『ウルトラマンイカロス…新たなウルトラマンか』
『だがアレは、ウルトラマンの力を利用したハリボテに過ぎぬ』
『それでもアレはウルトラマン。我らの憎き敵だ』
『ならば滅ぼさねばならぬ』
『然るべき絶望を与えて滅ぼさねばならぬ』
『ウルトラマンに死を』
『ウルトラマンに破滅を!』
『我らヤプールの怨念、ここに再び結集せん!!』
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木陰のベンチに腰掛け、翼が伸びをする
普段のスーツ姿ではない。動きやすそうな半袖シャツにGパンと、夏が近づいて暑い日が多くなってきた今日という日にはぴったりな服だった
「休みか……はぁ……何したものかな……」
翼は困ったように一人呟く
数日前 日向重工
「休み?僕が…?」
「あんた以外に翼なんて社にいないでしょ」
コンが呆れたようにため息をつく
大量のドビシと死神を名乗る怪人の襲来から一週間。エリアB7の復興もあらかた終わった頃にコンから翼に提案があった
曰く「怪獣やら侵略者の出現が少なくなってるんだから今のうちに休みとっときなさい」とのこと
「ギマイラの時の発言忘れてないわよ。イカロスのことに加えてメテオール開発や他の雑務もあるからってあんたは働きすぎ。人間なんて脆いんだから、肝心な時に倒れたらどうする気…?」
「まぁそれは確かに一理あるけど……こっちもまだ大変だし…」
翼がデスクに置かれたタブレットを手に取る
そこに書かれていたのは例のウルトラゾーンに関する資料だった
他の宇宙から来たウルトラマンたちやリフレクト星人の発言や、結晶が生えた怪獣、宇宙人たちから回収されたネクロジウムと命名された結晶体の分析結果として高密度のプラズマと怪獣墓場内でかつて観測されたものと同様の宇宙線スペクトルが得られたことからNEXT GUYSがかつて提案していた調査作戦の申請がやっと通ったのだ
友好種族同盟やNEXT GUYSの上層部、A.I.G.I.S.司令部全ての許可が必要だったと考えれば当然と言えば当然だが
ウルトラゾーンの調査、場合によっては内部での戦闘は友好種族同盟の条約に抵触する可能性があるのも理由の一つだろう
「こちらとしても兵装やメテオールの開発・整備に大忙しだし……何よりもフェニックスネストの再改修が最大のネックだからな……」
翼の言う通り、いつも以上に翼にとって大変な試練とも言えることが今回はあった
フェニックスネストの再改修である
70年前にエンペラ星人からの攻撃を受け半壊したフェニックスネストは基地としての機能維持を重視して修復された
変形機能と戦闘機能は現在のフェニックスネストからは廃されているのだ
主砲のフェニックスフェノメノンは日向重工に保管されているが、近代改修に合わせた改良も必要になるだろう
「だからこそ余計によ。肝心なとこであんたがぶっ倒れたら会社としてもイカロスとしても大ピンチ。そんなことにならないうちに休んでおきなさいってこと」
「うーん……でも、やっぱり会社から離れるのは…」
「私とアルミルで片付けられる雑務は片付けるわ。社員たちもあんたの手間が減らせるならいつも以上に働いてくれるだろうし。あんたはせいぜい社員たちにボーナスでもあげたらいいの」
バンッとコンがデスクに手を突き、翼に顔を近づける
「秘書命令よ。明日から5日ほど、しっかり羽伸ばすなり休むなりしてきなさい」
笑顔ながらあまりの迫力に翼は閉口する
「………はい」
翼が頷いたのを見てコンは満足気に笑って頷いた
と、そんな経緯でとりはじめた休みの2日目なのだが
早くも翼は仕事に戻りたくなっていた
というのも無理はなく、実は翼は趣味と言えるようなものがほとんど無いのだ
「……大学とかでもう少し勉強以外もしとくんだったかもしれない…」
祖父の約束を受け継ぐと決めてから翼はそれが目標であり趣味とも言えるようになった。メテオール工学を学ぶことが十分楽しかった翼はとにかくそれを学ぶことに没頭するようになった
中学でも高校でもそれに必要なことを勉強し、大学になってからは日向重工の仕事などもやるようになり、青春のほとんどを勉強に費やしてきた
大学や高校でも工学同好会などに入ってサークルでも工学をする徹底ぶりである
「……本屋でも行ってみよう…」
重い腰を上げた翼は近くの大型書店に脚を向けた
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「司令、いかがですか?私のプラン。ウルトロイドは?」
眼鏡をかけた男がその眼鏡を直しながら石動に声をかける
石動が手にしている計画書らしい書類の束をパラパラとめくる
「レブナントシリーズの着想はそのままに、ウルトラマンの因子を導入することで我々の手で我々だけのウルトラマンを作る計画。素晴らしいと思いませんか? レブナントより更に高度な教育も可能、戦力も期待値ではありますがレブナントよりも遥かに上。これならば、石動司令が理想とする神話の超越もー」
「下らんな」
石動が吐き捨て、手にした計画書を地面に放る
「……は?」
「下らん計画だと言っている。レブナントシリーズから計画を移行していく必要性があるとは思えん」
男が跪き、計画書を拾う
「
石動が男ー八坂を冷徹に見下す
「貴様のそれは、新たな神を作るだけだ。それでは人は前に進めない。人間が進歩するに必要なものは、真に神の存在無しに道行を得られる確証だ。かつて脅威としていた怪獣を戦力にし、人々の手でそれを生み出し使役するレブナントシリーズのような《矛》が必要なのだ」
八坂が計画書を持つ手が震える
「……何が《矛》だ……そんなレブナントシリーズと、私の構想するウルトロイドの何が違う!貴様のそれも、レブナントが新たな神になるだけだろう!?」
「レブナントたちはあくまで人の手で御するものだ。未知なる意志でそこにある神とは違う。アレはいわば《道具》だ」
石動が八坂に背を向ける
「我が大望は元より易々と理解されるようなものでもない。理解できぬ、賛同できぬというならば、いつでもA.I.G.I.S.から出ていくといい。私は去る者は追わない」
ラボから石動が立ち去る
一人残された八坂は怒りのままに計画書を握りつぶした
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手にした技術書をパラパラとめくり、陳列棚に戻す
「うーん…やっぱりどれもうちのノートたちと比べたら真新しいものが無いな……メテオール工学だからそりゃそうなんだけど」
翼の言うノートというのは彼の祖父やその前のGUYS付のメテオール技師たちが実際にメテオールを調整しながら残してきた記録のことである
幼い頃から読書代わりにそれを読み漁ってきた翼はほとんどの内容を理解していた
メテオール工学の入門しか取り扱っていない市販の教本で満足できないのも当然である
「なんか他に……小説とか見てみようかな……」
翼は技術書の売り場から小説を扱う売り場に足を向ける
翼は有給で休んでいる身ではあるが、平日の昼下がりだといくら大型書店とはいえ客足はそこそこであった
「映像化…ドラマ…いやアニメになる作品か…ふむ……」
何冊か眺めながらパラパラとめくって立ち読みをしてみる
と、その時。売り場の奥の方、本棚の高いところに手を伸ばす小柄な人影が目に映る
黒い地に金の蝶の刺繍が装飾された着物を青い帯で締めた長い黒髪の少女はどうにか本を取ろうとしているが、下駄での背伸びでは届きようがない。それどころかその履き物での背伸びでは不安定でー
「あー」
案の定ふらついて後ろに倒れそうになった少女
その背を翼が咄嗟に受け止める
「急にごめんね。大丈夫かい?」
「あ…ええ、ありがとうございます。親切なお方」
鈴を転がすような声で少女が礼を告げ、頭を下げる
「いやいや、僕は偶然通りかかっただけだから」
翼が少女が手を伸ばしていた棚のほうを見遣り黒手袋に包まれたしなやかな指で指し示す
「えっと…どの本を手に取ろうとしてました?」
「その、そちらの本が気になりまして」
少女が指差したのは棚に並ぶ恋愛小説のひとつ
科学者の男が実験動物に恋する悲恋を描いたものらしい
(随分と面白いテーマの小説だな……最近の恋愛モノはこんなものまであるのか……)
翼が小説を棚から取り、少女に渡す
「はい、どうぞ」
「度々すみません。ありがとうございます」
「面白いテーマの小説ですね」
「そうですね。小説は普段から読んではいるのですが、このような題材のものははじめてで気になってしまいまして」
少女が微笑みながら翼の方に向き直る
「……よろしければ、お名前を教えてもらえませんか?」
「僕?僕は翼、
「蛭子」
たおやかな仕草で一礼し、少女が告げる
「
珍しい出立ちの子だな、と翼が思っていると蛭子はしずしずと口を開く
「二度も助けていただいて重ねてお願いするのは忍びないのですが…わたくし、探している本がありまして。日向さん、良ければ探すのを手伝っていただけませんか?」
「お安い御用ですよ。僕もちょうど暇を持て余していたので」
「ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
「ははは、大袈裟ですよ」
蛭子から探している本について聴いた翼は心当たりのある売り場に足を向ける。蛭子もその後を静かについていった
「クソッ!!石動め……私の研究がくだらないだと……⁉︎」
石動のラボから己に与えられたラボに帰ってきた男ー八坂 英輔は苛立ちのままにデスクにくしゃくしゃになった計画書を叩きつけた
「怪獣を兵器にするのはよくて、ウルトラマンはダメだとそれこそ誰が決めた!倫理に囚われることを悪としながら、お前自身が倫理に囚われているじゃないか…‼︎」
憔悴しきった目がデスクの上のパソコンに映る
八坂は血走った目をそのままにパソコンを掴み画面表示を見て笑う
「……まぁいいさ、実物を見ればヤツも納得せざるを得ないだろうよ。データはここにある。雛形も…資材があれば…」
パソコンに並べられていたのは映像記録
ここ最近の怪獣頻出期に現れ、『並行宇宙の存在である』と記録されたウルトラマンたち3人の戦闘映像
そしてその中央に映るウルトラマンイカロスの戦闘映像
八坂がキーボードを操作する
するとイカロスの画像は公的な記録映像から遠方の望遠撮影に代わる
そこに映るイカロスの胸元の傷からは機械回路が覗いていた。フランベルスと戦闘した時の、あの時のイカロスの映像だ
八坂が歪んだ笑みを浮かべる
「教えてやるよ石動…人間は神を越えるんじゃない。神すら飼い慣らして力にするんだよ…‼︎」
「怪獣に関連した書籍……珍しいものを探してたんですね、八坂さん」
関連書籍の棚に移動しながら翼が蛭子に声をかける
「お父さんが研究している内容でして。わたくしも興味を抱いて大学で学んでいるのです。そろそろ新しい講義も始まるので、学校で買える教本以外の資料が見つかれば、と気分転換も兼ねてここに来ていましたの」
「勉強熱心なんだね、八坂さん」
「そんなものではないですよ。単純にお父さんの見ている世界がわたくしも見てみたいのと、私自身の純粋な興味からですから」
話しているうちに怪獣関連の書籍が集まるコーナーに辿り着き、蛭子は翼に一礼すると売り場を眺めながら買うべき本を吟味し始めた
翼も目に止まった一冊を手に取る
『怪獣を超えた怪獣、超獣について』
(超獣……ドキュメントTACに主に記録されている異次元人ヤプールが生み出した怪獣兵器……)
ページをめくる
ウルトラマンAが倒したさぼてん超獣サボテンダー、二次元超獣ガマス
メビウスの時代に蘇ったヤプールが呼び出した一角超獣バキシム、蛾超獣ドラゴリー、ミサイル超獣ベロクロン
そしてウルトラ兄弟を抹殺する目的で生み出された究極超獣Uキラーザウルス
どの超獣も生物の域を逸脱した強化と武装が施された正真正銘の兵器
Aも、メビウスも、ウルトラ兄弟たちも、もちろん地球人たちも苦しめられてきた難敵たちだ
(怪獣兵器……か……)
翼の脳裏に石動が作り出したレブナントと呼ばれていたクローン怪獣たちがよぎる
(……僕たち人類は、ヤプールのしてきたことにまで手が届きつつあるのかもしれない……)
『キミは俺がそれを利用しにきた、もしくは悪用しにきたとは考えないのか?』
藤宮の言葉が思い出される
翼自身は、彼の乗るイカロスは悪用しているわけではなく、イカロス自身との約束が果たせたとわかればもうあの技術は凍結すると決めている。アレを人類全ての『力』にするのは間違いだと翼も自覚しているからだ
だが、藤宮の言う通りメテオールや翼が使うような技術を使う人間が皆正しい心を持つとは限らないのである
石動の、厳密にはそのクローン技術から、『人類が生み出した超獣』が生まれない保証はどこにも無いのである
「ー超獣に興味があるのかね?」
老獪な、それでいてどこか無機質な声がかけられる
見ると翼の隣には黒い鍔広帽を被った黒いコートを纏う初老の男性が立っていた
「あ、いえ…ちょっと目についたものですから」
少し驚きながらも翼は老人に会釈をする
「……サボテンダーか…懐かしいヤツだ」
翼が開いたページに描かれた当時の写真を見つめて老人が微笑む
「子供が拾ったヤツの幼体が人間どもに気づかれることなくエサを貪り成長していく様は壮観だったな。何も知らず、小さなさぼてんに悲鳴を上げながら食べられていく様は実に滑稽だったとも」
翼が本を取り落としながら老人から距離を取る
その目は老人に警戒の視線を注いでいた
本を拾い上げ埃を払う老人
その時代に生きて超獣を見た生き証人だとは考えられない。もう百年は昔の話なのだ。その時代の人間が今まで生きているはずがない
何よりも、老人が語る超獣の話は、まるで我が子を慈しむかのような懐かしむかのような言葉だったのだから
「我々に地球人の愛情や感慨深さと言った情動は存在しない。だが、曲がりなりにも我々が生んだ存在。郷愁とも言えるものを感じることはあるのだよ」
老人が翼の手を取り、本を渡す
『初めまして、だな?日向 翼……いや、ウルトラマンイカロスの名を借りる地球人よ』
おどろおどろしい声が脳内に直接響いてくる
『我々は異次元人、ヤプール。貴様らには紹介するまでもなかったかもしれぬが、改めて名乗っておこう』
翼の頬を汗が伝う
『この宇宙では、メビウスどもに滅ぼされて以来の目覚めか。久しぶりの地球、そして地球人……我らが見てきた時代と変わりはしない。変わらず愚かなままだ。ウルトラマンの力を利用する者まで現れるのだから』
老人の赤く光る片目が翼を見据える
『どうして?と言った顔だな。愚問だ。我らは怨念を晴らすまで幾度でも蘇る。貴様ら地球人を、そして憎きウルトラマンを滅ぼし尽くすまで……我々は潰えることなどない』
老人が翼に背を向ける
『いずれまた、我々の復活をすぐに目の当たりにするだろう』
『地獄の底で待っているぞ、日向 翼』
老人の姿が消える
凍りつき立ち尽くす翼の背に小さな手が触れる
「……日向さん?どうかされましたか?」
心配そうな様子で蛭子が翼の顔を覗き込む
「あ、ああ…いや……なんでもないよ」
「そうなのですか?顔色が優れないようでしたが…」
蛭子が翼の持つ本に目を移す
「超獣……彼らについての記述が詳細なものは私が見ていたものにはなかったですね……日向さんはその本を…?」
「いや、ちょっと目に止まったから読んでみてただけなんだけどね」
「そうなのですね。その本も買っておこうかな……」
「そういうことなら……どうぞ、八坂さん」
翼が本を蛭子に手渡す
「ありがとうございます。おかげさまで買いたいものが全て見つかりました」
微笑む蛭子の手には買うつもりだろう専門書がいくつか見られた
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「今日は何から何までありがとうございました」
大型書店の入り口まで出てきた二人
蛭子が翼に一礼する
「いやいや、こちらこそ。思っていたよりも有意義な休みが過ごせたから」
長い髪を一房耳にかけながら蛭子が顔を上げる
満面の笑みで購入した本が包まれた紙袋を小さく持ち上げてみせる
「……何故でしょう。日向さんとはまた会えるような気がしています。わたくしの気のせいかもしれませんが」
口元に手をやりくすくすと小さく笑う
蛭子は手にした黒い日傘をさす
「では、さようなら、日向さん」
立ち去る蛭子の背に翼が手を振る
その顔は浮かない様子で少し上の空だった
青空の下、ひと組の親子が公園の道を歩いていた
少女の手には小さな鉢に植わったさぼてんが抱えられていた
嬉しそうに鉢を抱える少女に近くのベンチから声がかけられる
「可愛いさぼてんだね。お嬢さん」
突然かけられた言葉に驚きながらも少女は嬉しそうにベンチに座る人影にそのさぼてんを見せる
「お母さんが買ってくれたの!勉強頑張ったご褒美だって!」
「そうかいそうかい。それはよかった。いい日になったね、お嬢さん」
その少女の頭を撫でながら母親がにこやかに一礼し、その手を取り去っていく
「…今日は何かと、お前に縁があるらしいなサボテンダーよ」
ベンチに腰掛けた黒装束の老人が立ち上がり、その手を空に向ける
「郷愁のついでだ。今日という良き日の祝いはお前に任せるとしよう」
空に稲光が走り、ガラスのように空が割れる
割れた先には赤い血のような空間が広がっていた
突然の空の変容に日常を謳歌していた人々が驚き、空を見上げる
親子連れの少女が抱えていた鉢が手から滑り落ち割れた
ーゲゲゲゲゲゲゥン!
割れた空の向こうから聞いたことのないようなおどろおどろしい声が響き、棘の生えた触手が何本も伸びてくる
伸びてきた触手は驚嘆する人々に襲いかかり、その体を絡めとりひび割れの向こうに飲み込んでいく
「お母さん!おかぁさぁぁぁぁん!!」
さぼてんの少女も母親が触手に連れて行かれ、泣きじゃくる中自身も触手に攫われていった
阿鼻叫喚に包まれる公園の真ん中で黒衣の老人は一人声高に笑っていた
「さぁ、愚かな人間どもよ見るがいい!貴様らがかつて恐れた異次元人ヤプールが帰ってきたぞ!!再び恐怖に慄き、怯えて破滅を待つがいい!」
ーゲゲゲゲゲゲゲゲゲゥゥン!!!
老人の宣誓に応えるかのようにひび割れの向こうから口元を拭いながらさぼてんをそのまま直立させたような巨体ーさぼてん超獣サボテンダーが姿を現し、ひび割れを砕きながら地上へと落下していった
ひび割れた空からサボテンダーが出現したのを見た翼はコンに連絡する
「コン!イカロスを!」
『わかってるわよ!全く休みの時くらい空気読みなさいよね…‼︎』
悪態を吐きながら応えたコンからの通信を切り、翼が暴れるサボテンダーを睨む
ーゲゲゲゲゲゲゥゥン!!
先程本で見た写真そのままの姿で暴れる『超獣』
その無機質な赤い目の奥に、あの老人の姿が揺らめいたように見えた
コクピット越しに翔真がサボテンダーの姿を見る
「……なんだかさぼてんが歩いてるみたいなヤツだな…」
「いやまんまだな…まぁそうにしか見えないけど…」
『翔真に輝先輩も油断しない。そいつ見た目よりもヤバいヤツだから』
『はい…ドキュメントTACに同種族確認、レジストコード《さぼてん超獣サボテンダー》』
『ドキュメントTAC……ということは、ヤツはヤプールが生み出した超獣ということか…⁉︎』
剛が驚愕を漏らす
『超獣……ってのは?』
「ああ、それはだねー」
「ケリスさん、前!前!!」
花がケリスに警告を飛ばす
間一髪で2人が乗るガンフェニックスレガシーは飛来してきた何かを回避する
ーゲゲゲゲゲゲゥゥン!!
それはサボテンダーの体から放たれた棘だった
生え変わり、『再装填』された棘がまたサボテンダーから放たれる
「ガンフェニックスレガシー、スプリット!」
『ガンドラグーン、スプリット!』
飛来してくる棘を回避しながら2機が分離する
「ヤロウ……なかなか喧嘩っ早いヤツじゃん?」
『相手が超獣とはいえ、我々がやることは変わらない。総員、サボテンダーへ全力攻撃!』
『G.I.G!!』
司令室からの剛の指示に4人が応える
『メテオール解禁!』
『バーミッション・トゥ・シフト、マニューバ!』
4機がマニューバモードに変形、戦車形態になったガンバスターは地上に着陸する
ーゲゲゲゲゲゲゥゥン!!
サボテンダーは4機を撃破せんと棘を放つ
「「ファントム・アビエーション、スタート!」」
マニューバモードの超起動でその棘を全て回避しながら翔真が乗るガンブレイバーがサボテンダーへ肉薄していく
「シネラマグレネード、ファイア!」
ブレイバーから放たれたミサイルがサボテンダーに直撃し、爆炎を上げる。すかさずブレイバーと入れ違いに飛来したウインガーと地上のバスターが挟撃を放ち、サボテンダーにダメージを与えていく
「ブリンガーファン、ターンオン!!」
花の乗るローダーから放たれた竜巻が爆炎をかき分けながらサボテンダーを包み込み、放り投げる
自由落下し、地面に叩きつけられたサボテンダーがよろよろと立ち上がる眼前には主砲のチャージを終えたブレイバーが待ち構えていた
「ブレイジングデトネイター!」
「おまけにダメ押しだ!スペシウム弾頭弾、ファイア!」
ブレイバーの重粒子光線とウインガーのスペシウム弾頭弾がサボテンダーの頭部に直撃、赤い血液を噴出しながらその頭部が吹き飛んだ
同時にメテオールの活動限界となり、4機はクルーズモードに戻る
「よしっ!」
司令室の剛がガッツポーズを決める
「ほう、サボテンダーにあそこまでダメージを与えるとは、人間の文明の進歩は中々侮れないか」
ひび割れた鉢の残骸と共に横たわるさぼてんの傍らからヤプールが頭部が欠損したサボテンダーを見上げる
「だが、人間どもよ。貴様らは超獣の真の恐ろしさをまだ知らないだろう? 我らの生み出した可愛い超獣たちは、痛みを感じぬ。それ故に恐れず、それ故に完全に活動を止めるまで死にはしない」
ヤプールが見上げるサボテンダーの首が泡立つ
「そら、まだサボテンダーは死んでいない。ヤツは大食漢だからな。再生にエネルギーを使えば、餌が欲しくなるのだよ」
泡立つサボテンダーの首から無数の棘だらけの触手が伸びてくる
「きゃぁっ!?」
完全に油断していたローダーが触手に捕まってしまった
「花!!」
「花さん!!」
救助しようとするブレイバーとウインガーにも触手が襲いかかり、辛くもこれを回避する
ローダーを捕縛している触手以外がサボテンダーへと戻っていき、泡立つ傷口から再び頭が再生していく
ーゲゲゲゲゲゲゥゥン…‼︎
頭が再生したサボテンダーは口から伸びる触手を腕も使って引き寄せ、ローダーを食べようとしている
ーシェアァァッ!!
万事休す、と言ったその時、空から降り立ったイカロスセイバーカスタマイズが黒星丸でサボテンダーの触手を切り落とし、ローダーを解放した
「助かりました、翼さん…‼︎」
通信機を押さえ、通信に聞こえないように小声で花がイカロスー翼に礼を伝え、その傍らを飛び去る
それを見送ったイカロスがサボテンダーに向き直る
ーゲゲゲゲゲゲゥゥン!!
餌を奪われたサボテンダーは怒り心頭といった様子でイカロスへと襲いかかる
ーシェアッ!!
黒星丸を腰に収め、イカロスが突進してきたサボテンダーを受け止める
棘だらけの腕を何度もイカロスに叩きつけ、おまけとばかりにタックルでイカロスを突き飛ばす
追撃として右腕を振り上げた瞬間、居合の要領でイカロスが腰の黒星丸を抜き放ち、2体が交錯する
ーゲゲゲゲゲゲゥゥン……
一瞬の間
直後サボテンダーの右腕が肩から切断され、切断面から血液が噴き出す
振り返り、サボテンダーに向き直るイカロス
が、サボテンダーはその傷口から触手を無数に伸ばし、イカロスの体に絡みつかせた
ーシェアァァ……ッ!!
イカロスがサボテンダーへと引き寄せられていく
サボテンダーは4つにわかれた口を動かしながら涎を溢す。イカロスも餌にしようとしているのだ
「ウイングブルーブラスター!」
「バリアブルパルサー!!」
サボテンダーが目前へと迫ったその時、ブレイバーの青い光線とローダーの黄色い光線が触手を焼き切る
「今だ!」
翔真の激励を受け、緩んだ拘束をイカロスが断ち切る
同時に転送されてきたアーマードエグゼスが飛来、セイバーカスタマイズの装備の上から装着される
ーシェアァァッ!!
イカロスが手にした黒星丸で迫る触手を切断、サボテンダーの胸に黒星丸を突き立てる
よろめきながらも腕を再生させ、突き刺さる刀を引き抜こうともがく
が、その間にイカロスの必殺技は既に準備完了していた
ーシェアァァッ!!
レゾナンスバーストがサボテンダーを包み込む
その体中でエネルギーがスパーク、流石に耐えきれなかったのか脱力、倒れ込み虹色の光を放ちながら巨体が爆発する
イカロスはそれを見届けると空へと飛翔していった
「やはりサボテンダー程度ではイカロスを下すことは叶わないか」
サボテンダーの最後を見届けたヤプールはそう呟くと、足元に転がるさぼてんを踏み潰し、踏みにじる
「だが、あの形態を引き出したのはよくやったぞサボテンダーよ。まさかあの皇帝の遺物がまだああして残っていたとはな」
コートを翻し、ヤプールの姿が消える
『日向 翼よ。貴様はまだ人間の真なる愚かさを知るまい。これからじっくりと味わわせてやろう』
ヤプールの不気味な笑い声だけが人々の消えた公園の夕闇に響いた
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「あ、お父様。お仕事の方は大丈夫なの?……そう、それはよかったわ。わたくしも今日は楽しいことがありましたの」
夕闇の中一人歩く蛭子
スマホを耳に当て、父親と話をしているらしい
「お父様が話していた怪獣のことをよく知れる本も手に入ったわ。親切な方が一緒に探してくれたの。日向 翼さんって言うんですって」
ころころと朗らかに笑いながら楽しそうに父親に今日の出来事を話していく
「大学での勉強も順調よ。早くわたくしもお父様と同じ研究がしたいですが…今は努力の時ですものね……お仕事が?それならまた家でお話ししましょう。今日は授業はありませんから、夕食を用意してお待ちしています。親愛なるお父様…」
スマホを切り、日傘を少し上げて夕闇に染まる空を見上げる
楽しそうに微笑みを浮かべ、蛭子は夕闇の中に姿を消した
ヤプール復活を受け、警戒を強める翼
対異次元メテオール開発を前に祖父と暮らした実家を訪れる
一方、八坂 英輔は禁忌の研究を独断で開始
そこに黒衣の人物が現れる
幼い翼と祖父が過ごした蛍火村を襲う超獣
思い出を、今を生きる人々を守るために翼が立ち上がる
次回ウルトラマンイカロス
『追憶の蛍火』