空に浮かぶは大きい雲   作:あろえよーぐると

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前夜祭その2(第23話)

 《黒騎士》アイリス・アスカリッドと《七星剣王》出雲歩太の斬り結びは室内で収まるはずがなく気づけば外に出て、より激しさを増していた。

 竜巻の如く凪振るう戦斧(ハルバード)によって歩太の繰り出す水と氷の魔術は無効化され、刃を閃かせるも相手の鎧型の固有霊装(デバイス)、《無敵甲冑(オレイカルコス)》によって防がれてダメージを負わすこと叶わない。

 さらに自分の位置を相手に誤認させる《鏡花水月》にも惑わされず正確に彼へ向かって戦斧を叩きつけようとしてくる。

 世界ランキング第4位の名に偽りなしの強さを示していた。

 歩太は苛立ちを隠さずに舌打ちする。このままでは不味いと。

 

「いいかげん退けっていってんだろうがっ!」

「……」

 

 つばぜり合い、火花が散る。大技を放つ隙さえあれば撒いて置き去りにする自信があるが相手がそれを許さない。足を止めて斬り合う中でアスカリッドの身体が瞬間的に硬直する。その隙を逃さず歩太は刃を何度も振るった。

 

「その鎧がどれだけ丈夫でも、中のあんたも鎧並みに丈夫な分けないよなっ!」

 

 歩太は何度か斬り結んで鎧を容易に突破出来ないと理解し、衝撃を相手の内部に浸透させることにした。衝撃を緩和出来ないと分かり身体全身を連動させて何度も衝撃を与える。アスカリッドは耐えきれず、ついに吹き飛ばされ官邸の壁に激突した。

 歩太は即座に大量の水を生成して彼女がいる辺り一帯を水で覆い、分厚い氷で閉じ込めた。

 

「ざまぁみろ!」

 

 普段の歩太らしくない態度で中指を立てる。

 

「ざまぁみるのはアナタ」

 

 無防備な歩太に向けて振り上げた戦斧を歩太に向けてアスカリッドは振り下ろしながら告げた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

「どうしてこのようなことをするのか。『暁学園』とはなんなのか。皆さん、疑問に思ってるようなのでお教えしましょう。

 簡単なことです。いくら生徒が七星剣武祭出場権を持っているからといって騎士連盟の許可なく新設された学園の参戦など、運営委員会が認めるわけがない。認めさせるには示す必要があるのです。

 我々が存在しない『日本で一番強い騎士を決める祭典』ほど無意味なものはないということを誰の目にも明らかな形でね」

「つまり『破軍』を壊滅させることでその『示し』を行い、『破軍』に変わって七星剣武祭の七校目になろうということですか」

「流石は《雷切》、理解が早いですねぇ。その通りです」

「そんな無法、まかり通るとでもおもっているんですか?」

 

 刀華がそう指摘するも平賀は不適な笑みを崩さない。

 

「フフ。それがそうでもない。我々は七星剣武祭に必ず出場します。というよりも運営委員会とその母体である騎士連盟は我々『暁学園』を認めざるを得ないのですよ。

 『破軍』という歴史ある一校を壊滅させられておいて、我々の挑戦を拒むのは敗走と同義。今まで多くの伐刀者を教育してきた連盟が自分達より遥かに力を持つ教育機関の存在を許せるわけがない。なんせ信頼に関わる事態ですから。

 彼らは傷ついた信頼を取り戻すためにも自分達が育てた伐刀者が我々よりも優れていることを証明しなくてはならない。戦後、半世紀以上の時をかけて構築してきた『日本の伐刀者教育の全ての独占する』という権益(システム)を守るためにもね」

 

 暁学園とは騎士連盟に対し強い敵対意思を持つ、ある巨大な組織の目的のために作られた学園だった。

 

「だから非常に申し訳ありませんが、皆さんにはここで倒れていただきます。我々の踏み台として」

 

 ぞわりと、強い殺気が暁学園のメンバー達の背から立ち昇る。濃密な殺気と共にそれぞれ霊装を構え、彼らは戦闘態勢を取る。

 

「ここまで好き勝手コケにされて〝はいそうですか〟〝分かりました〟なんて言うと思う?」

 

 一輝達、破軍学園の生徒も全員固有霊装を顕現させて向かい来る敵に抗う意を示す。

 

「やれるものなならやってみなさい!」

「では、遠慮なく。フフ」

 

 こうして場の緊張は一気に沸点に達し、両軍は同時に地を蹴った。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

「ごめんなさい。彼には逃げられたわ」

『本当ですか…?まさか貴女から逃げ切られるとは思いませんでした』

「彼、力がある傲慢な子だと思ってたけど始めから演技だったみたい。見事に騙されたわ」

『確かに少し彼らしくないとは思いましたが…流石は七星剣王といったところですか』

 

 アスカリッドは月影総理に歩太に逃げられたと連絡していた。

 

 あの瞬間、確かに仕止めたと思ったのだが…いつの間にか水の分身に入れ換わられていた。斬り裂いた分身の水は身体に纏わりつくと牢獄となり、彼女は暫く身動きが出来なかった。

 

「それに……」

 

 身動きが取れなくなった時に彼女の目端に映った閃光は破軍学園の方角に向かっていた。あの正体が彼なら…。本気で全力を出しても逃げられた可能性があったかもしれないとアスカリッドは思うのであった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 それはまだ学園に到着しておらず、一輝達がバスから黒煙を確認した時の出来事。

 

『暁学園…。それが今、破軍学園を襲撃している者達の名前よ』

 

 ややパニックになりかけたバスの中に有栖院の冷たい声音が響いた。同時に全員の影に《黒き隠者(ダークネスハーミット)》の刃が突き立てられる。

 突然動きを奪われたことに全員が動揺を示す。一同を見回して有栖院は言った。

 

『順を追って全て話すわ。だから落ち着いて聞いてちょうだい』

 

 彼は自分の正体が解放軍(リベリオン)の暗殺者であること。解放軍がある組織に雇われて七星剣武祭を滅茶苦茶にしようと目論み、既存の七校に自分と同じ闇の世界の精鋭を送り込んでいること。ここにいる一輝達と襲うことになる脅威と策謀。

 

『じゃあ、ずっとアタシ達を騙していたの!?』

『冗談なら今すぐ撤回してほしいね』

 

 狼狽と苦渋を顔に(にじ)ませるステラと一輝。だが有栖院は首を横に振り全て本当のことだと断言した。

 迷いのない口調にステラと一輝の表情は沈痛なものなる。

 

『……わからないわね』

 

 今まで一番、有栖院と付き合いの深い珠雫が静かな表情で横合いから疑問を挟んだ。

 今、自分達にその話を聞かせれば作戦が台無しになるのに何故かと。

 

『ええ、そうね。つまりあたしは台無しにしたいのよ。この作戦をね』

 

 珠雫に返す言葉は彼の中で迷いなく決まっていた。紛れもない本心でこの作戦を失敗させようと決意を固めていたからだ。

 

『あたし、自分でもどうしようもないほど珠雫のことが気に入っちゃったのよ。それがあたしがこの行動を起こした理由の全てよ。だからそのために皆に協力してほしいの。貴方達の夢の舞台、七星剣武祭を守るために』

 

 味方からの裏切り。その初手はどんな使い手も対応出来ない。

 今まで間者としてギリギリの瞬間まで微塵も怪しい所を見せずに暁の一員として行動してきたのは100%奇襲が通る最大のチャンスを作り出すためだった。

 ここで暁を完膚なきまで返り討ちすれば彼らの思惑は完全に頓挫して七星剣武祭に出場することなく敗走するしかない。

 

『だから……お願い。あたしと協力して暁の思惑を挫いてちょうだい』

 

 

◆◇◆◇

 

「やあああああぁぁぁッ!!」

 

 結果として有栖院の計略は見事に嵌まった。暁陣営は全員が彼の《影縫い(シャドウバインド)》によって縫い止めた。彼らは完全に無防備となり破軍学園の陣営が振るう刃の前に一人残らず倒れ伏す。

 敵は避けようもなく、味方は外しようもない攻撃。完全な勝利である。皆が一様に安堵の息を漏らし、肩の力を抜く。

 

 ただ一人。一輝だけが自分が斬り倒した兄・王馬を見下ろし、顔を(こわ)ばらせていた。

 

 あの兄が、《風の剣帝》と呼ばれる黒鉄王馬が無様に自分の足元に横たわるなど絶対にあり得ない。どういうことだと考えを巡らせる。

 その瞬間、ある記憶が脳裏に甦る。それは数日前、山形の商店街を仲間達と歩いてた時の記憶だった。

 

 

『わーっ!待って待って!そんなことしちゃダメだってば!』

 

 

 一輝の中に天啓が下る。臓腑から喉元まで戦慄が這い上がり──

 

「気をつけてアリスッ!これは罠だッ!!」

 

「えっ、────ッ!?」

 

 一輝の言葉に有栖院が行動を起こすよりも早く、彼の身体を背後より飛来した無数の剣が貫いた。

 

「は……?」

 

 十本もの銀剣に貫かれ地に倒れ伏す有栖院。突然の事態に誰もが息を呑む。

 

「惜しいなぁ。もう少し早く気づけたらギリギリ間に合ったかもしれないのに。だけどあれだけの接触で僕の能力に気づけるなんてすごいや。さすがイッキ君だね!」

 

 底抜けに明るい声が有栖院の背後から聞こえる。無数の銀剣を両手に携えて無邪気に笑う、少年がそこにいた。

 

 

 




 夕闇に染まった空。建物の屋根、或いは屋上を伝って一般人では目に負えない速度で走る歩太がいた。

「バレるかどうか半々だったけど上手くいって良か良か。まあ、向こうも本気で相手する気は無かったみたいだから何とかなったけど。あの鎧、確かリジェネ効果あるって聞いてたからなぁ」

 歩太は常時アスカリッドの身体を回復させるあの鎧を破る自信が無かった。鎧ごと消し飛ばすつもりで攻撃すれば、あるいは可能だったかもしれない。
 しかし、刃を交えて相手が本気で自身を拘束する気もないことが分かり、なるべく穏便にすませる方向で事を成した。

 「ステラと一輝、それに東堂先輩が居るなら大丈夫だと思いたいけど俺の足止め役が豪華だったのが怖い」

 どう考えても只事ではない。歩太はさらに速度を上げる。

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