十日間に及ぶ強化合宿も終わり、参加していた破軍学園の一同を乗せたバスは長旅を終えてようやく破軍学園の近くまで戻ってきていた。空は茜色にそまり始めた夕刻頃だ。
バス内では和気藹々と談笑している声が聞こえる中、ステラだけがしょんぼりした表情で肩を落としていた。
「……はぁ~」
「元気だしなよ、ステラ」
反対の通路側でステラの溜め息の理由を知る一輝に慰めの声をかけられる。
「いいわよね~イッキは。アユタに一太刀浴びせられて…アタシなんてイッキより付き合い長いのに、結局アユタに一度も当てられなかったし。三回も戦って三回とも負けたし…」
「僕だってようやく一太刀当てれたけど、結局は勝てなかったし同じだよ」
「それでもアユタが戦闘中に表情を崩すとこなんて初めて見たわよ。アタシがあの余裕そうな表情を崩して『なん、だとっ…!?』って言わせたかったのに」
「いやいや、歩太そんなこと言ってなかったから。僕の《天衣無縫》擬きを『ん?じゃあ、これならどうだ』って言ってより正確な太刀筋で斬り破られたからね」
「もう~絶対、ギャフンて言わせてやるんだから!」
打倒歩太に決意の炎を燃やすステラであった。その様子に一輝は苦笑していたが、自身とて未だ彼に勝てていないのだ。彼に勝たねば七星の頂きを手にすることなど夢のまた夢だ。しかし今回、始めて彼に刃を浴びせられた。一度とはいえできたのだからあとは試合の際にもう一度だけ浴びせることができれば勝機はある。そんなことを考えながらステラや他の皆と過ごすのであった。
「そういえば、何で帰りのバスにアユタは乗らなかったの?」
ステラの純粋な疑問に話を聞いていた刀華が答えた。
「たまたま見掛けて声をかけた時に教えてもらったんですが、なんでも総理大臣から呼び出しがあったらしく私達より先に東京に戻ると言ってました」
「なんだってこんな時期に日本のトップから呼び出しがあるのよ?」
「さあ。本人も首を傾げていましたから、なんとも言えません」
「ム~~っ。こんな時は食べて気を紛らわすに限るわ」
ステラは鞄から高カロリーな携帯食料を三本取り出すともそもそと食べ始める。そんな様子を見ていた珠雫は呆れていた。
「ステラさん、流石に食べ過ぎじゃありませんか?もう少しで学園に着くのにそんなもの食べたら夕飯がはいらなくなりますよ」
「こんなのオヤツよオヤツ。腹の足しにもならないわ」
「ステラ。流石にサービスエリアでうどん三種、ラーメン三種を全て大盛で頼んでおいてそれは流石にどうかと思うよ」
あまりにもな発言に一輝はついつい突っ込む。そんなステラに対して珠雫もおかしなもの見る眼をしていた。
「いいかげん太りますよ」
「いいのよ。アタシ、どれだけ食べても太らないから」
「いやいや。そんな太い脚して何を言ってるんですか」
「ふ、太くないわよ!珠雫が細過ぎるのよ。アンタはもっと肉を付けなさいよ」
「今の体重が私のベストなんです。それと脚、太いですよ」
「だから太くないって言ってるでしょ!これは引き締まってるのっ!」
「まあまあ。二人とも落ち着いて…」
そんな他愛のない会話を楽しんでいると突然、バスが急ブレーキを掛けた。あまりに唐突だったのでバスの中にいた全員が前に投げ出された。
「ど、どうしたの
真っ先に動いたのは生徒会長の刀華だった。彼女はすぐに立ち上がり、運転していた砕城の元へ駆けつける。彼は真っ青な顔でフロントガラスの向こうを見つめて震える指先をある方向を指す。
「あれ……学園の方ではないか?」
その先には、血のように赤い夕空にもうもうと黒煙が立ち上がっていた。それは破軍学園の校舎があると思われる方角から。
◆◆◆◆
「急に呼び出してすまなかったね、出雲君」
とある官邸内にて歩太は内閣総理大臣である
「いえ。前に学園の正常化でお世話になりましたし、呼び出されるくらい問題ないです。しかし、今回はどういったご用件でしょうか」
「君に聞きたいことがあってね。少し、年寄りの長話に付き合って貰えないかね」
「聞きたいこととはいったい…?」
すると突然、歩太の携帯が鳴った。着信相手はあまり接点がない貴徳原カナタ。
「すみません。ちょっと出てもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないとも」
月影総理の許可を取り電話に出ると焦燥している声でカナタが叫ぶ。
『出雲さん!すぐに学園に戻ってきてくださいっ!!いま我々は……』
そこで声が途絶え電話が切れた。どうやら只事ではない様子に歩太は総理に会談の中断を申し入れようと振り向こうとするが背後から危険を感じて自身の
背後から襲ってきた相手は黒い西洋の甲冑をその身に纏い巨大な
「月影総理、これはいったいどういうつもりですか。てか何であんたが日本にいんのさ、世界ランキング4位の《黒騎士》さん」
《黒騎士》アイリス・アスカリッドが歩太の前に立ち塞がった。
「すまないね、出雲君。彼女には無理を言って今日のことをお願いしたんだ。今、君を学園に戻らせる訳にはいかないからからね」
「はっ……?一体全体何が起こってんですかね。後で戻ってきますから、さっさと退いてくれません?」
「君は話を聞いてくれさえいてくれれば此方も手荒い真似はしなくてすむんだが」
「急いでるって言ってんだろうが、ごちゃごちゃ言わず退けってんだよ」
《黒騎士》と《七星剣王》がぶつかり合う。
◆◆◆◆
あのあと一輝達はそのまま突っ込む勢いでバスを走らせて学園の正門を抜けて停車させるとすぐに外へと飛び出し、惨状を目にする。
校舎は荒れ果てそこかしこから黒煙が立ち上り、舗装していた地面も砕けて爆撃でも受けたような有り様。帰省していない滞在組の生徒や教師達が倒れていた。その衣服は斬り裂かれた跡やほつれがある。
これはおそらく──
「幻想形態でやられたのか……」
一輝は状況から戦闘が行われたと推測。
「レディィィィス、アェンドゥ、ジェントルメェェンンンンッッ!!」
なんともふざけた調子の軽い声が突然響いた。声の出所は、上。一輝達は一斉に視線を上げてそれを見た。
燃える校舎の屋上に立っているのは
「長旅をご苦労様でした、破軍学園の皆さん!お待ちしていましたよぅ~」
奇っ怪な賊の装いに皆は困惑の表情を浮かべる。この中で一輝と刀華は男の風体に見覚えがあった。
「貴方、文曲学園の
刀華は険しい表情で問いかける。道化師の格好をした平賀は極彩色の赤で縁取った口を嬉しそうに吊り上げた。
「おやボクをご存じで?かの《雷切》に覚えていて貰えるとはこうえいですねぇ…フフフ。どうですか、このステージは。驚いて頂けましたかね?」
「これは貴方がやったことですか?」
「いやいや、いやいやいや。やったのは『ボク』ではありませんよぉ」
瞬間、平賀は10m以上はあろう校舎の屋上から飛ぶ。しかし、飛び降りたのは一人ではなかった。
彼の背後から次々と続くように人影が飛翔し、全員同時に一輝達の前に着地する。
長い野太刀を携えた和服姿の男。
トップレスにエプロンを身につけただけの奇抜な姿をした女性。
その他三名、平賀を含めた七名の面妖な風貌と、その風体以上に異常な凶兆を孕むオーラを持つ者達が一輝達の前に並び立つ。
平賀は彼らと自分を指し、刀華の問いにかけに対する答えを告げた。
「ボクではなく、ボクたち『暁学園』です」
これが暁学園。影で蠢いていた八校目の正式に名乗りあげた最初の瞬間だった。