花させ、新しい職につけるようになるのです…」
「職……」
「例えば、僕は今は回復や補助を得意とする僧侶ですが……転職をすればうってかわって、武器で戦える戦士になれたりするのですよ……」
セルフィスの説明を聞いて、フィリスはへぇと声を漏らして納得した。 一応ではあるが、ダーマ神殿でなにができるのか、転職とはなんなのかを理解したようだ。 話を聞いたフィリスは、自分も転職をしてみようかと思う。
「あたし、いっそのこと戦士あたりにでもなってみようかな…?」
「ああ、旅芸人という割には芸をまったくやらねぇからな、お前……」
「ほっとけ」
イアンの的確な指摘にたいしフィリスは頬を膨らませる。 だが、彼の言っていることが間違っていないのも事実であるので、こうなればさっさと戦士にでもなってスッキリしてやると決めつつ、青い木の元におり、天の箱船を下りて、そのダーマ神殿に向かった。 ダーマ神殿は、空の上から見るよりずっと大きな神殿であり、どこかおこがましい雰囲気が漂っている。
「わぁ!」
「近くで見ると大きいな…!」
「そうですね」
「とりあえず、入ってみようよ」
彼らはそう言葉を交わして、ダーマ神殿の中に入っていく。
「おい! いったいどうなってんだ!!?」
「ん?」
その直後、彼らの耳に怒声が入ってきた。 奥の方を見ると、一人の男性が多くの人々に取り囲まれ、困っているようだった。
「オレ達は苦労しながらここまできたんだぞ!? なのに転職ができないなんて、なにが起きているんだ!」
「わしは老体にムチウって、そうまでしてここにきたのはメイドになるためなんじゃ!! わしはメイドになりたいんじゃ!!」
「あ、うぁ……」
その様子を見た彼らはポカンと口を開けてしまった。
「何か…もめ事でも起きているみたいだな?」
「ああ…」
彼らが周囲を調べるにつれ、少しだけ事情がわかった。 先ほどの男性と多くの人の関係性も。 あの男性はいわば、ダーマ神殿の大神官の補佐を勤めている大臣のようなものであり、彼に群がっていた人々は、このダーマ神殿で転職するために来たようだ。 だが、今はある理由で転職ができない状態らしい。
「大神官様が不在…」
今ダーマ神殿で転職ができない理由が、大神官の不在。 それなら大神官が帰ってくるまで待っていればいいのではないかと思うのだが、どうも最近の大神官は様子がおかしいらしい。 そして、フィリス達が特に気になったのは、この神殿に来ていた人から聞いた話だった。
「ここに黄金に光る果実が届けられたって、あの人がいってましたよね…」
「ああ」
「もしかしたら、大臣様なら何か知ってるかもしれないわ…」
黄金色の果実、という単語を聞いたフィリスは、それがもしかしたら女神の果実かもしれないとおもい、その行方が気になっていたのである。 その情報を知っていそうな人物をおっていったら、大臣にたどりついた。
「黄金色の…果実…?」
その単語を聞いた大臣は少し考え事をした後で、ああ、と思い出したように口を開いた。
「そういえば……大神官様がそのような果実を転職にきたものから受け取っていた気がするな…」
大神官は果物に目がないという話を聞いていたから、転職させてもらったお礼にそれを手渡したのだという。 その果実のことならキッチンにいるシェフが知っているだろうと大臣は言ったので、4人はキッチンへ向かいその果実のことを訪ねる。 だが。
「その果実ならこの間、大神官様が持ってきましたよ。 あのお方は果物が大好物ですから…。 それで、昼食のデザートにそれを食べるから皮をむいてくれと頼まれたので、その指示通りに食後にお出ししましたよ…」
「えぇ!?」
その果実がどうなったのかを知ったフィリス達は驚愕の声を出した。 探していた果実はすでに食べられてしまったのだから。 その話を聞いた仲間達は焦る。
「お、おい食べちゃったみてーだぞ? いいのか?」
「だ、大丈夫なのかしら?」
「………」
まさか目的のもの、それもとても大事なものが食べられてしまっていたことにたいし、フィリスは声にならない衝撃を受けているようだった。 そこでサンディは少し考えた後で、フィリスに声をかける。
「んー、とにかくさっきの大臣といわれた神官に果実のことを話して、大神官を追っかけた方がいいんじゃない?」
「はぁ……それしかないか……」
今ここでショックを受けてうなだれていても仕方ない、と言わんばかりにフィリスは自分を奮い立たせ、ため息をつきながらも大臣の元へ戻り、大神官の行方を追うことにする。
「それならば、ダーマの塔へ行き、礼拝を行うと仰っていたぞ……」
「ダーマの塔?」
「うむ、歴代の大神官はあの塔で祈りを捧げることで、転職のために必要な力を授かるのだ。 ただ……」
「ただ……?」
「その塔は近年、魔物が溢れかえっていてな…簡単には近づけなくなっておる。 私も今回、大神官様をお止めしたのだが……今の自分には転職のために大いなる力が必要なのだ、と言って聞いてくれなかったのだ……」
「…………」
そこまで力を求めることなのか、と4人の中に疑問と、大神官にたいする疑惑が生まれる。 いずれにせよ大神官にあってみなければ分からないことなのだろう、と皆が思い決意する。
「大臣様、僕達がダーマの塔へ赴き、大神官様とお話ししてみます」
「……そうだな。 私からもお願いしたい、大神官様をここに無事に、連れ戻してくれ…」
「おまかせください!」
大臣の許可を得た彼らは、早速そのダーマの塔へ向かう体制に入る。
「っと、そうだ、待ってくれ!」
「え?」
そのとき、大臣は思いだしたように彼らを呼び止める。 なにがあったのかと4人は思い、大臣の話に耳を傾ける。
「どうかしたんですか?」
「ああ……実は、ダーマの神殿の入り口には、鍵がかかっておるのだ……」
「鍵?」
「まぁ、そりゃそうだろうな。 んで、その鍵は大臣様が持ってるんですかい?」
「いや、私は鍵はもってない…ただ、あける方法を知っているだけなのだ」
「方法?」
そんな特別な方法が必要なのか、とフィリスが首を傾げると、大臣は彼らにその方法を教えるのであった。
「あける方法を教えるぞ」
「は、はい」
「メラッ!」
「バギッ!」
大臣から、ダーマの塔に入る方法を教えてもらったフィリス達は、早速その塔へと向かい、それを実行した。 すると、彼らはすんなりとその塔の中にはいることができた。 今も、この塔に住み着いてしまったという魔物を相手に戦っていたところである。
「ふぅ…」
今も、自分達に襲いかかってきたさまようよろいやひとつめピエロの混合部隊を倒したところだ。 フィリスは自分が負ったダメージを自分のホイミで癒しつつ、剣を鞘に戻して周囲を確認する。 そんな中、セルフィスは仲間達のダメージを回復させつつ、この塔に入ったときのことを思い出す。
「それにしても…礼が扉を開ける方法とは、神聖なダーマらしいですね」
「礼儀を重んじるなんて、素敵だと思うわ」
「オレは…背中がかゆくなりそうだぜ……」
「あたしも…こういう畏まったの苦手……」
「おい天使」
セルフィスとクルーヤは礼儀作法に対しとくに抵抗がないのにたいし、イアンとフィリスは苦手意識を抱いているようだ。 だからだろうか、魔物との戦いでは双方ともに生き生きとしていて、余裕で前線に立っては魔物をうちはらう。
「でも…そんな塔が今、魔物の巣窟になっているのは、正直嘆かわしく思います」
「まぁ、だろうな…おまけに高くて道のりが長いし」
この塔に入ってから、まるで日にちの感覚でも狂うのではないかと主割れられるほどの時間が経過していた。 実は塔に入ってから階段や道を探したり、道中で襲ってくる魔物を相手にしたりして、かなり疲弊もたまっている。 しかし、彼らがどれほどの苦労をしても、大神官の姿はどこにもないのである。
「だけど、そろそろ屋外である、最上階じゃないかしら?」
「え、どうしてわかるの?」
「外から見たとき、この塔は七階まであるように見えたの。 おまけに上から光も指しているし、私達は今は7階にいる。 ここまで計算していたからなんとなくわかるわ……」
「へぇ、そうやって計算できるのは羨ましいぜ……」
そう話をしつつ、上へ上る階段を発見した彼らは迷わずその階段へ向かい上っていく。 するとそこに風が吹き、周囲は青空で太陽が近く感じる。
「…ホントに…最上階だ……」
「あ、なんかえらそーなじーさんを発見したぜ!」
「い、イアンさん……!」
イアンの言った先にはたしかに老人がいたが、ダーマ神殿のシンボルマークをあしらった高貴なローブを身にまとっていること、そしてここにいるということから、セルフィスはまさかと思いイアンの頭を強くたたいた。
「いでっ!? なにするんだよセルフィス!?」
「イアンさん、言葉を選んでください…! きっとあの人が、ダーマ神殿の大神官様ですよ!!」
「え、マジ?」
「マジです!」
セルフィスの言うとおり、彼が本当に大神官だというのであれば、話を聞かなければならない。 そう思いフィリス達が大神官に声をかけようとするのだが、当の大神官は彼女達に気づいていないらしく、なにかをぶつぶつとつぶやいている。 やや、声が大きいが。
「わしは力を手に入れたのじゃ……この力があれば、わしは人々をよりよき道へ導くことができる………。 わしはダーマの大神官として人々のため、ここで祈りさらなる力を手に入れるのじゃ…!」
「あれ、アタシらの存在に気づいてないっぽくね?」
「すべての職業を知り…すべての職業を司る…大いなる力よ! 今こそ我に力を! 我に人々を導く力を与えたまえーーーいっ!!!」
「うわぁ!?」
大神官のその声に呼応したのだろうか。 天から紫電をまとった光の柱が降りてきて、そのまま大神官に刺さり、包み込んだ。
「うぉおおおお……!!?」
「な、なになになに…!?」
「こ、このままじゃ…あの大神官様、やばいわよっ!!」
「…クッ!」
全員、大神官の元へいこうとはするのだが、その光による力の余波が強すぎて、近づけない。 そうしている間に大神官の体は紫電と、闇のオーラに包まれていき、その体はみるみるうちにシルエットから姿を変えていくのが、煙越しに伝わってくる。
「クッ……ククク……。 そうか、この力で……人間どもを支配すればよいということなのか………」
「え」
その煙の中から、なにかの声が聞こえてきた。 そして、煙が徐々にはれていき、そこには一体の人型の魔物が姿を現す。 魔物はにたりと笑みを浮かべる。
「我はこれより……魔神ジャダーマを名乗り、人間どもを絶対の恐怖で支配することを…ここに誓おう!」
「えぇぇ!?」
「なんでそーなんの!?」
その驚愕の声を聞いたことで、ジャダーマはフィリス達に気付く。
「ふむ……人間か……ちょうどいい」
「あ、これやばいパターンじゃん」
「貴様相手にこの力を試してくれよう! さぁ恐怖におびえる姿を、我に見せるがよい!!」
そういいながらジャダーマは両腕に付いた刃を振り回してフィリスに襲いかかる。 それをフィリスは咄嗟に構えた盾で受け止め、そこから剣を振るって弾き飛ばす。
「お生憎様! あたしらはそんな惨めな姿を見られるのが大嫌いでね! 返り討ちにしてやるよ!」
「右に同じく!」
「ならば、我がこの手で…その惨めな姿にしてくれよう!!」
そう声を上げながら、ジャダーマは再び彼女達に襲いかかってきた。
まずはイアンが相手につっこみ回し蹴りからの拳攻撃を食らわせる。 それをジャダーマは自らにスカラの魔法をかけて防御力をあげることで耐え抜き、フィリス達全員にたいしバギを放ってきた。
「このくらい、なんとでもないっ!!」
そう言ってフィリスはジャダーマにたいしミラクルソードという剣技を放つ。 それによりジャダーマにダメージを与えつつも相手の体力を吸収し自分の体力を回復させる。
「クルーヤ!」
「ええ!」
直後にフィリスはクルーヤに呼びかけ、クルーヤもフィリスに対しうなずき返す。 そんな彼女達にジャダーマは直接攻撃を仕掛けようとしたが、それをセルフィスの槍が妨げイアンが棍の一撃で吹っ飛ばす。 それでタイミングがいいと見計らった2人は、同時に同じ攻撃魔法を放つ。
「「ヒャダルコッ!!」」
それは氷の刃を広範囲に放つ攻撃魔法、ヒャダルコだった。 二人は旅の途中で偶然にも同じ魔法を覚えたので、この同時攻撃をいつかは繰り出してみたいとはなしていたのだ。 それを、今実行したのである。
「グゥゥ………オノレェッ……!」
そのダメージを受けたジャダーマは怒りで目つきを鋭くさせ、近くにいたイアンに突撃し、攻撃を食らわせた後でバギマを放ってふっとばす。
「うわぁぁぁっ!!」
「イアン!」
その攻撃をまともに受けたイアンは塔から落ちそうになるが、なんとかしがみついて耐える。 そんな状態になっているイアンにジャダーマは追撃をしてそのまま落とそうとするが、そこにセルフィスが槍を振るいジャダーマを妨害する。 相手の注意がセルフィスに向いている隙にイアンは這い上がり、クルーヤもそれを助けつつジャダーマに向かってメラを放つ。
「ぬぉぉぉお!」
「ここだぁぁーーー!」
ジャダーマが体についた火を払うのに必死になっているところで、フィリスがつっこんできて、彼女の剣によってジャダーマは大きく切り裂かれた。
「ウガァァアア!!」
「どうだ!?」
フィリスによって現れた切り傷からは、邪悪な力が徐々にあふれ出てきており、ジャダーマは断末魔をあげ続ける。
「オオオオ………我の力が……! 力が…消えていく…!」
邪悪な力が勢いよくジャダーマの切り傷から噴出されていった後、ジャダーマの体は今度は白い光に包まれ、そこから大神官が姿を現す。
「うう……わしは……ここでなにを…? ………そなたは何者だ? なぜここにいる?」
「大神官様、正気に戻られたのですね…?」
「……正気……? そういえば、先ほどまでなにをしていたのか……」
戸惑う大神官に、フィリス達は事情を説明した。 フィリス達の話を聞き、大神官は光る果実の話題になった途端に発端を思い出す。
「そうじゃった! …わしは光る果実を食べて、そのあとは……よく覚えておらん。 覚えているのは、自分が自分でなくなっていく恐怖だけじゃ…」
「……そのことなのですが………」
少々、言いにくくはあるものの、フィリス達はそのまま大神官に先ほどのことをはなす。
「なんと……わしは魔物の姿になり、世界を支配しようとしていたじゃと?」
「はい、そうやって人々を恐怖で圧していけばいいのだと……あなたは思いこんでいたようです」
「わしは……確かに…人々をよりよい道へと導くための力を求めていた。 あの果実はその力を与えてくれたかもしれないが、わしはその力に溺れてしまった……」
「…………」
「あれは…人が食べてはいけないものだったのやもしれん…。 そなたらが止めてくれなければ、わしは世界を滅ぼしていたかもしれん……」
自分がしようとしていたことに恐怖し、反省しているようだ。 そんな大神官にたいしフィリスはあなたは悪くないと言って励まし、セルフィスが彼には神殿に帰るように促す。
「帰りましょう、大神官様……。 転職を新たな未来を求めている人々が、貴方を待っています……」
「うむ…そなたらには、感謝しておる……」
そう言って大神官は歩きだし、それに護衛するような形でセルフィス、イアン、クルーヤは同行した。 フィリスとサンディもその後に続こうとしていたのだが、ふと背後に気配を感じて振り返る。
「あっ……」
そこに光があったと思えば、その光の中から一個の果物があらわれた。 それが樹に実る瞬間を目の当たりにしたフィリスは、それがなにかに気づき、驚く。
「女神の…果実!」
「ええ、どゆこと!? 大神官のおっさんに食べられちゃったはずなんですケド!?」
「ホントに、どういうことだ……?」
なぜ食べられてしまったはずの女神の果実がここに現れたのか、フィリスにもサンディにもわからない。 それに、果実を口にした大神官の変貌ぶりも。
「と、とりあえず…回収……っと………」
わけはわからないままではあるが、目的のためにこれは見捨てたままにしておけないと思ったフィリスはその果実を拾い上げる。 そんな果実を見つめて、サンディは思ったことをそのまま口にした。
「……それにしても……人間が果実を食べると、ロクなことにならないねぇ」
「…うん」
まさか、女神の果実がこんなに恐ろしい力を持っていたなんて思っていなかったフィリスは、手の中にあるそれを見つめていた。
次回はこのまま次の場所にいきます。
このまま更新を続けていけたらいいのになぁ。