声が響いた途端、辺りが静まった。先程まで大声を上げて一方的に話していた桐原もその声を聞いて一輝への攻撃を止めて音の発生源の方へ向く。その眼はこちらを全て見透かすような視線で思わず身震いする。
「ッ!…いやぁ。調子はどうだい。出雲君」
桐原 静矢は出雲 歩太のことが嫌いである。彼は同学年でありながらこの間の大会、七星剣武祭で自分と同じく1年生で出場し、自分より上位の成績。大会に優勝して七星剣王となったからだ。桐原はCランク騎士。対してあちらはAランク騎士とその差は歴然で理解も納得もするが不満がないわけではない。
ぶっちゃけ、嫉妬である。彼がいなければ自分が入学首席であったし、影が薄い。次席の人とか呼ばれずに済んだ筈なのだ。ちやほやされるのが好きな桐原にとって自分より目立つ存在は好ましくない。だからといって相手と自分の力量を弁えないほど愚かでもない。平然とした様子で返事を返したが頭の中で必死に今の状況を分析しようとしている。
お前なんでここにいるんだよ。ふざけんな。この時間帯いつも中庭にはいないはずだろ。あの理事長、適当な情報提供しやがって。こっちはお前の出世のために協力してやってんだぞ。Aランク騎士の不快感を買ってヒドイ目にあったらどうしてくれんだ。こちとら、コイツの敵に対する容赦のなさを知ってんだぞ。アーーーッ!黒鉄より狸ジジイを撃ち抜いてやりたいわ!!ホントどうすんのよこれ!?
全然できてない状態である。
歩太はこちらに近づく。桐原の心臓がキャベツの千切りばりに激しくビートを刻み、歩太の言葉を待つが彼は自分を通り過ぎ倒れている黒鉄一輝を担いでからこちらに振り向いて言葉を発しようとするが、何故か口を閉じて中庭から離れた。
《出雲歩太》は《黒鉄一輝》と今より前。幼い頃に出会っている。Fランク評価を下されてから両親や親戚に見放され疎まれ、祖父以外で一輝のことを色眼鏡で見ず普通に接してくれた数少ない存在である。Fランクの一輝が魔導騎士になりたいという夢を笑わなかったし、強くなるためのアドバイスを教えてくれたりと1度しか会わなかったが一輝は歩太のことを友達だと思っている。破軍学園で久しぶりに出会った時は声をかけようとしたが、歩太の周りには人集りができて近づけなかった。またの機会に挨拶しようとその場を離れた。だが、その機会は中々訪れず歩太が七星剣武祭で優勝してからは機会を見つけることができなかった。
七星剣王
七つの学校が競い1番を決める、普通に流血沙汰ありのけっこう血生臭い大会である。この大会では幻装形態を解除して戦うため手足は平然と飛ぶし、伐刀者の能力によっては頭さえあれば余裕で戦線復帰するので殺し殺される覚悟ガン決まりな奴らが上位陣にいる。実際、大会の規定にも命の危険が伴うとしっかり記載している。
そして今年。そんな大会に初出場ながら参加者を薙ぎ倒して優勝まで果たしたのが歩太である。歩太は入学当初からAランク騎士であること。顔も悪くはなく、そこそこ社交性を持っているため学園ではけっこう人気者だった。人気者が大会に出場して結果を残しメディアなどに取り上げられ、ついには優勝してしまえば大人気になる。優勝してから無防備に街に出た時のことは今でも苦い思い出だ。
それから外に出かける時は伐刀絶技の応用で変装することにした。
~時を戻そう~
気絶していた一輝は意識が戻りこれからについて考える。
今回あれだけのことをされたのだ。さすがに表立っての行動は暫くはないだろうが陰湿陰険さは今後増すばかりと考えるべきだ。自分は果たして耐えられるだろうか?いや。耐えてみせるんだ。幼き頃に誓ったはずだろ。諦めなくていいんだ。追い掛けていいんだと。こうなることは分かっていたはずだ。なら諦めず進み続けるんだ。ボクには諦めないことしかできないんだから。
決意を新たに確認して目を覚ますと、自分がベッドの上にいることに気づく。あそこにいた誰かが自分を運ぶとは思えない。というか放置されるはずた。ならばいったい誰だと。
「あ、起きた?」
声が聞こえたのでそちらを向くと、話す機会を逃し続けていた友達がいた。