新しい場所へのワクワクを書けたらいいな。
ぬしさま事件にも終止符がうたれ、村の人々にもオリガのぬしさまを呼ぶ能力が消えてなくなったという話も広まっていった、翌日のこと。 フィリス達はもう一晩オリガの家で休ませてもらい、明日には船を出すとのことだったので、それに乗せてもらうことになったので、港に向かう。
「あ、目が覚めたんだね、おはよう」
「おはよ、トト」
そのとき彼女達が出会ったのは、村長の息子である少年トトだった。
「みんなのことを助けてくれて、ホントにありがとう。 旅人さんはホントに強いんだね」
「はは、それほどでもないさ」
「そいえば、村長は?」
トトの言葉を受け取りつつ、村の村長のことをきくと、トトはやや落ち込んだ様子になりながら、父である村長の現状を彼らに伝える。
「ずっとあのまま、うなされてるよ…」
「あー…」
「ぬしさまに遭遇して、睨まれたのが…よっぽどショックだったのね…」
「……」
オリガのぬしさまを呼ぶ力に気付き、それにより欲におぼれ、己の得としようとしていた村長。 その強欲さを、ぬしさまに見破られ、その報いとして恐怖を植え付けられた。 そのショックにより、今も寝込んでいるそうだ。 当人や息子であるトトには若干失礼ではあるものの、そのくだりについてはまぁ、自業自得のようなものだということにしておく。 決して口には出さないが。
「……みなさん」
「ん?」
そのとき、トトはまるで意を決したように彼らに告げる。
「ボクね、がんばって大人になるよ……そんでボク、旅人さんみたいに強くなる」
「…え?」
「オリガのことを守るんだ、ひとりぼっちになんかさせないよ。 ぬしさま……オリガのパパさんにも、約束したもんね」
そういって、向こうで網を手にしているオリガを見つめるトト。 その目には強い光が宿っている。
「みんな、オリガは強い子だって言ってるけど………でもやっぱり、女の子だもん。 だから、ボクはあの子を守れるように強くなるよ、みなさんみたいに!」
「おう、その心意気なら大丈夫だな! 頑張れよ!」
「うん!」
そうして強くなると言う約束をかわしたあと、フィリス達はトトと共にオリガの元へ向かう。
「オリガー!」
「あ、トト……それにみなさん!」
彼らがきたことに気付いたオリガは、笑顔を浮かべて彼らに今回の件についてのお礼を言う。
「あの…本当にありがとうございました。 あれから、村のみんなにもうぬしさまは呼べないってこと、お話しました。 どうなることかと思ったけど………みんな、わかってくれました」
「そっか……なら、よかった」
そう話をしていると、オリガはふと、寂しそうな顔をした。
「どうかした?」
「……お父さんがぬしさまだったなんて………この目で見たことなのに、なんだか夢でも見ていたみたい……」
「…………」
「あのとき、ホントはぬしさまになったお父さんでもいいから、もっと一緒にいられたらって………そう考えちゃった………」
「……そっか、まぁ無理もないさ。 キミは間違ってないよ」
そう言ってくれるフィリスに対し、オリガはありがとうございますと返しつつ首を横に振る。
「でも、あんなのよくない。 お父さんがかわいそうだもの……」
「オリガ…」
「あたしはずっと、お父さんが大好きですし、お父さんもあたしをずっと好きでいてくれるって、信じます。 その気持ちだけで、十分すぎるんです」
そう語るオリガの目は輝いており、そしてフィリスたちに自分の今後を告げる。
「浜ではまた漁を始めることになって……あたしも、今は網の片づけ方から勉強しているんです。 今はこれしかさせてもらえないけど……いつかは船に乗せてもらうことになっているんです。 だから、あたし……がんばります!」
「大丈夫?」
「平気です、だってお父さんもお母さんも見守ってくれるし、村のみんなもいる。 それにトトだっていてくれるもの…一人じゃないから、怖いものなんてないです!」
「………そうか……」
もうこの村も、そしてオリガも、自分達が心配するようなことはない。 絶対に大丈夫だろう。 フィリスたちがそう確信した頃、次の港へ行く船の準備ができたことを告げられる。
「船の準備ができたぜ!」
「あ、もういけるみたい」
「じゃあ、あたし達いくね」
「はい、お元気で!」
「またきてね!」
そう言葉を交わし、フィリス達はツォの浜をあとにしたのであった。
「うーん、潮風が気持ちいいわね!」
「ああ……空も海も青くて…とてもきれいだな」
「マジでイカすってかんじ!」
海を渡る船の上で、潮風を楽しみながらフィリス達は、既に見えなくなったあの村のことを考えていた。
「大丈夫なのかね、あの村?」
「心配ねーさ。 元は屈強な漁師の村だ、カンタンにブランク感じてへにょるわけがねーだろ」
「うふふ、それもそうね」
そう、イアンとクルーヤとはなすフィリス。 次の目的地である南東の大陸、その船着き場まではまだ時間があるということで、各々でしばしの休息を楽しんでいた。
「……あれ、セルフィスは?」
「そいや、姿みないね?」
そこでフィリスは、この場にセルフィスの姿がないことに気がつき、彼を捜す。 そして、船内の休憩室で、彼を発見した。
「セルフィス、ここにいたんだ」
「…………あ、フィリスさん」
そのとき、セルフィスの声にどこか元気がなく、さらに表情もどこか思い詰めているかのような顔色になっていたのに、フィリスは気がつく。 そんなセルフィスにたいしフィリスはもしや、と思い声をかけて彼の様子を確かめる。
「どうかした? まさか、船酔いか…?」
「………いえ、あの時現れていた……オリガちゃんのお父上のことを、考えていました……」
「そうなのか…」
とりあえず船酔いではないようだ、とフィリスが安堵した次の瞬間。 セルフィスは神妙な顔つきで、彼女に問いかける。
「フィリスさん……」
「ん?」
「あなたには、その………姉上が亡くなったあと、姉上が幽霊として現れていて………その姿を見ることができていたんですか………?」
「…………」
セルフィスの問い。 それは、ベクセリアの町の出来事のこと。 彼はその町で起きた事件が原因で、実の姉を失っているのだ。 その後のフィリスの言動を考えれば、もしかしたらフィリスには、亡き姉の姿が見えていたのではないかと、セルフィスは思ったのだ。
「……ああ」
「!」
「天使は、亡くなった人の魂を見ることができる。 それは、亡くなった人達を成仏させるために……導くため……未練を晴らしてあげるためだ。 そうすることで感謝され、それによりあたしらが受け取れる星のオーラも大きいし、なくなった人も無事に生まれ変わることができるようになる………」
「あのときの姉上の未練は………やはり、義兄上のことなのでしょうか……」
「……そう……だな………最後まで、ルーフィンさんと、あの町のことをきにしていた」
「はは……姉上らしいですね……」
やはり、あのときフィリスにはエリザの姿が見えていたのだと知ったセルフィスは納得したように笑った。 自分は夢で見たと思っていたのだが、あれは本当に姉だったのだと知ったのだ。 そして、彼女が成仏したことも、その未練がなんだったのかを、フィリスの言葉を通して知った。
「それと、エリザさんは消える前………最期に、あんたのことをあたしに託してきたよ。 あんたとこれからも、仲間でいてやってほしい……って………」
「姉上……」
それをきき、セルフィスは少しうつむいたが、やがてその口元に穏やかな笑みを浮かべて、そして顔を上げた。 その笑顔は、安堵している気持ちがあふれ出ているものだった。
「ありがとうございます、フィリスさん。 僕……さらに心が軽くなった気がします……」
「……あんたの故郷のみんなが望んでいるような、一人前になれるように……ならなきゃな」
「はい!」
そう言葉を交わして、フィリスと分かれたセルフィスは、ぽつりとつぶやいた。
「これからも、僕は幽霊をみることで……彼らの助けになるんだな……。 これも、フィリスさんのおかげで……」
セルフィスの様子を確かめることができて安心したフィリスは一度外にでて、そこで何かの紙をみているクルーヤの姿を発見した。
「クルーヤ、なにしてんの?」
「あ、フィリス」
フィリスが近づいてきたことに気付いたクルーヤは、パッと明るい笑顔を見せて、その手に持っていた紙をフィリスに見せる。
「今ね、海図を貰ったところなんだ」
「海図?」
「ええ、たくさんあるし一枚やるよ、と言われたの」
そう言いながらクルーヤは海図に描かれている、ある島を指さす。 そこにはグビアナ、と書かれている。
「グビアナ?」
「ええ、ここは砂漠に囲まれた国なの。 実は私、このグビアナって国からきたのよ」
「へぇー! ここがクルーヤの故郷なんだ!」
クルーヤは自分の故郷を海図の中にみつけ、それで故郷を思い出していたようだ。 そうして、彼女の口から直接、グビアナについてのいろんな話を聞いた。 その話をしているときの彼女の様子は、とても楽しそうなものだった。 そこで、クルーヤはフィリスにあることをお願いする。
「あのね、フィリス!」
「ん?」
「もしこの旅先で、船を手に入れたら…是非一緒にいってほしいの。 いいかしら?」
「それは全然、あたしはオッケーだぜ。 とにかく色んな場所を旅した方がいいし、なによりクルーヤの故郷はあたしも気になるしな。 あたしも、行ってみたい」
「わぁ、嬉しい! もしここにきたら、私がみんなを案内するね!」
「ああ、楽しみだな!」
そうして、もし自由に海を渡れるのであれば、もしその国に行くことができるのであれば、絶対にグビアナへいこうと約束するのであった。
「イアンとセルフィスも、同意してくれるかしら」
「絶対にOKって言ってくれると思う。 つーか、言わす」
「それはどうなのヨ…」
そんなやりとりをしながら、フィリスは甲板で一人海を眺めているイアンを発見した。 そんなイアンにフィリスは迷わず声をかける。
「イアン!」
「……フィリスか」
フィリスに声をかけられたことに気づいたイアンは、ゆっくりと振り返り、フィリスの顔を見て笑みを浮かべる。
「ここにいたんだな、まったくこんな小さな漁船なのに、みんな自由すぎるな」
「そうか?」
「そうだよ」
フィリスはイアンを自由人だというのを肯定したあと、イアンはフィリスに一気に顔を
「オレに言わせれば、お前のほうが割と自由な印象があるけどな」
「え、あたしが?」
「おう」
唐突にそう言われてしまい、フィリスは戸惑う。
「……しらばっくれても無駄だぜ。 お前、オレ達に自分の秘密とか正体を隠している間……こっそり抜け出していただろ」
「………」
「いや、それだけじゃない。 何かに気付いてふらりと出かけたり、何かに対して真剣に思い詰めていた。 あれって……お前個人の事情が関係していたんだろ。 だから、オレ達になにも言わなかったし、隠し通そうともしていた」
イアンは面倒見の良さゆえに、仲間達のことをちゃんと見ていた。 この旅の間にも、フィリスの体にできた傷のことや、セルフィスやクルーヤの魔力のこと、その場の状況など、細かいことに気づいていた。 だからだろう、フィリスがなにかを隠していることにも気付いていたし、その真意を自ら確かめようともしていた。
「………ごめん、あたしも、そういうのあまり好きじゃないし……隠すことは本意じゃなかったんだけど……でも……」
「……わかってる。 あんな事実……中々打ち明けづらいよな」
フィリスは各地で伝わる、守護天使の一人だった。 信仰心が強くその伝承を多く残しているにも関わらず、その姿は目にすることができない存在。 それはほとんどの人は姿が見えないからといって半信半疑になるものも多い。 自分から天使だと名乗られたら、その人物が疑わしくなるのは当然のこと。 フィリスだって、人の姿に本意からなったわけでもないのだ。 そんな話、簡単に他人にできるものではない。
「真相を知った今、オレもむやみに聞き出そうとしたことが……悪かったと思っている。 すまなかったな」
「イアン…」
彼はあくまで、フィリスを仲間として気にしていたからこそ、彼女の秘密を探ろうとしていたのだ。 だが、それが必ずしもいいことではない。 ただの自分のエゴではないかと、イアンは思い詰めていたのだ。
「そんなことはないさ。 あたしも……女神の果実の使命を言い渡されたときに、あんた達にはこのことを伝えなきゃいけない………いや、いつかは話さなきゃいけないって覚悟していたんだ。 たとえ、引かれるような結果になったとしても………」
「……フィリス……」
「でも、みんなはあたしを受け入れてくれた。 みんな、あたしの旅に力を貸してくれると言ってくれた。 あたしは、それがうれしかったんだ。 だから、イアンのしていたことも……したことも、間違ってるなんて少しも思ってないぜ。 だから、気にすんな!」
そう言ってフィリスはイアンを励ます。 そこにあるのは、ただ純粋に相手を、仲間を信じるというまっすぐな好意。
「そうだな……」
それを聞いて、受け取ったイアンは静かにほほえみ、ぽつりとつぶやく。
「他人に中々言えないような、そんな隠し事なんて……誰にでもあるというのに、な」
「え?」
その呟きは波の音にかき消され、よくは聞こえなかった。 ただ、イアンが何かをつぶやいていたことはわかった。 どういう意味なのかをフィリスが問いかけようとした、そのときだった。
「おーい!」
「あっ、着いたみたいですね」
「フィリスー! イアンー! 船がついたみたいよーーー!」
「ああ、今いく!」
ちょうどいいタイミングで、船が新大陸の船着き場に到着したようだ。 自分達を呼ぶセルフィスやクルーヤの声が聞こえてきたので、イアンはさっさとそちらへ向かっていった。
「あとちょっとだったんだけどなぁ……ま、しゃーねっ!」
フィリスはイアンがなにを呟いたのかは知らないままだが、いつかはわかるよな、と開き直るかのように、仲間達に続いて船を下りた。 その瞬間が、新しい大陸を冒険するという最初の一歩である。
「よし、新大陸を冒険していくぞ!」
「「「おーっ!!」」」
そうして、4人はかけ声を行ったのであった。
ここからまた、新しい冒険が始まる、そのための狼煙をあげんとばかりに。
次回はカラコタ橋へ一気に飛びます。