空に浮かぶは大きい雲   作:あろえよーぐると

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原作2巻より強くなってる蔵人。でもイッチーの運Fだと考えたらこういうこともあるかと納得してしまい書きました。


最後の侍(第17話)

 一輝と蔵人はお互いに向かい合い霊装を顕現させた。

 

「勝負はオレとテメェの真剣勝負。死んだほうが負けだ」

「勝負を受けてくれて感謝するよ。《剣士殺し(ソードイーター)》」

 

 蔵人は一輝の《陰鉄》に目をやり、なるほど一級品だと確信する。全身の毛が逆立つような感覚を覚え久方振りに滾らせた。猛り高ぶった興奮のまま一輝を襲う。

 

「じゃあ、行くぜ!」

 

 蔵人は脚に魔力を込めて床を蹴り砕き、一輝に迫る。二刀の《大蛇丸》よる連撃を一輝は捌きながら分析する。踏み込み、太刀筋、体捌き、全てに技の軌跡が見られない、剣も腕の力のみで振っているので剣術に関して素人と判断した。

 素早く、鋭く、力強い攻撃は《陰鉄》を削り斬ろうと火花を散らせる。防戦一方だが一輝は焦らず捌いていく。そして蔵人の攻撃パターンを読み切った一輝は体捌きだけで躱し蔵人に突きを繰り出す。蔵人は上半身をのけ反らせ避ける。狙いどおり、のけ反らせて一歩踏み込み一輝は斬りかかるも蔵人はすでに体制を戻して片方の刃で受け止め残りの刃が一輝を襲う。

 後ろに避けたが腕の部分の制服が斬られていた。一輝は完璧なタイミングで繰り出した攻撃が避けられたため頭を回して原因を考える。瞬時に浮かび上がった考えがあるが、もしそうなら最悪な状況ということになる。

 

「ほらほら、どうしたどうした!」

 

 一輝は虚実を混ぜ受け止め捌き、蔵人が大振りをしたのを見計らい今度こそ一撃当てられるであろうタイミングで攻撃するも躱される。一輝は自身の予想が正しいことを確信した。

 唐竹割りの攻撃を《陰鉄》で受け止めようとするが、蔵人の姿が消えた。一輝の危機感が警報を鳴らし咄嗟に下がるも腹部に斬撃をもらう。

 

「ッ…これが《最後の侍(ラストサムライ)》を倒した君の本当の力か」

「ハハッ。どうやら気づいたみたいだな。言ってみろ。答え合わせをしてやる」

「倉敷君の強さを根底から支えてる力。それは反射神経だ」

 

 反射神経とは刺激に対して瞬間的に反応する能力のことであり、蔵人のそれは常人とは比べ物にならないほど、反射速度が違う。

 反射速度は『知覚し・理解し・対応する』この行動行程の速度のことだ。

 一般人で0.3秒。一流の短距離走などのアスリートで0.15秒と言われている。

 蔵人のそれは0.05秒を割っているのだ。

 

「オレの《神速反射(マージナルカウンター)》は能力じゃなく特性だ。着いてこれねぇならテメェは斬り刻まれるだけだぜ」

 

 そういって蔵人はギア上げて刃を振るう。突き、斬撃、鞭、刃の長さを自在に変えることができる彼だからこそできる縦横無尽の刃が一輝を囲む。一輝は《陰鉄》の刃を握り刃の長さを短くすることで刃を振るう回転速度を上げるが全く追いついておらず、その身体を傷つけられてゆく。

 

 

 絢瀬は二人の果たし合いを見守っていたが、一輝の傷つく様を見て止めようと踏み出すが肩を掴まれその場に踏み止まる。掴んできた相手に振り向き睨み付けるが、その人物を見て驚愕する。

 

「綾辻さん、邪魔したら駄目ですよ」

「生徒会長!?何でここに、って何で止めるですか!?黒鉄君が死ぬかもしれないんですよッ!?」

 

 東堂刀華は今朝、一輝の身に戦意を漲らせているのを見た。絢瀬の件も少々強引にだが聞いている。では今日、約束を果たしに行くのだろうと。故に後を着けてきたのだ。

 

「同じ騎士としてあの戦いが羨ましくあります。」

「……羨ましい?」

「二人の表情を見れば分かるようにとても楽しそうではありませんか」

 

 絢瀬は一輝と蔵人の方に視線を向けると、二人とも獰猛に笑っているのだ。それを見て唖然とした。

 

 蔵人の猛攻は続く。

 

 二年前、ヒリつく決闘を味わえたが途中で終わり不完全燃焼だった。一年前、クソ生意気な一年に自分の土俵である斬り合いで斬り刻まれ負けたくない一心で霊装が変化するも相手の頬を浅く斬るだけで敗北した。自分は不甲斐なさを嗤い怒りを燃やすが手加減されたまま負けた。今年の七星剣舞祭で借りを返すつもりだが、今の自分では勝てない。だからだろうか、未だにこの道場にいるのは…

 

「しぶといのにもほどがあんだろ」

 

 蔵人は一輝を吹き飛ばしそう言った。蔵人は先程からの猛攻で体力をある程度失っているが、一輝は血も体力も大幅に消費していつ倒れても不思議ではない状態まで追い込まれている。自滅覚悟で蔵人の体力を削ろうと試みた一輝だがこちらの何倍もの動きをしていると言うのに相手はまだ余裕がある。《完全掌握(パーフェクトビジョン)》もこちらの動きを見てから手を変えることができる蔵人の《神速反射》には通用もしない。一輝の《一刀修羅》は身体強化の技ではあるが反射速度を上げるものではない。それに攻略法がない状態で一分の制限時間内に倒すことはできないだろう。

 一輝は考えを巡らせながら僅かでも体力を回復させるために呼吸する。そして何故か、ある日の歩太との会話の記憶が甦った。

 

『ふむ、孤塁抜きか』

『どうしたの?』

『いやさ、格闘漫画で面白い技があってさ。見てみろよ』

 

 孤塁抜きとは、ある漫画の無敵超人の技で相手の意識下よりや外れ、孤立している箇所に攻撃を叩き込む技だ。

 防御している守っているために安心感という油断が微かに存在するし箇所や、ここには攻撃するとは思わないだろう箇所をぶち抜く。

 

 

 一輝は覚悟を決め《一刀修羅》を発動させる。チャンスは一度きりで成功しなければ負けが確定し、成功すれば互角に持ち込める分も悪くない賭け。

 蔵人に強化された速度で間合いを詰めて斬り合い、《一刀修羅》の十秒分を注ぎ込み《陰鉄》を受け止めようとする《大蛇丸》ごと蔵人を叩き斬る勢いで刃を振るう。

 

「ッ!?…舐めんなぁぁあああ!!」

 

 蔵人には刃が届くことはなかったが、二刀ある《大蛇丸》の一本を縦に叩き斬ったのだ。蔵人は途切れかけた意識を気合いで繋ぎ止め吼える。蔵人の攻撃を避けて距離を空けた。

 

「最後に一つ、聞いて良いかな?」

「なんだ」

「僕たちが憧れたあの偉大な剣客は、今の僕らのように、わらえていたかい?」

「ハッ、くだらねぇこと聞くな。こんな熱い死合いを楽しめねぇヘタレが、《最後の侍(ラストサムライ)》なんて呼ばれるわけねぇだろうが」

 

 

 絢瀬は今の会話を聞いて愕然とするが、暫くしてあの時の光景を確認するように思い出す。そうだ、父は笑っていたと。

 

『俺の決闘だ!邪魔をするなッ!!』

 

 絢瀬の中で食い違っていた何かがカチリと音を立てて噛み合ったことで理解する。あの戦いの中、止めに入ろうとした絢瀬を海斗は、今まで見たこともないような恐ろしい形相で鬼の咆哮のような声で怒鳴りつけた理由を。

 誰の目にも勝敗が明らかな勝負を、幾度打ち叩かれても戦うことをやめなかった海斗の気持ちに気づけなかった。目の前の敵と戦い勝ちたいという純粋で強烈な闘争本能を漲らせて楽しんでいたのだ。

 

『……すまない』

 

 あの言葉も病に朽ちていくしかない自分に誰よりも勝る価値を見いだし、なりふり構わず戦うことを望んでくれた少年に綾辻一刀流の全てを出し尽くすことの出来ない自分ですまないと蔵人に対しての詫びだったのだと。

 

 

 一輝は蔵人に向かって駆け出した。蔵人は一刀になった《大蛇丸》を高速で振るい八連撃を一輝にお見舞いする。しかし、全ての攻撃が一輝に触れたと思ったら避けるようにズレるのだ。

 一輝は正眼に刃を構えたまま進む。その光景が二年前の海斗と重なり二人は交差した。

 

「《天衣無縫》…これが綾辻一刀流の真髄だッ」

 

 蔵人は一輝に斬られ水溜まりが出来るほどに血を流していた。よろけているが彼は倒れることはなかった。

 

「……なるほど。こいつがオッサンがあの時、出そうとしたモンか。ハハッ…やるじゃねぇか」

 

 蔵人は鮮血に染まる身体を持ち上げ、背筋を伸ばして改めて一輝に視線を向ける。

 

「おい、テメェの名前は?」

「黒鉄一輝」

「クロガネ。この続きは七星剣舞祭でだ……テメェら行くぞ」

 

 取り巻き達にそう言って、蔵人は道場の出口までボロボロの身体で一人で歩き、一輝達から見えなくなった所で倒れるのであった。

 

 

 

 




・今作の倉敷 蔵人(くらしき くらうど)
去年の七星剣舞祭にて歩太と戦い、《大蛇丸》が2本になる。
二刀流になったので使いこなすために振りまくって大幅に体力上昇

 まだ比翼の剣技を覚えてないイッチーは負けても可笑しくない相手に仕上がりました。
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