ガナン帝国との戦いは、まだ終わらない。 皇帝を倒すまでは。
「これが、この扉の鍵ですね」
「ああ」
城の中は鍵がかかっている扉が多くあり、その扉は魔物以外のものが通るには鍵が必要なようだ。 フィリス達は鍵を持っているであろう魔物を何体か倒し、ようやく次の部屋への鍵を入手したのである。 その鍵を鍵穴に通すと、思った通りに扉が開く。
「にしてもこのガナン城、隅から隅まで悪趣味だわ」
「ホント、ここの皇帝ってやつは何者よ? 王族のクセにセンスがダッサイて感じー!」
「そこ、王族って関係あるのか?」
クルーヤとサンディの会話につっこみを入れていたイアンは、そこで自分の足下に白い羽根が落ちていることに気付き、それを拾い上げる。
「なんだ、コレ羽根か?」
「とても綺麗な羽根ですね」
この城には似合わないほど白く美しい羽根。 何故こんなところに落ちているのだろうとイアンとセルフィスが首を傾げていると、フィリスが気付いて声をかけてくる。 その羽根がなにか、正体に気付いているかのように。
「天使のはねだ」
「天使のはね? って、まさか…カデスの牢獄の地下以外に、天使がいるってことなのか?!」
「他にも……天使がここに囚われている、ということなのでしょうか………」
おそらくここにも、カデスの牢獄と同じようにさらわれた天使達が捕らわれていることだろう。 もしそれが真実であるならば、帝国を解放し彼らも救出しなければならない。
「………まさか………」
その横で、フィリスはある人物を脳裏によぎらせながら、ある仮説を立てていた。 この天使の羽根の持ち主は、未だ会えていないあの天使のものではないかと。
「この扉があやしいな……!?」
そのとき、自分の近くにあったいかにも怪しい文様が浮かんでいる扉に気付き、それに手を伸ばす。 だがその扉にふれたとたん、静電気のようなものがフィリスに襲いかかり、フィリスは驚いてうわぁと声を上げ、飛び退く。
「大丈夫か、フィリス!?」
「う…うん。 ちょっとビリっときたけど……」
念のため確認してみるが、フィリスは外傷もなければ悪い影響も受けていないようだ。 セルフィスはその扉に近づき、結界の正体を魔力で探る。
「ダメです、結界がかかっています。 この結界を解くには……術者にしかできないこと。 そして生み出しているのはおそらく………このガナンの皇帝でしょう………」
「この結界の力はあのとき、カデスの牢獄を覆っていたものと同じものね。 でも、今回はスイッチなんてものはないみたい。 セルフィスのいうとおり、主がかけたものだわ」
「………そうまでして、扉をふさぐ理由は………」
「間違いなく、この奥にさらわれた天使がいるってコトね!」
この結界がかかった扉の真相がわかった一行。 この結界を解くには皇帝を倒すか、結界を解かせるしかないだろう。
「……とはいえ、ここまでやっているヤツだ。 オレ達がお願いしようが脅そうが、素直に結界を解いてくれるとはおもえねーな」
「………だったら、ぶっとばしてやるだけだ。 あたしは、迷わないぜ」
「フィリス……」
フィリスにとっても、その皇帝を倒す理由がもう一つ生まれた瞬間だった。
そうして、魔物を倒し、先へ進むフィリス達。 最後の扉を開けて、城の外へでた。
「ここまでで玉座はなかったな……」
「……ということは、あの一番高いところが、皇帝のいる玉座ってことかしら?」
「あと探していないのは、結界の扉をのぞいてあそこだけだ。 ……行ってみようぜ!」
城の外にでた彼らは、その上にさらに部屋があることに気付いてそこへ向かう。 だが、そこへ続く階段の向こう…扉の前に何者かが立っていることにも、同時に気付いた。
「また、魔物……!」
「ゴレオン、ゲルニックを打ち倒し……ここまできたか………」
そこに立っていたのは、高貴な衣服に身を包んだ、豹の獣人の魔物だった。 腰には特徴的な長剣を携えており、堂々と腕組みをしながら扉の前で仁王立ちをしている。 その姿を見たフィリスは、ある予感がしてその魔物の名前を口に出す。
「お前が、ギュメイ将軍……か?」
「いかにも」
フィリスの問いに対しその魔物は動じず、冷静にそう返した。
「我こそが帝国三将の1人、ギュメイ。 この先は主君・ガナサダイ皇帝陛下の玉座の間だ」
「この奥にいるのか! 皇帝も、そして……彼も………」
彼、という3人称を聞いたギュメイ将軍は、彼というのが誰のことかにすぐに気づいた。
「………あの天使のことか」
「…お前も、師匠を知っているのか…!?」
「師匠………ふむ、なるほどな…………。 さしずめ……今皇帝陛下と謁見しているあの天使を連れ戻しにきた………女神の果実とともに…………。 そういうところなのだろう」
すべてを言い当てられ、フィリスは目を丸くする。 その横でイアンはギュメイ将軍に対し言葉を投げかける。
「そこまで図星をついてくるたぁ、てめぇはさすがに将軍と呼ぶにふさわしい男だぜ。 んで、オレ達の目的をそこまでわかっているなら………同時になにをしようとしているかも……わかってるんだろう?」
「……………皇帝陛下の首か」
「ったりめーよ」
彼らのねらいは薄々感づいていたものの、皇帝を倒そうとしていることを知ったギュメイ将軍は目つきを鋭くさせて、剣を抜く。
「………ッ」
剣を抜きながら、フィリスは感じ取っていた。 この将軍は、先に戦ったゴレオン将軍やゲルニック将軍よりもずっと強いことを。 一方のギュメイ将軍も、フィリスを見て構えを整えつつにらみつける。 フィリスと違うのは、その口元に笑みを浮かべていることだ。
「お前は並の人間より強い気配を感じる。 これは、楽しめそうだ……だが、我が忠義にかけて、招かれざる者はアリ一匹であろうとも…通しはせぬ!」
「だったら、力ずくで押し通る!」
ギュメイ将軍とフィリスは同時に切りかかり、同時に剣を打ち合わせた。 それはすぐに唾競り合いに発展していき、ギリギリと金属音が鳴っていたものの、素早くギュメイ将軍が踏み込んでフィリスを押し込み、そのまま弾き飛ばして彼女を転ばせた。
「フィリスさん!」
「ハァァッ!」
そのままギュメイ将軍の動きは止まらない。 連続できりかかり、彼らに絶え間なくダメージを与えていく。 それによりフィリス達も肌にいくつもの切り傷を作るものの、すぐにセルフィスが回復魔法で回復をする。
「ハァアッ!」
そこでイアンがギュメイ将軍に飛びかかり、棍を投げつけてそれをはじいている隙にばくれつけんをたたき込む。 イアンの怒濤の攻撃をギュメイ将軍はガードしてダメージを軽減した直後、剣を振るいイアンの足を切り裂いた。
「フンッ!」
「うあっ!!」
「イアン!」
「イアンさん!」
すぐにセルフィスがイアンにベホイムをかけて、彼の足の傷を瞬時に消す。 クルーヤはフィリスにバイキルトをかけてすぐに、魔力覚醒を使って己の攻撃魔力を高めてからのメラミを放つ。
「きかぬ!」
「うそ……!」
だがその炎の玉は、ギュメイ将軍の一太刀の前でかき消された。 並大抵の魔物は瞬殺か致命傷を負わせられるクルーヤの魔法が、ギュメイ将軍には届かないのだろうか。
「ハァッ!」
「きゃっ…!」
どこから攻撃すればいい、と杖を構えて警戒していたクルーヤだったが、ギュメイ将軍が素早くつっこんでクルーヤを切り上げる。 それにより彼女は転んでしまった。
「クルーヤ…」
「余所見は戦場では命取りだぞっ!」
「うわぁ!」
クルーヤを心配したフィリスだったが、そこをギュメイ将軍がついてきた。 フィリスはとっさに盾で防いだものの、相手の攻撃が強すぎて盾が吹っ飛んでしまった。
「ハァァァッ!」
「おそいっ」
「うわぁぁ!」
セルフィスが槍を片手に突っ込んでいったものの、ギュメイ将軍は彼の槍を剣で受け止めてそのまま弾き飛ばしてしまった。 セルフィスの体は壁にたたきつけられ、彼は大きなダメージを受けてしまう。
「クッソ……なんて強さだよっ!」
再びギュメイ将軍はセルフィスに切りかかっていったものの、それは咄嗟に割り込んだイアンが天地のかまえを使うことで妨げ、逆に相手にダメージを与えた。
「グッ……!」
「いくらお前が強いからって、オレ達もやられっぱなしなわけがねぇぜ!」
「………ふふ、そうこなくてはな!」
イアンの言葉を聞いて、ギュメイ将軍はにやりと笑い剣を振るう。 相手の攻撃をイアンは再び天地の構えで弾こうとしたが、相手が繰り出したのはさみだれ剣という技であり、弾く隙が見あたらなかった。
「せいやぁっ!」
「ぐぁっ!」
そして、フィリスも炎をまとった剣でギュメイ将軍を切り裂いた。 それによりその魔獣の肌に大きな傷がうまれる。 だがギュメイ将軍はそれで怯むことはなく、フィリスに反撃を繰り出す。
「フッ…!」
その一撃をフィリスは受け、頬に傷ができるものの、それでも怯まずに剣を構え直し、ギュメイ将軍と向かい合う。 歯を食いしばり、頬からは血が流れていても、彼女の深紅の瞳は目の前の敵からそれることはなく輝きを保っている。 その表情をみてギュメイ将軍はまた笑みを浮かべ、フィリスと剣を打ち合わせる。
「ハァッ!」
「トォアッ!」
キンキンと、鋭く激しい音があたりに鳴り響く。 剣は相手にあたったかと思えば、体の一部をかすめていき、衣服を引き裂くこともあった。 その様子を、フィリスの仲間である3人は呆然とみていた。
「うわぁっ!」
「うがぁ…ッ!」
そして、大きく剣がぶつかりあったと思えば、2人とも大きく後方に吹っ飛ばされてしまった。 すぐさまギュメイ将軍は立ち上がったが、フィリスが遅れてしまう。
「フィリスさん!」
「フィリス!」
そんなフィリスにギュメイ将軍は容赦なく攻撃を加えるため、大技の体制に入っていた。 その別の方向で、クルーヤは魔力をためていた。
「………通じなくても………すぐに消されても………! このまま、終わりたくない!」
その思いとともに、クルーヤは魔法を放った。 極寒の吹雪と氷の刃が同時に相手に襲いかかる、強力な冷気の攻撃魔法を。
「マヒャドッ!」
その攻撃魔法はギュメイ将軍に命中する。 ギュメイ将軍は突如として襲いかかってきた攻撃魔法に驚き動きが止まるものの、それをこらえようとする。
「この程度ッ…」
「フィリス、今よっ!」
「なに!?」
クルーヤの声に答えるように、フィリスがこの冷気の中につっこんできた。 この中でつっこんでくるフィリスにたいしギュメイ将軍が驚いている間に、フィリスは剣の技を繰り出す。
「くらえ! はやぶさ斬り!!」
「グァァアッ!」
その素早い連続攻撃により、ギュメイ将軍の体が大きく切り裂かれ、彼はひざを突いた。
「やったな!」
「ああ………なんとか、勝てたよ………ありがとうな」
「ふふっ」
「今すぐ癒しますね」
そう対話をするフィリスは、疲弊しているものの達成感に満ちあふれていた。 そんな彼らにたいし、ギュメイ将軍は意識も絶え絶えながらも、口を開く。
「…………み、見事だ………。 あの方のほかに、我が剣を……打ち破るものが………いようとは………」
そうフィリスをたたえるギュメイ将軍だったが、それにたいしフィリスは首を横に振る。
「………あたし一人だったら、勝ち目はなかったよ。 ここにいるイアン、セルフィス、クルーヤのおかげで勝てた。 だから、単独の強さじゃ………あんたのほうがあたしより上だ………」
「………それを含めても、我を打ち破ったのは……事実…! 数だけ多くとも、それだけでは意味をなさん………お前達は数を………勝利に導かせた。その事実に対し………戯れ言は言わぬ…………!」
己の強さであれば、敵の数をものともせず打ち倒すことができたはずだと、ギュメイ将軍は過信していたのだと自覚していた。 ここまでの強さを持つ者であれば、敗北し戦死しても悔いはない…と彼は思っていた。
「最期に、お前のような敵と……戦えたこと……誇りに…思うぞ…………」
「………ああ………」
「ガナサダイ、皇帝陛下………。 最後まで……お仕えできぬ…………不忠を、どうか………お許しください…………」
フィリスにたいしては賞賛を、主君に対しては謝罪を告げながら、ギュメイ将軍は消滅した。
「あいつ、別格だったな………」
「通りで帝国最強の将軍、と言われていたワケだ………」
「悪の帝国と名高い地にも、彼のような者がいたのですね……」
そう語りながら、フィリス達はギュメイ将軍が守っていた扉を見つめる。 そのとき不意に、そのギュメイ将軍のことを思い出しながら、フィリスはイアン達に問いかける。
「なぁ?」
「ん?」
「主人が悪い人でも、忠誠って誓えるものなのかな………?」
フィリスの問いに対し、全員は沈黙する。 彼女に対しどう答えればいいかがわからないからだ。 仲間達を代表して、イアンが頭をかきながら答える。
「さぁな……それは、本人にしかわからねぇもんだぜ………オレ達にはわからない、考えとか、気持ちとか、誇りとか………そういった思いってもんが………あるんじゃねぇか?」
「………そっか」
彼の返事に対し、フィリスはすんなりと納得する。 これは大衆の意見ではなく、個々の意見が重要なのだと察したようだ。 彼の回答を受け入れ、フィリスは改めて、扉をみる。
「………ここに、悪の根元、ガナサダイ皇帝がいるんだな………」
「いくか?」
「もちろん」
フィリス達がこの玉座の前に立ったのと、同じ時。
「この時を待っていたぞ………。 女神の果実を我が手に納め、余はさらなる力を得る…………」
そこには大柄で物騒な装飾が施されたマントを身にまとい、大きな杖を持った男が大きな玉座に腰掛けていた。 その男は、普通の人間ではないことが、身にまとっている空気や姿が伝えている。 この男こそが、魔帝国ガナンの皇帝である、ガナサダイだ。
「さぁ、イザヤールよ………その女神の果実を、早くこちらに寄越すのだ………」
ガナサダイ皇帝は目の前にいる天使…イザヤールにそう指示を出す。 彼の手には、7つの黄金に輝いている果実が存在している。
「よかろう、暗黒皇帝ガナサダイ。 これが欲しければくれてやる………」
イザヤールはそうガナサダイ皇帝に告げ、女神の果実を差しだそうとする。
「だが、その代わりに………お前の命をもらい受ける!」
しかし、直後に果実をすべて地面に捨て、剣を抜いて切っ先をガナサダイ皇帝に向ける。 そのイザヤールの言葉と行動で、彼の真の目的に気づいたガナサダイ皇帝は、彼が自分達の側についたその目的に気づく。
「………それが………貴様の本心か。 なるほど…………さしずめその果実も、ニセモノと言ったところか……」
「しれたことだ! 女神の果実は天使界の宝……帝国などに売り渡すものか!」
イザヤールは剣と、拳を握る手に力を込め、これまでに自分がしてきたことを思い出していく。
「こうしてお前と直接会うために………天使界を………仲間を…………弟子を………………! 裏切ったフリをしていただけだ………!」
そのときにイザヤールの脳裏によみがえるのは、天使界の姿、ほかの天使の姿、そして…自分が今まで導き守ってきた、愛弟子の姿だった。
「よくも………このガナサダイをたばかってくれたものよ………。 その罪、万死に値すると知れ………」
「万死に値する罪を犯したのは…貴様だ、ガナサダイ! ここでお前を倒し、あの方を…救い出させてもらう!」
そう宣言し、イザヤールは相手の動きを電撃を放ち封じたところで一気に力を込めて切りかかる。 だが、その刃はガナサダイ皇帝には通ってはいなかった。
「なっ!?」
「貴様の力はこの程度か……失望させてくれる……!」
イザヤールの力を否定したガナサダイ皇帝は、イザヤールの剣を掴んでへし折り、そのまま杖でイザヤールを弾き飛ばした。 それにより、イザヤールの体は床に強くたたきつけられる。
「ガハッ…」
「これではバルボロスのエサにしたところで、たいした足しにもならんな………」
「クッ!」
それでもイザヤールは立ち上がり、おれた剣でなおガナサダイ皇帝を攻撃しようとしている。 そんな彼をほくそ笑むかのようにガナサダイ皇帝は、彼の動きを赤い閃光で封じる。
「役立たずめ。 無用者には礼をくれてやろう………」
そう言ってガナサダイ皇帝は、赤い閃光から電撃を放ち、そこにさらに強大かつ巨大な炎の玉・メラゾーマをイザヤールに向かって放った。
「グァァアーーーーッ!!」
イザヤールは、炎にその身を焼かれてしまった。
次回は皇帝戦です!