残念系天才魔術師と禁忌教典   作:ヒトでなし筆者

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本当に今それをやらなければいけないのか、もう一回考えてみよう。



とんでもない場面に遭遇してしまった…。

 

 本日は晴天なり。ウソです、空の十割を雲が占めている。これすなわち曇天なり。

 そんな悪天候でもすやすや寝ていたのか、寝坊して遅刻したエア。割とよくやるためか、一片の罪悪感すらもなく教室の扉を堂々と開いた。

 

「ふわぁ…うん?」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

 沈黙。

 教室じゃなかった。どうやら寝ぼけて間違った扉を開いてしまったようだ。

 目の前には制服の乱れたシスティーナと、服を脱がそうとする見知らぬ男がいる。

 そういった行為の真っ最中であるらしい。

 

「えーっと…おたく、なにしてんのー?」

 

 聞くまでもなくそういうことをしようとしていたのだろうが、目の前の不審者に一応聞いてみた。

 

「見ての通りこの子を可愛がってやってるんだよ。あ、お前もやるか?」

 

 ギルティ。返答も予想通り。ならばエアがすべき行動はただ一つ。

 

「…ほーん。《なら・さっさと・気絶しろ》」

 

「ぎゃああああ!」

 

 システィーナを襲っていた男に強力な電流が走る。

 そのまま床に崩れ落ち、ピクピクと体を痙攣させたまま起き上がらない。

 

「あれ、加減間違ったかな…。おーいシスティーナ、だいじょぶかー?」

 

「え、えぇ…」

 

 拘束を詠唱なしで解きながら、間延びした声で呼びかける。

 

『とりあえず何か着てください』

 

『服がひどいことになってるぞ!』

 

「服?…ッ!?」

 

 妖精ゴーレムに指摘され、自分のかっこうを思い出したのか、顔を紅色に染める。

 

「はいはい。これ貸すから早く着ろよー」

 

「わかってるわよ!」

 

 差し出された制服のマントをひったくり、あわただしく羽織る。エアは着終るまで後ろを向くことにした。人でなしでもさすがに見てはいけない。

 

「それよりもエア!ルミアが攫われたの!」

 

「前にも攫われてなかったっけー?」

 

 確かに割としょっちゅう攫われているが問題はそこではない。

 

「でー?誰に攫われたんだー?」

 

「黒いコートを着たやつよ」

 

「ふーむ。でも今は外のあれを蹴散らさなきゃだめだなー」

 

「!?あ、あれって…!」

 

 扉の外にはいつの間にかボーン・ゴーレムたちがわらわらと塞いでいた。

 

「なるほどー。召喚【コール・ファミリア】かー。今度使ってみるかー」

 

 本来なら小さな使い魔を呼び出す魔術なのだが、これほどまでに拡大できるあたり術者はかなりの実力者であると容易く推測できる。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?早く逃げなきゃ!」

 

「まあ一人なら簡単に逃げられたんだけどー、この状況じゃあ迎え撃つしかないでしょー」

 

 相変わらず間延びしたしゃべりで、緩やかに右腕を掲げる。

 

「それって私が足手まといってことじゃ…」

 

「別に君がいようがいまいが、関係ないんだけどねー。《大波に・溺れて・足掻け》」

 

 突如現れた頭上の魔法陣から、大量の水が噴き出した。

 ボーン・ゴーレムたちは水流に巻き込まれていく。

 

「《氷下に・凍えて・止まれ》」

 

 水がどんどんと凍り、まわりのものをすべてまとめて氷漬けにした。

 

「《ともに・壊れて・消えろ》」

 

 氷はボーン・ゴーレムもろとも粉々に砕けていった。

 まるで床に落としたグラスのように一瞬だった。

 

「ふわぁ…ねむ」

 

「…なんでいつもこんなふうに本気出さないのよ!」

 

「昼だからさ」

 

 キリッ、といった効果音が付きそうな表情で言い放った。いやなんでやねん。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あ、先生!」

 

 廊下を駆けて犯人を捜していたシスティーナだが、ボーン・ゴーレムを投げていたグレンを発見した。

 

「おう、白猫か!あとエアも来たのか」

 

「寝てたら遅刻しましたー」

 

 ただの怠惰。ちなみにエアは走らずに、特製のゴーレムに負ぶさっていた。どこまでも怠惰だ。

 

「《邪魔だ・さっさと・灰になれ》」

 

「うおっあぶねぇ!?」

 

 特に警告もなしに右手から炎を繰り出した。

 炎は大蛇のように骨を食らい、焼き尽くした。

 

「やる前になんか言えよ!危うく俺も一緒に灰になるとこだったじゃねえか!」

 

「ふわぁ…」

 

「こ、こいつ…!」

 

「それよりー、あっちから誰か来てますけどー」

 

「…ああ、そうだな」

 

 気配を隠す気もないのか、堂々と廊下から一人の男が歩いてきた。

 

「浮いてる剣ってだけで嫌な予感がするよな」

 

 男の回りには三本の剣が浮遊している。男は一切の油断もなく、冷徹な瞳で見つめている。

 

「ですねー。先生勝てますかー?」

 

「ダメそうだなー。援護してくれるか?」

 

「了解ですよー」

 

「わ、わかりました!」

 

 相手はまともにやりあってもどうしようもないであろう強者。3対1でも許されるだろう。

 

「おいお前ら。あの剣を【ディスペルフォース】で無力化できる魔力は残ってるか?」

 

「あれくらいならなんとか…でもそんな隙をくれる相手じゃなさそうです」

 

「なら俺が隙を作る。エアは俺に強化魔術をかけてくれ」

 

「はーい。《まあ・代わりに・がんばってください》」

 

「なんじゃその他力本願な詠唱は!ムカつくくらいめっちゃ効果あるけど!」

 

 テキトウに見えても筋は通っているようだ。

 

「作戦会議は終わったか?では死ね」

 

 律儀に待ってくれていたのか、準備が終わってから攻撃してきた。

 別に慢心しているわけではない。おそらく騎士道とか自分なりの流儀といったところだろう。

 

「でりゃあッ!」

 

 飛んできた剣の内二本を殴り飛ばし、残りの一本を身を捩って躱した。

 

「白猫!」

 

「《力よ無に帰せ》!」

 

 三本の剣は光を失い、床に音を立てて落ちる。

 

「終わりだッ!」

 

 無防備になった男に殴りかかる…が、男は未だに余力を残しているように見えた。

 それもそのはず。実際に余力を残していた。

 

「んなあっ!?」

 

 いきなり窓を突き破り、二本の剣が飛んできた。

 グレンは床を蹴って後ろに退くことでギリギリのところで回避したが、このままでは追撃を躱せない。

 

「これで終わりだ」

 

 二本の剣がグレンの頭部と心臓目掛けて放たれた…が―――

 

「…《その道は誤りだ》」

 

 その切先は突如軌道を変え天井に突き刺さった。

 

「もらったァ!」

 

 グレンの拳は正確に男の顔を捕え、殴り飛ばした。

 

「よし!」

 

「そ、それより先生!ルミアが攫われてるんです!」

 

 そう、システィーナが言う通りルミアはさらわれている。

 

「なんだと!?どこにいるかわからないか!?」

 

「うーん…せんせーは、この学園をこーりゃくするうえで最初におさえるべきところはどこだと思いますー?」

 

 相変わらず間延びした語りだが、そこにはしっかりとした推理がある。

 

「…転移法陣か」

 

「僕の予測だとそこですね」

 

「わかった。お前らはそこの犯人見張っててくれ」

 

 グレンはそう言って転移法陣のある塔へと駆けた。

 

「わかりましたー。システィーナも待機ね」

 

「なっ、どうしてよ!速くルミアを助けないと…!」

 

「だからだよー。さっきの【ディスペル・フォース】で魔力の余裕もそんなにないだろーし、いまのままじゃはっきり言って先生の足手まといだよ」

 

「でも…」

 

「それに目の前で死んでみなよ、ルミアのことだからきっと一生自分を責めるぞー。

 『システィが死んだのは自分のせいだ。私なんて生まれなきゃよかった』って」

 

「…」

 

 引き留めるため、エアは起こりうる未来を叩きつける。

 システィーナはうつむき、口を噤んだ。

 

「そういうの含めて僕は待機だって言ってんの。別にいじわるで言ってるわけじゃないんだよー?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ねえ…」

 

「うん?」

 

 戦いを終え、システィーナはエアに問いかける。

 

「あなたはどうしてそんなに強いの?」

 

 己の弱さゆえの悔しさか、はたまた襲われた際の恐怖を思い出したのか、その瞳には涙が浮かんでいる。

 彼女は今回、攫われて汚される寸前だった。こうなるのも致し方ないだろう。

 

「君も十分強いと思うけどー…やっぱり《強くあれ》って考えてるかなー」

 

「《強くあれ》…?どういうこと?」

 

「えー、説明めんどくさいからヤダー」

 

「アナタねぇ…」

 

「ははは」

 

 それは決して難しいことではない。ただ自分の深層心理に呼び掛けているだけなのだ。




いくら魔力が多くても1+1を3にはできません。1+1=11にはなるかもですけど。
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