東方茨木物語   作:青い灰

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5話「仏師、八雲藍」

 

「ぜーっ、ぜぇーっ、はぁっ、はぁ………」

 

「ふん、こんなもんか」

 

 

息をついて草の上に倒れ込む華扇。

男はそれを錫杖を肩に乗せながら見つめる。

 

 

「修行って………これ合ってるんですか………?」

 

「体力不足にはこれしかなかろう。

 まずは基本からだ阿呆」

 

「延々と走るだけだと油断してた………」

 

 

そう、延々と走らされるのだ。

華扇も鬼、体力には自身がある。のだが。

数日ずっと走りっぱなしだった。

食事はあるが、睡眠、休憩なしで。

 

 

「…………む」

 

「どうしました………?」

 

 

そう言った瞬間、見覚えのある空間の裂け目から

あの金髪の女性………八雲紫と、妖狐が現れる。

美しい金の体毛、しかも

妖狐の中でも最強と言われる九尾だ。

 

 

「ふん、わざわざ連れて来たのか」

 

「そんなに言わなくてもいいじゃないの。

 ま、ごめんなさいね、辛い修行中かしら?」

 

「あ、はい」

 

 

男は息をつく。

紫は笑い、横の妖狐の背中を押す。

 

 

「ゆ、紫様?」

 

「言いたいことがあるんでしょ、ほら」

 

 

男の前に妖狐が押し出される。

男は笑いもせずに妖狐を見る。

 

 

「ふん、随分と久しいな」

 

「そう、だな………その」

「礼を言われるためにお前を赦した訳ではない」

 

「……、……………」

 

「もう、なんでそんなこと言うのよ」

 

「興味がないと言った」

 

 

男は錫杖を肩に乗せたまま鳴らし、妖狐を見る。

 

 

「くたばるにはお前は早すぎた。

 殺す意味もないと思っただけに過ぎん。

 若気の至りだと思ってこれからは

 そこのスキマの元で精進することだな」

 

「………」

 

「あぁ、そう言うことね。

 生きてて良かった、これからは

 しゃんとやっていきなさい、だって」

 

「あ、今のそういうことですか」

 

「え?紫様、どういう………」

 

「世迷言を言うな、紫」

 

 

男は溜め息をつき、紫を睨む。

紫はクスクスと笑う。

 

 

「照れ隠しよ、彼、ツンデレというやつだから」

 

「え、えぇ?」

 

「紫、お前は少し、折檻(せっかん)が必要なようだな……!」

 

「げっ!?」

 

 

紫が凄まじい速度でスキマに逃げ込み、

出入口を閉じる。

 

 

「ちょ、紫様!?

 置いていかないで下さいよ!」

 

「逃すか───!」

 

「「!?」」

 

 

男は右手の錫杖を振って音を鳴らし、

左手を大きく引き絞り……………

 

なんと、空間にヒビを入れる。

そのままヒビを破壊、そこへ腕を突っ込む。

 

 

「ちょっ、えぇ!?

 それ反則でしょぉぉぉぉ!?」

 

「ふんッ!」

 

 

そして破壊された空間から紫を引きずり出し、

地面へ叩きつける。

破壊された空間は自然と

何もなかったかのように修復された。

 

 

「す、スキマに無理やり

 侵入するなんて反則でしょ!?」

 

「反則もクソもあるか阿呆!!

 そして(やつがれ)はツンデレとかいうやつではない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて………感謝する、仏師殿」

 

「よせ、もう10年も前のことだろう。

 あと、そこのスキマをよろしく頼んだぞ」

 

「ふふっ、分かった。

 ではまた、何か手土産でも持ってこよう」

 

「さっさと行け。

 幻想郷とやらの完成、見届けよう」

 

「あぁ…………ありがとう」

 

 

気絶した紫を連れて妖狐…………八雲藍と

名乗った彼女は去っていった。

 

華扇は気になっていたことを聞く。

 

 

「知り合いなのですか?」

 

「少し前にな。

 修行に戻るぞ、十分休憩はしたろう」

 

「…………はい!」

 

 

 

 

今日の男は、どこか嬉しそうだった。

 

 

 


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