このあたりの物語で、タイトルの意味を理解できればいいなとおもいます。
「もー、あの誘拐犯のせいでアタシらが苦労することになるなんて、予想だにしていなかったんですケド!」
とある洞窟の中。 サンディは、グチを漏らしていた。 その原因となる経緯を説明するとなれば、以下の通りである。
まずフィリス達は、マキナに会いに行ったはいいが、そのマキナは何者かに誘拐されてしまった。 その直後に現れたマキナから、今いるマキナの正体を聞き、そして幽霊の願いを聞き、フィリス達は誘拐犯を追って、犯人のいる洞窟までやってきて、犯人と直接会う。
「あいつらの話しぶりからすると、ただ大金持ちのお嬢様という理由だけで、さらっていったっぽいな。 それくらいのことは、事前に多少は調べておくもんだろ。 せっかくお金目当てに誘拐したというのに、それに気づいてもらわなきゃ、そのお目当ての大金は手に入らないし」
「おまけに、マウ…マキナにも逃げられるしな。本末転倒だろこれじゃあ……」
そう、誘拐犯の話によれば、マキナは自力で逃げ出したとのことだ。 このまま一人で歩かせていたら、彼女の身が危ないということで、フィリス達は彼女を探しに行くことになったのである。
「誘拐したんなら、責任とって人質をしっかりとみておけよって感じよね! だからアタシらがあの子心配しながら、探すハメになるんだから!」
「オマヌケ誘拐犯に振り回される時が、オレの人生に舞い込んでくるなんて、思わなかったぜ!」
その誘拐犯にたいして、怒りを露わにしながら4人は洞窟を突き進んでいた。 ひとつはマキナを誘拐したこと。 ひとつは そしてもうひとつは人質の見張りをしっかりとしていなかったこと。
「邪魔!」
そんな誘拐犯にたいする怒りは、洞窟の中で彼らに牙をむいてきた魔物に向けられた。 彼らに攻撃してきた魔物達は、一匹残らず返り討ちにしていった。
「………いくら魔物とはいえ………八つ当たりの的にされるのは少し哀れですね……」
「なにやってんのセルフィス! 行っちゃうわよ!」
「あ、はいっ!!」
そんな魔物達に哀れみを覚えていたセルフィスだったが、それを感じる余裕もなく、彼らについて行くのであった。 彼らと同じように、自分に襲いかかる魔物を倒していきながら。
「…………」
そうして洞窟の奥に進んで行った先には、牢屋があった。 だが、その牢屋は鉄の柱がねじ曲げられており、大きな穴が開いている。 その牢屋の有様をみて、フィリス達はポカンと口を開けていた。
「……これって、あの子がやったの……?」
「でしょうね………なんというパワーなのでしょうか……」
「人形だから? にしたって、パワーありすぎでしょ…」
この状況に対し各々が感想を口にしていく中、何かに気づいたイアンがそこに目を向けている。
「どうしたんですか、イアンさん」
「おい、お前等、これを見ろ」
「え?」
そこにあったのは、石版だった。 イアンは、そこに刻まれている文章を読み上げる。
「光も届かぬ地の底…毒の沼にはズオーがすむ。 旅人よ…心せよ。 ズオーに出会いし時、そなたの旅は終わるであろう…」
「……なんかよくわかんないけど、奥にはズオーっていうたぶん、魔物? がいるから…気をつけろってことでいいんだよな?」
「ああ」
この洞窟の中に、そんな危険な魔物がいる。 それだけでも危険な感じがするのに、彼らの不安をあおる要素がもうひとつあった。
「……そこにマウリヤが迷い込んだら、大変だわ」
「そうですね、急ぎましょう」
それは、逃げ出したマウリヤのことだ。 もしその魔物に遭遇したら、ひとたまりもないだろう。 それよりはやくマウリヤを発見し町に連れ戻さねばと思い、彼らは足を早めた。
「あ、あの後ろ姿は!」
その洞窟の奥で、金色に光る愛らしい髪と真っ赤なドレスとリボンが見えた。 それは紛れもなくマウリヤだと気付いたフィリスは、彼女に声をかける。
「なぁ!」
「あら、ごきげんよう!」
マウリヤは無邪気な笑顔でそう挨拶をしてきたので、フィリス達は盛大にずっこける。
「ごきげんよう、じゃないよマウリヤ!」
「え? どうしてわたしの名前を知ってるの?」
「…………」
彼女の問いに対し、フィリス達は返答に迷う。 彼女はおそらくマキナのことを知ってるのかもしれないが、もしもその話をしたらまたマウリヤは機嫌を損ねてしまうのではないかと思ってしまったのだ。 だが、そんなフィリス達をよそに、マウリヤは話をする。
「わたしね、新しいお友達と遊びにきたの。 ヒゲとマスクのお友達と! でも、ちっとも楽しくないからお散歩していたのよ。 あなたもお散歩にきたの?」
「いや、こんなとこ散歩なんかしたくないッス」
マウリヤの言葉に対しそう返事をしつつ、彼女がとりあえず無事なのでつれて帰ろうと提案しようとした。 だがそのとき、どこからか怪しい音が聞こえてきた。
「!!」
「だあれ?」
その音に対し身構え、マウリヤが首を傾げていると、突如真上から巨大な蜘蛛のような姿をした魔物が現れる。
「ズォオオオッ!!」
「なんだこいつは!?」
「まさか、こいつが、ズオーか?」
途中の石版に名前があった魔物、それがこいつではないだろうか。 警戒をするフィリス達をよそに、マウリヤはのんきにもズオーに声をかけた。
「ごきげんよう。 あなた、とってもユニークね! ねぇねぇ、わたしのお友達にならない?」
「バカ、近づくなマウリヤ!」
フィリスがそう言ってマウリヤに手を伸ばそうとするが、それは間に合わなかった。 ズオーはマウリヤを自分の敵と見なすと、彼女に対し爪を振るい、そのまま宙にその体を投げ飛ばしてしまったのだ。
「ま、マウリヤッ!!」
無情にもマウリヤはそのまま落下して、地面にそのからだを打ち付ける。 急いでセルフィスがマウリヤに駆け寄るものの、マウリヤは全然動かない。
「……動きません!」
「こいつ……元が人形だから、こ、壊れちまった……のか……?」
「そ、そんな!」
マウリヤの今の状態を知ってショックを受けるフィリスだったが、そんんなことなど知ったことではないといわんばかりに、ズオーがフィリスに突進攻撃を繰り出してきた。
「うわぁっ!!」
「フィリス!!」
その突進攻撃はすごい威力を持っているようであり、フィリスは土の壁にたたきつけられる。 なんとか立ち上がり剣を抜くと、フィリスは目の前にいるズオーを睨みつける。
「クッ! こいつ、あたしらを敵にしているぜっ…!」
「ああ、やっぱそういう展開になるワケか……」
イアンもファイティングポーズをとり、セルフィスも槍を手にし、クルーヤは両手に魔力をためる。 ズオーは彼らに対しても牙をむき爪で攻撃を繰り出してくる。 それはフィリスが前にたって盾で防ぐが、それでもかなり後方に押される。 それでもフィリスは剣を片手につっこんでいった。
「ハァッ」
キィン、キィン、という音をたてて、爪と剣が衝突する。 そのとき背後からイアンがズオーに飛びかかり、腹の部分に棍による一撃を食らわせる。
「ズゥォオォオッ!!」
「うしっ…!?」
すぐに体制を立て直し追撃をしようとするイアンと、攻撃を加えようとするフィリスだったが、ズオーは体制を整えて背後にいるイアンを攻撃した。
「うがっ!」
「イアンッ!」
「このっ…うわぁ!?」
「セルフィス!」
セルフィスが槍を構えて攻撃を繰り出そうとしたが、それよりも早く、ズオーが彼に接近し、その体に糸を絡めて動きを封じてからの突進攻撃を繰り出した。 さらにズオーは、フィリスとクルーヤにも糸を絡めてくる。
「くっ…」
「きゃあっ…」
糸に絡まれて自由に身動きがとれないフィリスとクルーヤにたいし、ズオーはさらに糸で巻き付けようとしてくる。
「させるか!」
「イアン!」
そこにイアンが飛び込んできて、ズオーに跳び蹴りを食らわせてたたきつける。 さらにセルフィスが風の魔法の詠唱を行い、放つ。
「バギマッ!!」
その風の魔法は、3人の体を縛り付けていた糸を切り裂き、全員の動きを自由にした。 糸から解き放たれたところでフィリスは剣を振るいズオーに切りかかり、足を一本切り落とした。 そこでズオーはフィリスに反撃をしようとしたが、それはセルフィスの槍が防ぐ。
「クルーヤ!」
「ええ、準備はいいわよっ!」
背後にいるクルーヤにフィリスが声をかけると、クルーヤの手には強大な炎の魔法をその手に宿していた。
「よくも私のことを糸で絡めたわね! お仕置きよ! 食らいなさい……メラミッ!!」
そこでクルーヤがとどめの一撃としてメラミを放ち、ズオーはその炎に包まれる。
「ズゥゥオオオオオオ…!」
そして、その断末魔とともに灰となり、この世を去ったのであった。
ズオーは死に、目の前の恐怖はとりあえず消え去った。
「倒したな……」
「ええ、でも……」
ズオーに攻撃されたマウリヤは、動く気配がない。 大丈夫なのかと心配になった、そのときだった。
「あ、お嬢さんいたぞー!」
「!?」
そのとき、誘拐犯がその場にかけつけ、マウリヤをマキナとおもいこんで、彼女を発見する。 誘拐犯はマウリヤの無事を確認しようとするが、体の向きはおかしいし、目も口も開いたままで、ピクリとも動かない。 その姿からあることを予測した下っ端の誘拐犯は、顔を真っ青にさせた。
「や、やべぇよ……アニキ! おじょうさん死んでる! どないしましょー!?」
「こ、こいつはマズイ……マズイぞ!!」
彼らが困惑している傍らで、マウリヤは何事もなかったかのように起きあがった。
「ああ、ビックリした」
「あ、起きた!」
のんきにそう言っているマウリヤの姿を見て、誘拐犯たちはさらに顔色を悪くして全身をふるわせた。
「う、嘘だろ……死んでたはずなのに!」
「これは、どうなってんだよ………こ……こえぇっすよ、アニキ!」
「こんな恐ろしいのは、もうまっぴらだ!! おい、ズラかるぞ!!」
「ひぇぇ!! たっすけてくれーーー! こいつ、バケモノだぁーー!」
そう叫んで、2人の誘拐犯は逃げていった。 その姿に対して、4人は立腹である。
「勝手に誘拐しておいて、相手を化け物呼ばわりするなんて、失礼だな!」
「まったくだ、まぁこれに懲りてあいつら、真っ当になればいいんだが……」
呆れた目で誘拐犯達を見つめた後で、彼女達はマウリヤの安否を改めて確認する。
「大丈夫ですか、マウリヤさん?」
「………バケモノ………」
「?」
そこでマウリヤは、先程の誘拐犯達の言葉を受けて、顔をうつむかせていた。 彼らに言われたことを口にしながら。
「知ってるわ………バケモノって、絵本に出てくる、わるい生き物のことだって………。 みんなの嫌われ者だって………」
「………」
「本当は、わかってるの」
マウリヤ自身も、どこかで気づいていた。 自分を友達だと言っている人達は皆、自分がいろんなものをプレゼントするから、友達になろうとしていることに。 そのプレゼントが目当てでよってくると言うことに。 その中で感じていた……相手の目当ては屋敷にある高いものであり、自分ではない自分は、必要とされていないことに。
「マキナのために、たくさんお友達を作りたかった……。 作りたかったけど、だめだった。 それは、わたしがバケモノだから………ダメだったのね」
「それは……」
「違うわ」
そのとき、声が聞こえた。 それと同時に、ぼんやりと光る一人の少女が現れる。
「あなたは、バケモノじゃない………大切な……私のお友達。 大好きなお友達よ、マウリヤ……」
「マキナ…」
「マキナ!」
そこに現れたのは、幽霊のマキナであり、フィリス達が目を丸くする横で、マウリヤは無邪気な笑顔でマキナに声をかける。
「おかえりなさい! どこにいってたの? ねぇ、今日はなにをして遊びましょう?」
「………」
明るくそう言ってくるマウリヤにたいし、マキナは悲しげな顔をしていた。
「ごめんなさい…もう、遊べないのよ。 もう2度と、遊べないの…」
「どうして? わたしのこと、きらい? きらいになったから、あそばないの?」
マウリヤは悲しそうにマキナの顔をのぞき込んでそう尋ねると、マキナは首を横に振る。
「嫌いになるわけがないわ。 ひとりぼっちだった私を、支えてくれたのは……あなたよ、マウリヤ。 だから、嫌いなんかじゃない。 でも、今はあなたがひとりぼっち…。 私を幸せにしてくれたのに、あなたを、私は……」
「ええ、マキナ! わたしもあなたといっしょなら、いつでも幸せ!」
また無邪気に声をかけられ、それが逆にマキナの心を締め付ける。 その気持ちが、マキナの顔に涙となって現れ、マキナは彼女に話しかける。
「ごめんなさい………ごめんなさい………。 あなたはもう自由になって………。 私の願いに縛られて、無理をしないで……。 私はマキナで、あなたはマウリヤなの………」
「………」
「……私は天使様と一緒に、遠い遠い国へ旅立ちます。 だから、あなたも偽物のマキナじゃなくて、お人形のマウリヤに戻って………」
マキナの話を、マウリヤは黙って聞いていた。 すると、徐々にマキナの姿は光に包まれていく。 そのまま、マキナはマウリヤに歩みよって、彼女の体を抱きしめながら、彼女に告げる。
「………ありがとう、マウリヤ。 あなたは、ずっとずっと、私の大好きなお友達。 …………だから、どうか幸せに………」
そう言い残して、マキナは光となって消えてしまった。 その場にはマウリヤが座り込んでいて、ただ呆然とマキナのいた場所を見つめていた。
「マウリヤ?」
「………マキナは、遠い国に旅立つ。 わたしは、人形マウリヤに、戻る………」
マウリヤは、マキナの願いを確認するように、そのまま彼女の願い事を口に出す。 まるで、マキナの願いを聞き入れようとするかのように。
「でも、その前に………。 マキナは旅にでるって町のみんなに教えなくちゃ………」
「あっ」
マウリヤはそう呟くと、さっさと歩いていってしまった。 あっという間に立ち去っていったマウリヤを、4人はずっとみていた。
「行っちゃった」
「あたし達も、追いかけよ」
「ああ」
そして、フィリス達も彼女に続くようにして、洞窟を出て行ったのであった。
サンマロウに戻ったら、全ての話は解決していた。
「話広まるの、はやっ!!」
フィリスがそうツッコミたくなるのも、わかる。 マキナに扮したマウリヤは、マキナのままで無事に戻ってきたことと、このまま旅にでることをサンマロウの人々に伝えたのだ。 その話はあっという間に広まり、多くの人にそれを伝えることができたマキナは姿を消したらしい。
「いやぁ、ウワサじゃあマキナさんは、自分から誘拐犯についていったらしいぜ」
「はっ?」
「しかも誘拐犯と魔物をこてんぱんにしてやっつけて、そしてそのまま旅に出て行ったって話だぜ! ほんとあの人って、人騒がせでユニークで、おもしろいよなぁ!」
その代表として、自分達の前にマキナと友達になろうとしていた、あのケーキの男性が話をしてきた。 どうやら、一部ではマキナがすべてを一人で解決したことになってしまっているようだ。
「噂に尾鰭は付き物ですが、その話はなんなのでしょうか……」
「どんなぶっとび伝説だよ」
セルフィスとイアンがそうツッコミをいれるいっぽうで、フィリスは屋敷に人が多くいることに気付く。 彼女達は屋敷へ向かい、そこにいるのは皆、かつてのこの屋敷の使用人であることを知る。
「屋敷に使用人達が戻ってきている?」
「ええ、マキナ様が屋敷に戻っていいとおっしゃったのです……」
「正確には、自由にしていいというものでした。 そこで私達は、この屋敷に戻ることにしたのです」
「………だけど……せっかく帰ってきたのに、マキナ様ったら旅に出て行ってしまったんですよ……」
「そうなんですか」
「ええ、ひとまず…この荒れ果てたお屋敷を掃除しながら、マキナ様のお帰りを待つことにしようと、使用人達と話し合って決めたんです……」
そこである使用人が、裏庭には夫婦のものとは別にもうひとつ、お墓があるのだが、それは誰なのだろうかと話していた。
「お墓………そうだ……」
そこでフィリス達はあの少女のことを思いだし、裏庭へと向かった。 そこにあったのは、3つの墓石と、一人の大きな、赤いドレスの人形だった。
「マウリヤ………」
一つの墓石に寄り添うように存在しているその人形は、二度と動かない。 そんな人形を見つめていると、乳母が気付いてこちらに歩み寄ってきた。
「おやおや、こんなところにあったのね」
「あ」
「この子ね…マウリヤという名前がついている、マキナお嬢様の一番のお気に入りなんですよ。 見つかって一安心だわ。 さぁさぁ、マウリヤちゃん。 お部屋でマキナ様のお帰りを、一緒に待ちましょうね」
そう言って乳母はマウリヤを抱き抱え、持って行ってしまった。 すると、墓石の前に光が舞い降り、それは女神の果実へとかわった。
「あ、果実……」
「きっと、マウリヤが人形に戻ったから、効力を失ったのね」
「………」
彼女は、永遠に変わらない、特別な友情とともに眠り続けるのだろうと、フィリスは女神の果実を手にしながら思うのであった。
次回は閑話休題、新しい旅立ちのお話をお届けしたいと思ってます。