アズールレーンのまだ無い世界 ―碧き航跡の鎖― 作:焦げた紅茶
「あの時から、まだ一月も経っていないというのに...」
脳裏からあの懐かしい顔が浮かぶ。彼女と交わした決意。謀略に消された参謀の犠牲を忘れはしない。残してくれた"希望"を無駄にする
「・・・天城よ、本当にこれで良かったのか?」
無力さ。名ばかりの連合艦隊を統べる者の立場にありながら、何一つ覆せないことへの自責の念が長門の心を押し潰す。
そこへ、長門の従者である江風が縁側から落ち着いた物腰で姿を現す。
「長門様。大本営より第一戦隊へ出撃命令を下命とのお達しです。修復作業途中の一航戦も既に首都防空へ向かわれました。」
「出撃中の主力艦隊はどうしている?」
「セイレーン発見の報せの後、敵の妨害電波によってまだ所在が掴めておりません。いかがなされますか。」
「陸奥達がもう居らぬ今、余自らだけでも行くしかないであろう。」
「・・・。」
表情一つ変えずに黙って聞く江風。
「無駄死にはせん。それに、そなたは生きて務めを果たすべきことがあろう。これも天城の意思を守る為である。」
「は。」
長門は立ち上がって部屋を後にする。
「それと、旗風に次期連合艦隊旗艦就任の旨を赤城へ告げるよう伝えて欲しい。今後のことも含めて一任すべきだと天城が決めたのだからな。・・・後の事は任せたぞ。」
最後に笑みを浮かべながら一言残して戦地へと向かう長門を、何も言わずにただ御辞儀で見送る江風。ただ何も言えずに。
◇
船底から轟く重い音。揺れる艦内。電源が落ちたせいか辺りは真っ暗だ。吹雪は仕方なく、天井照明に使われていた白熱電球をカバーごともぎ取り、明かりを灯す。
「さっきの音。たぶん船が沈み始めてる前兆かも!」
足元を照らす非常灯を頼りに走り始める。
敵の雷撃?どのみち時間がないのは確か
脳裏に浮かぶ一抹の不安。何も無線連絡が来ない以上、命令はまだ有効と見ていいだろう。
「もうそろそろ近いはず。あそこ!」
閉ざされている水密扉の前までたどり着くと、ハンドルに手をかけて回し始める。
「重゛い゛ッ...」
設計上、動力で作動させる必要のある分厚い扉に苦戦しながらも、何とか押し開けた隙間から入るとまた閉め直す。
「ハァ...ハァ...」
全力を出したせいか、息を切らしながらその場に倒れこむ。
「やっぱ...ハァ...艤装が無いとリミッター外せないの不便...」
ようやく立ち上がると、壁に書かれた案内表示を見つける。
「この先にあるってことねぇ。」
程なくして火器管理室に入ると一際目立つケースが目に入る以外何も置かれていなかった。
「ほとんど空...」
近づいて覆っていた布を取り去ると、一本の刀剣が立て掛けてあるのを見る。
「これって綾波ちゃんの持ってたはずの物じゃ?どういうこと??」
分からない。解体処分されたはずじゃないの!?
KAN-SEN
メンタルキューブの結晶と重金属の複合材質で造られた"艤装"を操る為の自律兵器として設計された。「リュウコツ」と呼ばれる金属骨格のフレームを内蔵した半機械生命の人造人間。艦船の心臓部である
「それにしても、単に保管していただけ?個体毎に用意された専用装備だから、普通は解体処分されてパーツ素材にされるはずなのに。」
手に取ろうと引き抜く。
「まだ使えそう。あとは見つけるだけだね。」
自身から兵装への電力供給が正常なのを確認していると、突然頭の中に電気ノイズが走る。
「この信号、下から?」
「開いてる...」
乗り込んだ時からずっとあった違和感。例の命令書。何か重要なことを隠している?それも何の為に??
ゴォォォンッ!
「また爆撃?外はどうなってるの?」
正規の艤装を持たない今の自分には為す術が無い。ここに綾波がいるのなら急いで探さす必要がある!階段を降り始めると、それまでとは違う巨大な空間であることを感じる。
「砲塔の下にこんなところが。でも暗くてよく見えないや。」
降りる度にコツ、コツと足音が良く響く。微かな機械音。ぬるくて湿った空気。
「一体、何なのここ?」
長い螺旋階段が終わり底に着いたと思った時、急に目の前が光で眩む。
「ッ!?」
目が慣れると、頭上に向けられた照明を追う様に見上げる。
「これって...」