というわけで、今回はグビアナ王国編。
仲間の一人・クルーヤにピントが合います。
船旅をしていたフィリス達は、砂に包まれた大地を発見しそこにたどり着いた。 その砂漠は高い湿度と気温をほこっており、それにたいし道中でフィリス達は苦戦を強いられる。 それもそのはず、砂漠なんて人生で一度も経験をしたことがないからだ。
「ひぇ~……ここが、クルーヤの故郷かぁ……」
「砂漠の国だけあって、あついですね……」
そう、実はこの地にあり彼らが目指す場所こそが、クルーヤの故郷であるグビアナ城なのだ。
「でも、だからといって無闇に薄着だけになるのも危険よ」
「…と、いうと?」
「聞いたことないかしら、砂漠は昼夜の気温差がとっても激しい…って。 今は日が昇っているから暑いのだけど、日が暮れれば一転するわ。 昼は夏、夜は冬って覚えた方がいいわよ」
そう簡単に説明をしつつ、クルーヤは目の前にある、石でできた壁に囲まれている大きな建物を指さして彼らに教えた。
「見えてきたわ、あれが私の故郷…グビアナ城よ!」
「おおぉ、あそこかぁ!」
その城は、なにもない砂漠の中に存在しているからより一層そう見えるのかもしれないが、とても大きな城だった。 そして、その前には城下町も存在しており、その道には行商人が客を呼び込もうとしている。 少し離れたところにも民の住宅街といえるべき場所が存在しており、城の近くには大きな劇場もある。 おまけに、強固な城壁も存在しており、魔物も簡単に手出しはできないだろう。
「へぇ、町の中は外より、少しだけ過ごしやすいな」
「ここはこの地では数少ない、水の流れる場所だもの。 そのおかげで人が住めるのよ」
「そうなのか。 砂漠で水があるのは、ありがたいことだな」
「やはり、人が住む場所だから、住みやすいような工夫がされているのでしょうか」
そうその国の感想を口にしていく中、クルーヤは少し眉を下げつつつぶやいた。
「でも、昔に比べたら……だんだんと暑くなっているみたい……」
「へ?」
どういうことなのだろうか、と彼らが疑問を抱いていると、どこからか壮年の女性が姿を見せて、クルーヤに声をかけてきた。
「あら、クルーヤじゃないの!」
「あ、もしかして道具やのおばちゃん、ですか!?」
「ひっさしぶりねぇ!」
どうやらクルーヤの知人らしい、彼女達はしばらく楽しそうに話をしていた。
「そうそう、最近、女王様にある献上品が持ち上げられたって話があがってんのよ」
「献上品?」
「なんとビックリ、金色に輝く不思議な果実よ! その献上品を見せられた女王様はすんなりそれを気に入って、旅人にも会ってそれを受け取ったみたい! まぁなんというか、現金な人よね~!」
「は、はぁ……そうなんですかぁ……」
その果実にたいし心当たりのあるクルーヤは、思わずそう戸惑いながら返事を返した。 そこで道具屋にお客さんが入ってきたので、おばちゃんはクルーヤにまたね、と告げて、そちらに戻っていった。
「みんな……」
「ああ、話は聞こえていたよ。 女王様に献上されたっていうそれは……」
「紛れもなく、女神の果実ヨッ!」
もしその女神の果実をこの国の女王が持っているのであれば、話をして譲ってもらいたい。 もし条件付きならその条件も果たそう。 そう、女王に会おうと意を決しているフィリス達の側でクルーヤは微妙な面持ちになっていた。
「どうかしたのか?」
「ユリシス女王様は、とても綺麗な人なんだけど…性格に難があって……。 なんというか、かなりのワガママなのよ。 自分の気持ちとか考えが最優先で、自分以外のことは二の次というか」
「えぇ……」
「今も、国民の暮らしに重要なものである水を、自分のために惜しみなく使って………それで国民は皆、苦しんでいるみたい。 私が旅にでてからかなりの歳月は経ってるけど……変わらないのね」
「……そいつぁ、ある意味身分の差どうこうより、厄介な問題だぜ……」
この国にすんでいたから女王のことをよく知っているはずのクルーヤがこういうのだ。 今回の果実探しも、一筋縄ではいかないだろう。 4にんんの顔に不安の色が現れる。 この空気はマズイ、と思ったフィリスは彼らを指揮する。
「と、とにかく会ってみよう! このままじっとしてても始まらないし!」
「フィリス……ええ……そうね……」
フィリスが自分達を元気づけようとしていることに気付いたクルーヤは、そう答える。 そばにいるイアンとセルフィスも顔を上げており、彼らの存在が頼もしく感じる。
「じゃあ、行きましょう…お城の入り口はあっちよ」
「ああ」
クルーヤに案内され、彼らは城の中に入るための門へと向かう。 そこを守っていた衛兵いわく、今女王は沐浴をしていて会うことは出来ないと告げられた。 もし会いに来たのなら大臣に取り次いでくれと言われたので、大臣の元へ向かおうとする。
「なんか、騒がしいな」
「そうですね…なにかあったのでしょうか」
その城は今、パニックになっている。 この城に仕えているであろう侍女や衛兵の顔には焦りが見えており、フィリス達のことなど気にもとめてないようだった。
「……んっ?」
そんなとき、クルーヤはある女性を凝視し、そして目を丸くすると表情を明るくさせてその女性に駆け寄っていく。
「ジーラ!? ジーラじゃない!」
「え……あ、クルーヤ!?」
そこにいたのは、クルーヤと同じくらいの年頃の少女だった。 そのジーラと呼ばれた少女はクルーヤに気付くと表情を明るくさせてクルーヤに答える。
「久しぶりね!」
「ええ、本当に……」
2人は再会を喜び合っていたが、クルーヤは仲間達のことを不意に思い出して、その少女のことを彼らに紹介する。
「みんな、この子はジーラ。 わたしの幼なじみで親友なの。 今はこのグビアナ城で宮仕えをしているのよ」
「あ、えっと……初めまして! ジーラともうします!」
ジーラ、と呼ばれた少女はフィリス達に一礼し、フィリス達もそれに応じる。 そんな彼女達に、壮年の男性が声をかけてきた。
「なんじゃ、この旅の者はお前の知り合いだったのか」
「あっ…」
「あなたは確か、大臣様…ですよね?」
「うむ、その通りだ」
そうクルーヤが迷いなく声をかけてきたことから、大臣は話の分かる人だと気付いた彼らは、大臣に自分達の事情を打ち明ける。
「大臣様! 実はあ…わたし達、ユリシス女王様に会いにきたのです! 女王様が旅人から、金色の果実の話を聞いて、そのことについて詳しく聞きたくて……」
「ふぅむ……果実か……。 確かに、そのようなものを受け取っていたな。 その時の女王様は偉く上機嫌だったぞ」
そう語り、大臣はすぐにフィリスたちがその果実を探しにきたのだと察した。 だからだろうか、フィリス達にたいし大臣は首を横に振る。
「だが、すまぬ旅人よ。 今はその果実のことは諦めた方がいいかもしれんぞ」
「というと……?」
「女王様は、あの果実を気に入ってしまってな……誰にも渡すなときつく命じておるのじゃ。 それを使えば、自分の美貌はより一層増すから…とってな。 あの様子……簡単にはうまくいかんじゃろうて」
「そ、そんなぁ!」
大臣の言葉を受けてショックを受けるフィリス達。 その言葉をつげた大臣自身も、女王には相当悩まされているようで、頭を抱えている。
「こういうときに、先代王がいてくだされば…ガツンと言ってくれていた者を………。 まったく歯がゆいわい」
「先代王?」
「ガイレウス様のことよ。 この国の地下に水路を造ることで、この国に人が住めるようにしたの。 今もグビアナに人が住めるのは、そのお方の尽力あってこそなのよ」
「へぇ、そのような素晴らしい実績の方がいらっしゃったのですね」
「………」
フィリス達に先代の王の話をするクルーヤと、その話に対し感心しているセルフィス。 その横でジーラは、どこか思い詰めたような顔になる。
「……そうじゃ! 会って話をさせるくらいなら、できるかもしれん!」
「ホントですか!?」
「んで、その条件がこれか……」
大臣が提案した女王にフィリス達を会わせられる方法。 それは、今逃げ出してしまい行方不明となっている女王のペットを見つけることだった。 そのお礼という形であれば、あの女王もフィリス達に会ってくれるだろう、それを大臣は取り持つと約束してくれた。
「それで、城の中が騒がしかったんですね」
「しかも、逃がしちゃったのがジーラだったなんて……確かにあの子、昔からそこそこドジだったけど……」
とりあえず、聞いた情報を頼りにそのペットを探すしか今はほかに方法がない。 城の従者たちの話によれば、そのペットというのは、アノンという名前の世にも珍しい金色のトカゲのことのようだ。 また、本来はアノンはおとなしい性格であり、飼い主である女王になついているのはもちろん、今まで侍女や従者を前にしても逃げることがなければ、お世話をされていやがる様子などなかった。 それが突然逃げ出したのだから、城のものたちが戸惑うのも無理はない。
「あ、見つけたぞ!」
そんなトカゲを探していたそのとき、イアンは城の影の中で動くものを発見した。 彼らの前で動いたそれは、金色の体に赤いリボンをつけたトカゲ…話の通りであれば、これがアノンで間違いない。 彼らはアノンを追いつめ、フィリスが両手を伸ばしてアノンを捕まえる。
「よし、捕まえた!」
「ギャギャギャ!」
「ほら、いい子いい子! 飼い主様に会わせてあげるから、じっとしていてくれ!」
そうフィリスは腕の中で暴れているアノンに呼びかけると、アノンはそのままおとなしくなった。 どうやら暴れていたり逃げていたのは怖かっただけであり、今のおとなしい姿が本来のアノンなのだろう。 フィリス達はアノンのことを知っているであろうクルーヤに、確認をとる。
「この子が、アノンちゃん?」
「ええ、間違いないわ」
本当にこの金色のトカゲがアノンだとわかったところで、4人はジーラと大臣の元へ向かう。
「ジーラ、大臣様! アノンちゃんが見つかりましたよ!」
「ああ……アノンちゃん……よかった!」
「旅のもの、よくやってくれた!!」
アノンの姿を見て、2人は安堵した。 約束通り、大臣はユリシス女王とフィリス達が直に会って話が出来るように取り持ってくれた。 ユリシス女王は少々面倒くさそうにしつつも、話を聞くだけならということで了承した。
「………」
「………貴女がユリシス女王様、ですね……」
「ええ、そうだけど?」
そう言って玉座に座っている、褐色の肌に黒く長い髪の女性が、現グビアナ女王であるユリシスのようだ。 確かにその容姿は一見、非の打ち所のない美しさがある。 だが、あまりこの女性に好感を抱けないのは、自分達と向かい合っているときの態度や姿勢、そして相手を見下すようなまなざしにあった。
「ユリシス様、この旅人達が迷子になったアノンちゃんを見つけてくださったのです!」
大臣は双方の関係が悪いものにならないようにと、フォローに入る。 だが、そんな大臣の苦労など知ったことではないといわんばかりに、ユリシス女王は話を切り替える。
「そんな旅人のことはどうでもいいわ。 それよりもアノンちゃんを逃がしたのはお前ね?」
「は、はい……申し訳ありません!」
「なんで、アノンちゃんを逃がしてしまったのかしら?」
そう威圧的に問いかけてくる女王に臆したジーラは、必死に頭を下げて謝罪をする。
「わ、わたしが……少し目を離した隙にアノンちゃんが、どこかへ! 今までそんなことはなかったのに!」
「そんな言い訳をしたところで無駄。 今日限りでお前はクビよ」
「………!」
「さっさと荷物をまとめて、この城から出て行きなさい」
ユリシスからの突然のクビ宣告にたいし、ジーラはただただショックを受けていた。 そこで、大臣はふとあることを思い出した。
「…そういえば、ユリシス様! この旅人達がアノンちゃんを見つけたところで、こちらも発見されました!」
「ん?」
そう言って大臣が取り出したのは、例の金色の果実…もとい、女神の果実だった。
「あれは…!」
「これも見かけないと思っていたら……! どうして、アノンちゃんがこれを……?!」
どうやら行方不明になっていたのはアノンだけではなかったようだ。 この状況から察するに、アノンはこの女神の果実を持ち去ろうとしていたのだろう。 様々な疑問は残るものの、アノンと果実がそろって自分の元に戻ってきたことに対し女王は上機嫌になる。
「まぁいいわ、アノンちゃんが戻ってきて、この果実も私の元にあるんだもの! この果実をスライスしたお風呂につかれば、私の肌はスベスベでツヤツヤ…私の美貌はよりいっそう輝くわ!」
そうアノンを胸に抱き、果実を掲げながら言う女王。 そこでふと、フィリス達がこの果実を求めていることを思い出した。
「そういえば貴女、この果実のことで話があるって聞いたわね。 もしかして、これを譲って欲しいの?」
「はい、その通りです」
フィリスはまるで、意を決したかのように、女王に告げる。 その果実を手に入れるためならなんでもする、ということを。
「お金や貴金属で解決するのであれば、稼いでそれを買い取ります。 値段は貴女の言い値でかまいません。 だから………」
「いいわよ、譲ってあげる」
「!?」
それを聞いたフィリスは驚く。 そんな簡単に譲ってくれるなんて…と。
だが、そんなフィリスの反応を見たユリシスは、すぐに意地悪そうな笑みを浮かべた。
「なーんて、言うと思った?」
「えっ!?」
「この黄金の果実は、そこら辺のはした金よりずっと価値のあるもの……それは、私にもわかるわ。 だから、どれだけ苦労したって無駄よ……努力とかそういうのって、報われないのが現実……。 庶民だからかしら? そういうの、わかってないわね」
女王はフィリスに一気に顔を近づけて、彼女に告げる。
「貴女達の求める果実は、私をさらに美しくすることに大いに役立つの! 光栄に思うことね! おっほほほほ!」
「……」
「さぁさぁ、アノンちゃ~ん! ばっちぃ人にさわられて可哀想にぃ…一緒にお風呂に入ってきれいになりましょうねぇ!」
そして女王は、大きく高笑いをしながらその場を立ち去っていった。 おそらくこれから、沐浴に入るのだろう。 呆然とするフィリス達にたいし、大臣は頭を抱えながら女王に変わって謝罪の言葉をつげる。
「すまぬ。 旅のもの女王様は、ごらんの通りなのだ」
「…………」
フィリス達も一応、ユリシスという女王がどれほどワガママで傍若無人なのかの話は聞いていた。 だが、実際にあうと噂通り…というか、それ以上の人物である。
「ジーラ……」
だがクルーヤはそれ以上に、クビ宣告をされてしまった親友のことを気にしていた。 呆然としているジーラにクルーヤは声をかけ、彼女のことに気づいたジーラは笑ってみせる。
「クルーヤ……大丈夫よ、わたしなら……。 女王様が唯一のお友達を失うことに比べたら……クビくらいどうってことはないわ……」
「でもっ」
「……あ、女王様に命令されたし……私、荷造りしてくるね!」
そう気丈に笑って立ち去るジーラをみて、クルーヤは放っておけない気持ちになる。 そんな彼女の心境に気づいたフィリスは、クルーヤに声をかけた。
「クルーヤ…」
「……私、ジーラのとこいってくる!」
「ああ、頼んだぜ」
そうフィリスの許可を得たクルーヤは、ジーラのところへ駆けていく。 残されたフィリス、セルフィス、イアンは、女王を止める術を探すことにしたのであった。
「ジーラ」
「クルーヤ……!」
「ここにいたのね……ジーラが泊まっている部屋の場所を、ほかの侍女さんから聞いたの」
ジーラの後を追いかけていたクルーヤは、ジーラの部屋で彼女を発見した。 ジーラは、目元を少し腫らしながらクルーヤに話しかけてくる。
「そういえば、あなた達にお礼を言ってなかったね……。 アノンちゃんを見つけて、わたしの失敗の後始末をしてくれて……ありがとう。 もう、思い残すことはないわ」
「……ジーラ、それでいいの!? あんな勝手なクビ宣告、私納得できないわ! もう一度ちゃんと謝って…それで、仕えたい気持ちを伝えなきゃ……」
クルーヤは自分を助けようとしてくれている、それを感じながらもジーラは首を横に振る。
「いいの、女王様の唯一のお友達を逃がしてしまった、わたしがいけないんだもの……。 あなたも知っているでしょ? わたしがドジだってことは……」
「でも………」
「それに、先代の王様のお話、クルーヤも知っているでしょ?」
「え?」
その王の話は先ほど仲間にはなしたはずだ、とクルーヤは思うが、ジーラは話を続けた。
「先代王様は…常に国を統治し続け、政治につとめた……だからこそ地下水脈を生み出して、この国に水を供給することもできた。 だけど……そのかわり、ユリシス様に目を向ける暇は、王様にはなかった……」
「………」
「別に王様を責めているわけじゃないの。 むしろ、私たちグビアナの民がここで生きていられるのも、あのお方のおかげ……尊敬すべき存在よ」
そういいながら、ジーラは脳裏に女王の姿を思い浮かべる。
「でも、国の行政に熱心になるあまり、王様はユリシス様を孤独にしてしまった……そして、国で人々が生活できるようになったところで、王様は亡くなってしまい……その跡をついだのは、知っての通り、ユリシス様……」
「……それは……」
「あの方は、ずっと孤独だったの……愛というのを受けられなかったから、他者を思うことに自信がない……ただ、強がっているだけなの。 そこを理解できるのは、アノンちゃんだけ……。 わたし達では、理解して、孤独を埋められない……。 だから、どんなひどい命令でも、わたしは甘んじて受けたいの……。 ドジなわたしにできるのは、これくらいのことだし……」
その言葉から感じるのは、ジーラは心の底からユリシス女王を慕っていることだ。
「ジーラ………そこまでして、あなたは……」
クルーヤはジーラの気持ちを知り、それなら尚更、彼女をずっとユリシス女王の侍女にしたいと思うのであった。
そんなころ、フィリス達はサンディの怒りの声を聞きながら、どのようにして女王を止めて果実を取り戻すべきかを考えていた。
「…でもマジハラたつんですけど! あれでホントに女王様なの!?」
「サンディ」
「女神の果実がこのままじゃ、あの女王様の思うがままになったらタイヘンなの、今までの旅でみてきたならわかるでしょ!? どうにかして入手する方法を見つけなきゃ!」
「沐浴場、だろうな…あるとすれば…」
「そうでしょうね……ですが、どうやって…」
この城の中の、どこにその果実があるのかは予想がつく。 女王はこれで果実の風呂を作ってそれに入るのだと言っていたのだから、噂の沐浴場にあるのだろう。
「ん?」
「どうしたの、サンディ?」
では、どのようにして入るべきか。 彼女達が城のベランダ部分にでていたときに、サンディは何かに気づいてそちらに向かう。 彼女が飛び込んだのは水槽であり、そこに飛び込んでいったのだ。 しばらく待っていると、そこからサンディが現れた。
「どうしたんだよ?」
「ねぇ、この下にめっちゃ広くて、水がいっぱいある場所があったんだケド! もしかしたら、沐浴場かもよっ!」
「えっ…じゃあ!」
「ここから、直下で風呂にいけるってことか!」
こうなれば一か八かで飛び込むしかない、と思った彼らは、そこから沐浴場に入ろうとこころみる。
「よし、いくぞ……」
「待ってくださいっ!!」
「うげっ!」
だがそのとき、いの一番で飛び込もうとしていたイアンをセルフィスがあわてて止めた。
「なにすんだよ、セルフィス!」
「考えてみてください、今女王様がいるのは……つまりは、女風呂ですよ! 男の僕達が入ったら、それはただのセクハラです!」
「あ……」
セルフィスがいうことは、もっともだ。 いくら緊急事態でも、女性の風呂場に立ち入ることはしてはならない。 状況考えずにそれをするのは、性欲が無駄に強く異性に欲情するのが日常茶飯事のような変態野郎だけでいいだろう。
「だから、こうするのはどうでしょうか」
そこでセルフィスは2人にたいし、ある提案をした。 まずはフィリスとサンディがそこに乗り込み、ユリシス女王を説得。 大丈夫な場合は男達を呼ぶ。 それにそなえてイアンとセルフィスは、沐浴場の前で待機する。
「わかった、そうするしかなさそうだな…」
セルフィスの案にたいしフィリスもイアンも同意し、フィリスは水場に足をかける。
「じゃ、いってくる!」
「おう、オレらも急ぐからな!」
そこで彼らは、それぞれ別行動をとる。
バッシャーン! という音を立てて、沐浴場は高い水しぶきをあげた。
「きゃー!?」
その沐浴場にいた侍女や衛兵、そして女王は驚きの声を上げた。 そして、その水しぶきが立っていた場所には、フィリスがいた。
「ぶっふぇ…鼻に水はいった…」
「なにやってんのよっ!?」
「ちょっと貴女、なんのつもり!? 私のお風呂場に飛び込んでくるなんて…無礼者!!」
そんなフィリスにたいし女王は怒鳴るが、やがて顔をハッとさせて、彼女の目的に気づく。
「貴女まさか、私からあの果実を取り戻しにきたとかいうの!?」
「……その、まさかですよ!」
「……そう、そのためにここまでするなんて……度胸は認めるわ!」
でもね、といいながら女王は、浴槽に浮かんでいるスライスされた果実をフィリスに見せる。
「残念だったわねぇ、あの果実ならごらんの通り、完璧なまでに薄くスライスされて、このお風呂は果実風呂になったわよぉ!」
「ああぁっ!?」
「どう、努力は無駄に終わるって、身を持って知ったかしら? 貴女は私の至福の時間を邪魔した罰として、捕らえて処刑するわっ!」
女王は衛兵にフィリスを捕らえるように言うと、衛兵はフィリスをとり囲う。 フィリスは剣に手をおいて攻撃の体制に入り、当の女王はアノンの方をみる。
「さぁアノンちゃん、ビックリしちゃったわよねぇ……この小娘には衛兵に頼んで外に追い出すから、もう大丈夫よ~!」
彼女の言葉に対し、アノンが答えることはなかった。 その場で恰も時間が止まったように動かない。
「アノンちゃん…?」
「……ねぇ、フィリス………アタシ、みちゃったんだけど……あの子が果実かじるところ」
「え……じゃ、じゃあ……まさか……」
そのまさか、である。 アノンの体は宙に浮かびながら光を放ち、その光は強くなる。 やがて光が消えると、金色の体は巨大化し腕も太くなり、目もぎょろりとした魔物がそこに存在していた。
「きゃー!?」
「なんだぁ!?」
「あ、アノンが……バケモノになったぁ!」
それはおそらく、アノンであろう。 アノンは、その腕にユリシス女王を抱えてしまった。
「きゃああーーっ!!」
「あっ!!」
そしてそのまま、近くにあった井戸に飛び込んでいってしまった。 この場にいる全員が、その様子をみているしかできなかった。
「あの小さい井戸に入っちゃった!」
「そこかい!」
その状況を見て、沐浴場はパニックになった。 その騒動を聞きつけたようであり、扉が盛大に開き男の兵が入ってきては女性にぶたれるという
「フィリス!」
「なにかあったのですか!?」
「イアン、セルフィス…!」
「みんな!」
「クルーヤ、ジーラさん!」
「なにか騒いでいるようなので、急いでかけつけたのですが……なにかあったんですか!?」
「え、えっと…」
連続で事情を聞かれ、フィリスは戸惑いながらも事情を彼らに説明する。 アノンが果実の力で魔物になり、女王をさらっていったと知った彼らは、ただ呆然としていた。
「マジかよ……」
「……両親の愛を受けられず、心から友だと呼んでいた存在からも裏切られて……」
「……」
周囲のものは、女王がいなくなって清々するとか、罰があたったとか、無情にも女王を見捨てるということをしようとしている人だらけだった。 だが、そんな中でジーラは、フィリス達に頼みごとをする。
「みなさん、お願いします! 女王様を救ってください!!」
「ジーラさん!?」
「このままでは、ユリシス様はすべてを失い……本当にひとりぼっちになってしまうかもしれません! だから、どうか……!」
必死にそう願うジーラの手を、クルーヤは握る。
「私にまかせて、ジーラ!」
「クルーヤ…!」
「心配して、女王様の気持ちに共感するのも…私にはわかるわ! だから、ジーラ…私があなたの願いを叶えてあげる! あなたにかわって、私が女王様を助けにいく!」
そうジーラに告げたクルーヤは、フィリス達の方をみて口を開く。
「みんな、聞いて!
ジーラは、ちょっとドジだけど……だけどとっても優しくて真面目な子なの! だから、女王様のことを語っているあの子の言葉には一切ウソはないわ! だから……だから! 私、ジーラのためにも……女王様を助けたい! そのために、力を貸して!」
「わかった!」
クルーヤの言葉を聞いたフィリス達は、迷いなくうなずく。
「確かに気にいらねぇところはあるけど、それとこれとは、話は別だ!」
「見捨てることなど、僕にはできません!」
「そうだな…だから、助けにいこう!」
「みんな…ありがとう! いきましょう!」
そう言って、アノンと女王の後を追うようにして4人もまた、井戸に飛び込んでいったのであった。
「みなさん…クルーヤ…どうか……無事で……」
次回は地下水道をすすみます。
この調子で更新、続けていけたらいいなぁ……。