転生したらドラクエ3の商人だった件   作:灰色海猫

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アッサラームの誘惑②

「そんな、面積の小さいビキニが高性能な防具なんですね・・・でも、女性専用防具だと、装備できませんね・・・」

 

 面積の小ささが防御力に影響するなら、遊び人の丈が短い身かわしの服の防御力も面積に合わせて割引されそうだが性能は同じだ。性能と面積の関係はないらしい。

 

「次はお買い物に行きませんか?この町にはたくさんの武器屋防具屋がありますから。だけど、気を付けてください。ここのお店は商売上手で値段を高値で吹っかけてきます。はじめてこの町で買い物する客は、高値で買ってしまう場合が多いですね。ほら、あそこの露店でも騙されそうなお客がいますよ」

 

 

「おお!わたしの友達!お待ちしておりました。売っているものを見ますか?」

 

「この爪を見せなさい」

 

「おお!お目が高い!これは鉄の爪です。武闘家のあなたにはぴったりな武器で、攻撃力がとても高いですよ!6960ゴールドですが、お買いになりますよね?」

 

「思ったより高いのね。私は3000ゴールドしか手持ちがないの」

 

「おお、お客さんは買い物上手です。わたし、まいってしまいます。友達のあなたの為に特別サービスします。では、3000ゴールドにいたしましょう」

 

「いいの!こんなに値下げしてくれるの!」

 

 鉄の爪の定価は870ゴールドだ。3倍以上の値段で買わされそうになっている。商売上手なアッサラーム商店のぼったくり商法にちょろく引っかかりそうなやつは・・・髪をツインテールにまとめた鋭い目つき・・・ルイーダの酒場で出会った、武闘家だった。

 

「ちょっと待て・・・お前、完全にぼったくられてるぞ・・・」

 

 武闘家には俺のパーティーへの参加を断られたが、知らない人間でもない。さすがに可哀そうになった俺は声を掛けた。

 

「あなたは商人ね。ふーん。商人と遊び人にしては、アッサラームにたどり着くなんて、そこそこ強くなったようね。ところで、ぼったくりってなに?」

 

「鉄の爪の売値は店によっては870ゴールドの場所ある。お前は3倍以上の高値で買わされそうになっていた・・・」

 

「露店商、この私を騙したのね!この罪は万死に値するわ!安心なさい、一撃で葬ってあげるわ」

 

 武闘家は殺気をみなぎらせて、ぼったくり露店商の前で身構えた。これは本気の目だ。露店商は恐怖でガタガタと震えだし「命だけはお助けください・・・」と、命乞いを始めた。

 

「おい、武闘家!殺すとか物騒過ぎるだろ。商店が高値で吹っかけて、客と値引き交渉するなんて普通のことで、これは騙したとは違うんだ」

 

 俺の言葉にぼったくり露店商は、ガタガタと震えながら高速で頷き続けている。

 

「そうか・・・では、この店には用はないわね。商人、さっそく鉄の爪を買える店に案内しなさい」

 

「案内は構わないが、あの店は夜しか開いていないからな。夜まで時間が空くな・・・」

 

「時間があれば、やることは決まっているわね!あなたたちの実力も見てみたいし」

 

「あの・・・ボクは武闘家さんとの親睦を深めるためにお食事でもいかがかなって思いますが、すでに決まっているやることとは、いったい何でしょうか?」

 

「レベリング」

「レベリング」

 

「わかっていましたが、当たり前のように2人でハモって言わないでください・・・はー、アッサラーム名物の暴れざるそば食べたかったな・・・」

 

 

 遊び人の悲しそうな、なつぶやきは無視して、武闘家をパーティーに加えた俺たちはアッサラーム周辺でのレベリングを始めた。武闘家は、武器は素手、防具は稽古着のみの超軽装だが、素早さを生かして、あらわれた魔物たちに先制攻撃を叩きこむ。素早さを生かした防御も巧みだ。攻撃を避け、または攻撃を捌き、ダメージらしいダメージを受けていない。この強さは、武闘家が戦闘職として優秀であること、単純にレベルが高いことが要因だ。武闘家は今まで一人旅を続けてきたのだろう。俺と遊び人も2人パーティーだ。少人数パーティーは経験値効率が最高になり、1人1人のレベルは必然的に高くなる・・・つまり少人数パーティーは、レベリングの観点でみれば、優れたタクティクスであるということだ。

 

 

「あっという間に夜になったわね。有意義なレベリングだったわ。商人の状況判断はいつも的確だったし、指示に従う遊び人の動きも良かったわ。眠りの杖っていうの?あれは強力なアイテムのようね。まあ、2人とも思っていたよりも強かったけど、まだまだ私には及ばないわね・・・では、そろそろ行きましょうか?」

 

「あの・・・武闘家さん、行くっていったいどこにでしょうか?そろそろ、晩ごはんの時間ですから、お食事でもって思います!」

 

「もちろん、食事に行くわ。遊び人は暴れざるそばが食べたいのでしょう。いいお店に案内しなさい」

 

「そうですよね、武器屋ですよね、その為に時間つぶしのレベリングをしたんだから・・・って、暴れざるそばを食べに行くんですか!驚きのあまり、思わず乗り突っ込みしちゃいましたよ!商人さんと違って、部下の気持ちを大切にするリーダーですね!新感覚です!」

 

 アッサラーム名物の暴れざるそばは・・・東方の国から伝わった蕎麦だが、魔物使いに飼いならされた、暴れ猿がその怪力を使ってそば粉をこねて作った蕎麦で強い腰があり、のど越しが癖になると評判の蕎麦だ。名物の暴れざるそばを堪能した3人は武器屋に向かった。ここは、夜しか開いていない店だが、品そろえが良く、ぼったくりをしない良心的なお店だ。武闘家は、お目当ての鉄の爪を購入した。

 

「本当に870ゴールドで買えたわ・・・」

 

「この店は営業時間が夜という以外は普通というか、武闘家が引っ掛かりそうになった露店が特殊というか・・・まあ、これは済んだはなしか・・・ところで、武器はかったけど、防具はいいのか?いつまでも稽古着では、そのうちに守備力が足りなくなるぞ」

 

「うーん。私はあまり、武具に詳しくないのよ。体一つで戦う主義だから・・・商人の知識で私に合う防具を選んでくれない?」

 

「残り3130ゴールドなら、頭はこの町で買える毛皮のフード、盾はアリアハンで買えるお鍋の蓋かな」

 

「私は頭装備を着けない主義なの。戦闘中の視界が悪くなるから。お鍋の蓋って・・・調理器具をもって、戦うのは、見た目的にちょっと無理ね!」

 

「気分や見た目よりも性能が大切だと思うけど・・・鎧だったら、武道着がいいかな。この町には売っていないが、カザーブの武器屋で売っている。カザーブの武器屋のオヤジは話がわかるやつだから、俺の紹介と言えば、今使っている稽古着を高値で買い取ってくれるはず・・・高く売るポイントは売る前に洗濯しないことだ」

 

「さすがは商人だ。武具に詳しいな!早速、明日にでもカザーブに行ってみるわ」

 

 カザーブの武器屋のオヤジ・・・また、お前の宝物が増えそうだな・・・俺は、カザーブの武器屋のオヤジのこと、買い取ってもらった、遊び人の稽古着に使われ方に思いをはせた・・・

 

「なんだ、急に考え込んでおかしなやつだ・・・商人に遊び人、今日は私に付き合ってくれてありがとう。ぼったくり被害にあわなかったのはお前たちのお蔭だ。お礼といってはなんだが、今晩の宿屋くらいは奢らせてくれ」

 

「いいんですか!ボク、宿屋のベットで眠れるなんて夢のようです!お風呂も、お風呂もあるのでしょうか?」

 

「うん?遊び人は、いったい何を興奮しているんだ?今日はお礼だから、大きなお風呂がある宿屋を手配しよう」

 

「晩ごはんを食べ、宿屋で大きなお風呂!ボクは幸せです!こんなに、幸せなことが続くと怖くなりますよ!」

 

 

 ちょっと高そうな大きな宿屋に着くと武闘家は、自分用の部屋と俺と遊び人用の2人部屋を取ってくれた。

 

「武闘家さんとボクは、さっそくお風呂に行ってきます!」

 

 俺は1人部屋に向かい、ベッドに倒れ込んだ。この世界にルイーダの酒場に登録された商人として転生し、初めての1人の時間だ。考えてみれば、いつも遊び人と一緒だった。もしも、ルイーダの酒場で遊び人と出会わなかったら、この世界は孤独なものだったのかもしれない。俺にはこの世界で知り合いなんていなかったのだから・・・どんな、無茶な目標でも、計画でもにっこり笑ってついてくる遊び人。誰かの役に立ちたいと願った遊び人。だったら、遊び人の願いはもう叶っている。

 

「遊び人・・・」

 

「きゃ!商人さん、ベッドごそごそしながら、ボクのことを切なそうに呼ぶなんて、いったいなにをしていたんですか。あっ、これは男の子には聞いてはいけないことでしたね」

 

 いつの間にかに遊び人が部屋に来ていた。お風呂上がりで上気した肌、濡れた髪は美しくて、いつも以上に女の子だ。いや、どう見ても美少女だ。本当は美少女だったのでないのだろうか?だとしたら、あれが使えるはずだ。

 

「遊び人、お願いがあるんだけど・・・」

 

「商人さん!ボクをベッドに押し倒して、そんな顔でお願いだなんて、ボク、断るなんてことできないですよ・・・」

 

「良かった・・・遊び人に断られたらどうしようかと思った。ちょっと、ちょこっとだけ、これ着てみて」

 

 俺は懐に大切にしまっていた、魔法のビキニを取り出した。遊び人が装備できるか試してみないと!

 

「無理ですよー!ボクは男ですよ!女性専用装備は装備できませんよ!こんな、きわどい水着を着たら、上はがばがばなだけですけど、下は大変なことになってしまいますよー!」

 

「大丈夫だ、ちょっと体に当てて試すだけだから・・・この見た目で、装備できないなんて、ちょっと何を言っているか理解できない・・・」

 

「商人さん・・・理解力が低下し過ぎですー!試してみますから、目をつむっていて下さい。恥ずかしいから、見てはダメですよ」

 

 俺は押し倒した遊び人に、馬乗りになったまま目を瞑った・・・ごそごそと着替える遊び人の気配がする。これは、本当に装備できるのではないだろうか・・・その時、ノックもなく部屋のドアが勢いよく開けられた。

 

「商人、遊び人、近くの屋台に美味しいス綿菓子が売っているみたい・・・って、2人とも、ベッドの上で何をしているの・・・」

 

 

 武闘家が見た光景は・・・半裸の遊び人を目を瞑った商人がベッドに押し倒し・・・遊び人は涙目になって、必死のビキニを着ようと体に押し当てている・・・

 

「武闘家さん・・・ボクは商人さんの想いを叶えてあげたいです・・・」

 

「商人と遊び人って、そういう関係なの・・・なんだか、胸が熱くなるわね!」

 

 はっ!俺はいったいなにを・・・押し倒した遊び人は、真っ赤になった顔で潤んだ瞳を俺に向けている。懸命にビキニを体に当てているが、魔法のビキニは女性専用防具。やはり装備はできないようだ。俺の目は騙せても、装備制限までは騙せないようだ。これはまずいことになった。この光景はどう見ても、俺と遊び人がベッドでイチャイチャしている感じだし、しかもこの光景を見た武闘家の胸が熱くなってきている!かなり場が混沌としているようだ。ほとんど、俺の責任で混沌が生まれたわけだが・・・

 

「武闘家、目に見えるもの全てが真実というわけもないんだ。実は、魔法のビキニという高性能防具を手に入れたのだが、女性専用防具だったのだ。遊び人なら装備できるかも思って、合意の上で試着していたんだ」

 

「なるほど、目に見えない愛を感じろと。そして、2人の愛は合意の上ということなのね。また、胸が熱くなってきたわ・・・ところで、その水着が高性能防具なの?」

 

「胸が熱くなりすぎて暴走気味だけど大丈夫だよね・・・そうだ、これが高性能防具、魔法のビキニだ。ちなみに防御力は稽古着の6倍以上だ。遊び人には装備できなかったから、武闘家にあげてもいいぞ」

 

 武闘家が魔法のビキニを受け取り、大きさや性能を確認する。武闘家の手の中で伸び縮するビキニは、明らかに体を隠せる面積が小さいようだ。

 

「商人はこの小さな面積のきわどいビキニを私にきせて戦闘しろというの・・・こんな、面積ではいろいろと出てしまうわ・・・しかし、それはそれで、胸があつくなりそうな予感が・・・こほん!こんな、けしからんビキニは問題があるが、高性能であることは間違いがない。これも全ては、皆の悲願である魔王討伐のためだ・・・このビキニは、ありがたく受け取らせてもらうわ」

 

「そうだ!皆の悲願である魔王討伐、必ず成し遂げてみせるぜ!」

 

「ボクも商人さんと、どこまでも一緒に戦います!魔王討伐だって商人さんとなら、きっと成し遂げられます!」

 

 混沌とした場であったが、魔王討伐!という大きな目標を再確認したことでテンション上がった俺たちは夜のアッサラームに繰り出していった。最初のお目当ては、ギズモ綿菓子だ。1口食べると、口の中で小さな小さなメラの炎がはじける感覚が味わえる人気のお菓子だ。あくまでもギズモ綿菓子は最初の目標である。遊びのプロフェッショナルである遊び人が今晩の計画を立て始めた。テンションが上がった3人のアッサラームの夜は、まだまだ終わる気配がない。


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