空に浮かぶは大きい雲   作:あろえよーぐると

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この前、原作読み返して「七星剣『舞』祭」じゃなくて「七星剣『武』祭」だったことに気がつきました。勘違いって恐いっすね。


強くなるために(第19話)

 珠雫と刀華のとの試合は世にも希な引き分けという結果に終わった。試合の内容を吟味し教師陣が下した決断はこの引き分けを勝ち星判定にすることに。

 七星剣武祭は運で優勝できるほど甘くない。どちらか片方が勝つならば良かったのだが、どちらも落とすには二人の実力はあまりにも高かったためだ。

 

 

 

 一輝は熱を入れて鍛練をしていた。伐刀者(ブレイザー)としての才能が低すぎる一輝はこれまで洞察力と磨き上げた技で乗り切っていたが、今の自分では選抜戦を無事通過できてもこのまま七星剣武祭で自分の力が通用するのか不安を抱いていた。何か強くなるきっかけを見つけなければと。故に歩太と久しぶりの試合は有り難かった。

 歩太は強い。基本的に自身の手の内が攻略されること前提で戦うために戦術を破られても動揺することなく次の手札を切る。どれほど手札を持っているのか一年共に過ごしている一輝でさえ全容が全く見えない。

 ちなみに歩太は学園内で一番警戒している相手は誰かと言えば一輝の名を告げる。理由は一輝は決して慢心しないからだ。正確には慢心するほど余裕がないのだが、強者は勝利のためなら普通の人間なら踏み込まない所で躊躇い無く踏み込む。

 だが一輝の場合は危険を侵してさらにもう一歩踏み込んでくるのだ。勝利に対しての嗅覚と貪欲さはどこぞの神殺し魔王達並。それが歩太が一輝に対しての評価だ。

 そんな二人が久し振りに霊装を出して対峙してるのだが、ふと一輝から提案があった。

 

 たまには剣だけで勝負してみないかい?

 

 霊装(デバイス)こそ刀剣型だが歩太は自他共に認めるウィザードタイプの伐刀者だ。もちろん剣の腕を蔑ろにしているわけではない。手札を晒す気がない時や魔力消費を抑えるために霊装で斬り込んで平然と近接戦闘もするし、自身の魔法と絡めた秘剣も幾つか修めている。

 剣の才能は一輝と比べて潜在能力は負けていているが、剣の腕は現段階で歩太の方が技術を多く所有しているため勝っている。

 対して一輝は幼い頃から実家で居ないもの扱いを受けており、剣技を学ぶために日本各地の剣術道場や名のある剣客に果たし合いを願い出る剣キチ(ヤバイ奴)である。お前そん時、何歳だったよ?

 そんな一輝(剣キチ)が自分より技術を持っている相手がいたら勝負を挑むのは当然だ。一年生の時からそれは今でも続いているが、歩太は一輝と訓練する時は剣技を見せず、魔法のみ。何でかと聞くと、

 

 …自分の技術をあっさり模倣されたら腹立つから見せたくねぇ。

 

 歩太は一年生の時に一輝に《模倣剣技(ブレイドスティール)》で抜き足(ぬきあし)という歩法技術を数回使っただけで盗まれたことがあるし見切りもヤバイことを体験して、見られても問題ない動きや真似できない魔法でしか模擬戦で使わないようになった。

 だからこそ一輝の提案もいつもなら拒否されるし言った本人も何となく言ってみただけなのだ。

 

 ふむ…たまにはいっか。

 

 その言葉に一輝は目を見開いた。しかし次の瞬間、闘志を漲らせ獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 

 時間は遡り、珠雫と刀華の試合から数日が経ってから歩太、ステラ、一輝の三人は刀華に頼まれ彼女が所属する生徒会の仕事の手伝いをすることになった。

 毎年、七星剣武祭の前に奥多摩にある代表選手の強化合宿を行っている合宿施設で最近になって不審者が出たとのことで安全確認をしてきて欲しいと頼まれたのだが、生徒会だけでは人手が足りないからだ。

 なんでも四メートルほどの巨人が出没してるらしい。それを聞きステラは目を輝かせて生徒会の一人である恋々(れんれん)と意気投合し盛り上がっていた。

 次の日曜日。歩太、一輝、ステラは生徒会メンバーと奥多摩の山奥にある破軍学園の合宿場へやってきた。

 

「ん~。空気が美味しいわ。それに涼しくて気持ちいい」

「このマイナスイオンが出てる感じが良いよな」

「アスファルトが少ないから、空気がほどよく冷やされるんだろうね」

「日本はどこもかしこもコンクリートで固めすぎなのよ。暑いし蒸すしでたまらないわ」

「今は梅雨の時期だからどうしてもな~」

「もう(ほと)んどこの国は亜熱帯だからね…」

 

 欧州の北側にあるヴァーミリオン皇国出身のステラにとって日本の夏は正直厳しいものだった。日本人だって辛いのだから無理もない。

 さて、噂の巨人の正体を突き止めるとはいえ合宿場の敷地はいくつもの山と森を有する広く険しい地形で生徒会メンバー5人と歩太達を含めた8人でも時間がかかる。そのため英気を養うためにまずは腹ごしらえということで昼食にカレーを作ることになった。ちなみにステラと恋々はバドミントンでテニヌをしているため昼食作りには不参加だ。

 

 一輝は切った具材を刀華の元へ持って行くがふと足が止まった。

 見事な手さばきで肉と玉ねぎを刻んでいるエプロン姿の刀華を見て、若くして母性すら感じさせる立ち姿に視線が吸い込まれる。

 

「どうかしましたか?」

「あ、いや。なんでもないです」

 

 振り向いた刀華に声をかけられ一輝は我を取り戻し、持ってきた野菜を刀華に渡す。他に手伝うことはないらしく一足先に炊事場を抜けた。

その途中で生徒会副会長の御祓 泡沫(みそぎ うたかた)に声をかけられた。

 

「ふっふっふ。どうしたんだい後輩クン。刀華のおっきいお尻に見とれてたのかな?」

 

 先ほど刀華を見つめてしばし立ち尽くしてことを泡沫に追求された。

 

「ち、ちがいますよ!」

 

 確かに刀華のお尻は丸くて柔らかそうで男して魅力を感じるし感情が込み上げることもなくはないが、

 

「そうじゃなくて…。自分でもよく分からないんですが東堂さんが炊事場に立つ姿に目を奪われたんですよ。なんていうか…そこに目を逸らしちゃいけない何かがあるように思えて」

 

 一輝と刀華は同じルームメイトであるため互いにご馳走したこともご馳走になったこともあるが時間帯やタイミングが合わなく調理風景を見たのは今回が初めてだった。

 泡沫はその返答に興味深そうに唸ったあと一輝に言った。その感覚は正しいと。そしてあの姿こそ彼女の強さの源泉だと。

 二人は同じ養護施設『若葉の家』で暮らしていた。そこには親に捨てられた、親を亡くした、殺されかけたなど複雑な事情を持った子供達がいた。似たような境遇の連中同士で些細なことで傷つけ、罵りあったりと苦しみを誰かにぶつけていた。そんな中で刀華は自分も同じ境遇でありながら周りを笑顔にしようと頑張っていた。小さい子供に絵本を読み聞かせたり、院長先生に代わりに料理をしたり。

 

「院長先生はすごくいい人なんだけど料理だけはもう本当にまずくてたまらなかったからね。あれはもうみんな大喜びだったよ。あはは」

「面倒見のいい人だったんですね」

「昔からね。人の世話を焼かずにはいられない性格なんだ」

 

 泡沫は昔のことを思い浮かべていた。

 

『どうして刀華はそんなに強いの?』

『私はたくさん両親に愛してもらったから。それは普通の家族に比べたらとても短い時間だったかもしれないけど、たくさんの笑顔と愛情をもらったの。

 その思い出は両親が亡くなった今でも私を支えてくれている。だから私も他の子供達を笑顔にしたい。みんなが支えになるような思い出を作ってあげたいの。両親がそうしてくれたように。

 人を愛することは両親が私に教えてくれた大切で大好きなことだから』

 

「…刀華は施設を出た今でもずっと若葉の家のみんなに笑顔と勇気を与えている。親無しの自分達でもすごい人間になれるんだということを身を以て示し続けてくれている。全国でも指折りの実力派学生騎士《雷切》として活躍し続けることでね」

 

 彼女の強さの源泉とは『善意』なのだと一輝は理解した。自分のためではなく第三者のために比類無き力を発揮する。刀華はそういった魂の在り方をした少女なのだと。

 

「後輩クン。君は強い。正直予想以上だった。ボク程度じゃ歯が立たないしカナタでも危ういと思う。だけどそんな君でも刀華には勝てない。刀華の強さは別格だ。

 何故ならあの子は自分が負けるということがどういうことか。どれほど多くの人間に悲しみを与えることかを知っているから。

 だから負けない。だから折れない。あの子と君では背負っているモノの重みが違うんだ」

 

 

 




泡沫パイセンの攻撃「メダパニ」

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