カルバドの大草原で起きた事件を解決したことで残る果実はあとひとつ、というところまできた。 こうなればこの勢いのままに、最後の果実を見つけて回収しようと思い立ったフィリス達は、カルバドの大草原を越えて別の地へわたる。
「にしても、空気が冷たくなってきましたね…」
「そうだな」
そのとき、冷気が彼らの体に刺さってきた。 地面から生えている草には霜がついており、踏めばバリバリと音が鳴る。
「それはそのはず。 地図通りなら、雪原が近いもの」
「雪原ん? なるほど、通りで寒いわけだな……」
そう言いつつ、クルーヤは持っていた世界地図を広げ、この道の先にあるものを彼らに説明する。 今彼女が指を指しているポイントは真っ白な大地が描かれており、広い。 そして、そこにはポツンとなにかの大きな施設のようなものが存在していることもかかれていた。
「この先のエルマニオン雪原、そこにはエルシオン学園という場所があるらしいわ。 そこになら人がいるはずだし、なにかを知ることが出来ればいいのだけど………」
「…そうですね」
クルーヤとセルフィスがそう会話をしている横でフィリスはふと、どこか険しい顔をしているイアンに気付いたので、声をかける。
「…………」
「イアン?」
「……ん?」
フィリスの声に対し少し遅れて彼女のことに気付くイアン。 そんな彼の様子を見てフィリスは、もしや彼はまた風邪を引いたのではないかとおもい焦る。
「どうした? 口数が少ないけど…まさかまた…」
「ああ、大丈夫だ。 風邪は引いてねぇよ…」
「ホントか?」
「ホントだ」
イアンはそれだけを言うと、先に行こうぜとだけ告げてさっさと歩き出していってしまった。
「イアン、どうしたんだろ?」
「なーんか、隠し事でもしてるっぽくね?」
「隠し事……ねぇ。 でも今までそんな素振りとか見せなかったしなぁ。 ここにきて、急にああなっちまっうなんてな…」
もしや、この雪原には、彼に関する秘密がなにかしらあるのかもしれない。 そのことを念頭に置きつつ、フィリス達は防寒体制を整えた後で雪原を進むのであった。
「ニンゲンハッケン、シンゲキセヨッ!」
「って、なんなんだよー!?」
が、そう簡単に先に進ませてくれるわけがなく。 雪原を進むものには容赦なく魔物が襲いかかってきた。 雪原に生息しているだけに、冷気を含んだ魔物達が。
「かえん斬りっ!」
「メラミッ!」
しかし、冷気を含んでいるだけあって、火炎系の攻撃が非常によく効く。 だからフィリス達も、その相性を理解して戦い抜いているのである。
そんな感じで魔物と戦いながら雪原をせっせと進むフィリス達は、目の目にそびえ立つ施設に目を向けた。 どうやらここが、このエルマニオン雪原に存在している、人がいる場所エルシオン学院らしい。
「ここが、エルシオン学院かぁ」
「噂だけなら聞いたことがありますけど……へぇ……ここが………」
このエルシオン学院はこの世界では非常に有名なものであるようだ。 勉学に励み、知識を得て、武術も学べるこの地。 自分が目指しているというものもいれば、自分の子に入学させたいと望む大人もいる。 なんにせよここはこの世界でも有数の進学校なのである。 そんな場所に足を踏み入れてもいいのだろうかという、若干の戸惑いを覚えながらもフィリス達は、門をくぐってみようと思っていた。
「ようこそ、エルシオン学院へ!」
「わっ!」
「私がここの学院長です! あなたが探偵の方ですね?」
「え、いえ…違います」
そのとき、突如として目の前に学院長と名乗る初老の男性が現れて、フィリス達に声をかけてきた。 どうやらフィリス達を誰かと勘違いをしているかのようであり、彼女達は学院長の言葉を否定する。 だが、それにたいし学院長はカラカラと笑った。
「またご冗談を!」
「冗談なんかじゃないですけど……」
「面白いことを仰るとは………やり手の方だと、お見受けしましたぞ! しかもお仲間の方々までいらっしゃる………探偵さんは、実に慕われているのですな……!」
「いやだから…」
必死になって止めようとするフィリス達だったが、学院長は自分のことばかりしか考えていないようであり、勝手に話を進めていってしまった。
「さてと……ここで話すのもなんですから、歩きながら話をしましょう!」
「いや話を聞けよっ!?」
そんなツッコミも空しく、学院長はフィリス達を連れて学院の中にいってしまった。
「実は今もなお例の件は続いておりますし……私たち教師でもお手上げな状態になってしまっているのですよ………」
どうやら話を聞くに当たり、このエルシオン学院では、生徒が次々に姿を消してしまうという謎の怪現象が起こっているらしい。 これ以上問題が起き続けると、学院の信用は失われてしまうそうだ。 そこでこの学院長は探偵を雇い依頼をすることで、事件を解決させようとしていたと言うところだろう。
「というわけで、話に流されるままに…制服を渡されちまったけど…」
流されるがままに、フィリス達は探偵にしたてあげられてしまい、この事件を解明することになってしまったのであった。 今彼女達の手元にあるのは、この学院の制服である。 きっちりと、イアンとセルフィスには男性用、フィリスとクルーヤには女性用の制服が渡されていた。
「まぁ面白そうだし、いいんじゃないかしら? こういう格好も一度はやってみたかったし!」
「そうそう、事件あるとこ女神の果実アリって言うし」
「そうなのですか?」
「いや、きいたことねーよ」
取りあえず今は探偵のフリをして話を合わせるしかないようだ。 彼らはすぐに制服に着替える。 その横でイアンは制服をきているものの、あまり乗り気でないような顔をしていた。
「………」
「どうかなさったんですか?」
「……なんでもねーよ……。 さ、さっさと行こうぜ。 事件解決させるんだろ?」
「は、はい……」
様子のおかしいイアンにセルフィスも気付いたが、そう言われてしまったのでそれ以上の事情を聞くことはできなかった。 制服に着替え終わったところで学院長の元をもう一度訪れる。
「あの、着替え終わりましたけど………」
「おお、よくお似合いですぞ! この学院の生徒は難しい年頃のものもおります。 あなた達のことは、この学院の新入生ということで話を通していますので、彼らもきっと心を開いて話をしてくださることでしょう」
「話、ねぇ……」
「あなた達のために学生寮もお貸しします、どうぞ」
そう言って学院長は、学生寮の、自分達の部屋の鍵を人数分渡してきた。 これで準備完了だと思った4人は、早速行動開始だと言って動き出す。
「いきましょう、イアンさん」
「………ああ」
イアンも彼らとともに、学院の中を歩き出していった。
「…………はて? あの金髪の男………どこかで……?」
そして学院長は、イアンの姿を見て首を傾げたとか。
この学院について調査する前にまず、自分達に貸し与えられたという学生寮の自室へ向かったフィリス達。
「ここが、私達の部屋かな?」
「部屋番号からして、間違いはなさそうだな」
チャリ、と音を鳴らしながら渡された鍵を確認するフィリス達。 自分達の部屋番号は9番のようであり、この部屋で間違いないようだ。 ハッキリ言って、あまり大きくない部屋だが、まぁどうせ話し合ったり寝たりするだけなのだからいいだろうと思いつつ、彼らはその扉の前にたつ。
「なにか…話し声が聞こえますね…」
だがそのとき、部屋の中から声がした。 どうやらこの部屋の中に誰かがいるらしい。 声からして相手は男性しかも複数いるようだ。
「ったく納得できねぇ。 オレ達の仲間だけがさらわれるなんて…やっぱりおかしいぜ!」
「なぁ、アレってまじかな? 幽霊がさらうってやつ」
「そんなのただのウワサだって。 ビクビクするなよ」
話し方や、こんな誰もいない部屋に複数で屯しているようなヤツだ。 きっと、不良というやつなのだろう。 フィリス達は部屋に入るタイミングを計りつつ彼らの話に耳を傾け続ける。
「それよりもモザイオさ。 次の標的はお前かもよ? 誘拐犯がきたらどうするよ?」
「へっへっへ、上等だぜ!」
モザイオ、と呼ばれた少年は腕まくりをしながらにやりと笑った。
「やれるもんならやってみろってんだ! そんなヤツ、返り討ちにしてやるって!」
「おぉぉ!」
「流石モザイオ、やっぱ頼りになるぜ!」
その話を聞いたところで突入のタイミングだと思ったフィリスは、ドアノブに手をかけて一気にあけた。
「よっ、じゃまするぜー」
「フィリス、言い方」
フィリスの言い方に対し、苦い顔をしながらツッコミを入れるクルーヤ。 その発言は、彼女が本当に天使なのか疑ってしまうようなものだった。 そんな調子ではいってきたからだろうか、早速モザイオ達はフィリスにガンをとばしてきた。
「あぁ? なんだ、てめぇは?」
「そいつはこっちの台詞だ。 あんたらこそ、ここでなにをしていた?」
「そんなの、オレ達の勝手だろ? それともなんだ、邪魔をするってんなら勝負でもするか?」
「受けて立ちたいけど…厄介事をするほど、あたしも弱くなった覚えはないんでね。 とにもかくにも、ここは今日からあたしの部屋ってことになってるんだよ。 だから、早々に騒ぎを起こしたくないの」
それを聞いて、モザイオは一度きょとんとしたあとで自分の記憶を巡らせ、フィリス達の正体に気づく。
「あー…そういやウワサがあったっけ? ふーん、お前達が新入生ってヤツか」
「な、なんだよ?」
モザイオ達はジロジロとフィリス達特にフィリスをみる。 最初の素行などから一度は疑ったが、フィリスが女だとわかるとその顔ににやりと笑みを浮かべた。
「なんだよ、おまえ女かぁ」
「だったら…何だ?」
明らかに自分が女だと知って嘗めにかかってきている。 そう感づいたフィリスは不良をにらみ返す。 そんな二人をみてセルフィスは争いはいけませんと説得しようとあわてだし、ほかの不良はクルーヤに目を向けていた。
「お、こっちの子は随分とまぁ…」
彼らが明らかに卑しい目でクルーヤをみてきたので、そこでクルーヤは指先に小さく炎をともして見せた。 それをみて、不良達は驚く。
「わっ!?」
「妙な動きを見せたら、やけどしちゃうかもよ?」
「ッチ!」
その行動をみて、クルーヤが魔法を使いこなせることを知った。 これ以上この4人に関わったら自分達の身が危ないと悟った彼らは、その部屋から出ていくことを決める。
「占領しちまって悪かったな! おいお前等、ずらかるぞ!」
「おう!」
そうモザイオは仲間達に呼びかけて、そこを出て行こうとしたが、途中でイアンの顔を見る。
「あ……あんた……!?」
「……………」
その顔を見てなにかに気付こうとしていたモザイオだったが、イアンはそんなモザイオを黙らせる。 だからだろうか、そんなやりとりがあったことなどフィリス達は気付いていなかった。
「さ、荷物をおいたところで、早速学園内の聞き込みをはじめて見ようぜ!」
「ええ、聞き込みは探偵の基礎だものね!」
「では、分担して行いましょう。 そしてある程度話がまとまったらあそこの影で集合……という形でいいですか?」
「ああ、かまわないぜ」
情報収集や、集合場所での会議の話もまとまったところで、彼らは行動を開始する体制に入る。
「にしてもセルフィス、結構ノリノリね?」
「実は推理小説が好きなんです」
「そーかよ」
そうして、彼らは一日使ってこのエルシオン学園でなにが起きていたかを知った。 今この学園では、神隠しが起きているようだ。 先生に逆らったもの、他の生徒をいじめたもの、成績が悪かったもの、素行のわるいもの。 そういった生徒だけが何者かに目を付けられ、次々に姿を消しているそうだ。
「確かに、突然人が消えるってなかなかに怖いわね………」
「ああ。 なんの原因もないのに……奇妙な話だ。 魔物の仕業、というワケでもなさそうだったな………」
「おまけに、姿を消してしまったのは俗に言う不良と呼ばれている人達のようですしね………。 この共通点が犯人のヒントだったりするのでしょうか?」
「でも、犯人の手がかりはなにもなさそーだね」
そう話をあわせていくなか、セルフィスはこの学校の女子生徒から聞いた話を思い出した。
「あ………そういえば……」
「なに?」
「ある女性の生徒さんが、僕に話してくれました。 この学園の中にあるというこの学園の創設者・エルシオン卿のお墓に最近……金色に光る果実をお供えした……と………」
「「「………………」」」
セルフィスが持ってきた情報に対し、フィリスとクルーヤとサンディは思わず黙る。 その果実に心当たりがありすぎたのだ。
「………ねぇ、その果実って………いまはどこにあるの?」
「………それが、先程もいったように本来ならば、お墓にお供えされているはずなのですが………消えていたそうです………」
「…………」
「まさか………マジで、事件あるとこに……ってこと?」
なんだろう、いやな予感がする。 もしその果実が女神の果実であれば、原因は確実にそれなのだ。 やっかいなことになってしまっている可能性が高い。 そこでふと、クルーヤはあることに
「ねぇ、イアンはどこにいったの?」
「え!?」
クルーヤにそう指摘されて初めて、イアンが自分達の近くにいないことに気付いたフィリス達。 そこでイアンを探すために彼らは校内を探し回る。 そこで、金髪の男を見かけたという情報が入ったのでそこへ向かう。
「イアン!」
「…………お前等か」
「なんだよ、邪魔すんなよ」
そうすることでイアンを発見することはできたものの、彼はモザイオとともにいた。 話を聞いてみると、モザイオが舎弟とともに授業をサボっていたので、イアンが注意をしようとしたようだ。 それで、喧嘩が起こりそうだったらしい。
「こいつ、いきなりオレ達に声をかけたかと思えば……授業をさぼるな、後悔するだけだぞとか、いきなり説教をかましてきたんだよ!」
「そうそう! オレ達のこと、なにもわかっちゃいないクセにさ!」
「え?」
不良の言葉を聞いてフィリスがきょとんとしていると、モザイオが口を開いた。
「どーせオレ達のようなバカが真面目に勉強したって、無駄なんだよ! 誰もオレ達に期待なんかしてねぇ………オレ達に更正してほしいのだって、結局オレ達のためなんかじゃなくて……学校の名誉のためとしか思ってねぇんだからよ!」
「……だからって! やりたい放題していい理由になんかならないわよっ! あなた達、そんないいわけをして……こんなことばっかりやってていいと思ってるの?!」
「あぁ? オレ達がなにをしていようと、勝手だろうが」
「なにを……」
この口論の中でフィリスはモザイオに反発しようとしたが、そこでフィリスは彼の背後にぼんやりと人型の何かが浮かんでいるのが見えた。
「!?」
「どうしたの?」
だが、フィリスに気付かれた瞬間にその幽霊は姿を消してしまった。 その姿が見えたのは一瞬だけだったので、特別な加護を受けているとはいえ仲間達には見えなかったようだ。 とりあえず、自分が目撃したものをありのままに伝える。
「今、こいつの後ろに幽霊が見えたんだけど………」
「え、うそ!?」
「はぁ?」
フィリスの言葉に対しモザイオはなにをいってんだ、と言いたげな顔をしてにらみつけてくる。
「幽霊なんて、今時ちっちぇ子でも信じないってーの!」
「いいえ、僕達にはわかるのです……それに、信じないことこそ真の恐怖につながることもあるのですよ………」
セルフィスの言葉に対しモザイオは反応し、彼に一気に顔を近づける。
「もしかして、お前……」
「な、なんです!?」
「オレが幽霊にビビってるとか思ってるのか?」
そのつもりはないのだが、そこでセルフィスは彼が何かをたくらんでいることに気付く。
「………なにを考えているんですか………」
「ここは度胸試しで、勝負したらいいんじゃねぇかと考えてた!」
「度胸試しだって?」
「ああ」
そこでモザイオは、この学園で伝わる話を彼らにも教えた。
「そいつは七不思議のようなもんで……真夜中に天使像のデコにさわったら幽霊がでるって言う怪談があるんだよ! そいつで度胸試しをするという勝負だ! それを今夜やって、どっちがそれを果たせるか!」
「はぁ!? なにをいって………」
「いいだろう」
フィリスはその度胸試しに反対をしようとしていたのだが、そこでイアンが答えた。
「オレが受けて立つ」
「なにいってんのよ、イアン!」
「そうだぜ……こんな……」
仲間達がイアンにそう話しかけていると、そこにいたモザイオがその名前に反応した。
「イアン!? お前、イアンっていうのか!?」
「……」
そうモザイオに問われるが、当のイアンは黙ったままだ。 一方でモザイオはイアンをみて大笑いをする。
「………あっはははは! そうかそうか、思い出したぜ、イアン! ずーっと、どっかでみたなと思ってたけど…その名前でぜーんぶ思い出したぞっ!!」
「え、なに!? あなた達……知り合いなの!?」
「なんだぁ? てめぇら、こいつのことなにも知らないでツルんでいたのかよ?」
そういってモザイオは、イアンを指さして何者なのかをフィリス達に説明し始めた。
「そいつはこの学園でも伝説になったほどの不良の中の不良! ケンカも口げんかも強いと言われた……破壊の使者とまで言われた! 破天荒のイアンだよ!」
「……………ッ」
モザイオにそう、自分の素性を言い当てられてしまい、イアンは悔しげに顔をゆがめる。 一方、フィリスとクルーヤとセルフィスは呆然としていた。
「………」
「………」
「………はて……ん…こー……?」
そして、3人は声をそろえて声を上げた。
「「「えええーっ!!!」」」
ここで判明した真実。 それは、イアンがかつてここの生徒だったこと。 そして、不良の一人だったこと。 そして、伝説といわれてしまうほどに素行が悪かったこと。
その事実にたいし、フィリス達はただ驚くしかなかった。
ここでついにイアンの過去が判明。
実はまだ、元不良である意外に結構ハードな秘密を持っているのですが、それはもう少し先の話とさせてください。