「君たち、旅の仲間に選ばれなくて残念だったね。お姉さんは、選ばれても選ばれなくても、みんなを応援し続けるぞ」
勇者パーティーが旅立ち、残されたものたち、商人、武闘家、遊び人をルイーダさんが慰めている。ドラクエ3は何度も繰り返しプレイしている。しかし、勇者の選ばれなかったものたちの寂しさは、ゲームの中でも味わったことがない、ましてや、自分が選ばれなかった悲しみは・・・俺の気持ちはどん底だ。大好きなドラクエ3の世界に転生した興奮も過去のものになっている。勇者と旅に出ないなら、俺はここに何をするために転生したというのか・・・
たしかに勇者の選んだ仲間は初期メンバーとしてはバランスが取れている。しかし、初期職業は転職をすることで変更可能だ。残された遊び人は、「悟りの書」なしで賢者に転職可能であり、武闘家もレベルアップに比例して会心の一撃発生率が上がる職業特性がある。俺は・・・商人は他の職業に比べれば見劣りするが、転職でカバーできる。何よりも、俺には何度も遊んだドラクエ3の豊富な知識がある・・・俺ならば、勇者なしでも、残された3人でも魔王バラモス退治ができるのではないか。そうだ!俺がこの世界に転生した理由は、勇者よりも早く世界を救うことに違いない。そして、魔王バラモスを倒した俺は、勇者パーティーに認められ、僧侶ちゃんや女戦士さんと仲良しになれるかも知れないしね!
「遊び人、武闘家さん。聞いてくれ、勇者には選ばれなかったが、落ち込んでいても仕方がない。俺たち3人で魔王バラモスを倒す旅にでようぜ!」
「ばっかじゃないの!何でエリート武闘家の私が商人と遊び人なんかと旅にでないと行けないわけ!勇者に選ばれなかった私には足りないものがあったのかも知れないわ。私はもう一度、自分を鍛え直す旅にでるわ」
武闘家は「ルイーダさん、またねー」と手を振りながらルイーダの酒場を出て行った。勇者パーティー旅立ち、武闘家も旅立った。残ったのは商人と遊び人・・・スタートから、かなりのハードモードの予感!
「あの商人さん、こんなボクで良かったら、旅のお供に加えてください!」
遊び人がにっこり微笑みながら、商人の手をガシっと握って来た。縛りプレイもかなりやってきた。商人と遊び人の2人旅。男2人パーティーがイケメン勇者のハーレムパーティーを出し抜く!これは燃えるぜ。俺も遊び人の手を握り返し、
「遊び人!俺たち2人で伝説を作ろうぜ!」
「あのー。ちょっといいかな。2人の世界で盛り上がるのは良いんだけど、注意事項がありまス!」
ルイーダさんが、早速旅立とうと盛り上がる俺たちに遠慮しながら話しかけてきた。
「お話を聞いていましたが2人で魔王討伐の旅に出るのかナ。勇者は選ばれし者。魔王と戦うための特別な力があるんだ・・・一つは、勇者の仲間以外の冒険者パーティーは、全滅しても教会で生き返らない。全滅したら終わりだヨ。一つは、勇者に与えられし物、魔法の袋は君たちには使えない。君たちが持っているのは、ただの布袋だ・・・それでも旅立つというのなら、出会いと旅立ちの酒場のルイーダは旅立ちを祝福させてもらうヨ・・・」
「ルイーダさん!男は・・・男と生まれたからには、誰でも一生の内一度は夢見る・・・地上最強の男と魔王討伐とハーレムパーティーを!俺たちは男の夢を叶えるために旅立つぜ!」
商人と遊び人は、ルイーダの酒場から飛び出していった。誰もが夢見る男の夢を叶えるために。
「男の子っていいナ。お姉さん、期待しちゃうナ。君たちの出会いと旅立ちを祝福するヨ・・・」
「おやじ!武器を見せてくれ!」
「おう!今日は武器がよく売れるぜ。さっきも勇者様に銅の剣を売ったばかりだ。アリアハンの店売り最強の武器をな!」
俺たちは、装備を整えるために武器屋を訪れていた。確かに銅の剣はコストパフォーマンス抜群の武器だ。銅製といってもバカにすることはできない。アリアハン全域で通用する攻撃力を持っている。商人の特殊能力ではないが、値切りまくるぜ。俺は値切りの限界を突破して大阪のおばちゃんを超えてやる。
「ところで遊び人はいくらもっている?ちなみに俺は無一文だ」
「商人さん、ボクも無一文ですよ・・・こうなったら、仕方がありません!ボクの布の服を売り払い、武器を買いましょう」
俺も人のことは言えないが、無一文で魔王討伐に旅立つってすごいな!布の服の売値は7Gだ。ひのきの棒が5Gだから、布の服を売れば最低限の武器が手に入る・・・
「ボク・・・裸になって恥ずかしいけど、商人さんのためなら、我慢できるよ・・・」
「いつも苦労を掛けてすまないな。遊び人・・・」
「商人さん・・・それは言わない約束ですよ」
「いや、まてまて。ひのきの棒なんて、ザコ武器の為に人間の尊厳を捨てるのは間違っていると思う・・・と言うわけで、2人とも無一文ということが分かったな!」
「無一文の貧乏人ども!店の前で遊んでんじゃねえー!商売の邪魔だから、他所で遊べ!」
武器屋のおやじは、アリアハン店売り最強武器を振り回し2人を追い払った。危なかった・・・もう少しで人間の尊厳を売り払うところだった・・・金がない、武器もない。無いものは無いのだ。しかたなく、2人は手ぶらで戦闘に挑むことにした。
アリアハンの町から出た商人と遊び人は、恐る恐るモンスターを探しながら町周辺を歩き回った。草原を歩き、森に一歩踏み込んだとき、周囲の森からモンスターたちが現れた!足元には4匹のスライムが体をプルプルと揺らしながらにじり寄り、頭上の木の枝には3羽の大ガラスがつかまり「カーカー」と威嚇の鳴き声を上げている。スライムも大ガラスも最弱モンスターだ。レベル1の商人、遊び人パーティーでこの数の敵を闇雲に相手にするのは危険・・・しかし、確実に1匹ずつ各個撃破していけば、死ぬことはない!
「遊び人、ついに初戦闘だ!まずはスライムを1匹ずつ確実に倒すぞ!って、遊び人、何やってるの!」
遊び人は、にっこり微笑んでいる・・・足元はスライムにたかられ、頭を大ガラスに突かれながら・・・
「使えない奴め・・・自己紹介で、かませなかったボケをここでかますなんて!取り敢えず、遊び人がたかられている間にスライムを減らそう・・・」
俺はスライムをサッカーボールのように蹴り飛ばした・・・
「ボクは初めて戦闘で死ぬところでした・・・カラス、怖いよ・・・モグモグ・・・」
俺たちは何とかスライムと大ガラスの魔物群れを倒した。遊び人は頭をかなり大ガラスに突かれ、血だらけになっている。今は倒したスライムが落とした薬草をモグモグと食べて傷を癒していた。俺は大怪我を負った遊び人を薬草に任せて、落ちているゴールドを拾いまくる。商人はゴールドを追加で拾えるのだ。
「よし、ゴールド拾い完了・・・さすがは魔王の手下たち。手強かったな・・・しかし、俺たちは力を手に入れた。いっきにレベル3に上がった!このレベルなら、アリアハンの町周辺なら、いくらでも戦える!奴らを倒しまくって、レベリングだ!追加ゴールド拾いまくりだ!」
「モグモグ、ゴックン!商人さん、目が怖いですよ。だけど、ボクも頑張ります!何やら、新しい遊びが閃きそうな気がするので!」
遊び人よ、にっこり微笑んでも、その場で転んでも問題ない。お前は肉壁として、モンスターの攻撃を受けるだけで充分だ。ケッケッケッケ!
「急に悪魔みたいな笑い方をしないで下さい!いつも以上に目つきが悪くなって、殺人鬼みたいです!わー、向こうから、スライムたちが寄って来ますよ。今度こそボクの実力を見ていて下さい。でやー!わ、足がもつれましたー」
遊び人は、足がもつれてその場に倒れた・・・倒れた遊び人はスライムたちにたかられ・・・スライムが遊び人に飛び乗る度に「ギャ!」と悲鳴が上がった。
「使えない奴め・・・だがしかし、遊び人が使えないことは折り込み済みだ」
俺は遊び人に、たかったスライムをサッカーボールのように蹴り飛ばした・・・
「ボクは旅立ち初日の戦闘で何度も死にそうになりましたよ・・・カラス、怖いよ・・・モグモグ・・・薬草の食べ過ぎでお腹いっぱいですね」
アリアハンの町周辺での戦闘で商人と遊び人はレベル5まで上がり、スライムや大ガラス程度なら、蹴りやパンチで余裕をもって倒せるようになった。現在は時折スライムや大ガラスが落とす薬草を食べながら休憩中・・・薬草でお腹いっぱいになる遊び人・・・どれだけ、薬草を食べたのやら・・・
「最初は血だらけになったり死にそうになったりしたけど、商人さんの指示通りに戦ったら、レベルアップができました!ボクなんかが、レベルアップできるなんて思ってもみませんでした!ボクなんかが勇者さまの旅の仲間になれるなんて思わなかったけど、ボクだって魔王の手下と戦えるってわかりました!」
遊び人はにっこり微笑みながら、レベルアップを喜んでいる。大ガラスに突かれた頭から流れた血でピエロメイクは所々落ちかけている。ピエロの衣装も何か所か穴が開いている。それでも、遊び人はにっこり微笑んでいる。
「ボクは勇者さまに嘘をつきました。笑いと癒しを与えたいって言ったのは嘘です。本当は遊び人なんかになりたくなかったけど、ボクは生れながらの遊び人です・・・冒険者なのに役立たずの職業・・・だけど、ボクだって戦いたい!今のこの世界には戦う力が必要です・・・魔王を倒して、みんなの本当の笑顔を取り戻したいんです!だから、これからも商人さんについていきます!」
俺は遊び人の頭に手を伸ばし、頭をわしゃわしゃと掻き回した。遊び人は、にっこり微笑みながらされるがままだ。
「全部、俺に任せておけ!今日から始まった、俺たちの魔王討伐の物語はハッピーエンドしかありえないぜ。遊び人!全部、俺に任せてついてこい!」
「はい!もちろんです、商人さん!」
「じゃあ、早速、レーベの村に向かおう」
「え、今からですか?今日はかなり戦って、ボロボロだし、アリアハンの宿屋でのんびり、疲れを取りたいなーなんて、当たり前の休息を提案します」
「ほれ」と言って、商人は遊び人に薬草を手渡した。
「大丈夫だよ、遊び人!俺たちは魔法使いや僧侶じゃないから、宿屋に泊ってのMP回復は不要だ。薬草を食べたら、早速出発だ!」
「ふえーん!商人さんは、こんなにスパルタなの!ボクついていけるか心配になりました・・・モグモグ」
2人は薬草をモグモグ食べながら、レーベの村に向かった。