ここのエピソードも、心に残るものがありましたね。
カラコタ橋で、光る果実の噂をきいたフィリス一行は、その果実を持っているらしい老人を訪ねて、ビタリ山を訪れていた。
「あのデュリオっていう盗賊がいうには、この山にすんでるラボオってじいさんが、果実を受け取ったそうじゃないか」
「その真相を確かめるためにも、登っていくしかありませんね」
「ああ、いこう」
4人はそう声を掛け合い、そのビタリ山に足を踏み入れた。 洞窟の中は思ったより陰湿ではなく、自然の姿がそのまま残っていた。 地面から生えている雑草は外のものと少しも変わらず、緑色のコケはさわってみればふわふわとしているし、途中で発見した湧き水も、透明ですんでいて冷たくて、飲んでみると飲みやすくて美味しい。
「ハァッ!」
だが、そんなところでも洞窟であり、人が立ち入らない場所である以上は魔物が生息している。 その魔物達とフィリス達は当然、戦っていったのだが、そこに生息する魔物の種類について、セルフィスはある事に気がついた。
「なんか、石で出来たモンスターが多いですね…」
そのセルフィスの言葉を肯定するかのように、一体のスマイルロックが現れてセルフィスに攻撃を仕掛けてきた。
「セルフィス!」
「くっ…この!!」
セルフィスはそのスマイルロックを盾を使い受け止めると、片手に持っていた槍を振り回して、スライムロックを突き飛ばす。 そして、相手が立ち上がった直後にもう一撃を食らわせて、倒した。
「ふぅ……なんとか倒せましたね」
「ホントにセルフィスって、見かけによらず力があるよね」
「え、そうでしょうか……」
どうやら自覚はないようだ、セルフィスは首を傾げる。 そんなことがありながらも彼らはビタリ山を上っていく。 その途中で彼らは、ある吊り橋にさしかかった。
「わぁ!」
そこから見る景色は非常にすばらしく、また空気も澄んでいるため、彼らはしばしそれに見とれ、全身で風を感じていた。
「この吊り橋、見晴らしがいいわね!」
「そうだなー!」
「状況が状況でなければ、ゆっくりしたかったですね」
「ああ」
今は先を急がねば、と彼らは気を持ち直し、再び歩き出す。 するとその先で見つけた小さな洞窟の中に、誰かが生活できるようなスペースを発見した。 そして、その空間にぽつんと置いてあるテーブルの上には分厚いノートもとい、日記帳が置いてあった。
「日記?」
「なになに………って、これ、ラボオって名前が書いてある……!」
「ラボオ?!」
その日記は、自分達が探している老人のものだとしった彼らはまじまじとその日記を読む。 そして、その老人の生涯を知る。 彼には恋人がいたが、自分には一流の彫刻家になりたいという夢があった。 どちらをとるべきか迷った末に、彼は彫刻を極めることを選んだ。 恋人には数年の修行の後に帰ると、約束していた。
「でも、その修行を続けるうちに時間を忘れてしまい、約束の日数を超えてしまったのね………」
「そして、故郷に帰ったときには、その恋人は別の人と結ばれてしまっていた…………」
「だから、彼はこの地に戻って、また石の彫刻を作り続けて………そして…………」
仲間達はその日記を読んで、最後のページには、ラボオの遺言が刻まれているのを知った。
「じゃあ、もうラボオっておじいさんはいないのね………」
「みたいだね……」
「…………」
日記を閉じ、フィリス達は山の頂上に続く道を見つめる。 あそこに、彼が最期に残した作品が存在するのだ。 それは、しっかりとみておかなくてはならない気がした。
「行ってみようよ」
フィリスの言葉にたいし全員は頷き、彼女を筆頭にその道を歩いて、最期の作品がある場所に足を踏み入れた。
「え、ここ………」
そして、たどり着いた先にあったものに、彼らは言葉を失う。
「エラフィタ村そっくりだ…!」
彼らがここに到着して言葉を失った理由は、ふたつある。
ひとつは、その村は、すべてが石でできていたこと。
そして、もうひとつは、その村はかつて訪れた村エラフィタ村によく似ているという事だった。
エラフィタ村にそっくりなその石の町を、フィリス達はみてまわる。
「どういうことなのかな………」
「昔読んだ物語の中に、灰色の雨に打たれ石となってしまった人々のいる町……というのがありましたが、ここはすべて元から石で出来ているのですね……」
「今さらりと言ってたけど、割と怖い物語だなそりゃ」
町の中を歩く人々は、表情までしっかりと描かれており、木々も家も、細かい家具までも、全てが石でできている。
「これって、全部彫刻みたいね…」
「じゃあ、これが、ラボオってじーさんの最後の作品って…やつなのか……?」
「………すごい……ですね………」
その規模の大きさや、クオリティの高さにたいし彼らはただ、感心するしかなかった。 あの村エラフィタ村を故郷とし、当時の思い出をすべて刻んだこの石の村。 そんな村の道を歩いていたとき。
「プルプル……だあれ?」
「誰だ?」
突如声が聞こえたので、逆にフィリスが問いかけると、物陰から声の主である青い体の小さなモンスター・スライムが現れた。
「スライム?」
「ひとだ………どうして…ここにきたの?」
「?」
「敵意は、なさそうだな………しゃべってるし」
「そうですね…」
とりあえずそのスライムは、他の魔物とは違うようだ。 敵意がないなら戦う必要はないと判断し、フィリス達は武器を手に取ることなくスライムに声をかける。
「あんたこそ、なんでここにいるんだ? ここで、なにをしてる?」
「このいしのまちをね、みていたんだ…ラボオじいさんののこした、このまちを……」
「え、ラボオじいさんを知ってるのか?」
「うん」
スライムは、町全体を見ながら話を続ける。
「ラボオじいさんは、ずっとここでひとりで、ちょうこくをほってたんだ。なんねんも………なんじゅうねんもかけて………このまちをかんせいさせて、じいさんはしんじゃったの………」
「そうだったの……」
やはり、ラボオという老人は亡くなってしまっていたようだ。 それは、この山を登る道中で見つけた日記をみて、察したことなので何も驚くことはない。 そんなとき、スライムはふと、あることを思い出してそのことを語る。
「あのね、ラボオじいさんはね、さいごにカラコタでかった、とてもきれいなかじつをたべたんだ…。 じいさんね、たったいちどのぜいたくさ………って、いってたんだよ」
「贅沢………最後の晩餐があの果実ってことかよ………」
本来の目的であった女神の果実の情報が、スライムの口から出てきた。 しかしそれは食べられているし、しかも食べた人は亡くなっている。 どうすればいいのだと思っていると、スライムは引き続きラボオのことを語り続ける。
「それでね、このまちはじぶんのすべてだって。 だからどうやったらいつまでものこせるのだろうかって………なやんでた……」
「………そっか……まぁ、そうだよな………」
こんな石の町、無くなるのは勿体ない。 本人が丹誠を込めて作り上げた作品だというのなら、そしてそこに強い思い入れがあるというのなら、なおさらだ。 この町が永遠に残ることが願いだと言ったとしても、それはなにも可笑しいことではないだろう。 そんなことを考えていると、スライムの目の色が少し恐怖に染まった。
「でも………あれから………」
「あれから?」
スライムが何かを語ろうとしたとき、地響きがした。
「うわ、なんだ………!?」
4人ともバランスを崩しそうになるが何とか持ちこたえ、地響きの原因を探る。
「き、きた…!!」
「え!?」
「あれからなんだか、こわいおとが、どこからかきこえるんだ!!」
そう言ってスライムは石の壁の方に隠れ、身を縮こませながらふるえた。
「怯えてますね……」
「この音の原因を、探ろう!」
フィリスの言葉にイアン達は頷き、走り出した。 そして、その地響きの原因はすぐに姿を現す。
「ワッ!?」
「だれだ?」
そこにいたのは、鋭い口や牙、爪、そして翼に尾を持つ魔物だった。 その魔物もまた、全身が石でできており、赤い目を光らせながらフィリス達をにらみつける。
「そ、それはこっちの台詞だ……!!」
「我は番人、この石の町を守る番人なり。 お前は、ラボオ、ではないな
………ならば」
「な、なんだよ!?」
その石の番人を名乗る魔物は、尾を振り回しフィリス達を攻撃してきた。 フィリス達はその攻撃を間一髪で回避したが、相手の敵意はそれでは消えない。
「なっ……」
「この地を荒らすお前を、許しはせぬ!!」
「ちょ、勝手にきめるなっ!!」
石の番人との、戦闘が開始された。
「スクルト!」
セルフィスは相手の攻撃から仲間達を守るために、守護の魔法であるスクルトを全員にかける。 そしてクルーヤもまた、相手にルカニの魔法をかけて攻撃を通りやすくした後でヒャダルコの魔法を放って攻撃する。
「はっ!」
相手がヒャダルコの氷に閉じこめられている間に、フィリスは切りかかった。 だがその剣の一撃は相手の表面に傷を付けただけで終わり、大したダメージにはならなかった。
「くぅ……堅いな!」
「ルカニをかけても、大したダメージにならないなんて………!」
やはり体が石で出来ているだけあって、防御力が高いようだ。 その堅い体から繰り出される攻撃は、フィリスたちに大きなダメージを与えていく。
「ぐっ!」
その攻撃は盾で防いだものの、次に繰り出した相手の地響きによりフィリス達は体制を崩してしまい、爪の攻撃を受けてしまう。 そのダメージはすぐにホイミで回復してもらうが、まだ決定打は与えられていない。
「こいつっ!」
そこでイアンは棍を振り回しながら石の番人に攻撃を繰り出す。 だが。
「しまった………」
「イアンの棍がっ!」
そこで、イアンの棍がおれてしまった。 彼が持っていた棍は砕け散り、ばらばらとなってしまったことにより、今のイアンは丸腰となる。 そこに石の番人はねらいをつけ、攻撃を繰り出そうとする。
「なに、問題はねぇさ!」
しかしそれでも、イアンの顔には余裕の表情が浮かんでいた。 イアンはにやりと笑みを浮かべると、相手の攻撃を高くジャンプして回避し、背後にまわると拳を深く落とす。
「おらぁっ!!」
そして、そのまま背後に拳をたたきつけ、石の番人の体に大きなヒビが入る。 その攻撃力に、フィリス達は驚く。
「ひび入った!」
「武器使ってるときより強いとか、なんなの!?」
「そんなことよりも! 今がねらい時だぜ!」
「そうですねっ」
イアンの声に続いて、セルフィスは槍を手にして、まずは石の番人の攻撃をはじき返し、その足下を槍で攻撃する。 そこにクルーヤが再びヒャダルコを放ち、石の番人を再び氷で包み込む。
「フィリス!」
「ああ! ハッ!!」
そして、フィリスは先ほど手にした剣技のひとつ、はやぶさ斬りをそのひびめがけて放つ。 その剣の攻撃は、石の番人の傷を大きく広げる。
「とどめだっ!」
そこにイアンの拳による攻撃が命中する。 その一撃で傷はさらに大きく広がり、やがてその石の体は崩壊していった。
「ウォォオォオオッ!」
そして石の番人は、その断末魔とともにまがまがしいオーラを放ち、完全に崩壊して、そのまま消滅した。
「消えたか………」
戦いが終わり、サンディが姿を現す。
「なに、今の…………? チョーびっくりしたんだけど………」
「はぁ、おっかなかったなぁ………」
「あたしからすれば、イアンのほうがおっかないっての………」
「そうかぁ?」
いくら武術を鍛えているからとはいえ、石のからだに損傷を与えるなど難しいのだ。 それを、イアンはやってのけた。
「!」
「どうした?」
そのとき、フィリスは何かの視線を感じてそちらをみる。 すると、その視線の先には、老人がたっていた。 ほかの人間とはどこか雰囲気の違う老人が。
「………ねぇ、フィリス! 今のおじいちゃんって、もしかして!」
「追いかけよう!」
4人は、その老人を追いかけていき、洞窟の中に入った。
老人の入っていった洞窟、そこには人が一人入れる、金属製の箱のようなものがあった。
「柩…ですね……」
「柩………じゃあ」
ここに、誰かが眠っている。 いや、誰が眠っているかは大方の予想がついている。
「………すまなかったね、旅の人よ………」
「わっ」
そして、その柩から、青い光に包まれた老人が現れる。 その老人の正体に気づいていたフィリスは、問いかけた。
「もしかして、あなたが、ラボオさん?」
「いかにも、その通り…」
やはり、目の前の老人もとい、この柩の中に眠るのは、ここで石の町を作った彫刻家・ラボオだった。 ラボオは、穏やかな目で安堵しながら、あの石の番人について語る。
「どうやらあの番人は、私が不思議な果実にこの地の平穏を願ったばかりに生まれたようだ…………。 だが、あれは私の本意ではなかった。 荒れることも朽ちることも、望んではいなかったものの………だからといって、入ってくるものをむやみに攻撃することも、全く望んでいない………」
「…………」
「だから、そなた達が倒してくれたことに、わしは安心しておる………」
あの石の番人と戦い、そして倒したことは、決して間違っていなかった。
「これでようやく、私の小さき友人も………安心できるだろう………」
その小さい友人というのは、あのスライムのことだろう。 この老人もまた優しい心を持つスライムに絆されていたに違いない。 そんな小さなスライムから、ラボオはどれほどの救いを受けたのだろうか。
「私は帰れぬ故郷の地を…………手に入れられなかった大切なものを………ここで作り上げたのだ。 そう………この地は幻影………。 老いぼれのみた……最後の夢………。 だが、それでも…………」
そこまで言って、老人はあえてそれ以上は何も語らずに、光に包まれていった。 消えていく中、ラボオは脳裏になにかを思い浮かべ、つぶやいた。
「クロエ………私はこれで愛する君の元へ………故郷エラフィタに帰ったのだ……………」
「……………」
その呟きとともに、ラボオは消えていった。 彼が成仏し、そこには女神の果実のみが残っていた。 フィリスはすぐにそれを回収すると、もう一度外にでて、もう一度石の町を渡り歩く。
「これは………」
そして発見したのは、石でできた家の中で、仲良く料理をする男女の姿。 フィリス達は自然と、この男女の石像に惹かれたのである。
「エラフィタ村………あの村が、この彫刻家ラボオさんの故郷。 もう戻れない………だからこそ、そっくりな村を石で作ったのね………」
「それも、何十年もかけて………わざわざ、自分の残りの生涯を投じて………」
この町に、自分のすべてを注いでいるとき、彼はどんな気持ちだったのだろう。 時間のむごさか、己への失望か、愛する人への想いか。 それは、誰にもわからないだろう。
「ねぇ、フィリス…」
「ん?」
「人間のすることって、よくわかんないね…」
サンディもフィリスも、人間ではない。 だからサンディはフィリスにそう言ったのだろう。 それだけではない同じ人間である彼らも、人間のすることはわからないだろう。
「うん」
だから、フィリスはサンディの言葉にたいしそう短い返事だけをし、イアン達もなにもいわなかった。
「あ、ねぇねぇ、いっちゃうの?」
「ああ、あたし達はもういくよ」
「きみは、どうなさるんですか?」
セルフィスの問いにたいし、スライムはまっすぐな目で彼らに言う。
「………ラボオじいさんは………やさしい人だったよ。 ぼくも、だいすきだった……。 だから、ぼく、ずーっとここにいる。 ここは、ぼくがまもるんだっ」
「…………そっか、がんばれよっ!」
「うん!」
そうして、石の町とスライムに別れを告げて、フィリス達は次の町を目指してビタリ山を後にした。
「さ、いこう」
「ああ!」
その手にはしっかりと、かの彫刻家の願いを受けた、女神の果実が握られていた。
次回はサンマロウのお話。
あのちょっとだけ奇妙なお話をどう描いたか、刮目してくださるとうれしいです。