仲間が体調崩したり意外なキャラの再登場があったりします。
クルーヤの故郷・グビアナで女王が関係する事件を解決させたフィリス達。 その事件を解決したお礼として女神の果実を手に入れた4人は、再び船に乗って別の大陸へ旅立とうとしていた。
「…私、必ずあの国に、帰るわ」
「ああ、すべて終わった後でも、その途中でももしまた行きたくなったらあたしらに言いなよ。 いつでも、連れて行ってやるからさ」
「うん………ありがとう、フィリス」
船の上で離れていくグビアナの大地を見つめ、クルーヤはそう呟いた。 あのあとで本人から聞いたのだが、クルーヤは実は親を幼くになくした孤児であり、友人であるジーラの家族に世話になっていたらしい。 彼女にとってグビアナとはまさに、様々な記憶を持つ、愛する故郷なのだろう。 そんなクルーヤにまた故郷に連れて行くことを、フィリスは約束をする。
「ふふっ」
そんな彼女達の様子を、セルフィスは荷物の整理をしながら暖かく見守っていた。
「イアン、日焼けでもしたの?」
「…へ?」
その頃、甲板ではいつものように、イアンが舵を取って船を動かしていた。 そのとき、甲板でくつろいでいたサンディがイアンの異変に気付いて声をかける。 声をかけられたイアンの顔は少し赤みがさしていて、さらにサンディの声にも遅く返事をした。
「…そーかも、なぁ…?」
「おまけになんか、声の呂律まわってないんですケド。 お酒のんだ?」
「飲んでねぇぜ、飲酒運転は人として御法度だからな」
「じゃ、なんでそんな状態なワケ……」
そう言いつつサンディはイアンに近づいてその顔に触れる。 するとそこでイアンがかなりの熱を持っていることに気がついた。
「え、ちょ、すごい熱ジャン!」
「そー、なのか………? 朝から少し頭痛がする、とは思ってたけど………。 でもおかしいな、オレこんなことに、なるの……滅多にないのに……」
「あ、ちょ、ちょちょ!」
彼は調子が悪いと無駄に饒舌になるのだろうか。 はなしている途中で体制を崩してそのまま倒れてしまった。 それをみてサンディはあわて、魔物がきたときに知らせるベルを鳴らして仲間を呼び寄せる。
「きゃー! みんな、みんなーっ!!」
「えっ!」
「なに!?」
「魔物ですか!?」
船の中にいたフィリス達もその音と声に気付いて、大急ぎで甲板にあがる。 そして、倒れているイアンを発見した。
「イアン…!?」
「サンディ、なにがあったの!?」
「それが、さっきから顔も赤くて頭もぼーっとするって言ってて……あと、すっごい熱もってんの!」
「本当だ……これは、風邪を引いてますね」
イアンの容態をチェックしたセルフィスは、彼が風邪を引いたと断言する。 彼の腕の中にいるイアンはぐったりとしており、閉じた目が開く気配は今のところない。 どうすればいいか、セルフィスは少し考えた後で仲間達に指示を出す。
「僕は船の操縦を、なんとかマニュアル通りにやってみます! フィリスさんはイアンさんを!」
「あ、ああ…わかった!」
「クルーヤさんは、これからくるであろう魔物の攻撃には、魔法で反撃してください!」
「はいっ!」
そう3人でなにをするかを即座に決め、フィリスはイアンを抱えて彼の寝室へと向かった。 セルフィスは船の舵を握り、クルーヤは杖を握りしめる。 だがそんな彼らに対し魔物は無情にも海からその姿を現し、攻撃を仕掛けてくる。
「っていってるそばからきたっ!」
「クルーヤさん!」
「ええ!」
その魔物に対し、クルーヤは己の魔力を高め、一気に攻撃を繰り出した。
何とか途中で発見した島に船を止めることに成功した一同。 3人は男性用の寝室にあるベッドでイアンが眠っているのを確認した後で氷を作り出し、彼の額にそれをあてていた。
「次の目的地へいくのは、イアンが回復してからでいいな」
「ええ、もちろんよ」
「先は急ぐべきですが、イアンさんを放ってはおけませんからね」
イアンの容態が回復するまで、この船をこの小島に停留させつつ、彼を治療することを決める。 彼の具合は医療に詳しいセルフィスがみていることになり、フィリスとクルーヤはこの島での食料調達に向かった。
「キノコや木の実がたくさんあるのは助かるわね」
「ああ、あとで魚でも釣るか……!」
2人でそう話をしていく中、フィリスは何かの気配に気づいて、腰に装備していた探険を抜く。
「どうしたの!?」
「誰だッ!」
そして、ある木の上に向かって短剣を投げると、その短剣は金属の音とともにはじかれる。 フィリスははじき返された短剣をキャッチし、クルーヤは呆然としている。 そして、自分の存在はすでにバレているだろうと気付いているようだ、相手は自分から姿を現した。
「オレの存在に気付くたぁ……なかなかやるな………ん?」
そうして木の上から姿を現したのは、顔見知りの盗賊だったので、フィリスもクルーヤも目を丸くする。
「デュリオ!?」
「お前達は……!」
そこにいたのは、カラコタ橋を根城にしている義賊の集団のリーダーである男、デュリオだった。 思わぬ人物との再会に2人とも驚きつつ、彼がカラコタ橋から遠く離れているこの島にいることに疑問を抱く。
「なんで……あんたがここにいるんだ?」
「なにって、お宝探しに決まってるだろ? この島にあるってウワサを聞いたんだ」
「へぇ、宝はどうだったんだ?」
そう言ってデュリオは、この島で見つけたであろう宝の入った袋を彼女たちに見せる。
「このとおり、ガッポリだ」
「おぉ!」
「そういうお前達は、ここでなにしてんだ? 久しぶりに会ってみれば、でっかい船を手に入れてるみてーだし………」
「船……あ、そーだ!」
ここで無駄話をしている場合じゃないと思った2人は、船に一度戻っていった。 船に戻ったフィリスたちはセルフィスに調達した食料を手渡しつつ、イアンの様子を問いかける。
「セルフィス、イアンの様子は?」
「今は寝ています」
セルフィスの言うとおり、イアンは起きる気配はないもののただ寝ているだけのようだ。 顔はまだ赤く、時折寝息を漏らしたのかと思えば、それも荒い。 全員で彼を心配そうに見つめていると、背後からデュリオが姿を見せる。
「そいつ……」
「あ、デュリオ」
「デュリオさんではないですか、おひさしぶりですね」
セルフィスの言葉に対しデュリオは短くああ、とだけ返した。
「なんでここに…」
「なにいってんだ。 お前等が話の途中で、オレを置いていったんだろうが」
「あ……そうだな、ゴメン…」
そういえばまだ、彼とは話の途中だった。 それを思い出したフィリスは謝罪をし、イアンに近づく彼をみた。
「ヒドい熱を抱えているな………」
「そうなんだ……あたしらも途中で気付いて………。 んで、急いでこの島に船を止めて、買いだめしていた薬とか薬草を使って、治療しようと思っていたんだ」
「そうだったか………」
フィリス達の事情を知ったデュリオは、イアンの症状をハッキリという。
「まぁ…症状としちゃただの風邪だな」
「うん、知ってる」
「おおかた、疲労がたまっていたところに、激しい気温変化が起きていたんだろうな。 もしかして、この船はこいつが動かしていたのか?」
「………うん」
落ち込む様子の一同にたいし、デュリオは責めるつもりはないと告げると、開かれた本に描かれている薬草に目を付けた。
「ん? これは…」
「それは、風邪によくきくという薬草です……今は手元にないのですが……それがあれば風邪は劇的に早く回復するでしょう」
「ああ、この薬草ならこの島でみたぜ」
「え、ホントに!?」
デュリオの言葉に対し全員は驚き、フィリスはデュリオの前にでて彼に問いかける。
「いくらで場所を教えてくれるんだ」
「金で情報を買うつもりか、お前」
「仲間のためだ、糸目はつけない」
「……」
そうハッキリと言ってのけるフィリスをみて、デュリオは少し何かを考えた後で言う。
「まずは、薬草を見つけるとするか」
そうして、デュリオの案内通り、彼らは薬草を探しに行くことになった。 だが、船をガラあきにしたら魔物が襲ってきたときに壊されかねないし、もしイアンが起きた場合は無茶しかねないので見張る必要がある。 そこで、フィリスが見張りでセルフィスが治療のために船に残ることになった。
「まさか、お前とこうして行動することになるなんてな…」
「そうね…」
そこで、デュリオとクルーヤでその場所へ向かうことになったのである。 2人は最初こそもめたものの、今では互いに敵意もないし、戦う分には問題ないのである。 そのときデュリオは、クルーヤの首に掛かっているペンダントに目を向けた。
「そのペンダント、大事にしているんだな……今も」
「ええ、あのときあっさりと返してくれたこと、今も感謝してるわ。 これをくれた友達とも無事に再会できたし、彼女を救うこともできた。 私の、大切な宝物よ」
「………そうか………」
そうペンダントにふれながら語るクルーヤを見て、デュリオは短くそう返事をした。 そのときの彼の様子が気になったクルーヤは、デュリオの顔をのぞき込む。
「どうかしたの、デュリオ?」
「………いや、お前が少し羨ましいと思ったんだ」
「私が?」
首を傾げるクルーヤにたいしデュリオはああ、と頷きつつ口を開く。
「………お前は大事な人との思い出の物を、そうやって肌身はなさず大事にできる。 まるで、つながりを持っていようとしているかのように。 そのためなら……誰が相手でも物怖じしないで、立ち向かえる……」
「………デュリオ……?」
そう語るデュリオの横顔に陰がさしていることに気付いたクルーヤは、彼の表情の意味が気になったものの、当のデュリオ本人はそれをいやがるかのように視線を逸らす。
「おい、見つけたぞ」
「え?」
そんなとき、デュリオが突然としてそう言ってきたのでクルーヤも我に返って確認をすると、彼の指し示す方向には草が生えていた。
「目的を忘れるなよ…お前が探しているのは、あれだろう?」
「あれ……あ、間違いないわ!」
確かにそれは、セルフィスが持っていた本と全く同じ薬草だった。 色も葉の形も覚えているから、同じ物であるのがわかる。 薬草を見つけたのなら、すぐにでも取りに行くべきだと思ったクルーヤは、それに駆け寄る。
「よし、それなら取りに行くべきっ!」
「お、おい!」
「平気よ、これくらい!」
そう言ってクルーヤは崖を上って、その薬草のところに到達した。 彼女の意外な身軽さは、見ていたデュリオも思わず関心をしてしまうほどだった。
「採れたわ……これで、イアンも大丈夫よね!」
「後ろだっ!」
「えっ…!?」
薬草を入手して安堵しているクルーヤだったが、そこに背後から声が聞こえてきた。 振り返ると自分の背後には、数体のメイジキメラがいた。
「きゃあ!」
「ッチ……こんな時に限って!」
メイジキメラの直接攻撃は何とか回避したが、クルーヤ一人で相手をするのはやや分が悪い。 デュリオは短剣を抜いて切りかかり、それによりメイジキメラの敵意は彼に向けられる。
「デュリオッ…」
「すぐにそこから離れて、船へ急げ!」
「……でも、それじゃあ……」
どうやら彼は、クルーヤを逃がすために敵のおとりになろうとしていたらしい。 彼の言うとおりに動くことは、彼を見捨てることになる。 そう思ったクルーヤは自分の魔力を練る。
「メラミッ!」
その魔法は、ここ数日間クルーヤが練習していた攻撃魔法のひとつ。 メラより威力が高い炎の魔法、メラミだった。 その炎の魔法は一匹のメイジキメラを灰へと変える。
「バカ、逃げろと言ったのに…!」
「人を見捨てて自分だけ残っても、仕方ないでしょう!?」
「…ッ」
そうハッキリと言ってくるクルーヤにたいし、デュリオはそれ以上はなにもいえなかった。 そんな彼をよそに、クルーヤは数発連続でメラミを放つ。
「よし、やったわね!」
「………ああ」
そうして自分達に襲いかかってきたメイジキメラを撃退した2人。 無事に2人とも生き残ったことを確信したクルーヤは、薬草がちゃんと自分のポーチの中に入っていることを確信してから、ゆっくりと崖から降りようとする。
「あっ……きゃぁあっ!?」
「おっ…と!」
だがその途中で足を滑らせて、クルーヤは落下してしまう。 だが、地面に体がたたきつけられた感覚はない。
「大丈夫か」
「え、あ、う、うん!」
何故ならば、デュリオが自分を受け止めたからだ。 クルーヤは驚き恥ずかしがりながらも無事を伝えつつ彼から降りると、彼とともに船にかえる。
「はい、薬草を採ってきたわよ!」
「ありがとうございます、これで薬が作れます」
セルフィスはクルーヤから薬草を受け取ると、それで今度は薬を作り出した。 その横ではフィリスが、武器の手入れを行っていた。
「……どうしたの、その武器?」
「ああ……あんたらが薬草探しに行っている間、みょーに魔物がいっぱい襲ってきてさ……その相手をまとめてやっていたら、武器が魔物の血だらけになっちゃったんだよ」
「え……そ、そうだったの……」
視線を別の方に向けてみれば、そこには魔物の死骸の一部らしき物があるし、砂浜もどこかあれている。 あれを全部相手にしていたのだろうか、とクルーヤは顔をひきつらせていた。
「クルーヤ達は、大丈夫だったか?」
「ええ、魔物に襲われもしたけど……デュリオが助けてくれたの」
「そうだったのか、ならよかった! デュリオも、ありがとうな」
「ほぼ相手をしていたのは、そいつだ…オレはなにもしてない」
そう言うデュリオにたいし、クルーヤはそんなことはないわと告げる。
「あなたがいなかったら私、魔物に襲われて薬草もとれなかったかもしれない。 だから……助けてくれてうれしかったの……」
「ほら、クルーヤがこういってるんだ、受け取ってやれよ。 それに…」
フィリスはゴールドの入った袋を、彼に差し出した。
「ちゃんと礼をしなきゃ、あたしの気が済まないしさ。 今はこれぼっちしか渡せないけど、報酬って奴だ」
「………しかたねぇな……じゃあ、もらっておいてやる」
妙に律儀だなと思いつつも、デュリオはそのお金を受け取る。 どうやら彼は、個人で用意した小舟を利用して、かえるつもりらしい。
「あいつが、良くなることを祈ってるぜ」
「ええ、今回はホントに、ありがとう」
「じゃあな」
そう言い残して、デュリオは去っていった。 彼が去っていった方を、クルーヤはじっと見つめていた。
そうして、夜がきた。 セルフィスが薬草から作った薬はイアンにきいたらしく、彼の容態は落ち着きを取り戻していた。
「ここからなら、この…草原の大地の方が近いわ。 そしてそこからさらに進めば雪原地帯・エルマニオン地方ね……」
「それなら、近い方から攻めてみるか?」
「そうですね……」
彼のことなら大丈夫だろうと思った3人は、地図を広げてこれからの目的を決めていく。 その話し合いの末、ここから北側に船を動かし、陸地にあがった先にある広大な大地…通称・カルバド大草原に行くのがベストだという決断に至った。
「まぁそこで事件があったなら、事件あるとこ女神の果実アリって昔から言うし、行ってみるのもいいんじゃね?」
「え、昔から言うんですか?」
「いや、多分言わないと思う」
そうはなした後、彼らはそれぞれでまた別の準備に取りかかっていく。 フィリスはまず、イアンの様子を見ようと思い寝室へ向かったのだが、ベッドの上に彼の姿はなかった。
「?」
どこへ行ってしまったのだろうか、と疑問を抱いていたフィリスだったが、その人物はすぐに発見することができた。 彼がいたのは、廊下の窓の前だったからだ。
「エルマニオン………か………」
「イアン、ここにいたんだな」
「………!」
彼は、窓の外の景色である海を見つめていたのだ。 そのときに何かを考えて呟いていたが、フィリスに声をかけられたことで考えを中断させる。
「……フィリス……」
「もう……大丈夫なのか? 数分前までずっと眠っていたのに……」
「ああ、大丈夫だ……お前達のおかげでな」
そうフィリスに笑いかけるイアン。 その笑顔から、彼の体調はすっかり良くなったことが伺えるので、フィリスは安堵の笑みを浮かべる。
「けど、まだ動かないからな? まだどこかだるそうじゃん」
「………ああ、わかってる……オレに万が一のことがありゃ、お前達が巻き添えを食っちまうからな……。 それは、避けたいぜ」
「……あたしらのことが最優先かよ……」
「なんとなくだけど、お前には言われたくない気がするな」
そう会話をしつつ、今日一日の話をするフィリスとイアン。 そこでイアンは初めて、彼女達がデュリオと再会していたことを知る。
「あいつがいたのかよ…」
「ああ、あたし達……というか、クルーヤに手を貸してくれたんだ」
「そっか……もしまた会うことがあったら、オレもちゃんと礼を言わなくちゃな」
「うん、いいと思う」
そう話をして盛り上がりつつも、イアンの体はまだ完全には回復していないことに気付いたフィリスは、イアンに呼びかけて彼をベッドに戻して彼を寝かせる。
「そうそう、船の操縦はこれからセルフィスがやることもあるから、安心してくれよ」
「え、いいのか?」
「ああ…というのも、あんたが倒れてからここまで船を導いたのはセルフィスだよ。 だから、これからは交代でやっていこう」
「………そっか、サンキューな」
そこでイアンはふぁ、と欠伸をする。
「まぁでも、あとは薬飲んで安静にしていればいいみたいだし……すぐによくなるって」
「だな……とりあえずこのあとは見張りを繰り返しはするけど、もう寝る時間だ。 というわけで、おやすみ」
「……ああ、おやすみ」
そうして言葉を交わした後、フィリスはその寝室を出ていく。 その寝室に一人のこされたイアンは、あることを考えていた。
「………オレは………今、仲間がいる………もう、一人じゃない………。 もう、他人を困らせて迷惑をかけて、喧嘩なんてしない………自分をもてている………自信が、あるのだから………」
体調が悪いときに眠ると、良くない夢を見ることがある。 それはどうやら、イアンも例外ではなかったようだ。
「………もう………あの頃のオレじゃ………ない……」
イアンが見た夢。 それは、イアンの過去に関すること。 その真相を仲間達が知るのは、もう少し先のことだった。
次回はカルバドでのお話をお届けします。
いやぁ、公開を楽しみにしてましたよ。