「ドキュメントTAC、防衛チームTACの世代に記録された怪獣を超えた怪獣…それが超獣と」
NEXT GUYS司令室
スクリーンに先日現れたサボテンダーの記録映像と共にドキュメントから抽出された画像がいくらか並ぶ
「怪獣を超えた怪獣……今までの怪獣とは違う難敵か…」
「異次元人ヤプールが作り出した怪獣兵器。ただの獣である怪獣よりも遥かに攻撃的で、しかも先のサボテンダーのように普通の獣なら必ず死ぬような傷からも立ち上がる……難敵というよりも不気味だね」
翔真の呟きにケリスが肩を竦めながら答える
「例のウルトラゾーンの影響も考えられるが、ヤプールの潜む異次元からこちらの次元への通路はGUYS時代に封印されたはず……その後もヤプールとその超獣出現は確認されていることから封印自体が絶対ではないのかもしれんが…封印を上塗りする必要がそろそろあるのかもしれん…」
「封印……?」
『旧GUYSで使われたメテオール《ディメンジョナル・ディゾルバー》異次元からこちらの次元への干渉を半永久的に封印するメテオールですね』
花の疑問に翼が答える
「そんなものがあったのか……」
「当時使われたメテオールの中でもファイナルメテオールに次ぐ大メテオール。ただそれの封印すらすり抜けちゃうのがヤプールだから困りものなんだけどね」
翼が咳払いする
『ディメンジョナル・ディゾルバーはこちらでも現在改良中ですが、当時の技術資料も少なく、あれ以上の改良を施すとなるとフェニックスネストの再改良も含めてまだメドは立っていません…』
「……そうか…仕方がないとはいえ歯痒いことだ」
剛の残念そうな表情を見て翼も表情が曇る
「NEXT GUYSとしてはウルトラゾーンからの襲来も含めていつも以上に次元振動の観測に注力。ヤプール襲来への警戒を強めておこう」
『G.I.G』
剛がまとめ、会議が閉会する
各々が仕事に戻る中、翔真は司令室を後にした
会議が終わり、通信を切った後も翼の表情は優れなかった
剛たちに報告した通り、ディメンジョナル・ディゾルバーの開発は非常に難航していた
今まで無い以上に煮詰まっていた研究はまだ半分も進んでいなかった
書店で遭遇した黒衣の老人の顔がよぎる
はぁ、とため息を漏らしながら作業に戻ろうとした翼のメモリーディスプレイに通信が入る
「……翔真くんから?」
意外な相手に驚きつつも通信を繋ぐ
『……急な連絡ですみません。どうしても、さっきの会議の時の表情が気になったので…』
「……そんな顔してましたかね?僕」
『してました。そりゃもう不景気そうな顔を』
「手厳しい指摘だな…」
乾いた笑いで返す翼に翔真はひとつため息をこぼす
『……俺は、工学とかはなんも知りません。ましてメテオールなんか、すごい技術だなとしか。だから俺からはこうして応援みたいなことくらいか…話を聞くくらいしかできませんが……』
「……そう言ってくれたら嬉しいよ。ありがとう」
翔真が不器用ながらも自分にエールを送ってくれていることを知り、翼の頬が緩む
「翔真くんたちなら、僕のその……ウルトラマンの方でも相談したりできるから、実際心強いよ」
『そちらの方こそうまく相談に乗れるか怪しいところはありますがね』
通信機越しに2人が笑った
「……資材の確保が難しい。クローンでの素体生成ならともかくとしてウルトロイドのようなウルトラマンとほとんど同様の機械構造を作るとなれば、私一人の資産では……」
八坂がパソコンのキーを殴りつけ、癇癪を起こす
A.I.G.I.S.の地下格納庫にも似ているが、そことは違う大きな空間
そこの一画、何脚もの机の上に広げられたパソコンや研究機材に囲まれた中に彼はいた
『
八坂が振り向く
自分しかいないはずのこの場所に、その存在は立っていた
黒いフード付マントを纏った人物。フードの下の顔は能面で隠されている
「誰だ……なんだお前……!?」
『お前の望み、それを叶えるためにお前は悪魔にも魂が売れるか?』
八坂の言葉を無視し、黒衣の人物が問いかける
「何をデタラメを……ここから出て行け!ここには娘もー」
黒衣の人物が手のひらを向ける
八坂が吹き飛ばされ、壁に磔にされた
「かっ……⁉︎」
『これで信じてもらえるかな?私がただものでは無いと』
「し……信じる……‼︎ 信じるとも!」
八坂の拘束が解除され、地面に落ちる
「……本当に、本当に魂を売れば、私の願いが叶うのか?」
『契約は守る。人間のようなつまらぬ嘘は我々には不要だからな』
黒衣の人物の言葉に八坂が邪悪な笑みを浮かべる
「ああ、ああ!やはり、やはり私の研究は間違っていなかった!人間どもに評価されずとも……神は、いや悪魔は見てくれていたじゃないか!!」
狂ったように笑う八坂は黒衣の人物に向き直る
「私の魂、捧げようとも!私の研究が、ウルトロイドが完成するならば私の貧相な魂一つ惜しいものか!!」
『……いい欲望だ。契約は成立。約束通りその願いを叶える助けをしてやろう』
黒衣の人物が研究機材が置かれた机の一つ、書類が積まれたものの前まで行き、手をかざす
轟音と共に書類を押し除け、代わりに見たことない機材の集合体が鎮座する
『超獣製造機。我々の技術の一端だ。障害となるものの排除なり、ウルトロイドなるものの試作テストなり、好きに使うがいい』
現れた機械の名を聞き、驚いた表情を見せた八坂だが、より邪悪な笑みを浮かべ満足げに頷いた
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翌日
一路電車である場所に向かっていた
手荷物以外に下げた袋2つにはビールがいくつか入っていた
《次は
電車のアナウンスを聞いて立ち上がる
翼の目的地はここ、蛍火村だった
太陽が照りつける畦道を歩く
道に沿って田んぼが広がる風景は子供の頃見たそれから変わっていなかった
「翼くん?おーい!翼くん!」
そんな田んぼで作業をしていた初老の男性が駆け寄ってくる
「
「お久しぶりって言っても春頃にも来たじゃないか。ともあれ、今年もおかえり、翼くん」
田んぼから上がってきた男性ー浅山が翼に微笑みかける
翼もそれを受け、笑って一礼する
「これ、よかったら皆さんで」
翼がビールの詰まった袋を一つ渡す
「いつもありがとな。キミの持って来てくれるこれが俺たちにとってすっかり楽しみの一つだよ」
浅山がからからと笑う
「どうですか?最近は」
「いつも通りのんびりしたものさ。高校を出た子供らは何人か村を出たが、それくらいしかーいや、大きく変わってしもうたもんもあるな」
浅山が少し寂しそうな顔を見せ、事の経緯を伝えた
目的地まで歩きながら翼は山の向こうから見える山中には見られないような建物を見やる
『水力発電所?』
『ああ。ついにこの辺りにもそういう開発は進んできたよ。
『……時代の流れ、ですね』
『違いない……俺らとしては、蛍火村にはなんもないからありがたいけども……蛍川の蛍たちが見れなくなったのは、寂しいもんさね……』
浅山との会話を思い出しながら道沿いに流れる川、蛍川を見る
昼間の今見るとそこまで変化があるようには思えないが、蛍たちが見れなくなったと聞くと寂しい思いが翼にもこみあげてくる
と、視線を移すと翼以外にも蛍川を眺めている人が一人いた
川の辺りに体操座りをし、じっと川を見つめている中学生ほどの女の子だ
「……
女の子に見覚えがあった翼が思わず声をかける
「翼お兄ちゃん……」
女の子の方も翼を知っているらしく、弱々しく声を上げる
目の周りには涙の痕のようなものもあった
女の子は顔を拭うと立ち上がり、翼が再び声をかける隙もなく走り去って行ってしまった
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慣れた手付きで線香を立て、花を供える
墓石を磨き、最後に気に入っていた銘柄のビールを一缶供えて手を合わせる
日向家と彫られた墓標の前に翼はしゃがんでいた
「じいちゃん、今年も来たよ。僕はしっかりやれてる。父さんたちも元気だよ」
今日は翼の祖父、
毎年この日には祖父と育った、祖父が余生を過ごしたこの村にある墓にてを合わせに翼は来ている
が、それ以上に今の翼は祖父の顔を、直接見れずともこうして見たかったのだ
「………じいちゃん、僕にできるだろうか? フェニックスネストの再改修と、対異次元メテオールの開発……」
翼が不安を打ち明ける
翼にとって祖父は憧れであり、目標であると同時に大きな壁だった
メテオール工学を学べば学ぶほど、祖父が遠くなる。祖父がどれだけの偉業を為していたのか、どれだけ難しいことを可能にしていたのか、嫌でもわかってしまう
今のNEXT GUYSの兵装の多くは昴が性能は高く、更に使いやすくと改良したものがほとんど。翼はその整備や作戦に応じた機器の開発がやっとであり、昴に並ぶものとして完成させたのはガンドラグーンが初めてだったのだ
「………やるしかない、けど……僕はやっぱり怖いんだと思う…」
翼が立ち上がる
表情はまだ晴れたとはいえない。だが、少し気分は楽になったように思えた翼は祖父の墓を後にした
帰り際、翼は意外な人物に遭遇した
墓地からの帰り道、ある墓の前で花を供えていたのは先程蛍川で遭遇した皐月という少女だった
「皐月ちゃん?また会ったね」
「つ、翼お兄ちゃん⁉︎……あ、そうか…お兄ちゃんのお爺ちゃんの…」
「覚えていてくれたんだね。ありがとう。じいちゃんもきっと喜ぶよ」
この少女と出会ったのはいつかの昴の命日の日
今日と同じように墓参りに里帰りした翼が出会ったのだ
昔昴にお世話になっていた人の孫だったらしく、紹介され、そこから里帰りの度に何度か交流していたのだ
「………ここにいる、ということは。そうか…」
皐月が手を合わせていた墓を見る
「………」
「……手を合わせてもいいかい?」
翼の問いに少女が小さく頷く
九条家の墓の前にしゃがみ、翼が手を合わせる
「………もう、行くね」
皐月が足早に立ち去る
その目には涙が滲んでいたように見えた
「もう三ヶ月にはなりますかね。九条さんが亡くなってから…」
野菜の無人販売店横のベンチに腰掛け、中年の駐在が口を開く
休憩していたその駐在も翼の知り合いである。皐月のことについて知っていることはないかと訊ねてみたら重い口を開いてくれた
「老衰です。大往生でしたよ。村の皆が、葬式に出てひっそりと見送りました。九条さんは余所者な本官にも赴任からずっと親切に話しかけてくれていたので、付き合った期間は短くとも今でも寂しさが消えません……」
駐在の言葉を翼は黙って聞いていた
「……可哀想なのは皐月ちゃんですな。やはり…何もこんな時に…」
「こんな時…?それはどういう……」
「皐月ちゃん、両親を亡くしたんですよ。今年の頭くらいに怪獣災害にあったそうです」
駐在の言葉に翼の顔から血の気が引く
「だから九条さんがあの子を引き取って、やっと心の傷も癒えてきた頃だったんですがね……まさかこんなに早く九条さんまで亡くなるとは…」
「あの子は……今は……」
「村の皆で世話してますよ。小さい頃から一緒に育った子らしいですから。ただ……九条さんの葬式が終わってからは学校にもほとんど行かず、塞ぎ込んでいるわけです……蛍川をよく見に行ってるのは、あの子が昔両親や九条さんと蛍をよく見に行っていたからだとか……」
翼はそれ以上言葉が出せなかった
皐月は、彼女の両親は翼たちが守れたかもしれなかったのだから
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明かりの消えた部屋の中
少女ー九条 皐月は膝を抱えて俯いていた
夕闇が迫る薄暗い室内と同様に少女の心は翳っていた
(なんで……なんでみんなみんな無くなるの……)
笑顔で一緒にご飯を食べる父と母
縁側で色んなお話を聞かせてくれたお婆ちゃん
そんな家族と何度も見た暖かな蛍の明かり
浮かんでは消えていく
思い出といえば聞こえはいい
でも、もうどれも少女には残っていなかった
思い出として胸にしまうには、まだ何も無さすぎたのだ
涙が溢れる
ぽろぽろと、とめどなく溢れてくる
『これからはわしらがついてるよ』
『みんな皐月ちゃんの味方だからね』
【お母さんとお父さんはもう…辛いことになったね…】
【いい人じゃった。安らかに眠ってくれたようでよかった】
【時代の流れじゃ。蛍たちには気の毒じゃがどうしようもない】
少女にとっては大きなものだった
両親も、お婆ちゃんも、蛍も
でも誰も彼もがそう言って終わりだった
そう言うしかなかった
それでも少女にはそれが許せなかった
少女にとって変え難いものが、全部全部一言に伏されていく
耐えられなかった
そんな少女の眼前に青白い光の軌跡が走った
「……え?」
その光の軌跡は縁側から外へ出て、蛍川のほうへ飛んでいった
あり得ないとわかっていても少女はそれを追わざるを得なかった
少女はそれに縋るしかなかったのだ
駐在と別れた後、翼は蛍川のほとりに座っていた
すっかり日も落ち、いつもなら蛍の光が見え始める頃合いなのにそこには一つの光も現れなかった
浅山が言っていたことは本当だったのだ
その事実を知り、翼の胸が更に痛む
ゴルバゴスの時も似た痛みを感じた
守れたかもしれない誰かを守れなかった
それを背負うのは翼だけの仕事じゃない。コンからそう叱責され、理解はした
それでもこうして直面してしまうと嫌でも翼は胸が痛んだ
両親が死ななかったら、皐月はこうなっていなかったかもしれない
まだ笑えていたかもしれない
そう考えてしまわずにはいられなかった
先日サボテンダーが街を襲った時、行方不明者が数十名以上出たという報せを聞いた
その時の痛みが今になって蘇る
ヤプールを封印するメテオール
それができなければ、翼はまた皐月のような人間を生んでしまう
それこそ今度は何百人もー
そんな翼の眼前、小柄な影が通り過ぎようとしていた
皐月だ
「皐月ちゃん!?」
翼の言葉にびくっと反応して振り向く
が、皐月はすぐ視線を川沿いの森の方に移して駆け出そうとする
「夜の森は一人じゃ危ない!どこにー」
「蛍が!蛍がいたの!!」
皐月が叫ぶ
「蛍……?皐月ちゃん、蛍はもうこの川には……」
「私は、私は今確かに見たの…‼︎ 一匹でもこの川には蛍が帰ってきてくれた……そうかもしれないの……」
泣き腫らした目で皐月が川越しに翼を睨む
「私には……私には蛍しかないの……蛍しかいないの……‼︎ おばあちゃんも、お母さんもお父さんもいなくなって……何もなくなった私には蛍しかないの‼︎ 蛍までなくなったら、みんななくなっちゃうんだ!!」
皐月の剣幕に翼が押し黙る
皐月はそんな翼を置き去りにして夜の森へと走っていった
走る走る
裸足の足が擦り切れて痛い
それでも、目の前の青白い光を逃したくなかった
あの光がなくなってしまったら、今度こそ皐月には何も残らないから
「ふむ、お前が連れてきたのだな」
青白い光は森の中に佇む黒衣の人物の手にある籠に入っていった
黒衣の、初老の男性は皐月のほうを向き微笑む
「お嬢ちゃんはホタルンガに気に入られたようだ」
「ホタルンガ……?」
男性は手にした籠を皐月に見せる
籠の中には青白い光を尻から放つ一回り大きい蛍が入っていた
「このホタルンガは寂しがりやでね。共にいてくれる友達を探しているんだ」
「友達……一緒にいてくれる……」
皐月はほとんど無意識にホタルンガの入った籠を受け取っていた
嬉しそうに青白い光が明滅する
「ホタルンガはなんでも叶えてくれる。キミが願うことなら、なんだって。彼は魔法の蛍だからね」
皐月の頭の中に声が響く
ーニクイモノ ハ ナイカ
ーコワシタイモノ ハ ナイカ
「……壊したい……モノ……」
脳裏に浮かんだのは山の方にできたダム
蛍川から蛍を奪ったあのダム
ーソレガ コワシタイモノ カ?
問いかける声に皐月がしっかりと頷く
皐月の周囲に青白い燐光が渦巻き、籠からホタルンガが空へ向けて飛び立つ
その様を見守っていた初老の男性ーヤプールが邪悪な笑みを浮かべた
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皐月を追って森に入っていった翼の頭上からガラスが割れるような音が響いてきた
山の上空が割れ、赤い空間が覗く
赤い空間には昆虫のようなシルエットの超獣が青白い眼を光り輝かせていた
ーコォォォォォン!!
ひび割れた夜空を更に割り砕き、超獣が地上に降りてくる
「超獣……‼︎」
息を呑むと同時に翼は森の方へ駆け出す
まだ皐月が森の中にいるはずだからだ
皐月の姿はすぐに見つかった
が、彼女は青白い燐光に包まれて立ち尽くしていた
「皐月ちゃん!皐月ちゃん!!」
小さな肩を掴んで呼びかける
皐月はどこか怒りを向けるような険しい表情で俯いたまま反応が無い
「無駄だよ、日向 翼。その子供の魂は今ホタルンガと繋がっている」
森の闇から黒衣の男が現れる
「ヤプール……皐月ちゃんに何をした!!」
「何もしていない。ただその子供がホタルンガと心を通わせ、ホタルンガに願っただけだ。大切なものを奪ったものを壊してほしいと」
「な……そんなこと、皐月ちゃんが願うはずが……!」
「どうしてそう断言ができる?」
ヤプールの赤い瞳が翼を見据える
「お前にはこの少女の絶望が理解できるのか?大切なものを失い、周りはそれでも日常を繰り返す苦しみが。誰も自分が失ったものへ関心を向けてくれない痛みが」
皐月の目から大粒の涙が溢れる
それに促されるように超獣ホタルンガは森を踏み分け、ダムへと向かっていく
「お前にだって理解できていないんじゃないのか…⁉︎」
「ああ、当然だ。だがホタルンガは誰よりもこの少女を理解している。魂で繋がった今、ホタルンガは少女の憎しみが晴れるまで止まることはない」
ヤプールが翼を指差す
「今世に現れたあのホタルンガは、お前たち人間が産んだんだよ。一人の少女すら絶望させ、救おうともしなかった、お前たち人間が」
邪悪な笑みを浮かべるヤプール
翼はそれを睨み返すと皐月から離れ、森の奥にかけていく
その頭上から迷彩メテオールで姿を隠してイカロスが飛来してきた
ーシェアァァッ!!
ダムに向かって突き進むホタルンガの背にイカロスがチョップを撃ち込み、その尾を掴む
ーコォォォォォン!!
「邪魔しないでよ…‼︎」
皐月の苛立たしげな声に応えるかのようにホタルンガの尾が発光、イカロスが怯み後退すると、その首に尾が押し付けられ、怪光が連続して放たれる
怪光線のダメージを受け、膝をついたイカロスの首を振り返ったホタルンガの腕が掴み上げ、山腹に叩きつける
ーコォォォォォン!!
ホタルンガの頭から酸の霧が噴出、イカロスへと降りかかり、その体表を溶かさんとする
そのホタルンガの背に光線が突き刺さった
光線を放ったのは急行してきたガンブレイバーとガンバスター
光線の直撃で痛がる様子を見せたホタルンガがイカロスを解放し、よろめく
「あ、ぁあっ!痛い痛い!!」
イカロスの眼を通して翼は森の中に佇む皐月を見た
皐月はホタルンガに光線が直撃したあたりの背を押さえてうずくまり、痛がっている
「皐月ちゃん!?」
うずくまる皐月を見下ろし、ヤプールが興味深そうに顎を撫でる
「ほう、民子の憎しみと同期させた時はここまでの同調はなかったはず…よもや、久里 虫太郎とガランほどまで魂を同期させるとはな…」
よろめくホタルンガに対して更に光線が放たれる
が、イカロスはホタルンガの前に飛び出し、その光線から超獣を庇って膝を突く
「翼さん⁉︎ なんで…⁉︎」
ブレイバーに乗る翔真が驚愕の声を上げる
膝をついたイカロスを押し除け、ホタルンガはダムへ更に接近、その頭部から霧を噴霧し、ダムを溶かし始める
発電されていた電力に引火したのかダムが爆発炎上し、周囲の山にも燃え広がっていく
『翔真くん!今は消火を優先しましょう!』
「……ああ!」
腑に落ちない様子ながら翔真は花の言葉に従い、ブレイバーとバスターが消火活動に移る
「はは、はははッ!!やった、やったやった!!蛍を奪ったダムが壊れちゃった!あはははははッ!!」
愉快そうに笑いながら皐月が小躍りする
それに同調したかのようにホタルンガも満足そうな咆哮を上げる
と、ホタルンガはその向きを変え、再び歩みを始めた
その向かう先はー
「蛍火村…‼︎ 待て!!」
イカロスが立ち上がり、ホタルンガの行手を阻み押さえ込む
「なんでだ……皐月ちゃん! 蛍火村は九条さんや両親との思い出の場所だろう!?」
『そうだ!おばあちゃんと、お父さんお母さんとの思い出の場所……皆と、村の皆との思い出がある……でも、でもッ!!』
ホタルンガに皐月の姿が重なり、その眼が赤く燃え上がるかのように変色する
それに合わせて体色も黒変、ホタルンガの力が更に増す
『おばあちゃんたちによくしてくれた、よくしてもらった皆は「よかった」なんて言った!!安らかに眠れたからって……これきりのお別れなのに!私は一人っきりになったのに!それを、それをよかったなんて言ってなんでもないように日常を過ごしてる!!』
ハサミのようになったホタルンガの腕が何度も何度もイカロスを殴打する。それでも止まらず、再びホタルンガはイカロスの首を締め上げる
『どうして……どうして……ッ、どうして私だけ奪われるの…‼︎ どうして私しか悲しまないの……‼︎ どうしてッ!!』
ホタルンガの頭部、先程まで霧を噴き出していたものから零距離で青白い業火がイカロスに放たれる
「違う……‼︎ 皐月ちゃん……僕たちだって同じだ…キミが一人になったことも、蛍がいなくなったことも……悲しいんだッ……」
ホタルンガの拘束を解きながら翼がホタルンガ越しに皐月に語りかける
だが、超獣の赤い瞳に映る少女から憎しみが消えることはなかった
『違わない!!私の悲しみがわかる…?ならなんで蛍川の蛍たちを守ってくれなかったの…‼︎ なんで、なんでお父さんとお母さんを守ってくれなかったのッ!!』
ホタルンガはイカロスを振り回し、後方に吹き飛ばす
立ち上がったイカロスのタイマーリアクターが点滅
ホタルンガはその目に蛍火村を捉え、歩みを再開する
コクピットに一人立つ翼は拳を握りしめ、システムコールを告げる
「……転送、アーマード・エグゼス」
飛来したコンテナから落下してきたアーマード・エグゼスがイカロスの身に装着される
ーシェアァ…ッ!!
静かに立ち上がったイカロスはホタルンガを後方から掴み、強引に引き戻してその腹に拳を撃ち込んで後退させる
『ぐっ、ぐぅうッ!!』
ホタルンガに苦しむ皐月の姿が重なる
翼は唇を噛み締める
『邪魔をするなァァァァァァ!!!』
獣のような少女の叫びを咆哮に、ホタルンガから黒炎のオーラが噴き出す
翼の動きに合わせ、イカロスが静かに両腕を前に突き出してレゾナンスバーストのエネルギーを貯める
ホタルンガが業火を放出
それと共にイカロスもレゾナンスバーストを放つ
レゾナンスバーストのエネルギーを押しまかすことは怨念の炎にも叶わず、そのまま押し切られレゾナンスバーストが直撃する
エネルギーの奔流の中、ホタルンガの体がスパーク、徐々にその体から力が抜けていく
『ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
絹を割くような断末魔を残し、ホタルンガは虹色の光を放ち爆散した
消火も終わり、再び夜の闇が戻った山中に静かに雨が降り始めた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
イカロスを帰投させた翼は蛍川側の森の中を走っていた
探していたものはすぐに見つかった
皐月が地面に横たわっていた
脈も息ももう無い。冷たくなったその体からはもう命が失われているのが伝わってきた
項垂れる翼と横たわる皐月の亡骸に静かに雨が降り続ける
傍には空っぽになった籠が一つ転がっていた
皐月を救えなかった傷に塞ぎ込む翼
そんな中NEXT GUYS管理下のエネルギー工場が襲撃される
KJ−K5星雲の宇宙工作員の犯行であることから元工作員だったケリスに裏切り者の容疑がかかり、同時にケリスが姿を消す
ケリスの命か、地球か、決めきれずにケリスを追う翼たち
その前に謎の宇宙人が立ち塞がる
次回ウルトラマンイカロス
『決別と覚悟』