「レブナントGは前回の出撃から帰投後自己崩壊しました。原因は組み合わせた怪獣因子同士の拒絶反応だと思われます」
ラボにて石動が部下から解剖結果を纏めたレポートを受け取り、軽く目を通す
「ゴモラを素体にジャスキープとハイパーゼットンギガントのバリアー能力、そこにリフレク星人の装甲を合わせても本格活動は1分弱が限界、か…」
「やはりこれ以上の合成と現実的な運用を考えると、ボガールの因子を利用せねば難しいのでしょうか?」
「それでも難しいだろうな。ボガールの因子、その能力は怪獣を惹きつけるだけだ。制御・統制する能力では無い以上、合成には助けられても拒絶反応は止められん」
石動がレポートをデスクに置くと残骸となったレブナントGの画像を見据える
「他の怪獣を支配、統制する因子。アレの完成にはそれが必要なのだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お姉ちゃんいってきまーす」
「はい、いってらっしゃい」
玄関に立つ
そんな花の様子を心配そうに樹が見つめる
「お姉ちゃん、ずっと休んでるみたいだけど…大丈夫なの?」
「え、うん。大丈夫!隊長にもちゃんと許可もらってるから!」
「ならいいけど……」
渋る樹の背を花が押す
樹が出たのを確認した花はリビングのソファに倒れ込み、顔を伏せる
花の部屋の隅にはケリスから借りた本を含む怪獣関連の本が積み重なり埃を被っていた
フランベルス撃退作戦の失敗から2週間。花はNEXT GUYSを休んでいた
作戦失敗で多くの死傷者を出してしまったから
自分のわがまま同然の作戦で隊員のみんなも傷つけてしまったから
何よりも、怖くても向き合えると思っていたはずの怪獣が怖くてたまらなくなったからだ
今でも夜中、フランベルスの悪夢にうなされて起きることがある
こんな状態で、仕事なんかできないと思ったからこそ休み続けているのだ
何もしない。何もできない
そのままで2週間が経ってしまった
花は結局、変われなかったのだ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ウルトラマンイカロスの修復、無事に完了しました」
「お疲れ様。これでまたいつ怪獣が現れても大丈夫だな…」
ヘルメットを外しながら翼が一息つく
ドックに格納されたウルトラマンイカロスは新品同然に修復が終わっていた
フランベルスの攻撃で受けた損傷は思ったよりも大きく、タイマーリアクターにガタが来るほどのものだった為に修復にここまでかかってしまった
「惜しむらくはイカロスナイトソードの修復はまだ目処が立たないことでしょうかね……」
イカロス自身が修復できても半ばからへし折られたイカロスナイトソードの修復は一向に進んでいなかった
「刀身が丸ごと砕けてるからね……この純度と質量のスペシウム合金の鍛造は数週間じゃ間に合わない……」
残念そうな表情を見せた翼だが、技師にすぐ笑顔を返す
「急いでもいいものは完成しない。イカロスはセイバーカスタマイズ無しでも活躍は可能だからね」
ドックから社長室に帰ってきた翼は、備え付けの書斎兼ラボラトリーの扉の電子ロックを解除し、部屋に入る
「………」
技師にああ言ったが、内心翼は焦っていた
セイバーカスタマイズはヒカリやホムラザムシャーとの邂逅で心身共に大きな力としてイカロスが身につけていたものだ。イカロス自身の戦力が決して低いとは言わないが、ウルトラゾーンの影響により襲来した怪獣も、フランベルスのような怪獣も、まるで歯が立たなかった
このままで、自分はイカロスとじいちゃんが交わした約束を守れるのだろうか
守りたいと思った自分の意志を貫けるのだろうか
そんな不安は翼の心をじわじわと蝕んでいた
「じいちゃんは危険だと言ってたけど……でも、今はこれがきっと力になるはずなんだ」
ラボラトリーの奥、厳重にロックが施されていた金庫を開き、その内部にあるものを取り出す
カプセルに封じ込められた黒い欠片
翼の手に収められたそのカプセルには検体名を示すラベルが貼られていた
「大丈夫。今の僕らなら、この力もきっと正しく使える」
自分に言い聞かせるように翼はその検体をデスクに置いた
その検体の名は
《アーマード・ダークネス》
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ソファに寝転び、何をするでもなく花は放心していた
NEXT GUYSを休みはじめてからずっとこの調子だった
樹を送り出し、樹が帰るまで特に何をするでもなく一日が終わっていく
ズキン、と頭の傷が痛んだ
軽く包帯を巻いた傷跡をなぞる
瞬間、フランベルスの顔が、人々の悲鳴がフラッシュバックしてくる
「っはぁっ!?」
思わず飛び起きる
嫌な汗が背中に滲む
手近なクッションを手に取り、花はそれに顔を埋めてうずくまった
ーコツン、カーンッ
「……?」
と、そんな花の耳に妙な音が聞こえてきた
方向から見るにベランダの窓に何かぶつかって落ちてきた、そんな感じの音だった
『ーか、誰かいないか!?何も見えない!!』
「!?」
思わずビクッと飛び退く
ベランダの方から声が響いてきた。樹の声じゃない、若い男性のような声
警戒しながらもベランダの窓を開き、確認する
『おおい!?誰か!?真っ暗だ!』
また聞こえてきたその声は、ベランダに転がる何やら大きなスマホみたいな機械から聞こえてきた
最大限に警戒しながら花はその端末を両手で拾い上げ、裏返す
黒い液晶画面が金の縁取りで彩られた端末。花は見たことない形だが、NEXT GUYSのアタッシュと言われても納得してしまいそうな、そんな形状をしている
そんな端末の画面にウルトラマンのような姿が映し出された
『っはぁ、助かった……』
声は端末から聞こえた
「え、えっと……あなた?が喋ってるの…?」
『キミが助けてくれたのか。ありがとう。大地たちと共に妙な空間に飲み込まれ、放り出されて困っていたんだ』
端末から発せられる声はコホンと咳払いをすると、自己紹介を始めた
『私の名前はウルトラマンエックス。訳あって今はこの端末の中に身を寄せている。改めて助けてくれてありがとう』
端末の声の紹介を聞き、花は目を丸くする
「え、えぇっ!?ウルトラマン!?」
しばらく状況を飲み込むのに難儀した花だったが、落ち着いてからはエックスから色々と事情を聞くことに成功した
ある実験を共に行なっていた際に突然発生した次元異常に相棒である地球人と共に飲み込まれてしまったこと
気がついた時にはその地球人とはぐれてしまっていたこと
そして花がエックスとの会話の中で互いに疑問に思っていたことを確認しながら話しているとエックスとその地球人ー
『NEXT GUYSにA.I.G.I.S.……なるほど、この世界の地球にも
「違う宇宙……聞けば聞くほど信じられないけど……エックスさんの話が嘘とはとても思えないし……」
『私も驚いているよ。何度か並行宇宙の存在と出会うこともあったが、私自身がこうして訪れるのは初めてだ』
感慨深く話すエックスを見ながら、花はエックスが話していたエックスと大地の宇宙、その地球の話を噛み締めていた
(怪獣たちと共存していこうとする世界……か……)
エックスたちの世界、大地という彼の相棒が所属している防衛チームXioは怪獣を時には保護することで彼らとの共存を図っているチームだというのだ
花が試みて失敗したこと、この世界ではまだ難しいことを、エックスの世界はもう一歩踏み出しているというのだ
それを聞いた花は、何故か少しだけ胸が痛んだ
『……花、私の頼みを聞いてはくれないだろうか?』
「頼み?私にできることなら…」
『ああ。むしろ今の状況ではキミにしか頼めないことだ』
『私と共に大地を探すのを手伝って欲しい。彼もこの宇宙に飛ばされてしまっているはずだからな』
久しぶりに外に出た気がする
いつも樹と共に買い出しに行くから久しぶり、というのはおかしな話だが、何故か花にはそう感じたのだ
『別の宇宙と言ってもやはり同じ地球…街並みは私たちの宇宙と大きくは違わないな』
「そうなんですか…?」
『ああ、Xioの基地が見えないのが新鮮に思えるくらいだ』
エックスと共に来た大空 大地という人を探す
確かに人探しなら今の花にも可能ではあったが、よくよく考えると途方も無い話だった
エックスがデバイスに表示してくれた顔写真から人相や服装はわかったが、この街だけでもかなり骨が折れるし、何より彼もこの街に来ているという保障は無いのだ
それでも、今の花はじっとしてはいられなかった
『ところで…花は何か悩みがあるのか?』
「え⁉︎えっと…どうしてそう思ったんですか…?」
『大地たちと交流していくうちに私自身知らない間に地球人の機微がわかるようになっていたらしい。あくまで私の勘だから確実というわけでもないだろうが……』
「………」
花は歩きながら返答に悩んでいたが、足を止めて近くのベンチに腰をかける
「……大地さんって、どんな人なんですか?」
『大地が…?そうだな…まず好奇心がとても旺盛だ。私もあってすぐはよく質問攻めされたりしたし、怪獣のことを語りだすと止まらない。あのまっすぐさは眩しいくらいだな』
『そして何よりも、大地は優しく勇敢だ。どんな怪獣ともまず共に生きていけないか探ろうとする。例え攻撃的な怪獣だろうと、彼はその怪獣のことをよく知ろうと向き合い続ける。そういうところが危なっかしくもあるがね』
エックスはまるで家族を自慢するかのように大地について楽しそうに話してくれた
そんな様子が微笑ましくて花も思わず微笑んでいた
「大地さんって、すごい人なんですね…私とは全然違う……」
『どうしてそう思うんだ?』
「……私、数週間前に怪獣撃退作戦に失敗したんです……私が提案して、私がなんとか救えないか、って言ったのに……」
『………』
「私は……救いたいって言ったはずの怪獣が怖いと思ってしまった。みんなが怪我したり、中には死んだ人もいたかもしれない…何よりも私がその怪獣に踏み潰されそうになった時、泣き叫ぶほど怖いと思ってしまったんです……」
花は自分の右手を見つめ、左手で掴む
その手は微かに震えていた
「今でも震えが止まらなくて……こんなんじゃ何も出来ないから、NEXT GUYSもお休みして……変わりたいと思ってこの道を選んだのに、私は結局変われなくて……NEXT GUYSからも怪獣からも逃げてしまったんです……」
花の目には涙が滲んでいた
『……怖いと思うことは、悪いことでは無い。私はそう思う』
花の独白を聞いていたエックスが口を開く
『大地たちXioの面々も、怖いと思うことはあったはずだ。助けたい怪獣が救えない時、怪獣たちの撃退に失敗して人命や街が危険に晒される時……私だって自覚していないだけでそう思ったことはあるのかもしれない』
花がエックスを見つめる
『それに花は、もう一歩踏み出せているじゃないか』
「私……が……?」
『ああ、そうだとも』
あっけらかんとした様子でエックスが続ける
『怪獣との共存が考えられることがなかったこの宇宙で、キミは怪獣にも歩み寄ろうとしたじゃないか。それはキミが踏み出した一歩のはずだろう?』
エックスの言葉をぽかんと受け止める
が、花は首を振る
「でも、私は折れてしまった。一歩踏み出せても戻ってしまったんです。やっぱり私はー」
花の言葉を大きな地鳴りと衝撃音が遮る
「きゃっ!?」
『どうした、花!?』
「地鳴りが…いったいなんで…?」
ーゴァァァァァァ!!!!
混乱する花の耳に咆哮が響く
見上げたその先には鯨のような姿の巨体があった
「怪獣……‼︎」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
フェニックスネスト指令室
街中に急に現れた怪獣の報せはもちろんながらNEXT GUYSにも届いていた
「ドキュメントSSSPに同種族を確認、レジストコードは《深海怪獣グビラ》ですね」
「深海怪獣……?海棲の怪獣なのか?」
「恐らくそうですね…記録でも深海基地に現れた記録がありますし」
ビル街の真ん中、造成地に落ちてきた怪獣ーグビラのリアルタイム映像を見ながらケリスが分析していく
「……次元振動?落下地点付近に次元振動反応を検知…ということはあのグビラは次元の歪みで落ちてきた……?」
ケリスの訝しむ言葉に剛は懸念の色を見せるが、現れた場所が現れた場所故に手早く指示を下す
「とにかく街中に落下した以上、被害は最小限に食い止める必要がある。輝は避難誘導も兼ねて地上から支援を!場合によってはアギラにも頼むことになるだろう。ケリスは私とガンドラグーンで出撃!もし怪獣が暴れるならば速やかな対処を行う」
ちらと花と翔真がいた席見たがすぐに視線を戻す
「NEXT GUYS、サリー・ゴー!!」
「「G.I.G!!」」
花は突然現れたグビラの元から離れていた
怪獣への恐怖はまだあるが、それでも無視ができず、グビラの様子をビルの影から見守る
『あの怪獣は……グビラか!どうしてこんな地上に…?』
「エックスさん、あの怪獣を知ってるんですか…?」
『ああ、以前Xioが対応した怪獣でもあったはずだ。だがあの怪獣は確か縄張りを荒らさない限りは暴れないし滅多に縄張りから離れない怪獣だったはず……』
ーゴァァァァ……
ビルの合間から見えるグビラは先程からほとんど動いておらず、どこか不安そうなか細い鳴き声をあげていた
「……怖がってる…?」
『無理もないかもしれない。グビラからしてみれば、地上の、しかも都市のど真ん中なんて未知の領域だろう。そこに急に放り出されたんだ。怖いと思ってもおかしくないだろう』
その様子を見た花はグビラに向けて一歩踏み出しかけ、体が強張る
またフランベルスの時のあの光景がフラッシュバックしてきたのだ
歩みだそうとしても、足が進まない。足が動かない
ー嗚呼、やっぱり私には無理なんだ
花はグビラに背を向け、避難しようと歩き出す
『花?グビラのことについて仲間に連絡しなくていいのか?』
「大丈夫です。きっと皆さんならちゃんと対応してくれます…ケリス先輩は私より物知りですし、輝先輩は勇気があります。剛隊長もベテランですし……」
『だが、キミたちNEXT GUYSの対応ということは、あのグビラは最悪駆除されてしまうんじゃないのか?』
エックスの言葉に花が足を止める
「……そうなってしまったら、仕方ないんです。私たちの宇宙で怪獣はそういうものですから…」
『だがキミは、あの怪獣が怖がっているように見えるのだろう?キミが説得すればー』
「無理なんです!!!」
いつになく大声で花はエックスの言葉を遮る
「私が…私が提案した作戦で、たくさんの人が怪我して……怪獣だって凶暴なままで……私が思ったことはきっと幻想だったんです……怪獣とも共存できるかもしれない……彼らも救う方法があるのかもしれない……そんなことは、あり得なかった……」
花の目から大粒の涙が溢れる
「私は……ケリス先輩じゃない、輝先輩じゃない、剛隊長でも、翼さんでもない……樹でもない……ましてや、大地さんやエックスさんみたいに強くもない……私は、ただの平凡で、なんの取り柄もない百瀬 花のままなんです…‼︎ これからも、これまでも……」
花の吐露を受け止めていたエックスは優しい言葉で語りかけてきた
『ああ、そうだ。他の誰でもない百瀬 花。キミだからできるんだ』
「……え?」
『大地には私がついていて、ウルトラマンとして共に戦えるという大きな力があった。だがそれでも、なんでもできたわけじゃない。Xioの仲間たちが、出会い共に戦った仲間がいたから、私たちは戦えたんだ』
エックスは続ける
『キミの仲間たちでは、怪獣の機微にまで気づくことは不可能でも、キミは怪獣を見つめてその機微を見出し、寄り添おうと思える。それはキミだけができることじゃないのか?』
「……でも、私は…怪獣が怖くて…」
『ならどうしてキミは、グビラを見てすぐに遠くに逃げなかったんだ?』
その言葉に花ははっと息を呑む
『花、キミが恐れているのは本当に怪獣なのか?』
花は、今更ながら気づいた
エックスからXioの話を聞いた時。怪獣と寄り添おうとする彼らの話を聞いた時のあの胸の痛み
花は、情けなかったのだ
救いたいと思った。寄り添いたいと思った
そんな怪獣を救えない自分が
そして花が怖がっていたのは、怪獣じゃなかった。いや、怪獣にまだ恐怖がなくなったわけじゃない
この感情はあの時、NEXT GUYS入隊前にジャスキープの攻撃から逃げ遅れた子供を見た時と同じー
「私が本当に怖いのは……助けられないこと……」
それにただ襲われて死んでいく人々が助けられないことが怖かった
目の前で助けを求めてる人を見過ごすのが怖かった
そして今は、助けを求めてるかもしれない怪獣を見過ごすのも怖いんだ
『……気持ちに整理はついたかい?』
エックスの言葉に花は我に帰る
さっきよりも心臓の鼓動も、思考も落ち着いている
「……整理はつきました…でも、また失敗したら…」
『なら仲間を頼ればいい。キミだけで無理ならば、その手を誰かと繋げばいいんだ』
「手を……繋ぐ……」
『私が大地とユナイトして戦う力を得たように、大地がゴモラと心を繋げて未来へ踏み出したように』
花は自分の震える右手を見つめた
『今は私が付いている!今の私では繋ぐ手はないが…』
「……ふふっ」
エックスの言葉に自然と笑みが溢れた
右手にエックスがいるデバイスを握る。不思議と震えは収まっていた
涙を拭い、花はグビラをしっかり見据える
「エックスさん…勇気、お借りします」
『ああ!行こう、花!』
花とエックスはグビラに向かい走り出した
その足はもう、止まることはなかった
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「暴れる気配は無いか……」
遠目にグビラを見つめる剛がぽつりと呟く
グビラは造成地にうずくまり、大きな動きは見せていなかった
『隊長、どうしますか?』
「そうさな……」
と、上空から近づいてきたガンドラグーンにグビラが気付き、慌てた様子で口から水流を吐いてガンドラグーンに攻撃してきた
ーゴァァァァァァ!!
そのままヒレ状の足を器用に使い、土を巻き上げ始める
それに巻き込まれて建材なども巻き上がり、周辺の道路に落下していく
「ぬおっ!?麻酔弾を撃とうにもこれでは…」
派手に暴れているわけではないが、どうにも扱いづらい怪獣に剛も攻めあぐねていた
そんな時、どこからか通信が入る
「花……花だって!?」
通信者の名前に驚きながらも通信を繋げる
『隊長!あの怪獣を攻撃するのはやめてください!』
「花!?今どこにいるんだ…?」
『怪獣の…グビラの足元です!』
「はぁっ!?」
あまりの事態に剛の声が裏返る
『隊長、あの怪獣…グビラは怯えているだけなんです。普段と違う環境に放り出されて…』
「確かにグビラは海棲の怪獣らしいが…」
『怯えているように見えるだけ、そんな可能性は考えられない?』
ケリスが花に問いかける
『……その可能性はあるかもしれません。でも…』
『でも?』
『私は、あの怪獣を助けたいんです。怯えているように、泣いてるように見えたのは私だから。助けられるかもしれないなら、見捨てたくないんです!』
いつにも増してはっきりと花が告げる
『私だけじゃ、こう思うしかできません。だから、皆さんの力を貸してください。失敗して、皆さんを傷つけた私にその資格はもう無いかもしれないけど……』
「………」
その言葉を聞いていたケリスは確かに頷き、微笑む
「資格?そんなもの存分にあるよ。花は私たちの仲間なんだから。ね?隊長」
『…そうだな。もちろんだ』
『花ちゃん、おかえりなさい!待ってたよ!』
『ケリスさん…隊長…輝先輩…‼︎』
通信越しで泣き出しそうな声が聞こえてくる
「で、グビラをどうするかだけど…」
『そこは、まずは私に任せてください!』
花が名乗りを上げる
『私が、あの子をなだめてみます!』
怯え縮こまるグビラ。その足元に小さな影が走り寄る
「グビラさーーーーーん!!!」
小さな人影はグビラに大きな声をあげ、手を振りながら存在を示す
ーグァ…?
それに気づいたグビラが視線を向ける
「えっと…安心してください!私たちは!あなたに危害を加える気はありませーーーーん!!!」
グビラが首を傾げていると、滞空していたガンドラグーンがこちらに降りてきた
警戒し、後ずさるがそのガンドラグーンは地上の花の直上で滞空し直し動かなくなる
「不安でしたよね。怖かったですよね。でももう大丈夫!今は私が側にいます!!」
繋げるわけないとわかってはいるが、花が小さな手をグビラに伸ばす
警戒を解くことなく、花とガンドラグーンを見据えていたグビラだったが、花の行動や言葉に敵意が無いと感じ取ったのか、その場にぺたりと座り込んだ
ーゴァァァァ……
声色もどこか落ち着いてきたのを感じ取って花が頷く
「届いてくれた……!」
『やったな花!キミの心が、グビラと繋がったんだ』
「私の…心が……」
『ああ!花だから通じたんだ。今この場で、誰よりもグビラを救おうとした花だからこそ』
花がグビラを見つめる
グビラの細かな表情はわからないが、さっきまでと比べてグビラは笑っているように見えた
「グビラ…ありがとう…‼︎」
ーゴァァァァ!!
と、落ち着いていたグビラが何故か突然興奮し、花の方に巨体を走らせる
「ふぇ、ちょっ!?グビラ!?」
面食らって尻餅をつく花、が次の瞬間グビラの背中に禍々しい光を放つ光線が突き刺さった
ーゴァァァァァァァァァァ!!!
「グビラ!!!」
グビラが悲痛な悲鳴をあげ倒れる
ーキャオァァァァァァァァァ!!!
グビラのものとは異なる、不気味な咆哮が空から響いてくる
咆哮と共に街に降りてきたのは大柄な怪獣だった
蛇のような緑色の表皮に肩から伸びた第二第三の頭、二股に別れた尻尾の先はガラガラヘビのような装飾が振動している
巨大な巻角が目立つ頭部は大きな口が存在するが、目のようなものは存在しない。口のなかからは紫の結晶が無造作に伸び、口からはみ出している
ーキャオァァァァァァァァァァァァ!!!
まるで神話生物のような不気味で、されどどこか神聖さも感じるその怪獣は女性の悲鳴のような耳障りな咆哮を上げた
『ガーゴルゴン⁉︎』
エックスが驚いたような声を上げる
「ガーゴルゴン…?」
『かつて私と大地が撃破した怪獣だ……私たちの宇宙では友好的な種族だったゴールド星人の星をはじめとした多くの星を滅ぼしてきた邪悪な宇宙怪獣……』
ーゴァァァ……
苦しげな呻き声を上げるグビラ
その体が徐々に変色、灰色に変化し始めていた
「グビラ…?グビラ……⁉︎」
『ガーゴルゴンの光線だ……ヤツの眼から放たれる光線は命中したもののエネルギーを吸収し石化させる……グビラは、その光線から私たちを庇ってくれたのか…⁉︎』
そうこうしているうちにグビラは完全に石になってしまった
グビラのことが心配だった花だが、咄嗟に思い出し剛に通信を繋ぐ
「隊長!ケリスさん!あの怪獣…ガーゴルゴンの眼に注意してください!」
『ガーゴルゴン…?あの怪獣の名前か?どこでそれを…?』
ガーゴルゴンは肩から伸びた蛇頭から青い稲光を放ち、ガンドラグーンへと攻撃をはじめる
「「ガンドラグーン!スプリット!!」」
咄嗟にブレイバーとバスターに分離、稲光を回避する
「眼に注意って……この怪獣眼なんかどこにもー」
と言いかけたケリスの乗るガンバスターに顔を向けたガーゴルゴンが口を開く
その中から巨大な一つ眼がギョロリと剥き出しになる
「ーoh……」
開かれたガーゴルゴンの『眼』からグビラの背に刺さったものと同じ禍々しい光を放つ光線が放たれる
花の忠告を聞いていたこともあり、ギリギリながらケリスはターンして光線を回避する
「そんだけ大きいなら弱点じゃない⁉︎ バリアブルレイザー!」
「ウイングブルーブラスター!!」
2機の光線がガーゴルゴンの眼に迫る。しかしガーゴルゴンは口を閉じ、蛇頭からの稲光で光線を相殺する
「くぅ…賢いじゃん…⁉︎」
ガンドラグーンが相手にならないと思ったのか、ガーゴルゴンは花たちのほうを向き稲光を放つ
「ッ!?」
花が思わず顔を伏せる
ーシェアァァァッ!!
その目前に白銀の巨体が立ち塞がった
間一髪のところでイカロスが花を庇ったのだ
「イカロス!あの怪獣は眼から石化光線を放ってくるの!注意して!」
花の言葉を聞き、イカロスが頷く
ーキャオァァァァァァ!!!
銀の巨体が怪獣に肉薄し、チョップを打ち込む
稲光を放ちながら迎撃するガーゴルゴンはそのチョップを受け止め、鋭い爪での引っ掻きを放つ
そこまで威力は無いのか、引っ掻きに怯むことなくイカロスは膝鉄をその胴体に打ち込み、タックルの要領で吹き飛ばす
よろめくガーゴルゴンにダメ押しとブレイバーとバスターの光線が命中し、更によろめく
ーシェアァァァァッ!!
その隙を逃すことなくイカロスは拳をその頭部に放つ
瞬間、待ってましたとばかりにガーゴルゴンが眼を露にした
無防備になったイカロスの体に石化光線が命中、拳が触れる前にその体を大きく吹き飛ばした
「ぐぁっ!?」
異変はコクピットの中の翼にも起こっていた
手足がイカロスと共に徐々に石になっていく。それと共にエネルギーが吸われているのかタイマーリアクターも激しく点滅する
「イカロス!!」
『花、上だ!!』
イカロスを案じた花にエックスが警告する
花の頭上に迫っていたのは、先ほどの稲光で崩れたビルの瓦礫
目の前に迫ったそれを、花は避ける術があるわけもなくー
あえなく潰されたと思った花の体が、横から割り込んできた誰かに突き飛ばされ、瓦礫から逃れる
「よかった。間に合った…」
花を庇ったのは黒地に赤いラインの入った制服のようなスーツを纏った柔和そうな表情の青年だった
「グビラの下へ行こうとしたらガーゴルゴンまで現れて、とにかくそこに向かわなきゃって来てみたけど、間に合ったようでよかった」
花を助け起こし微笑む青年の顔を花は見たことがあった。というか、その青年は正に花が探していた……
「大空 大地さん!?」
「え?なんで俺の名前を知って…」
『大地!無事でよかった!』
花の手元のデバイスからエックスが嬉しそうな声を上げる
「エックス!!そっちも無事だったんだな!」
『ああ、彼女のおかげだ。彼女がいなければどうなっていたか』
花はエックスが入ったデバイスを大地に返した
「エックスを拾ってくれてありがとう」
「いえ、私もエックスさんに助けられましたから」
花の言葉に首を傾げた大地がエックスに尋ねる
「……何をしたんだ?エックス」
『なに、ちょっとしたアドバイスをしただけさ。それよりも大地、あのウルトラマンとグビラを助けるぞ!』
「ああ、行こうエックス。ユナイトだ!」
大地がエックスの入ったデバイスーエクスデバイザーの頂点にあるボタンを押す
エクスデバイザーの縁取りがXの字に展開、デバイスの前にウルトラマンの姿を象ったフィギュアースパークドールズが現れ、それの足裏を大地がエクスデバイザーにロードする
《ウルトラマンエックスとユナイトします》
「エックスゥゥゥ!!!」
ーイィィィィィィッ、サァァァァッ!!
《エックス・ユナイテッド》
眩い光を回路のような閃光にして放ちながら、花の前に巨人が降り立つ
メカニカルさが目立つ重厚なプロテクターを纏ったウルトラマン。その胸にはX字にカラータイマーが輝いている
ーイィィィィィィッ、サァァァァッ!!
ーキャオァァァァァァァァァァァァ!!!
ウルトラマンエックスが構え、駆け出すとそれを迎え撃たんとばかりにガーゴルゴンも突撃、巨体が激突する
稲光を放出しながら爪を振るうガーゴルゴンの攻撃をエックスはいなし、その体に打撃を加えていく
『相変わらずタフな怪獣だ』
「ならこっちもパワーで勝負だ!」
エックスの体内、インナースペース内の大地の手に一枚のカードが現れ、それをエクスデバイザーに装填する
《サイバーゴモラ ロードします》
カードのデータが読み込まれると共にエックスの背後からゴモラに似た怪獣のシルエットが出現、データ状に分解されたシルエットがエックスに胸のプロテクターとクロー付きの手甲として装着されていく
《サイバーゴモラアーマー・アクティブ》
「鎧を纏った…⁉︎」
サイバーゴモラアーマーを装着したエックスに怯まず、ガーゴルゴンが爪を振るう。そんな一撃はゴモラアーマーの頑強なプロテクターに阻まれ、お返しとばかりのクロー攻撃がガーゴルゴンを大きく吹き飛ばす
ーキャオァァァァァァ!!!
怒りを滲ませ、『眼』が開かれる
「『それを待っていた!』」
ーイィィィヤァァッ!!
光線を撃つよりも早く、ゴモラアーマーのクローがその眼を貫く
弱点である眼にダメージを受け、もがき苦しむガーゴルゴンからエネルギーが解放され、グビラとイカロスに戻っていく
石化が解けたイカロスのタイマーリアクターに輝きが戻った
「よかった。さぁ、ガーゴルゴンを倒そう!」
『共に戦おう、ウルトラマンイカロス!』
「はい!」
ーシェアッ!!
ーイィィィッサァァァァッ!!
並び立つエックスの号令と共に二人のウルトラマンが構える
よろめいていたガーゴルゴンだが、すぐに持ち直すと共に傷ついていたはずの眼が再生していく
「再生した⁉︎ また石化光線が…」
「大丈夫。あの攻撃はもう対策できている!」
『ああ、とっておきのアーマーで迎え撃とう!』
大地が新たなカードを手に取り、ロードする
《サイバーベムスター ロードします》
読み込まれたベムスターのデータがエックスの体に鎧として纏われていく。手甲を失った代わりにエックスの左腕には五角形の大盾が装着される
《サイバーベムスターアーマー・アクティブ》
エックスのアーマーが換装されると共にガーゴルゴンが石化光線を放つ
「はぁッ!!」
イカロスの前に立ち塞がったエックスが大盾で光線を受け止める
その盾はガーゴルゴンの光線を余すことなく吸収していく
「お返しだ!」
「『ベムスタースパウト!!』」
光線を吸収しきった大盾をエックスがガーゴルゴンに向ける
吸収された光線が大盾から放たれ、ガーゴルゴンに直撃、その体を急速に石化させる
『今だ、イカロス!』
エックスが下がると共に歩み出たイカロスが必殺光線ーアポロニウムシュートを放つ
石化したガーゴルゴンに光線が回避できるわけもなく、直撃を受け粉々に砕け散った
ーゴァァァァ!!
「やった……‼︎」
「よしッ!!」
「やったぁ!!」
「お見事!!」
ガーゴルゴンの撃破を見届けたグビラとNEXT GUYSの隊員たちが歓声を上げる
エックスはイカロスと向き合い頷きあった
そして、もう一つなすべきことをするためにグビラの方に足を向ける
『花、今からグビラを保護する。少し派手なやり方にはなるが、安心してくれ』
グビラはエックスのほうを見ると静かに頷いた
エックスもそれに頷きで返し、右手を掲げエネルギーを集める
それと共に体を大きく捻り力を込めていく
「『ザナディウム光線!!』」
Xの字に組まれた腕から眩い光を放つ光線が放たれる
光線はグビラに命中し、その体を光の粒子に変え収束させていく
「あのウルトラマンは…いったい何を⁉︎」
「グビラの生体エネルギーがそのままに、スケールだけ小さくなっていく…⁉︎」
グビラだった光は小さく集まると、エックスの胸ーその奥の大地の下へ飛んでいった
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「花さん、これを」
エックスとのユナイトを解除した大地が花にあるものを手渡す
それは手のひらに乗るほどの大きさをしたグビラの人形だった
「これは…?」
『スパークドールズ。私と大地がユナイトする事で可能になる力…怪獣たちを守り、人々の営みも守る術だ』
大地が微笑み付け加える
「エックスの能力であのグビラを縮小化したんだ。動いたり喋ったりはできないけど、グビラはちゃんとその形でも生きているよ」
しばらくグビラのスパークドールズを眺めていた花は納得したように微笑む
「そうなんですね…グビラからも安心してる気持ちが伝わってきます」
「グビラの気持ち…?彼の声が聞こえるの⁉︎」
「声……ではないですけど、なんとなく伝わってくるんです」
『驚いたな……大地と同じとまではいかなくとも、スパークドールズ状態の怪獣と心を通じ合わせる存在がこの宇宙にもいるとは…』
グビラのスパークドールズを返そうとする花を大地が制する
「そのスパークドールズはキミが持つべきだ。グビラもきっと、その方が喜ぶから」
「でも、グビラを最終的に保護したのは大地さんとエックスさんで…」
『いいや、グビラを守ったのはキミだ。花』
「エックスの言う通り。このグビラは、キミの想いが実った証明になるはずだ。スパークドールズからの復元は、実は俺たちの世界でもまだまだ課題で、こっちに来る前もその実験をしていたんだけど……」
大地が花の肩を優しく叩く
「その優しくて強い想いがあれば、きっと花さんはまたグビラに会えるよ」
「……‼︎ はい!頑張ります!!」
再び大地とユナイトし、実体化したエックスがイカロスに向き直る
『キミは……なるほど、だいぶ込み入った事情があるようだな』
イカロスと翼の事情をどこか汲み取ったかのようにエックスが呟く
『キミたちなら大丈夫だと思うが……繋がった心を、絆を忘れないように。苦しい時も、必ずその絆はキミたちを救うはずだ。もちろん、私たちとの間にも今それは結ばれた』
エックスが手を差し出す
翼はそれにイカロスの手を通して握手を返し応えた
「名残惜しいけど、俺たちは元の世界に帰ります。ゴモラやアスナ、Xioのみんなも待っているから」
『キミたちが望むなら、またいつか会えるはずだ。また会う日まで、ウルトラマンイカロス』
《ウルティメイトゼロ ロードします》
エックスは新たに白銀の大きな鎧を纏い、飛翔。空に彼らの宇宙に繋がるだろう『道』を開き、飛び去っていった
「はい!またいつか!!」
翼はイカロスと共にその背に手を振った
地上では花もエックスたちに手を振っていた
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後日 フェニックスネスト指令室
いつもの定例会議。剛、輝、ケリスは既に席に座り、翼との通信も繋がっていた
「すみません!遅くなりました…」
そこにもう一人、遅れながらも到着する
休職から復帰した花が部屋に入ってきた
いつも下ろしていた髪は樹からもらった桃色のシュシュでポニーテールに纏められ、その手には付箋がいくつもついた資料本とノート、タブレットが握られている
「おかえり、花」
剛が真っ先に声をかけ、花が改めて頭を下げる
「待ってたよ〜花」
「花ちゃんおかえり!」
『花さん、復帰おめでとうございます。おかえりなさい』
「はい!またよろしくお願いします!」
ケリスたちの笑顔に花もまた笑顔で答え、自分のデスクに着く
資料本を棚に並べ、その横、花の視線に入りやすい位置に新たなメンバーが置かれる
(待っててね、グビラ。またいつかお話ししよう)
グビラのスパークドールズの頭を優しくさする
どこか嬉しそうにグビラが笑った、そんな気がした
潮風島にて複数の怪獣の目撃報告が上がる
NEXT GUYS、日向重工、A.I.G.I.S.が共同で調査を進める中、怪獣ディアネウスが出現する
応戦する防衛チームたちを嘲笑うかのように更に怪獣が出現
花はその怪獣に違和感を覚えるが……
一人、また一人と人が消えていく
そんな中、島を覆う霧の中で翔真が翼と対峙する
次回ウルトラマンイカロス
「人々の消えた島」