エルフの隠れ里に戻った俺たちはエルフの女王のもとに向かった。エルフたちは人間に敵意を持っているわけでは無いようだ。引き止められることもなくエルフの里を進む。エルフたちは俺たちに敵意は持っていないが、完全に無視している。俺たちの存在を無視しながら、日常生活を続けていた。エルフにとって人間は、姫を騙してエルフの宝、夢見るルビーを持ち出した「悪」だ。どんなに受け入れられないような、嫌いなもの、後悔であったとしても、目をそらして解決できる問題なんてないのに・・・エルフたちの後ろ向きの態度に、俺はさらに切ない悲しい気持ちになっていく・・・里の周りの森から俺は視線を感じた。そこには1人エルフの男が立っていた。エルフの男は俺と目が合うと、そっと森の奥に去って行った。この里の中にも、俺たちの存在を気に掛けるエルフはいる・・・俺は小さな希望を見つけた気がした。
俺たちはエルフの女王の屋敷にたどり着いた。屋敷の侍女に女王が待つ広間に案内される。女王は広間の王座に腰掛け、無感情な視線で俺たちを眺めた。
「あなたがた人間がこのエルフの里にいったいなんのようですか?その手に持っているのは、夢見るルビーでは・・・?」
俺は地底湖の洞窟で見つけたエルフの姫たちが残した書置きと、夢見るルビーを女王に渡した。女王は夢見るルビーを侍女に渡し、書置きを読み始めた・・・短い書置きだが何度も読み返し、時折目をつぶって思案にふけているようだ。女王は長い時間かけて書置きを読み終えた。
「この夢見るルビーは本物のようです。夢見るルビーを探し出したこと感謝致します。そして、この書置きも我が娘の書いたものに間違いないでしょう。人間に騙された愚かで哀れな娘・・・娘が里を出てから多くの時が経ちましたが、人間に娘を奪われた怒りと悲しみは消えることはないでしょう。エルフと人間が関わり合うこと自体が間違いだったのです」
「間違いだったなんて・・・騙されていたなんて・・・女王様は自分の娘を信じることもできないの・・・」
魔法使いが悲しそうに女王に訴えかけた。そして、とんがり帽子を脱ぐ。無造作なカールかかった金髪の間から覗く耳は人間のものより、あきらかに大きく尖っている。
「あたしはノアニールで生まれました。母は人間ですが、父はこの里のエルフだと聞いています。エルフの血を半分受け継ぐ私は耳が大きく尖って生まれました。父は、あたしが生まれてすぐに里に帰ってしまったので、父の記憶はありませんが・・・それでも、母と父の出会いが間違いだなんて思ったことはありません。母が父を騙す理由もないでしょう・・・私は、母と父を信じています。女王様は、自分の娘を娘が愛した人間を信じることができないのでしょうか・・・」
「あなたが薬師の娘とは・・・薬師は好奇心旺盛な青年で度々、人間の町を訪れていました。そこで、人間の少女と出会い恋に落ちたと聞いています。エルフは掟でこの里を出ることを禁じています。薬師は人間の少女と一緒に暮らすことを望んでいましたが、最後には里の掟を守ることを選びました・・・私を含め、エルフが抱く人間への不信感がすぐになくなることはないでしょう。しかし、この里のエルフの血を引くあなたを信じ、ノアニールの呪いを解くことにします。さあ、この目覚めの粉を持って、人間の町にお戻りなさい」
俺たちは、目覚めの粉を受け取り女王の屋敷を後にした。とんがり帽子を深く被りなおした魔法使いが、
「商人さん、ありがとうございます。これで、ノアニールのみんなを眠りから覚ますことができます。めでたしめでたしです」
「まだ、めでたしめでたしには足りていない。俺たちのめでたしめでたしの一つはあそこで待っている」
商人が指さす先、森の間から、魔法使いを見つめるエルフの男。どことなく、魔法使いに似た顔立ちだ。きっと彼は・・・
「お父さん?・・・でも・・・お父さんは、お母さんとあたしを置いていなくなってしまって・・・あたし、お父さんの記憶がないし・・・迷惑じゃないかな・・・」
「何を言っているんだ。女王の前での魔法使いの話に俺は感動したよ。魔法使いが親父を信じないでどうする。信じた相手に裏切られるのは苦しいけど、信じなければ始まらないこともあるだろう」
俺は魔法使いの背中をそっと押した。魔法使いはおどおどと挙動不審な動きで、自分を見つめるエルフの男に近づいていった。
「あ、あ、あの・・・もしか、してですが、お、お、お父さんでしょうか?」
極度の緊張で噛みまくりながらも頑張った魔法使い。エルフの男は穏やかな微笑みを浮かべながら、ゆっくりと頷いた・・・魔法使いは、泣きながら父親の胸に飛び込み、父親は優しく頭を撫で続けた・・・エルフの人間への不信感が無くなったわけではないが、数人のエルフたちも、この親子の再会を笑顔で見守っている。エルフの頑なな心もいつかは、この笑顔が溶かしてくれると信じることにした。
これで、めでたし一つ目を手に入れた。次のめでたしを手に入れるため、ノアニールに向かう。
ノアニールの中心にある広場で俺は目覚めの粉を大空に振りまいた。目覚めの粉はキラキラと神秘的な輝きながら、風に乗って町中に広がっていく・・・目覚めの粉の効果は、すぐに現れ始め・・・町中の人々が目を覚ました。エルフの呪いが解けたのだ。もちろん、魔法使いの母も目を覚ましていた。
「ふあー。おはよう・・・良く寝たわ。30年くらい寝ていた気分ね!」
「お母さん、大正解!本当に30年間も眠り続けていたの!」
「30年って、そんなに!お母さん、いったい年齢がいくつになったか、計算するのも恐ろしいわ・・・思いのほか、お肌はツヤツヤね!それに、30年も寝ていたのに体が痛くないって、若さかしら?」
「この眠りは、エルフの呪いのが原因だったから・・・眠っている間は歳をとっていなかったみたい。ごはんも必要なかったし。体が痛くないのは、お母さんの体をスライムが念入りにマッサージしてくれたからかな・・・」
魔法使いは今までの、母親が眠っている間の出来事を説明した。魔法使いが魔法の修行に出たあとに、ノアニールの住人全てが眠りについたこと。眠りの原因は、エルフの姫と町の男の駆け落ちを、エルフたちは姫が騙されたと一方的に思い込み、町全体に眠りの呪いをかけたこと。魔法使いは勇者とともに魔王討伐の旅をしていること。ノアニールの呪いを解くために、商人と遊び人の力を借りたこと・・・エルフの隠れ里でお父さんあったこと・・・
「そうでしたか・・・商人さん、遊び人さん、ノアニールを呪いから救ってくれて、ありがとう・・・あなた達が、いなかったら、この町はずっと眠り続けていたかもしれないわ。眠っている間に悪い魔物に襲われていたかもしれない・・・」
すでに悪いスライムに襲われていたことは黙っておこう・・・
「このことを町のみんなにも教えてあげないといけないわ。みんな、訳も分からず、ぽかんとしているはずだからね・・・じゃあ、町のみんなを集めるから、パーティーのリーダーである商人君から、お話ししてもらいましょう。町を救った英雄、商人君からね!」
えっ、俺が・・・俺はみんなの前で説明とか演説とか苦手です・・・だが、遊び人と魔法使いは、俺をキラキラした期待感がこもった瞳で見つめている。遊び人がちょっと笑っているのは、俺が緊張して失敗するのを楽しみにしている顔だ!
「商人君、町のみんなが集まったわ。商人君がお話しすることは、完全に町中に伝わっているわよ。早速、ノアニールを救った英雄による、歴史的な演説をお願いするわね」
お母様がすごくハードルを上げにきています・・・
町の中心の広場には、子供、老人、道具屋、神父・・・町中の住人たちが集まっていた。300人くらいいるだろうか?ご丁寧に木箱が置いてある。どうやら、俺はこの上で今回の経緯説明をするようだ。かなり、緊張してきたが、ここまで来たらやるしかない!俺は覚悟を決めて木箱の上に上がった・・・えーと、これはカボチャだ。人間じゃない、カボチャだ。最前列で手を振るのは、遊び人っぽいカボチャだ・・・俺はとっておきのおまじないを唱えた・・・神さまの悪戯だろうか?ノアニールの町を一陣の風が吹いた。町の中に残っていた目覚めの粉が舞い上がり、キラキラと広場に舞い降りてくる。幻想的な光景に人々は息を飲んだ。視線は自然と中心の俺に集まり、視線の中で緊張はピークに達していた・・・カボチャのおまじないは解けていた・・・
「俺はちょうにんとらん。ごめん噛みました」
「商人様、どんどん食べてください。お飲み物のおかわりをお持ちしますね」
第一声で盛大に噛み、その後もたどたどしい話し方であったが何とか説明は終わった。説明を終えてホッとする間もなく、住民たちから感謝の宴を開いてお礼をすると言い始め、なし崩し的に広場で宴が始まった。倉庫や戸棚で何十年も寝かしていた食材で作ったと思われる料理は、熟成した味がして美味しかった・・・みんな、お腹壊さなければいいな。
「呪いを解いてくれてありがとう!ノアニール名物のデスフラッターフライでーす!」
俺の周りには、住人たちが行列を作り、代わる代わる町を救ったことへのお礼や言いながら飲み物や食べ物を運んでくる。デスフラッターフライはカリカリのから揚げで、恐ろしい2回攻撃のカラスとは思えない美味しさだった。遊び人の裏工作により、いつのまにか町を救ったのは俺で、遊び人と魔法使いはお供のような存在になっていた。遊び人は「ボクなんかが英雄なんてとんでもない!無料で町のおじさんたちの相手なんて嫌です!こんな、面倒なことは商人さん、いえ、英雄様にお任せします!」と言って、人ごみに紛れてどこかに行ってしまった・・・俺へ食べ物を運ぶ行列は、どんどん長くなり・・・もう、お腹いっぱいの俺は、1人でこの行列に挑まなければ、ならなくなった。遊び人、覚えていろよ!
広場の中央から少し離れた場所で、遊び人と魔法使いがノアニール名物のデスフラッターフライをかじっていた。2人の視線の先には、お腹がぱんぱんになりながらも、必死に住人のお礼の食べ物を食べ続ける商人の姿があった。
「遊び人さん、助けていただいて本当にありがとうございました。あたしは、これから勇者様のところへ帰ろうと思います。遊び人さんたちは、次は予定通りアッサラーム行ですか?」
「助けたのはボクじゃなくて、あそこでお腹ぱんぱんになっている英雄様だよ?ボクは商人さんに着いていくだけだから・・・ところで、魔法使いさんは、商人さんのこと本当に好きなんですか?」
「おっと、噂のガールズトークです!」
「って、ボクは男ですよ」
「最初はノアニールを救う為に利用しようかなって思って近づきました。あたしは、魔法使いなので戦闘にはどうしても壁役が必要なので・・・だけど、一緒にパーティーを組んでいるうちに、少しだけ良いなって思うようになりました。あたしは緊張しやすい性格なんですが、なぜか商人さんとお話ししても緊張しませんし・・・でも、良いなと思ったのは少しだけですよ!あたしには、やっぱり勇者様が特別な存在です」
「商人さんは女性に甘いからなー。騙されても、笑って済ましてしまうんだろうなー。ところで、ルイーダの酒場で聞いた自己紹介では16歳と言っていた気がするけど、これも嘘でしたね・・・」
「てへへ。エルフの血を引くと寿命が延びて歳が取りにくくなって、エルフみたいに美人になるの。気持ちは16歳です!」
「・・・あの可愛らしい体形のお母様の血を引き、細身の代名詞エルフの血まで引いている・・・これは、ぺったんこ体型血統の完成形。ぺったんこが遺伝的に証明されました!」
「何言っているの!遊び人さんだって、あたしに負けず劣らずのぺったんこでしょ!」
「ボクは男ですよ・・・」
盛り上がるガールズトークと、商人が挑む胃袋の限界との戦いは、まだまだ終わる気配がなかった。
毎回の投稿で誤字だらけで申し訳ありません・・・
誤字報告頂きました皆様、ありがとうございます。