ウルトラマンイカロス   作:リョウギ

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第30話「終末の魔笛」

「あの日向 翼ってヤツ俺たちを騙してたのか」

 

『地球人がウルトラマンを偽るなんて…』

 

「要するにウルトラマンじゃないんでしょ。そんなの応援してたなんてなんだかなぁ」

 

『俺たちはあいつが悪いと思ったら殺されるのかよ、ふざけるな‼︎』

 

街頭モニターでの演説を見ていた人々がざわざわと混乱しながら重い思いのことを呟きはじめる

 

裏切られたと翼を糾弾するもの

ウルトラマンに近い力を持つ地球人を畏怖するもの

 

大体の言葉は翼のことを糾弾し、罵倒するようなものばかりだった

 

「違う…あの人は…翼さんはそんな人じゃない!!」

 

そんな群衆の中で一人、声を上げるものがいた

 

「あの人は、自分の勝手な思想だけで異星種族を攻撃したりしない‼︎ 理由が、何か理由があるはずなの!!」

 

必死に叫んでいたのは制服姿の百瀬(ももせ) (いつき)だった

 

「なんでそんなことが分かるんだよ」

『多くの人を騙していたヤツだぞ』

 

「騙していたんじゃない。私はそう信じたい…だって、あの人といたコンさんは、幸せそうだったから……‼︎」

 

『訳のわからないこといいやがって‼︎ お前、あの翼って地球人とグルなんだろう⁉︎ この野郎が!!』

 

樹の言葉に過剰反応して激怒した異星人が地面の石ころを拾って樹に投げつける

 

咄嗟にカバンで顔を庇う樹

が、そのカバンに衝撃が走ることはなかった

 

恐る恐る顔を上げる樹

その目の前に立ち、彼女に投げられた石を掴んでいたのは青いX型の目を持つ異次元人ギギ人だった

 

ーギギギ……

 

樹を肩越しに少し振り返るとギギ人は石を地面に落とす

 

『ギギ人の…庇うのかよそいつを…‼︎』

『……私も彼女の言うように、ウルトラマンイカロスがノワール星人と交戦していたやむを得ない理由はあると考えている』

 

冷静にそう答え、ギギ人は樹の肩を支える

 

『私もウルトラマンには複雑な感情を抱いていた。だが、かつてババルウ星人が移住区画街を襲撃した時にイカロスは……日向 翼という彼は我々も守り抜こうと全力を尽くしてくれたのを見た』

 

ギギ人は群衆に向かい合う

 

『ー私は、そんな彼を信じたい。この子とその友人の言葉の受け売りではあるが、な』

 

ギギ人は呆けた様子でそれを聞いていた樹の手を取り、野次馬たちの集まりを掻き分けていく

 

【凶暴な異星人め、イカロスに殺されちまえ】

 

『おい!誰だ、誰が言った!?』

 

樹とギギ人が離れた群衆の中で誰のものとも知れない声が聞こえる

 

【まだいるんじゃないのか?あいつとグルな地球人が!!】

【探せ!!同盟に突き出せ!!】

 

どこからか聞こえた言葉に群衆たちの混乱は更に大きくなり、殴り合いまでし始めた人々まで現れる

 

それを離れて眺めていた黒いマントの人物は瞬きの間にフッとその姿を消してしまった

 

 

『………』

 

しばらく樹の手を引いていたギギ人は群衆から離れたことを確認すると立ち止まって樹に向き直る

 

『……許可なくいきなり手を引いてしまってすまない。あの場は早く離脱せねば興奮した群衆たちが何をしでかすかわからなかったから…』

 

と改まって告げるギギ人を見た樹はホッと安堵の息を漏らす

 

「いえ、ありがとうございます。助かりました…私も必死でどうしたらいいか頭真っ白で無我夢中だったし……」

『それでも踏み出せるなら、それはキミが強い証拠だ。元軍人の私ですら、キミのように行動することは以前なら難しかっただろうからな』

 

そう告げるギギ人を見て樹は少し微笑む

 

「あの……お名前聞いてもいいですか?」

『名前……ギギ人にとって互いの呼称は数字と記号の組み合わせだ。キミたちの言う名前とは程遠いかもしれんが……私の呼称はXY0025だ。呼びにくいようならキミの好きなように呼んでくれて構わない』

「0025さん……」

 

しばらく思案していた樹が提案する

 

「じゃあ、ニゴさん。ニゴさんと呼ばせてください」

『ニゴ、か…ふむ。そんな呼ばれ方は初めてだからこそばゆいな…』

 

コホン、と咳払いしてギギ人ーニゴが樹に向き直る

 

『……彼と、日向 翼はどこにいるだろうか…借りを返すならば、今だろう』

「えっと…たしか翼さんは日向重工の社長さんだから会社に…」

『難しいだろうな。恐らく既に同盟のガサ入れが入っているだろう。恐らく彼もそれを承知している』

「NEXT GUYSの基地……は今宇宙らしいし……」

 

「僕なら案内できるはずだ」

 

二人の前に現れたのは一人の青年

人の良さそうな顔をした、不思議な雰囲気の青年だった

 

「えっと……あなたは…?」

「あ…えっと……怪しいものではないから信じて欲しい」

 

頬を掻きながら青年が苦笑いする

その様子を訝しむように見ていたニゴが驚いた様子を見せる

 

『お前は…まさか…⁉︎』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ーキュアァァァァァァ!!!

 

エイのような姿の怪獣は口から放つ波動弾でフューゼクスを攻撃、着実にダメージを与えその体を吹き飛ばしていく

 

ー■■■■■■■■■■■■■!!

 

フューゼクスは弾けた体の一部を触手状に変化させ、エイ怪獣を先端の刃で斬りつける

 

切り裂かれた皮膚から青い血が噴き出し、エイ怪獣がよろめく

 

その右足を触手先の刃が貫く

 

ーキュアァァァァァァ!!

 

悲痛な悲鳴を上げ、怪獣が転倒する

その怪獣にフューゼクスはじわじわと迫ってくる

そこに空中から弾丸の雨が降り注ぐ

 

飛来してきた戦闘機状のマシン4機がビームやレーザーでフューゼクスを攻撃しながらその目前に集合、変形しながら合体して一つの形を成していく

 

ーコォォォォォォォォォォ……

 

深青のボディを持つ巨大ロボットーキングジョーがそこに完成する

その右腕には大型のランチャー砲が装備されていた

 

ランチャー砲を腰だめに構えたキングジョーの砲撃に怯むことなくフューゼクスの触手がキングジョーに飛来する

その触手たちに貫かれ、キングジョーの各部がスパークする

 

『シット!!致し方ありませんー』

 

キングジョーの腰部から何かが高速離脱

それと同時に頭部ランプを赤く光らせたキングジョーがランチャー砲を連射しながら突撃、攻撃により損傷していくボディに構わずそのランチャー砲を連射したままフューゼクスの胸に突き刺す

 

ー■■■■■■■■■!?!?

 

弱点だったのか、悲痛な悲鳴と共にフューゼクスがその体を泡立たせながらもがく

が、その抵抗も虚しくキングジョーはその体を爆発させ、フューゼクスの異形の巨体を丸ごと吹き飛ばす

 

バラバラと降り注ぐ死体は再生する兆候も見せず、炭のように崩れて消えていってしまった

 

ーキュアァァ……

 

負傷した脚を引き摺りながらもエイ怪獣はイカロスを掴むと、そのまま空へと離脱。どこかへと高速で飛び去っていった

 

 

「正体不明の怪獣とキングジョーの助太刀……ねぇ。ここで仕留められなかったのは想定外だが……」

 

自分の研究室でイカロスとフューゼクスの戦闘の中継を見守っていた英輔は未だ余裕の笑みを浮かべていた

 

「まぁいい。そちらがまだ足掻くというならば完膚なきまでにその心を折って処刑してやろうじゃないか」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

目を覚ました翼の目前にいたのは不思議な服を着たロングヘアを三つ編みに束ねた女性だった

 

「……あなた、は……」

「目を覚ましましたか。良かった」

 

女性は静かに微笑み安堵した息をこぼす

その女性を翼は知っていた

 

「ギャシー星種族……レジア代表……」

 

ギャシー星種族代表レジア

友好種族同盟の代表の一人。かつてある悪意ある知性体に滅ぼされた母星から離れ、あらゆる星に散らばった種族の一人でもある

現在のギャシー星は広い海と豊かな生態系に溢れる星になっていると聞く

 

「あの時の助言、うまく活用できずにすみませんでした」

「気にしないで。彼の策謀なら察知できただけでも御の字ですから」

 

痛むのか包帯をした右脚をさすりながらレジアが微笑む

 

ーキュアァァァァ……

 

二人がいる場所の少し奥、壁一面が水槽になった巨大水槽の中に漂うエイのような姿の怪獣が心配そうに鳴き声を上げる

 

「シーナ、大丈夫よ。これくらいなんともないわ」

 

シーナと呼ばれた怪獣はキュウゥ、と小さな声を上げ

水槽の奥へと泳ぎ去っていく

 

「ああ、紹介が遅れました。彼女はシーナ。この地球で出会った怪獣で、種族としての名前はレイジャって言うらしいわ。貴方を助けるために力を貸してくれたの」

「僕を…助けるため…」

 

ハッと翼が目を見開き起き上がる

 

「あの怪獣は!?蛍火村は…⁉︎」

『ご安心をミスター・翼。あの怪獣は我々が辛くも撃破しました。キングジョーが一機失われてしまいましたがね……』

 

翼の下にもう一人姿を現したのはパワードスーツに身を包んだ異星種族の男性

 

「チブル星のアルド代表⁉︎」

『ご機嫌よう、ミスター。無事で何よりだ。キミが起きてくれなければ、流石の我らでも持て余していましたからね』

 

パワードスーツの指を器用にパチンと鳴らすと翼たちのいる部屋に明かりが灯る

 

そこにはドックに格納されたイカロスの姿があった

アルドの後方には彼の同胞らしいチブル星人たちがチブローダーに乗って待機している

 

「これは……」

『私も、最初は貴方と貴方の祖父の行おうとしていたことを信用していなかった。どうせ、その力を私利私欲に使うに決まっていると』

 

アルドは翼の肩に優しく手を置く

 

『ですが貴方は、私のその疑いを晴らして見せたのですよ。貴方の戦う姿は、誠実に我々と向き合い自らができる全力を模索するその姿が』

 

アルドが微笑みながらそう告げる

 

『私も、かつての同胞が残した汚名を晴らすために、本当に宇宙中の人々を笑顔にできるおもちゃを作るために様々な壁を越えて代表の席に就くまで来ましたからね。貴方の苦労の一部くらいは理解できるのですよ、ミスター翼』

 

それを聞いていた翼は静かに頭を下げる

 

「ありがとうございます、アルド代表。だけど…僕は、先の戦いで僕自身の怒りでイカロスを使ってしまった……」

 

立ち上がり、イカロスを見上げる翼

 

「本当にイカロスとの約束を大切にするなら、イカロスをもっと整備する必要があることも知っていた。それなのにー」

「それは当然の怒りであり、キミ自身の守るべきものを守ろうとしただけじゃないか」

『ミス・レジアの言う通りですミスター・翼。それは私的利用ではない』

 

翼は静かに首を振る

 

「僕自身の私的感情に間違いない以上、それを重ねればイカロスは兵器と違わないものになってしまう…」

 

拳を握りしめ、俯く翼

 

「バカ言ってんじゃないわよ、バカ社長」

 

そんな翼の前に見知った顔が現れる

 

「コン…‼︎ もう怪我は大丈夫なのか!?」

「大丈夫なわけないわよ。ほら」

 

とコンは首から下げた包帯ぐるぐる巻きの左手と頭に巻かれた包帯を見せる

 

「しばらく超能力も使えないわ。無理させすぎて脳神経がオーバーヒート寸前だったしね」

「なら、まだ寝ててくれ!これは僕がー」

 

反論しようとする翼の頬を鷲掴みにし、反論を封じる

 

「バカ社長が無理してるときに無理できない秘書が何が秘書か!それにもう一つ」

 

ぐっと翼のネクタイを引っ掴み引き寄せる

 

「律儀に悩んでるバカの手綱握っておいておけるのは、私だけでしょうが」

 

コンの言葉を翼は静かに聞いていた

 

「……勝てないな、やっぱり」

 

ふっと笑う翼と共にコンもにっと笑う

 

「コン、アルド代表、イカロスの修復の手伝いを頼みます」

 

「ウルトレイダー・ツキカゲは、止めなきゃならない。兵器としてのウルトラマンを、認めちゃいけない」

 

その言葉を待っていましたとばかりにコンとアルドが頷く

同じくレジアがそれを聞いて微笑み、立ち上がる

 

「私は別件に向かいます。友好種族同盟の、ラーフ代表の策謀を阻止するために」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『素晴らしい戦果でしたね。ウルトレイダー・ツキカゲ。貴方に投資して正解でした』

 

格納ドックに納められたツキカゲの目前に立つ英輔の側にアンヘル星代表ラーフが姿を現す

 

「予想外の投資で驚きましたが、こちらも助かりましたよラーフ代表。貴方の多額の支援金のおかげでツキカゲの完成を早めることができましたから」

『優れたものには敬意と支援を、当たり前のことです』

 

ラーフがツキカゲを仰ぎ見ながらくっくっと笑みを零す

 

『これだけの兵器があれば、怪獣どもを根絶やしにできます。私たちのかつての故郷を滅ぼしたクロノームも、他の有象無象も、我々に敵意を向ける敵性種族も…ッ!!』

 

興奮した様子で拳を握るラーフを興味なさそうに英輔は見ている

 

(フン、ツキカゲはここにいるただ一機以外作らないし誰に譲る気もない。僕だけの神なのだから)

 

(せいぜい今のうちは奢っていろ、お前たちもツキカゲの力に跪き僕に従うことになるのだから)

 

「八坂司令官。ウルトラマンイカロスは現れないのか?」

 

そこにもう一人姿を表したのは海祢(かいね) (みかど)

白衣の胸元にA.I.G.I.S.の証であるバッヂが装着されている

 

「帝研究主任補佐。イカロスとの戦闘の必要性は今取り急ぎない。怪獣たちとの戦闘でもツキカゲの稼働は問題なく行えている」

「だがイカロスという存在が俺たちにも、この地球にも危険分子であることに違いはない。ならば、損傷している今狙うのが最大効率となるはずだろう」

「……何故そうもイカロスとの対決を急く?」

 

英輔からの問いに帝が不機嫌そうにその眉間に皺を寄せる

 

「ー作り出したモノが、最高の出来かどうか証明したい。それは科学者技術者として真っ当なものだと思うが?」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

アルドとその部下が作業を主に行い、翼とコンがデータ面や外装のチェック、修復箇所の照合を行う

 

奮起した翼の主導の下でイカロスの修復は順当に進んでいた

 

「問題はエネルギーなのよね……高密度スペシウムは全部日向重工の地下ドックだし……」

『高密度スペシウムほどのエネルギーは私の下にも貯蔵がありませんねぇ…他のエネルギーでの代替は不可能なのですか?』

「不可能ではないですが、活動可能時間は極端に少なくなってしまいます。30秒も稼働できないかもしれない……」

 

翼たちがぶつかっていたのはエネルギーの問題

イカロスの稼働に必要な高濃度スペシウムほどのエネルギーは気軽に準備ができない。イカロスの内蔵バッテリーは緊急用も含めてほぼ空になってしまった今、エネルギーの充填なしに動かすことは不可能だ

 

「つ、翼さん!本当に会えた…‼︎」

 

そこに二人の人影が現れ、翼たちに駆け寄る

 

「キミは、確か花隊員の妹さんの…」

「はい、百瀬 樹です!会えてよかった……」

『日向 翼。私の方ははじめましてになるだろう』

 

ニゴが翼に手を差し出す

 

『私はXY0025。かつてキミに助けられた一人だ。その借りを返しに来た』

「僕に、助けられた…?」

『あの時も、今も精一杯を賭して戦うキミには当たり前のことかもしれない。だが、私はキミが助けてくれたことに恩義を感じたからここにいる。私が信じたいキミを、イカロスを信じて』

 

ニゴの言葉を聞いて一瞬混乱していた翼だが、ニゴの差し出した手をしっかりと握る

 

「……でも、どうやってここにきたの?ここって結構な秘密基地のはずだけど」

「それは…この人が案内してくれて」

 

二人の後方からもう一人歩み出てくる

人の良さそうな顔をした青年だ

 

「……あんたは…え、なんで⁉︎」

 

その青年の顔を見たコンと翼が驚愕の表情を見せる

その顔を二人はよく知っていたからだ

 

「……元旧GUYS隊員…ヒビノ ミライさん…⁉︎」

 

翼の正面に立ち、青年ーミライが頷く

 

「記録が正しければ…貴方は…」

「はい。僕は、ウルトラマンメビウスです」

 

ミライは左腕を翼に向け、そこに赤いブレス型のアイテムーメビウスブレスを出現させてみせる

 

「ヒカリから危機の迫る地球に向かって欲しいということと一緒に様々なことを聞いています。もちろん、キミとイカロスのことも」

 

ミライはドック内に立つイカロスを見上げる

 

「僕たちの仲間を、その使命を受け継いでくれてありがとうございます。翼さん」

 

今一度翼に向き直る

 

「ヒカリとイカロスは、親友とも言える仲でした。そんなヒカリがこう伝えてくれたんです。日向 翼を信じて欲しい、と」

 

「僕も翼さんの目を見て、樹ちゃんたちの話を聞いて、キミを信じることができると確信できた」

 

ミライは左腕のメビウスブレスに手をかざし、回転させるとそこから溢れ出す光をイカロスのタイマーリアクターに向ける

 

タイマーリアクターにメビウスブレスからの光が注入され、確かな青い輝きがそこに戻ってきた

 

「僕のエネルギーの一部をイカロスに注入しました。これでイカロスはまた戦えるはず」

 

共に見上げていた翼の肩に手を置き、その目をまっすぐ見据える

 

「僕たちウルトラマンは、それぞれの星の文明に干渉することはできない。だけど、キミは違う。ウルトラマンでもあり、地球人であるキミだからこそ、その間違いを正すことができるはず」

 

ミライの言葉に翼が頷く

 

「ありがとうございます。ミライさん」

 

ネクタイを締め直し、コンたちの方を向く

 

「ー行ってくるよ」

「行ってきなさい。何かあったら私がふんじばってでも止めてあげるわ」

 

翼とコンが拳をぶつける

 

翼がイカロスへと向かうのを見届けてコンがアルドと樹とニゴ、ミライの方を見る

 

「私たちにもまだやらなきゃならないことがあるわ。日向重工の方には今戻れない……だから、今は貴方達を頼らせてくれないかしら」

 

『なんなりと、ミス・コン』

「わ、私にできることが有れば頑張ります!」

『わかった。可能な限り手伝おう』

「はい!是非力にならせてください!」

 

承諾してくれた4人の顔を見てコンはにっと笑って見せた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

都市部から少し離れた山中

地響きと共に銀色の巨体が着地する

 

「ポイントD2、旧実験場にウルトラマンイカロスが出現」

 

A.I.G.I.S.本部の指令室エリアにてアラートが鳴り響く

 

それを聞いていた英輔は笑みを崩さずに命令を下す

 

「ウルトレイダー・ツキカゲを出撃。イカロスを今度こそ破壊します」

 

 

仁王立ちするイカロスを遠景に街の野次馬たちが騒ぎ始める

 

「イカロス?なんでこんなとこに」

『怪獣がいないのに現れるってことは正体を隠す気無くなったのか』

「自棄になったのかねぇ」

『なんだか知らんがこちらを巻き込むなよ…』

「今更何がしたいんだよ」

 

様々な声が上がる中で帝はイカロスがよく見えるビルの屋上からその銀の巨体を睨んでいた

 

イカロスの目前にウルトレイダー・ツキカゲが静かに降り立つ

 

降り立ったツキカゲを見据え、コクピット内の翼が構える

 

「ウルトレイダー・ツキカゲ……お前は、僕が止める!!」

ーシェアァァッ!!!

 

《対象捕捉:優先破壊対象・ウルトラマンイカロス》

《危険度・高から変更なし》

 

イカロスの突撃からのパンチを予測していたかのようにツキカゲが最低限のモーションで受け止め、次の一撃を繰り出す前に胸部に一撃を当てよろめかせる

 

崩れた体勢のイカロスの肩を掴み身動きを封じたツキカゲが腕部装甲からプラズマブレードを展開し、何度も何度もボディを切り付ける

 

イカロスはそのナイフを受け止め、ツキカゲを至近距離で睨みつける

 

「……無駄だ。アメノサカホコの思考ルーチンは完璧。それを完璧にトレースして再現するツキカゲに負けはあり得ない…‼︎ イカロスがツキカゲを倒しうる可能性は万に一つもあり得ない!!」

 

帝の執念が乗り移っているかのようなツキカゲの圧力にイカロスが次第に押され行く

身動きが取れないイカロスの脇腹にツキカゲは膝蹴りを放とうとしー

 

ーシェアァッ!!

 

そこをツキカゲの頭部に炸裂した衝撃が遮った

 

イカロスのヘッドバッドがツキカゲの顔面に直撃したのだ

のっぺりとしたツキカゲの顔面に大きな亀裂が生じ、その体がよろめく

 

《ギ…行動パターン……外……行動…確認……》

 

隙が生じたツキカゲの胸部にイカロスの鉄拳が突き刺さる

 

「……馬鹿な。アメノサカホコの予測から外れた…⁉︎ 行動の癖の予測パターンは1000以上ある中で…‼︎」

 

《……思考ルーチン変更 対処行動選出》

 

膝を突きかけたツキカゲが立ち上がり、イカロスの攻撃を受け止め、受け流していこうとするが、イカロスはその受け流しを強引に振り切るようにパワーを振り絞りながら重い一撃を当てていく

 

「帝……聞いてるかはわからないけど…」

 

「キミの願うAIの行く末が、ツキカゲであっていいわけがない!!」

 

イカロスのコクピットの音声を傍受していた帝はその言葉に目を見開く

 

「……俺のAIの行く末が……だと……‼︎」

 

「ふざけるな……ふざけるな‼︎ お前に俺の何がわかる!!」

 

帝の怒りを察知したかのようにツキカゲは両腕からブレードを展開し、イカロスもそれに合わせてナイトイカロスソードと黒星丸を取り出し、それぞれの双刀を打ち合わせて鍔競り合う

 

「俺が目指すAIの果てが、それだけを目指して最効率に、最大限有用に生きてきた俺の積み上げたものの何がわかる!!!」

 

狂ったようにツキカゲが振るう双刀がイカロスを押し込んでいく

 

「受け継いだ絵空事のような夢だけで生きてきて、それでも、それでも俺が積み上げてきたものに並びついてくるお前が…俺を語るなァァァァァァ!!!」

 

 

海祢 帝の夢は幼い頃に父の仕事場で見つけたドローンたちに魅了されたことから始まった

 

精密かつ緻密で最大効率

多くの機体がいるにも関わらず一糸乱れず行動する美しさ

 

それらに魅了された帝は自分もこの美しい存在を作り出したいと思った

 

そこから帝は最大効率の勉強を重ねた

 

娯楽やら時間の無駄になるものは排斥して勉強を続けた

 

憧れのAIたちのように、最大効率で美しく

 

ーただ一人で

 

大学まで進学し、そこでも勉強一辺倒だった帝

そんな彼の前に現れたのが日向 翼だった

 

愚にもつかない周囲の連中の一人

そう思っていた

 

だがその男の描く設計は美しかった

最大効率とはいえない。でも、ストンと腑に落ちる設計

 

帝はそれが許せなかった

認められなかった

 

曰く、祖父から受け継いだものを作り上げるために研究と勉強を続けていると「夢」を語るその男を

 

 

「受け継いだ夢…?背負うもの…?ふざけるな…ふざけるな…!!そんなものの差だけで、俺が辿り着いた究極が否定されていいはずがない!!受け継いだものなんて無くても、最大の効率と最大の有効性を突き詰めてきた俺が、俺が、負けるなんてあってたまるか!!!」

 

帝はインカムを装着するとツキカゲにーそれに内蔵されたアメノサカホコに直接の命令を入力する

 

「最優先オーダー……ギャラルホルンレイ解禁‼︎ 跡形もなくあの男ごと、あの目障りなイカロスを吹き飛ばせ、アメノサカホコ!!!」

 

入力されたオーダーを受領したツキカゲはイカロスを蹴り飛ばし距離を取ると胸の前で両腕を交差し、広げる

 

胸部装甲が排熱と共に展開、カラータイマーがあるべき場所に高速回転しながら光輝くオレンジ色のリアクターエンジンが露出し、そこから巨大な砲身が展開される

 

「ーッ」

 

必殺武器の解禁にイカロスが身構える

 

「……帝、僕は何度でも言う。キミの夢の終着は、誰かの夢の否定でも、何かを奪うものなんかじゃない」

 

ウルトラマンイカロスに転送されてきたアーマード・エグゼスが装着され、ギガレゾナンスバーストを構える

 

「これ以上間違うなら僕が止める。兵器としてのウルトラマンも、キミの道を逸れた願いも…‼︎」

 

「黙れ、黙れェェェ!!!ギャラルホルンレイ、発射ァァ!!」

 

帝が頭を掻きむしりながら慟哭

それに応えたツキカゲの主砲に黒と紫の膨大なエネルギーがスパークを始め、解放されるー

 

ービキキッ、パリンッ

 

「ーえ?」

 

呆けた声を漏らす翼

チャージされつつあったギガレゾナンスバーストのエネルギーが霧散する

 

イカロスを通して見据える先ーウルトレイダー・ツキカゲは

 

その主砲を中心にガラスが割れるように開いた赤い空間を見せていた

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ーなに、あれ…」

 

イカロスの戦いをモニターしていたコンが思わず呟く

 

それに気づいたアルドの基地にいた協力者たちもモニターに注目する

 

「え、え?胸が割れてる…?」

 

困惑する樹

が、アルドやニゴ、それにミライはその赤い空隙がなんなのかよく知っていた

 

『バカな……何故、アレが地球人の作り出したものの中から!?』

 

驚愕の声を上げるニゴ

ミライは一人唇を噛み締め、それを生んだ巨悪の名を告げる

 

「……ヤプール…‼︎」

 

 

「ギャラルホルン、なるほど。これからはじまる終焉に相応しい名ではないか、八坂 英輔」

 

突然の想定外の事態に凍り付くA.I.G.I.S.指令室

同じく驚愕していた英輔の背後に鍔広帽を被る黒衣の男が現れる

 

「や、ヤプール…⁉︎ 何故、何故だ!?お前は僕が、僕のオーバーメテオールが封印してー」

 

「あのオモチャがどうかしたかね?」

 

くっくっ、と不気味に笑うヤプールは英輔の胸に手を当てる

 

「なかなか楽しめたよ。八坂 英輔。その礼としてお前は、我々が生み出した異次元超人の一部にしてやろう」

 

ビキビキビキ、と八坂の胸から亀裂が広がる

 

「あ、あ、あ、あ!?!?」

「さらばだ。愚かな地球人はいくらでも見てきたが……」

 

ヤプールが英輔の耳元で囁くように告げる

 

「ーお前より愚かな地球人はいなかったよ。八坂 英輔」

 

「ヤプールゥゥゥゥゥゥゥゥゥアァアァァァァァァ!!!!!」

 

怨嗟の叫びを上げる英輔

だが、もう遅い

 

ーパリ、パリンッ

 

八坂 英輔という男がいた場所は割れたガラスのように砕け、赤い空間に吸い込まれていく

 

何ごともなかったかのように空間が閉じ、誰もいなくなった空間にコツン、と英輔が装着していたインカムだけが転がった

 

ーう、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

司令官の突然の消失に指令室が半狂乱になる

 

「はっはっは、精々喚くといい。これから我々が組み上げた最高の絶望を特等席で見ることになるのだから」

 

ヤプールの後方に赤い異次元空間が開く

黒いマントを翻し、黒衣の男の姿が異次元人の、巨大ヤプールの姿へと変化する

 

『時は来た!!我が娘よ。今こそ、最高にして究極の死神でイカロスの首を刎ね、この世界を滅びに導く時だ!!!』

 

巨大ヤプールは愉快そうに笑いながら異次元空間へとその姿を消した

 

 

「ーごきげんよう」

 

帝のすぐ隣からかけられた声に帝は振り向く

そこに立っていたのは金色の蝶々柄の黒い着物と青い帯を丁寧に着た女性が日傘をさして立っていた

 

長い黒髪を流した女性はパックリと口を三日月に裂き、不気味に微笑みながら帝に虚な目を向けた

 

「誰だ、お前はー」

 

驚愕する帝を見てああ、と納得したように手を叩き、女性はたおやかに微笑みながら一礼する

 

「はじめまして、海祢 帝様」

 

虚な目を見開き、右手を胸に添えて告げる

 

「ー(わたくし)は、八坂(やさか) 蛭子(ひるこ)。ヤプールお父様の、娘です」

 

驚愕した帝の目前に黒手袋に包まれた右手が向けられる

着物の袖から露わになった右手首の歪な形状のブレスが怪しく輝く

 

帝の体を見えない衝撃波が吹き飛ばし、屋上のドアへ叩きつける

 

「ーがっ!?」

 

吹き飛ばされた帝の耳から転がったインカムが足元に転がってきたのを見下ろし、下駄の裏で踏み潰しにじる

 

「感謝しているのですよ。海祢様にも、英輔父様にも」

 

うっとりとした様子で蛭子はツキカゲを見据え、手を広げる

 

「私が、私と愛するお父様が、この腐った世界を終わらせる。その悲願を叶えるためのこんな素敵なお人形を作り出してくれて!!!」

 

蛭子のブレスが再び怪しく輝き、その姿が消える

 

 

イカロスのモニターに映るツキカゲ

そのぱっくり開いた赤い亀裂の前に小さな人影が現れたのを目撃

 

その姿に、翼は驚愕する

 

「ごきげんよう、日向 翼様。大学以来ですね」

 

聞こえるはずがない蛭子の声が翼の耳に届く

 

「蛭子さん……なんで……」

「やっと、やっと貴方にお見せできますね」

 

ふふっ、と三日月に口を歪めた蛭子はモニター越しのはずの翼と目を合わせる

 

「これが、私の夢です。私と、ヤプールお父様が長年待ち望んだ、素敵な素敵な夢なのです!!」

 

ぱっくりと開いた異次元空間の中に蛭子が吸い込まれていく

 

割れた空間が逆再生のように閉じていく

 

 

ウルトレイダー・ツキカゲの内部

有人で操縦することを想定してないはずの機械神の内部のはずが、まるでコクピットのように開いたコードがいくつも張り巡らされた場所に降り立つ蛭子

 

その両腕、両脚、体にあらゆる場所から伸びてきたコードが絡みつき、その細い体を持ち上げる

 

「フフフフフフ、ハ、ハハハハハハハハ!!!さぁ、さぁさぁさぁさぁ!!!!はじめましょう、翼様ぁぁぁ!!」

 

「貴方の夢とォォォォ!!私とお父様の夢ェェェェェェ!!!どちらが、どちらが素敵で素晴らしいのかぁぁ!!!」

 

コードに塗れた手を恍惚と差し出し、狂ったように蛭子が笑う

 

それと同時にウルトレイダー・ツキカゲにも変化が起きてゆく

 

ひび割れていたフェイスが砕け散り、骸骨のような素体がむき出しになる

胸部装甲も弾け飛び、胸のリアクターがオレンジから紫の輝きを放つように変化。更に肩や背中、上腕から紫に輝く液体が満ちたシリンダーが突き出す

 

『フハハハハハハハハ!!!ウルトラマンイカロス、日向 翼よ!!』

 

変貌していくウルトレイダー・ツキカゲの背後に陽炎のように揺らめく巨大ヤプールの幻影が高笑いしながら現れる

 

『貴様の悉く全てを踏み躙り滅ぼす究極の異次元超人が今ここに完成した!!貴様と同じく夢に縋る男が到達した究極のAI、神を欲した愚かな男が到達した地球人の技術の究極!!』

 

『そして貴様と同じ、信ずる未来を純粋に夢見て望む人間を乗せたこの異次元超人こそが、貴様の死神だ!!』

 

ウルトレイダー・ツキカゲだったものが展開された鉤爪をジャリリ、と鳴らしそれは産声を上げた

 

『行け、蛭子‼︎そして、異次元超人イカロスキラーよ‼︎』

 

『思い上がった愚かな人間の、紛い物の翼を砕く時だ!!』




『私とお父様が腐った世界を終わらせるのです…‼︎』

『俺の夢が……これを生んだのか……』

『蛭子さん……本当に、本当にキミの夢なのか⁉︎』

『絶望しろ日向 翼!貴様の夢は、貴様が守ってきた人間によって潰えるのだ!!』

次回ウルトラマンイカロス
『黒き絶望と少女の夢』

『信じるんだ、キミが信じたいモノを!!』
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