宣言したのに守れなくてすみませんでした!
しかも今回は完全自己満足の設定回です。申し訳ない。
「そもそも、お前の言う陰陽師や呪術ってなんだ?」
こちらを真っ直ぐに見据えるグレンに対して、春虎は何も言わない。
どこか侮っていたのかもしれないと春虎は胸の内で自省する。
「……さすが、学院きってのカリスマ講師だな」
「お、やっと気づいたか。じゃあ給料にも色をつけてくれ」
「お前さぁ……」
相変わらずの物言いに春虎はため息をつくが、そういったことはさておき。
「じゃあ、まずは陰陽師について簡単に説明しようか」
グレンと講師役が交代される。
教壇に立った春虎は、陰陽寮で講師をしていた頃を思い出すような、バカ虎呼ばわりされていた自分が誰かに教えることに慣れないような、不思議な感覚に陥った。
「魔術師が自身の願望のために世界の法則を書き換える者とするなら、陰陽師は陰陽の調和を保つ──極端なことを言えば世界の法則を守る側だ」
「……!? おいおい、いきなり主義が真っ向からぶつかってんじゃねえか」
そう、魔術師と陰陽師は根幹からして相容れない存在だ。
願望の成就のために世界を書き換える魔術師という存在は、陰陽師からすれば危険視される相手である。
「あ、おれが魔術師に対してどうこう言うつもりはないぞ。そっちの世界のすることだ、外様のおれに口を出す権利は無いし、棲み分けは大事だろ?」
だが春虎は思想について口を出すつもりはない。
気を取り直して春虎は説明を続ける。
「陰陽師は人と自然の霊的調和を取り持つために霊気──そっちで言うところのマナを『視る』力を有している。この力を見鬼って言う」
「はいしつもーん」
「あいよ」
「お前らの言う霊気とマナってほんとに同じモンって扱いでいいのか?」
「うーん……。だいたい同じ扱いでいいけど、厳密にはちょっと違う。マナは生命力を指すだろ? つまり生物にしか宿ってないわけだ。だけど霊気は万物に満ちている。この世界に存在しているすべてのものに霊気はあるんだ。詳しいことは呪術の紹介のときにな」
「あー、なるほど。……ちなみにマナを視るってどういうことだ?」
「文字通りの意味だぜ。と言っても目で見るんじゃなくて、霊的感覚や第六感みたいなものだけどな」
魔術師にも霊的感知能力はあるが、さすがにマナを知覚するようなものではない。いまいちピンときてないグレンのためにさらに追加で説明する。
「実はこの見鬼、魔術や呪術の術式構造や、魔術で姿を隠してたり視認できないほど遠くにいる相手の存在、はたまた肉眼には映らない霊的存在を認識することまで出来たりする」
「……マジ?」
「マジ」
何食わぬ顔で春虎は、グレン達魔術師にとって爆弾級の情報を落とした。
「……術式構造が分かるってことはだ、相手が何かする前にやろうとしていることが分かるって?」
「そうだな。先読みして妨害できる」
「魔術で姿を変えたり消したりしても分かると?」
「術式が使われているからな。力量次第ではすぐに見分けがつくぞ」
「潜伏している相手も?」
「そいつの腕にもよるが視えるな。存在を消していても魔術が使用された痕跡は世界に残るだろ? そこを辿れば『誰かが隠れている』ことはわかる」
「……」
春虎の説明をグレンの脳が理解したとき、
「チートじゃねえかあああぁぁぁ!」
衝撃の事実に絶叫した。
陰陽師にとっては標準技能でしかない見鬼だが、魔術師たちにとっては喉から手が出るほど欲しい技能だ。
見鬼を所持しているだけでいくつかの研究はあっという間に解決されるだろう。机上の空論にすぎなかった学説は証明され、魔術という学問そのものが飛躍的に進歩する。
もちろん戦闘時にも非常に役に立つ。相手の使おうとする魔術を先読み出来れば対抗魔術を放つだけで防げてしまう。なんなら相手の魔術の阻害や乗っ取りだってたやすく行えるようになる。魔術戦の歴史が変わること間違いない。
それほどまでに見鬼は規格外の技能なのだ。
「陰陽師の存在理由の一つに世界の観測者としての側面があると考えられている。見鬼はその為の力だな」
「なんなの? 陰陽師ヤバすぎるだろ……!」
「こっちからすれば、やってることは魔術師の方が非常識なんだけどな……」
確かに見鬼は規格外だ。
では陰陽師の方が魔術師より優れているのだろうか。
否、けっしてそうではない。
魔術師は呼吸によってマナを取り込み魔力に変換する。この過程は陰陽師も対して変わらない。
しかし魔術師は魔力錬成という工程がある。体内の霊域でマナを循環させることでより強力な魔力を練り上げ、術に用いることができるのだ。陰陽師にも呪力を練ることが出来るが、魔術師のそれとは比較にすらならない。マナ・バイオリズムが乱れると魔術が使えなくなるというデメリットはあるが、その分一つの術の威力や規模は魔術の方が秀でている。
そもそもだ、世界法則に介入・改変するなんてぶっ飛んだことをする魔術師は、陰陽師からすればルール違反もいいところだ。
「まぁとりあえず、魔術師と陰陽師のスタンスの違いは分かってもらえたか? 次は呪術についてだな」
呪術。
陰陽術とも呼ばれるそれは、霊気を扱う技術と、眼に見えない形而上の存在に対する作法全般のことを指している。
陰陽庁が定めた陰陽法では前者を甲種呪術、後者を乙種呪術と称している。
「使い方は魔術師と変わらないな。魔術師がマナを魔力に昇華するように、おれたち陰陽師も霊気を練って操作する。ただし媒介は陰陽師の方が多いな」
「媒介?」
「そ。魔術師と違い陰陽師は、詠唱以外にも呪符を使ったり、指の動きや足運びだけで発動する術式がある」
魔術師にも魔導器を用いた魔術は存在しているが、陰陽師のそれは自由度と汎用性が非常に高い。術式の改造はもちろん、霊気を注入することさえ出来れば呪具に触れていなくても術式の起動が出来る。詠唱の短縮もかなり雑にでき、ものによっては指の動きひとつで出来る術もある。
「なんつーかなぁ、あんまりショートカットするのは俺の趣味に合わねぇんだよなぁ。いや、出来ないだけだろって言われりゃあそれまでなんだが」
「言いたいこともわかるよ。一番は正確な手順での術式の発動だからな。一番威力も出るし安定性も段違いだ」
魔術師と違い、陰陽師は複数の術を即時に展開ができる。その強みを活かすにはどうしても術式の簡略化は必須になってくる。
「霊気には陰と陽──闇と光? の二つの対立構造から生じていて、さらに五行という五つの……そっちで言うところのエレメント? に分類されている」
「一気にややこしくなってきたな」
「視えてないものを説明しようとするとどうしてもな……。とりあえず霊気は五つの性質に分類されているってことだけ覚えておいてくれ」
錬金術にも使われてる四元素や
「性質ごとによって起きる現象が違うんだが……、目にしたほうが分かりやすいか」
理解していないグレンのために、春虎は黒板に絵を描いてみせる。
黒板にはそれぞれ距離をあけて円を描くように五つの絵が描かれた。
春虎は一番上に描かれた木の絵を指さす。
「まずは木行、見ての通り植物のことだ」
そう言うと春虎は懐から呪符を取り出し「
春虎から呪符へ呪力が流れ込こむと、呪符から植物の蔦が勢いよく生えてきた。初めての目で見てわかる呪術に思わずグレンも身を乗り出す。
「こんな風に植物も生やせるが、雷や風、やろうと思えば地震だって引き起こせる」
「途中植物関係なくないか?」
「木行の木ってのは植物単体のことじゃなくて、自然そのものを意味していると思ってくれ。どんどんいくぞ」
何枚も呪符を手にした春虎が、次々に術式を起動していく。呪符からは火球や土人形、刃物や水球が現れた。
「続いては火行、見ての通り火のことだな。これが土行、そっちで言うところのゴーレムの真似事だって出来るぞ。これは金行、金属全般はこいつが宿っている。ちなみに金行でも風を起こせたりするぞ。最後にこっちが水行、水、としか言えないな」
「オイこら急に情報量を増やすな! あと後半の説明が若干雑ぅ!」
文句は言いつつも、グレンは目の前で起きた現象に驚いている。
今起きていることは魔術でも再現は可能だろう。しかし現象の発現のプロセスがまるっきり異なっている。
黒魔術は物理現象を自身の魔力で引き起こす。錬金術だってそうだ。魔術では過程がショートカットされているだけで基となる現象が存在している。
しかし今の呪術はどうだ。グレンの目には突然、なんの脈絡もなく現象が起きたようにしか見えない。
春虎にそのことを尋ねると、
「うーん……。過程がどうこうというより、そういうモンだと考えてくれ」
と、深掘りすることをやんわりと断られた。まだまだ教えなくてはいけないことがあるため次回以降にしてくれ、だそうだ。
「あと、相生と相克は覚えておいてくれ」
相生
五気を活性化させる関係の循環構造ことを表す。木→火→土→金→水→木となっており、それぞれ木生火、火生土、土生金、金生水、水生木と呼ばれている。
相克
五気をうち滅ぼす関係の循環構造を表す。木→土→水→火→金→木となっており、それぞれ木剋土、土剋水、水剋火、火剋金、金剋木と呼ばれている。
「五気を循環通りに並べると、相生の関係は円を描き、相克の関係は五芒星を描いているんだ」
黒板には魔術師にとっても陰陽師にとっても重要とされる円環と五芒星のマークが描かれている。
「どう、ついてけてる?」
「……なんとかってところだな」
「まったく異なる概念だからピンとこないか……。うっし、じゃあ体験してみようぜ」
「はぁ?」
「おれに【ショック・ボルト】を撃て」
「はぁ!?」
突然の発言に驚くグレン。
「心配すんなって、怪我はしないしさせないから」
「そこの心配はしてねぇよ」
「じゃあ問題ないな。それに見た方がいろいろとわかるものが多いと思うぜ」
教壇から降りた春虎はグレンと距離をとると、ホルダーから呪符を取り出して構える。
「いつでもこいよ」
「ったくよぉ……。威力は抑えめでいいな?」
グレンも左手を春虎に向け、タイミングがとれるようゆっくり詠唱する。
「《雷精よ・紫電の衝撃もって・打ち倒せ》」
左手から放たれた雷電は殺傷力こそないものの、対策しないままその身に受ければ感電する。
迫りくる攻撃に春虎は、
「
手にした火行符を起動させ、呪符の先に火を起こす。
すると雷電は火に引き寄せられ、触れると同時に消失した。代わりに火の勢いが先ほどより増している。
「ウッソだろ……!」
魔術では絶対にありえない現象に、グレンはただ驚くばかり。
【ショック・ボルト】は仮にも攻撃魔術、防ぐ・打ち消す・より強力な魔術で塗りつぶすなどの対抗手段はあっても、まったく異なる術に吸収されるなんてありえない。
「さっき教えたろ? 相生の概念は。雷は木気、木気を糧に火気は勢いを強める。これが木生火だ」
実は今のは高等技術なんだぜ、と笑いながら春虎は自慢する。
事実、相手の術を利用して相生するのには確かな技術が必要だ。今回は弱い魔術だったからこそ難なく成功したが、実戦ではこうはいかない。
しかしグレンに春虎の言葉は届いていない。
「おい、もう一度だ」
考えることにふけっていたグレンは、急にそう言いだした。
「別にいいけど、今度は相克でも実演しようか?」
「いや、それはいい。次はそっちが俺に攻撃してこい。放つのは魔術における基本三属のどれか、やれるな?」
その発言で、何かにグレンが気づいたことを春虎は察した。
「……この炎を今から放つ、準備はいいか」
「いつでもこいよ」
「喼急如律令」の言葉と同時に、春虎は手にした火行符をグレンに向けて放つ。
そしてその炎は、グレンの【トライ・バニッシュ】によって打ち消された。
「……やっぱりだ。どう考えてもこれはおかしいだろ」
「というと?」
「確認するが、今お前が放った炎は完全に呪術の炎だな?」
「ああ、間違いなく呪術だぜ」
「じゃあなんで魔術で打ち消せるんだ?」
グレンの疑問に春虎は思わず笑みを浮かべる。
その疑問は、春虎もこの世界に来た時からずっと考えてきたことだった。
「俺の【ショック・ボルト】が呪術によって相生された。これ自体はまだいい。呪術のルールが魔術のルールを凌駕した、それだけの話だからだ。だけどお前の炎は【トライ・バニッシュ】で打ち消せた。これはどういう事だ? なんで魔術が呪術に打ち勝っている? 前例とまるっきり逆じゃねえか」
自身の考えをまとめるために敢えて口に出す。
「どうしてこんな結果になる? 考えられる仮定はふたつ。ひとつは呪術と魔術のルールが同一であること。これならどちらの結果が起きてもおかしくない。だが魔術に相生だの相克だのは出来ないのでこれはボツ。もうひとつは……」
そこまで口にしたが、途中で口を噤んでしまう。
「どうした? 続きを聴かせてくれよ」
「あ~、正直自分でもバカな事言ってんなって思うが……、笑うなよ?」
グレンは頭をガリガリと搔くと、
「もうひとつは、一つの空間で二つの異なる世界のルールが相互に作用しあっているということだ」
思い付きのような考察をいやいや述べた。
それを聴いた春虎は驚きで目を見開いて固まった。
春虎の反応を見たグレンはバカにされると思い、とっさに言い訳をしてごまかそうとする。
「いや変なこと言ってんのは分かってんだよッ。でもこれならさっきの結果も筋が通るんだが、それじゃどうしてそんなことが起きてんの? って聞かれても説明できねぇしッ」
しかし春虎はグレンの言い訳にはなにも返さず、顔を俯かせてふるふると震えている。
「なッ、いくらなんでも笑うことはねえだろ!」
「……フフッ、あ、ああ、いや、違うんだよ。別に馬鹿にしてるわけじゃないんだ」
「思いっきり声震えてんじゃねえか!」
恥ずかしくなって頭を抱えるグレンだが、けっして春虎はグレンを笑っているわけでがない。むしろ逆である。
「そうじゃなくてさ、嬉しいんだよ。同じ結論に至ってくれて」
「なッ!?」
自分でもありえないと思っている仮説を肯定されて驚くグレン。
しかし春虎も、少し前に同じ結論を出したしたはいいものの、これまたグレンとまったく同じところでつまずいていたのだから。
「まさかテメェ、俺のこと試したのか……!?」
「違う違う! おれもさっきの魔術の授業でやっとわかったところだし! そっちがそんなに早く解けたことのほうがビックリだ」
試されたと思って怒るグレンだが、春虎は本当にグレンの能力の高さに感心している。
春虎にはこれまでに外道魔術師との戦闘経験があった。だからこそ違和感に気づけたのだが、グレンはわずか2回の実験で問題の本質にたどり着いたのだ。
これほどの切れ者、東京でもなかなかお目にかかれない。
「それで、この仮説に論理的な根拠があんのかよ」
「それっぽい理由はくっつけられたぜ、お前の授業聴いてなきゃ絶対わかんなかったよ」
「そういうおだてはいいから、さっさと教えろよ」
グレンにせっつかれながらも咳払いをひとつして、
「結論からいうとだな……。この世界では呪術は魔術だ」
あれほど魔術と呪術の違いについて語り合っていたのにも関わらず、その前提を覆すようなことを言い出した。
「……あ~、春虎サン? アンタ自分が何言ってるか理解してます?」
「もちろん、いたって正気だぜ」
「じゃあなんで今までの会話をひっくり返すようなこと言うんだよ!」
「まあまあ、とりあえず最後まで聞いてくれ」
半ばキレ気味で詰め寄ってくるグレンをどうにかこうにかなだめる春虎。グレンの怒りももっともだが、しかし先ほどまでの議論はけして無駄だったわけではない。
「いろいろ語りつくしてわかったことは、おれとお前の住む世界の神秘は違うってことだよな。術の発動に必要な要素も、そのプロセスだってほとんど同じなのに」
「……まあ、そうだな。どうしてかは知らねえが」
「それについては考えてもわからないから置いといて……、大事なのはおれたちは同じものでも違う認識や解釈をしているってことだ」
「そんなの今更だろ、それがどうしたっていうんだ」
「言ってしまえば、同じ数式を見て、お互いが違う答えを出しているようなものなんだ。前提条件は同じなのに生まれる答えの違いが呪術や魔術の違いってヤツなんだと思う。それが世界が違うせいだっていうなら、同じ世界線上でなら答えも同じになると思わないか?」
「……理屈の上でならそうだな。それなら世界が呪術を魔術として認識している理由になる。でもよ、それなら呪術の法則ってのが生じることはありえないんじゃねえの?」
「そんなことはないさ、だっておれには心があるんだから」
唐突に心などと言い出した春虎。
グレンは変なものを見る目になるが、その意図を理解すると思わず身を乗り出した。
「心……深層心理か!」
自身の深層心理を変革し世界法則に介入する、魔術の行使に必要な工程のひとつである。
ここでひとつ考えてみてほしい。
同じ世界、同じ時代、同じ神秘に触れて生きてきた人間たちの深層心理はどれほど差異があるのか。
もちろん個々人の思想・性格・生活環境によって大きく影響されるだろう。しかし彼らが積み重ねてきた経験にどれほどの違いがあるのだろうか?
触れてきた神秘によって自身が発動する神秘が影響されるなら、必然的に彼らの神秘は似たものになってくる。それが学問として受け継がれていったのならなおさらだろう。
こういった経験が彼らのイメージに直結し、魔術に反映される。
攻撃するために、身を守るために、それぞれの用途で彼らが行使する魔術は、彼らの積み重ねた歴史によって精錬されたものだ。
ここで本題だ。
世界Aに世界Bで生きてきた人間を投下したとしよう。AとBの2つの世界は根幹が相似していても違うものだ。
では、世界AのルールによってB世界の人間の深層心理から反映されたものは、Aの世界で生きる人間と同じものだと言えるだろうか?
「そんなわけあってたまるか。どれほどガワが似ていても、中身は丸っきり別物だ」
「……ああ、つまりこう言いたいわけだ。お前が行使する呪術は、お前の呪術観を参照して世界が魔術として出力したものである、と」
「そういうこと。これなら相生や相克などの呪術の法則が適応される理由にもなる」
そこまで言い切ると春虎は大きく息を吐いた。体を動かしたわけでもないのに二人は目に見えて疲れている。
考えすぎで頭が痛くなってきたグレンは、こめかみのあたりを指で揉みながら結論づけた。
「ようは、お前の呪術は固有魔術に分類されるってことだろ?」
「ざっくり言うとそういうことになるな」
「その一言だけで済むのになんでこんなに話が長くなるんだよ!」
「しょうがないだろ、中身の伴わない結論に信憑性があるわけないじゃん」
窓から見た景色はすでに夕日で赤く染まっている。本来はもう少し早く帰れただろうに、予想外に議論が盛り上がってしまった。
そろそろ帰ろうと思うグレンだが、本人としては面倒なことに気づいてしまった。
「あ、ちょっと待て。今の仮説では説明しきれてない部分を見っけたぞ」
「どこどこ?」
「さっきの説では呪術が魔術として出力されていることの説明は出来ている。でも実験では相生が出来てたぜ。お前の仮説じゃ呪術と魔術がぶつかるせいで相生の現象なんて起きないはずだろ?」
「あ~、そこなぁ」
先の実験ではグレンの雷は春虎の火に相生された。しかしグレンの雷は魔術由来のもの、呪術の相生は起きるはずがない。つまり、あの瞬間グレンの雷は魔術から呪術に変質していたことになる。
「実はそこにも理屈をくっつけられる」
「ほーう」
「グレンの【ショック・ボルト】は確かに魔術だった。だけどおれが相生しようと魔術に霊力で干渉すると呪術に変質した。この感覚はたぶんおれしかわからないと思う」
「お前にしか起きない事象だからな。そこは信じるしかねえよ」
「助かるよ。ここからは推測だけど、グレンの魔術はおれの霊力に干渉されたことで、おれの知っているものに変換されたんじゃないかと思う。つまり、おれは自分の霊力を干渉させることで魔術をおれの知識にあるものに置換しているんだ」
「……おぉ。今自分がとんでもないことを言ってんの自覚してるか?」
完成された術式に干渉し変質させる。これもまた絶技と呼ばれる領域である。
「それってお前の霊力に触れたらなんでもかんでも呪術に変えられちまうのか?」
「どうだろう……。ただの霊力にはそんな力は無いだろうな。おれが指向性を持たせた場合にかぎるんじゃないか」
「なるほどねえ……。理屈は通ってんだが、根拠がねえとちぃとばかし弱ぇな」
「実はあるんだなぁ、その根拠が」
そう言うと春虎は懐から2枚の呪符を出しグレンの前に置いた。
「この2枚には同じ術式が書き込まれているが違いがある。わかるか?」
「違いって、見た感じ材質じゃねえの?」
「正解! 正確には、おれの世界から持ってきたものと、こっちの世界の紙から作ったものだ。でもどっちも問題なく使える。だけどな……」
いきなり部屋の扉が開かれ簡易式が入ってきた。手には輪っかが複数ついた棒を2つ持っている。
式はそれを春虎の前に置くと立ち去って行った。
「こいつらはどっちも、この世界の陰陽師が実際に使っているっていう錫杖っていう道具でさ。店で売られていたから買ってみたんだよ」
「よくそんなマニアックなモンが売られていたな」
「おれもそう思う。でもおれの世界にあるものとよく似てたから買ってみたんだ。これ自体には術式は付与されていないみたいだけど、試しに霊力を流してみたら片方しかおれに反応しなかったんだよ。どうしてだと思う?」
「……装飾が多少違う以外対して変わらねえと思うが」
そもそも日の輪の国にいる陰陽師のこと自体知らないのに、その違いを見つけろと言われてもグレンにはわからない。
しかし質問は「何故春虎に使える道具と使えない道具の区別があるのか」だ。知識ではなくさっきまでの会話にヒントがある。
そう考えたグレンはしばし占い盤とにらめっこしていると、閃きが訪れた。
「ああそうか! 片方はお前の世界のものとまったく同じだから使えて、もう一方はこっちの陰陽師のオリジナルのモンだから使えなかった! つまりお前の認識次第で使える使えないが決まるってわけか!」
「そういうこと! どういうわけかは知らないけど、こっちの世界の陰陽師の呪具はおれたちの使ってたものと似ているのが多いみたいなんだ。だから大抵のものは同じ感覚で使えるんだけど、一部のものはこっち独自のアレンジがされているみたいで使えないんだよ」
「なるほどねえ。どうやらさっきの仮説は立証できそうだぜ」
大きく伸びをするグレンの前で、春虎はさっきまでの内容をノートに整理していく。
「なあ、さすがに今日はもう終わりにしていいだろ? そろそろセリカの奴が飯を作る頃合いなんだよ」
「うっ、もうそんな時間か。おれも飯食いに行こっと」
「自分じゃ作らねえの? 食わしてもらってる俺が言うのもなんだけど」
「まだ屋敷の掃除が終わってないしな。それにこっちの世界の食材、使ったことのないやつばっかだから勝手がわかんないんだよっと」
口を動かしながらも一通り作業が終わると、春虎は懐から金貨を取り出す。
「ほい、約束の1リル金貨」
「まいどっと。でもこれじゃ足りないんだよなぁ~」
「うん? 報酬はこれであってるだろ」
「働いたぶんはな? でも食事支給が無いんだからその分現金くれないとなぁ?」
「セコっ! ……ったく、5セルトあれば十分だろ」
「ただでさえ金持ってんだからこんくらい恵んでくれたってバチは当たんねえって。ラッキー」
小銭が増えたことに喜ぶグレンに対し、春虎はなんだか騙されたような気分になる。
しかし今日の収穫に比べれば、多少の賃金の増加くらいなんてことはない。
「じゃあ俺はもう帰るぞ。次はいつ来ればいい?」
「基本はそっちの都合のいい日で。事前に連絡するから」
「あいよ、じゃあな」
そう言い残し、グレンは部屋から立ち去っていった。
誰もいなくなった部屋で、春虎は一人今日の出来事を振り返る。
今日1日で春虎を悩ませてきた大半のことが解消してしまった。久方ぶりに目標に向かって進んでいる実感がわく。
グレン=レーダス、彼の影響はすさまじい。人格面に多少難があることは否めないが、それを補って余るほどのものを有している。
彼は間違いなく手放してはならない人材だ。なんとしてでも信頼関係を作り上げたい。
そのための布石はすでに打ってある。
(あいつも気づいたかな)
この家庭教師という関係は、何も情報交換をするためだけではない。
何故あれほどまで呪術の知識をグレンに教えようとしていたのか。それは授業を通じて自身の手札や腹の内を見せ、信用を勝ち取るためである。
手段や目的が重なる部分があるからといって、背中を預けられるわけではない。そのことを春虎はよく知っている。
だからこそ、相手にとっていまだ未知の要素が強い春虎が積極的に自身の開示をしていくべきなのだ。
とはいえだ。
いくら魔術の知識やグレンの信用を得たとしても、肝心の元の世界へ帰還するための手掛かりはいまだ見つかっていない。
(またこっちから仕掛けようかな)
春虎の裏の繋がりからは新しい情報が舞い込んでいる。レイヴンとしての活動も再び始める時が来たのかもしれない。
そして数日後、春虎は情報にあった地へと出かけて行った。
それは奇しくも、グレンが魔術競技祭の存在を知る前日のことである。
あらすじに追加があることはお気づきになりましたか?二人にはあんな風に軽口を叩き合える関係になってもらいたいと思ってます。
自分、アニメなどの最終回ラストバトルでopが流れる展開が好きです。
さらに言うとウルトラマンティガが好きです。
……今回のウルクロZは許せねぇ、許せねぇよ!
感想・質問など受け付けておりますので、どうぞよろしくお願いします。