転生したらドラクエ3の商人だった件   作:灰色海猫

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ピラミッド攻略①

「商人さん、ミイラ男が現れました!」

 

「よし、逃げるぞ」

 

「商人さん、またミイラ男です!」

 

「よし、逃げるぞ」

 

 俺たちは、砂漠を一気に駆け抜け到着したピラミッドの攻略を始めた。ピラミッドに相応しく、アンデットの巣窟でミイラ男やマミーといったミイラ型モンスターがワラワラと集まってくる。星降る腕輪の効果で素早さが倍増した俺は、ミイラの群れから逃げまくりながら進んでいった。さすがに両手が塞がった、お姫様抱っこでは迷宮攻略は危険なので、遊び人を下して手を引いて走り続けた。

 

「いや、まてよ・・・遊び人をお姫様抱っこしていれば、遊び人の運の良さが俺にも適用されるなんてことは無いだろうか?運の良さのお蔭で、モンスターの出現率が下がったり、女の子にモテモテになったり、札束のお風呂に入れたり・・・今日から始まるサクセスストーリーが待っているかもしれない・・・」

 

「ボクを幸運のお守り扱いしないでください!たしかにボクの運の良さは、サクセスストーリーを呼び込んでいますけどね・・・」

 

 ピラミッドを進む度に高頻度で出現するミイラたち。

 

「商人さん、またミイラ男の群れです!」

 

 また現れたマミーの群れから逃げる。ミイラたちのスピードは遅いので、星降る腕輪を身に着けた俺なら逃げることは簡単だ。逃げながら振り返ると、そこには今まで逃げてきたミイラたちが通路を、ギュウギュウのすし詰め状態で俺たちを追いかけ続けていた。もう、後戻りは出来そうにないな・・・だが、魔法の鍵まで残りわずかな距離まできている。

 

「通ってきた通路がミイラだらけで怖いですよ!絶対に手を離さないでくださいね。ボクの素早さだと逃げられる気がしませんから・・・」

 

「俺たちは、ただ前だけを見て進むだけだ」

 

「かっこいい感じで言っていますが、ただ逃げ続けているボクたちの言えるセリフとは思えませんよ!」

 

 そして、俺たちはピラミッド3階にたどり着いた。この階には決められた順番で押すことで通路が開く仕掛けがある。この仕掛けの先にある宝箱に魔法の鍵が入っているのだ。順番は確か・・・

 

「東の西、西の東、西の西、東の東・・・東の西、西の東、西の西、東の東・・・ブツブツ・・・」

 

「不気味な呪文みたいにブツブツと呟かないでください!怖さが倍増しますよ!その順番で壁のボタンを押すってことですよね。ミイラたちが3階に集まる前に急いでボタンを押しましょう!」

 

 4つ目の東の東側ボタンを押すと遠くでズーンと大きな物音が聞こえた。これは仕掛けが作動し、通路が開いた音だ!魔法の鍵までもう少しだ。俺たちは、急いで開いた通路に向かった。そこには・・・

 

 

 

「なんだこれは・・・俺の知っているドラクエと違う・・・」

 

 そこには宝箱があり、中にはきっと魔法の鍵が入っているのだろう。ここまでは俺が知っているドラクエだ。このまま魔法の鍵を入手して、最上階からピラミッドを脱出する予定だった。しかし、現実は違う。宝箱を守るように巨大な有翼のドラゴン・・・その体には肉はなく、全身が白骨化している。

 

 

「なんでこんなところに、スカルゴンがいるんだ・・・」

 

 スカルゴン・・・地下世界、ゲーム終盤で遭遇するモンスターだ。ピラミッドなんかには、いるはずのないモンスターだ・・・今の俺たちのレベルで太刀打ちできるモンスターではない・・・スカルゴンはゆっくりと顔と体を俺たちに向けると、ガシャガシャと骨がぶつかり合う音が響いた。

 

「後ろからはミイラたちが迫ってきています!」

 

 今まで逃げ続け、置き去りにしてきたミイラたちに追いつかれたようだ。後ろには無数のミイラ、前にはスカルゴン・・・もう逃げ道は残されていなかった。スカルゴンの白骨化した顔、目があったはずの真っ黒な2つの穴に青白い小さな光が灯った。スカルゴンは白骨化した腕を振り上げ、俺目掛けて振り下ろした。こんな攻撃を食らったら死んでしまう!死の恐怖を感じた俺は体動かなくなり・・・次の瞬間、とてつもない衝撃に打ち据えられ、俺は吹っ飛ばされる。体が何度も地面をはずみ、壁に激突してようやく止まった。強烈な痛みが襲ってくる。体がバラバラになったような感覚だ。

 

「商人さん!薬草です!しっかりしてください!」

 

 吹き飛ばされ、倒れた俺に駆け寄ってきた遊び人が薬草を俺の口に詰め込む。俺はむせながら、必死に薬草を飲み込んだ。嫌だ。もう嫌だ、こんなに痛いのは嫌だ!もう、戦いたくない。勝てるわけがない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死の恐怖で体の震えが止まらない。せめて、これ以上の恐怖と痛みを感じることなく、殺して欲しい・・・遊び人が必死に叫び続けているが、もう今の俺には聞き取ることは出来なかった。

 

「ボクが時間を稼ぎます!今のうちに薬草で回復してください。大丈夫・・・大丈夫です!ボクには、商人さんに買ってもらった、ミニスカ身かわしの服と圧倒的な運の良さがありますから!」

 

 遊び人がありったけの薬草を俺に渡して、一つは俺の口の中に無理やりねじ込んで・・・スカルゴンに立ち向かっていった。

 

 

「このガリガリのつるぺったん!お前の相手はボクがしてやる!ボクもつるぺったんだけどね!」

 

 大声を出しながらも遊び人は、鱗の盾を構えて防御姿勢をしっかりとっている。つるぺったんと言われたことが気に障ったのか、スカルゴンは標的を商人から遊び人に変更したようだ。目のあった場所に灯る青白い光を遊び人に向けた。遊び人が何かを叫んでいる。叫び声に応じるように、スカルゴンが右足を大きく持ち上げ、遊びん人を踏みつける!身かわしの服の効果か、遊び人は踏みつけをひらりと身をかわした。

 

「商人さん!××××××××××××××!」

 

 遊び人がまた何かを叫んでいる。よく聞き取れないが、俺に向かって叫んでいるようだ。今度はスカルゴンが長い尻尾を振り回し遊び人に叩きつけた。鱗の盾を構えて防御に徹しているとはいえ、強烈な尻尾の直撃に吹き飛ばされた。吹き飛ばされた遊び人は、天井にぶつかり勢いよく床に落下するが何とか立ち上がった。遊び人の額から血が溢れ、流血の筋が何本もできている。どうして、遊び人は立ち上がるのだろうか?スカルゴンの強さを知らないからだろうか?防御を繰り返しても、いつかは命を削り取られ死んでしまう。こんなことをしても痛みが長続きするだけなのに・・・遊び人が、また叫び声を上げる。その叫びは・・・

 

「商人さん!商人さんだけでも逃げて下さい!」

 

 スカルゴンは大きく息を吸い込むようなモーションをした。そして、口を大きくあけると凍りつく息を吐きだした。凍てつく冷気のブレスが、叫びながら防御を続ける遊び人を包み込んだ。遊び人の体は凍りつき、全身が真っ白い氷で覆われるが倒れることはなかった。

 

「良かった!商人さんが正気にもどった!だけど、ボクはもう長くは持ちません・・・商人さんだけでも逃げて下さい!」

 

「何を言っているんだ!お前も一緒に逃げるんだ!こんな、ところで意味もなく死んでたまるか!」

 

「・・・そうですよね。こんなところで全滅なんて、ボクだってイヤですよ!一か八かの賭けになりますか、逃げる隙はボクが作ります。だから、ボクも一緒に連れて行ってくださいね・・・」

 

 スカルゴンは再び息を大きく吸い込み・・・凍りつく息を吐き出した。凍てつく冷気の塊が遊び人に向かってくる・・・遊び人は防御を行わず、眠りの杖をスカルゴンに向かって振った。眠りの杖は、使用するとラリホーの効果がある魔法の杖だ。ラリホーへの耐性が少ないスカルゴンは、抵抗できずに眠りに落ちて行った・・・しかし、眠りに落ちたスカルゴンは魔法の鍵が入った宝箱を守るように・・・宝箱を抱え込みながら、スヤスヤと寝息を立てている。これでは、スカルゴンを起こさずに魔法の鍵を手に入れることはできないだろう。今は魔法の鍵よりもこの場から逃げないと!奴が起きたら、今度こそ殺されてしまう!

 

「遊び人・・・今のうちに逃げるぞ・・・ミイラで、すし詰めの通路を通る必要はあるが、俺たち2人なら逃げられるさ・・・なあ、遊び人・・・遊び人?」

 

 遊び人の手を握った俺は絶句した。遊び人の手が氷のように冷たい・・・手を握っても、呼びかけても反応が無かった。スカルゴンへ眠りの杖を使った直後、凍りつく息を無防備な体に浴びた遊び人は、すでに死んでいたのだ・・・


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