欲深い人間て、ただの微生物よね
ツォの浜で起きている異変に大きく関わっている少女・オリガが村長により洞窟の奥へつれさらわれたと知ったフィリス達は、オリガを救出するために洞窟へと立ち入った。
「せあぁーーっ!!」
洞窟には多くの魔物が生息していた。 集団で現れ集団で攻撃を仕掛けてくるぐんたいガニや、巨体でミサイルを放ってくるガマキャノン、自分達を麻痺させてこようとるしびれくらげ。 どれも強敵だ。
「ふっ!」
だが、それらは全てフィリスが倒しまくっていた。 先程もガマキャノンがキャノンを放つ前に素早くその懐に飛び込んで、剣で大きくその体を切り裂き倒し、さらにその陰から飛びかかってきたキメラも同じように倒したところである。 そんな彼女の戦いぶりをみたイアン達は、ダーマで転職を行ったのは正解だったと知る。
「戦士になってからというものの、フィリス最前線で大活躍だな」
「ああ、体が思うように動いている気がする!」
どうやらフィリス自身も、転職してから魔物と戦うにつれて実感しているようだ。 自分は戦いに専念できる職にある方が自分にはずっと向いているようだ。
「にしても、村長さん達はこんな洞窟をよく進めましたね…」
「おおかた、魔物が生息していない場所を見つけて進みながら、場合によっちゃ、衛兵やせいすいを使ったんだろうよ」
セルフィスは愛用の槍を構えながら周囲を警戒しつつ、戦うすべを持っていなさそうな彼らのことを気にしていた。 それにたいしイアンは一般人が魔物を避けつつ道を進む方法を解説する。
「ん、立て札…?」
そうして洞窟の中を進んでいたフィリス達は、その先にある立て札に気がつく。 そこに書かれた文章を、サンディは読み上げた。
「なになに……? この先、ツォの浜の村長のプライベートビーチ…関係者以外立ち入り禁止……」
「はぁあ~~?」
「いいトシしてなにやってんだ、あのおっさん」
「つっこむところ、そこなんですか?」
この先に村長個人のための海辺があるのだと知り、それにたいしフィリス達は微妙な気持ちになった。 そのとき、クルーヤが放った一言で我に返ることができた。
「今、オリガちゃん……怖い思いをしていないかしら」
「…後少しだろうし、急ごう」
「ああ」
「はい」
フィリス達がオリガの心配をしている頃、当のオリガ本人は村長に連れられて洞窟の最奥部にいた。 そこは、大きな空洞ができておりそこからは青い海が見える。
「どうだ、綺麗な場所だろう? ここならお前も落ち着いて話ができると思ってな…」
「…………」
そう穏やかな声と態度、そして景色を見せられても、オリガの心は晴れなかった。 意を決して自分の思いを伝えたにも関わらず、村長に強引にここに連れられたのだから、無理もないだろう。 ちょうどそのタイミングで、フィリスたちは2人を発見した。
「いたっ…!」
「なにをしてんだ…?」
フィリス達は村長達に気付かれないように、岩陰に隠れてしばらく様子を見る。 彼女たちが見ているとは知らず、村長はオリガに告げる。
「…もう、なにもいわなくていいんだ、オリガ」
「………」
「お前はこのところ、祈ってばかりで疲れてしまったんだな…。 うんうん。 仕方がない……浜でお祈りするのは…もうやめよう」
「…村長さま…」
「村人にはワシらから言っておいてやろう。 ぬしさまをお呼びするお前の力は消えた…とな」
「!」
その言葉を聞いたとき、オリガの顔は一気に明るくなった。 自分の話と気持ちを村長が理解してくれたのだと思ったのだ。
「あれ?」
「ん?」
「どうなっているの?」
その様子を岩の陰からみていたフィリス達も、拍子抜けだと思った。 自分達の心配は杞憂だったのかと思ったのだ。
「それでだな、オリガよ」
だが、オリガの希望も、フィリス達の安堵も、次の瞬間に一瞬で砕かれる。 村長の言葉によって。
「これからお祈りは……この岩場でこっそりとしようじゃないか」
「えっ?」
「海の底にはサンゴや真珠、沈んだ船の財宝もあるだろう? お前ならばそれをぬしさまに持ってきてもらうことも、できるのではないか?」
その言葉を聞いたとたん、オリガやフィリス達の表情が凍りついた。 誰も、この状況に追いつくことができない。 オリガはその言葉の意味を理解できず、震えて彼と距離を置こうとする。
「…財……宝……? 村長さま……いったいなにを、おっしゃるんですか……?」
「おお…オリガよ、そう怯えるでないぞ。 本当に、たまにでいいのだ。 お前が気が向いたらでいい……。 それを行ってくれれば、ワシらは豊かで幸せに暮らすことができるからな」
「あいつ……!」
そこでフィリス達は気付いた。 村長の目は完全に欲におぼれ、くらんでしまっているのだと。 自分達が裕福になるためにオリガの能力を独占して利用しようともくろんでいるのだと。
「ゆ、豊かで……幸せ……?」
「そうだ、約束しよう。 だから…もう帰ってこない父親を待ち続けるのはやめなさい、これからはワシが……お前の父親なのだからな」
そう言って村長はオリガの腕を掴もうとしたが、オリガはそれを振り払い逃げる。 それでも村長はオリガを掴もうとしていたので、オリガは今までより強い口調と声で激しく村長を拒絶する。
「やめて、違う!! あなたは……あたしのお父さんなんかじゃない! あたしのお父さんは、世界にたった一人だものっ!!」
そうオリガが叫んだ瞬間、大きな水しぶきをあげながらぬしさまが姿を現した。
「ぬし、さま……!」
「おお…ぬしさま、よくぞいらっしゃいました!」
ぬしさまの登場にオリガは驚き、村長はにやりと笑って汗をかきながらそう言って、オリガをぬしさまの前に突き出す。
「きゃ!」
「ほら、早く祈りなさい! ぬしさまに財宝を持ってきてもらうんだ!!
さぁ祈れ、ワシの…ワシらのために!!」
「やめろっ!」
そう叫び、村長とオリガを引き離そうとフィリス達が飛び込んできた瞬間だった。 ぬしさまがオリガに飛びかかってきたのだ。
「あ、オリガッ!?」
そのままぬしさまは、オリガを口の中にいれてしまったのだ。 目の前で起きた惨劇、とよぶしかない現場に対しフィリス達は戸惑う。
「た、食べられちゃった!?」
「な、なにが起こってるのよこれ!? なんでオリガが…ぬしさまの口にポイされなきゃならないワケ!?」
「ああ、襲われるのが村長ならまだわかるけど、全然わっかんないぜ!!」
そう言って混乱しているフィリス達をぬしさまはにらみつけており、尾で海面を強くたたいてフィリス達に水しぶきをかけてくる。
「おそってくるようだぞ!!」
「やるしかないのか!」
「出来れば……海の神様と呼ばれる存在に手を挙げるまねはしたくはありませんが……やむを得ませんね!」
「いくわよっ! そして、助けましょう! オリガちゃんを!」
何故こうなってしまうのかはわからないままではあるものの、フィリス達はオリガを救出するためにぬしさまと戦うことになった。 完全にフィリスらを敵とみているぬしさまは、その大きな鰭を振り回して攻撃を仕掛けてくる。 そのダメージはセルフィスが予めかけていたスカラの魔法により軽減され、それを耐えたフィリスがミラクルソードで攻撃を仕掛ける。
「せぁ!!」
「ハッ」
ミラクルソードに続いて、セルフィスが槍をふるって攻撃を繰り出す。 その後ろでクルーヤは仲間全員にピオリムをかけたあとで、ヒャダルコの魔法を放ってダメージを与える。
「うぎゃあああ!!」
「…ッチ!」
途中で、ぬしさまがその尾を振り回す攻撃を繰り出し、4人はそれをスカラで耐えるが、背後にいた村長は岩に囲まれて悲鳴を上げた。 そんな村長に対しぬしさまは攻撃をしようとしていたが、イアンが舌打ちしながらも彼を救出したので、村長は一命を取り留める。
「あ……あああ……」
「てめぇはあとで、おもっきししばくからな!」
そうイアンは村長を強くにらみつける。 その目つきは思った以上に鋭く、それに村長はさらにおびえた。 一緒にいた衛兵も、そのイアンの目を見て、まるで不良だと呟き恐れおののいている。
「ふっ!」
そんな衛兵の呟きは、イアンには聞こえていなかった。 そうしている間にもぬしさまの猛攻は続いているからだ。
「きゃあああーーっ!」
「クルーヤッ」
ぬしさまの放った水流に、フィリスとイアンとセルフィスは耐えることができたが、クルーヤはそれに飲まれて岩にたたきつけられた。
「だ……大丈夫! 私はまだいけるわっ!」
なんとか立ち上がりつつ、クルーヤは仲間たちにそう告げる。 すぐにセルフィスは全員に回復魔法をかけ、そしてイアンがぬしさまに一気に接近する。
「ぬぉぉぉおお!!」
「グォッ!」
そして、拳による一撃を食らわせて、ぬしさまを唸らせる。 イアンの拳によるその一撃が決まったのか、ぬしさまのからだは地に落ち、口の中からオリガが現れたので、フィリスは彼女を引っ張り出す。
「………あ……」
「オリガ、大丈夫か!」
「は、はい……あたしは大丈夫です……!」
口の中にいたオリガは、特別怪我はしていないようだった。 その様子から、ぬしさまはオリガを口の中にいれこそはしたが、食べようとはしていなかったことがわかる。 そんなオリガを心配する前で、起きあがったぬしさまが再びフィリス達に襲いかかろうとしていた。
「やめて、ぬしさま! この人達に、手を出さないで!」
オリガはぬしさまを止めようとして、フィリス達の前にでる。 するとそんなオリガの姿をみたぬしさまはピタリと動きを止めて、オリガに語りかける。
「…オリガ……その者らは、村長の手下ではないのか………?」
「え?」
「! その、声は」
ぬしさまから聞こえてくる声にたいし、オリガが何かに気づくと、ぬしさまの中から一人の男性が現れた。 半透明で青い光をまとった、男性が浮かび上がる。
「幽霊?」
「おとうさん……なの? お父さん!」
「えぇ!?」
その幽霊はなんと、オリガの父親だった。
「旅人よ………申し訳ないことをした。 怒りで私は我を忘れ、どうかしていたようだ。 そしてオリガ。 つらい思いをさせて……すまなかった………」
「…なにが、あったんですか?」
フィリスにそう問われ、オリガの父は思い出を辿るように語り始めた。 自分が何故ぬしさまとして、ここにいるのか自分の記憶にある限りのことすべてを。 漁に出た自分はある日の晩のこと、突然の嵐に巻き込まれ、そのときに海に投げ出されたことから、すべてを。
「そうして海に投げ出された私の元に、黄金の果実が降ってきたのだ…」
「黄金の果実!?」
「……海の中で……自分はもう助からないと悟り………薄れゆく意識の中、それを手にしたときに……私は浜に一人残したオリガのことだけを想い、考えていた。 まだ小さいお前が……これからどう生きていくのかと………」
黄金の果実は自分を包み込んだ、そしてそのまま意識は途絶えたがすぐにその意識は戻った。 自分でもわかるはずの、死の感覚。 それが消えたのである。
「そして、あの時私は確かに死んだ。 だが次に目を覚ましたとき、私はこの姿となって……よみがえっていたのだよ……」
そこで皆は気付く。 今までオリガが祈るたびにぬしさまがあらわれ、多くの魚を渡していた理由が。 その正体が、父親であることを知ったから、その理由にたどり着いたのだ。
「じゃあ、オリガちゃんが祈るたびに現れて、魚を持ってきたのは……」
「そう……私はオリガが生きていくために魚を届けていたのだ………。 だがいつしか……お前の元に、人々が群がるようになっていたんだ!」
そう言って、すべての元凶であろう村長をにらみつける。 すると村長は情けない声をあげながら、おびえてすくみ上がっていた。 そんな村長の姿を見た父は、目を伏せ首を横に振る。
「……ずっと黙って見ていたが………もう、ここまでだな………」
父は、オリガに手を伸ばした。
「行こう、オリガ。こんな村は捨てて……遠くへ行こう。 これからもずっと……私がお前の面倒を見てやる………そばにいる………だから、なにも心配はいらない」
「お父さん……」
それは、娘を思う父の愛故の言葉だ。 その思いをしったオリガは父をじっとみていたが、やがて首を横に振った。
「だめだよ、そんな………そんなのは……よくない」
「オリガ?」
「あたし…浜で漁を手伝うよ。 自分でちゃんと働くの。 お父さんの仕事ずっと見てきたもの…全部覚えてるもの…」
彼女は祈るように胸にそっと手を当てて、言葉を続ける。
「あたしはお父さんの娘。 村一番の漁師の娘。 あたしはひとりでやっていけるように、ならなくちゃ……」
「……オ………オリガ………」
娘の言葉に戸惑う父。
「オリガー!」
そんなとき、幼い声がおくから聞こえてきた。 そのまま待っていると、奥から声の主である少年、トトが駆け寄ってきた。
「トト、どうしてここに……!?」
「トトくん!」
「大丈夫、ケガはない!? ごめんね、パパがとんでもないことを……。 任せてはいたんだけど、どうしても心配になって、いてもたってもいられなかったから、ついてきたんだ……!」
「そうだったの……」
「うん、だから……無事でよかった………」
そうトトはオリガの身が大丈夫だと気付いて安心すると、今度はぬしさまの方を見て彼に告げる。
「ぬしさま………ううん、オリガのパパなんだよね? ボク約束するよ! 大きくなって……オリガのことはボクが守るだから、安心してよ! パパのことも、もう強欲にならないように、見張っておくから!!」
「おお」
「お父さん、ぬしさまになって…これまで助けてくれたんだね………ありがとう。 でも、もう大丈夫だよ。 あたしはひとりじゃないもの…」
トトに続いて、オリガも父にそう告げる。 そんな娘の姿を見た父は、その顔に穏やかな笑みを浮かべていた。
「オリガ………いつまでも子供と思っていたが、お前は私の思うよりずっと…大人になっていたのだな……」
オリガの父がそう言うと、オリガの父の体からぽつぽつと光が浮かび上がっていった。
「あ、光が………」
それがなにを示しているのか、フィリスにはすぐに気づいた。 彼は、未練をはらして成仏しようとしていたのだ。
「私のしていたことは、すべてよけいなことだったようだ。…… オリガ……私はお前の言葉を信じよう。 自分の力で生きる…お前を見守り続けよう………」
「お父さん………あたしはずっと、お父さんを愛してるからね」
「私もだ、オリガ……。 お前を愛してる。 私はいつも、お前のそばに………」
そう言い残し、微笑みながら、父はそのまま消えた。 この光景は、黒騎士のときと同じだ。 イアンは、フィリスになにかを確認するように問いかける。
「なぁ……今のって………」
「うん、あの人はオリガのことが心残りだった……。 あの子を残すことが未練だった。 それが晴れて……成仏したんだよ………」
「……………」
フィリスのその言葉を聞いて、セルフィスはピクリと反応した。 そんな彼らの前に、金色に光るものが舞い降りてきて、フィリスはそれを両手で受け止める。 すると、その金色の光は女神の果実となった。
「女神の果実だ!」
「やったねっ!」
フィリス達は、2個目の女神の果実を手に入れることに、成功したのであった。
次回でまた別の場所に移ります。
その間、ちょっとした小話をお届けします。