ーキィィヤァァァオオゥ!!
翔真がコクピットから見下ろす先には長い首を持つ怪獣ー宇宙斬鉄怪獣ディノゾールが咆哮を上げていた
(ディノゾールの甲殻は堅牢。生半可な火力…メテオール無しならウイングレッドブラスター程度なら当たりが悪いと弾かれる…)
ディノゾールを見据えたままにプランを組み上げていく翔真
その機体を見えたい斬撃が掠める
(断層スクープティザー。ヤツの一番の武器。だがあくまで見えないだけの舌ならばッ!)
翔真の乗る機体のブースターが火を噴く
一気にトップスピードに到達した機体は見えない舌の連撃を振り切り、ディノゾールの背後へと飛翔、長い首を動かして捉えようとするが、背後に探していた機体はもういない
翔真機は地面スレスレをカーブしながら、ディノゾールの首下に機首を向けていた
赤いレーザーがディノゾールの首下を捉え、体内まで貫く
しばしもがいた巨体がぐらり、と揺れ地面に倒れ伏した
《シミュレーション終了》
ガイド音声と共にコクピット外の景色が暗転し、コクピットが開く
「お疲れ様でした、翔真くん。今回もランクS評価、さすがは試験も主席で突破しただけはありますね」
コクピットの外から翼が声をかける
ここは日向重工に併設された仮想訓練場
翔真が受けていたのはメテオール機の仮想訓練で、ディノゾールを相手としたシミュレーションレベルMAXのものだ
そこでS評価を出せるパイロットはそういない。翔真はその稀有な実力を持つ一人ということだ
「……もっと上のレベルのシミュレーションは無いのですか?」
「断層スクープティザーの対処や、いかにディノゾールリバースにしないか、リバースに変異したとしてどう攻略するかなどを加味して現在ではディノゾール戦が最高難易度ですね」
「そうですか……」
残念そうに翔真はコクピットから離れると隊服の上着の前を開けて一息つく
「……翔真くんは、どのようなシミュレーションを望んでいるのですか?」
翼が翔真に尋ねる
翔真は無愛想な表情そのままに口を開く
「翼さんは、最近のNEXT GUYSの戦績はどう思いますか?」
「戦績、ですか?イカロスが協力していることもありますが、悪く無いと思っていますよ僕は。レガシーもドラグーンも問題なく稼働してますし」
「俺は、そうは思えません」
翔真が翼に反論する
「最近のNEXT GUYSも、過去の防衛チームも、結局の勝利はウルトラマンありきなものがほとんどでした。それが今ですら変わっていない。俺からすれば敗北みたいなものです」
「でも、ウルトラマンも我々の協力で怪獣に勝つことができていることも多いですから。敗北と言い切るにはNEXT GUYSの力は小さくありませんよ」
「それでも……それでも、ダメなんだ。俺たちだけでも勝てなきゃ…」
どこか思い詰めた表情で翔真はそれだけ告げ、訓練所を後にした
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
日向重工 社長室
翔真が去った後に職務に戻った翼は、その合間にあることを調べていた
「立花 翔真隊員……23歳にして登用試験に主席で合格、パイロットとしての実力は相当なもの……」
NEXT GUYSに登録された翔真隊員のパーソナルデータを調べていると、過去の略歴に目がついた
「……10年前の怪獣災害で両親と妹を亡くし、そこから施設育ち…か……」
合わせて10年前のニュース記事を検索、元々心当たりがあったのもありその事件の記録はすぐに見つかった
炎剣岳地下より現れた怪獣、レジストコード《炎剣魔獣フランベルス》の襲撃により近隣の遊園地が大きな被害を受けた事件
無論当時からあったNEXT GUYSが出撃したが、フランベルスはかなりの強敵でNEXT GUYS側も当時の隊員の半数を失った上にフランベルス自体も取り逃すという散々な結果に終わり、当時の世論でもNEXT GUYSの支持率が大きく低下した
「彼は、この事件の……」
と、その瞬間にパソコンの画面が乱れ、端末がダウンする
「ん?なんだ…?」
その瞬間、社内の至る所であらゆる電話が鳴り出した
スマートフォン、備え付けの電話、ありとあらゆる端末から同じ音が響いてきた
りりりりーーーん りりりりーーーん
当然、社員たちはその電話を取り、耳を当てる
電話に出たものはすとんと手にした端末を落として放心した
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「空間振動…⁉︎ 日向重工本社ビル上空に空間異常です!」
「なんだと…⁉︎」
鳴り響くアラートの中、ケリスがモニターに日向重工の周辺を映した中継映像を映し出す
そこに映っていたのは日向重工本社ビル上空に渦巻く暗雲。雲から走る紫の稲光はまるでビルを取り囲むかのように渦巻いている
「異常に見えるのはあの暗雲だけですが……ビル内部にも空間異常反応があります……本社ビル内部にも何か異常が起きているものと考えられますが、ビル内のカメラや通信機器ともリンクが繋がらず……」
「内部の状況はわからない、ということか……」
「そういえば、翔真が訓練に日向重工のシミュレーター使うって言ってた……翔真との通信なら!?」
「とっくに試したよ。メモリーディスプレイの通信も繋がらなかった……」
ケリスの言葉を聞き剛が苦虫を噛み潰したような顔でデスクに手を突く
「……とにかく現地で分析する必要があります。アレがどういう構造かわかれば、なんとかこじ開けることが出来るかも…」
「わかった。
『G.I.G !!』
日向重工側の林道
「……おかしい。この道はさっきも通ったはず……」
翔真は一人林道の中を彷徨っていた
何度も何度も同じ道に辿り着くという異変は既に理解し、その解決法をなんとか探そうとしたがどうやってもループから抜け出す術が見当たらない
「こちら立花、フェニックスネスト応答せよ。
メモリーディスプレイの通信も繋がらない。砂嵐のようなノイズが聞こえるだけだ
「無駄だよ。ここは通常の時空と隔離されている」
突然声が響く
声の主は林道の脇の木、その一本に寄りかかっていた
黒いワイシャツを着た長身痩躯の青年
どこかその表情は冷たく、海の底を思わせる底知れなさがあった
その青年に翔真はトライガーショットNEXTを向ける
「……どういうことだ?」
「古典物理学で言えば異次元、この方が伝わりやすいだろう。あのビルとこの周辺は、薄いヴェールに覆われて異次元化している。簡単に言えばそういったところか」
青年は日向重工本社ビル上空の黒い雲を指差す
「本体はあそこだ。あそこにこの空間の主がいる」
「何故それがわかる?」
「何度も見た手口だからだ。嫌というほどに」
それだけ告げた青年は翔真に構うことなく本社ビルの方へ歩き出す
「そういえば忠告しておこう。電話を渡されても絶対に耳に当てるな。それと……」
振り返った青年が翔真を見据える
「何が現れても耳を貸すな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「どうなってるんだ…?誰にも通信が繋がらない…」
社長室の端末を操作しながら翼が呟く
社内の電話も、メモリーディスプレイからフェニックスネストへの通話も何一つ繋がらない
「社内に一体何が…⁉︎」
改めて異常事態を認識し、階下へのエレベーターへと足を向ける
『翼、聞こえる?聞こえたら返事!!!』
「コンか!?」
翼の頭の中に聞き慣れたコンの声が響く
テレパシーを使って話しかけてきているようだ
『返事ができるなら無事らしいわね……』
「無事って……どういうことだ?」
『どうもこうもない。とにかく緊急事態ってことは確か……』
テレパシーで聞こえてくる声が弱々しいことに気づく翼はコンに更に問いを投げかける
「コン、まさかどこか怪我を!?」
『そんなんじゃ、無いわよ……』
段々テレパシーの声が途切れ途切れになってきたコンが弱々しく振り絞るように告げる
『いい?これから言うことは、絶対守りなさい…電話渡されても絶対出るんじゃないわよー』
言葉の途中でコンの言葉が途絶える
「コン?コン⁉︎ 返事をしてくれ!!」
「クソッ、もう限界……ッ痛ぁ……ッ」
コンが脂汗をダラダラ流しながら壁に背を預け、Yシャツのボタンを開け襟元を緩める
肩で息をしているその様子はどう見てもただごとには見えず、苛立たしげに頭を押さえ掻きむしる
「うるさいのよ……ザーザーザーザー……ッ‼︎ おちおち念能力も使えやしない……ッ‼︎」
今コンの頭の中には耐え難いほどのノイズ音が鳴り響いていた
周りの社員がおかしくなったのとほぼ同時に響いてきたこのノイズの正体はわからないがとにかく気持ち悪い思念のようなものも混じっているそれはコンには最大級の苦痛でもあった
「これだけでも、うんざり、だってのに……ッ」
コンが睨んだ通路の先から現れたのはそれぞれのスーツや作業着を着た日向重工の社員たち
ゆらゆらと、まるでゾンビのような足取りで近づいてくる彼らの手にはコール音の鳴り続ける電話が握られている
「コンさん……電話ですよ……」
抑揚の無い声と虚な目を向けて、差し出される電話
ふらふらと立ち上がりながら社員たちをコンが睨みつける、と社員たちが大きく吹き飛ばされ、廊下の突き当たりの壁に強く叩きつけられて倒れふす
「恨むんじゃ無いわよ……今、私は加減なんて繊細なこと……ッ、無理だから……」
頭を押さえ、なんとか立ち上がると、壁に手を添えながら歩みを進めていく
「……どうせあのバカなら…無事にあそこまで行くでしょ……ッ」
その行先はもう決まっていた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
日向重工エントランスロビー
青年がいなくなった後、翔真はひとまず日向重工の本社に戻って来ていた
「ここの格納庫なら……整備中の戦闘機が何機か残ってるはず…」
整備ドックに続くだろう通路を探すが、そこでようやく妙なことに気づく
人がまるでいないのだ。受付すら立っていない
少なくとも先程、シミュレーションを終えた時は何人もの社員に挨拶されたのを覚えている。あの人数が一斉にいなくなるなんて考えられない
「……何があったんだ…?」
訝しむ翔真の視界にゆらりと揺れる影が映る
「誰かいるんですか?」
声をかける翔真に反応し、現れたのは数名の社員
ゆらゆらと揺れながら歩みよってきた社員の一人が手にした電話を向けてくる
「……電話、ですよ……」
『電話を渡されても絶対耳に当てるな』
青年の言葉が頭をよぎる
何よりも、様子のおかしい社員に翔真の警戒心が跳ね上がった
隙をついて組みつこうと飛びついて来た社員の一人を柔道の要領で投げ飛ばし、さらに近づいてくる社員を組み伏せ、後頭部を殴りつけ失神させる
「失礼……緊急時故に」
襲ってきた社員たちを気絶させたことを確認し、翔真は整備ドックへと急いでいった
その背を小さな人影が眺めていた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……分析完了…ってもなんだこりゃ……」
「何かわかったんですか…?」
ケリスがヘルメット越しに頭を抱えてうめく
ガンドラグーンのコクピットでNEXTタフブックも併用した分析をしていたケリスの下にその結果は出てきたのだが
「…まずモンスターセンサーに反応がなんと4つ。といっても今はっきり見えたのが4つで雲の中の反応以外は朧げなものが複数散開してる……こんな反応初めてだよ…」
「それって…ビルの中にいっぱい怪獣がいるってことですか⁉︎」
「いんや、それは多分違う…この感じ…確かドキュメントにも記録のある…レジストコード《ディガルーク》だったっけ……?あれとよく似た感じ……ということは……」
ケリスは何かを思いついたようにタフブックを操作、シミュレーション結果を見て頷く
「やっぱり……隊長、この超空間…その主なんとかできるかもしれません」
『本当か!?』
「まだ仮説ではありますが…試す価値は十分にあるかと」
『……わかった。ならばその案を任せよう。頼んだぞケリス』
「G.I.G。一旦基地に戻ります。花ちゃん借りていきますね」
「え?私⁉︎」
「そう。助手が必要だからね」
ガンドラグーンがUターンし、基地へと戻るのをガンフェニックスレガシーのコクピットにいた輝が見送る
「……ケリスの作戦でなんとかなればいいんですが…無事でいてくれよ、翔真……」
日向重工 地下指令室へと繋がるエレベーター
「指令室の設備なら…何か打開策も見つけられるかもしれない…」
「またその力を使うのか?」
突然かけられた声に驚き、翼が振り向く
翼しかいないはずのエレベーター内にいたのは石動 大智だった
「石動さん…⁉︎」
「またウルトラマンの力を頼るのか?日向の孫よ」
いつもの冷淡な表情のまま石動が問いかける
「……この状況は異常だ…何か怪獣か、それに準じたものが…」
「また人類は負けるのか」
「違う!!僕らはウルトラマンの力に頼るんじゃない…ウルトラマンと共にあるために…‼︎」
「また詭弁か。実にくだらない」
石動が杖を鳴らしながらエレベーターの中をぐるりと巡る
「ウルトラマンが味方だと、いつまでそんな幻想に縋るつもりだ?」
「幻想……だって…?」
「幻想だとも。真意も、理由もわからない。ただ守ってくれているように見えるだけの存在と共に生きる。それは幻想以外の何モノでもないだろう?」
石動は淡々と続ける
「彼らは彼らの正義に伴い行動するだけだ。その正義に、我々が反しないと何故保証できる?」
「命すら弄ぶ、我々が」
ガァンッ!!!
響く銃声
翼が向けたトライガーショットNEXTの銃口からは排煙が上がり、石動の胸には焼け焦げた穴が開いていた
「……何者かは知らない。だが、石動さんは少なくとも自分自身の行為をただ一度も悪だと言ったことは無い。あの人は、どのような手段だとしても自身の正義を信じている…」
表情ひとつ変えずにくずおれ、壁に背を預けた石動
石動らしきものは、突然歪んだ笑みを浮かべた
「はは、はははっ!!面白い。紛い物と知っても私を迷いなく撃ったのはお前が初めてだ……だが同時にお前はこの男の言葉に反論できなかった……それはお前が自分の正義に疑問を思っているからだ……」
「お前が為すことが、正しいのか、とね?」
「黙れ!!!」
翼が声を荒げる
石動らしきものはヒヒヒっと笑うとその姿を霧散させていく
「この迷宮はまだ終わらない…まだまだ、お前たちの愚かさを私に見せてくれ…」
エレベーターには再び翼が一人残った
整備ドック
「やっぱりあったか…」
翔真の目の前には整備が終わったレガシーウインガーが置かれていた。NEXT GUYSで使用しているもののスペア機体、以前見学でも見たことがあるものだ
コクピットに乗り込み、軽く計器をチェックする
「これならいつでも飛ばせそうだ……あとはどうにかここのハッチを」
「お兄ちゃん」
声が響く。幼い女の子の声
その声を聞いた翔真の顔から血の気が引いていく
「……
翔真の視線の先に立っていたのは可愛らしい洋服を着た少女だった
その可愛らしい洋服は所々焼け焦げ、くせっ毛の目立つ頭からは血が滴っている
「ウルトラマン、来てくれる?」
薫は、翔真の妹は、10年前と同じあどけなでそう問うてきた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
10年前 炎剣岳 サンライズランド
「お兄ちゃん待ってよ!」
「おっと、ごめんごめん」
少年とその妹はテーマパークを満喫していた
後ろから追いついてきた妹の背後には二人の両親がその様を笑顔で見守っていた
「次はあれ行こうぜ、薫」
少年が指差したのはお化け屋敷
妹は怖いのか首を振る
「大丈夫だって、お兄ちゃんが一緒だ。お化けが出ても守ってやるよ」
とその妹の手を取る
その言葉を聞いて安心したのか、妹の顔が綻んだ
そんな瞬間、激しい地震がテーマパークを襲った
少年が妹を庇ってしゃがみ込む
テーマパークの中央付近、ジェットコースターを粉砕しながら地面から現れたのは巨大な怪獣だった
ーギャォォォォォン!!!
冷え固まった溶岩のような表皮を持つその怪獣はおどろおどろしい鳴き声を上げ、両腕から伸びた剣のような2対の爪をガチンガチンと鳴らし、口から灼熱の炎を吹き出した
きゃあぁぁああぁああ!!!
うわぁああぁあぁ!!!
いやぁ!死にたく無い!!誰か!!誰か!!
子供が!!子供がまだあの中にいるの!!離して!!
熱い!!アツいよぉおおおおいやだぁぁぁあ!!!
楽しいテーマパークは一瞬にして地獄に変わった
悲鳴と断末魔がこだまする中、少年と妹は両親に庇われながら出口へと向かっていた
ーギャォォォォォン!!
怪獣は飛来してきた戦闘機の攻撃を苛立たしげに払い除けていく
怪獣が振り回した爪が戦闘機のうち一機のコクピットを両断、パイロットを失った鉄の塊が切り揉みしながら墜落していく
それを見た両親は、少年とその妹を突き飛ばした
地面に転げた二人の子供は、次の瞬間両親が燃え盛る鉄の塊に轟音と共に押し潰される様を見てしまった
「お父さん…お母さん……!!」
妹が燃え盛る瓦礫に思わず駆け寄る
放心していた少年は、怪獣が崩した瓦礫が妹の上に降ってきているのを目にした
「薫ィィィ!!!」
少年と妹は瓦礫の下敷きになった
瓦礫の下、少年は痛む体に鞭打って顔を上げる
少年の足は押し潰されてはいなかったが瓦礫が複雑に積み重なり、簡単には抜けそうになかった
「う……」
妹はその目前にいた
自分よりも大きな瓦礫の下敷きになって、頭から血が滴って…
何よりも妹の体の下から赤い水たまりが広がっていた
「薫、薫…‼︎しっかりしろ!!」
「……お兄ちゃん……いたいよ……」
「大丈夫だ!大丈夫だからな!!お兄ちゃんがいる!怪獣だって、怪獣だってきっとNEXT GUYSが、ウルトラマンが倒してくれるから…‼︎」
そうこうしてるうちにも妹の息はどんどん浅くなっていく
足が千切れても構わないと体を引っ張るが、子供の力では瓦礫も足もびくともしなかった
「助けて…助けてくれよ…‼︎ 妹はまだこんなに小さいんだ!!ウルトラマン……こんな時に助けてくれるんじゃないのかよ……‼︎」
少年は願った
こんな状況をどうにかしてくれるヒーローを
何度もその武勇伝を聞いて心躍らせた光の巨人を
だがその願いは叶わなかった
妹の息は、直に聞こえなくなった
少年は喉が千切れんばかりに叫んだ
ーギャォォォォォン!!!
少年の叫びと怪獣の咆哮だけが黄昏時の空に消えていった
助け出された少年は知った
テーマパークにいた人を中心にあの怪獣に何百人も殺されたこと
NEXT GUYSが手も足も出なかったこと
そして、ウルトラマンは現れてくれなかったこと
ーウルトラマンは正義のヒーローじゃなかったのかよ
ー怪獣を倒して、みんな助けてくれるんじゃなかったのかよ
ー何で俺たちは、助けてくれないんだよ
ー何で妹は、死ななきゃならなかったんだよ
考えていくうちに少年は気づいた
子供ながらに憧れたヒーローはどこにもいないことに
そんな都合のいい存在はどこにもいないことに
ーいないなら、俺自身で守らなきゃ
ー今度は何も亡くさないために
ーウルトラマンなんかいなくても救えるように
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
日向重工地下指令室
「コン!!」
部屋に入った翼はコンが荒い息をしながらコンソールに倒れ伏しているのを見て駆け寄った
「……来るのが遅い…バカ社長……ッ」
脂汗でぐっしょりと濡れたその額に触れるととてつもなく熱くなっていることに気づく
「酷い熱だ…早く医務室に…‼︎」
「んなことしても無駄……ッ、この事態の原因、を、叩かないと……ッ」
震える手でコンが指したのはコンソールに映っていた外部の光景
ビル上空の暗雲。その中に超空間ができていることを示す画像
「怪獣か、宇宙人か…わかんないけ、ど、ヤツはそこよ……行きなさい……早くこの頭痛いの終わらせて……ッ」
息も絶え絶えに告げるコンを心配そうに見つめていた翼だったが、決心し頷くと、その小さな体を壁に寄り掛からせ、スーツの上着を被せる
そしてイカロスのコクピットへと向かった
「すぐに済ませる。絶対に間に合わせてみせる……ッ」
「イカロス、テイクオフ!!」
「怪獣、ウルトラマンが倒してくれる…?」
問うてくる薫に翔真は顔をしかめ、絞り出すように答える
「ウルトラマンなんか来てくれない。怪獣は、俺が倒す」
「来てくれないの?」
「来る必要がない」
「じゃあ、お兄ちゃんは嘘ついたの?」
薫の言葉に翔真が目を見開く
「お兄ちゃんは、わたしを騙してたの?」
「違う、違う違う違う!俺はッ!!」
憔悴した様子で振り返る翔真
そこに薫はいなかった
翔真は無言でコクピットに座り、計器を起動させる
それがキーなのかドックが起動し、カタパルトが開く
「……ウルトラマンなんかいらない。俺が守るんだ…‼︎」
カタパルトからレガシーウインガーが発進した
本社ビルを見張っていた輝の目に銀色の流星が映り込む
「ウルトラマン!?」
ーシェアァァッ!!
ガンフェニックスレガシーの目前をウルトラマンイカロスが登っていく
イカロスはそのまま暗雲へと向かっていく
「……なんだあれ…」
それを見ていた輝は気味の悪いものを目にした
イカロスが突入していく暗雲、それが突入の瞬間、不気味な人の顔のようなものを見せたのだ
その顔に飲み込まれるかのように、イカロスは暗雲へと消えていった
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
暗雲の中 超空間
そこに広がっていたのは一面の迷宮
暗雲の中の空間は地面を巨大な迷宮が覆っていたのだ
「こんな空間が……」
迷宮の上に降り立つイカロス
その目前の空間が揺らぎ、姿が現れる
「レッドキング……⁉︎ それにゴモラまで……⁉︎」
現れたのはどくろ怪獣レッドキングと古代怪獣ゴモラ
つい先日、石動が用意したクローン怪獣のモデルになった怪獣たち
【そら、キミが倒すべき怪獣たちだ。存分にその力を使うがいい】
どこからか響く妖艶な女性の声と共に2体の怪獣が一斉にイカロスに襲いかかる
ーシェアァァァァッ!!
まず向かってきたレッドキングをいなし、ゴモラの突進を受け止める
その後頭部に手刀を打ち込み、投げ飛ばし、レッドキングの拳を受け止め、パンチを返す
【まだ来るぞ?まだまだお前が倒すべき侵略者もいるだろう】
再びの声と共に新たな姿が現れる
そこに現れたのはー
「…ハンターナイトツルギ…⁉︎」
かつてボガールの復讐のみに動いていたウルトラマンヒカリ、ハンターナイトツルギがその目前に姿を現した
ツルギはナイトブレスから光剣を伸ばすとイカロスへと切り掛かってきた。腕を合わせてその一撃をイカロスが防ぐ
「なんで…あなたは、もう復讐には囚われていないはずだ!」
翼の訴えを無視し、イカロスの腹に鋭い蹴りを放ち、その体を光剣が切り裂く。よろめいたところを背後からゴモラの尻尾が強く打ち据え、イカロスが膝をつく
【どうした?この星を守るのではないのか?】
「ウルトラマンとは戦えない…彼らは敵じゃない!!」
【本当か?これを見てもそう言えるのか?】
突如翼の脳裏に光景がフラッシュバックしてくる
ハンターナイトツルギがナイトシュートを放つ
その先にいたボガールは消え失せ、背後にあった街並みが爆発、消しとばされる
メビウスがエネルギーを蓄え、爆発寸前になったボガールモンスを庇い、ツルギがそれを糾弾する
【見るがいい。そこの青い巨人は、復讐のために地球に生きる人々すら犠牲にしようとした。侵略者と何の違いがあるというのだ?】
「違う!ツルギは…ヒカリは心を取り戻した!彼は侵略者でも復讐鬼でももうないんだ!!」
【だがツルギが一時地球の敵対者でもあったことは事実だろう?】
謎の声はケラケラと愉快そうに笑う
【第2第3のツルギが現れない保証が、お前にできるのか?】
言い淀み怯んだイカロスの胸に無情な斬撃が再び叩きつけられた
翔真の乗るレガシーウインガーは迷宮に覆われた地面の上を飛んでいた
その目前の空間が歪む。イカロスに相対している怪獣たちのように巨体が現れくる
「お前は…⁉︎」
現れた怪獣は冷え固まった溶岩のような表皮を持つ、剣のような爪を持つ怪獣
翔真の家族を奪った10年前の怪獣災害の主犯
「フランベルス……ッ!!!」
ーギャォォォォォン!!!
翔真の声に応えるかのようにフランベルスが咆哮を上げ、灼熱火球を放つ
レガシーウインガーはその攻撃を辛くもかわし、フランベルスへと肉薄していく
「ウイングレッドブラスター!!!」
爪の剣撃を掻い潜り、ウインガーの光線がフランベルスに命中する
が、さしたるダメージを受けた様子は無く、カウンターとばかりにフランベルスは火球を放ち、レガシーウインガーに着弾する
「ぐぁあっ!?」
機関を損傷したレガシーウインガーはそのまま迷宮の中、何故か存在していた観覧車の根元に墜落する
「クソッ!まだ、まだだ!!」
【嘘吐き】
翔真の背後から声がかけられる
コクピットの後部座席に薫の姿があった
先ほどよりも酷く、下半身がズタズタになった姿で
【ウルトラマンも、お兄ちゃんも誰も助けてくれないじゃない。嘘吐き、嘘吐き】
「違う!まだ終わってない!今の俺なら、俺なら…‼︎」
レガシーウインガーのコクピットが勝手に開く
薫は外を指差す
その指の先に、翔真が見たものは
自分が乗ったレガシーウインガーの下敷きになって焼け爛れているいる見慣れた夫婦の姿
間違いなく、翔真の両親だとわかった。わかってしまった
【お兄ちゃんが殺した】
「違う」
【違わない】
「違う、違う違う違う、違う!!」
翔真がコクピットを殴りつけ頭を掻きむしる
フランベルスはそんな翔真を見下ろし、その爪を振り上げていた
日向重工仮想訓練場
翔真と別れた青年が一人、コクピット型のマシンの側に立っていた
見るとそのマシンは稼働している。つまり現在、誰かがシミュレーション内にいるということだ
「電話回線を利用していることから学んだか。随分器用な真似もできるようになったものだな」
側のコンソールに近づき画面を覗く
そこに映っていたのは翔真がまさにフランベルスに踏み潰されようとしている様だった
「……助ける義理は無いが、元はといえば俺たちの不始末のようなものか……」
そう呟いた青年の右手首、そこに巻かれた青い結晶がはめ込まれたブレスの装飾が展開され、結晶が輝きを増した
ールオァァッ!!
フランベルスが剣を振り下ろさんとした、その瞬間、空から降り注いだ紺碧の流星がフランベルスを大きく吹き飛ばした
レガシーウインガーの側に降り立った流星は徐々にその光を弱めていくと、人型のシルエットをあらわにしていく
「なんだ……⁉︎」
翔真が光を見上げる
そこに現れたのは、深い青を纏った巨人だった
「ウルトラマン…⁉︎ でもイカロスでも、ヒカリでもない…⁉︎」
そこに立つ巨人は金の縁取りがされた黒いプロテクターを胸に纏う青に黒と銀のラインが走る体をした青い巨人
その姿は同じ青いウルトラマンのヒカリとは違った
纏う青はヒカリよりもなお青い、深い海を思わせるような冷たく、それでいて雄大なものであった
ーギャォォォォォン!!!
フランベルスに相対した青い巨人は独特な構えを取ると、胸の前でその手を合わせ、右手に纏う形で光のサーベルを出現させた
フェンシングのような構えでフランベルスの剣撃をいなし、火球を躱し、確実かつ鋭い刺突を放っていく
フランベルスはその精密な攻撃に苛立たしげに爪を振り回し反撃、サーベルを捉え、その切っ先を切断する
それを見た巨人はすぐさまサーベルを納め、蹴りを主体とした格闘でフランベルスに肉薄する。振り回される爪を受け止め、釘付けになった怪獣の胴体に蹴りを打ち込み、その体を吹き飛ばす
ーフッ、ルァァァ……ルオァァァァ!!
よろめくフランベルスに向かい、青い巨人はその手の間に青いエネルギーを球状に収束させ、それを放つ
エネルギー球が直撃したフランベルスの体をエネルギーのスパークが走るが、よろめきながらもそのエネルギーを受け切る
青い巨人は一瞬驚愕の表情を見せるが、すぐさま構え直し、額の前に両腕をクロス、それを上下に広げると共に額から剣状のエネルギーが伸びていく
ールオァァァァ!!!
右手を払うとともにそのエネルギーが解放、光線となってフランベルスの体を貫く
流石にこれは耐えきれず、フランベルスはガラス細工が砕け散るかのように粉々になった
残心のように構え、立ち去ろうと青い巨人が背を向ける
が、その背後でまるで巻き戻すかのように破片が再集結し、フランベルスが復元される
青い巨人は再び怪獣と相対し、油断なく身構えた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『隊長!お待たせしました!!』
ビル前で待機していたガンフェニックスレガシーにガンドラグーンが並ぶ
「ケリス、できたか!」
『理論上はバッチリです。空間内に散らばる怪獣の《存在》を一点に固定、集中させるポインター弾……これならこの空間の主も正体見たり枯れ尾花って感じになるはずですよ』
そう答えたケリスはガンドラグーンの機首を暗雲に向け、特殊弾頭を用意する
「パイロットポインター弾、発射!」
ガンドラグーンから放たれた弾頭が暗雲に直撃、特殊な波動を放つ
ーぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
絹を裂く悲鳴のような不協和音が暗雲から響いてきた
タイマーリアクターが点滅し、よろめくイカロスに迫るツルギと2体の怪獣。それらが突然止まり、ノイズが走り消え失せる
【がぁぁぁあぁあああぁああああ!?!?!?】
今まで響いていた謎の声が断末魔のような悲鳴をあげる
それと共に空間にヒビが入り、ゆらめく陽炎のようにゆらめくシルエットから新たな怪獣があらわになる
ーきぃやぁあああぁあああああ…‼︎
まるで人間の女性のようなおぞましい悲鳴をあげるその怪獣は姿も非常に奇怪なものだった
クラゲをひっくり返したかのような丸い胴体の中央には人間のような顔が涎を垂らしながら口を開け、その周囲にもマネキンのような顔が装飾として並んでいる
頂点から鎌首をもたげた蛇のような頭部には目のような穴が6つあり、そこから紫の結晶が生えている
奇怪なシルエットの怪獣は腕がわりの触手をばたつかせ苦しんでいる様子だった
「あれがこの空間の正体か…‼︎」
イカロスは両拳を胸前でぶつけ、エネルギーを解放・収束
必殺の一撃を放たんと構える
【くは、くはははは!愚かな人間。この世界でも結局お前たちは癌細胞なのね……!】
怪獣は先ほどよりもノイズのかかった声で言葉を紡ぐ
【せいぜいその力を振るいなさい……‼︎ いつか自分で自分の首を締めるその日まで……いいえ、真理が正義を下すまで…かしら…?】
一瞬手を止めたイカロスだが、そのまま腕を十字に構え必殺の一撃を放つ
光線が異形の人面を貫き、耳障りな絶叫と共に怪獣は爆散した
空間の崩壊と共に暗雲が晴れ、イカロスは青空の中に飛行していた
しかしその顔はどこか曇りがかっていたように見えた
青い巨人が相対した瞬間、フランベルスはノイズが走ったようにシルエットを歪ませ、同時に消失した
それを見届けた巨人が構えを解くと共に空間もヒビが入り、崩れ始めた
巨人は背中越しに翔真を一瞥すると、出現の時と同じように青い光を放って消えていった
気がつくと翔真はコクピットの開いたシミュレーションマシンの座席に座っていた
《シミュレーション終了》
《テストスコア集計……総合評価:E -》
ガンッ!!
淡々とシミュレーション結果を読み上げる電子音声をかき消すように、翔真がコンソールを殴りつける音が響いた
「畜生……畜生ッ!!!」
その声は仮想訓練場に虚しく響き、消えていった
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街路樹下のベンチに腰掛け、青年はコーヒーを片手に日向重工から拝借したものだろうパンフレットや新聞を開いていた
「……異星種族との共生、怪獣頻出期、NEXT GUYSにA.I.G.I.S.…どれも聞いたことのない言葉だ。逆に耳慣れた言葉のいくつかは見かけない。なら、推測は正しいと見ていいだろう」
険しい視線が街頭モニターを見上げる
ウルトラマンイカロスの姿が映るそれを見た青年はコーヒーを一息に飲み干すと立ち上がった
「我夢と別れて妙な空間に飲み込まれたと思えば、異世界とはな」
「まずはこの世界についてもっと知っておく必要がありそうだ」
新聞とコーヒーの缶をそれぞれ分別しゴミ箱に捨てると青年は雑踏に紛れて歩きだした
炎剣岳地下から異常熱源が浮上
姿を現したのは10年前の悲劇を生んだ怪獣・フランベルスだった
フランベルスの討伐を説く翔真
それに対し、フランベルスを調査し撃退することで命を奪わず解決することを望む花
討伐と撃退
揺らぎぶつかり合う2人
正義の行方はどこにあるのか
次回ウルトラマンイカロス
「正義の証明」