ウルトラマンイカロス   作:リョウギ

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第22話「心からの贈り物」

「休み?私が?」

 

コンが素っ頓狂な声を上げる

 

「うん。これから色々と忙しくなるだろうし、その前に休息をとっておいてほしいからね」

 

(つばさ)が当たり前のように頷く

ーパソコン2台とタブレットで作業しながら

 

「……ワーカホリックのアンタにそこまで言われるとか不思議極まりないんだけど」

「僕はほら、前に休んだ時に十分休めたから」

「前の休みって半日くらいはサボテンダーと戦ってたでしょうが…」

 

ハァと頭を抱えてため息を漏らしながらもコンは翼に目線を合わせる

 

「ー誠に恐縮ながら、辞退させてもらいます」

「……理由を聞かせてもらえるかい?」

「理由もクソも、これからだからよ。アレの最終調整に対ヤプールメテオールの完成、フェニックスネストの宇宙探索用改造…これからの仕事は全部大ごとで大一番でしょうが。私だけ休むなんてことできるわけないわ」

 

そう答えたコンを見据えて、翼も穏やかながら真剣な表情で応える

 

「ーそう、だからこそだよ」

 

「これからは本当に大一番の連続になる。それこそ、怪獣頻出期の収束に繋がるかもしれない、そんな作戦も含まれてる。そんな局面だからこそ、コンにはベストコンディションでいてほしい」

 

翼はコンを真っ直ぐに見据える

 

「僕にはキミが必要だからね、コン」

 

当たり前のようにそう笑う翼から顔を晒し、照れ臭そうにコンが俯く

 

「……チッ、そこまで言われて辞退したら私が悪者みたいじゃない…」

 

バツが悪そうにコンが背中を向ける

 

「なら明日一日休みをもらうわ。それで十分よ」

 

その言葉を聞いた翼は安堵した笑みを浮かべていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「とは言ったものの……何したらいいか全く思いつかないわ…」

 

いつもと違う私服に身を包んだコンがベンチに腰掛け頭を抱える

家でネットサーフィンでもして休もうとして気づいたら資料に目を通し始めていたことに気づき外に出たもののやりたいことも何も思いつかず途方に暮れていた

 

そもそも暇潰しがてら翼の手伝いを始めて存外楽しく続けていたが、それ以外の地球の文化なんてせいぜいスイーツとか服にしか興味なかったのだから当然と言えば当然なのかもしれない

 

(スイーツ巡りもファッションも特に今チェックしたいもの無いし…アイツのこと笑えないわこれ……)

 

一瞬花やケリスのことが過ったが生憎と彼女らは仕事中である

何をして休むか決めあぐねてうんうん唸っていると、その前に人影が現れた

 

「貴女は……翼さんの秘書の方の……」

 

聞いたことある声に反応してコンが顔を上げる

そこには覚え通りの穏やかそうな表情の女性が立っていた。日傘に黒い和服と大学で見て以来のコンには真新しい装いの彼女は驚いた表情を浮かべている

 

「あんたは…八坂(やさか) 蛭子(ひるこ)?」

「はい、蛭子で構いませんよ。えっと……」

 

はぁ、と嘆息しながら応える

 

「コンよ。翼の名前は覚えてるのに、私のは覚えてなかったのね」

「すみません…咄嗟に思い出せなくて…」

 

棘のある返答をしたコンに構わず、蛭子はコンの隣を見て

 

「隣、いいですか?」

「……まぁいいわよ。丁度暇してたし」

「ありがとうございます、コンさん」

 

姿勢正しく一礼しながらコンの隣に蛭子が日傘を畳みながら腰掛ける

 

(……少し嫌味ったらしすぎたかしら。なんか調子狂うのよね…)

 

この前大学で遭遇してからコンはどうもこの八坂 蛭子という女性が苦手なようだ

 

あれから何度か帷の授業のために翼に付き添うことがあったりで何度か顔を合わせているが、何故か慣れない

どうもモヤモヤした感情が湧いてくるのだ

 

「今日はどうなさったのですか?見たところお仕事はお休みのようですが……」

「……ええ、見ての通りお休みよ。やることなくて持て余してたけど」

「そうでしたか…」

 

素っ気なく答えるコンの言葉を聞いて蛭子はしばし思案する様子を見せ、ある提案をしてきた

 

「その…こんなことをお願いするのは恐縮ですが…」

「…なに?」

 

しばらく躊躇う様子を見せた蛭子は意を決したようにコンを見据える

 

「ぷ、プレゼント選びを手伝っていただけませんか!?」

 

予想だにしない蛭子の一言に、コンはキョトンとした表情を返すしかなかった

 

 

移住区画街の商店街

その雑貨屋

 

「助かります、コンさん。私一人ではこういった店には入りづらくて…」

「別にいいわよ。暇だったし……」

 

店内の商品を見て回る蛭子をコンは側で見やりながらため息をつく

 

熱心に店内の商品を見比べる蛭子の隣でコンは適当に商品を見繕っている

 

「これはちょっと派手すぎるでしょうか……こちらは……」

 

(父親へのプレゼントねぇ……なんともまぁ可愛らしいことで)

 

蛭子が探しているのは、彼女の父親への贈り物らしい

曰く、研究が進展したお祝いとしてなにかプレゼントをしたいとのこと。で、彼女一人では雑貨屋やらに行く勇気がなくて決めあぐねていたらしい

 

「雑貨屋に寄った経験もほとんど無いなんて、随分箱入り娘だこと」

 

アクセサリーを眺めながらコンが呟く

 

(……まぁ、私もヒトの事言えないわよね)

 

自嘲気味に苦笑しながら、コンは少し昔のことを思い出していた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

それは今から数年前の話

 

『サイコキノ星人の幼少個体、登録された名前はコンとなっています』

 

スーツを纏う異星種族ーミステラー星人リビオスが隣に立つ少女を睨む

不貞腐れた様子を見せる少女はリビオスのことを睨み返し、威嚇するように歯を見せてさえいる

 

『議会代表の一人から地球での生活をと提案を受け、現在申請を検討中であります』

「確認しています。長旅ご苦労様でしたね、コンさん」

 

二人の前に立つ女性ー友好種族同盟議長のルパーツ星人リブラはコンに目線を合わせて微笑む

が、コンはリブラから顔を背ける

 

『貴様…‼︎ 議長に失礼だぞ‼︎』

「良いのですよ、リビオス。彼女も初めての環境で慣れていないでしょうし」

 

コンは不貞腐れた様子のまま口を開く

 

「母さんが旅でもしてこいって言うからこんな辺鄙な星に来てみたけど、こんな面倒なことになるのは話が違うわ」

『この惑星、地球は近年になってようやく宇宙への門戸を開いた星だ。我々の同盟への加入もまだ日が浅い。移住に関しても二重三重の手続きは必須なのだ』

 

リビオスの毅然とした言葉にコンはうへぇ、と嫌そうな顔を浮かべて閉口する

 

『手続きの認証はほぼ終了した。受け入れ先の地球人を呼び出すから別室で待っていろ』

「……受け入れ先の地球人?どういうこと?」

『幼少期の異星種族受け入れは保護者か監督者の同伴が必須だ。貴殿の母上は地球人の監督者を付けることを提案したからな』

「……母さんまで話が違うし……」

 

渋々とコンはリビオスの案内に従い、別室へと向かう

 

与えられた地球の携帯端末ースマートフォンを退屈そうにいじりながら待っていると、部屋にリビオスと一人の地球人が入ってきた

 

その地球人はコンに目線を合わせながら声をかけてきた

 

「キミがコンちゃんかな?はじめまして」

 

かけられた言葉を無視しているコンの前にリビオスが立つ

 

『彼が貴殿の監督者になる地球人、日向 翼だ。彼の身分は我々同盟が保証する。彼は、信用に足る人間だ』

 

コンは黙ったまま立ち上がると、翼の方を睨む

 

「……面倒だけど、母さんに面倒かけたくないし。どこに行けばいいの?」

 

コンの言葉を聞いた翼は笑って頷いてコンがこれから住まう家へと共に向かった

 

 

手に職が必要だろう、と翼はコンを自分の秘書にした。どうやらこの翼という地球人は何かの会社の社長らしい

しかもこの地球人、人工のウルトラマンを作ろうとしているのだ

曰く、そのウルトラマンとの約束を守るためらしいが

 

(バカみたい。地球人がそんなことできるわけないじゃない)

 

コンは地球人をどこか見下していた。戦争で自滅を繰り返す種族。異星種族にそういう連中は珍しくないだろうけど、地球人は輪をかけて酷いと思っていた

そんな訳から職務自体は簡単だが、それもそこそこにコンはとにかく翼に悪戯を仕掛けまくった

 

仕事の資料をバラバラにしたり、時計を狂わせてみたり、会社内の置物の配置を変えてみたり

時には職務に支障をきたすような悪戯もした

 

別に面白いという訳でもなかったが、暇潰しには丁度いい

それに、コン自身に愛想を尽かしてしまえばこんな監督者すぐ手放してくれる。そうも思っていたからだ

 

でも、翼はどこかまねけな、それでいて穏やかな表情でコンをたしなめるだけで怒ることはなかった

 

コンには、非常に面白くない話だった

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ボーっと考え込んでいたコンに蛭子が声をかける

 

「コンさん?どうしました?」

「あ…?いや……なんでもないわ。少し考え事してただけ」

 

蛭子はプレゼントが決まったようで、その手にラッピングされた小さな包みを持っていた

 

「プレゼント決まったのね」

「はい、万年筆を贈ることにしたんです。父様、メモとかはまだ手書きでしてるので」

「へぇ、いいじゃない。あれ?もう一個買ったの?」

 

蛭子の手にはもう一つラッピングされた包みが握られていた

 

「はい、もう一人贈り物をしたい人がいましたから」

「……そうなのね」

 

また、胸の奥が少しモヤモヤしたコンは蛭子から少し目を逸らす

 

その先に展示されていたあるものが目に止まった

 

「……私も、これ買ってくるわ」

 

蛭子はそれを手に取り、レジに向かった

 

 

買い物を終えて店の外に出ると、蛭子はコンに向き直り頭を下げる

 

「ありがとうございました、コンさん。おかげでいいプレゼントを選ぶことができました」

「私は何もしてないわよ。付き添っただけ」

 

穏やかな笑みを浮かべお礼を言う蛭子がどうも眩しく思えてしまう

 

「ープレゼント。それは運がいい……お嬢さん方」

 

そんな2人に道端から声がかけられる

 

声の主がいたのは簡素な露店だった

カウンターに同じデザインのネックレスが並べられている

 

奇妙なのは店主らしい男の格好だ

黒いマントに鍔広の黒い帽子、その下には目付きの悪い髭を蓄えた顔がある

 

「どうですか、わたくしどもの星で手に入る鉱石を加工した民芸品でございます。願いを叶えるおまじないにも使われていたもの。今ならお安くしておきますよ」

 

不気味な外観に似合わず、にこやかにこちらにネックレスを示す

青紫の不思議な、それでいて綺麗な石の嵌め込まれたネックレス。しかも男の言う通りかなり格安だった

 

「えっと……あの……」

「異星種族の露店商、こういう移住区画にはたまにあるのよ」

 

男の前まで行き、ネックレスを手にして眺める

 

(見たことない石ね……鉱石に詳しかったらまだわかるのだけど……まぁ、検閲を通って許可されてるみたいだし、害は無さそうだけど)

 

しばらく思案してコンはネックレスを2つ手に取る

 

「2つもらうわ」

「毎度ありがとうございます」

 

深々と頭を下げる男に代金を渡し、ネックレスを2つ受けとって一つを蛭子に渡す

 

「あげるわ、これ」

「え、でも……」

「休みの暇潰しに付き合ってくれたお礼よ。気にせず受け取っときなさいな」

 

おずおずとネックレスを受け取ってしばらくコンの顔と見比べていた蛭子だが、改めて頭を下げる

 

「ありがとうございます、コンさん。大事にしますね!」

 

用が済んだ2人が露店の前から立ち去る

露店商の男が不気味に微笑むと、露店の屋台と共にその姿が霧のように消えた

 

 

行き交う異星種族のカップル、地球人の親子連れ、学生のグループ

 

様々な人々が青紫の石が装飾されたネックレスを持って、中には身につけた者もいる

 

それをビルの屋上から見下ろし、露店商の男は微笑んでいた

 

「そろそろ始めるとしましょうか」

 

男がパチンと指を鳴らす

同時に行き交う人々の手にしていた石が怪しく発光を始めた

 

 

ーきゃあああああああああああ!!!!

 

絹を裂くような悲鳴がこだましたのを聴き、コンが走り出す

 

「どうしたの⁉︎」

 

悲鳴の主らしい女性の側には異星種族ーペガッサ星人の男性が倒れていた

 

「彼が、彼が突然倒れて…‼︎」

 

半狂乱になる女性が揺するその男性を見ると、その胸では見覚えのあるネックレスが奇妙な光を放っていた

 

「これ…まさか……⁉︎」

「コンさん…‼︎ 何があったんです、かー」

 

駆けつけてきた蛭子が背後で倒れる

蛭子だけじゃない、道ゆく人々が次々と気絶するように倒れていく

 

(まずいッー)

 

気がついた時にはもう遅く、コンは逃れがたい強い眠気に襲われて、そのまま意識を手放してしまった

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「各地の移住区画街で異常現象!地球人、異星種族関係なく多数の人々が昏睡状態に陥っているもよう!!」

 

ケリスが(ごう)に状況を報告。各移住区画の画像が映し出され、倒れた人々とそれに混乱する人々が映し出される

 

「ケリスは第1、翔真(しょうま)(はな)は第2にそれぞれ向かって調査と対応を!」

『僕も現地に向かいます!』

 

通信が繋がるや否や翼も調査に名乗り出る

 

「わかった、なら(あきら)と第3を頼む!私は第4に向かいつつA.I.G.I.S.や救援部隊との連絡を行う!NEXT GUYS、サリー・ゴー!!」

 

『G.I.G.!!』

 

 

現場へと向かうレガシーローダーの中でケリスは移住区画街の分析を始める

 

「どこの移住区画街から妙な電波が検知されてる……これが今回の昏睡の原因か…?」

『電波?その電波の元……もしくは移動先は割り出せないか?』

「やってみます」

 

移住区画街上空で待機したローダーの中で分析が始まる中、各地の移住区画街でも調査と救助が始まる

 

「輝くん!」

 

輝の下に翼が合流する

 

「この数の人々が一気に昏睡状態になるなんて……」

「大規模な侵略行為…って思った方が良さそうですよね」

 

翼はふと、倒れている人が何かを握りしめていることに気づく

見ると、怪しげに発光する青紫の石が装飾されたネックレスが握られていた

 

「こちら輝……ケリス、何かわかったのか?」

『例の電波の行く先の調査が終ったよ。ポイントのデータを送るからそこに急行。隊長に報告と救助隊に引き継ぎ次第私も向かうから』

「G.I.G.」

 

輝の通信が終わったのを確認すると、翼も静かに頷きレガシーウインガーへと同行した

 

 

第2移住区画街の片隅

他星間交易用の倉庫群

 

「ここに電波の収束ポイントが…」

 

メモリーディスプレイに送られてきた波動のデータと照合しながら各倉庫を翔真と花があらためていく

 

「翔真くん!こちらに!」

 

先に異常を発見したのは花だった

ある倉庫の中に鎮座していたのは青紫の色に輝く小屋のような建物

倉庫の中に入れ子のように建築されているのだ

 

「なんだこれ…建物、か?」

「……間違いありません、電波の収束地点はここです」

 

花の言葉に頷き、翔真は花と共にトライガーショットを構えて小屋を警戒し始める

それに反応したのか小屋は輝きを一気に強め、その姿を変容させる

 

そこに現れたのは岩石の様な刺々しい青紫の表皮を持つ頭部が巨大なアンバランスな骨格をした怪獣だった

巨大な頭部の中央の眼球が光り、その周囲に伸びる結晶型の発光体も脈動を始める

 

怪獣が屹立するとともに倉庫の天井が崩壊をはじめ、たまらず2人は退避を始める

 

「こちら立花!電波の収束地点と思しき構造物が怪獣へと変異!迎撃します!!」

 

 

倉庫を突き破り現れた青紫の異形の怪獣は不気味な音を響かせながらまるで咆哮をするかのような動きを見せる

 

その姿はレガシーウインガーとレガシーローダーからも確認されていた

 

「なんだこいつは…‼︎」

「岩石の巨人…なんか普通の怪獣では無い気しますね」

 

怪獣は目前に飛来したローダーたちを認識すると、その手に光弾を生み出し投げつけてきた

 

「見た目からして怪しかったが、見た目に違わず敵対の意思があるらしいな…攻撃開始!」

 

剛の指示に従い、2機が攻撃を開始する

が、その攻撃はさしたるダメージになっていないようで怪獣は構わずウインガーとローダーへの攻撃を続ける

 

「輝くん、そこのビルの屋上に近づいてくれますか?」

「わかりました!」

 

怪獣の攻撃を掻い潜り、ビルの屋上に近づいたウインガーから素早く翼が飛び降りる

 

「イカロスが到着次第、僕も援護します」

「G.I.G.! 頼みます!」

 

ウインガーはそのまま攻撃を再開

翔真と花を乗せたガンドラグーンも攻撃に参加するが、やはり怪獣はびくともしない

 

ーシェアァァッ!!

 

そこに空から飛来したイカロスの蹴りが命中

直立不動なまま怪獣が倒れ込む

 

蹴りの反動で翻ったイカロスが翼の側に降り立つ

遠隔で開いたハッチに飛び移り、エントリーシークエンスを済ませる

 

「イカロス、テイク・オフ!!」

ーシェアッ!!

 

構えるイカロスの前で怪獣が立ち上がる

イカロスの姿を視認した怪獣の発光体がしばし何かを分析するように点滅、赤く脈動する光に切り替わると頭部を叩きながら咆哮するような動作を見せ、イカロスへと突撃してくる

タックルのような一撃を受け止めるイカロス。だがその一撃は重く、イカロスを大きく後退させる

 

ーシェアァァッ!!

 

ガンドラグーンやウインガー、ローダーからの援護射撃を受けようとも怪獣は怯まない

まるで何かに怒りをぶつけるかのようにイカロスを突き飛ばし、ドラミングのように腕を振り回して怪獣は狂乱した

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

異星種族ーフック星人の男は目の前の影に掴みかかり殴りつけていた

 

『お前ら、お前らこそ邪魔なんだよ!!俺たちは平穏に暮らしたいんだ!!』

 

地球人の少女は横たわる影を何度も何度も踏みつけていた

 

「私のこと縛りつけて!!私はあんたのおもちゃじゃない!!」

 

凄惨な情景が浮かぶ

浮かんでは溢れ出す

 

そこは人々が普段包み隠した「黒い感情」で満ちていた

 

 

コンは走っていた

配管が張り巡らされた薄暗い地下室

靴音が不気味なくらいに響く

 

(なんで…なんであいつがまた…‼︎)

 

コンのことを追いかけていたのは黒い影

人間の形をした黒い影が地下室を駆けていた

 

【宇宙人のクセに偉そうに…‼︎】

【七光みたいなもので秘書に選ばれたクセに…‼︎】

 

怨嗟に満ちた下卑た声がコンに再び過去の情景を呼び起こした

 

 

ある日、コンは翼の部下らしい男に地下配管室に呼び出された

面倒臭かったけど、暇潰しにまた悪戯でもしてやろうとか考えていた

 

誤算だったのはその男が念能力妨害メテオールを設置していたことだ

 

「仕事もロクにしない…能力が無ければただのガキ…なんでお前が社長秘書なんだ……」

 

痛む頭を押さえながら後ずさるコンに男は迫り、肩を掴んで壁に叩きつけた

 

「宇宙人のクセに偉そうに…‼︎ 俺たちのこともずっと見下してるんだろうが!!」

 

男の拳がコンの顔面に突き刺さる

頬を殴られた痛みよりも驚きが勝って頭が混乱する

 

【アア、ヤッパリ コイツラハ カトウセイブツダ】

 

ノイズのような思考が頭に走る

怒り、恐怖、呆れ、諦観、ぐちゃぐちゃと黒い感情が混ざり込む

 

「七光みたいなもんで秘書に選ばれたクセに……‼︎」

 

(そうだ、好きでここにいるんじゃない。アイツが監督者だからー)

 

【アイツモ ワタシヲ オモチャニシテルンダ】

 

ぐちゃぐちゃの脳内で真っ赤に染まった翼の顔がよぎる

また頬に激痛が走る

 

 

そんな過去の情景の繰り返しと気づいたコンは同時に、今の状態と過去で決定的に違うことにも気づいた

 

念能力妨害メテオールが、ない

 

【コイツヲ コロセル】

 

【アイツモ ケセル】

 

噴き出す黒い感情に頭を押さえ、コンがうずくまる

過去と同じく肩を掴まれ、壁に叩きつけられる

 

【コロセ コワセ コロセ コワセ 】

 

【ココナラ ソレガユルサレル】

 

頭に噴き出す感情のままに、コンは目の前の影を睨みつけた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「あの怪獣から観測されてる波形……脳波に似てる…?」

 

ローダーでの援護を行いながら怪獣を分析していたケリスが眉を顰める

イカロスがいなしながらもそのパワーに気圧される

そんな格闘を行って興奮状態にあるその怪獣からは奇妙なことに地球人や異星種族のものと同じ脳波が観測されていたのだ

 

「パターンは……《怒り》、《憎しみ》、それに……《快感》?」

 

声無き咆哮を上げる怪獣に押されたイカロスが膝をつく

 

「怪獣が、人間の感情を元にして行動してる…?でもなんで…」

 

そこでケリスが何か閃いたように手を打つ

 

「隊長!まだ移住区画街にいますか⁉︎」

『ケリス、何か変化があったのか⁉︎』

 

剛に通信を繋ぎ至った可能性を伝える

 

「昏睡状態の人たちに何か……関係者の方々ならなおいいのですが、声かけを行うことはできませんか?」

『声かけ…?それでいいのか?』

「怪獣を分析したところ、怪獣の内部から人間のものと酷似した脳波が確認されました。人々が昏睡した時期、移住区画街からの電波の集積地点があの怪獣と考えると…」

 

「ー不明な方法で人々の意識だけが怪獣の中に囚われている可能性があるということか…‼︎ わかった、試してみる価値はありそうだ!」

 

ケリスからの通信を切り、剛が近くの救助隊たちに呼びかけ、人々がそれぞれの眠ったままの家族、友人、あるいは恋人に声をかけはじめる

 

タックルやヘッドバットをぶつけながら迫る怪獣

その攻め手が一瞬止まる

 

「これは、効いてるか⁉︎」

 

が、すぐに怪獣の目が再び輝き、発光体の赤い脈動が始まる

咆哮とドラミングのような動作と共に再びイカロスに怪獣が掴みかかる

 

「ダメか…‼︎」

 

掴みかかる怪獣をなんとか押しのけ、イカロスがすかさずアポロニウムシュートを放つ

怪獣の巨大な頭部に光線が直撃するが、何事もなかったかのように両手でそれを払い除け、怪獣が強烈なタックルを放つ

 

ーシェアァァァァッ!?

 

受け身も取れず大きく吹き飛ばされたイカロスはビルに激突、ダメージのためか立ち上がることもままならない

胸のタイマーリアクターの点滅が無情にも始まる

 

「物理的にも倒せない……こんなのどうすれば……」

 

 

悪夢の情景の中、コンはフッと息を漏らす

 

「ーはは……あはははははッ!」

 

壊れたように、そしてどこか吹っ切れたように笑う

 

「殺せる?壊せる?だから好きなだけって?……冗談じゃない」

 

コンが吐き捨て、目の前の影を睨む

 

「そんなことして悦に浸るのなんて、それこそあんたらバカと同じだわ…そんなのこっちから御免よ」

 

ぷっ、と血を吐き出しいつものように悪戯っぽく笑う

 

 

「何をしてるんだ!!」

 

配管室に光と共に一人の人影が走り込む

 

「つ、翼社長…⁉︎」

 

あいつだった

でも、いつもの表情と違う。今そこに立つあいつは、激怒していた

 

西条(さいじょう) 慎二(しんじ)、彼女に何をしてるんですか」

「こ、こいつが悪いんですよ社長。貴方は騙されている‼︎ こんなヤツをそばに置いていては、うちの会社はー」

 

「それは貴方が決めることではない!!」

 

翼の一喝が響く

 

「時たま度が過ぎた悪戯をすることはありますが、彼女は誰かを傷つけるようなこと、貶めるようなことは絶対にしない。この会社を潰したいなら、この僕をどうにでもして行動不能にでもしてしまえばいいのにそうしない」

 

「そんな彼女のどこに悪意があると説明するのですか?」

 

翼の言葉に西条が唾を飲み込み、尻餅をつく

刺すような冷たい眼差しを向けた翼は西条の側を通り過ぎ、コンに肩を貸す

 

「ー西条さん。貴方の処分は追って伝えます。それまで自宅での謹慎を。貴方のような人こそ、祖父から託されたこの会社に必要ありません」

 

その後、社長室まで連れて行かれたコンはしばらく黙っていたが、沈黙に耐えかねて翼に問うた

 

「……なんで、なんで私を庇うのよ。私が仕事の邪魔してたのは事実じゃない……実績が無いのもそうだし……」

 

その問いに翼はあっけらかんと答えた

 

「庇ってなんかないよ。僕は事実を言っただけだから」

 

コンの向かいに腰掛けて微笑む

 

「じいちゃんから聞いてたんだ、サイコキノ星人は悪戯好きだけどそれはその力の使い所が掴めきれていないから、その使い道に本人たちも迷っているからだろうって。僕もそれに同感していたから最初はそういう理由でキミの悪戯を強く咎めなかったんだよ」

「最初は…?」

「そう。今は……実はキミから悪戯されるのが少し楽しくなってきてね」

 

照れ臭そうに頬をかく翼

 

「僕は、この会社を継ぐために、じいちゃんの約束と夢を継ぐために色々勉強してきた。ここのみんなにも助けられてるけど、誰かからちょっかいかけられたりとか、ふざけあったりとか、そういう関係の人はそんなにいなかったんだ」

 

「……なんなのよ、それ」

 

意味不明だった

でも、なんだか納得できた

サイコメトリーで心を読まなくてもわかる

 

コイツは馬鹿みたいに本当のことしか言わない

 

本当にコイツは、コイツの祖父がウルトラマンとした約束を継いで守ろうとしている

本当にコイツは、私みたいな生まれた星も種族も違うヤツを友達だと思っているのだ

 

「難しいかもしれないけど、少なくともこの会社は異星種族の人々とも友であり、同僚であれる場にしたい。ウルトラマンと友達になったじいちゃんみたいに、何気ない約束ができる仲になったように」

 

荒唐無稽で難しいなんてものじゃない夢をまたコイツはなんてことないなんて顔で言う

 

「彼のような人間も、ゼロとは言えない。特に直面したキミには無理な話かもしれないけど、地球人は悪い人たちばかりじゃない。異星種族にもいい人と悪い人がいるように。いきなり世間でそういうのを勉強するのは難しいだろうけど、ここでゆっくりとでも知って欲しいんだ」

 

またコイツは当たり前のように言う

 

コンは翼が何度も騙されそうになってるのを見てきた

何度も悪意をぶつけられてるのを見た

 

それでもコイツは、当たり前のように信じると決めた人間を真っ直ぐ信じるのだ

その人間に、夢を語るのだ

 

「バカバカしい……」

 

小声で呟く

バカ正直な大バカなコイツが相手だ。こっちもバカ正直に答えてやる

 

「でも、ここのやってることが面白いのは事実だし」

 

「ーこれからはもっと真面目に付き合ってあげるわ。コネ扱いされるのは癪だし」

 

悪戯っぽく笑って翼を真正面から見返す

 

「あんたがどこまで行けるか、そのバカがどこまで通せるか、側で見させてもらうわ」

 

 

幻想の悪夢の中、コンは立ち上がる

肩を押さえる影の手は拘束することなく、コンの体がすり抜ける

 

「憎んでもよかった?恨んでもよかった?おあいにくさま。そういう憎みあいっこをする趣味は私には無いの」

 

すり抜けた影を振り返りもせず、毅然とコンは言い返す

 

「そんなのよりも、どこまでもバカバカしくて、どこまでも面白いヤツがいるんだもの」

 

脚を振り上げ、思いっきり地面を踏みつける

 

悪夢がパリンと音を立てて崩壊。薄気味悪い青紫の揺らぐ空間に放り出される

 

「念能力でサイコキノ星人(わたし)にケンカ売るなんて100年早いのよ」

 

亜空間の中を見上げる

ビー玉のようにいくつも「悪夢」が浮かんでいる

どの「悪夢」でも、半狂乱になった人々が影や人形に暴行を加え、狂ったように笑っている

 

はぁ、とため息を一つ吐き、コンが声を上げる

 

「しっかりしなさいよ、あんたら!!」

 

「憎いからってそんなことして、そんな姿をあんたらは自分の大切なヤツに見せられる!?誇って笑顔で顔向けできるの!?」

 

その言葉が聞こえたのか、いくつかの人々が動きを止める

 

「憎んでやり返して、んなこと繰り返したらまた憎んで終わりでしょうが、目を覚ましなさい!!」

 

「あんたらは、人間はそんな弱くないでしょうが!!!」

 

 

現実世界

イカロスが組み付いていた怪獣の動きが緩慢になる

 

「これは…?」

 

イカロスが怪獣を解放するが、怪獣はもう暴れる様子を見せない

発光体からも目からも光が失せ、怪獣が脱力する

 

並んで飛行するNEXT GUYSの戦闘機と共に経過を見るイカロスの前で怪獣の体から光の粒子がいくつも解放され、同時にその体が細かないキューブになり、空へと昇っていった

 

 

「なるほど、スクブストーンを停止させるほど心の強いものがいたわけですか。実に興味深い……」

 

怪獣ースクブストーンを見守っていた黒装束の男が帽子の下で笑う

 

「かのヤプールの甘言に乗ってこの辺境まで来た甲斐があったというものだ。面白い人間も見つかったことだしな」

 

帽子の下の顔が異形に変わり、黄色の目が輝く

 

日向(ひむかい) (つばさ)と人工ウルトラマンイカロス……そして石動(いするぎ) 大智(だいち)百瀬(ももせ) (はな)か……私の新たなメカレーターの良い糧になりそうだ』

 

異形の男は不気味に微笑み、姿を消した

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「全く、一日どころか一週間も休んじゃったわ」

 

社長室の椅子に腰掛け、襟元を緩めがらコンがため息をつく

 

「退院おめでとう、コン。あの被害者の中にいたと聞いた時は肝を冷やしたよ……」

「まーじで災難だったわ……戻ってからしばらく気分悪かったし」

 

安堵した様子でデスクワークを始めようとする翼をチラと見て、しばらく照れ臭そうに逡巡していたコンは意を決して立ち上がり、翼へと詰め寄って小さな包みを渡す

 

「これ、あんたへのプレゼント」

「僕に……?」

 

受け取り、開いた包みの中には赤い宝石を装飾としたネックレスが入っていた

 

「まだ、あの時のありがとうを言ってなかったから……」

 

恥ずかしそうに頬をかくコンが改めて翼に向き直る

 

「こんな私を、秘書として側に置いてくれてありがとう、翼。こんな私だけどさ、これからもよろしく」

 

少しぶっきらぼうに言ったコンの顔を面食らったように見つめていた翼がぷっ、と吹き出す

 

「……ちょっと、私珍しく大真面目に言ったんだけど⁉︎」

「ごめんごめん。なんだか初々しい感じがして…」

 

こほん、と咳払いをして翼も改めてコンに向き直る

 

「こちらこそ、こんな僕についてきてくれてありがとう、コン。これからもよろしく」

「ふんっ、安心しなさい。あんたみたいな面白いバカ、離したりなんかしてやる気ないから」

 

笑ってそう返してコンははたと得心がいった

 

(ーそっか、私ってあの子の…蛭子のことが羨ましかったんだ。素直にありがとうが言えるあの子のことが)

 

そう気づき、何か付き物が落ちたような気分になったコンは蛭子のことを思い出す

 

(そういえば、あの子は一体どんな悪夢を見たのかしら?無事だったのは確認したんだけど…)

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

振り下ろされる拳

投げつけられる酒瓶

 

痛い、冷たい、ごめんなさい

 

浴びせられる罵声

ヒステリックな怒声

 

うるさい、うるさい、ごめんなさい

 

ケラケラと響く笑い声

生きた虫が入ったご飯

 

嫌だ、嫌だ、ごめんなさい

 

「ーでも、いいのです」

 

そんな悪夢の中、和服を纏う少女はドロドロに汚れた顔で朗らかに笑っていた

手にした包丁もその場に投げ捨てる

 

「前のお父様も、前のお母様も、あの院のみんなも。もう憎んでいませんから」

 

うっとりと頬を撫で、少女は狂ったような笑みを浮かべる

 

「もうすぐ、もうすぐお父様が私の夢見た世界にしてくれますから」

 

「もう、いいのですよ」

 

慈愛に満ちた、どこまでも狂気を孕む笑顔で少女は悪夢の影にすら慈しみの言葉をかけていた




突如謎の改造怪獣による怪獣の乱獲が始まる

改造怪獣を操る異星種族ノワール星人への対策を練るNEXT GUYS
が、そこに思わぬ壁が立ち塞がる

混乱の中、翼と花の前に姿を表すノワール星人

窮地の花を救ったのは石動と彼が操るレブナント
ノワール星人同様に改造怪獣を操る石動に花は…

次回ウルトラマンイカロス
『悪魔の命題』
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