ウルトラマンイカロス   作:リョウギ

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第23話「悪魔の命題」

立ち上がる瞬間にかけられた手の衝撃でデスクが揺れる

その上で主を見守るように配置されたグビラのスパークドールズが合わせて揺れた

 

「納得がいきません!!」

 

怒声を上げていたのは花だった

 

いつもの穏やかさからは想像もつかないような怒りをその顔にあらわにし、花は画面に映る数人を睨んでいた

 

「怪獣を乱獲している異星種族を直接連行することができないってどういうことですか…⁉︎」

 

 

話は数分前に遡る

 

NEXT GUYSでは先日の謎の怪獣出現後からしばらく続いていた怪獣の乱獲騒動についての会議が行われていた

 

ゴモラ、レッドキング、ガボラ、ギガース、アーストロン、デットン、タッコング、ゴーストロンその他多数の野生怪獣が謎の機械改造怪獣に襲撃され捕獲、もしくは殺害される事件が何度も起こっていたのだ

 

機械改造怪獣たちは皆共通の素材を用いた機械パーツを外付け・内蔵されることで改造されており、それらの出元はすぐにケリスが割り出していた

 

沈痛な面持ちで怪獣たちを見守っていた花もようやく解決の糸口が見つかると安堵していたが、そこで何故か友好種族同盟の種族代表たちが通信を繋ぎ、その異星種族への干渉を制止してきたのだ

 

 

『……残念だが、それが我々のルールだ。かの種族…ノワール星人へと不要な干渉を行うことは許されていない』

 

リビオスの苦渋が滲む声に続けてリブラが説明を続ける

 

『ノワール星種族の彼らは、我々友好種族同盟の種族管理リストにおいてグリーン……《非警戒種族》指定されているのです』

 

「なー」

 

驚く花や翔真と対照的にケリスは知っていたのか、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる

 

『《非警戒種族》が侵略行為を為した場合は、我々も捜査権と拘束権を行使できますが、現在の状況では彼らが侵略行為を為したとして罰することも、不当に拘束することも叶わないのです』

 

「でも、現にあの改造怪獣たちは怪獣をー」

 

『レディ、キミは少しばかりルールへの理解が足りないようだ』

 

花の言葉を遮ったのはゴテゴテとしたロボットスーツに身を包んだ巨大な頭部を持つ異星種族

チブル星種族代表のアルドだ

 

『我々の同盟において、侵略行為と認定されるのは無許可・無宣言に他の星において大規模な破壊行為を繰り返した場合、他の星の種族に対して傷害・あるいは殺戮を行った場合、他の星の重要資源を無許可に乱獲した場合なんだ。ノワール星人の怪獣乱獲活動は既に我々でも確認済みだが、彼らの行為はこのどれにも合致していないのだよ』

 

「そんな…怪獣という生物が乱獲されてるのですよ⁉︎」

 

『残念ながら、我々の同盟間で怪獣は資源指定されていないのだよ』

 

アルドに続けて口を開いたのは軍服に似た服を纏った老人のような異星種族、ルリヤ星種族代表エルゼア

 

『……怪獣と共存し、彼らを守護する種族の星に生きる怪獣、ファビラス星種族に神聖視されるムーキットのような特別な生物、これらならば文化の保護として不可侵が約束されておるがの……』

 

ミラクル星種族代表ファノアが続く

 

『だが、大多数の星において怪獣はむしろ優先駆除生物としてむしろ狩ることは推奨されているのです』

 

鳥に似た頭部を持つアンヘル星種族代表ラーフが締め括る

 

それを静観していたケリスが手を挙げて問う

 

「ですが先刻に移住区画街で昏睡事件を起こした怪獣、レジストコード《スクブストーン》はノワール星人が管理する改造怪獣であり、アレはれっきとした侵略行為として咎めることも可能では?」

 

『先刻のあの事件は移住区画街、すなわち様々な種族を集めた街での事件となり、別種族を標的とした可能性もあり地球への侵略行為として咎めることはできないのだ』

 

「まじか……」

 

思わずうへぇ、とケリスが声を漏らす

 

「でも…でもこの裁定はあまりにも横暴です!怪獣たちだって命のはずです!!それを乱獲しているのに、侵略行為にできないなんてー」

 

『ー私からすれば、横暴なのはキミの意見の方なんだがね、レディ』

 

アルドが花に反論する

 

『怪獣も命だと言ったね。だが地球種族はこれまでの歴史でいくつもの怪獣たちを害ある動物として駆除してきただろう?それを今になって抗議するとは、虫のいい話だと思わないかね?』

 

アルドの言葉に花がたじろぐ

モニターに並ぶ画面の一人、沈黙を続けていたギャシー星種族代表レジアが顔を背ける

 

「それはそうかもしれません…でも、技術が進んだ今なら、彼らをただ殺して排除するだけなんてことにならずに共存が出来るかもしれないんです!彼らも、命があることの理解は、これからなのに…」

 

『お嬢さん、キミは知っているかね?戦うことを是としない種族や技術の進歩が極端に遅く満足な怪獣への対抗ができない種族がいることを……それらの種族において怪獣を回収・排除してくれるノワール星の技術と行為は必要不可欠なものなんだ』

 

ファノアの優しい声に続き、エルゼアの老獪な声が響く

 

『ノワール星種族の怪獣乱獲は、損害以上に宇宙において多大なる利益をもたらしている。怪獣災害惑星の沈静化、改造怪獣による労働力・戦力の供給……これらの多くを彼らは為しているのだ。グリーンリストへの参入も、これらの功績が大きい』

 

「戦力……怪獣を兵器にしてもまだ侵略ではないと言うのですか⁉︎」

 

『そうです。彼らがやる方は「武器の製造」であり「戦争の誘発・仕掛け人」ではない。銃を作るものが、人を殺めるかもしれないと咎め罰せられる謂れがないのと同じことです』

 

ラーフが冷静に、冷淡に告げる

 

『こちらから抵抗しない限り、彼らが武力行使で怪獣を奪うことはしない。大多数は怪獣を差し出し、穏便に彼らの資源収集を終わらせ、時に彼らから自衛用の改造怪獣を入手する』

 

『改造されている怪獣たちはそもそも短命で、長期的な被害には繋がらない故に危険指定される兵器にもなり得ません。怪獣が起こす被害への対応は、そもそも怪獣が我々の規約で保護されていないため、それらへの対処は君たち各々の星の防衛機構の仕事になります』

 

ラーフは身を乗り出し続ける

 

『花隊員、これだけの理屈の上で保証される彼らの身の上を覆し、宇宙種族への多大な利益を放棄するはめになることを、怪獣被害に苦しむ、もしくは僕のように星と多くの同胞を一度怪獣に滅ぼされた種族に納得させられますか?』

 

ラーフの言葉に花が返答に詰まり、腰を下ろす

こほん、と咳払いをしリブラが口を開く

 

『ー改造怪獣による襲撃への対応は、NEXT GUYSとA.I.G.I.S.の皆様に任せます。誤っても、こちらの許可なくノワール星人を害することだけは避けてください。友好種族登録済の彼らを害した場合、最悪この地球にも罰が与えられてしまいますから……』

 

そう締めくくり、リブラたち友好種族代表は通信を終える

 

花はただ、唇を噛み締めることしか出来なかった

 

その様子を翔真はどこか辛そうに見ていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

電源がほとんど落ちたフェニックスネスト指令室

 

自分のデスクで花は一人、グビラのスパークドールズを手にしてうなだれていた

 

『虫のいい話だと思わないかね』

 

アルドの言葉が脳内に響く

 

ーわかっている

 

同時によぎったのはあの時の情景

フランベルスが目の前に迫り、恐怖で震えが止まらなくなったあの時の記憶

 

ーそんなことは一番、私がわかっている

 

後の検死でわかった事実

フランベルスの最初の個体は出産直後だったこと

溜め込まれたエネルギーは放出器官の限界を超えていたこと

 

あの怪獣は、ただ産後の余剰エネルギーに苦しんでいただけの可能性があるということ

 

気づけていたはずだった

気づこうとしていたはずだった

 

でも恐れて一歩引いてしまった

 

私がー見殺しにしたようなものだ

 

そんな自分が、今更言い返せる言葉なんかなかったのだ

 

「……帰らないと」

 

目元をぬぐい、花は立ち上がる

グビラを机の上にそっと戻し、指令室のロックを確認して更衣室に向かう

 

「よっ、かーのじょ。ご飯でも行かない?」

 

と背後から声をかけてきたのは、ケリスだった

 

 

ケリスが花を連れて行った店は移住区画近くの居酒屋

個室客の一部には異星種族も見られる

 

「ーあんまし気落とさないように、花ちゃん」

 

ケリスがカクテルを傾けながら声をかける

 

「生物保護って、大変なんだよね。その価値を認めてくれるまで、何度も何度も馬鹿にされる。……ま、私はそれに嫌気がさしてここ来たのが一つあるんだけどさ」

 

ぐいっと豪快に飲み干し、空のグラスを花に向ける

 

「ー難しい話ってのは、花ちゃんも自覚してるでしょ?」

「……はい」

 

花がしょんぼり頷く

と、ケリスが花の隣に座り直しその肩を叩く

 

「だからってめげるな!まずはそこからさ」

 

花がケリスの顔を覗き込む

 

「折れたら終いだよ。一歩踏み出した花ちゃんがなんとか踏ん張って頑張らないと、変えたいと思う人が次に現れてくれる…なんてことないかもだしね」

「………」

 

ケリスの言葉を聞いた花はしばらく俯き、そしてー

 

パンっ!!

 

と頬を叩く

そして注文していたカクテルをぐっと飲み、赤みが増してきた顔で応える

 

「ー負けません…負けてたまるか!」

 

それを聞いたケリスは満足げに笑い、花の向かいに腰掛け直した

 

 

消灯したフェニックスネスト指令室

 

花のデスクに置かれたグビラのスパークドールズを黒い手が掴んだ

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

黒い空間

そこに翼は一人立っていた

 

『日向 翼。ウルトラマンイカロスの名を借りるもの』

 

いつの間にか正面に現れた黒服鍔広帽子の男が告げる

 

「何者だ、お前は…‼︎」

 

『私はノワール星人。キミたちが追うその人だ』

 

慇懃に礼をした男は続ける

 

『明日の正午、一人で第2移住区画街の4番貨物倉庫に来たまえ』

 

帽子の下の顔を異形に変え、ノワール星人が翼を見据える

 

『キミと話がしたい。人工のウルトラマンを操る、キミと』

 

 

翼が飛び起きる

脂汗でぐっしょり濡れたシャツの下で荒い息に胸が上下する

 

「……ノワール星人……」

 

 

翌日 フェニックスネスト指令室

それぞれのデスクで業務の準備をする中、花の様子がおかしかった

 

「あれ……ない……なんで…⁉︎」

 

間違えて持って帰ってしまったのか

そう思い更衣室に向かおうと一旦指令室を出て廊下の角を曲がる

 

百瀬(ももせ) (はな)隊員だね?』

 

いつの間にか背後に現れた黒服鍔広帽子の男が声をかけてくる

驚きながら振り返る花。だが、そこに男はいない

 

『今日の正午、一人で第3移住区画街のアンティークショップ・綺羅星堂に来たまえ』

 

すぐ後ろからかけられた声に反応し、振り向く

こちらを向いた鍔広帽子の男が少し距離を開けて立っていた

 

「あなたは、誰!?」

 

トライガーショットを向けて花が警戒する

 

『私はノワール星人』

 

その名乗る名前に花が目を見開く

 

『ーキミの友と共に、待っているよ』

 

そう笑いながら告げると、男ーノワール星人は姿を消した

脱力し、トライガーショットを下ろす花

 

しかし、その手が静かに握られてもいた

 

 

正午

第2移住区画街 4番貨物倉庫

 

車から降りた翼は開け放たれた倉庫の入り口から中を覗き込む

暗闇に包まれた倉庫内に気配は感じられない

 

スーツの下にトライガーショットを装備していることを確認し、踏み込む

 

一歩踏み込んだその先は暗闇ーではなく夕暮れの街が広がっていた

それも近代的な様式ではなく、もう何十年も前の様式のどこか哀愁を感じる倉庫街だった

 

ーとーりゃんせ、とーりゃんせ……

 

顔が黒塗りにされた子供たちが口々に童謡を口ずさみながら遊んでいる

 

その中に一人ー異質な黒服の男が佇んでいた

 

「ようこそ。日向 翼社長」

 

慇懃に礼をした男は帽子を取る

同時に、その姿が黒い肌と黄色の目を持つ異形に変化する

 

「ノワール星人……」

『名乗るまでもなく覚えていてくれて嬉しいよ。こちらも手間が省ける』

 

パチン、とノワール星人が指を鳴らすと情景が薄暗い社長室のような部屋に変化する

 

『かけたまえ。お茶も用意したんだ』

 

ノワール星人が促すままに警戒したまま椅子に座る

その対面にノワール星人も腰掛け、机に置かれた湯呑に入ったお茶を一口飲む

 

「僕を呼び出した要件はなんでしょうか?」

 

淡々と尋ねる翼に不敵な笑みを溢す

 

『流石は企業の社長。取引先とのやり取りはやはり様になっているね』

 

湯呑を置き、ノワール星人が翼を見据える

 

『単刀直入に言おう。キミが持つ兵器技術ー人工ウルトラマンのノウハウその他を、私にも譲ってはくれないだろうか』

「お断りします」

 

ノワール星人の要求を翼は一言で払いのける

 

『即答か。思ったよりも硬い男のようだね』

「そもそも、僕たちが生み出しているものは兵器ではありません。兵器にするつもりもない」

 

星人の歪な目を睨み返し、翼が続ける

 

「兵器を求めるあなたに、僕たちが貸す力も技術も存在しません」

 

『キミがなんと言おうとも、ウルトラマンイカロスやメテオールは強力な兵器だ。ウルトラマン、宇宙警備隊の強大な力を擬似的にとはいえ制御し、扱える。とてつもなく強力な兵器以外の何物でもない』

 

「僕を揺さぶるつもりなら諦めてください。そんな言葉は、とうに聞いていてそれでも僕らはあの力を兵器にしないと誓っている」

 

両者の間に沈黙が流れる

 

『フッ、キミがそう答えることは重々承知していたさ』

 

ノワール星人が腕を広げる

部屋の窓が波打ち、一面の大きなスクリーンとなり映像が現れる

 

映し出されていたのはどこかの市街地を望む山岳地帯

 

そこに飛来した円盤から一体の鳥に似た怪獣が転送され、雄叫びをあげる

 

ーギェエエエエォォォォォォォォ!!!!

 

「火山怪鳥バードン…⁉︎」

『素晴らしいだろう?かつてウルトラマンを葬った地球怪獣と聞いたよ。素体として申し分ないと早速我々の技術で改造を施した』

 

よく見ると映し出されたバードンには頭部や肩、腕などに機械らしいパーツが組み込まれている

 

『バードン・メカレーター。アレが我々の資源の有効活用だ』

「こんなこと……いくらグリーンリストでも、これは侵略行為と見られてもおかしくない!」

『アレは、私が操っている怪獣ではないよ』

 

ノワール星人が腕を振ると、バードンの横に新たな画面が挿入される

 

そこに映っていたのは、地球人の男性。その手には奇妙な形の機械が握られていた

 

「なー」

『地球の一般市民が怪獣を欲するとは妙だと思っていたが、まさかこんなことをしようと考えているとは……売った私としても想定外だったよ』

 

わざとらしく肩を竦めながら語る星人を睨み、翼はその部屋の出口に向かう

それを見送るノワール星人。その姿に一瞬ノイズが入り、揺らぐ

 

『ー直接がダメならば、戦闘でデータを取らせてもらうよ、社長』

 

 

突然現れ、市街地に向かうバードン・メカレーターの前にガンドラグーンが急行する

 

「ガンドラグーン、スプリット!!」

 

ブレイバーとバスターに分離し、バードン・メカレーターへ攻撃を加えていくが、そのダメージに怯むことなく進撃が続く

 

「体内及び体外に金属反応多数…この装置、ノワール星人のメカレーター怪獣じゃん⁉︎」

「おいおい…侵略行為はしないって話じゃないのか⁉︎」

 

ケリスの言葉に輝がもっともな疑問をぶつける

 

『ーその怪獣は地球人が操作しています!』

「翼くん⁉︎ それは本当か⁉︎」

『ノワール星人本人から直々に映像で見せられました。コントロールしている人物はそう遠くにはいないはず…』

 

剛の通信から聞こえた翼の言葉を聞くが早いか、ケリスは周囲と怪獣を再度分析し、コントローラーの居場所を割り出す

 

『隊長、コントローラーらしき人物発見しました!地点を送ります!』

「わかった!私はそちらに向かう。ケリスと輝は怪獣の進行をなんとか遅らせてくれ!」

『G.I.G.‼︎』

 

進軍を続けるバードン・メカレーターの前にイカロスが降り立ち、構える

 

「翼くんも頼んだぞ!」

 

離脱するガンブレイバー

イカロスと共にバードン・メカレーターに相対するガンバスターの操縦席で輝が一人ごちる

 

「こんな時に、二人ともどこに行ったんだ…‼︎」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

アンティークショップ・綺羅星堂

 

店内に駆け込んだ花

様々な道具や人形が所狭しと並ぶ店内の中央の開けた場所、天窓から挿す夕陽の下にその男は座っていた

 

「ようこそ、百瀬 花隊員」

 

向かいの椅子を勧められ、花が座る

男はティーカップに入った紅茶を勧めるが、花は手をつけずに男を睨む

 

と、男は懐からグビラのスパークドールズを取り出し、花の目の前におく

驚き、素早くそれを取り返す花を見て男は嗤う

 

「要求を聞き入れてくれたからには、こちらも約束は守らねばね」

 

帽子を取る男

紅茶に映るその姿がノワール星人本来のものに変わる

 

「怪獣を乱獲し、改造するなんて…なんでそんなことをするのですか?」

『何故?貴重な資源を有効活用することの何が悪いというのだ?』

 

パチン、とノワール星人が指を鳴らす

 

店内の棚が消え失せ、代わりに何体もの怪獣のホログラムが浮き上がる

どの怪獣も機械改造され、コードや装置が繋がれている

 

その中には、頭部とヒレに大きな機械を装着されたグビラの姿もあった

 

ノワール星人の側にいくつかスクリーンが現れ、改造怪獣たちの姿が浮かびあがる

岩山を掘り砕いているもの、大きな資材を運ぶもの、そして市街地らしい場所を襲撃するもの

 

その光景に、花は口を押さえる

 

『資源採掘、運搬、そして兵器運用。我々が少し手を加えるだけで彼らは存分にその身を活かして働いてくれる。別の星にいけば、掃いて捨てるほどの数も存在する。実に有用な資源だ』

 

「違います…‼︎ 彼らは、ただ生きようとしてる動物です! 無闇に殺さずとも、理解して共存できるはずの命なんです!」

 

『その共存に、見合うコストはあるのかな?』

 

ノワール星人が天を仰ぎながら嗤う

 

『共存といっても、彼らを人間の生活圏から遠ざけ、本来の棲息地からも離して隔離する。これを地球人は飼い殺しと言うのではないのかね』

 

「そうしなくとも、怪獣たちを傷つけずにおく方法は生み出せる。怪獣たちのことを理解すれば、きっと…‼︎」

 

『不可能だよ。それは』

 

ノワール星人が花に向き直る

 

『我々は怪獣を改造する技術を持つ。それ即ち、我々はあらゆる種族と比較しても、怪獣と呼ばれる巨大生物について理解しているということだ。そんな我々が断言できるのだよ。過剰な力を持つこの巨大生物たちはほとんどの種族にとって有害でしかないと』

 

『高熱を撒き散らすザンボラー、硫黄等に由来するガスを生理現象として吐き出すケムラーやエリガル、目につくものに手当たり次第攻撃を行うレッドキングやケルビム。これらの怪獣たちは生きた制御不能の兵器に他ならないだろう?』

 

ノワール星人の言葉に花は拳を震わせる

 

「それは、あなたたちが怪獣を兵器として見たいからじゃないんですか…⁉︎」

 

『ほう……?』

 

「大きな破壊や被害をもたらす力を持つ怪獣も、理由があります。人間の生活圏に迷い込む怪獣も、何か原因がある。あなたのデータはそれを見ようとしてすらない…‼︎」

 

花の言葉を聞いてノワール星人はパンパン、と手を叩く

 

『なるほど、一理ある』

 

頷きながらノワール星人は新たなスクリーンを呼び出す

そこに映るのは、奇怪なコントローラーを握りしめた地球人と赤い目のギギ人。地球人の隣にはイカロスと交戦するバードン・メカレーターが映る

 

『ーだが、そう怪獣たちを見ているのは彼らも同じだ』

 

アンティークショップが地響きで揺らぐ

同時に、ホログラムが崩れるように天井が開き、外の様子が見えるようになる

 

ーゴォアアアアアァァァァァァ!!!

 

そこにいたのは、ノワール星人の手により乱獲されたとされる怪獣の一体。凶暴怪獣アーストロンだった

 

その頭部や体の各部には機械パーツがいくつも装着されており、ノワール星人による改造が施された怪獣であることがわかる

 

『アーストロン・メカレーターを提供した彼はどうやら移住区画街の在り方に不満があったらしいな。なんとも乱暴な客だ』

 

ーゴォアアアアアァァァァァァ!!!

 

アーストロン・メカレーターはどこか悲痛な叫びを上げながら移住区画街の蹂躙を始めようとこちらに向かう

 

花は唇を噛みながらトライガーショットをノワール星人へと向ける

 

「……あの怪獣を止めて」

『無理な相談だ。あの怪獣のコントローラーを握っているのは私ではない。もっともー』

 

ノワール星人が歪な笑みを浮かべる

 

『ー私を殺せば、そのコントロールは無効化されて怪獣は大人しくなるかもしれないがね』

 

その言葉を聞くが早いか花はトライガーショットの引き金に力を込める

 

「やめろ!!」

 

ノワール星人に向かうはずだった弾丸は空へと打ち上げられた

 

駆けつけてきた翔真がその銃口を逸らしたのだ

 

「翔真くん…⁉︎ 離して!あのノワール星人を撃てば、怪獣はー」

「落ち着け!!グリーンリストの宇宙人に手を出したら星間問題だ!!」

 

暴れる花を翔真が抑え、声をかける

 

「今は、あの改造怪獣を止めるのが先決だ。ここは街に近すぎる」

「止める…そうだ、止めないと…まだあの機械も…」

 

『無駄だよ。百瀬 花』

 

ノワール星人の声が響く

 

『アーストロン・メカレーターに取り付けたデバイスは体組織から離脱した際にアーストロン自体の生体反応を検知すると全て爆発するようにしている。生きた状態でアーストロンの改造を剥がすことは不可能だ』

 

ハハハハハッとノワール星人が哄笑する

花は今までにない怒りを滲ませた目でノワール星人を睨む

 

「あなたは…どこまで……ッ‼︎」

 

ーゴォアアアアアァァァァ!!!

 

そうこうしているうちにアーストロン・メカレーターはジリジリと移住区画街に近づく

バードン・メカレーターに対応している剛たちやイカロスー翼は当然駆けつけてくることはできない

 

ーGoAAAAAAAAAAAAAA!!!

 

そこに別の、機械音声混じりの咆哮が割り込む

 

アーストロン・メカレーターの進撃を地底から現れた別の機械改造を施された怪獣が受け止め、押し返す

フランベルスと似たその怪獣、花は見覚えがあった

 

「あの怪獣は…ギマイラの時の……」

 

ノワール星人は待っていましたとばかりに手を叩く

 

『ハハハハハッ!!石動(いするぎ) 大智(だいち)!!待っていたよ。さぁ、キミが生み出した改造怪獣と私のメカレーター……その性能を見せてくれ!!』

 

ノワール星人の口から漏れた名前に花が呆然とする

 

「石動 大智……石動、司令…?」

 

呆然とする花から思わず翔真は目を背けた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ーギェェェオオオォオォウ!!!

 

バードン・メカレーターが繰り出す嘴攻撃をイカロスはなんとか避けて受け流す

その嘴の端から漏れた毒液がイカロスの装甲を溶かし、煙を上げる

 

ガンブレイバーからの援護射撃で怯むバードン・メカレーターを押し戻し、光弾でダメージを与える

 

ーギェェェオオオォオォウ!!!

 

バードン・メカレーターは咆哮と共に火炎を吐き、ガンブレイバーを振り払うと共にイカロスを牽制する

 

背中から展開したバックラーで火炎を防ぎ、イカロスは攻撃のチャンスを伺う。その時、バードン・メカレーターの火炎が突然途切れ、その動きが鈍る

 

『コントローラーは確保した!これならあの怪獣も少しは大人しくなってくれるだろう』

 

剛からの通信が入り、それと共にイカロスはバックラーを格納してアポロニウムシュートを構える

 

が、その光線を浴びるまでもなくバードン・メカレーターは膝をつき、泡を吹き出した

 

「……無理な機械改造の副作用だ。体組織が拒絶反応を…」

「こんなのって……」

 

怪獣のあまりにも唐突な死にイカロスも、輝たちも呆然とする

 

「ーああ、あまりにもあっけなすぎる。戦闘データがはまだ不十分だ」

 

その時、バードン・メカレーターの体を取り囲むように黒い霧のような、蛇のような「何か」が現れ、その体に入り込む

 

ーギシャァァァァァァァァ!!!!

 

血と毒液が混ざった唾液を撒き散らしながら、まるで糸で引っ張り上げられるような不自然な動作で立ち上がり、吠える

 

その体から表皮や機械を突き破り、骨に似た構造物が露出する

 

「なッ⁉︎ 生体反応はたしかに消えてるのにーいや、新しい生体反応…?違うこれは、次元エネルギー…ということは超獣の⁉︎」

 

ケリスが目を白黒させながら復活したバードン・メカレーターだったものの分析を進める

 

ーギシャァァァァァァァァァァァァ!!!

 

白濁した瞳のまま向かってくるバードン・メカレーターを受け止めるイカロスだが、先程までとは違い今度は大きく押し込まれていく

 

ーシェアァァ……ッ‼︎

「この…ッ‼︎」

 

なんとか進撃を押し退けた隙を突き、両手をクロスして薙ぎ払うように光線を放つ

 

が、バードン・メカレーターの周囲に形成されたシールドのようなものにあえなく光線は弾かれる

動揺したイカロスの隙を見逃さず、バードンの口が大きくーその表皮を裂きながら開き、口内に生成された棘をミサイルのように放つ

 

ーシェアァッ⁉︎

 

棘ミサイルが光弾のように突き刺さり爆発し、イカロスが膝をつく

タイマーリアクターの点滅が始まり、エネルギー残量の低下が知らされる

 

「光線が効かないなら…転送!イカロスナイトソード‼︎」

 

翼のコールを認証し、日向重工地下格納庫からアーマーパーツを伴ってイカロスナイトソードを格納したコンテナが飛来。アーマーパーツの装着と共にコンテナからイカロスナイトソード、アーマーパーツから黒星丸を抜き、二刀を構える

 

ーギシャァァァァァァァァァァァァ!!!

 

バードン・メカレーターの慟哭と共に両の翼が泡立ち、鋭利な剣状に変化する

突撃し、両腕の剣を振り回すバードン・メカレーターの攻撃を受け流し、返す刀でその胴を袈裟に切り裂く

 

ーギシャァァァァァァァァァァァァ!?

 

よろめき、傷口を押さえるバードン・メカレーターの隙を突き、イカロスナイトソードのリアクターコアを回転、その一刀を高く振り上げる

 

「ハァッ!!!」

 

裂帛一閃

刀身に纏うエネルギーで伸びた斬撃がバードン・メカレーターを縦に両断する

 

二等分されたバードン・メカレーターの体にエネルギーが迸り爆散、その残骸から黒い霧が霧散していく

 

残心し、その最期を見届けたイカロス。そのコクピットで翼は悲痛な面持ちでそれを見ていた

 

 

「フューゼクス、ご苦労。これで怪獣に取り憑いての生体改造もある程度加減がわかった」

 

バードン・メカレーターとの戦闘があった山間部。白衣の男ー八坂(やさか) 英輔(えいすけ)は邪悪に微笑む

その体の周囲を黒い霧のようなーよく見ると結晶粒が蛇のように集まった何かが主人に懐くペットのように飛び回り、彼の手にあるメモリーディスプレイに戻っていった

 

同時にそのディスプレイに幾つかのデータが表示される

 

「基本形態、ウルトラマンヒカリの力をメテオールとして応用したであろう帯剣形態……急造の怪獣で2形態のデータが収集できただけ重畳。あとの形態のデータは、ドラーフィアに回収させれば済むだろう」

 

飛び去っていくイカロスともう一方の現場に向かうガンドラグーンを眺め、英輔は顎に手を当てる

 

「イカロスの開発・運用者……日向 翼。待っているといい…その力の正しい使い方を、僕が近々見せてあげよう」

 

愉快げに笑みを浮かべ、英輔はその場を後にした

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ーゴォァァァァァァァァ!!!

ーGoAAAAAAAAAAAAAA!!!

 

アーストロン・メカレーターとレブナントFが激突、盛大な土煙を上げる

レブナントFの剣爪による一撃がアーストロン・メカレーターをよろめかせ、反撃で放たれた熱線をもう片方の腕のシールドで防ぎ、更なる一撃を叩き込む

 

「随分と回りくどいことをしてくれるな、ノワール星人」

 

呆然とする花とノワール星人を睨む翔真の背後から新たな人物が現れる

杖を突きながら現れたA.I.G.I.S.の司令官ー石動の手には、翔真には見慣れたレブナントのコントローラーが握られていた

 

『私の招待に乗ってくれて感謝するよ、石動 大智。この星のことを調べてキミのことを知った時から会って話がしたかったからね』

「こちらのレブナント以外の兵装を無力化してまでお膳立てするとは、余程自分以外に改造怪獣を生み出すのが認められないというのかね」

 

ハハハッとノワール星人が愉快そうに笑う

 

『まさか!そんなことは無いさ。むしろ我々と考えを同じくとする同志に出会えて晴々とした気分だ!!』

 

ノワール星人と対峙する石動の背に、花の弱々しく問う

 

「………あの改造怪獣は、貴方が作ったのですか…石動司令」

「正確には、培養して元から身体機能を改良した生体兵器だ。ノワール星人が生み出す機械による後天的改造を施したものとは違う」

 

振り向かず、淡々と告げる石動

 

『これらの怪獣たちは生きた制御不能の兵器に他ならないだろう?』

『ーだが、そう怪獣たちを見ているのは彼らも同じだ』

 

ノワール星人の言葉が花の頭の中でこだまする

 

(ー怪獣たちだって生きてる。それを、見て見ぬふりなんてできない)

 

(なのに、なのにそうしなくちゃいけない。そうするのが当然)

 

(それが当然になるのは、なってしまうのはー)

 

「花、どうしー」

 

ードンッ!!

 

俯いたまま脱力する花に声をかけようと油断した翔真が大きく突き飛ばされる

 

翔真を振り払った花は、石動のガラ空きの背にトライガーショットを向けていた

 

「ノワール星人も、貴方も…怪獣は兵器だと、モノだと言う…‼︎」

 

「生きているはずのものを、向き合うべきものを、見ないふりをする!!」

 

「貴方たちが、貴方たちのような人がいるから…‼︎ 怪獣たちを誰も見ようとしないんだッ!!!」

 

怒りに身を震わせた花の叫びを石動は振り向きもせず受け止める

 

「よせ!花!!!」

 

引き金にかけた花の指が、押し込まれようとしていた




石動が秘密裏にクローン怪獣を兵器化していた事実に怒る花
それを宥めようとする翔真と翼にも花は感情をぶつけてしまう

自分の願いに迷走する花
過去の過ちに向き合う翔真
石動の見る未来を想う翼

揺れ動く心を他所に再び始まるノワール星人の遊戯
そこで語られる石動の意志とは

次回ウルトラマンイカロス
『願いの先、変える世界』
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