フィリスはルイーダという女性の救出に成功し、彼女の目的を知る。
その誘いに一向に答えなかったリッカだったが、父の想いを知り、父の遺志を継ぐためにセントシュタインの宿屋へうつることにした。
その様子を見守っていたフィリスは、その際に出会った謎の妖精・サンディとともに、旅立つのであった。
仲間との出会い
セントシュタインとウォルロ村をつなぐ峠の道を塞いでいた土砂崩れは取り除かれ、ルイーダとリッカは村人達に見送られながらセントシュタイン城へ向かった。 なお、少々の不安はあるものの、リッカがかつて運営していた宿屋はニードに受け継がれたそうだ。
「ニードはともかく…リッカなら、きっとうまくやっていけるよね」
セントシュタイン城へ向かったリッカとルイーダを見送ったフィリスは、サンディとともに、天の箱船の墜落現場へと向かった。 天の箱船はサンディの合図とともに扉を開く。 天の箱船の内部は金でできており、赤いシートが敷かれた座席が存在していた。 とはいえ、サンディの趣味には合わないようで、そのうち飾り付けをしようとしていたらしい。 フィリスは内心、やめたほうがいいんじゃないかと思ったそうな。
「ぶっちゃけな話、アタシも天使界がどうなったかを知りたいし、天使界へ向けてこの天の箱船を動かすヨッ」
「おっし! やっちゃって!」
「それじゃ、いっくよー! す・す・す・スウィッチ・オンヌッ!」
「オンヌ?」
妙なかけ声をあげながら、サンディは天の箱船の機動スイッチを入れる。 だが、天の箱船はいっさい動かなかった。
「あーあ、やっぱりダメだったかぁ…アタシ的には天使を乗せれば動き出すと思ってたのになぁ? やっぱ、天使の癖に星のオーラが見えないというか…それ以前に天使の翼も輪っかも無くしちゃってるから、天使としてみられてないんじゃね?!」
「………」
サンディの言葉を聞いて、フィリスはギロリとサンディをにらみつける。 その顔を見てサンディはフィリスが怒っているのだと気付く。
「あれれ? おこるんだぁ、超ウケルー!」
「おい」
「あ、えーと……じょ、冗談だから睨まないでネ? そんで、剣をすらーっと抜くのも…やめて……ネ……?」
「………ッチ」
舌打ちしつつ、フィリスは剣を鞘に戻す。 それをみて安心しつつも、サンディは何故箱船が動かないのかを考え出す。
「…そもそも…神サマも神サマだし! なんでこんなときに助けてくれないのか………。 もしかして、アタシ達がどこにいるのか…わかってないっぽい!?」
「ま、まじ?」
それにたいしフィリスも思わず反応する。 そうしてサンディはあることを思いつきその提案をフィリスにももちかける。
「こうなったら、こっから冒険して人助けをいっぱいして、星のオーラをいっぱい集めまくるしかないっしょ! そしてそれを目印に見つけてもらうっきゃないって!」
「それでいけるのか!?」
「ものはタメシ! というわけで、アンタと一緒に行くんでシクヨロッ!」
「は、はぁ…」
そう漫才みたいな会話をしながらも、星のオーラを集めるためにも旅をしようと言う結論にいたり、二人は一度天の箱船を降りた。
まずは、リッカのこともあるしと言って、セントシュタインに向かうことにする。 すると、かつて土砂崩れがあったポイントには一人の男性が立っていた。
「よっ」
「あれ…イアンさん、だっけ」
「呼び捨てで結構だぜ」
そう返してくるイアンに対し、フィリスは何故ここに一人でいるのかと尋ねる。
「オレ、ちょっとあんたに興味があってな。 ルイーダさんに許可を取って、あんたについて行こうって思ったんだ」
「えっ?」
「あんたも行くんだろ、セントシュタインに」
イアンの言葉に対し、サンディが彼女に耳打ちをする。
「うわ、これってナンパってやつじゃないの?」
「まさか、イアンはそんな人とは思えないよ」
こそこそと独り言を言っているようにしか見えないイアンは、彼女に問いかける。 サンディは幽霊と同じように、普通の人間にはその姿は見えないようだ。
「………誰としゃべってんだ?」
「う、ううん、なんでもないよ! んで、イアンはセントシュタインへの道は知ってるの?」
「ああ、当然知ってるぜ」
そう言いつつ、イアンは棍を手に持ち直すと、フィリスに言う。
「オレが無事に案内するから、このまま行こうぜ」
「そうだな、あたしも便乗させてもらう」
そうして、イアンの案内の元、フィリスは無事にセントシュタイン城に向かうことになった。 道中は色んな魔物が出現し、彼女達に襲いかかったものの、2人はうまいコンビネーションを発揮して、魔物達を払いのけていった。
「そういや、あのボロボロな銅の剣じゃなくなったんだな」
「ああ、村長さんが新しい剣をくれたんだ。 上位にあたる、兵士の剣をさ」
そうしてフィリスはイアンの案内と協力のもと、魔物との戦いをかいくぐり、迷うことなくセントシュタイン城へ向かった。 その国は、城下町と一体化した国であり、町も大きく、奥の方には巨大な城が見える。
「へぇ、とっても広いし人も多いし、賑やかなんだなぁ!」
「ここには多くの冒険者も集まりやすい。 ルイーダさんの酒場に集まった冒険者たちで、パーティーをくむんだぜ」
「パーティー…」
「言っとくけど、クラッカー鳴らしたり酒や料理をたべまくてみんなでガヤガヤする、あのパーティーのことじゃないからな」
「そ、それくらいわかってるよ!!」
そう会話をしつつ、イアンとフィリスはひときわ大きな施設をみる。 イアンが言うには、ここはルイーダの酒場をかねている、セントシュタインの宿屋だそうだ。 ここでリッカは働くんだなと思っていると、その中から声が聞こえてきた。 窓から様子を見ていると、ここの従業員数名とルイーダ、そしてリッカの姿があった。
「リッカとルイーダさんだ」
「なんか揉めてるな」
2人はそこから、中の様子をのぞき見することにした。
「ちょっと、あんたこの宿屋を潰すつもりなの!?」
「大丈夫よ、この子には十分すぎるほどの才能があるんだもの!」
どうやら、ここの従業員はリッカがこの宿屋を仕切ることを、快く思っていないようだ。
「あのねぇ、ルイーダ。 あんたさぁ、私のことを誘ったときも金庫番の才能があるって言ったでしょ?
そんで、自信満々にこの宿の救い主を連れてくると言うから、期待してみたらこんな小娘だなんて…なにを考えているのよ」
「…ッ」
それを聞いたフィリスは苛立って飛び込もうとしていたが、それをイアンは黙って制止する。 ここで彼女がでれば、騒ぎは大きくなってしまうと読んだのだ。
そんなとき、リッカは顔を上げて彼女達に声を上げる。
「待ってください! わたし、頑張ります! 宿屋のことは父から色々教わりました! この宿屋を建て直して見せます!」
「ふーん? 心意気はあるのね。 でもねぇそうは言うけど、宿屋の経営ってカンタンじゃないのよ? だいたい宿屋のことを教えたというあなたのお父さんがどれほどのものか…」
そう、明らかになめきっている態度でいる女性にたいし、ルイーダはにやりと口角をあげた。
「その言葉、待っていたわ! さぁリッカ、今こそあれを見せるのよ!」
「あ…あれですね、わかりました!」
リッカはルイーダに言われたように、例のトロフィーを取り出した。 トロフィーをみた瞬間、全員の態度は一変していく。
「そ、そのトロフィーはまさか……!」
「ええ、そうよ! セントシュタイン王から伝説の宿王に贈られた記念のトロフィー! これこそ宿王の実力と、彼女がその血を引くものであることの…まごうことなき証よ!」
そのトロフィーがなにを示しているのかを知った一同は、驚き戸惑いながら、彼女に対し土下座した。
「で、伝説の宿王の娘………!?」
「は、ははーーーーっ!」
従業員全員の手のひら返しに対しリッカはそこまでしなくてもと狼狽え、ルイーダは隣でどや顔をしている。
「なんか、どっかで見たような…」
「…うん」
その一連の流れをみていたフィリスとイアンはそう感想をつぶやきつつ、もう大丈夫かとタイミングを見計らい、宿屋の中に入った。
「やっほー!」
「あ、フィリス! 早速来てくれたんだ!」
「イアンも、ホントにフィリスにくっついてきたのね」
「…人聞きの悪いこといわねぇでくだせぇ、ルイーダさん」
彼らはしばらく会話を楽しもうとしたが、まだ宿屋の準備が出来ていないとリッカは告げる。 それにたいしフィリスはリッカが気になったから来たんだと彼女に告げると、その気持ちがうれしいリッカは笑顔を浮かべた。
「少なくともフィリスだけでも宿に泊められるように準備していくから、城全体を見て時間をつぶしていてくれる?」
「は、はい」
「イアン、この子に案内をしてあげて」
「りょーかいっす」
ルイーダの言葉に対しイアンはいつもの調子でそう返し、フィリスを町へ繰り出させようとする。 そんなとき、ルイーダはフィリスにこう耳打ちをした。
「準備が終わったそのときには、貴女にいい情報をプレゼントするわ」
「え?」
いい情報とはなんだろう、とフィリスは首を傾げながら、イアンの後をついていくのだった。
セントシュタイン城は、王城と一体化しているだけあって町が大きく、店も多く存在し、すんでいる人もいっぱいいた。 規模の大きさや空気から、この国は豊かな地であることが伝わってくる。 だが、今はある一件により、王国は不安を抱えているようだった。 彼らに不安を与えているものは、あの大地震の時より現れた、一体の魔物らしい。
「突然現れた黒い騎士……かぁ……」
「そいつが気になるなんてもしかして、お前……」
「ギクッ」
人助けをして星のオーラを集めて、神様に自分の居場所を知らせようとしている目的は、天使であることを隠している以上バレてはいけない。 そう滅多にバレることではないだろうとは思ってたものの、感づかれるのではないかと、イアンの言葉を聞いてぎくりとしたのである。
「人助けの旅をしているとか?」
そのイアンの言葉に対しフィリスは盛大にずっこけるものの、すぐに立ち上がってそうそうと何度も頷いた。
「だったら、ルイーダさんの出番と思った方がいいぜ」
「え?」
「お前、ルイーダさんに、いい情報をくれるって言われてただろ? ここで役に立つと思うぞ」
「まじ?」
そこまでの情報って何だろう、と思いながらイアンとともに宿屋に戻ってみると、そこにはルイーダの姿があった。
「よう、ルイーダさん、今戻りやしたぜ」
「あら、ナイスタイミングね! ちょうど、準備ができたわよ」
「ルイーダさん、なにがあるんですか?」
ルイーダは、自分の役職を彼女に教える。
「私は、多くの人をここに呼び寄せる酒場の店主。 情報を多く集めては、人と人を引き合わせて、ひとつのパーティーを組ませるの。 出会った冒険者をみて、誰と組んで冒険させたらいいのか…目的を果たせばいいのかを私は考えて、パーティーを組ませる」
「あ、そういえばイアンが言ってたね」
「忘れてなかったのか」
「なにか、仲間を必要とする事態になったかしら?」
ルイーダのその言葉に対し、フィリスはこの国で今噂になっている、黒騎士の話を持ち込んできた。
「ああ、今ウワサになってるらしい、黒騎士退治の話ね。 それなら、いいメンバーを選抜してあげる」
「メンバーか……他に仲間が必要、と思った方がいいか?」
「あんたの好きにすればいいぜ」
「って、あんたは手を貸す気満々ね」
「そうっすね」
「オイ」
とりあえず、このままイアンは仲間になっていくようなので、ほかの仲間も選んでもらう。
「たとえば、どんな人が仲間にいると心強いんだろう?」
「えぇっと、貴女は旅芸人だけど前線が得意そうね」
「旅芸人……結局そうなのか………」
「え?」
「や、なんでもないっす」
うまくはぐらかしつつ、魔法による後方支援が得意な人がいるといいわねとルイーダは口にし、ここに集まっている仲間の一人を指定する。
「確かそこの緑色の人も僧侶だったはずよ」
「緑色の人って……」
「名前は……そう、セルフィスさーん!」
「あ、はい!」
ルイーダに呼ばれた、緑色の髪の青年は、ルイーダから説明を受けた後でフィリス達に対して頭をペコリと下げる。
「えと、僕はセルフィスって言います。 ベクセリアという町からきました。 回復の魔法を得意とするほか、体力も自信はある方です」
「礼儀正しいな」
「僧としての基礎のつもりです」
そう挨拶をしている間に、ルイーダはもう一人のオススメとして、一人の少女をフィリス達に紹介する。 少しだけウェーブのかかった桃色の髪の少女だ。
「初めまして、私はクルーヤよ!」
「クルーヤか君はどんな人なの?」
「魔法を使って相手を攻撃するのが得意です!」
なんとも大ざっぱな自己紹介だな、とフィリスは思った。
そして、引き続きイアンが彼女について行くという話になり、これで4人のパーティーが完成したことになる。
「とりあえず、貴女にオススメの仲間はこんな感じかしら。
成り行きでくませたけど、一緒に行けばきっといい仲間になれると思うからものは試しという感じで、とりあえず今回の黒騎士退治に望んでから、色々決めてみたら?」
「はい」
ルイーダの言葉を聞いて4人はうなずき、フィリスは仲間になるであろう人達に告げる。
「じゃあよろしくな、イアン、セルフィス、クルーヤ」
「ああ」
「よろしくね」
「うん」
こうして、パーティーはとりあえず、という形ではあるものの完成したのであった。
ルイーダオススメのパーティーが完成したところで、フィリスはセントシュタイン全体で噂になっている黒騎士問題について、国王から詳しい話を聞くために城へ向かった。 兵士に事情を説明し玉座の間へ向かうと、そこでは玉座に腰掛けた男性と、ドレスを身にまとった美しい女性が口論をしていた。
「フィオーネよ、何度言えばわかるのだ! あの者に会いに行こうなどと、このワシが許せるわけがなかろう!」
「いいえ、お父様! あの黒騎士の目的はこのフィオーネです! 私が自ら赴けば、国の者はみな安心して暮らせるでしょう!」
「バカを申せ! 自分の娘をあんな不気味な男に差し出す親がどこにいるというのだ!」
「ですが! ………あっ」
「む?」
口論を繰り広げていた二人は、フィリス達の姿を見るとそれを止める。 自分に謁見しにきた旅人だと気付いた国王は、失礼したと告げて、フィリスと向かい合う。
「貴女は……」
「先程は失礼をしました…私はこの国の王女…フィオーネと申します。 貴女達は、旅のお方のようですがもしかして…黒騎士の話を聞いて?」
「まぁ、そんなところです」
「…そうなのですか……私のせいで、貴女のような旅人にご迷惑を……。 お父様も……私の気持ちを…少しもおわかりになろうとしないで………」
「…………」
彼女も訳ありの身なのかもしれないと思いながらも、フィリスはここにきた目的を正直に話す。
「実は、この国で黒騎士の噂を聞いて、そこで貴方が彼を退治できるものを探しているという話をきき、お話を伺いに参ったのです」
「そうであったか」
国王はそれを聞き、詳しい事情を彼女達に話し聞かせた。
「実はな、黒騎士の奴がワシの娘であるフィオーネをねらい、この城までやってきたんじゃよ。
奴は約束の時間までにフィオーネをシュタイン湖という場所に届けるよう言い残して、去っていったのだ」
「はぁ」
「しかしワシはその言葉を、黒騎士のワナだと思っておる!
ワシがシュタイン湖に兵を送り……城の守りが薄くなったところで、ヤツは魔物の軍勢とともに城にやってくるに違いない!」
「………」
国王の言葉に対し、フィオーネは何か言いたそうにしながらも、唇をかみしめ、失礼しますと言い残してから、そこから立ち去る。
「………あの、失礼ながらあの口論は一体?」
「むぅ……」
国王は、姫について語る。
「……フィオーネは非常に正義感が強い娘でな……この件に対し責任を感じておるのだろう」
「そうなのですか……」
「……だが、わしも娘を簡単に差し出すわけにもいかぬ。 どちらにせよ、黒騎士を止めなければならない。 そなたらは腕も立ちそうだ。 もし黒騎士の退治に成功したら褒美を使わす、よろしく頼むぞ」
「は、はい! 了解いたしました!」
どこか引っかかるものは感じるものの、まずは国王の依頼を果たすために行動することを決め、フィリス達は一度城をあとにした。
「なんにせよ、その黒騎士ってヤツにあわなきゃネ。 少なくともこの国は今それで困ってるぽいし……これを解決すれば星のオーラいっぱいでそうジャン? やってみる価値はあるかも?」
「うん、そだね」
サンディはフィリスにそう耳打ちをして、フィリスはそれにたいし短く返事をした。
「……?」
そんなフィリスの姿に、セルフィスは疑問を抱いたのだった。
「どうしたの?」
「………あ………いえ………」
「とりあえず、装備はそこそこ整えてから、戦いに望むとしようぜ」
「そうですね、まずは武器屋や防具屋にいってみましょう」
「おーっ!」
彼らは、ある程度の装備を調えるために店に繰り出すのであった。
「…………」
そして、そんな彼らをフィオーネは、城の窓からみていた。
次回予告。
ルイーダの勧めにより、イアン、セルフィス、クルーヤとパーティを組むことにしたフィリス。
さっそく人助けのために情報を集め、この国が黒騎士の脅威にさらされていることを知る。
その黒騎士退治にさっそくいどむ4人だが…。