ウルトラマンイカロス   作:リョウギ

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第7話「神話の失墜」

ジョスン島 現地時間深夜2時

原生林が生い茂るジャングルも夜行性の生物の鳴き声や生活音が静かに響くだけで静寂が広がっている

 

「ボガールテンプテーター、スタンバイ完了しました」

「散布開始せよ。散布量には気を配れ」

 

そんな真夜中のジャングルに物々しい部隊が何やら作業を行なっていた

司令官らしい男の指示と共に作業班が手にした装置のつまみを慎重に操作していく

それに呼応するかのようにジャングル全体が大きく振動、地響きを上げて地中から巨大な影が姿を表す

 

ーギャァァァァオォォゥゥゥ!!!

 

特徴的な三日月型の角を持つ恐竜のような巨獣が月に向けて咆哮を上げた

 

「レジストコード《古代怪獣 ゴモラ》、誘引に成功しました」

「レーダージャマーの展開も完了しています」

「作戦を開始する。侵蝕弾、ファイア!」

 

轟音、そして爆炎

ジャングルに隠されるように配備されていた砲塔からミサイルがゴモラに向けて放たれる

 

ーギャァァァァオォォゥゥゥ……‼︎

 

悲痛な悲鳴のような叫びが爆炎の中から上がる

よろめくゴモラ。その巨体に付けられた傷口は生々しく、再生する様もなく血を噴出させ続けている

 

「神経断裂弾、発射!」

 

よろめき下がったゴモラの首筋に先程のミサイルよりは静かな一発が撃ち込まれる

 

しばしふらふらと頭を揺らしていたゴモラだが、突如口から泡を吹き出し白目を剥きながら倒れ込み、ぴくりとも動かなくなった

 

「対象の生命活動の停止を確認。死体の回収を開始する」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「本日付けで復帰いたします。ご迷惑をおかけしました」

 

NEXT GUYSの作戦指令室入り口から入ってすぐに翔真が深々と頭を下げる

剛から言い渡されていた謹慎が解け、隊に復帰したのだ

 

「やったことは大事だから気にするなとは言わない。だが、反省したならあまり気負う事はしないように。おかえり、翔真隊員」

 

デスクから立ち上がり迎えた剛がその肩を叩く

翔真は軽く頭を下げ、自分のデスクへと座る

 

「……」

「……何か?」

「いや、あの…おかえりなさい」

 

心配そうにその様子を見ていた隣のデスクの花がそれだけ告げる

 

『僕からも、翔真隊員おかえりなさい』

 

モニターから通信越しに翼も翔真に声をかける

 

「なんだか翼くんも随分ご無沙汰だったね……例の実験が難航していたのかい?」

『実は制御系統の調整に失敗しまして……昨日まで片付けに追われて大変でしたよ』

「それは大変だったね…大事にはならなくて安心ではあるが…」

 

翼が恥ずかしそうに頬を掻きながら答える

 

「翔真も翼くんも戻ってきたことだし、先日の一件からの諸々の報告会をはじめようか」

 

 

「あれからガーゴイルは特に異常は検知していないようですね。もっともリフレクト星人の一件を見るに人類側の検知精度が足りるかどうか五分五分でしょうが……」

 

監視衛生ガーゴイルが映すリアルタイム映像でウルトラゾーンらしき空間異常が映し出されている

穴は大きくも小さくもならず、変わらずその口を開けたままである

 

『先日のリフレクト星人がいくつかの特徴からメビウスと交戦した個体そのものと考えると、怪獣墓場へとも繋がるこのウルトラゾーンの関与が一番考えられますね…』

「可能性は高いですが、そういった事例は以前の調査では確認されていませんでしたねぇ…レジストコード《レッサーボガール》はあくまであの中に存在する小惑星に潜む生命体で、死んでいたものが復活したものではなかったようですし」

 

こういったことを専門に対策を考える中心になりうる頭脳担当2人も思わず頭を抱える

ウルトラゾーンについてわかっていることは限りなくゼロに等しい。推測や考察だけでは対策までは至らないのも無理はないだろう

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

煮詰まる議論を遮るかのようにサイレンが鳴り響く

 

「ポイントD4に巨大な生体反応。映像切り替えます!」

 

メインモニターが現地の中継映像へと移り変わる

山地の合間、カメラにすら伝わる大きな振動とともに地底からそれは現れた

蛇腹状の体表を持ち、逞しい腕と脚をバタバタと振り回す巨体

頭はその巨体に似合わずかなり小さかった

 

「レッドキング!?」

 

現れた怪獣に見覚えのある輝が声を上げる

ドキュメントにも数件記録のあるほどに出現頻度の高い怪獣で、高い凶暴性と強靭な生命力で歴代の防衛チームやウルトラマンを何度も苦戦させてきた怪獣だ

 

「NEXT GUYS、サリー・ゴー!!」

『G.I.G!!』

 

剛の号令に従い、隊員たちが出動準備に入る

 

 

会議を切り上げる羽目になった翼も念のためイカロスの準備をする為に地下へと移動しようと席を立つ

そんな中、備え付けの電話が鳴り響く

 

「もしもし?何かあったかい?」

『翼社長、お急ぎのところ失礼します。社長に来客の方がいらしております』

「来客…?名前は?」

『石動 大智。A.I.G.I.S.の長官の方だそうですが…』

 

知らされた意外な名前に翼は目を丸くした

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ポイントD4

ガンフェニックスレガシーとガンドラグーンで急行した一同はレッドキングと対峙していた

とうのレッドキングは特にめちゃくちゃに暴れるわけでもないといった雰囲気ではあったが、徐に踏み出した一歩が足元の廃寺の鳥居を蹴り飛ばした

 

「うーわ…なんて罰当たりな……」

「この山中で何としても対処する。メテオールは温存し、散開して攻撃開始!!」

 

剛の指示に従い、2機が分離しレッドキングにせまる

突然現れた戦闘機たちにぱちくりと小さい目を瞬かせるレッドキングだが、すぐにドラミングしながら敵意を見せた

 

ーキシャァァァァオオゥゥゥゥ!!

 

ひと鳴き雄叫びを上げると近場の山に乱暴に拳を叩きつけ、岩をレガシーウインガーに向けて吹き飛ばす

 

「おわっ!?」

 

間一髪で降り注ぐ岩を回避し、すぐに態勢を整える

 

「あっぶな…お返しだ!ウイングレッドブラスター!」

 

放たれた赤い光線がレッドキングの長い首に命中するが、ぽりぽりと首を搔かせた程度で特に動じない

 

「輝先輩、ヤツみたいなのは足元の方が有効ですよッと!」

 

ケリスの操縦するレガシーローダーから放たれたバリアブルパルサーがレッドキングの爪先に命中

 

ーキシャァァァァァァァァ!?!?!?

 

明らかに痛そうな声をあげてレッドキングが後退

ぴょんぴょんと飛び跳ねながら痛がる姿はどこかコミカルにも見える

 

「足元への攻撃の有効性を確認!総員足元へ攻撃し、対象を山地に押し込むぞ!」

『G.I.G!』

 

 

日向重工 応接室

ソファに腰掛けることなく佇む男は顔色ひとつ変えずに窓から外の森林を眺めていた

 

「お待たせしました。石動さん、お久しぶりですね」

 

そこに翼が入室し、軽く会釈する

振り返りそれを見た男ー石動 大智はやはり表情を変えないままに口を開いた

 

「ああ、日向のヤツの葬式以来だな。随分と大きく、立派になった」

 

翼は石動にソファを促し、彼の着席を確認して自分も対面に座る

 

「おかげさまで。祖父が遺した会社をなんとか守って行けている程度ですがね」

「それでも立派だ。あの男が一代にして築いてきたこの会社は、守るだけでも相当な実力がいるだろう。超常技術のメテオールを扱うならば尚更だ」

「そういう石動さんも、A.I.G.I.S.でのご活躍は耳にしますよ。マリア改5号の改修もあなたが中心に行ったとか」

「それこそ賞賛されるものでは無い。私のなすことは人類を、地球を守るためには当たり前のことだからな」

 

出されたお茶を啜り、石動が一息つく

そんな石動に笑顔を見せながらーだがどこか油断なく見つめながら翼が切り出す

 

「ー今日のご用件は、いったいなんでしょうか? 世間話をしにきた、というには随分と急な来訪のようですが」

 

翼の言葉に石動の目がぎらりと剣呑な輝きを一瞬見せる

 

「……怪獣頻出期の再来、それに合わせて再来したウルトラマン。この数ヶ月に色々なことが起こったものだ」

 

石動の瞳が翼を捉える

 

「キミもそう思うだろう?日向の孫、いやーウルトラマンイカロス」

「ーッ!!」

 

石動の言葉に翼が息を呑む

 

「私と日向は親友とも言える関係であり、研究の協力などもよく行なっていた。知らない方が妙な話だろう?」

 

油断なく睨む翼の視線に怯むことなく、石動は続ける

 

「ジャスキープ、ゴルバゴス、ハイパーゼットンギガント、ソームニア、リフレクト星人……怪獣頻出期再来と共に現れたこれらの怪獣、異星人、その全てでウルトラマンイカロスは勝利を記録した。実に見事。日向のヤツが生涯を捧げただけはある」

 

「……だが、これは果たして人類の勝利と言えるだろうか?」

 

石動が灰色の瞳を翼の視線に返した

 

 

ポイントD4

各機の攻撃によりレッドキングは山地へと後退、周囲への損害が最低限と思える地点への誘導がこれで完了した

 

「よし、各機レッドキングの胸部に集中放火!急所への一点放火で対象を鎮圧ー」

「隊長!新たな生体反応が急速接近!出現します!」

「何…!?」

 

ケリスの報告が早いか、レッドキング目前の地面が捲れ上がり、新たな巨体が姿を現した

 

ーギャァァァァォォォオオゥ!!!

 

「今度は……ゴモラだと!?」

 

現れたのは古代怪獣ゴモラだった

 

「……怪獣頻出期ここに極まれり…冗談でもタチが悪いな」

 

翔真が一人毒づく

が、新手のゴモラは様子がおかしかった

 

ーグルル……

 

ゴモラは急におとなしくなると、レッドキングへとゆっくり向かい合い、威嚇もせずにその巨体でタックルを放った

 

ーキシャァァァァォォォオオゥ!?

 

面喰らったレッドキングはたまらずゴモラと共に山地へと倒れ込む

 

「な、なんだ!?」

「仲間割れ……いや、縄張り争い?」

 

困惑する一同の前で吠え声すらあげずに、ゴモラはレッドキングへと馬乗りとなり何度もその体を殴打していく

心なしかその瞳には生気が宿っていないようにも見えた

 

 

「人類の進化、それはどのようにして起こってきたか…キミはどう思う?」

「人類の進化…?」

 

石動の言葉に翼が首を傾げる

 

「まず人類は魔術や占術と言ったオカルトを打破した。天に、神に祈るしかなかった病や天気をも凌駕する科学によって」

 

「次に人々は電気や風をその手に操る術を得た。神が振りかざすはずのものをその手中に収め、その発展に利用できたのだ」

 

石動が杖を支えに立ち上がり、窓の外からどこか遠くを眺める

 

「そして現代……人間は、新たに神話を失墜させる権利を会得したと、そうは思わないかね?」

 

 

執拗なまでにレッドキングを痛めつけていくゴモラ

それを見つめる花が口を押さえる

 

「……苦しそう…」

『……百瀬さん、気持ちは汲むが相手は怪獣だ。妙な同情はオススメできない。元々レッドキングは俺たちが攻撃していたんだ』

 

翔真が花の言葉に苦言を呈するが、花は小さく首を振る

 

「…レッドキングだけじゃないです。ゴモラも……」

 

ーキシャァァァァァァオオゥ…

 

弱々しい声を上げるレッドキングの首を立ち上がったゴモラが渾身の力を込めて踏みつける

ゴキリ、と鈍い音を立てその骨が粉砕されたらしい音があたりに響く

レッドキングの太い腕が一瞬空を掴み、地に落ちた

 

「……レッドキングの生命活動、停止を確認しました」

「……」

 

ケリスの言葉に剛が渋い表情を返す

沈痛な面持ちで残るゴモラを調べていたケリスが訝しむような表情を見せる

 

「……体内に金属反応?あのゴモラから…?」

 

ーギャァァオオオゥゥゥゥ!!!

 

突如、残されたゴモラが雄叫びを上げる

体を掻きむしり、頭を抱え、でたらめにもがいている

 

「どうした…⁉︎」

 

様子の急変したゴモラは突如、その動きを止める

その口から、血の混じった泡が吹き出し、巨体が地に伏せる

 

「ゴモラの生命活動も停止を確認⁉︎何が何やら…」

 

困惑するケリスの報告を聞き、剛も厳しい視線を向けるがひとつため息を零し

 

「対象沈黙を確認……死体回収をA.I.G.I.S.へと任せ撤退する」

 

帰投命令を静かに下した

 

 

「新たな神話を失墜…ですか?」

「その通り。宇宙への門戸を開き、新たな地への旅も可能になった今こそ、我々自身も次なる進化、発展を手にしなければならない」

 

石動が翼に背を向けたままに続ける

 

「人類にとって最も新しい神話、超えねばならぬ壁、それは何か」

 

冷酷な言葉が、告げられる

 

「ーウルトラマン、だとは思わないかね?」

「ーッ!?」

 

石動の言葉に翼が思わず立ち上がる

 

「度々現れる怪獣、宇宙からの侵略者、これだけのモノに晒されながら人類は未だに己の力でこれらへ完全な対策ができていない。メテオールですら、宇宙人の技術を流用した故のブラックボックスで制限が入る。宇宙へと扉を開いた我々は、あまりに貧弱なのだよ」

 

「ウルトラマンも仲間として共に戦う、といえば聞こえはいいが…それは逆にウルトラマンという不確定要素も数としなければ防衛すらまともにできない証左ではなかろうか?」

 

「それは、あまりにも暴論です…!」

 

「ウルトラマンが何故我々を助け続けてくれると認識できる?いつかウルトラマンがこちらに敵意を向けた場合、我々はむざむざと滅ぼされるべきであると?それこそ道理が通らないのではなかろうか」

 

「それは……‼︎」

 

「新たなステージの我々に必要とされるものはウルトラマンとの共生ではない。ウルトラマンをも凌駕する力の証明だ。それが無ければ、地球はいつまでも異星人に依存し、侵略者に怯えねばならない」

 

石動が翼に振り返り、目を合わせることなく応接室の扉へ向かう

 

「今日の来訪は、そのための計画始動を伝えるためだ。私は、日向とは違う人類の力でこの星を救う」

 

一方的にそう告げた石動は翼を残し部屋を後にした

翼はただ、拳を握りしめて俯いていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「死体が消滅した……?そんなバカな⁉︎」

 

フェニックスネスト内のラボフロアにてケリスが受け取った報告書とサンプル群を手に驚きを見せる

 

「報告書の通りです。我々がレッドキングの死体回収を行おうとした際には既にゴモラの遺体は崩れ始めており、数分後には回収不能なほどに肉体が消失していました」

 

死体回収を担当していたA.I.G.I.S.隊員が業務的に告げる

その顔をまだ訝しむように睨むケリスだが、起きたことが事実である以上これ以上彼らの仕事も否定することはできない

 

「……わかりました。死体のあった場所に妙な遺留物もなかったのですね?」

「はい。後に残ったのは崩壊した少量の組織片で、回収しようとしても崩壊して満足なサンプルになりませんでした」

 

そう告げたA.I.G.I.S.隊員に礼を告げ、部屋から出す

頭を掻きながら報告書をざっくり眺めていき、ひとつため息をつく

 

「ー盗み聞きなら、もっと上手くしないと私じゃなかったら殺されてるかもよ?花ちゃん」

 

ガタッと部屋の外で音がする

部屋から顔を出し覗くケリスの視線の先に、予想通り縮こまった花が見つかり、ケリスは悪戯っぽく笑った

 

「気になることがあるなら遠慮なく声かけてくれていいのに。私は冷たい先輩に見えるかい?」

「いえ!そんなことは…!ただ、なんだか緊張してしまって……それに、仕事とは関係のないことかもしれないことですし……」

「あーそんなの気にしない気にしない。剛隊長最近は結構厳しいとこ見せるの多いけど基本は緩い人だから。私もなんだかんだここでの研究って私的好奇心が中心だし」

 

カカっと笑いながらケリスがラボの作業台に腰掛ける

おずおずとラボに入った花も、邪魔にならないように隅のデスクに備え付けられた椅子に腰掛ける

 

「私的好奇心……?」

「そう、私母星だと環境調査みたいな仕事してだんだけど、あの頃から生物とか好きだったんだよね。だからここでも趣味の延長がてら怪獣とかの研究をしてるって感じかな」

 

感心したようにケリスを見つめる花に視線を移し、ケリスが問う

 

「花ちゃんはどうしてここを覗いてみようって思ったの?」

「……今日の出撃で対応したゴモラとレッドキング…なんだか苦しそうと思ったんです。翔真隊員は同情は良くないって言っていたのですけど、でも私は…どうしてもそのままにはしておけなくて。アーカイブ記録でしか怪獣を知らないままじゃ、何もわからないと思ってここに来たんです……」

「なるほどねぇ…座学からはとにかく逃げる輝先輩とかとは大違いに勤勉だねぇ花ちゃんは」

「そんなのじゃないです…ただ…私は、自分を変えたいだけですから…」

 

そう答えた花にケリスが一冊の本を差し出す

 

「怪獣記録……?」

「数十年前に出版された本でね。怪獣頻出期に出現した怪獣たちについて色々と面白い観点から記録がまとめられているんだよね」

「監修……クゼ・テッペイ……って、この名前って!?」

「そう。元GUYS隊員の大先輩が監修した記録だ。彼は大層怪獣について詳しかったらしいがそれに違わぬ面白いまとめ方がされてるよ」

 

ぽん、と花の肩に手を乗せる

 

「私は、学者的な淡白な見方しかできないけど、花ちゃんは花ちゃんらしい怪獣との向き合い方ができるかもね」

 

ケリスの言葉を受け、もう一度渡された本を見つめて、花はしっかりと頷いた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

社長室で一人、メテオール兵装とイカロスのデータを整理しながら翼は頭の中で石動の言葉を反芻していた

 

『我々人類にとって最も新しい神話、越えねばならぬ壁、それはウルトラマンだと思わないかね?』

 

思った以上にその言葉は翼の心を穿っていた

翼の心境としては否定したい。祖父から受け継いだその友情を否定したくないから

だが、それは自分だけのエゴなのではなかろうか

ウルトラマンではない防衛力、それが真に叶うなら、いやメテオールがある今真に叶いつつあるのならー

 

「……?これは…?」

 

データを並べていたパソコンの画面にポップアップが現れる

異常震反応

ただの震源とは違う特徴を持つ振動を各地の観測機が検知した際に現れるものだ

NEXT GUYSなどの計機には型が古く劣るが、イカロスとしての活動のため念のために設置しておいたものに反応があったのだ

その反応があった場所は…

 

「……ポイントD2……A.I.G.I.S.の研究施設がある場所?」

 

偶然とは思えない翼はデスクから立ち上がり、愛用のバイクの鍵を手に取った

 

 

バイクを走らせること数分、異常振動を感知したポイントD2に着いた翼はNEXTタフブックとメモリーディスプレイを起動し、周辺の操作を始める

 

「妨害電波とホログラフの反応……野外実験場をドーム状に覆っているのか…?」

 

探知したホログラフフィールドとの境界らしい場所に少し躊躇いながら身を投じる

 

ーキシャァァァァァァァァオオゥゥゥゥゥゥ!!

 

突然耳に響く咆哮

そこにいたのはー昼間に出現の報告があったレッドキングだった

 

「なっ、怪獣!?」

 

予想外の出現に面食らう翼だが、すぐさまフィールドから離脱、妨害電波域から離れたことを確認し、メモリーディスプレイを操作する

 

《Ikaros take off》

 

イカロスの遠隔起動操作を行い、妨害電波のフィールドらしき場所を見上げた

 

「なんでこんな場所にレッドキングが…」

 

 

A.I.G.I.S.研究施設 メインルーム

けたたましくサイレンが鳴り響く中、メインモニターには野外実験場でドラミングを行うレッドキングの姿が映し出されている

 

「クローンレッドキング、脳内麻薬濃度臨界!」

「バイオチップへの操作を受け付けていません!」

 

慌ただしく奔走する研究員たちの間から石動が姿を表し、画面を睨む

 

「アポトーシス命令は?」

「既に送信済み、起動は確認されていますがー」

「強靭な生命力が自己崩壊を妨害、余計に苦しんでいるということか」

 

石動が次なる指示を出そうとしたその時、モニターにフィールド外から侵入してきた巨人の姿が映る

 

「レジストコード《ウルトラマンイカロス》が出現しました!」

「………」

 

その事態にも動じず、石動は淡々と指令を下す

 

「神経断裂弾と侵蝕弾の用意を。第2隊は実験場に武装して待機。研究班は戦闘データの収集を。検体2番の生体挙動も余すことなくモニターしろ」

 

 

ーシェアッ!!

ーキシャァァァァオオゥゥゥゥゥゥ!!

 

実験場に侵入してきたイカロスを見たレッドキングが更に興奮した様子でドラミングを披露する

 

『ちょっとちょっと!?いきなりどこに出撃してんのよ!?』

 

慌てた様子でコンから通信が入る

それもそうだろう。怪獣出現の正式な報告も無く夜分に緊急出撃したとなれば秘書の彼女も気が気では無いだろうから

 

「起き抜けのところ悪い、コン。今から送る映像データを解析してくれないか。こちらで分析している暇は無さそうだから」

『ーったく、残業代はたんまりもらうわよ』

 

イカロスのメインカメラから得たレッドキングのデータを送信した翼は改めてレッドキングと相対ーが、いきなりの正拳突きが命中しイカロスの巨体がぐらつく

 

暴れ振り回される腕を掴みながらいなし、隙の生じた瞬間に拳を叩き込む。突然のヘッドバットは両腕をクロスして防ぎ、掌底によるアッパーでレッドキングの顎を殴打、後退させる

先日の共闘時に得たヒカリの戦闘映像を参考に、翼にも可能な体運びを取り入れた闘方は単純な攻撃の多いレッドキングにも有効なようだ

 

『…分析結果は出たわ。でもこれ……』

 

コンから困惑したような通信が入る

 

『まず、体格から体運びが今日の昼間に出現した個体のレッドキングと完全に一致してる。体格はともかく、別個体だとしたら体運びには差が出るはずなのに、そこまで完全に一致ということはクローン個体の可能性があるわ。加えて、体内…特に神経節付近に金属反応。微弱な電波も観測されてるからアレは…制御装置かしら…?』

「クローン個体……制御装置……」

 

コンの報告を聞いた翼の脳裏に、石動の言葉が過ぎる

 

『私は、日向とは違う力でこの星を救う』

 

「……これが、これが貴方の力だと言うのか!?」

 

ーグァァァオオオゥゥゥ……‼︎

 

どこか弱々しい咆哮、よたよたとおぼつかなくなってきた足運び

相対したレッドキングはみるみる弱った様子を見せてきている

その様を見、唇を噛み締めた翼はアポロニウムシュートを構える

 

「……すまない」

 

イカロスが十字に組んだ腕から必殺光線が放たれる

レッドキングはよろめくだけで避けることができず、その直撃を受ける

巨体を膨大なエネルギーのスパークが駆け巡り、そのまま地に倒れ伏す

倒れ伏し、事切れたレッドキングの巨体が腐り落ちるかのように崩れ跡形もなくなった

その様を目に焼き付けるかのように見据えていたイカロスは静かに飛び去って行った

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「レッドキングでは凶暴性が強すぎて制御難易度が高い。となると、レッドキングは素体に向かないか。ならば同程度に強靭な肉体を持つゴモラをベースにー」

 

A.I.G.I.S.研究施設の廊下を進む石動

その前に、翼が立ち塞がった

 

「何用かね?日向の孫よ」

「先程のレッドキング……アレが貴方の言っていた力ですか?」

「だとしたらどうする?」

 

完全に肯定ではないが、ほぼ肯定と取れる言葉を石動が返す

 

「ウルトラマンを打破する為に怪獣を利用して、その先にあるのが人類の未来だと貴方は言うのですか…命をあんな形で利用して!」

「非人道的、だと言うのかね?ウルトラマンの遺骸を利用したキミたちが」

「それは……ッ」

「約束かね?その為ならば死を利用するのも許される、と?」

 

反論しあぐねる翼に石動がため息をこぼす

 

「非人道的、非倫理的、そう言った愚にもつかない精神論感情論でキミらはどれだけの科学を否定してきた?可能にする技術がありながら、そのような理屈でどれだけの進歩を無下にしてきた?」

 

「神になったつもりの所業?そうだとも。我々は神にしかなし得ない『奇跡』を今はただ常識として行っている。これもその延長だ。我々は今やその段階に到達している、いや既にしていたがそれを見て見ぬふりに、倫理という枷で押し込めていた。こういった形で切り札となりうる技術を得ているというのに」

 

表情は変えず、だがその手にした杖には力を込め石動が告げる

 

「……その先で得た未来を、貴方は誇ることができるのですか?」

「できるとも。紛れもない人類の掴んだ未来だ」

 

何も反論できなくなった翼に一つ嘆息をこぼし、その側を通り過ぎる

 

「……いずれキミも知るだろう。私が正しかったということに」

 

石動の、どこか哀しみの感じられる言葉が廊下にただ消えていった




ウルトラマンが再び来訪したことにより浮き足立つ人々
だが同時に地球に移住していた宇宙人たちの間には不安が広がっていた

そんな最中、宇宙から突然の来訪者が訪れ花の妹と交流を深めていく

度重なる不審な事件に湧く移住区画街
不信が不信を呼ぶ中、真実はどこにあるのか

次回 ウルトラマンイカロス
「信じたい未来」
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