それは、アレルが16才になる、誕生日のことであった。
「起きなさい。起きなさい。私の可愛いアレルや・・・
おはよう。アレル。もう朝ですよ・・・」
アリアハン一の勇者オルテガは、初子を授かった日に世界の支配を企む魔王バラモスを倒すべく旅立った。しかし、オルテガは旅の途中で消息を絶った。伝聞に寄れば、「魔物との戦闘の最中に火山に落ちて命を落とした」とされている。
世界は魔王バラモスと、その眷属たる魔物たちに蹂躙され続けていた。長い月日が経ち、人々が希望を失いかけた、ある日、16歳になった勇者オルテガの子アレルが王様に旅立ちの挨拶に向った。父親と同じく魔王バラモスを倒す度に出る・・・希望の象徴である、勇者の物語が始まる・・・
ここはルイーダの酒場。勇者の旅立ちを聞きつけた冒険者達が集まっていた。戦士、武闘家、僧侶、魔法使い、商人、遊び人・・・世界には様々な職業があるが、勇者の旅の仲間、パーティーに入れるのは最大4人だ。つまり、勇者を除けば残りの席は3つしかない。選ばれるのは3人だけだ。冒険者達は、この日の為に、勇者のパーティーに選ばれる為に、努力を重ねてきたのだ。みんな、自分が選ばれたい。今日まで、自分を支えてくれた家族、友人、剣術や武術、魔法の師匠達の顔が思い浮かんだ。勇者に選ばれ、歓喜する顔、選ばれず落胆する顔・・・王城に向かった勇者が王様への挨拶を済ませ、間もなくルイーダの酒場に旅の仲間を選びに訪れる。冒険者達は一様にピリピリムードだ。1人を除いて・・・
「商人さん、商人さん、大丈夫ですか?そろそろ、勇者さまが来ますよ。起きてください・・・」
俺は肩を揺すられて目を覚ました。目を開けると、水色のロングヘアーで大きめな赤い目をした奇麗なお姉さんが心配そうに見つめていた。水色の髪の上には、黄色の十字架が刺繍された青く縦に長い帽子を被っている。これではまるで・・・
「僧侶ちゃん。おはよう。でも、俺はまだ夢の中にいるようだ」
「おはようございます。僧侶ちゃんですよ。”ちゃん”付けで呼ばれるほど、若くもありませんが・・・」
「こんな奇麗なお姉さん僧侶ちゃんコスプレ見たことないよ。ところで、ここはどこ?」
「コスプレ?・・・知らない言葉です。ここは、ルイーダの酒場ですよ。熟睡しすぎて、忘れてしまいましたか?」
にこにこと微笑む僧侶ちゃんの言葉を引き金に周りで笑いが起こる。周りを見渡すとそこには・・・真っ赤なビキニアーマーを着たムチムチムキムキの女戦士、中国風の稽古着を来たツインテールの武闘家少女、とんがり帽子を被った挙動不審な魔法少女、正統派ゴリゴリの白塗り大きな丸い付け鼻をしたピエロ・・・これでは、まるで・・・
「ルイーダの酒場みたいだ」
「そうです。ここはルイーダの酒場ですよ。奥のカウンターにいるのが、ここの女主人ルイーダさんです」
名前を呼ばれたカウンターの女性・・・薄紫色でふわふわとした長髪を後ろでひとつにまとめ、胸元が大きく開いたピンクのロングドレスを着た女性が「イエーイ、私がルイーダさんだゾ」とピースサインを決める。
俺は自分の頬を強く叩いた。痛い。もう一度叩いた。やっぱり、痛い。ここは夢の中ではないようだ・・・ということは・・・
「これが噂の異世界転生ってやつかー!」
昨日の俺の行動を深く思いだしてみた。高校の授業が終わって、バイト先のコンビニに直行、9時過ぎにバイトが終わって、家で夜ご飯を食べて、スマホをいじりながら就寝。うん、いつも通りの日常だ。ただ違うのは、起きたら自分の部屋のベッドではなく、ルイーダの酒場のテーブルだったことだ。
「だ、だいじょうぶですかー?急に自分の頬を叩いたり、意味不明な叫び声をあげたり・・・大丈夫ですか?ホイミしましょうか?これはホイミしたほうが良さそうです・・・ホイミ・・・」
僧侶ちゃんの手から優しい光が溢れ、俺の頬を包みこむ。ホイミ・・ホイミって魔法だよな。目の前で起こった神秘的な光景。これは、テレビのドッキリ企画やSNSのいたずら企画では再現できない光景だ。どうやら俺は、本当にドラクエ3の世界に迷い込んだようだ。
「魔法マジサイコー!僧侶ちゃん、ホイミ、ありがとう。僧侶ちゃんは俺の初めての人(と書いて女性と読む)だ。ところで、私は誰?」
「初めての人って魔法的な意味ですよね!ちょっと意味深な感じで言わないでくださーい!」
焦りながらも、まじめに返答してくれる僧侶ちゃんはとってもいい人のようだ。青い法衣の脇から見えるオレンジ色の全身タイツに包まれた体が眩しい。
「もー!冗談はやめて下さい。あなたは、商人さんですよ。商人トランさん。そろそろ、勇者様が王様への旅立ちの挨拶を終えて、ここの旅の仲間を集めに来ます。しっかり、してくださいね」
やっぱり、まじめに答えてくれて、物語の進行までしてくれる僧侶ちゃん、素敵です・・・僧侶ちゃんが手鏡を出して、俺を映してくれる。手鏡に映る俺の外見は、記憶の中のいつもの俺・・・クール(目つきが悪いだけ)でワイルドな髪型の黒髪(最近床屋にいっていなかっただけ)だった。
ここまでの情報を整理すると、俺はドラクエ3の世界に商人トランとして異世界転生した。そして、ここはルイーダの酒場でもうじきに勇者が旅の仲間を集めに来る・・・俺もドラクエ3は、何度も遊んできた。やり込みプレイもしたし、リアルタイムアタックだってやった。だから、この世界の知識には自信がある。だから、解る。勇者に選ばれなかったら終わりだ。ただのモブキャラになってします。運良く商人の町イベントの商人キャラに選ばれても、そこには投獄という悲しい結末がまっているのだ・・・
「勇者様が来ましたね・・・」
僧侶ちゃんは酒場の入口向かった。そこには黒髪のくせっ毛を勇者っぽい、球の付いたサークレットから適度に出したイケメン。イケメンが着けた紫マントが勇者っぽさをさらに演出していた。僧侶ちゃんが勇者に駆け寄って、小声で相談開始。どうやら伝説の通り、ドラクエの勇者様は非常に無口なようだ。僧侶ちゃんは、勇者をカウンターの前に連れて行き、
「皆さん、これから勇者アレル様に旅の仲間を選んでもらいます。勇者様の旅は、魔王討伐の旅・・・辛く長い旅になるでしょう。ときには命を落とすことをあります。それでも、勇者様の旅の仲間に加わりたい方は、自己紹介をお願いします。名前、職業、年齢、旅の目的、アピールポイントなど、勇者様の判断材料になりますので、詳しくお願いします。それでは私から・・・」
「私は僧侶ナナ。20歳、女です。性格は、恥ずかしながらセクシーギャルです。一刻も早く魔王討伐し、平和な世界を取り戻したい、その思いでここにきています」
僧侶ちゃんの力強い自己紹介。清楚な見た目に反しての性格がセクシーギャル!法衣の脇から除く、豊かな曲線に目が離せなくなります・・・まて、性格だと。リメイク版から実装された性格か。この世界はリメイク版の世界ということになる。これは、重要な情報だな。しかし、俺の性格って何だろう?むっつりスケベとか、さびしがりやだと自己紹介が恥ずかしいな・・・性格の調べ方はお決まりのあれかな・・・
俺は小声で「ステータスオープン」と呟いた。目の前にステータス画面が現れた。転生者に優しい共通仕様で助かります。どれどれ、内容は・・・
名前:トラン
職業:商人
性別:男
レベル:1
性格:頑張り屋
装備:布の服
頑張り屋!これはこれで、恥ずかしいよ!自分で自分を頑張り屋さんと自己紹介するなんてイタすぎるよ・・・クール(目つきが悪いだけ)な、一匹狼(友達が少ないだけ)を気取っていたのに!それから、装備は布の服だけだね。だぼだぼなズボンに変なベスト・・・ポジティブに裸じゃなくてよかったと考えよう!
「俺は女戦士ステラ、22歳だ。性格はタフガイ!俺を仲間に選べ、後悔はさせないぜ!」
褐色な肌を惜しげもなくビキニアーマーでさらした、ムチムチムキムキの女戦士。一緒に旅したいです。
「私は女武闘家リン、18歳。性格は男勝りよ。私は強いわ、そして誰よりも強くなる。私を選ぶことは必然ね」
ツインテールの武闘家が自信満々に自己紹介した。まさにクールビューティー。鋭い目つき、キツイ口調・・・その道の人々にはご褒美でしかない。もちろん、俺も嫌いではない。
「イタタタ!あ、あ、あたしは魔法使いマリーです。じゅー・・・16歳です。女の子です。性格は・・・一応、切れ者です。友達からは、切れ者なのにふにゃふにゃだねって言われます!」
すごい!勢いよく椅子から立ち上がり過ぎて、テーブルに激突しながらの自己紹介。癒し効果抜群のドジっ子はみんなの宝物だ。
「ボクは遊び人ラルフ。16歳、男です。性格はお調子者・・・遊び人は、荒んだ心、疲れた心に笑いと癒しを与える職業なんだ、ボクもみなさんに笑いと癒しを与えたい・・・って、魔法使いさん!転んだり、ぶつかったり、遊んだりは、ボクの仕事だよ!ころんで笑いを取ろうと思っていたのに!そんなにきれいな激突をされたら、何もできないでしょ!ボクのボケを返せ!」
正統派の白塗り化粧、大きな丸い付け鼻をしたピエロ・・・出落ちしかないと覚悟きめていたのに、天然ドジっ子の破壊力に負けた哀れなピエロ。だけど安心しろ、君には転職後の栄光の未来が待っている。そして、自己紹介は俺の番になった。
「俺はちょうにんとらん。ごめん噛みました」
盛大に噛んだ俺は、しどろもどろになりながらも何とか自己紹介を終わらせた。内容は全く覚えていないが、頑張り屋さんの性格が俺を支えてくれたようだ。遊び人が「天然とマジモンのドジっ子には勝てません・・・」と項垂れている。遊び人さん、ごめんなさい。
結局勇者は旅の仲間として、女戦士、女僧侶、女魔法使いを選び旅立っていった。オーソドックスなバランスタイプのパーティー編成!しかも、ハーレムプレイ!さすがは勇者様だ。
職業の盗賊は出ない予定です。盗賊ファンの方々ごめんなさい・・・
勇者の名前をアレルに変更しました。