ウルトラマンイカロス   作:リョウギ

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番外短編「ある男の道程」

あの男と出会ったのは大学時代だった

 

「難しい顔してんな、あんた。もっと肩の力抜いてやろうぜ」

 

単位のためにとった実技授業で馴れ馴れしく声をかけてきたその男を、私は最初とても鬱陶しく思っていた

 

何を勘違いしたのか、その男はそれからよく私に絡んできた

課題の手伝いを頼んできたり、学食で勝手に相席をしてきたり

 

「何故あんたは、俺に関わる?」

 

当たり前のように図書館での自習中に同じ席に腰掛けてきた彼に私は問うた。絆されたわけではない、筈だ。単純に疑問だったのだ

 

「ん?あんたの研究が面白いなって思ったから。ほら、僕は生物工学は専門外だからよくは分からないけど、あんたの研究はそんな僕でもわかりやすく解説されてるから、あ、これ書いたヤツは真っ直ぐでいいヤツなんだろうなぁって」

 

なんだそれは……

正直困惑しかなかった。なんと短絡的な理由か…

 

ただ、その評は嫌いではなかった

今思えば、むしろ嬉しかったのだろう。この上なく

 

自分の研究を好ましく思って、まっすぐ伝えてくれたことが

 

 

大学ではそれなりの交流を続け、私たちは時折共同研究をした

 

宇宙種族の技術を応用したメテオールの研究にヤツは没頭し

怪獣の体組織の応用に私は没頭した

 

時に議論し、時に正面からぶつかり

時に飲みに付き合うこともあった

 

私たちの研究はGUYSにも評価され、ヤツは自らの会社も立ち上げた

ヤツの研究は、悔しいが私のものよりも多くの人に認められ、技術の発展にも貢献していた

 

ヤツのメテオール技術を用いたものは、宇宙探索にも活かせるようになる筈だと私も疑わなかった

 

だがー

 

「研究を辞める、だと…⁉︎」

 

ヤツは唐突に、自分の研究を放置したのだ

 

「ああ、やらなきゃいけないことができたんだ」

 

あっけらかんと、すまなそうに笑ってヤツは言った

 

「……あのウルトラマンの関係か?」

 

ヤツは無言で頷いた

 

ヤツはある日からウルトラマンの友ができたことを楽しげに語って聞かせてきた

いつかお前にも紹介する、なんて言っていたと思えば、思い詰め決意した顔で戻ってきて研究を捨てると、この男は私に告げたのだ

 

「……すまない石動(いするぎ)。後のことは頼む」

 

後のことだと?

人類の大きな一歩を投げ出して、私に託すのか

 

「……好きにするがいい。(すばる)……貴様が決めたことなのだから」

 

それが、私たちの交わした最後の言葉だった

 

 

『ウルトラマンという神話を覆す人類の盾を作り出す』

 

ヤツから託された人類の未来のために私はA.I.G.I.S.を編成した

 

掲げた理念は本心からのものだった。人間の制御する力による地球の防衛。それが叶えば、人類は地球外からの脅威への対抗策は盤石になる

 

だが、こんな理念も結局はただの私のワガママだったのだろう

 

私はきっと、憎たらしかったのだろう

昴からー無二の友から研究を奪ったウルトラマンという存在が

 

その友が、私よりも気にかけていた存在が

 

そしてなによりもー

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

月の見える縁側に、白衣の男は一人腰掛けていた

その背後から現れたもう一人の男が隣に腰掛ける

 

「久しぶりだな、石動」

 

日向(ひむかい) (すばる)はそう告げ、優しく微笑む

 

「……お前はいつも、私の予想を覆すな。昴」

 

石動(いするぎ) 大智(だいち)が無表情に告げる

 

「先に待っているかと思えば、後から来るとはどういうことだ?」

「いやぁ、すまんすまん。ちょっとケジメと、孫への挨拶をだな」

 

昴の言葉を聞いた石動は鼻で笑って返す

 

「また孫か。変わらんなお前は…」

「最高の孫だからな!翼はスゴいヤツだっただろう?な?」

 

聞き飽きた孫自慢に眉根を寄せる石動

だが、フッと石動は優しく微笑む

 

「……だが、確かに素晴らしい男だったよ。良い夢と決意を持った若者だった。その仲間も含めてな」

 

石動の優しい声音に目をぱちくりとさせる昴だが、すぐに優しく微笑みを返す

 

「すまなかった。昴」

 

石動が昴に頭を下げる

 

「どうしたんだよ急に…」

「私は、お前から託されたものを汚してしまった。私のワガママでお前の友を踏み躙ってしまった」

 

昴は変わらず、優しい笑みのままで応える

 

「汚してなんかないだろう」

「いや、私はー」

 

「ーお前は、ウルトラマンが戦わなくていい未来を作ろうとしてくれたじゃないか」

 

カカッと昴が笑う

呆気に取られていた石動だが、堪えきれずに笑いを零す

 

(そうだった。そうだったな、この馬鹿者は)

(私の唯一無二の親友は……)

 

(私ですら気づかない私の真意くらい、読んでみせるのだったな)

 

石動は友を奪ったウルトラマンが確かに憎かった

友が気にかけたウルトラマンが羨ましかった

 

それと同時に、友と同じように、ウルトラマンと友になる人間が二度と悲しむことがないように、ウルトラマンが命を賭けなければならない戦いをしなくて済むように、自らの研究と技術を捧げていたのだ

 

 

「昴、久々にどうだ?」

 

石動は一升瓶とグラスを取り出す

 

「おぉ…珍しいなお前から飲みに誘うなんて…」

「私も酒くらい飲むさ。お前以外とは飲まないがな」

 

石動が悪戯っぽく微笑む

 

酒を注いだグラスを、無二の友たちはコツンと乾杯させる

 

静かに煌めく月を見上げながら、二人は酒を傾け、いつまでも談笑をしていた

 

 

ついぞ微笑む姿を部下にも、誰にも見せなかった男は

朗らかに笑っていた

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