蔵人との決闘を終えてから数日後、綾辻海斗が目を覚ましたと報告がメールで絢瀬から一輝に送られた。鍛練には当分来られないとのことだが、せっかくの親子の時間を過ごしてほしいと思う一輝としては問題はない。少し困ったことがあったとしたら絢瀬の携帯で海斗から連絡があり、娘と何時婚姻するだの言われたことくらいだろうか。電話の向こうで絢瀬が父親を殴り倒した音が聞こえて海斗は何だかんだと長生きするだろうと苦笑したくらいだった。
足りない。
珠雫はそう思った。これまでの試合相手は取るに足らなかった。それどころか手加減すらしていたのだ。だが次の相手である《雷切》には期待を持ち訓練をした。
しかし、質を数で補った訓練をしてみたがあまりにも弱かった。こちらの本気を一つも引き出させない不甲斐ない者達ではストレスが溜まるだけでこの訓練は失敗だ。故に珠雫は余計に期待している。
「あなたは、私を失望させないわよね」
『黒鉄珠雫様の選抜戦第十四試合の相手は、三年三組・東堂刀華様に決定しました』
珠雫は口の端に凄艶な笑みを浮かべる。そろそろ本気で戦える相手と殺り合いたいとずっと思っていた。冷めない熱を発する身体を抱き締めながら珠雫は静かに笑うのだった。
『それでは、本日の第十二試合の選手を紹介しましょう!青ゲートから姿を見せたのはあの黒鉄一輝選手の妹にして、《紅蓮の皇女》に次ぐ今年度次席入学生!戦績は十五戦十五勝無敗!属性優劣も何のその!抜群の魔力制御を武器に今日も相手を深海に引きずり込むのか!一年《
珠雫は周りの歓声など聞こえず、目の前にいる一人に対して意識を集約している。
『そして赤ゲートより我が校の、生徒会長にして校内序列最高位!前年の七星剣舞祭では二年生で準決勝まで駒を進める快進撃を見せるも惜しくも決勝を逃しました。しかし、彼女は再び七星の頂を争う戦いの場に帰ってきました!一年前よりもさらに磨きがかかった伝家の宝刀をひっさげて!三年《雷切》
『それでは第十二戦目、開始!!』
「
「轟け、鳴神」
開始の合図がなった途端、無数の氷と雷がぶつかり合った。氷は雷に砕かれ細かい粒子となり会場の
「
珠雫は会場の光を氷で反射させ視界を惑わし、刀華に自身を視認させないようにした。
相手の視覚を奪い、次は動きを止めるために《
刀華は頭上からの飛来物に対して回避を選択。しかし足元に絡みついた氷によって動きを封じられていることに気付くが、気付いた分の時間のロスによって氷柱が目前に迫る。
「…《
雷光一閃。視覚を惑わす光、足に絡みついた氷、頭上の氷柱、全てを一撃にて薙ぎ払った。刀華は刀を鞘に納め珠雫へと直進しようとするが今度は会場が霧に覆われたため足を止める。
「《
珠雫は霧と一緒に複数の水球を刀華の周囲に作り出し、そこから無数の水の針を飛ばす《
撃ち落とされた水球は囮で本命は相手に雷を使わせること。珠雫は幾つか水素を凝縮させている水球に偽装したものを忍ばせていた。水から酸素を抜いて水素を取り出すことは不純物のない純水を作り出すよりも難易度が高い。魔力制御が得意な珠雫でも時間がかかるため、初手には使えなかった。
「さて、少しくらいはダメージを負ってくれてるかしら…」
瞬間、珠雫の目の前に雷が迫った。
「ッ!」
水をドーム型の壁に形成して防ぐが雷は連続で珠雫に襲いかかる。たまらず水の層を厚くした珠雫だが、正面には水の壁越しに居合の構えをした刀華の姿が写った。
「しまったッ!」
咄嗟に水の壁を蒸気爆発させて離れることに成功したが、身体に衝撃のダメージが残る。辺りを見れば珠雫が作った霧や氷のフィールドは消え、元に戻っている。そして服の破れからして多少は傷を負ったであろう刀華が隙あらば斬り捨てると虎視眈々と眼光を光らせていた。
刀華は水素爆発に対して咄嗟に電磁波のバリアでその身を守り、電流の熱でステージの氷も霧も溶かし、晴らしたのだ。
そして油断していた珠雫に悟らせる前に《
対峙している二人は動こうとしない。珠雫は残りの手札で倒すための道順を探すために。刀華は相手の手札を警戒するがために。
先に動いたのは刀華だった。珠雫は刀華の一挙手一投足を逃さないように集中力を高まらせる。しかし、目の前まで刀華に接近され刃を鞘から抜き始めるまで気付くことができず、そのまま刃は珠雫の身体に入り込むが手応えがない。
「まさかこれは…」
その技を刀華は知っている。入学式前に戦った七星剣王である歩太が使っていた。
「この技は《
余裕を見せるように珠雫は答えるができれば仕留める直前までは見せたくなかった切り札の一つを晒してしまった。それでも勝つために道筋を考え直す。
「お兄様や師匠達も順調に勝ち上がっている中で私だけが躓く訳にはいかない。だから私は貴女に…《雷切》に勝つッ!」
「私にも譲れないものがあります。故に、黒鉄さんを斬って進ませてもらいます!」
自然と戦う位置は一定の距離に固定していた。攻防は激しく、代わる代わるに攻めては守り守っては攻めるを繰り返す。時代が違えばどちらも七星剣王になっていただろう強者同士の戦いだ。熾烈を極めるのも当然だ。
そして終わりは間も無く。体力は限界を迎え魔力が多少残っている珠雫。体力は多少あるが、魔力があと《雷切》一回分の刀華。次の一撃にて決着をつけるために互いに呼吸を整える。
飛び出したのは同時だった。しかし珠雫が速さで刀華に敵う筈がなく鞘から抜き切った刃に斬られるもそれは幻影。そんなことは百も承知と言わんばかりに解き放った刃を勢いのままに背後から襲おうとする水の分身を斬り捨てる。居合を終えた所に珠雫が自身の霊装である小太刀に水を纏わせ刀華に近づく。水を纏った小太刀の攻撃は刀華に掻い潜られ左手に持つ鞘で珠雫の脇腹を強打され息を吐き出した。
「かはっ…ゥ…ァァァアアアア!!」
「《雷切》ッ!」
刀華は再度居合の構えをとり自身の最強の技《雷切》を抜き放ち珠雫を斬り裂く。
珠雫を斬り裂く刃は途中で止まり、押すことも引くこともできないでいる。
「…っと…捕ま……たよ…ッ」
執念の籠った声にぞわりと本能が危険信号を放つ。
「…《
珠雫の血が刀華の身体中を這いずり切り刻んだ。
「…えっ」
刀華は身体中から血が吹き出しその場に倒れた。そして程なくして肉体の限界を越えた珠雫も倒れる。
『こ、これは…まさかまさかの、両者ノックダウン!?試合結果は両者引き分けだぁぁああああ!!』
死力を尽くした試合は引き分けに終わった。