イアンの過去の詳細は、次回。
モザイオの口から、イアンの素性が明らかになった。 その内容について詳しく話を聞こうとしたが、イアンはいっこうに口を割らず気づけば勝負の時間である真夜中になってしまった。
「でも、まさかイアンが……このエルシオンの出身だったなんて………」
「結局あの後、僕達が話をしても…口を開いてくれませんでしたね……」
あの勝負を受けると言ってしまった以上、実際に行わないわけにはいかない。 せめて、天使像のところへ行かなければならない。 だからフィリス達は、夜に校内を調査すると事情を知る先生達に告げて、真夜中に行動を開始したのである。 そんな中、イアンは彼らに告げる。
「みんなわりぃ、オレのことは……今はまだはなせねぇ。 けど………」
「けど?」
「あのモザイオを黙らせて、事件が解決したら全て話してやる。 今はあいつを更正させたいんだ、オレは。 今は、そっちに集中したいから、お前等であっても………はなす余裕がない………それで、許してくれ」
そう真剣に語ってきたので、フィリスは仕方ないと告げながらためいきをつく。
「じゃあ今、約束しろよ。 すべて解決したら全部解決する……って」
「わかってる」
フィリスの言葉に対しイアンは真剣な表情で頷くと、目的の場所にたどりつく。 そこには、見慣れた天使の形をした像がたっていた。
「これが、天使像?」
「これのおでこにさわるんだっけ」
そう言ってフィリスは手を伸ばそうとしたが、突如それを思いとどまり手を止めてしまった。
「どうかしましたか?」
「なんか、あたしがさわるとなると………こう、背徳感みたいのが芽生えてくるんだけど………」
「ああ…お前一応、同族だもんな……いつも忘れるけど」
天使の証である輪っかや翼がないために姿は人にしか見えないが、フィリスは天使という種族なのだ。 そんな同族の像に触れるのは、フィリスにとっては気まずいものなのだ。
「しかたねぇ…オレが代わりにやる」
「わりーな、イアン」
フィリスの心境を察したイアンが、フィリスのかわりに天使像のおでこにふれる。 直後に、モザイオ達が姿を現した。
「あー、お前達なにオレ達よりさきにきてんだよ!」
「モザイオ」
「まぁいいや、今回は許してやる。 オレ様はやさしーからな! それに、デコにさわったのがイアンだというのもあるし!」
「…………」
それを聞いて、イアンは複雑な顔になるが、そんな彼を横目にモザイオは無駄に自信満々な態度で足をたてる。
「それより本題はここからだ! さぁ幽霊さんよぉ! いるなら出てきてみろやっ!! オレ様の必殺メガトンパンチで、あの世に送ってやるぜ!」
「いや、幽霊の時点ですでにあの世の住民だって……」
「びびってんのかぁ、おらぁっ!!」
途中でフィリスがツッコミを入れるものの、モザイオは聞く耳を持っておらず、幽霊をそのまま挑発し続けていた。 しかし、特別なにも起こらない。
「やっぱり出てこないな……」
「やっぱ単なる怪談話だからなぁ。 ホントにでるわけないか」
「へっへん、どうだ! ほらみろ! 幽霊なんている訳ないんだよっ!!」
「そんなことを言ってはなりません……」
その言葉に少し怒りを覚えたらしい、セルフィスが彼らを叱ろうとした、そのときだった。 どこからともなく、声が聞こえてきた。
「………おのれ………夜中に抜け出して…下らん悪さをしおって……。 なんというふざけた生徒だ………」
「なに…!?」
「この声は…なに……!?」
突如として聞こえてきた声に、全員が混乱する。 フィリス達にいたっては、護身用で持っていた武器に手をかける。
「……まさか、マジで……幽霊………!?」
「落ち着けお前等、そんなわけあるかっての!!」
混乱する仲間をたしなめようとしているのか、モザイオがそう呼びかけると、そこに謎の男性が現れる。 厳しい声とともに。
「このろくでなしめ! エルシオンの恥曝しが! 貴様には教育が必要だ!
私の教室へ連れて行ってやる………貴様の府抜けた精神を………鍛え直してやるわっ!」
「だ、だめだっ!! モザイオにげろ…!」
そうフィリスはモザイオに呼びかけようとしたが、あと一歩遅く、現れた男性はモザイオの中に入っていってしまった。
「う、うわぁぁ!? な、なんだ……!」
「モザイオッ!!」
「や、やめろ! はいってくんなぁーっ!!」
モザイオは必死に抵抗を試みたが、それも空しく終わってしまい、モザイオの目はやがて虚ろになっていった。 そして、やがてゆっくり口を開く。
「………ぼくは、ロクデナシ………。 ……ロクデナシには、エルシオンのハジ……。 ………ロクデナシには、キビシイキョウイクを………」
そう口にしながら、モザイオは天使像の上から飛び降りて、そのままどこかへ走り去っていった。 兄貴分の突然の変わりようを目の当たりにした子分達は、呆然としながらモザイオの名前を叫ぶ。
「も、モザイオーッ!」
「後を追うぞ!」
「あ、ああ!」
フィリス達は、どこかへ走り去っていってしまったモザイオを追いかけていった。
「墓が動いたと思えば、こんな道があるなんて……びっくりだな……」
モザイオのあとを追いかけていった先で、モザイオは墓石を動かして地下への階段を出現させていた。 突如として現れた地下への階段に驚くフィリス達だったが、モザイオがそこを降りていってしまったので、急いでそれを追いかける。 そうしてたどり着いたのは、広い地下室だった。
「うぅ、かびくさーい」
「ここは、どういう場所なのでしょう?」
その場所は薄暗く、長年使われていないかのようにカビが生えていてところどころ崩壊している。 おまけに魔物がはびこっており、人間が入ってきたことに反応した魔物達が、フィリス達に容赦なく襲いかかってくる。
「ここは、まさか……」
「知ってるのか…イアン?」
どうやらイアンは、この場所に心当たりがあるらしい。 そこでイアンは彼らにも、あくまで噂でしかないと前提をおきつつ、この場所に関し思うことを彼らに話す。
「……噂があったんだ……」
「ウワサ?」
「エルシオン学園は、昔はあまりの厳しさゆえに…閉鎖された旧校舎が地下に存在しているという噂があったんだ。 …そこではかつて、生徒が亡くなるほどの強烈なスパルタ教育を行っていたという、とんでもない過去を抱えている……って。 それで、その過去は隠蔽されているんだって……。 つまり……この地下室の存在は、その厳しい教育が存在していた証拠なんだよ………」
「なんだって!」
「今更スパルタとか、時代遅れもいいところなんですケド!」
「なんて嘆かわしいことを……」
イアンの話が本当なら、モザイオ達はここに連れ去られ、亡霊となった教師にスパルタ教育を受けている可能性が高い。 もし生徒が命を落とすほどに厳しいのであれば、彼らの身があぶないし、ここで同じ悲劇が繰り返される様子も見たくない。 そう思った4人は、焦りの色を浮かべつつ地下校舎を奥へ進む。
「やだやだやだー! もう解放してよぉー!」
「うぅ! おしっこしたーい!」
「この声……」
そのとき、どこからか声がしたので彼らはその場所を探るべく足を止めて耳を澄ませる。 そこでサンディが一番に気づく。
「ここから、聞こえてくるわよっ!」
「………教室……かしら、この部屋……」
「かもな……」
その扉の奥から聞こえてくる、とサンディがいうのでその扉の前に4人でそろってたち、扉を開ける。 直後に聞こえてきたのは、怒声だった。
「おい、そこのお前!」
「へっ!?」
「遅刻とは見上げた根性だ! 我がエルシオン学院に、ここまでふざけた生徒が増えていたとはな!」
突然怒鳴られ、戸惑うフィリス達。 視線の先には、あのときモザイオの背後に現れた男性の幽霊が立っている。 状況についていけていないフィリス達に対し、男性の幽霊はもう一度怒鳴った。
「なにをぼさっとしている!」
「え、えぇ?!」
「お前のことだよウジ虫! とっとと席につかんかっ!!」
「う、ウジむしぃ!?」
身に覚えもないのに、ウジ虫などといわれてしまい、フィリスは眉をつり上げた。 その直後、フィリス達の存在に気付いたある人物が、彼女達に告げてくる。 それは、モザイオだった。
「だ、だめだ…イアン! こっちにくるなっ!」
「モザイオッ!?」
「すぐに逃げろ! あのじーさんの変な術のせいで、オレは一歩も動けないんだ! こっちにきたら、お前も出られなくなるぞ!」
「…………」
モザイオは自分より、イアン達の身を案じているようだ。 モザイオは引き続きイアン達にここから逃げるように説得をしようとする。
「うるさいっ!」
「グハッ!!」
だがそこに、男性の亡霊の指揮棒がモザイオに襲いかかる。 その一撃は思った以上に威力があり、モザイオは机にふっしてしまった。 そんな彼にたいし男性の亡霊はさらに指揮棒をたたきつけ、勉強をしろと言って怒鳴り散らす。
「なんてひどいことを………!」
「なにこれ、教育というタテを使っているだけの暴力ジャン! 体罰の域を余裕で越えてるんですケド! それを平気でやる方が、学校の恥って奴じゃねっ!?」
「ああ、クソッタレがいるぜ……やめさせよう!」
「そうですね、見過ごせません!」
モザイオ以外の生徒も、顔に疲弊の色を見せている上に体のあちこちにアザが出来ている。 このままでは彼らの命が危ないのだ。
「座れと言っただろうが!!」
「………」
「なんだ、その目は! 貴様私に刃向かうのか!!」
「……ああ、刃向かってやるさ! あんたみたいな暴力教師………いいや、独裁者に従う気はないしねっ!」
自分の言うとおりにしないフィリス達に対し、教師は怒鳴りちらす。 その声や表情には気迫があったが、フィリスはいっさい動じないで言い返す。
「愚か者が! 教師に口答えをするとは嘗められたものだ!! 英雄に出もなったつもりか!」
「ッ!?」
「貴様のような生徒はいらん! その反抗的な態度といい………貴様は……学院のウジ虫だ!」
話の途中で教師は黒い力に飲まれていき、その姿を見る見るうちに変えていった。 その顔は膨張し緑色に変色し角がはえ、背中には小さな羽が生え、腕も足もぶくぶくと変色しながら太くなっていく。 体も非常に大きい。
「私の名はエルシオン! このエルシオン学院の創立者にして、真の教育者!」
「………エルシオン……!」
「さぁ覚悟しろ、たわけ者! ウジ虫に説教など不要! お仕置きをしてくれるわ!」
「上等だ! かかってきな!」
エルシオンの言葉に対しフィリスはそう返すと、剣を抜いて向かってきたエルシオンの本による攻撃を防いだ。 セルフィスは仲間一人一人にスカラをかけてから、敵に対し攻撃魔法を放つ。
「バギマッ!」
「うぐっ」
「メラミッ!」
直後にクルーヤがメラミを打ち込み、エルシオンを追いつめる。 そこにフィリスが切りかかったものの、相手は本でそれを受け止めてフィリスを払いのける。 フィリスは壁を蹴ることで直撃を回避しダメージを軽減する。
「うらぁっ!」
「ふんっ!」
そこで別の方向からイアンが回し蹴りを食らわそうとしたが、エルシオンはそれもまた本で防ぎ、その本でイアンに反撃をした。
「ドルクマッ!」
「うわぁ!」
「イアンッ!」
本による攻撃を防御の姿勢で耐えたイアンだったが、直後にエルシオンはテンションをあげてドルクマを放ち、イアンを吹っ飛して壁に強くたたきつける。
「ヒャダルコォォッ!」
「うわっ!!」
そこでエルシオンはヒャダルコを放ち、フィリス達を激しい冷気で包み込む。 直後に氷の柱が立ち、4人の肌に傷を付ける。 特にダメージが大きいのは、イアンだった。
「イアンさん!」
「セルフィス、イアンの傷を優先的に治して!」
「あたしらは、自分で何とかするから!」
立ち上がってエルシオンの前にたったクルーヤとフィリスをみて、セルフィスは頷くとイアンの元へ向かう。
「セル、フィス……ッ」
「イアンさん、今助けます…!」
そう言ってセルフィスはイアンに対しベホマの魔法をかけ、彼の体の傷を一気にいやす。 前線では、フィリスが剣術、クルーヤが攻撃魔法でエルシオンと戦っていた。
「………みなさん、貴方の話を聞きたいのですよ」
「………だな………」
そんなセルフィスの言葉を聞いて、イアンは立ち上がり自分のテンションをあげるために力をためる。
「ハァァッ…!」
「ドルクマ!」
「させません! バギマ!」
再びドルクマの魔法がイアンに襲いかかろうとしていたが、それをセルフィスの風魔法が妨げる。 直後、イアンは敵につっこんでいった。
「イアン!」
「おうっ!」
フィリスは敵の攻撃を剣で受け止めてはじいたところで、彼の名前を呼ぶ。 それにたいしイアンは笑みを浮かべて返事をすると、エルシオンの懐に飛び込んで拳を深くおとした。
「なにをっ……!?」
「誇り高きエルシオンよっ! 目を覚ませ!!」
そこで、強い力を込めたイアンの拳が深くエルシオンの腹部にささった。
「ぐっ……ほぁっ!」
せいけん突きがヒットしたエルシオンは、崩れ落ちた。 その様子をイアンは黙って見つめる。 やがてエルシオンは苦しそうに呼吸をしながら、語り出す。
「いかん……私がいなければ、エルシオン学院は、不良の巣……に………」
「冷静になれッ! あんたがやってるのは、更正なんかじゃないことに………気付け!!」
苦しそうにしているエルシオンにたいし、イアンは怒号を込めた言葉を突きつける。 すると、まるでその声に答えるかのようにして、エルシオンの身に変化が現れる。
「ググゥォオオオオ! あ、頭が割れる………! ウォォオォオオッ!!」
そして、その体から強い光を放った。
「………あれは……」
やがてエルシオンの体から放たれていた光はやみ、そこにはあの男性の幽霊がたっていた。 おそらくこれが本当の、エルシオン卿なのだろう。
「………私は………いったいなにを………? こ、ここは………私の教室ではないか………」
そのエルシオン卿には、先ほどの厳しさは感じられない。 エルシオン卿は、席に座らせられている生徒達をみて、呆然としていた。
「…………キミ達はエルシオンの子か。 いったいどうしたというのだ? それほどやつれた顔をして………」
「なにいってんだ、ふざけんなッ! てめぇが閉じこめたからだろ! おまけに、オレのことをたたいたりしやがって!」
モザイオがいの一番に啖呵を切り、これは彼の仕業であることを突きつける。 それに続いてほかの生徒も、不満の声を上げていた。 そんな彼らの言葉を聞いて、エルシオン卿は記憶を呼び起こす。
「………そうだ………思い出したぞ………」
すべてを思い出したとき、エルシオン卿は彼らに対し、謝罪の意味を込めて頭を下げた。
「すまない。 エルシオンの子らよ………。 私は正気を失っていたようだ………」
「なにをっ……!」
ここまでして、許されないことは百も承知だと思いながらも、エルシオン卿はこの行為にでた理由を彼らに説明する。
「………私はなんとしてでも、キミ達に更正してほしかったのだよ…。 その理由がわかるかい?」
「えっ?」
「キミ達が、才能あふれる若者だからだ。 磨けば光る原石なのだ。 なのにキミらは努力をしない………。 自分はなにもないと、諦めてしまっている…故に……反抗的な態度を見せてしまっている……勿体ないことをしてしまっているのだ………」
「………」
「だから私は果実に願った。 キミらに教育を施すためのチカラがほしい……と………」
「けど、魔物になってしまったんだ………。 いきすぎた熱意が果実のチカラで暴走してしまった………」
「そう、その通りだ……」
そう言ってエルシオン卿は、女神の果実をとりだして、机におく。 まるで、その果実と決別をはかるかのように。
「………すまない。 私は間違っていたよ……」
エルシオン卿はモザイオ達にもう一度、謝罪を告げると、今度はイアンの方をみた。 まるで、イアンがかつてはこの学院にいたことを見抜いているかのように。
「……キミは、かつてこの地で勉強をしていた子…なんだね……?」
「…………」
「こうして私を止め、己の命を懸けて学友を助けにくるような………そんな立派な生徒がいることを知って、私は安心して眠れる…………」
そうエルシオン卿は穏やかなほほえみを浮かべて言うと、その体を光に包み込ませていった。
「………見守っておるよ、ずっと………」
そういいながら、エルシオン卿は光に包まれて消えていった。 どうやら未練はきえ、成仏していったようだ。
「………ったく、そう思っているなら最初から言えってはなしだよ! おせっかいなじーさんだな!」
「わたし達のこと、そんな風に思ってくれていたんだ………」
「………おれ、これからは、ちゃんとマジメに授業を受けようかな………」
とらわれていった生徒達は、自分の体が自由になったことに喜び、開放感に満ちあふれていた。 そんな彼らに対し、イアンはかつての自分を思い出しながら、彼らに告げる。
「オレも、同じだよ」
「えっ?」
「オレは確かにここで荒れていた……。 …でも、そんなオレに才能があるって………オレは喧嘩以外の取り柄もある……そして、それを活かせる道があるんだって………教えてくれた人がいた。 だからオレは武道家として、武術の道を究める道を選んだんだ………」
「イアン……」
イアンの話を聞いたモザイオは、彼に直接たずねる。
「オレ達も、あんたみたいに……スゴい人に………なれるかな………?」
「………ったりめーよ。 今からならまだ、間に合うぜ………」
そうモザイオ達に笑いかけるイアンをみて、そしてエルシオン卿の言葉を思い出して、フィリスは少し目を細めてつぶやいた。
「原石かぁ」
「?」
「ううん、ただ師匠も同じように思ってくれていたのかな………って思っただけ………」
そのとき師匠のことを、少しだけ思い出したフィリスなのであった。
その手に、生徒を強く思うものの心が宿った女神の果実をしっかりと、握りしめながら。
次回はイアンの謎を解明し、新しい展開にすすみます。