ーギャゴァァァァ!!
ーシェアァァッ!!
夜の工場地帯を舞台に巨体が激突する
イカロスが対峙しているのは黒い胴体に赤い炎のような翼状器官を持つ怪獣
全体的なシルエットは直立した恐竜のようだが、胸の黄色い発光器や頭部の形がどこかかつてウルトラマンを苦戦させた強敵ー宇宙恐竜ゼットンに似ている
タックルで吹き飛ばした怪獣にイカロススラッシュによる追撃を繰り出すが、怪獣は手でその光弾を叩き落とし、最後の一発は口に咥えて噛み砕いて見せた
「それが効かないなら…‼︎ 転送!アーマード・エグゼス!!」
翼のシステムコールに合わせてアーマード・エグゼスへの着装シークエンスが進行し、完了する
怪獣ははじめそれを興味深そうに眺めていたが、着装が終わる瞬間の隙を逃すことなく口から火球を吐き出し攻撃してくる
イカロスは避ける間もなく火球の直撃をもらい、吹き飛ばされる
ーピロロロロ……
怪獣はどこかつまらなそうに首を鳴らし、周囲を見渡し何かを確認し始める
負けじと立ち上がり突撃するイカロス
アーマード・エグゼスのエネルギーを手刀のように集め、格闘戦を挑むが怪獣はそれを最小限の動きでいなし、無力化してみせる
くぁっ、とあくびをするような動きすら怪獣は見せてきた
「ふざけるな……‼︎」
こちらを侮りきった怪獣の態度に翼が怒りを露わに再び突撃しようとするが、怪獣は火球を連射し、それをあっさり退ける
その爆煙が晴れた先に怪獣の姿は残っていなかった
怪獣の襲撃で破壊された工場地帯をイカロスから見下ろし、翼は拳を握りしめた
「クソッ……‼︎」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌朝
NEXT GUYSの定例会議が始まろうとしていたが、いつもなら他の誰よりも早く来ているはずのケリスの姿が見えないことに花が気づく
「輝先輩、ケリスさんは今日お休みですか……?」
「ん?……いや、ケリスは研究とかもここのラボでしてるから、朝の会議にすら顔出さないことなんて無いはずだけど……」
輝が不思議そうに頭を捻っていると、司令室に剛が入ってくる
だが、いつも以上に険しい表情をしており、その後ろには真田補佐官までついてきていた
「……みんな揃っているな」
輝、花、翔真と通信越しに参加している翼を見て最後にケリスがいつもいる席が空席なことを確認して沈痛な面持ちでデスクに手をつく
「隊長、何かあったんですか…?」
「……昨晩、NEXT GUYS管理下のエネルギー精製工場地帯が襲撃されたことは知っているな?」
「……はい、非番で直接現場に向かうのは間に合いませんでしたが、ドキュメントに記録のない怪獣が出現してイカロスが迎撃したとか…」
翔真が記憶を手繰りながら顛末を述べる
「……表向きには現在それだけ知られている……が…」
『実際の事態はより深刻。そうだろう、海野隊長』
新たに通信越しに参加してきた石動が口火を切る
『昨晩の襲撃。その裏でエネルギー精製工場から高純度濃縮エネルギーが大量に強奪された。監視カメラはハッキングされ、映像記録には残っていなかったが…現場の破壊工作に使われた機材の残骸を分析した結果、KJ-K5星雲周辺惑星の素材が使われた物だとわかった。件の素材は扱いが難しく、KJ-K5星雲の者以外に使われることはほぼ無いとのことだ』
「KJ-K5星雲……」
石動の口から語られた経緯の中で告げられた名前を聞いた花の顔から血の気が引く
『KJ-K5星雲人ー通称宇宙工作員。文明を発展させた惑星を害悪と独自に判断しいくつも破壊してきた準レッドリスト指定の宇宙種族。NEXT GUYS所属のケリス隊員も元々この宇宙工作員であったはず。そうだな?』
石動の言葉にNEXT GUYSの一同と翼が息を呑む
「……はい、その通りです。彼女はKJ-K5星雲出身で更に元宇宙工作員。全て事実です」
真田補佐官が剛に代わって答える
「……ですが、彼女はあくまで元工作員であって地球へと亡命するにあたってその職を辞してきています!友好種族同盟とも何重もの契約を為した上でー」
『それで担保できるものでもないだろう』
剛の言葉を冷徹に石動が切って捨てる
「……KJ-K5星雲の技術だからといってもケリス先輩の犯行と断じるのは浅はかなのではありませんか?」
翔真が石動を睨みながら問う
「現職の宇宙工作員だってまだその星雲にはいるはず。それなのにケリス先輩を真っ先に疑うのは理由がー」
『……昨晩の当番はケリス隊員だったらしいな。他の隊員が非番となるタイミングに彼女一人。加えて襲撃されたエネルギー精製工場は物色された形跡はなく、まるで工場の間取りを理解したかのような犯行。更にもう一つ』
石動の通信画面の隣に画質は粗いが一枚の画像が表示される
そこには黒いコートのような人物の後ろ姿が
その髪型は、皆がよく見慣れたケリスとよく似ていた
『なんとかサルベージできた映像のためこれ以上の解像度は無理だが…ここまで根拠が並べば疑わない方が難しいのではないかね?事実、今その場にケリス隊員はいないのだろう?』
「ーッ」
石動の言葉に返答する術を失う翔真
『……この事態を受け、ケリス隊員に反逆罪容疑を適用。隊員の捜索及び即時拘束、場合によっては処分を我々A.I.G.I.S.が行うこととする。NEXT GUYSの諸君は司令室内に待機しておくように』
「な、それは!!」
横暴な石動の言葉に剛が声を上げかけるが真田補佐官がそれを制する
「仕方のない措置です。キミたちはケリス隊員の身内とも言える存在……彼女の逃走を幇助する可能性がある以上、キミたちを動かすわけにはいかないんです…‼︎」
『補佐官殿の言葉通りだ。同情の結果、地球を危機に晒すなど言語道断……これは身内ではない我々が行わねばならない』
石動の言葉を静かに聞いていた翼が口を開く
『ですが、まだ彼女にかけられているのは容疑のはず。処分まで踏まえた行動は早急が過ぎます…』
『……では何かね、日向の孫よ。ただ同じ隊で活動したなどという私情を優先して地球に生きる何億の命を天秤に乗せるとでも?』
『それは…‼︎』
『釣り合わないのだよ。たかだか一人の異星種族の命と地球に生きる全ての命では。宇宙工作員の犯行では星そのものが爆破され、そこに生きる命が悉く失われてきた。ヤツらの犯行の可能性があるなら、早急に対応しなければならない。私情で足を止めている暇など無いのだよ』
翼は唇を噛み締める
『作戦準備は既に終わっている。諸君らは今回はそこで作戦の成功を待っていたまえ。日向重工の方も、万が一にでも作戦中に姿を見ることがあれば即時拘束も辞さないことを忘れるな。以上、共有を終了する』
石動が通信を切る。翼も少し置いて通信を切る
輝がデスクに拳を叩きつける
「ケリスが侵略者……そんなことあるはずがないのに‼︎」
輝が司令室の出口へ向かう
そこに真田補佐官が立ち塞がる
「ーどこに行く気です?」
「ケリスを探します!あいつは無実だ!」
「許可できません」
真田補佐官も辛そうな表情を見せる
「……海野隊長との協議の下、彼女の隊員としての採用を決めたのは私です。私も彼女が宇宙工作員として寝返ったなんて信じたくない…ですが、我々が動いて証明できるものではないんです…‼︎」
真田補佐官の言葉に輝も黙るしかなかった
司令室には重苦しい沈黙が残った
通信から離れた翼の脳裏には石動の言葉が残っていた
同時に、数日前の蛍火村の一件、そこで死んだー死なせてしまった皐月の冷たくなった体とその感触も蘇る
(これ以上の犠牲は許したくない…でも、ケリスさんを処分なんて僕も許せるわけがない……‼︎)
ケリスと翼の付き合いはそれなりに長かった
NEXT GUYSに彼女が所属した時には彼女にメテオール兵装の使い方を指南したこともあったし、整備の時に手を貸してもらうこともあった
だからこそ彼女が侵略者としてNEXT GUYSを、地球を裏切るなんて考えられないのだ
しばし迷っていた翼だが、意を決したのかNEXT GUYSタフブックを手に社長室を後にした
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翼が向かった場所は襲撃されたエネルギー精製工場から最も近い位置にあるNEXT GUYS管理下の化学研究所
ケリスのーもっと言えばケリスを利用しているかもしれない存在の目的は知らないが、もしNEXT GUYSを直接狙うならば回収した怪獣の遺骸や地球外テクノロジーを研究しているこの研究所にも襲撃してくる可能性が高いと考えたのだ
A.I.G.I.S.の隊員たちが近くにいないことを確認して警備員の下に向かう
が、警備員がいるはずの研究所入口には誰も人がいなかった
不思議に思って辺りを見回していると
「ーどうかしましたか?」
制服を纏った警備員が翼の背後から現れた
「ああいえ、日向重工代表の日向 翼です。この研究所で管理されてるマテリアルAのレポートを参照させてもらいたくて来ました。急な必要だったので、アポイント無しの訪問ですみません」
翼が懐から研究所に入るための身分証を警備員に見せる
「日向 翼さんですね。身分確認が終わりました。どうぞ」
「ありがとうございます」
事務手続きが終わり、身分証を返却してもらった翼が研究所へと入る
その背を見た警備員がニタリ、と不気味な笑みを浮かべた
研究所内はしんと静まり返り人の気配が感じられない
「……まさか一発目から当たりを引いたのか…」
所内の異常事態を感じ取り、翼が周囲を警戒しながら所内を進む
「お困りのようですね、翼社長」
背後から研究所前で遭遇した警備員が姿を現す
翼はその男に迷いなくトライガーショットを向けた
「ーお前は何者だ」
「ふぅむ、いい判断だ。まぁ…それくらいできないと面白くないがな」
警備員が帽子を脱ぎ、ニヤニヤと愉快そうな笑みを見せる
その手にどこから取り出したのかわからない日本刀が現れ、目が緑に光ると共に警備員の姿が揺めき、その正体が現れる
人間に近いフォルムはしているが、茶色の甲冑のようなものを纏った人型。その胸には赤い半月状の傷のようなものがある
『何者か、って聞いたな。俺の名はジャグラスジャグラー。通りすがりの宇宙人ってところだ』
「通りすがり……?」
『もっとも、今はあの女宇宙工作員の雇われだがな』
「…‼︎ 女宇宙工作員!?」
ジャグラスジャグラーと名乗った異星人は手にした日本刀を弄びながら告げる
『……なんだ?お前、あの女の知り合いか?』
「その人に話を聞きにきた。どこにいる!?」
『言うと思うか?』
「答えないなら…‼︎」
翼がトライガーショットの引き金を引く
それとほぼ同時に踏み込んできたジャグラーの日本刀が翼の首に迫る
それを察知した翼はトライガーショットでギリギリ日本刀の一撃を受け止める
『へぇ、あのハリボテを操るだけあって中々動けるみたいだな』
「ハリボテ……イカロスのことを知ってるのか⁉︎」
『イカロス…中々シャレた名前じゃないか。ウルトラマンという太陽を夢見て墜落するハリボテらしい名前だ』
「‼︎ 黙れッ!!」
日本刀を弾き、トライガーショットを放つ
顔を逸らし弾を避けたジャグラーに組みつこうとするがジャグラーは刀を握っていない左手だけで軽くあしらい、翼を突き飛ばし転ばせる
起き上がりトライガーショットを手に取ろうと伸ばした先でジャグラーがトライガーショットを蹴り飛ばし、翼の眼前に刃を突きつける
『安い挑発で我を忘れてこのザマか。ウルトラマンごっこにしても随分とお粗末なことだ』
「ごっこじゃない…‼︎」
『ごっこだよ。昨日だって俺に手も足も出ずに逃したじゃねぇか。アレでウルトラマンだなんて笑わせる』
「昨日……お前は、あの怪獣…⁉︎」
ジャグラーが刃を下げ、翼の首根っこを掴み持ち上げる
『お前、あの女に会うって言ってたな。聞きたいことってなんだ?』
「……彼女がこの事件に、地球を裏切ったことなんて無いということを聞くために…彼女の無罪を証明しなきゃならないんだ…‼︎」
『無罪?なんでそう言い切れる?』
「彼女のことを見てきたからだ!彼女は、地球に仇なす存在なんかじゃない…‼︎」
『バカだなお前。善人のツラした悪人なんて人間にもごまんといる。宇宙まで出ればもっとだ。お前が知っているのは上っ面だけじゃないのか?』
ジャグラーが翼を投げ捨てる
『万が一あの女が操られてるなり脅されてるなりしてるとして、だ。お前はあの女をどうする?』
「そんなの力づくでも取り戻すだけだ…‼︎」
『ハァ……甘いを通り越してガキだな』
嘆息しながら魔人は翼を嘲笑う
『その力づくをして、もしできなかった場合お前は他の罪のない連中を、地球を犠牲にするのか?』
「犠牲になんかしない!どちらもー」
『ガキみたいな理屈こねてんじゃねぇよ。どちらもなんて都合のいい選択肢ばかりだと思うな』
『大を救うために犠牲にするべき小は必ずある。それの見極めもできない。しても小を捨てようとしないで大まで失おうとする。そんな半端な在り方で、ウルトラマンのつもりだと?笑わせるな』
立ち上がる翼の顔を刀の柄で殴り、再び首根っこを掴み顔を引き寄せながら告げる
『昨日の戦いもそうだ。なんだあのオママゴトは? 拳からも技からも何も感じないただ闇雲に振り回すだけ。おおかた、今みたいに失くすことを恐れたか犠牲のことを考えて足を竦ませたんじゃないか?』
「ーッ」
ノイズのように少女の冷たくなった体の感触が脳裏に過ぎる
『……図星か。やっぱりお前には覚悟が無い。だからこそアレは蝋で固めた翼ですら無い。出来の悪いハリボテなんだよ』
冷淡に告げるジャグラー
が、突如翼を放り投げ、飛び退る
同時に手にした刀で飛来した光弾を弾く
「翼さん!」
解放された翼の後方からトライガーショットを構えた輝が駆けつける
「輝くん⁉︎」
油断なく自分に銃口を向ける輝をジャグラーは面白そうに眺めると肩を竦め、人間態に戻る
「もう追いついてくるとは、ここの防衛隊は随分優秀だな」
ジャグラーは分が悪いと判断したのか踵を返し、どこかへと歩き去っていく
「あ、そうだ」
何かを思い出したように魔人が振り返り告げる
「地下の資料室にはくれぐれも行かないように、な」
魔人の姿が霧散する
「大丈夫ですか?翼さん」
「あ、はい、大丈夫ですよ。それよりも輝くんどうしてここに…?」
「真田補佐官が気を回してくれたんです」
石動の作戦実行宣言からNEXT GUYS司令室には重苦しい空気が流れていた
仲間の一大事である以上、じっとしてなんかいられない。だが、ここで自分たちが闇雲に動いても事態は好転しない
「………」
そんな中、翔真は一人メモリーディスプレイで何かを確認していた
沈黙を突然のコール音が引き裂く
出入り口で皆を監視していた真田が自分へのコールだと気づき、メモリーディスプレイに応答する
「ーはい、真田です。総監、これはこれは……急用、ですか?ーはい、私は構いませんが…しかし……」
何やら対応していた真田だが、二三応答するとメモリーディスプレイを切り、しまう
「……えーっとですね、総監に急用があると呼び出されたのでしばしここを離れます」
真田が隊員たちの方を向き告げる
「私が席を外すということは監視の目がなくなるということですが、これは総監からの呼び出しに応えただけですからね……」
わざとらしく告げた真田は出入り口の方に向かい、部屋を出る
「ー頼みましたよ。皆さん」
小声で真田は最後にそう呟く
足音が遠ざかるのを聞いた隊長はその意図を汲み、隊員たちも頷いてその周りに集まる
「真田補佐官の計らい、無駄にはできん。我々の中で捜索隊を決めてケリスを探し出し、真実を確かめる」
『G.I.G』
「問題はケリスがどこに向かったかだが……」
「それならアタリがつけられるかもしれません」
翔真がメモリーディスプレイを見せる
そこには別のメモリーディスプレイの信号が表示されており、昨晩襲撃された工場から近い位置にある研究所に向かっていることがわかる
「これは……?」
「翼さんのメモリーディスプレイの信号を追ってます。通信を終えるときのあの人、なんだかそのままじっとしてるとは思えなかったので…」
「なるほど…たしかに翼くんもケリスくんの容疑を認めてはいなかったからな…」
輝に翔真がメモリーディスプレイを渡す
「行ってください。もし何かあったとしたら、動かせるのは多分先輩です」
「翔真……」
輝がメモリーディスプレイを受け取り、微笑む
「ああ、任しとけ!」
「ケリスさんの帰る場所ですからここは任せてください、必ず守ります!」
花の言葉に
頼もしい後輩二人と隊長の顔を見て頷くと、輝は司令室を後にした
「なるほど……まんまと僕は利用されたみたいですね…」
自嘲気味に笑いながら翼が立ち上がり、ネクタイを直す
魔人の去ったほうを一瞥し、輝に告げる
「罠かもしれませんが、地下の資料室に向かいましょう。手がかりはそれしかありませんし」
「ですね。行きましょう!」
地下に通じるエレベーターの方に向かう2人
その様子を物陰から眺めていたスーツ姿の男ージャグラーは翼の方を見つめる
「……さてと、どう転ぶかな?」
愉快そうに微笑むと再び闇の中に姿を消した
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
研究所地下
薄暗い通路にも地上と同じく人の気配がほとんどしなかった
がらんとした通路を二人が行く
と、その前に通路の影から人影が現れ、立ち塞がる
「お前らは…‼︎」
現れたのはデスマスクのような仮面をした黒いボディスーツの人型が2人。その手にはライフルのような銃器が握られている
攻撃を仕掛けてきた2人を翼と輝は素早く組み伏せ無力化する
が、それに間髪いれずに新たな怪人が数名現れ、ライフル銃を2人に向ける
「ーッ!?」
顔を伏せる2人
が、怪人たちは引き金を引く前に脱力して倒れた
「何しに来たんです?お二方」
怪人の背後からコートのような服を着た人影が現れる
その人影の顔は見慣れたものだった
「ケリス!」
輝が前に歩み出る
ケリスは険しい顔を2人に向けているが、輝はそれに怯まずその眼前まで近づく
「こんなとこで何してんだよ…しかも黙っていなくなって…心配したんだぞ」
輝の眼前にケリスが手にした銃が突き付けられる
「ーあなたたちを裏切った。と、言ったら?」
翼が息を呑む
が、輝は警戒するどころかトライガーショットをしまってケリスの方を見る
「そういうジョークはもっと上手く言えよ。そんなのに騙される俺じゃないぞ」
輝をしばらく睨んでいたケリス
ぷっ、と吹き出し銃を下げて肩を竦める
「輝先輩にはやっぱり通じませんよねぇ」
見守っていた翼が安堵の息を吐き、ケリスに歩み寄る
「まったく……これは私がケリをつけるつもりだったんですけどねぇ……先輩や皆さんに迷惑かけることでも無いですし」
「何らしくないこと言ってんだよ。そういう遠慮はいらないからなって、ここに来た時もう言っただろ」
「そうでしたねぇ。失念してました」
と、ケリスと輝が突然銃を抜き、それぞれに向けて放つ
ケリス、輝と翼の後方でそれぞれ銃撃を食らった怪人たちが倒れる
「ー立ち話もなんですから、一旦こっちに。セーフハウス代わりですが資料室を確保してますからそこで色々説明します」
ケリスの案内でたどり着いた資料室は二階分のスペースが吹き抜けになった大きなものだった。そこかしこに本やレポートが落ちて散乱、ここでも乱闘があったことがよくわかる惨状になっていた
「!?これって……‼︎」
輝が資料室の隅を見て絶句する
そこには眠らされているらしい研究所の職員たちが並べられていた
「眠っているだけだから安心して。大きな研究所じゃないから人が少なくて助かったよ」
どうやらケリスがここまで運び込んだらしい
「早速事情を。結論から言うと昨日の工場襲撃とここの惨状は全部私ではない宇宙工作員の仕業。私はそれを秘密裏に阻止しようと独断専行してたというワケですよ」
「なら、やっぱりケリスさんは地球を裏切ったわけでは無いのですね」
「そういうことですね。心配かけてすみませんでした、翼さん」
「いえ、信じていましたが僕もそれを聞いて安心しました」
ケリスの言葉に安堵の息を漏らす翼
「俺は最初からケリスなわけないとは思ってたよ。石動司令の言う通り証拠は無いけど」
「ほほう、その心は?」
「ケリスがしたにしては雑すぎる。そもそもケリスが地球を裏切ること自体あり得ないけど、でも億が一にケリスがそういうことをするとしても、昨日のあんなわかりやすいやり口みたいなことはしないはずだ」
輝が当たり前のように答える
「……そんな風に思われてるのはなんか心外…ですがまぁそうですねぇ。私なら発覚する頃にはもう地球くらいならドカンとしちゃってますね」
冗談めかしてケリスが笑う
「……今になって向こうが動いた理由はわかりませんが、心当たりは無くもないんですよね……そうだろ?ケルグ」
ケリスが突然声を改め、資料室の二階部分に銃を向ける
「腕は鈍ってなかったみたいだねぇ、ケリス。久しぶり」
二階の手すりから人影が現れ、3人を見下ろす
ケリスと似たようなコート状の服を着たポニーテールの女性
腕組みした左腕には矢印が2個点灯したデバイスがつけられ、3個目が点滅していた
それを見たケリスが目を見開く
「まさか……次元破壊爆弾!?もう起動したってわけ…」
「ご明察。あんたと比べたら雑かもしれないけど、あたしはあたしで手が早いのよ」
ケルグと呼ばれた女性が一階に降り立ち、ケリスを睨む
輝と翼もケルグにトライガーショットを向ける
「地球人と仲良しごっこして満足かしら?散々あたしをコケにしておきながら任務を捨てて逃げた裏切り者さん」
ケルグの言葉にため息をこぼしながらケリスが輝たちの方を向きながら説明する
「……工作員時代に私のことを目の敵にしてた同僚ですよ。心当たりがあるとすれば……と思っていましたが、まさか本当にー」
「ケリス!」
輝が叫ぶが早いか、背後から現れた何かがケリスを吹き飛ばし、ケルグの後方の棚へ叩きつける
「かーッ」
棚に叩きつけられ、頭を強打したケリスが項垂れる
『後方注意は戦場の基本だぜ?お嬢さん』
「お前は……ジャグラスジャグラー……‼︎」
魔人の姿で現れたジャグラーが翼たちの方を向き直る
『目に見えてるものばかりに気取られてるようじゃまだまだだな』
「……女に雇われたって、まさか…‼︎」
『そういうことだ。俺は今回は、こいつの雇われってわけだ』
刀を弄びながらジャグラーがケルグに並び立つ
ケルグはすかさず左腕のデバイスを起動する
「翼さん!部屋の外へ!」
ケリスの声に反射的に答えた翼が部屋の外に飛び出す
同時に資料室がレーザーの格子に封鎖され、隔離された
「……察しがいいこと。ウルトラマンイカロスごと封じるつもりだったけど……ジャグラー」
『仰せのままに』
芝居がかった仕草で一礼したジャグラーは輝を無視し、翼の方に歩いていく
「ウルトラマンイカロスごと……?それってどういう……」
困惑する輝を他所にジャグラーは赤く輝くリング型のアイテムを取り出す
『んじゃま、もう少し遊んでやるよ。まぁ俺を無視してもいいが…そうなったら何人死ぬだろうなぁ?』
魔人はどこからか2枚のカードを取り出し、リングにカードを通す
『ーゼットンさん』
《ゼットン!》
『ーパンドンさん』
《パンドン!》
『ー闇の力、お借りします!』
ジャグラーがリングを空に向けて掲げる
リングから溢れ出した闇がその体を包み、レーザーの格子や天井をすり抜けてどこかへと飛んで行った
翼は迷うそぶりを見せたが、外へ向かって駆け出していった
「さて、じゃあ爆発までー」
ーギィンッ!
勝ち誇ったような仕草をしていたケルグが飛来した弾丸を弾く
「やらせるかよ…‼︎」
ケルグと相対していたのは輝
まだ立ち上がれないケリスの方を見てケルグを睨む
「ーいいね。あんたが大切にしてるらしいものを目の前で踏みにじるのも面白い」
ケルグの体が竜巻状のエネルギーに包まれ、姿が変貌する
ここまでの通路で戦った怪人たちに似たマスクの目が紫に光る
『遊んでやるよ、地球人』
ケルグの言葉を皮切りに、輝とケルグが激突した
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
《ゼッパンドン!》
赤い光と共に昨晩工場地帯を襲撃したのと同じ怪獣が研究所近くの野外試験場に姿を現す
合体魔王獣ゼッパンドン。ジャグラスジャグラーが変身した姿だ
ーシェアッ!!
その前にウルトラマンイカロスが着地する
『ほう、こっちを選んだか。なら地球はいらないってわけだな』
「違う!お前も倒して、爆弾も止めてみせる!」
『ハッ、またワガママとは成長しないヤツだな!』
イカロスとゼッパンドンが激突する
イカロスの格闘をゼッパンドンは器用に最小限の動きでいなし、イカロスを突き飛ばす
『どうした?そんなもので攻撃のつもりか⁉︎』
ゼッパンドンが吐く火球がイカロスに直撃し、その体を吹き飛ばす
「イカロススラッシュ!」
立ち上がったイカロスが光弾イカロススラッシュを連続で放つ
しかし放った光弾は全てバリアに弾かれ、一発もゼッパンドン本体には命中しない
『隙を狙ったわけでもない、弱点を見極めるでもない……覚悟も決意もその程度なら当然だな』
イカロスの眼前にゼッパンドンが瞬間移動、イカロスの首を掴み地面に叩きつける
「ぐっ……うッ……‼︎」
『そろそろ爆弾もドカンだ。その前にお前をさっさと片付けてずらかるとするか』
イカロスに馬乗りになったゼッパンドンの口に火球のエネルギーが溜まっていく
「はぁっ!!」
『フッ!!』
ケルグの蹴り主体の格闘と輝の空手が交差する
両者譲らない攻防が続く中、ピコンという電子音と共に輝の視線がケルグの左腕のデバイスに泳ぐ
それを逃さずケルグは輝の頬を裏拳で殴り、その腹を蹴り飛ばす
「がッ!?」
吹き飛ばされ、膝をつく輝に勝ち誇るかのようにケルグは左腕のデバイスを見せる
デバイスの矢印表示はほぼ一周し、最後の一つが点滅していた
『そろそろお終いだ。あたしは起爆と同時にこの星から離脱できるが、あんたらは終わりだ。ああ、デバイスを壊しても意味は無いよ。そうなったら即爆発するから、さ』
デバイスに銃を向けていたケリスを一瞥し、ケルグが勝ち誇ったように笑う
『ハッ、ハハハッ!!どうだよケリス!? あんたが馬鹿にした前時代なあたしが、あんたの大切なものもまとめて踏み躙る気分は? あんなウルトラマンのハリボテを作るような文明が壊すべきでないなんて言うあんたが、やっぱり異端なんだよ!!』
ケルグは顔を押さえ、堪えきれない笑いを溢し続ける
「……そいつは違う」
ケリスがよろよろと立ち上がりケルグを睨む
「……あんたがハリボテと呼ぶ彼も、あんたらが思うような病原体なんかじゃ無い…‼︎ つくづく何も見ないよね、昔も、今も」
『黙れッ!! 負け犬の遠吠えなんて見苦しい……任務を為す覚悟も持てなかった腰抜けが!!』
ケリスが声を上げて愉快そうに笑う
『何がおかしい…⁉︎』
「任務を為す覚悟、ね……目を向ける覚悟もできないそっちこそ、腰抜けなんじゃないの…⁉︎」
怒りに拳を震わせるケルグのデバイスの最後の矢印は点滅を極限まで早めていた
ゼッパンドンの火球が迫るのをイカロス越しに見つめる
「覚悟……確かに僕は、失う覚悟が無いのかもしれない……ゴルバゴスの時も、ソームニアの時も、皐月ちゃんも……僕は、何度もその恐怖で心が覆われた……‼︎」
イカロスの手が首を掴むゼッパンドンの手を掴み、握りしめる
「だけど僕は…そんな覚悟はしたくない……‼︎」
力任せに首を掴む拘束をイカロスが引き剥がす
「必要な犠牲も、届かない手もあるのかもしれない…でも僕は…彼の名を借りてここに立つ僕は!そんな覚悟はしない!」
「何度も失うかもしれない、何度も届かないかもしれない、それでも救うために僕は何度も立ち上がり戦う!!」
「甘かろうが半端だろうが、それが僕の覚悟だッッ!!!」
裂帛の気合いと共にイカロスの拳が放たれる
咄嗟に展開されたゼッパンドンのバリアを突き破り、拳がその顎を捉え、火球を暴発させる
つんのめるゼッパンドンを押しのけてイカロスが立ち上がる
『……救うために戦う。犠牲を出さないために、それがお前の覚悟だって?』
ゼッパンドンの中でジャグラーが顔を押さえる
『フッ、ハハッ、ハハハハハハハッ!!』
愉快そうに大声で笑う魔人
『ーいいじゃねぇか。やっと面白くなったな』
パチンッとジャグラーが指を鳴らした
ケルグが違和感に気づき、左腕のデバイスを見る
『なーなんだとッ!?』
デバイスに表示された矢印はなんと半分ほど点灯が消えていた
『まさか……ジャグラスジャグラー!? 貴様、裏切ったのか!?』
『裏切ったとは、人聞きの悪い。前金ですらこんなオモチャを渡しといてよく言うぜ』
手にした赤いリングをコツンと指で弾く
『ニセモノ、模造品にしても出来が悪い。2回使うだけで限界なんて粗悪品もいいところだ。それにー』
『ー俺はお前の話を面白いとは言ったが、契約するとは言ってない。話はよく聞くことだな』
魔人が不敵な笑みを溢した
『この……ふざけた真似を…‼︎』
怒りに我を忘れたケルグを置き去りにケリスが部屋の外へと向かう
『バカが!!この部屋からは出られなーッ!?』
ケルグは部屋を覆っていたはずのレーザー柵が無くなっていることに気づく。ジャグラーが恐らく仕掛けていたのだろう
『行かせるかッ!!』
「こっちのセリフだ!!」
駆け出そうとするケルグに輝が組み付き、背負い投げ床に放り投げる
『ガッ!?』
「行け!ケリス!!」
ケルグを押さえ込む輝の言葉にケリスが頷く
ケリスの行く先は決まっていた
背後から現れた魔人が自分を吹き飛ばす瞬間、耳打ちしてきたこと
『タイミングが来たら最下層の量子加速器室とやらに行け。爆弾はそこだ』
(食えないヤツだな全く!)
ジャグラーが耳打ちした部屋にケリスは全速力で向かっていった
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なんで…?」
突然のジャグラーの裏切り行為に翼が疑問を漏らす
『俺は面白そうな方につく性分でな。雇われた、とは言ったが最初から俺はあのケリスって方の肩を持つつもりだったわけだ』
ゼッパンドンの腕をポキポキと鳴らしながらイカロスに向き直る
『あとはまぁ、お前のことも面白そうとは思ってたからちょっとこの地球に寄ったのさ。半人前でうだうだ悩んでたみたいだから手解きどころかちょいとスパルタにはなっちまったがな』
ゼッパンドンが挑発するようにクイクイと手首を動かす
『爆弾はあの女がどうにかするだろうし、もう邪魔者はいない。もう少し遊ぼうぜ?ウルトラマンイカロス!!』
「…言われなくとも!」
イカロスとゼッパンドンが同時に駆け出し、激突する
ゼッパンドンの追撃を冷静に見極め、突き出された貫手を掴み、反撃の蹴りを打ち込み吹き飛ばす
口から炎を迸らせ、火球を連発。イカロスは左腕を展開し、エネルギーバリアを発生させ敢えてそれを全弾受け止める
爆煙に覆われた中から煙を引き裂き光弾が放たれる
ゼッパンドンもバリアで防御をするが一発は直撃を許し、右肩に着弾しよろめく
ーシェアァッ!!
爆煙の中から現れたイカロスは煙の中で着装したのかアーマードエグゼスを装備、手にした黒星丸をバリアに突き刺した
『野蛮人ごときが…‼︎ 邪魔をするなァッ!!』
「勝手に正義を気取って惑星を壊すほうに言われたくないね!」
ケルグと輝の腕が交差し、鍔迫り合いのようにせめぎ合う
即離脱し、素早く蹴りを繰り出すケルグだが輝はその鋭い蹴りを的確に受け流して空手の要領でカウンターの拳をその腹に叩きつける
よろめいたケルグは左腕のデバイスから光弾を放つが、輝もそれに合わせてトライガーショットを放つ
「くっ!?」
『ガッ!?』
互いの右肩に被弾し、2人がよろめく
が、膝をついた輝に対してケルグはそのまま体勢を立て直して輝に歩み寄りデバイスを突きつける
『終わりだ。野蛮人!』
その瞬間、部屋に駆け込んできた黒い影がケルグの胸に肘鉄を撃ち込み吹き飛ばす
「ーふぅ、ギリギリセーフだったっぽいねぇ先輩」
ケリスが手をぷらぷらさせながら悪戯っぽく笑う
立ち上がるケルグに向き合ったケリスは左腕を前に構え、広げる
ケリスの体が竜巻状のエネルギーに包まれ、ケルグと似た戦闘スタイルに変化。その目が翡翠色に輝く
『ケリスゥゥゥゥゥゥ!!!』
それを見たケルグが突撃、ケリスはそれに応対し繰り出される打撃をいなし、突き出された拳を起点にその腕を固め捻りあげる
『あんたに負けて、負けっぱなしになってからあたしは前に進めない…‼︎ だからあんたを倒してあたしは、あたしはッ!!』
『問題のすり替えだよそれは。私を倒したとこであんたは変わらない。自分のしたいことやりたいことも満足に見定めできないあんたは、それだから進めないんだよっと!』
ケルグの腕を解放しながら蹴り飛ばし、2人はまた対峙する
『宇宙に仇なす文明に肩入れしすぎたお前が!!偉そうな口を聞くなぁ!!』
感情任せに放たれた光弾を難なくケリスが弾く
やれやれとため息をこぼし、ケリスが告げる
『ケルグ、この星の人々のことを見たことあるかい? たしかに、とんでもない思考の人はいたさ。自分の欲望で他者を平気で踏み躙るヤツもいた。でもー』
ケリスがケルグに拳を向ける
『宇宙人の私を笑って受け入れてくれた人がいる。理由は知らないけど、体を張って宇宙人も地球人も守ろうと立ち上がる人もいる。そんでもって……誰かの優しさを継いで、それを私に伝えてくれた人もいる』
『断言するよ、ケルグ。この星の文明は宇宙に仇なすもんなんかじゃない。例えそうなろうとしても、それを止める誰かは地球に必ず現れる。だから私は、胸を張って地球を守るんだよ!』
『黙れェェェ!!!』
ケルグが走りながら渾身の拳を突き出す
ケリスもそれに応える
クロスカウンター
交差する拳
一瞬早く到達したケリスの拳はケルグの顔面に確かに突き刺さった
ーシェアァァッ!!
突き刺さる黒星丸の柄にイカロスが渾身の拳を叩きつける
「弱点をーでも、このバリアには穴も何もない、だからー」
翼とイカロスの拳に更に力が入る
「力づくで、穴を開けるッ!!!」
ーシェアァァァァッ!!!
翼の魂が伝わったか、イカロスの拳はそのままバリアを砕き、ゼッパンドンに黒星丸が突き刺さる
ーゴァァァァオオオォォォォォ!?!?
ゼッパンドンが後退、生まれた隙をイカロスはー翼は見逃さなかった
両腕を前方に構え、黒銀のエネルギーを収束させていく
「レゾナンスバースト!!」
ーシェアァァッ!!
放たれたエネルギー球がゼッパンドンを包み込む
スパークしたエネルギーの稲光とともにゼッパンドンが爆散する
「っあ……ッ」
飛び去っていくイカロスの下、ゼッパンドンがいたあたりの地面に大の字に倒れたジャグラーが銀色の巨体を見上げて笑う
「……楽しませてもらったぜ、お前ら」
その隣には粉々に砕けたダークリングの模造品が転がっていた
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事件の後始末はあっさりと進行していった
ケリスと輝が取り押さえたケルグを名乗る宇宙工作員があっけなく自分の犯行を白状。仕掛けられていた爆弾はケリスが解除しており、ケルグが連れていたケダムという兵士たちもA.I.G.I.S.隊と合流した輝が全員取り押さえた
ケリスも一応連行されたが、ケルグの自白もある今釈放は早いだろう。駆けつけてきた剛、翔真、花も喜びを露わにし、特に花は泣いて喜んでいた
そんなバタバタした長い一日ももうほとんど終わり、取り調べを受けた翼はフェニックスネストのラウンジで夜空を見上げながら一人コーヒーを飲んでいた
「お疲れ様、ウルトラマンイカロスさん」
そこに現れたのは恐らく取り調べが終わったらしいケリス
服も隊服に着替え、すっかりいつものケリスになっていた
「僕はその名前と力を借りてるだけですよ」
「その割には様になってたと思いますけどねぇ。今までも大活躍でしたし」
悪戯っぽく笑いながらケリスが翼に並ぶ
「……いつから気づいてたので?」
「ん〜……ゴルバゴスの時とかですかねぇ」
「めちゃくちゃ前から気づいてるじゃないですか!?」
「体捌きとかまんま翼さんでしたから。モーションキャプチャーで動かしてるんですか?そうなると日向重工の技術の評価がまた上がっちゃいますね〜」
苦笑しながら答えに詰まる翼だが、ふとあることを思い出しケリスに問う
「そういえば……あのケルグという工作員を騙してたらしいジャグラーという異星人、ケリスさんのことをなんか知ってたようですが…」
「あーあいつね……」
工場襲撃直後
ケルグのことを知り、工場の調査から離れて次の心当たりに向かおうとしていた時
ケリスは物陰から現れた手に口を塞がれ、右手を掴まれた
「ーお嬢さん、こんなシケた場所で散歩してるくらいなら…俺と夜明けのコーヒーでもいかがかな?」
耳元で男の声が囁く
「……あいにく、私にとって一番のコーヒーは決まってるからまた今度奢るよ。見知らぬ誰かさん」
「……ハハハッ、面白いヤツだな、オマエ」
拘束が解かれ、ケリスが振り返る
そこにはスーツ姿の男が立っていた
「俺はジャグラスジャグラー。通りすがりの宇宙人ってところだ」
「へぇ、通りすがりねぇ……」
ケリスは男を警戒しながら見つめるが、すぐにジャグラーを置いて去ろうとする
「……なんでオマエはそこまでする?」
何故かケリスの行動理由を知るかのようなその問いを少し怪しむが、ケリスは敢えて答えた
「この星を、この星に生きる人々の未来を、心の底から信じて……あと愛しちゃったからかな」
「未来を……?」
ケリスの言葉に翼が首を傾げる
「そう、未来」
手すりに寄りかかりケリスが続ける
「私がNEXT GUYSに所属する何十年も前に私この星に来たんですよね。この星の環境のリサーチと、地球の爆破のために。工作員時代の私は環境学者でもあったからね」
「転移してすぐ任務を終わらせるつもりだったのに、転移に失敗して私大怪我しちゃったんですよ。生命維持は辛うじてできたけど、それでも怪我が酷くて動くに動けず、転移地点近くの寂れた自然公園で身を隠してて、ある地球人に見つかった」
懐かしむような目をケリスが見せる
「若い女の子でした。傷口から流す血が地球人のと違う私を見てすぐその子は私の正体に気づいた。できるだけ、私自身は環境や生物を殺したくなかったけど、流石にその時はその子に銃口を向けたんですがね、これがまた変な子で……私の傷をハンカチで塞いでくれたんですよ。銃を突きつけられてるのに」
「なんで逃げないの」
銃を突きつけ、女性を睨むケリス
女性はそれでも怖気づくことなくケリスの傷口に丁寧にハンカチを巻いていく
「小さい頃、私のおばあちゃんは遠足に行った先である宇宙人に会ったんです。怪我したその宇宙人さんをその時の友達や園長先生が介抱した時、おばあちゃんは怖くて宇宙人さんに手を差し伸べてあげることができなかった」
女性はケリスの腕に巻いたハンカチを見つめながら続ける
「おばあちゃんはそのことがずっと心残りだったらしいんです。そんなおばあちゃんの代わり……なんてことにはならないと思いますが、私は困ってる誰かの助けになるようにと思って、今では学校の先生やってるんですよ。まだまだひよっこですけど」
ケリスが腕に巻かれたハンカチを見つめる
「あなたがどういう目的でこの星に来たのか、この星の人々をどういうふうに見ているのか、私にはわかりません。でも、私は傷ついたあなたを放っておけない。だからこうするんです」
そう言って女性はケリスに優しく微笑んだ
「その子の言葉を聞いて、私はこの星を見て回ったんです。壊すために、じゃなくてその子の言葉を確かめるために」
「確かめる…ですか」
「口汚く罵り合う人がいた。些末なことで喧嘩をする人がいた。誰かを騙そうとしてる人も。でも、弱い誰かを助けてる人もたしかにいた。歌とか絵とか、美しいと心打たれるものもあった」
ケリスは翼に向き直る
「それを見て、私たちのやり方への疑問が確信になったの。元から環境ごと消すやり方には反対だったから尚更」
「私たちは何も見てなかったんだな、って。文明が栄えたら悪になる。そんな証明もできてないようなことを拠り所に一方的な正義で壊してきた。むしろ私らが悪党じゃないかって。そこからはもうサクっとですよ。上層部に弱みと一緒に辞表叩きつけて地球に亡命して、めちゃくちゃ色んな手続きしてここに来た」
ケリスが胸に手を当てる
「私も、多分ウルトラマンたちと同じ。この星を信じてみたくなるくらいにはその時好きになれたんだと思う」
そんなケリスの言葉を聞いて翼からも思わず笑みが溢れる
「何度聞いても面白いがいい覚悟だよなぁ、ほんと」
と、二人の前に暗がりから新たな人影が姿を現す
「ジャグラスジャグラー!?」
先程一時的とはいえ敵対していた異星人の出現に翼が身構える
だがとうのジャグラーは両手を上げ降参と言わんばかりの意志を示し
「そうカッカすんな。ま、敵だった訳だしそうなって正解だが。もうお前さんらと戦う理由はねぇからよ。この星を侵略するつもりもねぇし」
「……相変わらずよくわからないねぇ…何しにきたのホント…」
「そりゃあ、暇潰し?」
にまにまと笑みを浮かべジャグラーが愉快そうに答える
「ある宇宙での用事も終わってぶらぶらしてたら面白いモン見つけてちょっかいかけてみたくなっただけだ。あのケルグってヤツから契約料代わりのダークリングもどきを渡されたのはラッキーだったな」
ジャグラーが翼を見据える
「お前さん、名前は?」
「……日向 翼」
「翼ね……いい名前じゃねぇか」
どこからか取り出した刀を翼に突きつける
思わずケリスがトライガーショットを抜き構える
「いいか翼、その覚悟を忘れるな。覚悟も意思もない力なんざロクなことにならない。例え甘いと言われようが、その覚悟はお前だけの覚悟だ。騙されようと、裏切られようと、そいつだけは忘れんじゃねぇぞ」
それだけ告げるとジャグラーは刀を下ろし、翼に背を向け手を振りながら去っていった
「……ガラでもねぇことしちまったなぁ…隊長職でヤキが回ったか?」
一人夜闇を歩くジャグラー
その背後に気配を感じ、足を止める
「何の用だ?もうやり合うつもりはねぇって言ったんだが」
「そういうのじゃないよ」
振り返った先にいたのはケリスだった
自分を睨むジャグラーに臆することなくケリスはその手を取り、何かを手渡す
「……何のつもりだ?」
手渡されたのは一本の缶コーヒーだった
「前に言ったヤツだよ。私にとって一番のコーヒー。奢るって言っといてそのままは寝覚が悪いからねぇ」
「これが一番のコーヒー?」
「そ、この星に亡命して一番に飲んだコーヒー。あの時も最高に美味しかったけど、なんだかんだ今でもこれ以上に美味しいコーヒーは飲んだことないからね」
ケリスの顔とコーヒーを見比べ、ジャグラーは半笑いでコーヒーを懐にしまい背を向ける
「またね、ジャグラスジャグラー」
「またなんかねぇよ。この星にもう用はない」
それだけ告げたケリスがいなくなったのを見てジャグラーはコーヒーを取り出し、一気に飲み干す
「……俺には甘すぎるな。だが、悪くない」
愉快そうに微笑んだ魔人はうっすら日が差してきた夜闇の中に消えていった
突如現れた謎の機械獣軍団
それを追って飛来したジードと名乗るウルトラマンと共に迎え撃つイカロスだが、機械獣のハッキング攻撃によりシステムを破壊されてしまう
ギルバリスを名乗る存在にシステムを掌握され、封じられたNEXT GUYS
沈黙したイカロスを前にジードーリクは翼に問いを投げかける
次回ウルトラマンイカロス
『イカロス・アイデンティティ』