ドラゴンクエスト9 AngelsTale   作:彩波風衣

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もう前回のあらすじや次回予告をかく余裕がないっす


08「悲しみを乗り越えて」

 

 

 封印の祠にて、病魔の原因たる魔物パンデルムを討ったフィリス達は、ベクセリアの町に帰還した。

 

「おお、坊ちゃん!」

 

 町に帰ってきたセルフィスに気付いた町の人々はすぐに彼に駆け寄ってきた。 町の雰囲気全体が明るく、人々も笑顔を浮かべている。

 

「みなさん、具合はいかがですか?」

「ああ、家族もみんなも、急に苦しくなくなったそうだ! オレもこの通り、体のだるさを感じないぜ!」

「わたしも、娘がはやり病にかかっていたのですが、さきほど元気になったの!」

「私も、先程までの咳が嘘のように止まりました!」

 

 町の人々は皆、あの病から解放されたようだ。 そんな町の人々の笑顔に対しセルフィスも笑みを浮かべる。

 

「よかった…今すぐにでも、姉上に伝えようと思います」

「そうね、それがいいわ! 町から病が去った今、エリザちゃんも大喜び間違いなしだもの! それがルーフィンさんの手柄であれば、なおさらよ!」

「すぐに行ってやれよっ!」

「はい!」

 

 町の人々にそう言われて、セルフィスは足早にエリザの家へと向かった。

 

「あ、行っちゃった」

「セルフィス、あんなに足早かったかしら?」

「相当舞い上がってたんだろうな」

 

 そんなセルフィスを、フィリス達は追いかける。 一方そのころ、セルフィスは扉をノックしてから扉を開ける。

 

「姉上、今戻りました! たった今、義兄上が病魔を封印し、町からはやり病が消えました! ついにやりましたよ、義兄上が…」

 

 はしゃぎながらセルフィスは早口で、町は救われた事実を伝える。 きっとこれを聞けば、姉は喜んでくれるに違いないと思ったからだ。

 

「あ、姉上?」

 

 だが、セルフィスの言葉にエリザは返事をしない。 そもそもあのエリザの性格なら、扉を開けて自分に抱きついて盛り上がり、それですべてを察してよりいっそう明るくなるはずなのに。 奥のベッドをみると見慣れたエプロンドレスが視界に入り、眠っているのかなと思いながらセルフィスはエリザに歩み寄る。 直後、彼の体はビクリとふるえた。

 

「セルフィス?」

 

 セルフィスの名前を呼びながら家にはいったフィリス達は、その静けさに首を傾げる。 彼らも、今この家の中は明るい雰囲気に満ちているはずだと思ったのだ。 だが、家の中は明かりがついてないせいか暗く、奥の方でセルフィスがポツンと立っていった。

 

「セルフィス、どうしたの?」

 

 名前を呼ばれたセルフィスは、顔を青ざめさせながら首を横に振り、説明をする。 か細くて、弱々しい声で。

 

「みんな………姉上………息、していません………」

「えっ?」

「体も冷たくて、胸も動いてなくて……目も開かないんです……!」

 

 途切れ途切れにセルフィスが伝えてくる、今のエリザの容態。 その様子を言葉で聞いてつなげていったとき、彼らの中に信じたくない答えが、真相が浮かび上がってきた。 だが、やはりそれは信じたくないものだった。

 

「ちょ、ちょっと待て……それって………」

「ただいま、エリザ」

 

 そのタイミングで、ルーフィンが帰ってきた。

 

「ルーフィンさん!」

「おや、一足先に戻っていたのですか。 今はしかるべき資料が必要で、ぼくも今帰ってきたんですよ………?」

 

 そこでルーフィンは、ある違和感に気付く。 いつもなら自分が帰ってくるとすぐにエリザが自分の眼前にたって、笑顔で迎えてくれるのに、それがない。

 

「……エリザ? どうしたんだ、エリザ!?」

 

 そしてベッドの上に横たわっている女性に気づき、彼女に飛びつく。 そして、必死に名前を呼びながら揺さぶるが、彼女は目を開けないし返事もしない。 ルーフィンは顔を真っ青にさせながら、そばにいたセルフィスに問いかける。

 

「セルフィス、まさか…彼女は………死んでいる…のか?」

「…………」

「ま……まさかエリザ! キミも病魔の呪いにかかって!? バカな…! 病魔は確かに封印したはずだ! 町の連中だって、治ったって……」

 

 ルーフィンはその腕にエリザを抱きつつ、ひざを崩した。 そして、声を震わせながら、つぶやく。

 

「………遅かったのか………? ぼくが病魔を封印した頃には、もうキミは………」

「あ、にうえ………」

「どうして…? どうして言ってくれなかったんだ………!!? ………キミが、病魔の呪いに……侵されていると知っていれば………もっと……! いそい、だのに………!」

 

 全身をふるわせ、その目からぼろぼろと涙をこぼしながら、冷たくなっている妻を強く抱きしめるルーフィン。

 

「エリザァァーーーッ!!!」

 

 ルーフィンの衝哭が、響きわたった。

 

 

 

 エリザの死はその日のうちに町全体に広がっていき、町長夫妻とセルフィスによって、彼女の葬儀が行われた。 町は疫病の恐怖から免れたにも関わらず、悲しい空気に満ちていた。

 

「セルフィス………」

 

 そんな中セルフィスはただ一人でいた。 食事をとらず、ただ黙って星空を見つめている。 そんな彼を、イアンも、クルーヤも、そしてフィリスも、皆で心配していた。

 

「……今も、姉上のことを…思い出すのです」

「…………」

「……僕が僧になり、旅にでるとき、姉上は僕の姿が見えなくなるまで、手を振って応援し続けてくれました。 それだけじゃない昔気が弱かった僕を姉上は、何度も助けてくれました。 明るく笑って、力になってくれた……」

 

 ぎゅ、とセルフィスは自分のローブを握りしめ、体と声を震わせる。

 

「……そんな…姉上のために、そしてベクセリアのために…僕は戦ったのに……こんな結末になってしまうなんて…………」

 

 そう語るセルフィスの双眼からは、またぼろぼろと涙がこぼれていた。 今は彼にかける言葉が見つからない3人は、その部屋にセルフィスを一人にしておくことにした。

 

「ルーフィンさんは…葬儀に顔を出さなかったわね」

「…無理もねぇだろうさ。 いくらあの人だってエリザさんのことは本気で好きだったんだろう…だから、エリザさんの死があまりにもショックすぎることだ。 ふさぎこむのも…当たり前の結果だぜ」

「今は、なにがあってもそっとしておくべきだよね」

「ああ…」

 

 そう仲間と会話をした後、フィリスは一人その場を離れ、暗い空気に再び包まれているベクセリアの町を見下ろす。 そのとき、サンディが姿を現した。

 

「せっかく病魔が去ったのに、こんな空気じゃ星のオーラもでないよね」

「サンディ」

「はぁ……アタシ達、なんのために頑張ってたのやら…」

「………あたし達の頑張った意味、かぁ……」

 

 ベクセリアの町は確かに病魔から解放され、もうそれにおびえる心配もなくなった。 これでこの町は感謝の証である星のオーラに満ちているはずなのだが、たった一人でも犠牲がでてしまったことによりそれが出てこないのだ。 それほどまでに、エリザは愛されていたのだろう。 自分達は何のために奮闘したのかの答えが出せず、サンディはやきもきする。

 

「仕方ないさ、サンディ。 これ以上あたし達に出来ることはねぇだろうよ」

「…」

「…」

 

 そこに沈黙が訪れ、気まずい空気が流れる。 雲の切れ間からわずかに星が見えて、それでいつの間にか夜になっていたのだと気付きため息をついていると、墓場の方にぼんやりと誰かがいるのを発見した。

 

「あれは?」

「フィリス?」

 

 フィリスは単身飛び出し、墓場の方に向かう。 そこに立っていたのは、すでに幽霊となったエリザの姿があり、今の自分の姿に対し苦笑していた。

 

「エリザさん」

「えーと…わたし死んじゃったんですね、アハハ………って、あれれ? もしかしなくてもフィリスさん、わたしのことが見えるんですか?」

「あ、は…ハイ…一応…」

 

 まさか、幽霊となった自分の姿が見えることに気付いたエリザは、変わらず無邪気に明るく笑う。

 

「すっご~い! どこかふつうの人と違うって思っていたんだけど…」

「ぎくっ」

「フィリスさんって、れーのうしゃだったんですねっ!」

 

 そのエリザの発言を聞いて、フィリスは盛大にずっこけた。 一瞬、自分が天使であることに気付いたのではないかと思ってしまった自分が恥ずかしいし、その発想に飛ぶエリザも天然だ。 そんなフィリスをよそにエリザはどこか、安堵の息をつく。

 

「はぁ…でもよかったぁ………フィリスさんがいればなんとかなるかも……」

「なんとかなる?」

「えーっと、お願いがあるんですけど…ルーくんを立ち直らせるために、協力してもらえませんか? このままじゃルーくん、ダメになっちゃうと思うんです…だからどうか、お願いします!」

 

 確かに、このまま放置したっていいわけがない。 フィリスは彼女のために何かできるのではないかとおもい、彼女の頼みを引き受けることにした。

 

「あたしに、できることがあるのなら」

「ありがとうございます! それじゃあその前にセルくんのところへいかなくちゃ…」

「セルフィスのところに?」

 

 突然自分の弟のことを言い出したので、フィリスは首を傾げる。 確かにエリザの死を受けて彼も落ち込んでいるので、彼も助けねばとは思うのだが、どうしたらいいのかがわからない。

 

「ルーくんを立ち直らせるには、セルくんの力が必要な気がして……あの子、昔から時々不思議な夢を見るみたいですから……それを利用して、わたしが声をかけたいと思うんです」

 

 そう言ってエリザはフィリスとともに、今彼らが寝泊まりしている宿屋へ戻る。 戻ってきたとき、待っていたイアンとクルーヤがフィリスになにをしていたのかを聞かれたが、フィリスはうまくはぐらかす。 そして少し待っていてくださいと言ってからエリザはセルフィスの部屋にはいっていく。 数分後、セルフィスは自分から部屋から出てきた。

 

「セルフィス?」

「…さっき、夢に姉上が出てきたんです」

「!」

 

 セルフィスは部屋でなにがあったかを打ち明ける。 自分は声を殺して泣いている間に、いつの間にか眠ってしまっていたこと。 その時に夢を見たこと。 その夢の中で姉が自分に話しかけてきたこと。

 

「…義兄上を、助けてと言われました。 このままでは、義兄上がダメになってしまうと…言っていました。 夢の中の話ですが…僕はこれを…姉上の遺言だと信じたいのです」

 

 そう話をした後、セルフィスは仲間たちに頭を下げた。

 

「皆さん、どうか僕に手を貸してください」

 

 夢なんて曖昧なものは受け入れられないだろう、自分に出来ることはなにかはわからない。 それでもセルフィスは、姉の願いを叶えたい一心で、フィリス達に助力を頼む。

 

「…ったく、立ち直るのがちっと遅いんだよ」

「そうそう、いつまでグズグズしてるの、って感じよね」

「やっと、顔を上げたって感じだな」

 

 そんなセルフィスの願いに対して3人はそう答え、そう答えたときの3人の顔を見て、セルフィスは笑った。

 

 

 

 早速、ふさぎ込んでしまったルーフィンを助けるために、彼の研究室へ向かう。 なんとかノックして呼びかけようとしたが、返事はない。 そんなとき、エリザがフィリスにアドバイスを送った。

 

「ルーくんに出てきてもらうには、ノックの仕方にコツがあるんです」

「こうかな?」

 

 エリザのアドバイス通りにフィリスは、特徴的なノックをする。 すると、扉の向こうからルーフィンの声が聞こえてきた。

 

「エリザ!? エリザなのかい!」

 

 彼女の名前を口にしながらルーフィンは勢いよく扉を開けるが、そこおにいたのはエリザではなくフィリスだと知ったとき、その顔はいらだちを含んだ絶望の色に染まり、彼女たちに怒鳴る。

 

「今のはあなたの仕業か!? わざわざエリザのノックの真似をするなんてタチの悪い冗談だ!! こんなことは二度としないでくれよっ!!」

「うっ………」

 

 さすがにバツが悪いな、とフィリスが思っている間にルーフィンがまた扉を閉じようとする。 このまま扉が閉じてしまったら、同じ方法で呼び出すことも出来なくなってしまう。

 

「待ってください!」

 

 そう言ってセルフィスが、閉じようとしていた扉を、自分の体を張って止めた。 まさか彼がそんな方法でルーフィンを止めようとするとは、姉であるエリザも想定してなかったので驚く。 ルーフィンは自分の顔をみてくるセルフィスをにらみつける。

 

「セルフィス、お前はエリザのことが悲しくないのか」

「そんなこと、聞く必要がどこにあるというのですか」

 

 ただ、とセルフィスは扉を強く押さえながら、ルーフィンを見上げて彼に向かって言葉を発する。

 

「僕は、このままの僕達を見ても……姉上は決して喜ばないと思っただけです! 姉上がどんな人なのかを覚えているからこそ…知っているからこそ! 僕は、義兄上を…このまま塞ぎ込ませたままにしておきたくありません!」

「なにを…」

「ルーフィンさんよぉ!」

 

 反発しようとしたそのとき、真上からルーフィンを呼ぶ声が聞こえてきた。 彼を呼んだのは一人の荒くれだった。

 

「あんたに言いたいことがあったんだ、ちょうどいい!」

「?」

 

 にや、と荒くれはマスク越しに笑いながら、ルーフィンに向かって大きな声で言う。

 

「はやり病を止めてくれてありがとよ! 礼を言いたいし、立ち直ってほしいと町の連中も同じことを思ってるだろうぜ!」

「な、なんだ……一体………」

 

 突然荒くれにお礼と励ましの言葉を受けて、ルーフィンは思わずと惑ってしまう。 そんな姿を見てフィリスは小さく笑いながら、背後からエリザに伝言を頼まれる。

 

「フィリスさん、私の最期の言葉としてルーくんに伝えてください。 ルーくんが病魔を封印したことで、救われた人たちに会ってほしいと言っていたって…………」

 

 そのエリザの言葉に対しフィリスはうなずくと、エリザに言われたとおりの言葉をルーフィンに伝える。

 

「エリザが…そんなことを…?」

「フィリス…お前いつの間にそんな話を」

「でもぼくは、誰が病気になっていたかも知らない。 あのときはただ、ただ…お義父さんを見返すことばかりに気を取られてて……」

「義兄上」

 

 セルフィスは、ルーフィンに正直に告げる。 今までの彼を知るからこそ、そして、ベクセリアの人々の気持ちを、両親の気持ちを、姉の気持ちを知るからこそ、彼に今やるべきことがあるということを。

 

「だからこそ、今町を歩いて確認するべきだと…僕は思います」

「…………」

 

 そんなセルフィスの言葉を聞いて、ルーフィンは少し黙って考えた後で彼らに頼む。

 

「セルフィス、そしてみなさん。 今から私を、病気に苦しんでいた人たちのところへ…連れて行ってください。 今更になってしまったがどんな人が…はやり病にかかってどんな思いをしていたのか、どんな思いを抱えていたのか……知りたいのです」

「ルーフィン、さん」

「それを知れば、病気になったエリザが、どんな気持ちでいたか…わかると思うから…………」

「………はい、義兄上。 参りましょう」

 

 セルフィスも彼を受け入れ、町の人たちと片っ端から話をしていくことを決めて歩き出す。 そのためにまずは、エリザの墓へと向かう。

 

「エリザ」

 

 ルーフィンはそこにエリザがいるかのように、ひざを折って目線をあわせて、話しかける。

 

「……すっかり遅くなってしまって…悪かったね…。 今から、キミの願い通り、はやり病にかかっていた人たちを訪ねにいくところなんだ。 それでキミが本当に伝えたかったことがわかったら、またしらせにくるから…待っててくれよ」

「姉上…僕もお手伝いします…」

 

 そうセルフィスも続いている横で、幽霊のエリザがルーフィン達に話しかける。

 

「わたしはこっちですよー……って向かい合ってはなせないのは、やっぱりちょっと寂しいなぁ………」

「エリザさん………」

 

 なんで彼女の姿は自分にしか見えないのだろう、なんで彼女の声は自分にしか聞こえないのだろう。 届けるべき相手、みるべき相手はすぐそこにいるのに。

 それがフィリスには歯がゆくて、仕方がなかった。

 

「いきましょ」

「はい」

 

 立ち上がり、今は一人でも多くの関わりを紡ぐ。 それしか、ない。

 

 

 そうして、町を歩いていろんな人と話をして、はやり病がどれほどのものだったのか、そして皆がどれほど恐怖しそして今救われた気持ちになっているのかを改めて確認したルーフィンたち。 それにより、ルーフィンの心にもある変化が現れていた。

 

「今日町を回ってみて初めて、自分がいかに多くの人に関わっているのかに気付きました。 このおかげで自分の愚かさも、エリザがなにを伝えたいのかもわかった気がします…」

「…………」

「今までのぼくは……自分のことしか考えてなくて……まわりを全くみていなかった。 そのせいで…大切な人の…エリザの体調にも気付けなかった。 情けない話です………」

「あなたは自分で気づくことができた。 それだけでも、大きな進歩ですよ」

 

 自分がいかに愚かであり、情けなくても。 それを露わにする前に自覚して受け止めなければ、なにも変わらないままだ。 それにたいしルーフィンは、遅くなったとは思いながらも自覚して受け止めようとしている。 それだけでも、彼は少しでも救われるだろう。

 

「ありがとう、皆さん、そして…セルフィス」

「え?」

 

 そこで突然、ルーフィンがお礼を言ってきたので、4人は戸惑う。 若干失礼ではあるだろうが、当初は自分達も下にみられていた気がしたので、彼が素直に礼を言うなんて思わなかったのだ。 ルーフィンは代表して、セルフィスに告げる。

 

「あのとき…きみが、ぼくが扉を閉ざすのをを止めてくれなければ……ぼくは、このことに気付けないまま……エリザを裏切っていた。 だから、きみにはとても感謝している。 これからは、この町の人々とともに生きていこうと思ったんだ………彼女のぶんまで……」

 

 ルーフィンはめがねをくいっとあげつつ、どこかはにかみながら言葉を続ける。

 

「感謝されるのも、悪くないですしね」

「あっはは」

 

 そう告げるルーフィンの顔は、本当に付き物がとれたような、どこか清々しさがあった。 彼は今もエリザの死は悲しみ、そのことを抱え続けるのかもしれないが、それでも生き続けようと言う希望があるのだろう。

 

「フィリスさん………ルーくんを助けてくれて、本当にありがとうございます。 あなたのおかげで、わたし…死んでいるのに自分の夢を叶えることができました」

「夢?」

「私の夢は……ルーくんのすごいところを、町のみんなに知ってもらうこと。 …そして、ベクセリアのみんながルーくんを好きになって、ルーくんにベクセリアのみんなを好きになってもらうこと。 みんなが笑顔でいられること……。 それが叶った今、わたしは幸せです……」

 

 そうしてエリザはルーフィンの姿を見つめてから、フィリスに視線を向ける。

 

「フィリスさん、セルくんを…弟を、これからもよろしくね」

「はい」

 

 そう弟のことをフィリスに託した瞬間、その体からは光がポロポロとあふれ出てきていた。

 

「あ、もうお別れの時間ですね、もういかなくちゃ……」

「エリザさん…」

 

 そう告げて、その身を光へと変えていった。 最後に告げるのは、視線の先にいる彼に対する本気の想い。

 

「………ルーくん………わたしはずっと、あなたが大好きだよ……」

 

 そう言い残して、エリザは成仏した。 その様子はフィリスとサンディにしか見えなかったはずなのだが、セルフィスも同じ方向をみた。

 その夜はルーフィンも交えて、町長の家で夕食をごちそうになり、ようやくこの町は疫病の恐怖から解放され、喜びに満ちあふれるようになった。

 

「フィリスさん、皆さん」

 

 そして、翌日。 セルフィスはフィリス達の前にたった。

 

「昨晩、姉上がまた僕の夢にでたんです。 あなたはあなたらしくあってね…って」

「……そうだったの」

「僕は自分らしさというのは、まだわかりません。 ですが……自分がどうしたいかの意志は、もう決めています…」

 

 セルフィスはまず、フィリスの顔をまっすぐと見つめる。

 

「僕、フィリスさんと出会い、仲間になることを決め、ともに歩むのは……決して偶然じゃない気がします。 僕は僧侶の力を発揮し、このままあなたの旅について行きます。 姉上の死を無駄にしたいためにも……僕はこの町を救えたことを受け入れ、そして無駄にしません。 だから、今度はともに、多くの人を救いましょう…」

 

 そう言ってくるセルフィスにたいし、フィリスは微笑みかけながらそっと彼に手を伸ばした。 それをみたセルフィスも笑顔になり、彼女の手を取る。

 

「おっと、オレも忘れるなよ」

「私もっ!」

「みんないるぜ」

「…はい!」

 

 そこに、4人の手が強く重なった。

 




ということで、今回でベクセリア編は終わりです。
次回は天使界に帰還することになります。
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