東方茨木物語   作:青い灰

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4話「人里、博麗の巫女」

 

 

華扇の修行が始まり一週間。

 

早朝、男は珍しく荷物を準備している。

それを見た華扇は不思議に思い尋ねることに。

 

 

「どこか行くんですか?」

 

「少し人里に行く。

 お前は………そうか、行ったことないのか」

 

「え、行っていいんですか!?」

 

「当たり前だ。

 人に慣れるためだからな」

 

 

驚く華扇をよそに男は荷物を纏め、背負う。

というか、角とかはどうするのだろうか。

 

 

「角、隠さなくてもいいんですか?」

 

「既に幻術をかけてある。

 お前の角は見えてはいないから安心しろ」

 

「あ、はい」

 

 

幻術やら仙道やら………

器用なのか不器用なのかよく分からないな、

そんなことを思いながら華扇を準備する。

 

 

「寺の入口で待っていろ、すぐに行く」

 

「了解です」

 

 

華扇は寺の入口へ向かい、そこで待つ。

そう言えば、ここはどこにあるのだろうか。

外には広大な庭(?)が広がっているし。

 

1分もしないうちに男がやってくる。

 

 

「あの、1つ良いですか?」

 

「なんだ」

 

「ここ、どこにあるんですか?」

 

「仙境………紫がいただろう、

 それと似たように空間の隙間にここを創った」

 

「つ、創った!?」

 

 

異世界の創造………まるで神の(わざ)だ。

そんなことが可能なのか。

そういえば…………

 

 

「あの人も、同じようなことを言ってましたね。

 幻想郷を創る、とか」

 

「これは仙道の力だ。

 時間はかかるが、紫は自身の力だけで可能でな、

 これを参考に、更に幾重もの結界を張って

 幻想郷を完全に世界と切り離そうとしている」

 

「すごい…………」

 

「問題が1つあってな、龍神の許可が必要だ。

 それは避けられん、紫はどうする気だろうな」

 

 

男は右手を軽く横に振る。

すると、何か切り替わるような感じがする。

 

 

「行くぞ」

 

「え、今何をしたんですか?」

 

「空間を人里の寺に繋げた。

 入口を開けてみろ」

 

「?…………うえっ!?」

 

 

華扇が戸を開けると、ある筈の庭ではなく

そこには人里が広がっていた。

 

 

「え、えぇ………?」

 

「何を惚けている、さっさと行け阿呆」

 

「あ、すみません」

 

 

男に背中を押された華扇が先に進む。

頭がついていかないようだ。

 

 

「置いて行くぞ」

 

「あ、待って下さいよー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、仙人さんじゃないの」

 

「巫女か、久しいな」

 

 

里を歩いていると、

目立つ赤白の巫女服を着た女性に出会う。

 

どうやら角は里の人間には本当に

見えていないようで、華扇は目立つこともない。

目立っているのが男なだけなのだが。

 

 

「あら、また妖怪拾ったの?

 それに隻腕の鬼なんて珍しいわね」

 

「!」

 

「気にするな、コイツは見えるだけだ。

 特に害のない妖には互いに事を起こさん」

 

 

そうか………巫女。

だが、鬼と分かって珍しいだけで済むのか。

なんだか逆に傷つくのは…………

 

 

「害のある妖怪には

 容赦しないから気をつけることね。

 それにしても、何をしに来たの?」

 

「酒と食糧だ。

 いつものように買い込みにな」

 

「買い込むんですか?」

 

「1ヶ月分はな。

 霞ばかり食っていても味が分からなくなるぞ」

 

「仙人って言ってもお腹は空くんだものね」

 

 

華扇は知らなかった、というように頷く。

霞を食うのが仙人だとばかり思っていたが。

 

 

「金の貯蓄はあるからな」

 

「律儀よねぇ、この男、今まで

 助けた妖怪とか人からお返し貰ってるのよ」

 

「今まで………紫さんの他にもいたんですね」

 

「えぇ、何十はいるわよ、お人好しよね」

 

 

男は溜め息をつく。

 

 

「阿呆どもが。人徳だ。どこかの

 強欲巫女にも見習ってほしいものだ」

 

「あぁ?言うじゃないの。

  修行した成果、見せてあげるわ」

 

「ふん」

 

 

男が突然消えたかと思うと、

巫女の背後に瞬時に移動し手刀を構える。

 

巫女は予測していたのか札を取り出し

背後を払うが男の手刀に弾かれ、

男はもう片方の手の指を巫女の額に向ける。

 

 

「げっ!?」

 

 

人差し指を曲げ、親指でそれを固定する。

あっ。そう思った瞬間。

 

曲げられた人差し指が解き放たれ、

巫女の額を弾いた。

 

 

「いったぁぁっ!!?」

 

「ふっ、甘いな、阿呆め」

 

「く、う、ぁぁぁ……ぉぉぉっ……!」

 

 

額を押さえる巫女。

………絶対痛いんだろうなぁ、と華扇は苦笑い。

 

 

「まぁ反応できたのは普及点か。

 見事、ではあるな。よくやったものだ」

 

「く………」

 

「次の動きまでの溜めが長い。

 即座に反応できるようにしておくことだ」

 

「あんたの即座って1秒もないじゃないのよ」

 

「1秒もいらんだろう」

 

「聞いた私がバカだったわ」

 

 

溜め息をついて巫女は立ち上がる。

そして可哀想な目で華扇を見る。

 

 

「修行受けるのはいいけど、

  その後が大変よ、頑張りなさいね」

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

「うん。あぁ~もう、痛い………」

 

「薬水はまだあるか?

  ないなら今度持っていくが」

 

「あるわ、切らさないようにしてるから」

 

「なら減ったと思うなら来い。

 何があろうと、絶対に切らすなよ」

 

「はいはい、全く過保護なのよ」

 

「ふん…………」

 

 

男の一瞬だけ見せたその表情は、

華扇にはとても悲しそうに見えたのだった。

 

 

 


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