ウルトラマンイカロス   作:リョウギ

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第4話「心の中の怪獣」

日向重工 野外試験場

 

『輝さん、はじめて下さい』

 

拡声器を通した翼の声が試験場に響く

 

「はい!」

 

それを聞いた輝が手にした緑のカプセルをメモリーディスプレイに装填する

 

《メテオール・インストール》

 

「今日こそは頼むぞ‼︎」

 

輝がメモリーディスプレイを構える

 

『メテオール解禁!』

 

翼の隣で輝を見守っていた剛の解禁指令と共に、メモリーディスプレイの引き金が引かれる

 

《リアライズ》

 

ガイド音声と共に放たれた緑の粒子が渦巻き、徐々に形をなしていく

現れたのは首元のフリルが目立つ一本ツノの生えた怪獣のような怪獣

 

「怪獣が……出てきた⁉︎」

 

タブレットノートパソコンーNEXT GUYSタフブックを抱えたケリスの側で様子を見守っていた花が驚きの声を上げる

 

「あれこそが、我々NEXT GUYSがGUYSの時代から使ってきたメテオール技術の一つ、怪獣を擬似的に複製して頼れる仲間として呼び出すマケット怪獣さ」

 

どこか得意げな様子でケリスが花に語る

 

「今のNEXT GUYSで主に使われているのはこっちのウィンダムなんだけど、今試験中のアギラも一応実戦投入扱いはされてるんだよね。もう一体、ミクラスってのもいたんだけど……あっちは円満退職みたいな感じだね」

 

出現したマケット怪獣・アギラは眠そうな瞳で目の前に現れたホログラム怪獣・ケルビムを見つめる

 

「今日こそ頼むぞ、アギラ‼︎」

 

輝が声をかけて、ケルビムが雄叫びを上げる

ーが、肝心のアギラはその場にしゃがみ込み、動こうとしない

 

「………あれ?」

 

花が呆けた声を漏らす

 

「……これがあるから、ちょっと問題児なんだよねぇ…」

 

くあっ、とあくびを上げるアギラを見て輝が頭を抱える

 

「……何故あのマケット怪獣は動かないのでしょうか?」

 

翔真が訝しむ様子を見せながら翼に問う

 

「うーん……考えられる理由としては、再現の過程でアギラの性格が変化した状態でマケット怪獣として生まれた、でしょうかね……元々アギラは敗退こそ多かったとはいえ、そこまで怠け者という記録は無いのですが、マケット怪獣として新生したアギラは怠け者の性質が強くなってしまった……あくまで推察ですが……」

「推察……ですか……」

「マケット怪獣は未だに未知の部分が多いですからね……以前のテストではゼットンとテレスドンもシュミレートが行われたのですが、ゼットンは不慮の事故からバグを起こして、厳重に注意して行われたテレスドンも制御が難しかったというのがありますから、以降の計画は人類に敵対しなかった怪獣から、ということでアギラが再び候補に上がったのですが……」

 

翼が苦笑しながら頬を掻く

一方のアギラはなんととうとう居眠りを始めてしまい、放置されたケルビムも困惑している

そうこうしてる間にメテオールの制限時間である60秒が経過し、アギラが緑の粒子と化して霧散する

 

『………試験終了です』

 

翼の気まずそうな指示で、今回の試験もなんの成果も無しに終わりを告げるのだった

 

「やはりアギラの運用は難しいのかもしれませんね……」

 

タブレットで今までの試験結果を見直しながら隊員たちに告げる

 

「……まぁな…ここまで何十回の試験をしても結果はほとんど同じ…ウィンダムなら誰でも安定した制御ができる以上、アギラの運用はやはり見送りか……」

「待ってください!」

 

声を上げたのは輝だった

 

「もう少し、もう少しだけチャンスをくれませんか?アギラは、今はあんなでもきっと答えてくれる時があると思うんです!」

「……輝先輩、それはちょっと苦しい話だと思うよ。今いるウィンダムは誰の指示も問題なく従うし、ビームによる遠距離攻撃もできる。率直に言ってアギラが『勝ってる』ポイントが無さすぎるんだ」

「僕がなんとか言うこと聞くようにします!」

「それはいつになるんだい……いつかを待てるようなものではないよ。腐ってもメテオールなんだから」

「ミクラスだってコノミせ……コノミ隊員がほとんど制御していたじゃないですか‼︎ なら、アギラもー」

 

輝が反論する中、翔真が小さく手を挙げて口を開く

 

「輝先輩は、何故そこまでアギラに拘るのですか?アギラが、ウィンダムや他の武装にない強みがあると?」

「ーそれは…」

「……差し出がましいことなのは承知の上ですが、その理由がもし個人的な理由だと言うなら、控えた方がいい物だと思います。意地だとか、そういった理由でそれを扱おうとするのは危険だと思います」

「………」

 

翔真の正論に輝は反論できずに黙り込む

空気をほぐそうと剛が前に出ようとした瞬間

 

ールルルルァァァァァァァァァァァァ!!

 

おぞましい咆哮が辺りに響く

開けた場所にでた面々が見たのは、遠方の市街地で蠢く黒い巨体

首から腹が山吹色で、背中側や手足の黒い奇妙なシルエットの怪獣がどこからともなく現れ、市街地を侵攻していた

 

「怪獣…⁉︎ どこから現れたんだ⁉︎」

「ーケリスは市街地に先行しウィンダムで怪獣の侵攻を阻止‼︎ 他の隊員は私とガンフェニックスレガシーで出現‼︎」

『G.I.G!』

 

剛の指示に従い、隊員たちがそれぞれの持ち場に急いだ

 

ールルルルァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

唐突に現れた怪獣は怖気の立つような声を上げながら街を破壊していく

 

「不気味なヤツだなぁ……ウィンダム、今回も頼むよ〜」

 

怪獣に正対したケリスがウィンダムのカプセルをメモリーディスプレイにセット、引き金を引きウィンダムを呼び出す

召喚されたウィンダムはすぐさまビームの発射体勢に入り、額からビームを放つ

怪獣はその光線を肥大化した左腕で受け止める

ビームはその手のひらにごく、ごく、と音を立てて飲み込まれていく

 

「うえっ⁉︎なんだよあれ……ビームを飲み込んでるのか⁉︎」

 

ビームを飲み込む左腕からお返しとばかりにウィンダムに紫の光線が放たれ、その細身の体を吹き飛ばす

たまらず吹き飛ばされたウィンダムが近くの建造物に激突、派手な音を立てて崩れ落ちる

 

ールルァァァァァァァァァァァァ!!!

 

勝鬨のような咆哮を上げた怪獣は光線を放った左腕を次は別の建物に向けてそれを光線で爆破する

 

「ウィンダム!」

 

ーゴァァァァァァ!!

 

ロボット怪獣とは思えぬ雄々しい声を上げ、ウィンダムがケリスに応える

腕を振り回しながら、ウィンダムは怪獣へと突進ー

が、次の瞬間怪獣の姿が紫の光と共に揺らめくと跡形もなく消失する

 

「消えた⁉︎」

 

ーゴァァァ……ア?

 

突然のターゲットの消失に首を傾げたウィンダムが制限時間を終えて消える

 

「花ちゃん、怪獣の反応は⁉︎」

 

急行してきたレガシーローダーに乗る花にケリスが問う

 

「……ありません……完全に消滅しました……」

 

センサー類を確かめても忽然と姿を消してしまったことしかわからないことに呆然としながら花が答える

白昼夢である事実を否定する崩れた建物から上がる土煙だけが舞っていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「レジストコード《ハイパーゼットン・ギガント》の死体処理もまだまだというのに新しい怪獣……それでいて取り逃しとは、まずいことになっていますねぇ……」

 

真田補佐官がこめかみを押さえながらため息をつく

 

「件の怪獣について、何かわかったことはありますかね?」

「……それが、あれだけ暴れたりしてるクセにアイツ肉片一つ落ちてなくてですね……今のところこれといった情報は無いです」

 

ケリスがやれやれと肩を竦めながら答える

 

「わかったことと言えば、あの左手がどうやらビームの類を吸い込んで吐き出す性質があるらしいってことですねぇ。レジストコード:宇宙大怪獣ベムスターの腹部、吸引アトラクタースパウトと性質が近いというか」

「……ウィンダムの光線も跳ね返されちゃいましたからね…」

「下手するとガンフェニックスとかガンドラグーンの武装も飲み込まれる可能性があるとなると非常に厄介な相手ですねぇ…」

 

煮詰まる作戦会議から切り替えるように剛がぱんぱんと手を叩く

 

「相手は未知の怪獣だ。想定や憶測で動いてはむしろ後れを取る可能性もある。翼くんも独自に調査を進めてくれてるようだし、ここは警戒を維持しつつも一時休息としよう。それで構いませんね?補佐官」

「……ですね。それが現状一番妥当でしょう」

 

剛の言葉に真田補佐官も頷く

 

「よし、そうと決まれば警戒要員として私とケリス、翔真は残って現時点での状況整理、花と輝は今のうちに休んでおこう」

 

剛の指示を受けてそれぞれの隊員が持ち場に向かう

その中で輝はどこか難しい顔をしていた

 

日向重工 社長室フロア敷設ラボラトリー

 

「キミから見てもお手上げ、ということか…」

 

タブレットを片手に翼が頭を抱える

その向かいで同じくタブレットを携えて思案している様子を見せている白衣の男性も同じように難しい顔を見せている

 

「えぇ、ラボル星の情報網でも似たような怪獣の報告は聞いたことありませんね。何にせよ情報がまだまだ少なすぎてこれ以上は…」

 

この青年はラボル星人アルミル。日向重工の研究部門で働く社員の一人

で科学力の発展したラボル星から地球に来訪した同盟種族の一人でもある

こういった来訪異星人の溶け込みはこの世界では幾分か進んでいるが、異星人を企業の要職などに迎えているものは多くない

日向重工では翼の意向もあり、こういった異星人も積極的に採用されており、地球人の社員もそれに納得し受け入れている

 

「そうか……それだけわかっただけでもある種の収穫だ。ありがとう、アルミル」

「いえ、できればもう少し助けになれたらよかったのですが」

 

アルミルに頭を下げた翼に慌ててアルミルも頭を下げる

 

「……話は変わりますが翼社長、あのメテオールの最終調整はいつ行いますか?」

 

去ろうとする翼にアルミルが声をかける

翼の面持ちが少し険しくなる

 

「……そうだね。この案件が終息した後、にしておこう。完成も急いでおきたいが、それよりもまずは件の怪獣をなんとかしないとね」

「承知しました。研究部門・開発部門総員でお待ちしております」

「ハハッ、大袈裟だよ。でもありがとう」

 

そう言いながら部屋を後にした翼はタブレットを起動し、あるファイルを呼び出す

 

そこに映っていたのは、剣のような形をした何かの設計図と青いウルトラマンーレジストコード《ウルトラマンヒカリ》の画像だった

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ールァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

第2の襲撃はその日の夜に起こった

非番となっていた輝と花を除く3人がガンフェニックスレガシーとガンドラグーンで出撃し、急行した先では昼間の怪獣が夜の街を進撃していた

 

「怪獣への対策は未だ不明だが、ともかく進撃を食い止める!」

『『G.I.G‼︎』』

 

「『ガンフェニックス、スプリット‼︎』」

 

分離したウインガーとローダー、ガンドラグーンが怪獣の目前に陣取り、その足元へと威嚇射撃を始める

眼前を飛ぶハエに等しい三機に気づいた怪獣は昼間と同じく左手からの光線で三機へと攻撃を始める

 

「ーッち、隊長メテオールの解禁を‼︎」

『今はダメだ‼︎ 怪獣の特性が把握できてない以上市街地でのメテオール使用は危険すぎる!!』

「くっー」

 

歯がみしながら翔真がシートを殴りつける

そんな三機を他所に怪獣は何かを探すように街を突き進んでいき、足元に何かを見つけ、その醜悪な顔を歪ませた

 

『あれは……怪獣の足元に人が!』

「なんだと……⁉︎」

 

怪獣が見据える先にいたのは子供らしい小さな人影

 

「ーッ‼︎」

 

翔真は誰よりも早く行動に移した

ガンドラグーンを強制分離、リモートモードにしたバスターを置き去りにブレイバーが高速飛翔、それと共にマニューバモードへと変形する

 

『翔真⁉︎ 何をしている⁉︎』

 

マニューバモードへと変形したブレイバーは怪獣へと肉薄、砲塔をその頭部に向ける

 

「ブレイジングデトネイター!!!」

 

ブレイバーの主砲たる重粒子光線砲が怪獣に放たれる

怪獣は待っていましたとばかりに左手を掲げ、その攻撃を吸収してしまう

 

「なっー」

 

返す刀で怪獣の左手から光線が放たれ、ブレイバーの尾翼をかすめる

更に怪獣の左手は地上を逃げる子供へと向けられー

 

ーシェアァァッ!!

 

その直前に、光線が銀色の光に防がれた

光線を振り払い現れたのはウルトラマンイカロスの姿

 

「……ウルトラマン…‼︎」

 

クルーズモードに変形しながら不時着したブレイバーの中で、翔真がイカロスを睨む

イカロスは怪獣の左手へと掴みかかり、その掌を上に向けて光線を逸らせる

怪獣も負けじと左手を振り回し、イカロスの拘束を振り払うと共に右手の爪でその体を切りつける

よろけたイカロスは素早く体勢を立て直し、手のひらから放つ光弾で応戦、追撃の構えを取っていた怪獣を怯ませる

 

「ここだッ!!」

 

その隙を見逃さず、翼は必殺光線の構えを取ろうとする

 

「ーッ!?」

 

が、すんででその構えを中断する

怪獣はあの光線を吸収する左手をイカロスに突き出していたのだ。まるでイカロスの必殺光線すら吸収してやると言わんばかりに

脳裏に先程のブレイジングデトネイターが吸収、反射された場面がよぎる。仮に怪獣一体を簡単に倒せる必殺光線が反射されてしまったならー

 

ールァァァァァァァァァァァァ!!!

 

生まれた隙を逃さず、怪獣の左手から光線が放たれイカロスが吹き飛ばされる

間髪入れずに放たれた光線がイカロスの後方に向かってなぎ払われる

ーあの逃げ遅れた少年が逃げた方向に

 

「しまった‼︎」

 

体勢を立て直したイカロスが顔を向けた時には既に遅く、光線で崩れたビルの瓦礫が少年の上に降り注ぐのだけが辛うじてイカロスを通したモニターに映る

 

ールァァァァ……‼︎

 

まるで何もできなかったイカロスやNEXT GUYSを嘲笑うような鳴き声を上げた怪獣はその姿を揺らめかせ、再び姿を消した

 

「間に合ってくれ!」

 

怪獣の消失を確認した翼はイカロスの体を起こし、崩れた瓦礫をどかしていく

すぐに瓦礫の下から逃げ遅れた少年が見つかるが、頭から血を流しぐったりしている様がモニター越しに見え、翼の顔から血の気が引く

 

「バイタルは……乱れているがまだある……」

 

生きていた。楽観できる状況ではないが、その事実だけでも翼にとっては十分に救いだった

乱れていた呼吸を整え、ヘッドセットから回線を繋ぐ

 

「……コン、今から送る座標を海野隊長に。要救助者がいることを伝えてくれ……」

 

負傷した少年の上で俯くイカロス

その体に一つ、二つと滴が滴る

本降りとなった雨から少年を庇うように、イカロスは俯いたままだった

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「………何故独断でメテオールを使用した?」

 

剛の声が低く響く

司令室前の廊下に翔真を呼び出した剛は彼を真っ直ぐに見据えていた

いつもの温和そうな目とは打って変わって静かな怒りがその目には籠もっていた

 

「あのままでは市街地への被害が拡大すると判断し、使用しました」

 

翔真はさも当然の判断だったと言うように剛から目を逸らすことなく理由を告げる

 

「相手はまだ生態を完全に把握できていない未知の怪獣だ。メテオールの火力を利用される可能性もあり、事実あの怪獣はそれを行った。その手に握るそれは、使い方を誤れば簡単に救うはずの多くの命を奪うという自覚は無かったのか?」

「自覚はありました。ですがー」

「立花 翔真隊員」

 

剛の言葉が翔真の言葉を遮る

 

「……一週間の謹慎を命ずる。己の行動をよく鑑みて、反省しておくこと。再びの独断先行があった場合は除隊処分もやむなしと思え」

 

剛の厳格な声が響く

踵を返し、その場を去る剛の後ろで翔真はその手を握りしめていた

 

「あの子供なら無事よ。頭を打ってはいたけど、重傷にはならなかったみたい」

「そうか……良かった」

 

コンの言葉に翼が胸を撫で下ろす。地下指令室のベンチに腰掛ける翼の頭にコツンと缶コーヒーがぶつけられる

 

「大事ではなかった、とはいえ瓦礫がそのままだと発見が遅れたりしてたかもしれない。だからあの子は確かにあなたが救ったのよ」

 

隣に腰掛けながら手にした缶ジュースの蓋を開けながらコンが続ける

 

「だから、ウジウジと悩むな。今回はまだアレが限界だったのよ」

「………」

 

見透かしたようなコンの言葉に翼が頷く

 

「……だけど、これを限界だと諦めるわけにはいかない」

 

立ち上がり、地下指令室のメインディスプレイに映る整備中のイカロスを見据える

 

「これから現れうる怪獣や異星人の脅威はまだまだ強くなる。ここでつまづく訳にはいかないんだ」

 

取り出したタブレットからドキュメントを取り出す

イカロスとは異なるドックに格納されているらしい巨大な剣のような機構が映される

 

「完成を急がないといけない。イカロス・ナイトブレードの完成を」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

怪獣の襲撃により半壊した街にて、非番明けの輝と花、ケリスは調査を続けていた

 

「特に細胞片らしいものは無し……弱ったな……」

 

瓦礫をかき分け進みながらケリスがぼやく

NEXTタフブックを操作しながら探索している花の方も収穫は無いようだ

メモリーディスプレイを片手に同じく捜索を続けていた輝はふと、遠景に見える丘を眺めた

 

(?誰かいる………)

 

その丘の展望台、その手すりの側から壊れた街を見下ろしているような小さな人影が見えた

輝の足は自然とそちらに向いていた

 

(男の子?)

 

展望台にたどり着いた輝が見つけたのは小学生くらいの男の子だ

どこか無機質な目線で街を見下ろしている

 

「キミ!ここで何してるの?」

 

輝が声をかけると男の子は振り返り、輝の方を見上げる

しばらく輝の顔を眺めた男の子はもう一度街に向き直り呟く

 

「この街……怪獣が壊したの…?」

「………そうだよ。昨日の夜現れた怪獣が、壊したんだ」

 

唇を噛みしめながら輝が答える

 

「お兄さんたちでも、止められなかったの?」

 

痛い問いに輝が口籠る

 

「ーああ。でも次は必ず止める」

 

そう答えた輝のことを振り返りもせず、男の子は俯く

 

「……それでも、また怪獣は出てくるんでしょ」

 

男の子が振り返り、俯いたまま歩き出す

 

「やっぱり怖いよ……外は怖い……」

 

去っていく男の子の背中を輝はただ見守ることしかできなかった

 

「手がかり無し、か……」

 

NEXT GUYS指令室で剛が言葉を絞り出す

襲撃のあった現場には怪獣の痕跡らしい痕跡は何も存在していなかった

 

「レジストコード《ソームニア》は余程組織が脆いのか……それとも存在が不安定なのか……」

「ソームニア?」

 

ケリスの呟きに輝が首を傾げる

 

「Insomnia、不眠症って意味の単語から名付けたのさ。毎回毎回夜に出現してくるし、しかもその対策も考えようがないから眠れない日々を過ごしてるって…半分あてつけさ……ふぁ〜……」

 

大きなあくびがケリスの口から漏れる

 

「……ソームニアは、どうして急に消えるのでしょう?」

 

手に入った少ないデータを見ながら花が呟く

 

「ん〜そりゃ、アレじゃないかな?さっきも挙げたけど存在が不安定だから、とか。例えば……」

 

ケリスが端末を操作し、画面にデータを送信する

映し出されたのはある怪獣のドキュメント記録。その怪獣の名は

 

「レジストコード《硫酸怪獣ホー》。ウルトラマン80とUGMが初めて相対したマイナスエネルギーから出来た怪獣。この怪獣、70年前の怪獣頻出期にも出現していてね。この時の戦闘記録だとガンウインガーのウイングレッドブラスターとかが当たらなかったって記録がある」

 

ケリスの言葉と共に記録映像が新たに写し出される。そこにはたしかにホーの体を光線がすり抜けているのが写されていた

 

「つまり……あの怪獣、ソームニアもマイナスエネルギー由来の怪獣ということか?」

「あくまで可能性ではありますがね。マイナスエネルギーからできた怪獣が皆が皆実体が薄いわけではないですし。ソームニアは光線自体は吸収してますからね…」

「マイナスエネルギー……」

 

そのキーワードを聞いた輝の脳裏にはなぜか、あの悲しそうな男の子の言葉が浮かんでいた

 

『外は怖い……』

 

ビーッ!ビーッ!

 

その瞬間、けたたましいサイレンが指令室に響き渡った

 

「ポイントL3に巨大な生体反応!映像、出します!」

 

映し出された映像に現れたのは件の怪獣、ソームニアだった

 

「ちょっとちょっと……あんな名前付けていきなり真昼間に現れるとか聞いてないよ…‼︎」

「ーケリス、マイナスエネルギーの反応は確認できる?」

「マイナスエネルギー反応?一応確認できるけど…って反応アリ⁉︎」

 

輝の指示でマイナスエネルギー反応を調べたケリスの端末には確かに反応を示しているポイントが点いていた

 

「怪獣からの距離約3000の地点に微弱ながらマイナスエネルギーの発生を確認、ソームニアも同波形のエネルギーを保持してます。これって……」

「隊長、怪獣から離れた地点のエネルギーの調査は僕に行かせてください!」

 

名乗り出た輝の目を剛が見据える

 

「……心当たりがある、そういう顔だな」

「確証は、ありませんが……」

 

俯いた輝に、剛はただ微笑みを向ける

 

「ケリスはガンフェニックスレガシー、私と花はガンドラグーンで出撃!輝は発生源と思われる場所の調査を頼む!」

「「G.I.G!!」」

「…‼︎ G.I.G!!」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ソームニアとガンフェニックスレガシー、ガンドラグーンが戦闘を繰り広げる様を背後に、輝はケリスがモニターした反応を頼りにある民家に辿り着いていた

マイナスエネルギーに酷似した反応はその民家から検出されていた

 

「…あの子、やっぱり…」

 

その民家の窓から顔を出していたのは、先程の現場で遭遇した男の子だった

 

「君!!」

 

輝の呼びかけに男の子が振り向く。その顔はあの時よりも遥かに暗いものになっていた

 

「……怖いんだ。ボク」

 

絞り出すような声で男の子が口を開く

 

「お母さんは、仕事で忙しくて……学校だと、怖い子にいじめられて……外も怪獣が暴れるから……」

 

「だから、願ったの。あの子に…楽にしてくれるから、って」

 

男の子の言葉に輝が眉をひそめる

 

「あの子……?」

「でも怖いのはなくならなかった。だからー」

 

暴れていたソームニアが突如、こちらに顔を向けた

 

「ーボクも消してって」

 

ールァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

男の子の吐露に共鳴するかのようにソームニアが咆哮、男の子がいる民家に向けて進行を始める

輝は咄嗟にトライガーショットNEXTでソームニアに応戦するが、銃撃に怯むことなくソームニアは民家に迫り来る

ガンフェニックスレガシー、ガンドラグーンの援護射撃も意に介することなく怪獣はその巨体を歩ませる

左腕をこちらに向け、あの光線が放たれる

 

ーシェアァッ!!

 

間一髪、現れたウルトラマンイカロスがその左腕を弾き上げ、怪獣を蹴り飛ばし後退させる

牽制でイカロスが光刃を放つが、素早く立ち上がったソームニアは左腕の器官でそれを吸収、同じく光刃として撃ち返しイカロスを怯ませる

 

(このままじゃ……)

 

ソームニアをなんとか押さえ込むイカロスの背を見ながら、輝が唇を噛み締める

そしてその手に、アギラのマケットカプセルを取り出した

 

「………」

 

カプセルと、男の子、交互に見つめた輝は意を決したようにインカムを起動して剛に通信を繋ぐ

 

「隊長、メテオールの使用許可をください」

『ーできるのか?』

 

まるで輝の心持ちはお見通しとばかりに、剛は問う

 

「……確証はありません。でも、今こそこいつの力が必要なんです!」

『………』

 

剛の沈黙、輝は祈るように目を瞑る

 

『ーリカバリーはこちらに任せろ。お前の思うように、アギラと向き合ってみろ』

 

剛はそう笑うと、語気を改めて号令する

 

『メテオール解禁!!』

 

剛の号令に頷き、輝がメモリーディスプレイにアギラのカプセルを装填する

輝が男の子の方に向き直る

 

「ー僕も、多分怖かったんだと思う」

「え……?」

「そんな自覚は無いけど、でも思い返すと、すごく怖いと思ってたように思えるんだ」

 

輝がメモリーディスプレイをイカロスとソームニアが戦う方に向ける

 

《リアライズ》

 

緑の粒子からマケット怪獣アギラが姿を現す

うずくまろうとする巨体に、輝が声を張り上げる

 

「アギラ!!力を貸してくれ!!」

 

その声に、アギラが振り向く

 

「僕は……僕はコノミ先生みたいになりたくて、だからこの隊に入った。でも僕は、間違えてた。僕は……コノミ先生になろうとしてたんだ」

 

「でもそれは無理だった。コノミ先生はコノミ先生で僕じゃない。それはキミも同じだったんだ、アギラ」

 

「キミも、アギラであってあのミクラスじゃない。ミクラスでもできたからなんて、辛い言い方だったよな」

 

輝の語りかけをアギラは静かに聞いていた

 

「だから、改めて……アギラ。他の誰でも無いキミの力を貸して欲しい。僕は半人前で、コノミ先生みたいに強くない。けど、守りたいものがある!!」

 

「頼む、アギラ!!一緒に、守らせてくれ!!」

 

それは輝の心からの叫びだった

そんな中、イカロスを押し除けたソームニアがこちらに左腕を向け、あの光線を放つ

輝は思わず、顔を覆ってうずくまる

光線が直撃する衝撃が輝を襲うー

 

ーゴァァァァ!!!

 

ことは無かった

ソームニアの光線は吠え猛ったアギラのフリルが弾いていたのだ

 

「アギラ……!!」

 

自分の前に立ち上がってソームニアを睨むアギラに輝が声援を送る

 

「ー頼む!アギラ!!」

 

ーゴァァァァ!!

 

輝の声に応え、アギラが突進する

ソームニアは進行してくるアギラを止めようと光線を放つが、光線に直撃しようと怯まず、その巨体がソームニアにぶつかり押し倒す

アギラを弾きながら立ち上がるソームニアに更にヘッドバットを叩き込み、大きく押し込む

その隙を逃さず、イカロスが光線を手から放つ

負けじとソームニアも光線を吸収しようと左腕を突き出す

 

「アギラ、カチ上げろ!!」

 

輝の指示に従い、アギラが頭突きをソームニアの腕にかまし、イカロスの光線軌道から吸収器官をズラす

吸収する術を妨げられ、イカロスの光線はそのまま左腕を直撃し吸収器官のある掌を吹き飛ばした

 

ーァァァァ、ルァァァァァ……

 

よろめくソームニアからアギラが離れ、イカロスの方を見て頷く

それに頷きを返したイカロスは胸の前で拳を合わせ、エネルギーを収束させ、必殺の光線を交差した腕から放つ

吸収する術を失ったソームニアは光線をモロに受け、体をスパークさせ倒れ伏し、夜闇のようなエネルギーを吐き出しながら爆散した

 

イカロスが飛翔していくのを眺めていたアギラは輝の方を振り返ると

 

ーくぁぁ…

 

と気怠そうながら、笑ってるような声を上げて緑の粒子に戻った

一仕事終えた仲間のカプセルを握り、輝もまた清々しい様子で笑った

 

「ありがとう、アギラ」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

NEXT GUYS提携病院

件の事件で一応の関係者だったあの男の子ー水瀬 薫はここに入院していた

 

「検査は一通り問題なく終わったから、もうすぐ退院できるよ」

 

ベッド脇の棚に花を飾りながら輝がベッドで半身を起こした薫に笑顔を向ける

 

「………」

 

少し顔色が良くなった薫はどこか気恥ずかしそうに俯いていた

その手を取り、輝は薫に目線を合わせる

 

「確かに、怖いものはいっぱいあるかもしれない。NEXT GUYSの僕にだって、あったんだから」

 

「でも、大丈夫。キミは一人じゃない。お母さんも、僕たちもいる。怖くなったら、いつでも誰かを頼っていいんだよ」

 

微笑みかける輝の顔をしっかり見た薫は今度こそしっかり笑って頷いた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

暗黒の広がる宇宙空間に、それは浮遊していた

六角形のプレートが組み合わさったかのような球体に鋭いトゲが5本、それに腰と手足が生えている

 

『いやはや、まさか第二の生なんてものを授かれるとは思いもしませんでしたねぇ…』

 

5本目のトゲーのように見えたそれは頭部らしく、嘲笑うかのような目が紫に光っている

その頭部らしい部位の下、胸の辺りから頭部にかけて歪な紫色の結晶が生えていた

ーまるで大きく開いた風穴を補強するかのように

 

『ようやく感覚が戻ってきましたよ。これなら以前…この場合は生前でしょうかねぇ?ともかくいつも通りに行動ができそうです』

 

手を握ったり開いたりしながら体の動きを確かめたそれはくっくっ、と嫌らしく嗤う

その視線の先には、青く輝く美しい星が煌めいていた

 

『私はこう見えても執念深い性格でしてね……』

 

腕に備えたシールドから剣を伸ばし、青い星ー地球にそれを向ける

 

『預けておいた首、そして貴方がたに負わされた雪辱、まとめて清算させて貰いますよ。ウルトラマンと地球人』




突如宇宙空間に開いたのはかつてGUYSも調査した怪獣墓場へと繋がるウルトラゾーンへの亀裂だった
そこより現れた亡霊・リフレクト星人に為す術が無いNEXT GUYSとウルトラマンイカロス
そこにもう一人の宇宙人が現れる

次回
『幽谷の双閃』
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