空に浮かぶは大きい雲   作:あろえよーぐると

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前夜祭その3(第24話)

 

 山形県にある巨門学園との合同合宿中、場所を借りている破軍学園の代表選手一同は自由時間に気分転換に街まで降りて観光や散策したりとするものがいた。

 歩太、ステラ、一輝、珠雫の四人もせっかくの県外なので自由時間に街に繰り出すことした。有栖院も誘おうとしたが連絡しても繋がらなかったので歩太達は帰りに何かお土産でも買うことにした。

 商店街を練り歩いている最中。突然、一輝の歩みが止まる。

 

「どうした、一輝?」

「ごめん、ちょっと待ってて」

 

 一輝は不審者らしき男を見つけ後を追った。男は何もない十字路で立ち止まり、中学生ほどの少年がぶつかった瞬間、

 

「キヒ──」

 

 ポケットより取り出そうとしているのはサバイバルナイフ。予想される惨劇を回避するために一輝は動く。彼の速度なら充分に間に合うタイミング。

 刀身を全て抜き去る前に片はつく。だが次の瞬間、予想外の事態が発生した。

 

「わーっ!待って待って!そんなことしちゃダメだってば!」

 

 少女と思わしき切羽詰まった甲高い声が響き、あろう事か一輝が男の元へたどり着くよりも早く、その声の主が男の腕に抱きついた。

 

「えっ……」

 

 一輝は虚を突かれ、仕方なく減速して立ち止まった。男の方も突然の割り込みに驚愕の表情を浮かべる。

 

「ダメだよオジサン!いくら会社にリストラされて借金まみれになったからって、誰かを道連れに自殺しようなんて考えちゃ!」

「ッッ……!?」

 

 大声で叫んでいたので周囲の人間はナイフに気付き、騒然となる。そんな中、男の腕にただ一人しがみつきながら残った少女はやや汗を滲ませた顔に笑みを浮かべて優しい声で語りかけるように説得したが、男には通じなかった。

 

「この、グゾガギャァアァアア!!」

「うわぅ!」

 

 少女は振り下ろされたナイフに対して頭を抱えて叫んだ。

 

「だ、だれかたすけてえぇぇ────!!」

 

 一輝は立ち止まり、成り行きを見守ってると少女──ではなく彼に見覚えがあった。巨門学園の男子生徒であり七星剣武祭に出てくるレベルの伐刀者(ブレイザー)だと。ならば無策で飛び込んでくるはずがないと考えたが、

 

「(無策かぁぁあああッ!?)」

 

 その後、男を無力化して彼を助けた。一輝を追い掛けてきた歩太達も合流してきたので事情を説明する。助けた彼は一輝のことを知っており興奮した面持ちで叫んだ。

 

「うわー!うわ─っ!本物だ本物のイッキ君だ!」

 

 彼は一輝に抱きついてきた。

 

「え、えええええ!?」

「ちょっ、あなたお兄様から離れなさいッ!!」

ふぁっ!ふぁひぃふぉほ!?(えっ なにごと )

「ステラ、食べ物を口に咥えたまま食うな。手を使え手を」

 

 少年は構わず一輝を抱き締めるが珠雫に力尽くで引き剥がされ威嚇される。

 

「なんですか貴方。服装から見て男性みたいですがゲイですか?お兄様はノーマルなんです。アリスとキャラが被っるのでどうぞ消えて下さい」

「ああ、ごめんね妹さん。僕は別にゲイって訳じゃないんだ。ただイッキ君に会えたのが嬉しくてつい興奮しちゃって」

 

 そう釈明してから改めて歩太達に向き直ると自らの名を名乗った。

 

「はじめまして。僕は巨門学園一年、紫乃宮 天音(しのみや あまね)。君たちと同じ七星剣武祭代表選手で『無冠の剣王(アナザーワン)』の大ファンなんだよ!」

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

『僕はイッキ君とかと違って七星剣武祭にそんなに興味がないからね。腕力も無くって武術も身につけてないへっぽこなのに、能力がたまたま珍しかったからって理由で代表に選ばれただけだから』

『あの通り魔に気づけたのもその〝珍しい能力〟のおかげなんだね』

『へえ…。さすがイッキ君。そんなことからでも見抜いてくるんだ。噂に違わぬ洞察力だね』

 

 

 

 あの後、とあることで彼の能力はレアスキルである因果干渉系の伐刀者(ブレイザー)であると知った。ならば一番高い可能性……

 

「(未来予知!!)」

 

 ずしゃり…。有栖院の身体が力無く地面に崩れ落ちる。幻想形態で身体を貫かれたことによる、意識のブラックアウト。

 もっと早く己が気づけていればと一輝の表情には悔しさが滲む。

 

「アリス!」

 

 この事態に対し、一番早く行動したのは珠雫だった。叫び、彼の元へ駆けつける。しかしその行動は──

 

「珠雫、迂闊だ!前を見ろッ!」

「っっ!?」

 

 一輝の忠告。それは今度こそギリギリ間に合った。珠雫の眼前。何も無いはずの空間に存在する僅かな歪み。風景の捻れ。

 

「(これはっ!?)────《障波水蓮(しょうはすいれん)》ッッ!!」

 

 それを認識し珠雫はすぐに自身に水を纏わせ防御を取る。彼女の小柄な身体は水の守りごと真横に吹き飛ぶ。まるで見えない何かに殴り飛ばされたように。

 

「えっ………?」

 

 それは驚くべき光景。まるで透明の煙の中から歩み出るようにして、今倒したはずの暁学園の生徒達が無傷の姿で眼前に現れたのだ。

 自分達の足元に倒れている暁の生徒を改めて確認すると、足元に倒れていたのは塗装を施された木製の人形だった。

 

「《騙し絵(トリックアート)》。アタシの芸術は本物より本物らしいってこと」

 

 ボソリと呟いたのは暁学園の一人。大きな乳房を絵の具避けのエプロンだけで隠したトップレスの少女。

 有栖院と同じく解放軍(リベリオン)に身を置く、《血塗れのダ・ヴィンチ》サラ・ブラッドリリーだ。

 

「つまり、今まで皆さんが我々だと思っていた者達は彼女の『芸術』を操る伐刀絶技(ノウブルアーツ)により生み出された模造品にボクが《地獄蜘蛛の糸(ブラックウィドウ)》で動きを加えただけの木偶だったのですよ。

 そして本物の我々はこのように王馬君の風の力で光を屈折させて姿を隠し、皆さんの企てが空転するのを待っていたというわけです」

「初めからアリスの動きはお見通しだったってこと!?」

「ええまあ。何せこちらには優秀な予言者がいるのでね。もちろん裏切り者には知られていなかったことですが」

 

 平賀はカラカラと愉快そうにネタをばらす。

 

「しかし、結局は天音さんの予言通りになってしまいましたか。情けをかけ最後のチャンスをお与えになったヴァレンシュタイン先生もさぞ悲しまれることでしょう」

 

 そう言いながら彼は倒れた有栖院の身体を担ぎ上げた。

 

「それでは後はお任せしますよ皆さん。スポンサーのオーダーは〝可能な限り圧倒的な、議論の余地がないほどの壊滅〟です。一人も残さず徹底的に叩き潰してください。ボクには先生の元までこの裏切り者を連れて行く仕事がありますので」

 

 (ひょう)のような素早さで後ろに飛ぶと有栖院を連れて、そのまま戦域からの離脱を計る。

 一輝は易々と許しはしない。すぐに追い縋るために地を蹴る。

 

「待てッ!」

 

 速度は充分。すぐに追いつけるはずだった。しかし、一輝の進路上に黒鉄王馬が割り込まなければ。

 

「王馬兄さん!」

「散れ」

 

 王馬は何の躊躇いもなく、刃渡り1mを超える野太刀の霊装《龍爪(リュウヅメ)》を振るう。風を斬り、銀弧を描いて一輝の胴へ一閃。

 一輝はその無慈悲な一撃に渾身の守勢に回らなければ《陰鉄》ごと両断されると確信する。

 

「くっ!」

 

 足を止めて追跡を断念しようとしたその時。

 

「はあああっ!!」

 

 横一線。振り抜かれた王馬の霊装が、炎纏う黄金の剣によってその軌跡を阻まれた。

 

「ステラッ!」

「イッキ!シズクがアリスを追い掛けて行ったわ!」

「っ!?」

 

 ステラは王馬と鍔迫り合いをしながら、一輝に告げる。彼はすぐに王馬に吹き飛ばされた珠雫のいた場所に目を向けるがそこにはもう誰もいない。

 珠雫を探すと、遠くの視界に逃げた平賀を全速力で追い掛ける珠雫の背中があった。

 

「コイツらシズクを素通りにした!多分行った先に罠があるのよ!一人で行かせたら不味いわ!急いでシズクを追いかけてッ!」

 

 一輝は僅かに逡巡(しゅんじゅん)するがステラに刀華を初めとした生徒会役員達もいる。ならば、孤立している側に駆けつけるべきだと判断する。

 

「わかった。ここは任せたよ!」

「ええ。こんな奴ら全員ここで叩き潰してやるわよ!」

 

 そんな一輝の背中を見送り、ステラは改めて彼によく似た敵を見据えた。

 

「ずっと視線を感じていたわ。アタシと戦うのがお望みなんでしょう?」

 

 あの芸術が本物より本物であるというのなら、ステラだけを真っ直ぐに見据えていたあの視線もまた本物の王馬の感情を模倣したものだろう。

 で、あるならば…それを拒む理由は『紅蓮の皇女(ぐれん  こうじょ)』には存在しない。

 

 

「受けて立つわよっ!〝風の剣帝〟ッ!!」

 

 

 




 前夜祭はまだ終わらない……
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