ウルトラマンイカロス   作:リョウギ

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第2話「その名が負うもの」

ーデャアッ!

ウルトラマンイカロスの手刀が、怪獣の岩石のような表皮に打ち込まれる。手刀の衝撃に怪獣がよろめくが、お返しとばかりの火球ブレスをぶつけ、イカロスを怯ませる

 

夜中の山間部

ジャスキープを退けて一週間も経たないうちに出現した新たな怪獣を発見した翼は再びウルトラマンイカロスに搭乗し、戦いに赴いていた

 

ゴァァァァオオオオォォォ!!

 

岩石のようなゴツゴツした見た目のその怪獣は更に火球を放つが、イカロスはそれを手刀で払う

 

「アポロニウムシュートで一気にーッ⁉︎」

 

必殺技を決めようとしたイカロスの目前で怪獣に異変が起こる

その異変を急行した剛とケリスもガンフェニックスレガシーから見ていた

 

「姿が……ブレてる?」

 

突如怪獣の輪郭がボヤけ、その姿が徐々に薄れてきたのだ

3人が呆けている間にも、怪獣の姿は薄く空間に溶けるように透けていき、ついには見えなくなってしまった

 

「赤外線センサーを……ってなんだこれ⁉︎」

 

イカロスの外部センサーを切り替えた翼の目には真っ赤になった周辺の風景が広がっており、怪獣らしい影はどこにもなかった

 

夜闇から現れた怪獣は、忽然とその姿を消してしまった

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ポイントJ4に出現したあの怪獣の行方は、そこから分からず…か……」

 

剛が沈痛な面持ちで頭を抱える

 

深夜の強襲からしばらくして翌朝、NEXT GUYS指令室では早速翼も交えた対策会議が開かれていた

 

「会敵してからモンスタービーコンを撃ち込む暇もなく逃げられましたからね。あ、ですが収穫ゼロってことはありませんよ」

 

ケリスがタブレットを操作し、スクリーンや各員の端末に情報を送信する

 

「辛うじて消える前の姿は捉えることができたので、ドキュメントを一応洗って見たのですが運良く見つかりました」

 

スクリーンに改めて怪獣の画像とドキュメントからの画像が並ぶ

 

「ドキュメント:MATに同種族確認、レジストコードは《透明怪獣ゴルバゴス》ですね。夜行性の怪獣のようですし、夜間に現れたあの怪獣とも特徴が合致しますね」

 

夜闇で細部は不明だが、確かにドキュメントの怪獣画像と昨夜の怪獣の写真は類似点が多く、同種族と認定するには十分そうだ

 

「以前出現した際も体を周囲の地形の色と同化させて逃れたという報告がありますね。昨晩のアレも同じ能力かと」

「保護色で逃げる能力、か……厄介な能力だな……」

 

剛が渋面を作る中、翼は転送されたドキュメントを確認しながら呟く

 

『ただその能力も、完全では無い…』

「その通り、翼さんの仰る通りゴルバゴスの能力は当時の防衛チームMATの考案した怪獣を染色するレインボー作戦により看破されました。この怪獣の保護色は同様の作戦により看破可能と考えられます」

『以前の作戦ではそれでも地中に逃げ込まれたことにより逃走を許していますが、今回はその手段も封殺することも可能かと』

 

今度は翼が手元のタブレットからデータを送信する

映し出されたのはシミュレーションフィールドに突き立てられたポールとその間に広げられたフィールド

その上の模擬怪獣がフィールドに接触すると電撃が走るような描写が入る

 

『対地底怪獣用電磁フィールド、日向重工で開発した新兵装です。設置はガンフェニックスレガシーから弾頭の形で発射して行え、限定的な範囲ではありますが地表を高圧電磁ネットで覆うことで地中への逃亡を阻止することが可能です』

 

電磁ネットと共に弾頭の立体モデルも並べられる

 

『レインボー作戦と類似した作戦用のペイント弾も、元々怪獣へのマーキング用に開発していたものがあります。周囲に飛散した可能性を想定して生分解性塗料を散布する形となっていますから、万が一周辺地形を着色しても問題ないでしょう』

「ありがたい。ガンフェニックスレガシーへの搭載はどのくらいかかりそうだろうか?」

『搭載準備自体は完了しています。あとは海野隊長の許可が得られ次第作業に移り、そうですね…半日も有れば完了するかと』

「よろしい。怪獣の行動時間帯である夜までには間に合いそうだな。では早速搭載の方を頼むよ。怪獣がいつ現れるか分からないからね…」

『わかりました。では早速作業に移らせてもらいますので僕はこれで離席します』

 

翼の通信が終了、対ゴルバゴス用の作戦資料だけがスクリーンに残る

 

「……ジャスキープの出現から一週間も経たないうちに新たな怪獣か…怪獣頻出期に突入した、ということだろうかな……」

 

剛が複雑な表情でコーヒーを口に含む

 

「……大丈夫ですよ。僕たちNEXT GUYSも、これまで怪獣災害に備えてきたんですから!」

「無理するな輝……声が少し震えてるぞ」

 

剛の指摘に輝が俯く

 

「怪獣災害に対応した数は精々1、2件。怖いのは当たり前だ。だが、それは悪いことじゃない」

 

ぽん、と剛が輝の肩を叩く

 

「怖いと思えば油断は薄らぐ。恐れすぎてもダメだが、怖く思わなすぎて油断してしまえば、最悪の結果も招きかねん。そういうものだ」

 

微笑みながら剛が告げた言葉に輝も耳をしっかりと傾ける

 

「隊長は、怖くないのですか……?」

「怖いさ。ここに来る前も似たような仕事だったが、その時からずっと恐怖心はある」

 

少し真剣な表情になって剛が答える

 

「……だからこそ、怖さを忘れるくらいにとことん怪獣様に向き合ってやるのさ」

 

微笑んだ剛が再びデスクにつき、パンパンっと手を叩く

 

「と、いうわけで気を取り直して作戦のシミュレーションといこう!次の遭遇で必ず、あの怪獣を仕留めるぞう!」

「‼︎ はいッ‼︎」

 

朗らかに告げる剛の言葉に輝が力強く頷き、ケリスが静かに首肯した

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

フェニックスネスト内 作業用ドック

 

「特殊ペイント弾頭の取り付け、完了しました‼︎」

「対地底怪獣用フィールドアンカー弾も配備完了しました‼︎」

 

ガンフェニックスレガシーより降りてきた数名の作業員が近くで書類を確認しながら作業を見守っていた翼に作業の完了を告げていく

 

「ご苦労様。急な作業を任せてしまって申し訳なかったね」

「いえ、これくらいはお易い御用ですよ」

 

作業員の一人が笑いながら答える

 

「あとは機体整備なんだけどーおっと、すまない」

 

次の作業の指示に移ろうとしたところ、翼の持つ携帯になやら着信が入る。表示された送り主は『連盟議長』

 

「……すまない。少し席を外す。機体整備を始めていてくれ」

「わかりました」

 

「ー翼です」

『ご機嫌よう、翼さん。コンさんはお元気かしら?』

 

電話口から聞こえてきたのは穏やかな女性の声

 

「相変わらず悪戯好きですが、元気にしていますよ」

『ふふ、それなら何よりですね』

 

電話口の声の語気が少し険しくなる

 

『ーとうとう始まったのですね、貴方たちの約束が』

 

「………はい」

 

翼も真剣な表情でそれに答える

 

『……懐かしいわね。リビオスが貴方を連行してきてリアと共々大騒ぎして、私が諫めて……』

「あの時は気が気ではありませんでしたよ…」

『貴方は我々との契約も果たしてくれています。約束通り、私たちの方で貴方のことは議会には秘匿しています。リビオスはまだ半ば納得してはいないようですが、それでも貴方の誠実さは認めてくれているようです』

「ありがとうございます。リブラ議会長」

『そんな畏まらないで、翼。私たちの仲じゃない』

「そうはいきませんよ。それこそリビオス次席にどやされます」

 

リブラと呼ばれた電話口の相手の微笑に翼が苦笑を返す

 

『ーそろそろ私も仕事に戻らないと。最後に一つだけ』

 

リブラが真剣な声色になる

 

『信じていますよ。翼』

 

通話が終了する

 

「信じる、ねぇ…あの女らしい外交文句だこと」

 

いつの間にか隣に来ていたコンがタブレットを操作しながら不機嫌な呟きを漏らす

 

「イカロスのメンテナンスは完了したわ。タイマーリアクターのエネルギー充填と各部冷却に半日はかかりそうだけど、それさえ済めばすぐにでもまた出せるわ」

 

イカロスのメンテナンス結果を示したタブレットを翼に押し付け、あくびを一つ漏らす

 

「……律儀よね、アンタも。あの女とのこんな面倒な契約を続けて、私みたいな厄介者押し付けられちゃってさ」

「厄介者?誰のことだかね」

 

あからさまなシラを切って見せる翼にコンが呆れ顔を見せる

 

「……こういう時だから言えるが、母さんが死んで父さんも忙しくしてて、一人寂しい身としては妹ができたみたいで退屈してないよ」

「ハァ?バカなの、アンタ……」

 

心底呆れたような顔を見せるコンに翼が続ける

 

「冗談ではないよ。実際、そう思うんだ。例え出会いはあの時の契約だったとしても、キミとこうして過ごし続けることを選んだのは僕自身の意思だ」

 

データのチェックが終わったタブレットをコンに返しながら翼が微笑む

 

「頼りにしてるよ、コン。社長秘書としても、こっちとしても」

 

そうマイペースに微笑む翼はしばらく睨んでいたコンは

ーおもむろにその脛を蹴り飛ばした

 

「いっつ!?」

「バーカ、アンタが信じようが信じまいが地の果てまでついて行ってやるわよ。実家に居続けるよりも全然面白いんだし」

 

うずくまる翼からタブレットをひったくり、ダメ押しのあかんべーを見せてコンが後にする

 

「いつつ……全く気分屋だなぁコンのヤツ……」

 

翼から離れたコンは周囲に誰もいないのを確認すると、懐から小さな端末を取り出し電源を入れる

端末から浮かび上がってきたのは仏頂面のコンと、そんなコンの頬を摘まむコンによく似た悪戯っぽく笑う女性の写真

 

「はぁ……母さんの言う通り変な連中多いんだね、地球人って」

 

ため息混じりに独り言を溢す

 

「……正直母さんが入れ込むほど地球人を好む理由はまだ分かんないけどさ、面白いヤツらってのはなんとなくわかる」

 

それだけ呟くと端末をしまい、伸びをしてハァ、と息を溢す

 

「結局私もこうなってるってことは血は争えないわけだ…」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ポイントJ4近隣の自然公園

 

「いやぁいい空気だなぁ…」

 

夕暮れ時に山吹色に染まる山の稜線を眺めながら一人の男性が呟く

男性はこの自然公園にキャンプに来ている客の一人のようだ

沈む太陽を感慨深く見つめた男性は満足げに頷くと、焚き火の近くに腰掛け飯盒の用意を始める

男性が作業している中、太陽は徐々に沈み、辺りを夜闇が包んでいく

異変はその時起こった

 

「ーん?」

 

カタカタカタ、という異音に気づき男性が辺りを見渡す

男性が持って来ていたキャンプ用品のコッフェルやカップが震えている

否、震えているのはキャンプ用品ではなく、地面

 

ズンッ!

 

瞬間、地面が大きく揺れ、たまらず男性も地べたに転げる

困惑する中、更にあり得ない光景が男性を襲う

山吹色に染まっていた山々の一つが動き出したのだ

 

「な、なんだ!?なんなんだよ!!!」

 

狼狽する男の前で、動き出した山は鎌首をもたげてぱっくりと口を開き、男性へと迫る

 

「ああ、うわぁああああああああああああああああ!!!」

 

悲鳴が山々にこだました

 

「ポイントJ4近隣の山間部に熱源‼︎ 監視衛星からゴルバゴスの出現が確認されました‼︎」

 

フェニックスネスト指令室にサイレンが鳴り響く

 

「おいでなすったか…‼︎」

『ガンフェニックスレガシーの武装搭載は終わっています。メンテナンスも終わったのでいつでも発進が可能です』

 

剛に翼からの通信が入り、剛が力強くうなずく

 

「これより、レインボーサンダー作戦を実行に移す‼︎ NEXT GUYS、サリー・ゴー‼︎」

「「G.I.G‼︎」」

 

日向重工地下指令室

 

「イカロスの再出撃は……あと2時間はかかる、か…」

 

ボディスーツに着替えた翼がタブレットを確認して呻く

 

「無いものねだりしたって無駄よ。出れないものは出れない。あくまで人工的に作り上げた機械のウルトラマンなんだもの」

「ああ、わかってる…」

 

険しい顔をする翼にコンがため息を漏らす

 

「この作戦は、アンタが監督しながら開発とメンテナンスをしっかりした機体と新兵器使ってるんでしょ?それとも何?アンタは自分の仕事一つ自身持ってできないフヌケなの?」

「いや、そうじゃない。ただ相手は怪獣だ……」

 

立ち上がり、作戦の様子がモニターされているスクリーンを見やる

ガンフェニックスレガシーがゴルバゴスと会敵、いよいよ作戦に移ろうとしていた

 

「何が起こるか、最大の警戒を払ってもまだ足りないだろう…」

 

『「ガンフェニックスレガシー、スプリット‼︎」』

 

ゴルバゴスを正面に捉えたガンフェニックスレガシーがウインガーとローダーに分離する

 

「ローダーが電磁アンカーを準備、同時にウインガーからのペイント弾で怪獣を染色し、退路を断ち次第メテオールで一気に仕留める‼︎」

『「G.I.G‼︎」』

 

剛の指令を聞いた輝が乗るローダーがウインガーから離れ素早くアンカーを地面に撃ち込む

 

「電磁フィールド、起動‼︎」

 

コクピットのコンソール入力により、ゴルバゴスの直下の地面に不可視の電磁フィールドが展開される

 

『電磁フィールド展開できました‼︎』

「OK、ペイント弾発射!」

 

ケリスがトリガーを引き、ペイント弾が発射される

ゴルバゴスの面前と直上で弾けたペイント弾は蛍光色の派手な塗料を撒き散らし、ゴルバゴスの岩のような表皮を鮮やかに染め上げた

 

「わかりやすくなったじゃない。これなら嫌でも逃がさない」

「よし、速やかに討伐を始める‼︎ メテオール解禁‼︎」

『「バーミッション・トゥー・シフト・マニューバ‼︎」』

 

剛の解禁命令を聞いた二人の操縦でローダーとウインガーが変形、マニューバモードへと変化する

 

「スペシウム弾頭弾、ファイア‼︎」

 

ウインガーから発射されたスペシウム弾頭弾が直撃、ゴルバゴスの表皮で何度も爆発が起こる

 

ゴァァァァァァァァァァァァ!!!

 

ゴルバゴスはたまらず苦悶の声を上げ、逃走しようときびすを返す

 

「逃しはしないぞ‼︎ バリアブルパルサー‼︎」

 

その眼前にマニューバモードの高機動で回り込んだローダーが割り込み、足元にローダーからのレーザーが突き刺さる

逃げ道を無くしたと自覚したゴルバゴスはうずくまり、地面を掘り進もうとするが、電磁フィールドに弾かれる

その背中に容赦なく新たな弾頭弾が炸裂し、巨体が揺らぐ

 

「攻撃続行!このままゴルバゴスを撃破する!」

 

新たな弾頭弾と、バリアブルパルサーが放たれる

が、弾頭弾はゴルバゴスの背を逸れて山間部に着弾し、バリアブルパルサーは妙な方向に曲がって霧散する

 

「何……⁉︎」

 

驚愕の声を漏らす剛を他所に、異変は続行する

ゴルバゴスの体が揺らめき、更に周囲の森林に火が点き始めたのだ

 

「隊長、これを‼︎」

 

ケリスが示したのはゴルバゴス周囲のサーモグラフィー映像

そこには赤色を通り越して真っ白になりつつあるゴルバゴスと周囲の山肌が映っていた

 

「何だこれは……⁉︎」

 

状況把握に努める各員の前で、最悪の事態が発生する

塗料に染色され、保護色が無意味と化したはずの肌がその塗料ごと揺らめき始める

 

「バカな、あの状態でも保護色を使えるのか……⁉︎」

 

そうこうしている間に、ゴルバゴスは透明化を完了させ、その姿を消した

 

「ッ、サーモセンサーは⁉︎」

「周囲の温度上昇が高く、ゴルバゴスだけの体温を追うことは困難です…」

「クソッ……まさか、逃したのか……消火を急げ‼︎」

 

虚しくクルーズモードへの変形が始まったが早いか、消火弾を用いた山火事の消火が始まった

 

「塗料で変色した表皮諸共に保護色化したのか……⁉︎」

 

スクリーンで作戦の様子をモニターしていた翼が取り乱した様子で立ち上がる

 

「……アンタの嫌な予感的中ってわけだ……これだと作戦の練り直しが必要ね……」

 

コンがため息を吐きながら呟く

翼は、少し思案する様子を見せた後、タブレットを起動して何やら調べ始める

 

「昨日と今日の出現地点はこの2地点…J4から着実に移動を始めている……今日出現したこのポイントは、キャンプ場の近く……以前の出現では登山客の近くに出現……」 

 

情報を整理していく

胸に引っかかる何かを探して、ひとつずつ

 

「保護色とはいえ人間の近くに現れた理由は……好奇心……もしかすると捕食目的……どちらにしてもゴルバゴスの出現地は人間がいた可能性がある……なら……」

 

素早くタブレットをコンソールに繋ぎ、スクリーンに地図を映す

映し出された地図にはゴルバゴスが出現した地点がポイントされている

そのポイントは、近くの市街地に向いていた

 

「コン、観測衛星からJ4エリア付近のサーモセンサーを‼︎」

「わかった」

 

翼の指示を聞き、コンがサーモセンサーを地図に重ねる

作戦が行われた二度目の出現地点から広がる高熱地点から市街地に向けて、ごく短くだが高熱地点が伸びていた

 

「ーッ‼︎ コン、隊長に連絡を頼む‼︎ゴルバゴスは近くの市街地に向かっている‼︎」

「ちょっ、翼はどうすんの⁉︎」

「イカロスで出る‼︎」

 

コンの制止も聞かずに飛び出した翼はエレベーターに乗り込み、イカロスのコクピットへと降り立つ

 

「イカロス、テイクオフ‼︎」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

J4エリア近郊の市街地

夜闇を照らす市街地の灯りが煌く中、人々はある異変を感じ立ち止まる

空気が暑い。まだ春だというのにまるで熱帯夜のような暑さが急に襲ってきたのだ

 

ゴァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

地に響く咆哮と共に、夜景が揺らぎ立ち上がる

保護色を解除したゴルバゴスが夜の市街地に現れたのだ

蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う人々を見下げ、ゴルバゴスが脚を踏み出すー

 

ーシェアァァッ‼︎

 

その巨体に、銀色の一撃が突き刺さり市街地の外へとゴルバゴスが押し返される

反転しイカロスがゴルバゴスの正面へと着地し、ファイティングポーズを取る

 

そのコクピット内でアラートが鳴り響く

表示された警告は、エネルギー不足

コクピット内に表示された『制限時間』の表示が2分からスタートする

 

「エネルギー充填がまだ足りなかったか……」

 

翼が唇を噛む

 

火星で産出されるスペシウムを加工し、よりエネルギー運用に特化したアポロニウムとしたものがイカロスの動力として使用されるタイマーリアクターの燃料である

元々スペシウム自体研究が進んだとはいえまだ不安定な物質であり、大量に用いるには危険が伴う。それ故にイカロスに搭載できるエネルギーは稼働時間にして2分30秒が限界であり、半日かけてゆっくりと充填していく必要がある

それを途中で切り上げたため、動力に必要なエネルギーが不足しているのだ

 

イカロスがかけ、前進を続けようとするゴルバゴスに組みつき、拳を打ち込む

よろめくゴルバゴスに肘鉄を打ち込み、更にゴルバゴスを山の方へ押し戻す

 

「ここで食い止めて倒す‼︎」

 

イカロスの更なる追撃がゴルバゴスに迫る

が、ゴルバゴスは不意を突いて火球を吐き出し、イカロスを怯ませる

回復したイカロスの眼前からゴルバゴスは消えていた

 

「ッ、しまった⁉︎」

 

逡巡したイカロスの死角からゴルバゴスのタックルが炸裂する

よろめいたイカロスに追撃とばかりにゴルバゴスの引っ掻きが見舞われ、イカロスのボディがスパークする

負けじと反撃に立ち上がるが、ゴルバゴスが火球を連続で撃ち出し、イカロスを大きく吹き飛ばしビルに叩きつける

 

「くそ……ッ‼︎」

 

ふと、翼が振り返る

イカロスのカメラ越しに映ったのは、逃げ遅れた街の人々

ここでイカロスが倒れたら、犠牲になるかもしれない人々

 

「………あぁ、わかってる……わかってるさ」

 

イカロスが立ち上がり、ゴルバゴスに向き直る

胸のカラータイマーの点滅が始まる

 

「ここは絶対に通さない。お前はここで倒す!!」

 

奮い立たせた翼が構えるとともに、それに合わせてイカロスも構え直す

ゴルバゴスの姿が再び揺らぎ、消える

 

(考えろ、あいつの擬態のトリックはどこかにあるはずだ……)

 

精神を研ぎ澄まし、イカロスのカメラを通して見える世界を翼が見据える

都市部を背景に、夜の闇がどこまでも広がっている

そんな夜の闇が、一部だけ不自然に揺らぐ

 

「そこだッ!!」

 

イカロスの右上腕が展開、その腕にエネルギーが纏われる

鋭く突き出した拳が虚空を切る、かに見えたが鈍いインパクト音が響く

イカロスの拳は、ゴルバゴスの長い首元にヒットしていた

 

ーゼァァァッ!!!

 

突き立てられた拳から、エネルギーがゴルバゴスの体に迸る

体内に吹き込まれたエネルギーがゴルバゴスの体をスパークさせ、その巨体が仰向けに倒れ爆発する

倒れたゴルバゴスが絶命したことを確認すると、イカロスは両腕を掲げて飛び立った

高空に至ったイカロスの姿は迷彩機能によって消え失せ、夜の闇に静寂が戻った

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

翌日

 

「おはようございまーす……って何してんの?」

 

社長室に入室したコンはデスクに向かい、頭を抱えていた翼を見つける

 

「……昨日の作戦の報告書を、確認したんだ」

 

沈痛な面持ちで翼がタブレットをデスクに置く

 

「……男性が一人、行方不明になってる。ゴルバゴスが二度目に出現した近くの自然公園にキャンプに来ていた客だ」

「………怪獣に襲われたか、暴れたせいで土砂崩れか何かに巻き込まれたってとこかしら。災難だったわね、その人間」

 

あっけらかんと応えるコンだが、翼は項垂れたまま続ける

 

「……助けられたはずだ。ウルトラマンとしてだけじゃない。ゴルバゴスの人間への関心に気づけていたら、まだ……」

 

ドンッ‼︎とデスクに衝撃が走る

驚いた翼が顔を上げた先には、どこかイラついたようなコンの顔があった

 

「アンタねぇ、何面倒なこと考えてんのよ」

 

その剣幕のまま、コンが翼のネクタイを掴み上げる

 

「確かにアンタは、今はウルトラマンよ。大昔にした約束律儀に守って、アンタの爺様から引き継いであんなものまで作って戦うウルトラマン。その名前をアンタは今背負ってるんだから、背負うものだっていっぱいある」

 

「だからこそ、一人で背負わなくていいもんまで背負うな‼︎ 犠牲になったヤツへの責任なんて、背負うのはアンタだけじゃない。この一人は、アンタとNEXT GUYS、それに作戦に関わった私たちも背負うもんだろ⁉︎」

 

コンの言葉に翼が目を見開く

 

「ウルトラマンなら助けられて当然?違う。ウルトラマンだって神様じゃない。せいぜいちょっとだけ伸ばせる手が大きくなるだけよ」

 

ネクタイを離し、タブレットをひったくる

 

「定例報告会は私が代理で出とくわ。うじうじ考えるくらいなら、今のうちにしっかり悔いておきなさいな。私たちも、後悔くらいはするんだから」

 

不機嫌そうな様子のまま、コンが部屋を後にする

しばらく呆けていた翼だったが、少しネクタイを緩めコンが出て行った扉を見据える

 

「……背負うものと、一人で背負わなくていいもの、か……」

 

しばらく自らの掌を眺めていた翼だったが、その掌を握りしめ頬を叩く

 

「……この一人はやっぱり忘れない。でも、後悔して立ち止まるのはもうやめだ」

 

パソコンを開き企画書を立ち上げ、先の報告書からの改善点をまとめていく

 

(次は、この一人も出さないように僕が……いや、僕たちは前を向くんだ…)




次回予告

ついにNEXT GUYSに配属される新型メテオール機
そんな矢先に日向重工に魔の手が迫る
翼を捕らえたバット星人レジオラの目的とは…

次回
『未来への飛翔』
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