残念系天才魔術師と禁忌教典 作:ヒトでなし筆者
みんながうつさないようにすれば、いつか誰もうつされなくなるから!
喧嘩とはいつだって些細なものが原因だ。
「魔術って、そんなに偉大で崇高なもんかねぇ?」
こんな風に。
「ふん、何を言うかと思えば。偉大で崇高なものに決まってるでしょう?もっともアナタのような人には理解できないでしょうけど」
いつものグレンならば流して終わる。だが今日のグレンは違った。
「なにが偉大でどこが崇高なんだ?」
「え…?」
予想外の反応に、システィーナは戸惑う。
「魔術ってのは何が偉大でどこが崇高なんだ? それを聞いている」
「そ、それは…」
「ほら、知ってるなら教えてくれ」
すぐに反論できないシスティーナを煽るグレン。
「魔術はこの世界の真理を追究する学問よ。
この世界の起源、この世界の構造、この世界を支配する法則。
魔術はそれらを解き明かし、自分と世界がなんのために存在するのかという永遠の疑問に答えを導き出し、そして、人が高次元の存在へと至る道を探す手段なの。
それは言わば神に近づく行為。だからこそ魔術は偉大で崇高な物なのよ」
「…ふっ」
机に突っ伏したままのエアも思わず皮肉げに笑う。普段ダメダメでも学園の生徒の中で誰よりも魔術に打ち込んでいたから良くわかる。魔術自体はそんなに素晴らしいものではない、と。
「何の役に立つんだ?それ」
「…え?」
「いやだから、世界の秘密を解き明かしたところでそれが何の役に立つんだ?」
「ふふっ…」
また口元が緩んだ。
「役に立たないなら実質趣味と変わらないだろ?魔術ってのは要するに単なる娯楽の一種ってわけだ。違うか?」
「…」
「悪かった、嘘だよ。魔術は立派に人の役に立ってるさ」
突然の手のひら返し。これにはほとんどの生徒が目を丸くした。
「魔術はすげぇ役に立つさ…人殺しのな」
エアの予測通りの言葉だった。
「剣術で1人殺してる間に魔術は10人殺せる。こんなに人殺しに長けた方法がほかにあるか?
それにこの国を見てみろ。魔術を戦争に使うために毎年莫大な予算を投じてる。
今も昔も魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だ。
魔術は人を殺すことで発展してきたロクでもない技術だからな。
まったくお前らの気が知れねぇよ。こんな人殺し以外何の役にも立たん術を勉強するなんてな!」
魔術の全否定。魔術講師としてはあり得ない言葉だ。
「お前もこんなくだらんことに人生費やすならもっとましな…」
パァン、と乾いた音が響いた。
「大っ嫌い!」
涙を零しながらシスティーナは教室を飛び出した。
「あーあ…」
『行っちゃいましたね…』
『やっぱりもっと速く止めた方がよかったんじゃないかな…』
◇◇◇
「ぐすっ…」
銀髪の少女はひざを抱えて地面に腰を落としている。目は赤くなっており、涙の跡ができていることからひとしきり泣いていたと見受けられる。
「おいっすー。そんなところでなにしてるんだー?」
「エア…」
そんな彼女の目の前に現れたのは意外にも、ダメダメな学友であるエア=テウトートだった。
「どうして…」
「ルミアに頼まれたんだよねー。普通なら御免なんだけど、こればっかりは仕方ないねー」
そういっておもむろにシスティーナの隣に座った。
「ねえ、魔術って…やっぱり人殺しの技術なの…?」
「ふーむ」
唐突な問いかけにも動揺はせず、一拍おいて話し出した。
「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。
たとえばニトログリセリン。これはすこしの刺激でも爆発しかねない危険な物質だ。
でもこれは血管を広げて血流を良くする力があるから医学に使われることがあるんだ。
次に…そうだな、鍋にしよう。
鍋は知っての通り料理を作るのに必要なものだ。
でもこれで振りかぶって相手を殴れば、立派な人殺しの道具になる」
珍しく間延びせずちゃんとした語りをするその姿、それに加えて自分の知りえない情報を持つエアの博学さに、システィーナは開いた口がふさがらない。
「つまり魔術も使う者次第で、人殺しの技術になるし、偉大で崇高なものにもなる。
君は魔術を使って一体どうするんだ?どうしたいんだ?」
「私は…私は魔術でメルガリウスの城の謎を解くわ!」
「そうかい」
システィーナの結論に満足したのか、立ち上がり踵を返して帰路に就く。
「ねぇ、ちょっと待って!」
「うん、なにかようかなー?」
「…エア!その…ありがとう!」
システィーナは顔を赤くして感謝を告げた。
「ははは、どういたしまして」
ロクアカ世界にニトロがあるか知りませんが、自分のなかでは危険だけど役に立つものの筆頭だったので出してみました。