この村の第一印象はホント最悪だったなぁ。
すべて知った後だと、余計にそう思えてなりません。
女神の果実がすべて集まり、それを天使界に届けようとした矢先のこと。 フィリスはその途中で自分の師・イザヤールと再会を果たした。
「ハァ…」
しかし、再会の喜びもつかの間。 イザヤールはフィリスに剣を向け、裏切ったのだ。 そのときにフィリスは重傷を負い、女神の果実を奪われ、再び天高いところから落とされてしまったのだ。 それによりフィリスは身も心も傷ついてしまった。
「こんなところに迷い込んだとか、マジ最悪なんですケド…」
そんな彼女が迷い込んだのは、ナザム村という小さな村だった。 だがこのナザム村は、異常なまでに外からきた人に冷たく、フィリスのことも見捨てようとしていた。 フィリスは前にも高いところから落下して重傷を負ったのだが、そのときはリッカに助けられた。 だが、今回はそれがなくなりかけていた。
「フィリスさん! ボクだよ、ティルだよ!」
「……ティル?」
なくならなかったのは、今彼女に声をかけているこの少年のおかげである。 ティル、と呼ばれた少年はフィリスが休んでいるこの小屋の中に入ってきてすぐに、彼女の容態を本人に聞く。
「怪我の具合はどう?」
「ああ、だいぶよくなったよ」
「そっかそっか! よかったぁ!」
そう言ってフィリスは、ティルに笑いかけてみせる。 フィリスの体はよくなったと知って笑顔を浮かべたティルだったが、すぐに寂しげな顔になった。
「ん、どうした?」
「………ごめんなさい………」
「………なんでティルが謝るんだよ? あんたは何も悪くないじゃん」
「ううん、ボクもあの村に今は住んでいる身だもの………ボクもあの村の一員も同然だ………。 それに……ホントはちゃんとしたところで治療もして、休ませたかったのに………この泉にたってた……いつ壊れるのかもわからない小屋で……手当をすることになっちゃった。 ボクがもっとしっかりした大人とかなら、ちゃんとみんなを説得して……フィリスさんを助けてあげられたのに………」
この少年、ティルはナザム村の出身のようだが、ほかの村人とは違い彼女を助けようとしてくれた。 ティルの話では村の中にこのまま置いておくことに反対した村人により、フィリスをこの小屋まで運んでから治療を受けることになったらしい。 現に今も、時折村人とは会ったものの、出て行けと言われてしまう。
「なーに、これくらい慣れっこだって」
野宿に慣れている身としては、こういった小屋でも休めるだけ贅沢になるものだ。 おまけに、ナザム村のあの冷淡な態度に比べれば、自分を好意的に受け止め助けてくれているティルには好感が持てる。 心身ともに追いつめられていたフィリスにとって、この少年の存在はありがたい。
「そっか………フィリスさん、仲間がいたんだ………」
「うん」
今回、フィリスはティルに自分には仲間がいたことを話していた。 イアンとセルフィスとクルーヤとパーティを組んで、ともに旅をしていたことを。 そんな彼らとは離れ離れになってしまったことを。 そして、あとでサンディから聞いた話を頼りに、フィリスは今後の目的を決めていた。
「その仲間に会うためにも………あたしは黒い竜とやらを追わなきゃいけないんだ。 そこに手がかりがあるかもしれないしな……!」
「…………」
「だから、傷が治ったらすぐに出て行くつもりだよ………。 ナザムの村人に言われなくてもな………」
ナザム村の人達は、フィリスというよそものが村の近くにいるというだけで虫唾が走るものなのだろう。 それをフィリスも薄々と感じ取っており、自分の傷も少しずつ癒えてきているのも、目的があるのもあって、すぐに動き出す体制にすでに入っていた。
「そうだ! ボク、おもいついたよっ!」
「ん、なんだ?」
そんなフィリスの姿を見たティルは、彼女の力になりたい一心で、彼女にあることを告げる。
「この近くに、ドミールって地があるんだ! そこにはグレイナルっていう伝説の英雄がいるんだよ! グレイナルに会うことができれば、力を貸してもらえるかも!」
「空の英雄!? そんなのがいるのかよ!?」
「うん……それにね、ドミールに行かなきゃいけないことになるんだけど………ボク、いいことを知ってるんだ!」
そしてティルは、ナザム村に伝わるという伝承もフィリスに教える。
「ドミールへの道を目指す者現れし時。 像の見守りし地に封じられた光で、竜の門を開くべし………っていうナザムの村の人達しかしらないお話!」
「どういうことなんだ?」
「像のみまもりし地っていうのはね、ここからずっと西にある、魔獣の洞窟って呼ばれているところのことらしいよ! でも、その洞窟の入り口を開ける方法は……今はもう誰も知らないんだって………」
そこまで語ったティルは、徐々に顔色を曇らせていった。 フィリスの力になりたくてこの伝承を話してみたはいいものの、その肝心な部分を知らないことで、役に立ててないことを実感してしまったのかもしれない。
「ティル…………ありがとう」
しかし、ティルがフィリスを全面的に助けたいと思う気持ちは本物だ。 その気持ちに対して思ったことを、フィリスは彼に笑いかけながら告げる。
その後ティルは、すぐに村に帰らなきゃいけないと言っていたので、一度フィリスが休んでいる小屋から立ち去っていった。 彼が去った後、少しだけ歩いてみるかと言ってフィリスは、小屋を出て少しだけ歩いてみる。
「そっか、ドミールとか空の英雄とか、ああいう意味があったんだね」
「そういう話を聞いていたのか」
「うん。 そのときのアタシは、あいつらがなにをいってるんだかサッパリで………急展開で、テンパってて………ついていけなかった」
「……………」
そのときにサンディは、天の箱船でなにがあったのかを思い出しながらフィリスに話し聞かせた。 そのときフィリスは、ふっと顔を暗くさせる。 その理由は、天の箱船で会ったあの天使のこと。
「…………師匠…………」
フィリスには、まだ理解できなかった。 あそこにいたイザヤールは、自分が会ったあのイザヤールは一体何だったのだと。 彼はどうして、あのような事をしてしまったのだろうかと。 イザヤールの豹変は、フィリスの心に深い傷を残した。
「イアンもセルフィスもクルーヤも……みんな、無事かなぁ………?」
それだけではない。 ともに天の箱船にも乗ったほどの、自分と運命をともにすると決めてくれた仲間のことも考えていた。 彼らもバラバラになって、この世界のどこかに散っていってしまった。 そんな彼らに対しフィリスは、自分が巻き込んでしまったのではないかと思ってしまっているのだ。 彼らが無事なのか、どこにいるのか。 それにたいする不安がフィリスにのしかかる。
「フィリス」
「ん?」
ティルには気丈に振る舞っていたために見せなかった、不安の感情。 それが一人きりになったときにあふれてきていた。 そんなとき、サンディは何かに気付いてフィリスに顔を上げさせる。
「あそこにいるのは……」
それにより、フィリスは気付いた。 そこには、深くフードをかぶった女性がいた。 その女性を、フィリスは知っている。
「……………また、ここに戻ってきてしまった………まだ、目的は果たせていないのに………」
「あの、あなたは………」
「………!」
その女性はなにかを呟いていたが、声をかけられたことで振り返る。 そのときに顔がわかり、その顔を見たフィリスはやっぱりと呟く。 何故ならば、フィリスはこの女性を旅の中で何度も見かけたからだ。
「あなたは……旅先で見かけた人! もしかして……ずっと私のことが見えてるの………?」
「うん、見えるけど………」
「これまで、誰も私に気付かなかったのに………」
とりあえずフィリスは、自分の名前を名乗る。
「あ、えーと………あたしはフィリスだ。 あなたは………」
「私の名前は………ラテーナ………」
「ラテーナ…さん? ラテーナさんは、ナザム村の人なの?」
フィリスの問いにたいし、ラテーナはうなずき彼女にお願い事をする。
「見えているなら、お願いがあるの………あの村に置いてきた……私の宝物を探してきて………」
「宝物?」
「ええ……誰にも盗られないようにって隠していたの。 とても大事なものだから………失いたくなかった。 今の私には出来ないことだから、かわりにかなえて…………」
「……………」
「天使像の下に隠したことは覚えているわ………だから……お願い………」
そうラテーナは、フィリスにそうお願いをする。 話を聞いてしまった以上、フィリスは生来の性分ゆえにこの頼みを断れない。 頭をポリポリとかきながら、そのお願い事をきくことにした。
「あの村にはいたくないけど………仕方ないなぁ………」
フィリスはこっそりとナザム村に入って、ボロボロの天使像を発見してその足下を調べてみる。 だがそこにはなにもなく、それにたいしサンディはガセネタを掴まされたと不満を露わにした。
「ティル、悪いな」
「ううん、いいんだよ。 これくらいのこと、お手伝いさせて?」
そこでちょうどいいタイミングでティルがフィリスの存在に気付き、フィリスが天使像の近くにあるものを探していることを知ると、ティルは心当たりのある場所があるといっていた。
「ちょっと、行ってくるね!」
「ああ、頼むよ」
そうしてティルは心当たりのある場所もとい教会へと向かった。 フィリスは、村人にばれないように隠れている。 その数分後、ティルは教会から出てきた。
「あったよ! ねぇねぇ! これかな?」
そう言ってティルがフィリスに見せてきたのは、金色の縁に青い不思議な宝石が埋め込まれたペンダントだった。 とても美しいそのペンダントをフィリスは確認のためにティルから受け取ると、そのペンダントは光をはなった。
「わっ!」
「わぁ、フィリスさんが持つと光るんだね! とってもキレー!」
「はは、そうだなっ」
ティルとフィリスはそのペンダントが光を放ったことに感動して、笑顔を浮かべる。 そして、そのペンダントこそがラテーナの大切なものだと悟ったフィリスはティルに言う。
「探していたものは、これで間違いない! お手柄だぞティル!」
「えっへへ」
フィリスにほめられ、ティルは上機嫌になって照れ笑いをする。 さっそくこのペンダントをラテーナのところへ持って行こうと決めた、そのときだった。
「……おまえはっ!」
「あ……おじ……村長さん!」
そこにいたのは、ナザム村の村長だった。 フィリスを一番に不審に思い、すぐに出て行ってほしいと思っている人物であり、ティルのおじにあたる人物。
「……まだこの村にいたのか」
「悪いかい?」
「当然だ。 今まではけが人………かつティルが面倒をみると言い切ってしまったが故に…敢えて見逃してやっていたもの。 おまえにはすぐに立ち去って貰いたくて、もやもやしているんだ」
「……………………」
「そこまで動けるのなら、もう長居は無用のはず。 早々に出て行ってもらおうか」
「そんな……!」
ティルは、フィリスにはまだけがが治っていないはずだと言っておじに反発しようとする。
「言われずとも、この村には他人のお願い事を聞いて………それをかなえたい一心で立ち寄っただけだ。 それが終わればすぐに立ち去る………」
「ふん、こんなときに他人のことを考えるとは…………余所者に加えて偽善者というわけか………?」
村長の言葉が刺さり、そして隣ににいるティルをみたフィリスは、村長を鼻で笑ってみせる。 それにたいし、村長はなにがおかしい、と怒りを見せた。
「べつに? あんたも、偽善者のようなものの気がしただけさ…」
「なにっ!?」
「この村の、こんな風習があるというのに……いくら甥っ子であるからとはいえ、あんたはティルを引き取った。 そうすることで、自分はほかの町からきたからとはいえど、身内を見捨てない優しい人ですよーって…アピールしたいんじゃないのか?」
「なっ!」
「そんな自分のことしか考えてない、ティルの本当の気持ちも分かってやれない。 そんな人が村長のこの村は……よく今までこうして村としての形を残せていたもんだ………。 普通ならとっくに滅びている。 …………奇跡だな……!」
あの小屋で手当をしている間、フィリスは小屋に石を投げつけられていたのを覚えている。 誰も、自分におびえているのか、中には入ってこようとはしていなかったが。 そのときの鬱憤を、フィリスは村長を前にして打ち明けていく。
「古い伝承も、根拠も理由も考えないですがって、結果として自分達にストレスあたえちまってんじゃねーか」
「………………」
「ちょっとは変えようという方向に、頭を回しなよっ! そうしなきゃ、あんた達は永遠にだれも信じられない、孤立したまんまだ! そんなヤツに…差す光はない!」
そう捨て台詞を残して、フィリスはその村を去っていった。 最後にティルにだけは、優しく笑いかけながら手伝ってくれてありがとう、と告げてから。
「…………フィリスさん」
その言葉を聞き、ティルは自分の服を握りしめていた。 そして、彼女は自分の気持ちを代弁してくれたのだと気付く。
「……………ボクは……………」
「…………………」
希望の泉にて、フィリスを待っている間。 ラテーナは空を見上げながらあることを思い出していた。
「…………あの、大丈夫ですか?」
ナザム村を流れる川のそば、そこでラテーナは信じられないものを目撃した。 それは、傷ついた金色の髪の男性。 だが、ただの男性ではないことが、背中から生えている大きな翼が証明していた。 驚いたものの、ラテーナは傷ついたその人物を放っておくことが出来ず、家につれてかえって手当をした。
「それじゃあ……あなたは、本当に天使なの………?」
その人物はラテーナの賢明な看護によりみるみるうちに回復していき、その人物が実は伝承にあり自分達を守っていると伝えられている、天使であると知る。 そのときにラテーナは、このナザム村ではエルギオスという守護天使に守られている……という伝承を語った。
「なんじゃ、おまえさん方は! この村にめぼしいものなどない! すぐに出て行ってくれ!」
「そうはいかぬ。 この世のすべてはわがガナン帝国のもの。 たとえこのようなちっぽけで、ゴミためのような村でもな!」
だがそんなある日のこと、ガナン帝国を名乗る国の軍勢がナザム村を訪れていた。 傲慢な態度でそう言い切り、ラテーナに目を付けてきた。
「差し出すものはモノであるとは限らん。 たとえば……そこの娘はなかなか器量がよさそうだ」
ガナンの兵士はラテーナを帝国への貢ぎ物として、連れて行こうとしていた。 それにたいしラテーナは必死に抵抗する。 彼女の父である村長も、それに抗議する。
「いやです、離してください!」
「こなければ、この村はどうなるかわからんぞ?」
だがガナンの兵士は彼らの抵抗を力で圧して、強引にラテーナを連れて行こうとしていた。 そのとき、雷撃が兵士達に一斉に襲いかかってきた。
「やめろ! この村に……彼女に手を出すなっ!!」
ラテーナの声を聞いた、その天使がこの場に駆けつけたのだ。 天使は、雷を放って兵士を次々に吹っ飛ばしていく。
「な、なんて力………! き、キサマは………まさか………!?」
「くっ……このガナン帝国に逆らったらどうなるか………それがどれほどおろかなのかを思い知るといい!!」
そう言い残し、ガナンの兵士は立ち去っていった。 そこで、ラテーナの記憶はとぎれる。
「……………私のせいで…………」
その記憶の中でラテーナは、ある理由から罪悪感を抱いていた。 天使にたいする想いと、そこからくる苦しみ。 それが、ラテーナの未練そのものだ。 その人物を見つけ、そして償わねばならない。 だから、探し続けている。
「ラテーナさん!」
そのとき、ラテーナの元に、彼女の宝物を探していたフィリスが戻ってきた。 フィリスのことに気付いたラテーナは振り返り、彼女をみる。
「フィリスさん……」
「あなたが探してたのって、これのこと………?」
「………見つけてくれたのね」
フィリスは首飾りを見せることで、ラテーナに確認をすると、ラテーナはそれこそが自分の探していた宝物だと肯定するように頷いた。
「…………それは、あの人が私にくれた、大切な首飾り……」
「やっぱり……」
正解だったんだ、と知ったフィリスは安堵の笑みを浮かべた。 そうしてラテーナに手渡そうとしたとき、その首飾りは先ほどと同じように光を放つ。
「これは………」
「おっ、また光った!」
その光を見て、ラテーナは驚きそして、フィリスの正体に気がつく。
「……天使が近くにいると光を放つって、あの人が言ってた…………。 まさかと思ったけど、あなたもあの人と同じ………天使なのね………」
「…まぁな。 今はワケあって輪っかも翼もないけど………」
「………そう………」
フィリスが天使であることに納得しつつも、ラテーナはつぶやく。
「でも、私にとって天使は……あの人だけ。 その首飾りをくれた、あの人だけ…………」
「あなたは天使と関わったのか……」
「…………………」
そうフィリスが言うと、ラテーナは黙り込む。 マズイ事を聞いちゃったかなとフィリスが気にしていると、ラテーナはその首飾りを首にかけると、何かお礼がしたいとフィリスに申し出てくる。 そのとき、サンディが飛び出してきた。
「じゃあさ、昔の村の人だったんなら……魔獣の洞窟の入り口の開け方しらない?」
「まぁ、かわいい。 妖精さん?」
「……か、かわいいだなんて……そんな当たり前のことを言われましても……。 それに…アタシは妖精じゃないんですけど……」
「まんざらじゃないね」
「しっ!」
ラテーナの率直な感想を聞いたサンディのリアクションにたいし、フィリスは少しだけにやっと笑いながらからかう。 そんな二人のやりとりに目を向けつつ、ラテーナは確認をする。
「あの洞窟に行きたいの?」
「ああ……どうしても必要なんだ」
フィリスはラテーナの問いにたいし、そう真剣に答える。 すると、ラテーナはそれにたいし首を縦に振った。
「その開け方なら知っているわ」
「ホントか!?」
「ええ……先に行っているから、すぐにきて………」
そのとき、フィリスはティルのことを思い出す。 自分がここで行動する理由は、仲間のためにドミールに向かいたいからじゃないことを、確認するために。
「ティル、行ってくるよ」
彼のためにも、ナザムの村をなんとかしてあげたい。 もし自分が洞窟を突破して人々の信頼を得ることができれば、ティルも生きやすくなるはず。 今はただ、そう信じるのみだ。
ちなみに、仲間達をバラバラにしたのは、ちょっとした違和感を消すためです。